あれから数日。
そんなわけで俺は「ヨロイ」ことダクマを預かることになった……の、だが。
タマムシシティの実家近く。俺とミィの仮設練習場と化している、とあるビルの屋上にて。
「いやぁ、ただでさえ初めてのポケモン育成に手間取っている最中なんだが。ここで増員となると混乱が倍加するというか、でもそれはそれでありがたいというか」
「ベアっ、ベアぁっ!」
「キュゥン!」
「ッポー」
べしべしとニドラン♀と組み手を行うダクマを、遠目に見やる。
小さな体で俊敏に飛び跳ねてはぶつかり、壁際まで転がっては立ち上がる。うーん、血気が盛ん!
「怪我しない程度に、そこそこにしておけよー」
「ッポぅ」
俺の声に、ニドランとダクマが視線でもって返答。手元でブラッシングしていたポッポが気持ちよさそうに寝始めた。うーん。可愛い。
……まぁ本気で技を出すんではなく、組み手のような……立ち回りの確認とかに終始しているので大丈夫だろう。熱が入ってきたら止めれば良いか。
きゅきゅっとステップを効かせて拳。跳んでは脚。ニドランが四足獣に独特の押しの強さを見せると、体重を利用して迎撃。
こうして見ている限り、このダクマは「鎧の孤島」で相応に訓練を積んで来た個体なのだろう。俺のポケモンと比べて、はるかに動きが良いんだよな。この時系列におけるあの島の環境はよく判らないけれども……昨日あの後、マスタードさんに聞いた所。
『ダクマはねぇ、ワシちゃんが「これぞ!」って思った人に託すことに意味があるのよん。ショウちんは気にせず託されちゃって!』
『いや、そういう訳にもいかないんですよ。だって俺、ポケモントレーナーの資格が無いんですよ? 海外からのポケモンは、外来種指定されるんで……個人で所持するにはちゃんと
『あらま。そいえばそうね。ショウちん何才?』
『7才です。資格が取れるまであと3年かかります』
『ほぉ~。最近の7才はすっごいのね。関心しちゃう!』
『いいえ。ショウは成長がどうこうというか……そもそものモノが違うので、これを基準にされると恐らく困った事になります』
いや。でもポケモン界隈の主人公が巻き起こしたあれら事変を基準にすると、俺の影響力なんてそうスゴくはないと思うんだよ。無いとまでは言わないけれども。
……この世界における個人の影響力って、どうしてもポケモンバトルの表舞台で結果を出せるかどうかだからなぁ。そういう状況になったなら、「強い姿を見せておく」手段も考えなくちゃいけないか。メモメモ。
マスタード師は、わかったのかわかってないのか。明らかワザと、判り辛い表情で。
『ほーん。……ま、トレーナー資格がないなら、血縁でもなんでもないワシちゃんから、ばっちりきっちり譲っちゃう訳にはいかないね。研究者資格もあるって聞いてるけど、そっちはどう?』
『ダクマが捕まえられてなければいいんですけどね。モンスターボールの捕獲時登録者との兼ね合いなので。どうしてもというならオーキド博士に……んー、でもボールのあれこれを弄るのは、外聞がちょっと良くないか』
研究目的であればまだしも、単純にダクマの修業みたいだからな。
適当な研究に協力してもらえれば題目くらいは達成できそうではあるんだが、いかんせん、俺もオーキド班も、これからの研究に向けての準備が佳境に入っている時期だ。俺の予定も詰め詰めだし……バトルの訓練時間くらいはきっちり作っているけどさ。ダクマの修業機会を減らしてしまうんなら、本末転倒だ。
『そんなんなるなら、それこそ格闘道場にあずかって貰った方がマシでしょう』
『それは避けたいね~。うーん、どうしよ。ダクマはもう、ショウちんのトコで修行するつもり満々なんだけど』
『ベアっ』
『でしたら名義を私の所……「格闘道場」預かりとするのはどうでしょう。まがりなりにも公認ジム候補だった身。色々と資格は揃えているので、こちら預かりにして、ショウには貸与している形にすれば問題ないのでは?』
『あー、それならいいかと。別の地方とかには一緒にいけませんけど、ヤマブキとタマムシで一緒に出歩いたりする分には、正式な研究寄与の形式で連れ歩けます。書類だけ
『それだね! 決まり! それじゃあヨロシクね!』
などという流れで、ダクマは俺の所に修行居候することとなっていたりする。つまり、外部での修行という訳だ。
なんとも格闘タイプらしい理由だなと思ったりはするが、ポケモンバトルを前提に考えるとかなり有意義ではあるんだよな。ガラル地方のポケモンの種類はとても多様だが、いろいろな理由から「鎧の孤島」と「冠の雪原」のポケモンは独自の生態と種別を持っていたりする。主に島の利権によるもので、カントーの「ナナシマ」と似たような感じだな。
だとすれば、研究の最先端であるカントーで修行をするのは、ガラルにいないポケモンを相手にする場合の経験になるだろうと。そんな感じだな。うん。回想終了!
「さーて……そんじゃあ昼も過ぎたし。おーい、修行終了ー!」
「ベアぁっ!」
「キュゥン♪」
俺の呼びかけに応えて、ダクマとニドランが戻ってくる。ポッポは元から膝の間に居たのでボールに格納。
ようし。そんじゃあ戻るとしますか……学校へ!
何せ俺、小学生だからな! クラス委員の視線はいつも冷たい、ぜったいれいど!!
――
――――
さて。午後の授業も終え、タマムシマンションに帰ると、俺は母親に買い出しのお供を命じられた。
目的地はタマムシデパート。どうやら「アローラフェア」なるものを催しているのだそうだ。なにそれ面白そう!って感じなので否やは無いな。敬礼して是非ともと返事をすると、母親は微笑みながら外出の支度を始めた。
外は寒いのでマフラーを装着。妹はまだ小さいので母が背負って、マンションの出口を潜る。
「流石に人が多いなー」
「この時期で、時間だからねぇ。それでも休日よりは少ないんじゃ無いかしら」
時期は年末近し。モールが廃れている訳でも無いので、タマムシデパートはいつにもまして大盛況だ。
人の流れに逆らわず。デパートの入り口に飾られた「荷物持ち以外でのポケモンの外歩きはご遠慮ください」の看板に従って、出していたポッポとニドランをボールに戻し……ダクマには折角だから荷物持ちをしてもらおうと、首から札を下げる。べあっと首を傾げられたが、看板を指さすと、どうやら理解してくれたようで頷いてくれた。看板の絵が良いな。デフォルメされたニョロゾが山積みのプレゼント箱を抱えている、可愛らしいイラストだ。
「あら。新しいコに荷物持ちをお願いするの?」
「折角だしそうしよかなと。ダクマの住んでいた地域に比べると人口密度が多いからなぁ。カントーは」
母親の言葉に頷き、ダクマを手招き。ちょこちょこと足元まで寄ってくると、そのままタマムシデパートに突入である!
回転式のドアをダクマを抱えて突破。ついでにエレベーターの人混みも
人波の合間をぬってえっちらおっちら辿り着き、周囲を見回す。アローラ地方はリゾートだけあって、南国的な果物とかお菓子とかの食料品が豊富だ。外が寒いので暖色で描かれた包装の数々がより際だって見える気もするな。
さてはお仕事、荷物持ちである。俺とダクマは、母親が買ったアローラ土産や食べ物なんかを積み込んでゆく。
「ベア、ベアっ?」
「それは……うーん、上はいいや。ダンボールとかは横にして下に積もう。……いやおっも! 何なんだ、アローラのミックスジュースミステリーゾーンて……」
すると。
「ショウ、何か欲しいものは無いの?」
物資をひととおりカートに積載してから、母親が聞いてきた。
うーん……ないなぁ。
「ないなぁって言う顔をしているわねぇ、我が子」
「お流石。……まぁほんと、ないんだよなぁ」
実際、ポケモントレーナー周りの用品はこの年代でも充実している。台頭済みのシルフカンパニーを含む競合他社が、ポケモンリーグ界隈に続々参入し開発を進めてくれているのだ。大変にありがたいし、経済的にもよろしいだろう。
なので充実してはいる……が、ポケモンに実際に使うスピーダーなんかの実戦用道具はいらないしなぁ。今のレベル帯だと。だからといってタウリンとかのドーピング(語弊)アイテムが欲しいかと言われるとそうでもないし。
じゃあ何が欲しいのか。難しい問題だ。実際には容量の制限がある荷物バッグの改善や、ポケスペなんかでお披露目されてたスーパーランニングシューズとか。あーいうのが在るんなら、欲しいんだけどな。……いやさ。今は無いんで、欲しいなら開発しないといけないんだが!!
うちの母親は別に貯金で勝手にぬいぐるみを買ったりはしない(しない)ので、手元にお金を置いておきたい訳でも無い。……という訳で、特に欲しい物というのはないのである。原点回帰。
「強いて言えば、時間は欲しい……?」チラリ
「私にはあげられないわね。義務教育はきちんと受けなさい。……それにどうせ、ポケモンのために使う時間なんでしょ。ポケモンに関すること以外って発想は無いのかしらね。……無いのよねぇ、我が子には。きっと。おもちゃとか、全然欲しがらないものねぇ。この年で。今年のサンタにお願いしたプレゼントは、年相応にゲーム機だったけど」
「あー、確かに。ゲーム機は欲しかった。もう貰ったから無いってのも大きいかもなー」
「今の内に遊んでおきなさい? 来年からは化石ポケモンに関する研究と技術開発に本格的に協力するんだ……って、こっちの同僚のウツギさんから聞いて知ってるんだから」
「そのためにグレン島にまで行ったんで。ま、俺としては研究も遊びも似たようなもんだし」
「我が子ながら恐ろしいわね……」
年末年始にまでがっつり走り回っている研究者の両親に言われると、それはそれで俺としても恐ろしいな。
そもそもこの場に父親が居ないのは、
「忙しさにかまけてないで、同年代の子とも仲良くしておきなさいよ。今入っている小学校も、10才の頃にはトレーナーズスクールの内容が入ってくるんだから。バトルの練習で、ふたりひと組を作りなさいって言われるわよ? ミィちゃんはヤマブキの方なんだから頼れないでしょ」
「そーなー。隣のマンションのアカネちゃんとか、アキラ君アカリちゃんの幼なじみコンビとかとは仲良いと思うけど」
「アカネちゃんはあのオーキドさんに似たお爺さん繋がりで仲が良くなってくれてなによりだわ。通学路が一緒のアキラ君とアカリちゃん、あのふたりは、中等部に入ってからポケモンを持つんだったかしら……?」
「そうだって聞いてる。トレーナー資格を持ってから自分のポケモンを、ってんだから順当ではあるよな」
「そうね。だったら、学校に居る時間を
「へーい」
「生返事が過ぎる。……頭の回る我が子だから一応言い含めておくけれど、人ひとりで出来ることなんてたかが知れているんだから。手数が増えれば行動回数が倍になるのよ。足し算は、増え方というレギュレーションで乗算には勝てないの。頭数は正義!って、パパもよく言っているわ」
「おおう。我が父ながら身も蓋もない……」
「その分。乗算される元の数が大きければ大きいほど、増え方は急勾配になるじゃない。出来る出来る! 史上初、タマムシ大学携帯獣学部特別院生の
拳をぐっと握って母が力説。それをみて、何故かダクマも「グマぁ」って拳を握る。やる気満々で何より!(荷物持ち)
そんでは背中も押されましたし、頑張りますかぁ!って気分にさせてくれるな。流石は我が両親。ここまで自由奔放にさせて貰えるのはありがたい。
そんな感慨に浸っていると、母親が。
「じゃ、これが今日のお駄賃という事にしておこうかしら」
懐の通帳に挟んでいた現生を出して、俺に渡して下さった。
区切りの点のふたつ上桁。ひーふーみーよ-、いつむー……わーお。子どもに渡す額としてはちょっと多い。いや。だいぶ多い。むしろ多すぎる!
確かに欲しい現物がない以上、貰えるものとしては最も正しくはある。ただ、いいんですかね我が母よ。
「今年の私とパパが居ない間の洗濯掃除、家事手伝いと妹の面倒見の分。それと……丁度良い機会だから、我が子がポケモンを持ちたいって言ったら一緒に探してあげようと思っていた、費用プラスその養育費。夫婦の通称『
イケメン過ぎないか我が両親!!
とか思っていると、こちらからすいっと離れてゆきましたる、母。
「私は先に帰るわね。帰りは私の
「あー……まぁ、ちょっと興味ある出し物はひとつ」
どうやらばれていたようだ!
流石は我が母、略してさす母。感嘆の念を禁じ得ない。そんな風に表情を固めていると、溜息がひとつ。
「はぁ。じゃあ、それ見てから帰ってきなさい。この時期のデパートの催しは気合い入ってるから豪華よ。少しでも興味があるなら行ってきなさい。後悔する前にね」
《ボウン!》
「リッキ!」
母親は早々にボールからリキちゃんを繰り出し荷物を奪取。手を振って、家のある方角へと歩き去って行ったのだった。一度もこちらを振り返ることの無い、ますますのイケメンぶりよ。
……んー、じゃあお膳立てされましたことだし。
「屋上のあれ、見に行ってくるか。ダクマ」
「グマっ!」
さーて。
楽しい催しだと嬉しいんだが……どうなんだろうな?
今のところは興味半分、怖いもの見たさが半分なんだが!!
・アキラ君、アカリちゃん
いっつも使わせていただいているだいぶ昔の漫画「ポケモンカードになったワケ」最終話の登場人物。(ゲーム原作寄りの世界観で描かれている漫画が少ないというのもあるやも。他にぱっと思い付くのはゴールデンボーイズくらい……?)
本当に「カッコイイポケモン」とは何か。かわいさと共存はできないのか。否。そんなことはありませんのことよ!!!
・主な世界観設定の変更点
冬の寒さは普通に寒い。多分昔の私はFRLGでのゲーム内演出がないことを基準にしているんですが、まぁそんなとこまで準拠にしなくても良いだろうなと。
今の技術でリメイクされたらROM容量とかも気にしないで良いだろうし、折角カントーなら桜景色とか追加される気もしないでもない。
そもそもこの設定には創作する側への利点が……ない訳でも無いですがマイナスが多すぎる(戒め
・ミステリーゾーン
ちょっとだけお安い(戒め