魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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捲土重来のメルトダウン

 魔法が飛び交う戦場でイーサンが烈火に問うた。お前は何者なのかと、それはこの場にいる全員が疑問に思ったことであった。

 

「お、お前魔導師だったのか!?

 

先ほどすずかに切りかかった魔導師が大声で喚き散らした。そんな魔導師が言葉を紡ぎ終わる前に人質になっていたアリサ達の周囲にいた黒服の男の1人が後ろに飛ぶように倒れこんだ。

 

斜め後ろに向けられた烈火の左手には右手に持っている剣と同じく白を基調として蒼の装飾が施されている銃が握られていた。撃たれた味方から鮮血が舞っていないことから非殺傷の魔力弾を撃ち込まれて昏倒させられたのだと魔導師が理解した時には自身と隣にいる1人を除いた全員が地に倒れ伏していた。

 

「な、なんっ・・・!?」

 

 烈火の姿がブレる。魔導師が驚愕の声を発する前に、隣にいた味方がその白刃によって切り倒される。破れかぶれで障壁を発動させながらデバイスを突き出すが、振り下ろされた剣によって障壁ごとデバイスを真っ二つに斬り裂かれ、魔導師の意識は闇へと落ちた。

 

「この役立たずが!!て、てめぇぇ!!?」

 

 イーサンは為すすべなく自身の足元に吹き飛ばされて来た魔導師とその元凶となった烈火を見て激高した。

 

 

 

 

 

 

「・・・2人とも大丈夫か?」

 

 烈火はイーサンには見向きもせずにアリサとすずかの元へと戻った。

 

「あ、アンタ・・・」

 

 烈火が手をかざすと2人に施されたバインドが消え去る。アリサとすずかは剣を手に敵の魔導師達を圧倒した烈火を目の前にして言葉を発することができない。

 

「3人共無事か!?」

 

 遅ればせながら3人の下へ駆けつけるのは再びバリアジャケットを身にまとったクロノであった。

 

「・・・蒼月烈火、君は一体何者だ?」

 

クロノはアリサとすずかの安否を確認しながらも烈火の方を警戒するように問いかけた。しかし、それを遮るようにイーサンの大声が発せられる。

 

「この俺を無視するんじゃねぇよ!!こっちを向きやがれ!おい!!」

 

 現在、この場を支配しているのは自分だ。その自分を視界にも入れていないといわんばかりの烈火の態度に腹を立てて怒号を浴びせるが・・・

 

「いい大人がぎゃあぎゃあとうるさいもんだな。お前こそ状況を理解してないんじゃないか?・・・後ろ、注意したほうがいいと思うがな」

 

「何の話だっ!?・・・っぅ!?」

 

 烈火はそんなイーサンの様子を呆れたように半眼で一瞥し、背後への注意を促した。イーサンが振り向くと、そこには再びバリアジャケットに身を包んだ魔導師達の姿があった。

 

 

 

 

 

「撃ち抜いて!ディバインバスター・フルバースト!!!!」

 

 砲撃形態へと移行したレイジングハートから暴力的なまでの桜色の光が放射される。

 

「これで!トライデントスマッシャーぁぁ!!!」

 

 突き出したフェイトの左手を覆うように円環型の魔導陣が浮かび上がり、そこを中心に三ツ又の矛を思わせるような砲撃が分裂して発射された。

 

「もう許さへんよ!クラウソラス!!」

 

 シュベルトクロイツを振り切ったはやてから白銀の砲撃が飛び出す。

 

 桜色、黄色、白色・・・3色の魔力光が結界内を埋め尽くした。大出力の三連砲撃に結界全体が大きく揺れる。

 

「・・・っっぁぁ」

 

 障壁を張りながらその場から飛びのいたイーサンとライラはかろうじて無事であったが、周囲の様子を見て絶句した。

 

 3人の少女達によって生み出された3つの巨大なクレーターの中では味方達が全身から煙を吹き出しながら倒れ伏せていた。身体を痙攣させている男達に橙色の鎖が纏わりついて地面へと縫い付け、その動きを止めさせた。

 

「随分と好き勝手にやってくれたじゃないか!!お礼はたっぷりしないとねぇ」

 

 指を鳴らしながら八重歯をむき出しにしたアルフが獰猛な獣のような笑みを浮かべていた。

 

「形勢逆転だな」

 

 その背後からは腕を組んだザフィーラ、そして煉と咲良も戦闘可能状態だ。頼みの綱の人質もクロノの手によって解放されてしまった。数的有利という面でも逆転されてしまい、イーサンとライラは完全に詰んでいた。

 

 

 

 

 

 

「は、ははっ!ひゃははははははっっっっ!!!!!!!!」

 

 なのは達の放った砲撃の影響で砂まみれになったイーサンがフラフラと立ち上がり、狂ったように笑い出した。

 

「どいつもこいつも俺のことをコケにしやがってぇぇぇぇ!!!!!やってやる!!もう何もかもぶっ壊してやるぜ!!!!!」

 

 イーサンはデバイスに格納していた管理局から強奪したロストロギア、〈宝剣ミュルグレス〉をその手に取った。白銀の西洋剣を手にして天を仰ぐ。

 

 さらに5つのジュエルシードがイーサンを取り囲むように浮遊している。そしてジュエルシードのうち4つがイーサンを中心に光輝いた。爆発したように膨れ上がる魔力、光が弾け飛び、狂笑と共にイーサンが姿を現した。

 

「はぁぁぁぁ・・・ひゃははははっっっ!!!!」

 

 周囲の誰もが息を飲んだ。先ほどまで杖状態のデバイスと宝剣を持っていた男の姿がなかったからだ。そこにいたのは・・・

 

「最っ高だぁぁ!!!!力が溢れてくるぜぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

 頭に生えた2つの角、縦長に割れた瞳孔に全身から生えた鱗、下半身からは尾のようなものが生えている。伝承に出てくる竜人とでもいうべき存在。手に持っているミュルグレスからイーサンと推測されるそれはオーバーSランクなど軽く超えるほどの魔力を全身から放出している。

 

「お前も使えよ!最高の気分になれるぜ」

 

 イーサンは隣にいたライラの胸元に1つだけ残ったジュエルシードを押し当てた。ライラもまた青い光に包まれれば・・・

 

 

 

「ははっ・・・はははははっ!!!!これがアタシ?」

 

 ライラの全身からスパークするような勢いで吹き上がる魔力、イーサンのように見た目に劇的な変化はないが、先ほどまでとは別人のようだ。

 

 ライラ・バステート・・・彼女もまた局員でありながら管理局に不満を持つ1人である。ライラは空戦Bランクの魔導師として局に所属していた。

 

 この魔法戦で僅かの間とはいえクロノと撃ち合ったその実力と管理局のデータベースにあるライラの魔導師ランクは明らかに釣り合っていない。何故ならば、ライラには魔導師として致命的な欠陥があったからだ。

 

 それはライラの射撃適性が皆無だということ。魔力スフィアを生み出すことすら厳しいそれは、ミッドチルダ式であろうが近代ベルカ式であろうが局の魔導師として高ランクの魔導師資格を獲得するためには必須なものであったからだ。

 

 射撃、砲撃といった遠距離攻撃魔法が使えないからこそ鍛え上げた近接格闘と魔導師としてはそれなりに希少である空戦資質を兼ね備えていたからこそ、ライラはそれなりにランクを上げることができたが、それもここまでだ。

 

 どんなに努力しても評価されることがない、それどころか後輩たちに魔導師ランクで追い抜かれることも幾度となくあった。このままでは魔導師として大成することは不可能、その現実を叩きつれられたライラの前にイーサンと同様に例の男が現れ、今回の作戦への参加を呼び掛けてきた。そして・・・

 

 

 

 

「あははははっっっっ!!!!!!凄いじゃないか!!!これで私を見下してきた奴らを見返すことができるじゃない!!!!」

 

 ライラは溢れんばかりの魔力を携え、自身の周りにいくつもの魔力弾を生成した。射撃適正のないはずのライラが十数個のスフィアを生み出して見せる。ジュエルシードの〈願いを叶える〉という効力はこのような形で発揮していた。ライラは願ったのだろう・・・自身が自由自在に魔法を使えるようにと。

 

 そして狙いもつけずに魔力弾をばら撒いた。周囲の魔導師達が一堂に飛び退く。丸腰のアリサとすずかの前ではザフィーラとアルフが障壁を展開して弾幕からその身を守っている。

 

 

「全部ぶっ壊してやるぜ!!そうなったら俺より強い者はいなくなる!!!俺が英雄になるんだっ!!!ひゃははははっっ!!!!!」

 

 弾幕が晴れた先では狂笑を浮かべたイーサンがその手に宝剣を携えて、飛び上がった魔導師達に襲い掛かった。白銀の刃の矛先が向いたのは・・・

 

「君風情が随分と大きな口を叩くものだな!!」

 

 東堂煉であった。ガキンッ!と鉄と鉄とがぶつかり合う音が響き渡る。煉のプルトガングと鍔競り合って動きを止めたイーサンを咲良のビットが魔力弾を射出しながら強襲した。全身に藍色の魔力弾を幾度となく受けるイーサンであったが・・・

 

 

 

「あん、なんかしたか?」

 

「なっ!?」

 

 イーサンは何事もなかったかのように煉を弾き飛ばした。細身の長剣で煉の大剣に打ち勝ったこと、そして障壁すら張らずに全身に魔力弾の雨を受けがらも平然としていることから咲良も驚愕の声を上げた。

 

「ははっ!こいつはすげぇぜ!!!!今の俺は最強だぁぁ!!!!!!」

 

 イーサンの咆哮と共に本来の山吹色にジュエルシードの濁ったような青が混じった魔力が吹き上がる。獣の如き俊敏さで煉に斬りかかった。煉も刀身に黄金の魔力を纏わせて迎撃する。激突した2つの剣・・・

 

 

 

 

「っぁぁ!!?がぁぁぁっ!!!?」

 

 撃ち負けたのは煉の方であった。刀身に罅が入ったプルトガングが煉の手から弾け飛んだ。斬り裂かれた下腹部から鮮血を舞い散らせ、地面に叩きつけられた煉にイーサンが迫る。

 

「させませんっ!!」

 

 咲良は無防備になった煉を庇うために盾を構えて間に割り込んだ。藍色の魔力を纏ったアイギスとイーサンのミュルグレスが激突するが・・・

 

 

 

 

 

 

「さあ、アタシたちも始めようじゃないか!!!!」

 

 煉達に斬りかかったイーサンに合わせてライラもデバイスから魔力刃を展開した。そしてようやく得た溢れんばかりの魔力に歓喜し、魔力弾で弾幕を張りながらクロノ達に向けて突っ込んでいく。

 

 

 

 

 

「奴らロストロギアを暴走させるなんて!?」

 

 クロノが悪態をついた。イーサンとライラの驚異的な戦闘力の上昇には理由があった。2人が使用したジュエルシードは願いを叶える願望器という性質を持っている。

 

 しかし、それは本人の願いとは違い、歪んだ形で叶えられる。それどころか使い方次第では次元震すら引き起こす危険な代物であるため、とてもその用途で使用するには危険すぎて使えないというのが一般的な認識だ。

 

 だが今回2人が願ったのは恐らく似たような願いであり、2人の口ぶりから強くなりたいだとか、この場を切り抜けたいだとかそういったものであろうことが推測される。そして、暴走してON,OFFが効かないということを除けば、ジュエルシードは2人の戦闘力の底上げを担う最高の魔力ブースターとなっているようだ。

 

 しかもイーサンに至っては宝剣ミュルグレスまで併用している。こちらの能力はいたって単純、身体能力を限界以上まで引き上げるというものであった。

 

 しかし、ミュルグレス自体はただの頑丈な剣であり身体能力だけ上がったところでこの場を脱するには至らないだろう。だが、ミュルグレスで身体能力と武器の確保、ジュエルシードによる魔力ブーストで魔力量を一気に底上げすることによって結果的に災害級と言っても過言ではないほどの戦闘力を手に入れるに至ったのだ。

 

「このままではマズいな。戦力を分散させて事に当たるぞ!」

 

 ライラの弾幕に自身の水色の魔力弾をぶつけながらクロノが叫んだ。今はイーサンやライラの周りだけで収まっているが、彼らのキャパシティをジュエルシードが上回ってしまえば、どうなるかは分からない。

 

 ましてやここには封印の解けて暴走している6つのジュエルシード。ここにいる面々も、かつてのPT事件を思わせるシチュエーションに少なからず焦りを覚えている。

 

「僕となのはでミュルグレスを持っている奴、フェイトとザフィーラで彼女を!はやては結界内に突入してきた奴らが持っていたジュエルシードの封印を!アルフは民間人の保護と護衛をしながら引き続き犯人たちの拘束を!そして蒼月烈火・・・君はアルフと共に・・・ってどこに行くんだ!?」

 

 クロノは流れるように指示を飛ばしていくが、その指示を待つ前に烈火が空へと飛び立った。その先では・・・

 

 

 

 

 

「きゃぁぁっっ!!??」

 

 咲良が煉の隣に叩きつられた。

 

 イーサンの手に握られているミュルグレスの切っ先が咲良のアイギスを突き破っていた。先ほどの煉への一撃よりもさらに威力を増している。

 

 イーサンはゴミを払いのけるように剣を振るい、アイギスを放り捨てた。本来のイーサンならば、煉と真正面から撃ち合えるはずはなく、咲良の防御を力づくで打ち破るなどできるはずもなかった。

 

「まずは2人だぁぁぁぁ!!!!!」

 

 しかし、ロストロギアのバックアップを受けた今のイーサンならばそれは可能である。竜人と化したイーサンは無限に湧き上がって来るかような感覚すら覚えるほどの膨大な魔力を自在に扱えることに歓喜していた。イーサンは地面に横たわる2人に対して追い打ちをかけるようにミュルグレスに魔力を纏わせて斬りかかる。

 

「ひぃ!?」

 

 煉の口から先ほどまでとは一転、情けない声が漏れた。咲良は諦めたように目を閉じる。まさにこの状況こそ、イーサンが自身より高みにいる魔導師達を超えたという証明になっていることであろう。口元を歪めながらミュルグレスを振り下ろせば・・・

 

「なっ!?また、てめぇか!!!」

 

 倒れている煉と咲良にミュルグレスの刀身が届く前に純白の刃によって受け止められている。

 

「随分と軽い剣だな」

 

 白いロングコートの少年---蒼月烈火が魔力を吹き出しながら迫るミュルグレスを手に携えた剣で完全に受け止めていた。プルトガングに罅を入れ、アイギスを突き破ったそれをいとも簡単に・・・

 

 

 

 

 

 

「全く!どうして言うことを聞かないんだ!?作戦を変更する!」

 

 クロノもイーサンの動きには気づいていた。そのため、なのはと共に攻撃に割り込もうと思っていたが、それより先に烈火が先行してしまった。烈火に気を取られて隙ができてしまい、そこにライラから攻撃を受けて、この場に留まる羽目になっていた。

 

「なのはとフェイトで蒼月烈火の援護と怪我人2人の確保、僕が彼女の相手をする。ザフィーラは残り1つのジュエルシードの確保、はやては怪我人の手当てと民間人の護衛、アルフは先ほどの通りに頼む!!」

 

 1人を除いて周囲の面々が力強く頷いた。

 

「あの女の人は私が相手をするから烈火の援護にはお兄ちゃんが行って?今の私より上手くやれると思う・・・」

 

「フェイト・・・?」

 

 俯いているフェイトの表情は前髪で見えない。クロノは自身の指示に反論するなど珍しいとフェイトに声をかけたが、思わず目を見開いた。

 

「大丈夫、すぐ終わらせてそっちに向かうから」

 

 普段の温厚なフェイトからは想像できない怒気を全身から発していたからだ。

 

「大丈夫なんだな?」

 

「うん」

 

 クロノはらしくないフェイトの方を心配そうに見つめるが、フェイトは笑みを浮かべて頷いた。冷静さを失っているわけではないと判断したクロノは魔導師達に指示を出して、その場から飛び立っていった。

 

 

 

 

「すぐに終わらせるなんて、ガキが生意気言うんじゃないよ!!」

 

 ライラは自身の前に1人残ったフェイトに対して罵声を浴びせた。ジュエルシードの恩恵を受けて膨大な魔力を得た自分に、全く気圧されないフェイトに対してイラ立ちを募らせる。

 

「・・・時空管理局本局所属、フェイト・T・ハラオウン執務官です。最後に1度だけ通達します。武装を解除して投降してください」

 

「はぁ!?アンタ、頭おかしいんじゃないのかい!?なんでアタシがアタシよりも弱い奴の言うことを聞かないといけないんだ?あははははっっ!!!!」

 

 ライラはフェイトの言うことが心底おかしいと高笑いをするが・・・

 

「そうですか・・・なら、貴女を打ち倒します!・・・行くよ!バルディッシュ!!」

 

 フェイトの深紅の瞳に宿った激情が燃え上がった。その手にあったバルディッシュが姿を大きく変えてゆく。今までの戦斧や大鎌とは随分と様相を変え、長い柄と黄色の巨大な刀身の大剣。フルドライブ〈ザンバーモード〉である。

 

 フェイトとライラ、烈火とイーサンがぶつかり合う。そして、それぞれがそれぞれの為すべきことを果たすために行動を開始した。

 




最後まで読んでいただいてありがとうございます。
バトルパートはまだ続きますよ。

では次回も読んでくれると嬉しいです。
感想等ありましたら是非お願いします。

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