魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword 作:煌翼
白き天空神と烈火の将が情交を結んでから早数日、世間一般でいう所の夏季休業は継続中だがハラオウン邸には、高町なのはを始めとした聖祥大付属中学の五名に加えて、ヴォルケンリッターとリインフォース・ツヴァイ、家主一家とエイミィ・リミエッタという面々が集結していた。
以前にも事情聴取を行った事もあるリビングに介した面々は、事情を知り得るシグナムを除いて一様に緊張した面持ちを浮かべており、何とも異様な光景と言える。
「……全員揃ったようだ。みんなも君の事が余程気になるらしい」
「あんまり期待されても困るんですけどね」
「それは無理な相談だろう。僕も含めてな」
クロノ・ハラオウンに連れられた蒼月烈火がリビングに姿を表せば、皆の緊張も否応なく高まっていく。
今回皆が集まった理由はただ一つ。
「お忙しい中、集まっていただきありがとうございます。今日はこれまで話さなかった俺自身の事に関してお答え出来る範囲でですが、答えようかと思います」
そう、皆が集まった理由はこれまで口を閉ざしていた烈火が自身の過去について話すことを承諾したからだ。
情報開示の条件は三つ。
一つ目は、管理局への報告の際に“ソールヴルム”における機密事項について極力配慮する事。
二つ目は、この場での会話は基本的に他言無用であり、記録もしない事。
三つ目は、烈火を“
一、二つ目に関しては二つ返事で了承し、三つ目に関しては軽く一悶着あったものの条件を飲むこととした。三つ目の手続きが少々手間取ってしまい、烈火に伝えられてからこの場を設けるまでに若干の日が空いてしまっていたということだ。
「では、まずどこから話せばいいのか……って、どうした?」
烈火は自身に向けられる視線の嵐に対して軽い溜息を吐き、改めて伝えなければならない情報量の多さに辟易しかけていたが、最前列を陣取っている少女のビシッとした挙手が眼前を通り、目を丸くして視線を向ける。
「えっと、効きたいことは沢山あるんだよ。地球から離れて何で魔法がある世界に行ったのかとか、どんな風に魔法と出会ったのかとか、今までどうやって過ごしてきたのかとか……」
「ちょっと待て、いくら何でも飛ばし過ぎだ」
「だって、烈火君が全然お話してくれないし、はぐらかされてばっかりだったもん」
なのはは不満げに頬を膨らませながら、これまでずっと疑問に思っていた事柄を質問として指折り数えて羅列していく。要は烈火がこれまでどうしてきたのか、エクセンが語ったようなことは本当にあったのかという事を訪ねたいのだ。そして、周囲から否定の声が上がらないという事は、恐らく皆が同じ気持ちなのだろう。
「こうなるだろうと思っていたが……まあいい。口で伝えるより手っ取り早いしな」
皆の総意を再認識した烈火は、小型の記憶媒体を取り出して端末に差し込むと大型のエアディスプレイを出現させる。
「これは“ソールヴルム”で起きた記録の一部。機密事項に引っかかる部分は見せられないが、皆が知りたいことに対しての回答にはなっていると思う」
記憶媒体に保存されているのは、“ソールヴルム”で起きた出来事の記録であり、先の“MT事件”の渦中で雷刃のレヴィによって修復され、皆に“惑星再生員会”の末路を刻み込んだ“夜天の紙片”の現代版といったところか。
そして、固唾を飲む一同の眼前に一人の少年の軌跡が映し出された。
新暦68年―――“アステリズム”と“ソールレギオン”の両勢力において発生した戦争は激化の一途を辿っていた。誰もが宇宙コロニーを拠点にしている“アステリズム”に対し、惑星“ソールヴルム”の国々、大多数の集合体であり、数に勝る“ソールレギオン”の勝利を予想していたが、この戦争は膠着状態へと突入し、既に十ヵ月以上の時が流れていた。
朝日が街々を照らし、穏やかな一日の始まりを告げる。特別管理外世界“ソールヴルム”における国家の一つ“アマノカグラ皇国”の宇宙コロニー“シラヌイ”においても例外ではない。最もコロニーである“シラヌイ”に降り注ぐのは人工的に作られた光ではあったが。
そんな“シラヌイ”に構えられた一軒家では、断続的にインターホンが鳴り響いている。
《現在も“セレトラル”での戦闘は継続しており―――》
数分ごとに奏でられる呼び出し音に辟易した様子の学生服姿の少年は女性アナウンサーが中継している様子を映すエアディスプレイを消し、スクールバックを片手で担ぐと玄関の扉を開く。
「……遅い!」
「なら先に行けばいいだろ、一緒なのは途中までだしな」
黒髪蒼眼の少年―――蒼月烈火は、扉の前に仁王立ちしている幼馴染の少女―――ティア・エフェメラルに対して悪態をついた。しかし、言い合うような様子とは裏腹に両者の間に嫌悪な雰囲気はなく、慣れた様子で肩を並べて歩き出す。
「……また遅刻しておばさまに怒られても知らないんだから」
「別に始業には間に合ってるんだからいいだろ、それより何で毎朝ウチに来るんだよ」
「何でって……それは、その……」
長い髪を揺らし、顔を向けて頬を紅潮させるティアと訝しげな表情を浮かべる烈火、進級したての中等部一年生同士の少年少女のやり取りはどこか微笑ましさを感じさせるものである。
「オッス!二人共!!」
「轟。おはよー」
「ああ……」
目的地へ向けて歩を進めていく二人に短い黒髪の少年―――
「かーっ!ティアのエンジェルスマイルも、烈火の仏頂面も相変わらずだな!」
「もうっ!」
「ほっとけ」
朝一番から快活な様子の轟に対して、咎めるティアと嘆息する烈火であったが、常のやり取りであるのか、さして気にした様子もなく目的地へと足を進めていく。その最中、何かに気が付いた様子の轟がその場から駆け出し、眼前で手を繋ぎながら歩く男女に声をかける。
「おっ!……アツアツですな!お二人さんッ!」
「ちょっ!?」
「な、何言ってんのよッ!!」
冷やかされるような声を受けると、茶色の髪を短く切り揃えた少年―――ラルム・セルトザムは大きく肩を揺らし、セミロングヘアの少女―――
「おはよ、二人共!」
「朝からやかましい奴らだ」
「おはよ、ティア。烈火はうっさい!」
「あはは、二人ともおはよう」
合流した五名の男女は挨拶もそこそこに談笑しながら足を揃えて目的地へと向かう。五名の目的地は彼らが所属する学業施設であった。
「じゃあ、アタシと烈火はこっちだから」
「おう!また後で!!」
程なくして目的地に到着し。校門を潜ったところで柚子が控えめに別れを告げれば、轟が大きく手を振りながら返事をした。
五名の所属している学業施設は中等部ながら普通科を含めて、いくつかの学部が存在している。烈火と柚子はデバイスマスター科、ティア、轟、ラルムは魔導師養成科に所属しており、二人と三人という組み合わせでそれぞれの校舎へと別れていく。
烈火は割り当てられた座席へ腰かけると、学校中が何処か浮足立っているのを感じ取った。
原因は本日行われる個別班ごとでの校外見学というカリキュラムにあり、その影響を大いに受けて一年生は三学科共に軽い遠足の様な状態となって皆が浮ついているのだが、烈火だけは内心で嘆息を零していた。
その理由とは……
「息子成分を補給中~」
『母さん、苦しい。後、鬱陶しいんだけど』
烈火の顔は現在進行形で巨大な柔らかい感触に包み込まれている。口が塞がっている為、念話で抗議する烈火であったが、青みがかった髪を長く伸ばした女性は意に返すこともなく熱い抱擁を交わしていく。
(だから“
顔全体を挟み込むように包んでいる母性の塊を意識の外にやりながら、烈火は改めて嘆息を零していた。
朝集まった五名を含めた個別班が訪れたのは、デバイスの開発と製造を行っている“アマノカグラ皇国”の国営企業“エヴォーク社”。烈火にとっては両親の職場でもあった。
「あ、あの、おばさまもうそのくらいに……」
「あら~ティアちゃんもいたのね。昨日はこっちに泊まってたから愛しの息子に逢えなくてつい、ね!」
烈火を抱き締めている女性―――蒼月
「……ったく、自分の歳を考えて行動してくれよ」
「そんな!?烈火が私をいじめるの~」
「こらこら、反抗期なんてカッコ悪いぞ。母さんをいじめるんじゃない」
「話を聞かない人間が増えた……」
朔夜は烈火にジト目を向けられると背後で資料を片手に他の職員と会話をしている男性の腕に縋り付く。端正な顔立ちをした男性―――蒼月
対する烈火は、仲睦まじく腕を組む両親を前にして重たい息を零す。
そんな様子を目の当たりにし、ティア以外の面々は目を丸くして硬直してしまった。弦斗は二十代前半、朔夜は女子大生で通じてしまう程に若々しい容姿をしており、加えて美男美女の組み合わせで非の打ち所がないことも困惑に拍車をかけているのだろう。
「じゃあ、親子の再会はここまでにして、みんなで社内見学に行ってきなさいな」
ひとしきりのやり取りを終えて満足した朔夜に促され、烈火達は案内員と共に“エヴォーク社”の社内見学へと乗り出していく。
「お~デバイスってこんな風に作られてんのか!」
「計器が多すぎて目が回りそう」
一名を除いた面々は普段ならまず見ることが出来ない精密機器やデバイスの製造工程を目の当たりにして感嘆の声を漏らしている。
(まあ、初見なら驚くか……しかし、今更だな)
忙しなく視線を泳がせる面々を尻目に、烈火は案内担当職員の言葉を聞き流していた。それもそのはずであり、烈火にとってみれば幼い頃より何度も訪れた事のある両親の職場で、最早顔パスで入場できてしまう程に職員にも認知されており、機密事項に引っかからない範囲の事柄に関しては凡そ理解している為だ。
その為、案内職員は集団から一歩距離を空けて最後尾を歩く烈火に対して苦笑いを浮かべると、気を取り直して業務を進めていこうとしたが、そんな一同を炸裂音と共に大きな揺れが襲う。
「きゃぁぁ!!??」
「な、何だッ!?」
「お、落ち着いて下さい!」
一同は建物全体が揺れたのかと感じさせるほどの衝撃を受けて、悲鳴と共に壁に叩きつけられた。
(何だ……何が起きてる?)
烈火も衝撃に顔を歪めながら周囲を見渡した。驚愕の表情を浮かべる案内職員と戸惑う友人達……そんな一同を尻目に先ほど以上の揺れが襲い掛かって来る。
「な、何なんだよ!?」
「と、とにかく早く建物から出ないと!」
現在足を止めている通路の壁には亀裂が走っており、明らかなまでの異常事態に際して、轟とラルフが声を荒げる。だが、皆を嘲笑う様に亀裂音が増す。
「ッ!?ティアッ!!」
「え―――?」
背筋が凍り付くかのような感覚に襲われた烈火は弾かれるように床を蹴り、ティアの身体を男子二人目掛けて突き飛ばした。咄嗟の事で受け止めきれなかった二人と共に床に座り込んでしまうティアであったが、眼前の光景を見て声を失った。
「烈火ッ!?」
「おい!大丈夫か!?」
視界を覆うのは瓦礫の山。烈火とそれ以外の面々を分断するように間に立ち塞がるのは、崩れ落ちて来た上階の床であった。ティアと轟は瓦礫の向こうの烈火へと悲鳴のような声を上げる。
「ああ、何とかな。だけどそっちに戻れそうにない」
「だったら、俺の魔法でこんな瓦礫なんか……ッ!?」
瓦礫の向こうの烈火はどうやら無事な様子ではあるが、物理的に合流は不可能。瓦礫を吹き飛ばすと勇み立つ轟であったが、再度襲い掛かって来た衝撃に全身を強張らせる。
「……こんな様子じゃ、何時建物が倒壊するか分からない。下手なことをする方がかえって危険だ。俺は俺で外に出る。お前達は職員の人の言うことを聞いて脱出するんだ」
「で、でも、烈火を一人で……」
「この研究所の事はそれなりに知ってる。大丈夫だ。非常口でも何でも使って外に出るから」
「わ、分かった。絶対また会うんだから!約束だよ!!」
今にも泣きだしそうなティアを含めた面々は瓦礫の向こうに後ろ髪を引かれる思いを押し殺しながら案内職員に連れられて、屋外への脱出を試みる。
「外に出るとは言ったものの、これではまともに進めないな。しかし、本当に何が起きてるんだ?……ッ!?」
烈火も屋外を目指して勝手知ったる研究所を進んで行くが、通路のそこかしこが崩れており、建物中に立ち込める噴煙も相まって思ったように脱出に結びつかないようだ。
加えて口元を抑えながら瓦礫を避けて進む烈火の表情は困惑に染まっている。コロニーである“シラヌイ”で地震が起きる事など在り得ない。火災としても、建造物全体を揺るがした衝撃の説明がつかない。大きな炸裂音と衝撃、立ち込める噴煙と、素人からしても明らかな異常事態であった。
そんな時、通路の曲がり角を超えた烈火の瞳が衝撃に見開かれる。
「……父さん、母さんッ!?」
「烈火ッ!?」
弦斗と朔夜を視界に収めた為だ。しかも、白衣越しに装甲の様なアーマーパーツを身体の要所に展開しており、弦斗は剣、朔夜は杖を携行している。合流した両者も息を切らして余裕が無さげな表情を浮かべており、突然遭遇した息子の存在を受けて、此方も表情を強張らせた。
「貴方一人で一体どうしたの!?みんなは!?」
「瓦礫が降ってきてはぐれて……それよりも、何があったんだよ!?」
「……ともかく歩きながら話す。ココは危険だ」
烈火もまた、両親の鬼気迫る表情を目の当たりにして、思わず息を飲む。
「危険ってどういうことだよ」
「それは……今この施設が“シュラウド”からの攻撃を受けているからだ」
「……“シュラウド”って、“アステリズム”の正規軍じゃないか!それがどうしてこんな会社を!?」
弦斗の口から“エヴォーク社”が“アステリズム”の正規軍“シュラウド”によって襲撃されているという現状が知らされれば、烈火の戸惑いは更に強まる。
確かに“エヴォーク社”で開発、生産されているデバイスが現在も大規模な戦争を継続している両軍に少なからず恩恵をもたらしていることは純然たる事実。だが、一般的な考えでいけば、“アマノカグラ皇国”の国営企業を正規軍が襲撃するなど正気の沙汰ではない。
「彼らにとってここにあるモノが脅威になるかもしれないからよ」
「一体どういう……」
「ここよ。入って」
「なッ!?これは!」
両親と共に歩んでいくのは烈火が知り得ない機密区画。朔夜の発現に怪訝そうな表情を浮かべる烈火であったが、見知らぬ区画の一室に通されると眼前に広がる光景に目を見開いた。
部屋中に点在するモニターと計測機器、更に強化硝子で隔てられた室内の半分の面積を占める実験室と思われる箇所には台座の上に突き刺さった薄灰色の長剣が鎮座している。長剣には無数のコードが張り巡らされており、室内の計測機器と連動しているようであった。
「デバイス!?それも新型か……?」
だが、これは勇者の剣などといったファンタジックなものではない。
魔導師が魔法を行使するために用いるデバイスに他ならないのだ。それもデバイスマスター科に所属し、“アステリズム”、“ソールレギオン”両陣営のメジャーなデバイスの姿形を知っている烈火にとっても未知な型式のモノであった。
「ええ、そうよ。此処では“ソールレギオン軍”によって、目の前のアレを含めた五機の新型デバイスと新造戦艦が極秘裏に行われているの」
「此処を襲ってきた奴らの目的は十中八九新型デバイスだろう。だが、破壊工作どころかこれほど派手にやらかすとはな。既にこのコロニーは戦場と言っていい状態だ……一部職員を除けば、皆民間人だというのに!」
両親に告げられた真実に烈火は思わず表情を強張らせる。
「……だったら、一刻も早くここを出ないとマズいだろ?他の連中の事も気にかかるしッ!?」
そんな三人を幾度となく揺れと爆音が襲う。容赦なく迫り来る“シュラウド”と倒壊寸前の建造物。こんな危険地帯に何時までも留まっているわけにはいかないのだ。
「……俺達も出来る事ならそうしたいが」
「ちょっと厳しいわね」
焦燥に駆られる烈火とは対照的に弦斗と朔夜は室内のコンソールを叩き、流れるような動作でキーボードを操作すれば、長剣に繋がれていたコードが取り外される。
両者の操作を受けてか、長剣が姿を変えて左右二対翼を思わせる灰色の形状に変化し、ネックレスのエンドパーツほどの大きさになると実験室から朔夜の下へと渡った。
「烈火、いらっしゃい」
「あ、ああ……」
脱出するそぶりも見せずに機器を操作している両親を見て、更に焦燥を募らせる烈火であったが、妙に落ち着いた様子の朔夜に呼び止められる。言われるがままに朔夜の下へ向かえば、先の灰色の翼を鎖に通し、ネックレスの様にして首にかけられた。
「母さん……?」
「これが私達が貴方にしてあげられる最後の……」
「最後ってなんだよ!?父さんも何をそんなに落ち着いて……!」
断続的に響く爆音と建物全体が軋む音、両親が言う襲撃が事実なら既にここは殺し合いの戦争なのだ。落ち着き払った両名に対して、烈火が戸惑うのも無理はないだろう。
「……いいか、烈火。よく聞きなさい。少なくとも“シュラウド”は新型デバイスの奪取と共に、この研究所も破壊し尽くすだろう。友達の事を探して外をウロウロするのは危険だ。此処からはお前一人で行動してシェルターに避難するんだ」
「シェルターに行くのはいい!でも、なんで俺だけなんだよ!二人も一緒に!?」
「いいえ、それは出来ないの」
「なん、で……ッ!?」
両親の指示に納得できない様子の烈火が声を荒げるが、眼前の二人の姿を見て思わず言葉を失った。
「技術屋が慣れない事をするもんじゃないな。生憎、さっき一発良いのを貰っちまってな」
弦斗は白衣の下、腹部を鮮血に染めており、青白い顔をして呼吸すら辛い様子だ。
「アナタが庇ってくれたから、私は大きな怪我はしていないけれど、私達にもう闘える力は残っていないのよ。ましてや、この倒壊寸前の建物の中で正規軍を切り抜けるなんて不可能なの」
朔夜に関しては、弦斗ほどの負傷はしていないようであるが、魔力は尽きかけに等しく、既に戦闘能力を失ったに等しい状態であった。魔力切れにより、実質丸腰かつ、怪我人を抱えてこの状況を打開する事は、素人目に見ても不可能である。
「そういうことだ。だが、ここで全滅してやる気はない。だから、お前を転移魔法で屋外に逃がす」
「私達の残った魔力でどうにか貴方を送り届けるわ」
弦斗と朔夜はまるで何かを覚悟したかのような強い瞳で烈火に対して、唯一の生存策を言い放つ。
「な、何を言ってんだよ……二人も一緒に……ッ!?」
目まぐるしく押し寄せてくる非日常。当然ながら烈火が受け止めきれるはずもなく、瞳を揺らしながら、茫然とした様子で縋るように言葉を紡ぐ。仮に両親の言うとおりにしたとすれば、残された二人がどうなるかは想像に難くない。
「ごめんね。烈火。私達はもう一緒にいてあげられない」
朔夜は震える烈火に視線を合わせると、優しく、力強く抱き締める。
「か、母さん……!?」
「本当はずっと一緒にいたいのよ。烈火が成長していくところを見ていたいし、お嫁さんや孫の顔を見せて欲しい……もっと、もっといろんな事をしたかったし、教えたい事も沢山あった。貴方とずっと過ごしていたいのっ!」
烈火は、声音を震わせて涙を流す朔夜を茫然と見つめている。
「烈火、お前は優しい子だ。ちょっとそれを表に出すのが苦手なだけでな。そして、きっと誰よりも強くなれる。俺達の自慢の息子だ……例え、どんな事があってもな」
「……父さんッ!母さんッ!」
名残を惜しむかのような表情の父の大きな掌が頭の上に置かれる。まるで、これが最後だと言わんばかりに……
そんな両親の様子を目の当たりにし、烈火の頬に雫が伝う。
「上ではきっと今も戦闘をしてるでしょうから、研究所から少し離れた所のシェルターに一目散に向かいなさい。戦わなくていい、とにかく逃げるのよ。私達の事もティアちゃん達の事もその後に考えること。いいわね?」
「“シュラウド”に追われて、どうしても駄目だと思った時には、そのデバイス―――“ヘリオス”を使え。この研究所から出て来たお前を見つければ、黙って見過ごしてくれるような奴らじゃないからな。だが、連中の狙いもそのデバイスだ。それを使うのは、あくまでも最終手段だぞ。正規軍の目を盗んで、朔夜が言った通りとにかく逃げるんだ」
烈火は、二人の別れの言葉に思わず顔を伏せる。そんな烈火を尻目に足元に弦斗と朔夜が転移魔法を行使し始めた事を証明するかのように四芒星の魔法陣が二重に刻み込まれていく。
「……貴方はどうか強く生きて。幸せになって……」
「……俺達はお前を愛している」
光に包まれて消えゆく烈火の瞳が最後に映した両親の顔……それは、これ以上ない程に慈愛に満ちたものであった。
愛しい我が子を見送り、まるで役目を終えたかのように弦斗はコンソールによりかかり、そのまま座り込んでしまう。腹部からの出血が止まる様子はない。朔夜もまた、力ない様子でその場に座り込んでしまった。
「……行ったか」
「ええ……」
「そう、か……いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていたが、まさかこれほど早くにとはな」
爆炎轟く研究所の中で言葉が交わされる。
「俺達は烈火の…………」
「きっと大丈夫。あの子は聡い子よ。そうじゃなきゃ、私達にあんな
どこか不安げな弦斗を安心させるかの様に朔夜が寄りかかる。
最早、心身共に限界を超え、助かる見込みもなく終着点はただ一つ。だが、両者の表情には、恐怖などは欠片もなく、ただ愛しい我が子の事を想うばかり。
「そう、だな。信じよう。俺達の…………」
「ええ、そうね。私達の大切な……」
そして、これまで家族で過ごしてきた日々に想いを馳せ、烈火の無事をただ願いながら、互いに寄り添う二人の身体は周囲の灼熱とは裏腹に冷たく、動かなくなっていく。
程なくして、全てが炎に包み込まれる。
それは両親との別離……
だが、蒼月烈火の物語は、まだ序章を終えてすらいない。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
今週は色んな方の結婚報告が盛り上がった一週間でしたね!
残念ながら、今回はフェイトそんの出番はあまりありませんでしたが。
お祝い報告が吹き荒れる中、私はリアルが荒れに荒れてちょっとヤバい状態です。
コラボが終わってからもシンフォギアXDはぼちぼちやっていて、速くコラボ編を書きたいと思いつつも、本編は過去編突入でこざいます。
あれ?リリカルなのは?と思われた方も多いかと思いますが、暫くリリカルサイドの出番は殆どありません。
そもそも、物理的に絡ませようがないんですけどね。
全部描写すると劇場版篇くらいの長さになりそうなので、ある程度端折りながら展開していきます。
まあ、これが第1章として過去編をやらなかった一番の理由ですね。
執筆の励みになりますので、感想等頂けましたら嬉しいです。
では、次回お会いいたしましょう。
ドライブ・イグニッション!!