魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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Thought is Cross Over

 局員達と次元犯罪者の魔法戦の末、クロノは首謀者であるイーサンに対してデバイスを突き付けチェックメイトをかけた。しかし、ジュエルシードを発動させ結界を強引に破壊し、突入してきた敵の第二部隊。そして彼らによって自分達がよく知る人物が捕らわれ、殺傷設定のデバイスと拳銃を突き付けられていた。

 

「アリサ!すずか!烈火!?」

 

「管理局員でありながら、ロストロギアの強奪に殺傷設定での魔法行使、違法渡航に魔法と関係ない管理外世界の民間人を人質にとるやなんてどこまでっ!?」

 

 悲痛そうなフェイトと怒りを抑えきれないはやての声が戦場に響いた。捕まっている3人は腕に灰色のバインドを施され、凶器を向けられて身動きが取れなくなっている。

 

「うるせぇやつらだな!!ここから先、お前らが俺たちに危害を加えるようなことをするならどうなるかわかるよな?」

 

 得意げな表情でイーサンが大声を張り上げる。第97管理外世界、地球。大きなロストロギア関連の事件が立て続けに起きた事、管理外世界であるにも関わらず優秀な魔導師を何人も輩出している世界として、その名はミッドチルダでもそれなりに知れ渡っていた。この世界に流れ着いた際にイーサンたちをこの事件に招いた男の指示を受けて、まさにこのように現地の魔導師達との戦闘に入った際の切り札を確保するために別動隊を用意していたのだ。その魔導師達と親しい人物を人質にとることによって、戦闘を優位に進めるために・・・

 

「へへっ、まずはデバイスを待機状態にしてジャケットを解除してもらおうか」

 

 イーサンの言葉によって、その場に浮かんでいた魔導師達は地に足を付けた。レイジングハートは赤い球体に、バルディッシュは三角形のバッジへ、シュベルトクロイツは十字架を模したペンダントへと姿を変えた。アルフとザフィーラは拳を下ろし、クロノと咲良もデバイスを待機状態へと戻した。

 

「次世代を担うエース様たちが急に大人しくなったもんだなぁ!!そうだな・・・女たちは素っ裸になった後、その場で踊ってもらおうか!」

 

 イーサンは自らの輝かしい経歴に傷を付ける原因となった化け物のごとき才能を持った、自身がどれだけ努力しても届かない高みにいる魔導師達が自身の言うままに武装を解除する姿を見て気持ちの高ぶりをを抑えきれないといった様子だ。かつてエースと呼ばれた気高い魔導師とは思えない、下卑た笑いを浮かべてアルフやフェイトを舐め回すように見つめている。

 

「・・・アンタ達!」

 

 アルフの目尻が吊り上がる。

 

「お!?そんな目をしていいのか?大事なお友達がどうなっても知らんぞ」

 

 イーサンはアルフに気圧されて僅かに腰が引けたが状況的優位は自分にあると嘲笑うかのように再び、ニヤニヤと笑みを浮かべている。イーサンが目線をやれば、人質状態となっている3人の近くにいる魔導師が手に持った魔力刃を展開したデバイスを揺らしている。

 

「っっっ!!?」

 

 いつでも人質の命を奪えるのだといわんばかりに、すずかの目の前に灰色の刃が振り下ろされる。突如として接近してきた刃にすずかの表情が恐怖に歪んだ。

 

「ふふっ」

 

 魔力刃を振り下ろした男は、たじろいだ人質達を見下ろしながら、ほくそ笑む。出現した魔力刃とアリサ達の腕に掛けられたバインドの魔力光が同色なこと、イーサンから直接指示を下されたことからバニングス家の車両を襲撃した別動隊の指揮官だということが推測される。

 

「下衆共が!!」

 

 怯えるアリサ達の姿を見せつけられればアルフも抵抗はできないようだ。憤怒の表情を浮かべ、拳に力が込められるがそれが振り上げられることはない。そして、それを皮切りに管理局の魔導師達は戦闘服から私服へと切り替えていく。

 

「なんとでも言いやがれ!いいか!!強い奴が勝つんじゃない・・・勝った奴が本当に強いってことだ!!!つまりぃ!どんなに魔力があろうが!!お前らは全員俺より弱いってことなんだよ!!ひゃはははははははっっ!!!!!!!」

 

 自身を見下すどころか視界にも入れようとしない天才魔導師達に対しての勝利宣言。イーサンは勝った!!と狂気的なまでの高揚感を抑えきれずに両手を振り上げて高笑いした。しかし、そんなイーサンに黄金の魔力弾が降り注ぐ。

 

「なっ!!?・・・てめぇ!」

 

 デバイスがオートで発動させた障壁で防ぐことにより事なきを得た。しかし雨のように降り注ぐ魔力弾によってイーサンは土煙の中に埋もれていく。

 

「御託は沢山だ。君たちも何をやっているんだ!人質などに構っている場合ではないだろう!!」

 

 1人だけ武装解除をしていない煉がプルトガングを振り切っていた。なのは達の方を見て怒号を飛ばす。

 そもそも、数的有利以外のすべての面で優っているなのは達が普通にぶつかり合えばイーサン達を制圧することなど訳ないのだ。捕縛対象が殺傷設定の魔法を放ってこようが、数が勝っていようが根本的に単体戦闘力が違いすぎる。人質さえ見捨ててしまえば勝利は間違いない。

 

ましてや人質になっているのはリンカーコアすら持たない一般人だ・・・となのは達にデバイスの再起動を促す。

 

「な、何を言ってるの!!?」

 

 フェイトはアリサ達を見捨てるのが当然と言い切る煉に対して普段の彼女から想像できない大声を上げた。親友云々を差し置いても、管理局員だからこそ凶器を向けられて命の危機に瀕している、一般人を見捨てるなどとできないということだろう。

 

「フェイトさんや君たちこそ何を言っているんだ!我々のような選ばれた存在と彼らのような魔力を持たぬ劣等種の命とどちらが重いかなど考えるまでもないだろう!?」

 

 煉もフェイトの言うことが理解できないと大声を上げる。〈魔力を持っていない劣等種〉世界は違えど同じ人間に対しての言葉とは思えないが煉のような考え方をしている者はこの次元世界では決して少なくない。

 

 質量兵器が禁忌とされてその使用が封じられたことにより、以前に増して台頭してきたのは魔法という力。戦うための力というだけでなく、大空を飛べ、治療に使え、次元すらも超えることのできる超常の力、誰もが一度は夢見たであろう魔法というものは人々の生活に根付いていた。しかし、人は平等ではない。足の速いもの、容姿の優れたもの、頭の良し悪しといったように生み出せる魔力の量や適性など一人一人違っていた。1人で竜種を打倒できるものもいれば、魔力スフィアを1つ生み出すだけで精一杯のものもいる。それどころか初歩の初歩である念話すらできない魔力適正のない人間まで生まれてくる。比率で見れば、高魔力を持つ者の方が圧倒的に少ない。魔法というものが生活の中心に置かれるようになればなるほど高い魔力を持つものとそうでない者の待遇の差は開いていくばかりであった。

 

 すべての権利を取り仕切る時空管理局自らが魔法を前面に押し出しているため、高ランク魔導師というものは局内でも特に優遇される傾向にある。評価され、重宝されるが故に出世の速度は非魔導師と高ランク魔導師では比べ物にならない。無論、魔力を持たずとも高官になっている者もいるがほんの一握りだけだ。あらゆる資格を取る上で魔導師であるというだけでかなりに有利になる。そんな局内での風潮を感じ取ってなのか、世間全体が魔力を持つものを優遇する傾向にあった。高い魔力資質やそれと同等の価値を誇るほどの希少技能はそれだけで一種のステータスとなりうるほどにまでなっていた。

 

 それに伴い、高い魔力を持つものは自身より能力のないものを見下すようになった。高い魔力を持つものは選ばれた者、そうでないものには価値がない。今の管理世界に深く根付いている〈魔法至上主義〉と言われる考え方である。

 

 

 

 

 

「・・・つぅっ!?」

 

しかし、フェイトたちと言い争っていたを煉に山吹色の魔力弾が飛んできた。大剣を構えて相殺するが、土煙の中から額に青筋を浮かべたイーサンが姿を現した。

 

「いい度胸じゃねぇか!!おい!」

 

 イーサンはアリサ達の方に向けて怒号を飛ばした。近くに待機している魔導師がデバイスを振り上げた。

 

「待って!デバイスなら解除したでしょ!!?」

 

 絞り出すようななのはの声。

 

「なのはぁ!!私たちのことになんか構ってんじゃないわよ!!!」

 

「そうだよ!こんな人たちになのはちゃんたちが負けるわけない!!」

 

 それに答えたのはイーサンではなくアリサとすずかであった。全身を恐怖に震わせながらもなのは達の方に向かって檄を飛ばした。

 

「でも3人を見捨てるなんて!」

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ!こいつらが私たちを解放なんてするわけないでしょ!!」

 

「私たちに構わないで・・・戦って!!」

 

 なのははアリサ達の主張に首を横に振るが、アリサとすずかもなのは達に自身達に構わず戦かうように懇願する。

 

「おーおー、美しい友情だことで!見てるだけで吐き気がするぜ!!そっちの黒髪の方を殺っちまえ!」

 

 イーサンはなのは達を嘲笑するかのように武器を振り下ろすように命じた。

 

「っっ!!」

 

 標的にされたのはすずかである。その首元に魔力刃が振り下ろされる。恐怖から固く閉ざされたすずかの瞳、そして迫り来る凶刃---

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、いつまで経っても自身の身体を襲うであろう痛みがやってこない。恐怖により固く閉ざされた瞳を見開くと・・・その目に映ったのは表情を硬くしていたであろうクロノ達、大剣を握りしめている煉、勝ち誇ったようなイーサン、刃を振り下ろした魔導師、そして刃とすずかの身体の間に自身の身体を滑り込ませたアリサ・・・その誰もが驚愕の表情を浮かべている様子であった。

 

「なっ!お前どうやって!?」

 

 焦ったように声を荒げる魔導師。すずかに向かって振り下ろされようとしていた、デバイスが途中でその動きを止めている。そして、振り下ろされたであろうデバイスの柄の部分を掴んで、魔導師の前に立ちふさがる黒髪の少年。それは先ほどまで拘束され、人質として利用されていたはずの蒼月烈火だったからである。

 

「俺はバインドをかけたはずだ!お前は何をしたっていうんだ!!?」

 

 大声で喚きながら烈火から距離をとった魔導師が動揺するのも無理はないであろう。管理外世界の子供が自身の掛けたバインドを何らかの手段で解除して、立ち上がったのだから・・・仮に目の前の細身の少年が恐ろしいほどの怪力の持ち主で、力づくでバインドを引き千切ったというのなら低い可能性の1つとしてあり得るかもしれない。しかし、近くにいた自身達にそれを勘繰らせないように行うのは不可能であろう。ましてやそんな抜け出し方をしたのなら普通は両手首が使い物のならなくなるはずであるが、そのような跡は少年から見受けられない。

 

 

 

 

「なっ!烈火君!!?」

 

 再び、悲鳴のようななのはの声が戦場に響き渡った。

 先ほどすずかに襲い掛かった魔導師が烈火に向けて、殺傷設定の砲撃を放とうとしていたからだ。

 

「馬鹿野郎!ガキ共を全員殺す気か!?」

 

 灰色のそれは丸腰の烈火が受ければ確実にその命を奪うであろう威力を秘めていることは誰の目から見ても明らかだ。仮に烈火が回避できたとしてもその背後にはアリサとすずかの姿がある。人質という条件でイニシアティブをとっているイーサンたちにとっても魔導師の取った行動は悪手と言わざるを得ない。

 

「う、うわぁあああぁぁぁああっっっっ!!!!!!!!」

 

 しかし、魔導師の耳にはそんな言葉は入ってこなかった。戦闘手段にしても、兵装にしてもすべては魔法が中心となっている。魔法を用いたものを打ち破るのは魔法だけ、それが世界の常識であった。であるにも関わらず、目の前の少年は魔力反応を全く感じさせない。最強の力である魔法を用いているのにそれを打ち破った烈火が気味が悪くてしょうがないといった様子だ。

 

錯乱した魔導師によって打ち放たれた砲撃・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがその砲撃は烈火達を襲うことなく掻き消された。天に向かって立ち昇る光の柱によって・・・

 青色の光の柱はその場にいる全員が感じ取れるほど膨大な魔力が噴き出したことよって生み出されたものであった。ジュエルシードの放つ濁った青ではない、透き通るような蒼、儚さと力強さを感じさせる蒼白い魔力光・・・

 

 大きな光に包まれた後、柱が消滅した。そこには傷一つ負っていないアリサとすずか。

 

 

 

そして・・・

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 烈火の姿があった。しかし、その風貌は先ほどまでとは大きく異なっている。白をメインに、蒼と黒色といった配色のロングコートに白い長ズボン、そして黒い手袋に包まれた手には純白の剣が握られている。一般的に想像される日本刀であったり、煉の大剣よりも、今ここにはいない〈剣の騎士〉の愛刀に近い形状であろうか。機械の剣の刀身には蒼いラインが数本走っている。

 

 

 

「な、何者だ!てめぇは!!!??」

 

 誰もが驚愕の表情を浮かべている戦場にイーサンの声が響き渡った。

 




最後まで読んでいただいてありがとうございます。
魔法という要素が加わることによって徐々にリリなのっぽさが出てきたかなと思います。
そして!次回からはいよいよ本格的な魔法戦となります。

この話内では魔法至上主義といった単語を使わせていただたきました。
特にSTSを見ていて思ったことの1つでもあります。
まあ、この作品ではそこまで重要になる考えではありませんので流す程度に受け取ってください。
煉のものはだいぶ極端な例ですが、そもそもこういう風潮がなかったら原作のリリカルなのはという作品自体が成立しなくなってしまいますしね。
はやての出世や、なのは達の局内の待遇なども随分違っていたと思いますし、リリカルなのはSTSという作品は原作のあの形が一番盛り上がる展開だと思いますし。
むさ苦しいおっさんや口うるさい上司に頭を下げながらガジェットと戦うなのは達なんて誰も見たくないでしょうしねw

では次回も読んでくれると嬉しいです。
感想等ありましたら是非お願いいたします。

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