ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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1995/春 パートナー達と

 

 オリエンテーション終了と同時に、本校舎はひどい有様となり果てた。仕方がないと言えば仕方がない。なにせエリトレ組、総勢100人超が所狭しと駆け回っているのだ。

 校舎全体の広さからすれば、100は決して多い数ではないだろう。だが、それが動き回っているとなれば ――

 

 

「……当然こうなるよな」

 

「ね、早くポケモン探しに行こうよ」「ホウエン地方のポケモンが欲しいなぁ」

「ニョロモどこー?」「拙者、毒ポケモンを探しに行くでござる」「アンズちゃん、マジでござるって言うんだね」

「相性を考えると何がいいのかな?」「飛べるのと、水タイプが1匹ずつ欲しい所かなぁ」

「とりあえず強いのー」「あたし可愛いのー」「至高の1匹が居れば十分」

「瞳が、つぶらなの」「ぐるぐるーッ」「プテラだっ」

 

 

 講義場は声で埋め尽くされている。その行動方針も、一斉に動き出すグループがいれば、対策を練ってから動き出す奴等もいる。様々だ。

 と、そういえば。俺は出入り口へと向けていた視線を戻し、周囲の友人達へと向けてみる。

 

 

「―― 行くわよっ、ノゾミ! ヒトミ!」

 

「ま、歩きながら考えりゃあいい事よねー」

 

「うん。わかった」

 

 

 女子3人はどうやら、動きながら考えるらしい。そんじゃ、こっちは。

 

 

「ほら、さっさと行こうぜ。シュン」

 

「僕も今回ばかりはユウキに賛成だ。行こう」

 

「いざ、どらごーん」

 

 

 全員が立ち上がり、こちらを見ていた。

 ま、確かに。歩きながら考えればいいというのは、至極当然。……でもな。

 

 

「皆は欲しいポケモンがいるんだろ? メンバー構成とか考えてたし。オレは特に欲しいポケモンとか決めてないから、見ながら回ってみたいんだ。だからさ、個別行動にしないか?」

 

 

 オレ以外の皆は前々から欲しいポケモンをリストアップしていた筈だ。むしろクラス全体から見ても、オレみたいな奴のが少数派である。

 丁度俺の前に居たゴウは、やっぱりなとでも言いたげな顔をして。

 

 

「ふむ。シュン、お前がそういうのであれば無理強いはしないが……」

 

「悪いな。でもほら、一箇所で貰えるポケモンの数にも限度があるって書いてあるしさ。多人数での行動は必ずしも有効じゃあないと思わないか?」

 

「……いいのね?」

 

 

 ナツホからの確認に、頷く。

 

 

「ま、シュンがそう言ってるなら良いんじゃねぇか」

 

「ああ。アタシも、目付けてたポケモンを探しに行きたいからね。異存は無いよ?」

 

「貰い終えたら、どこかに集合にすれば」

 

「どらごーん」

 

「そんじゃ、それで。オレはもう少しマップを見てから出発するよ。……行ってらー」

 

 

 オレが手を振っていると、皆も振り返しながら方々へと散ってゆく。

 その背を見送りつつ……いや。実際には、最後に1人。黒髪ポニーテールの幼馴染だけが残っているな。

 ナツホは目前に立ち、腰に手を当て背を僅か反らし、不機嫌にも見えないことは無い顔で。

 

 

「どういうつもり?」

 

「いくら仲良しグループだと言っても、こういう時まで周りを優先する必要は無いと思う」

 

「……ま、そう言われてしまえばそうね。ケイスケのドラゴン探しに付き合うだけでも、大分時間を取られるのは確かだと思うし。……じゃなくて」

 

 

 きっ、と、ナツホが睨みつけてくる。いや、オレの心の防御力は確実に低下したが。

 

 

「他のはどうでも良くてアンタよ、アンタ。欲しいポケモン、本当にいないの?」

 

「どうかな。少なくとも『欲しい』ってのはいなかったと思う。そこはホントだよ。……だから、これから『捜す』んじゃないのか?」

 

「……」

 

「睨みつけても一緒だって」

 

「……はぁ」

 

 

 腰と頭に手をあて、諦めの溜息。苦笑いだ。

 

 

「……でもね。シュンの気持ちも何となくは判るのよ。伊達に11年も幼馴染やってないからかしらね?」

 

「はは、ありがと。……オレとしては、ナツホが心配してくれてるのも判るんだ。エリートトレーナーを目指す、って言うからには色々と考えなきゃいけないって事もな。けど……」

 

「だから良いってんの。心配するだけ損だわ、アンタは。……大丈夫。シュンなら、あたしなんかよりもよっぽど良い相棒を見つけられるわよ」

 

「んなこたないさ。ナツホならきっと、オレなんかよりも凄い相棒を見つけられる」

 

「ま、それは今日の捜索次第ね。……それじゃ、アタシも行って来るわ」

 

「また後でな」

 

 

 互いに手を振り、別れた。ナツホが講堂の扉を潜るまでを見送って。

 さてと。周囲にいた幾グループか……施設巡りの算段を立てていた者達も、殆どは居なくなった。時間も勝負なのだから当然だ。そもそも既に講堂には、片づけをしている教員達しか残っていない。自分以外は、だが。

 一先ずのびをして固まっていた身体をほぐし、視線を周囲へと巡らす。

 

 

「とりあえず……外行くか」

 

 

 なにせ晴れた4月のタマムシシティだ。街中のいたる所、咲いた花々の香気を含んだ風が薫っている。今日の天気ならばきっと、植物達もゴキゲンに違いない。年に幾度とない、絶好の散歩日和。そんな日に行なわれてるポケモンラリーなのだ。屋外に配布人員を待機させていないとすれば、それは企画側の怠慢だろう。

 なぁんて。よし、オレも行きますか。……まだ見ぬ仲間を求めて!

 

 

 Θ―― スクール校舎/敷地内

 

 

 校舎周辺をゆっくり散歩しつつ、ぐるりと一回り。合計1時間半ほどは歩いたか。行動で様子見をしていた時間とあわせると、残り時間は正味1時間も無いに違いない。しかし、おかげ様、オレはピンと来たお仲間を2匹ほど譲り受けている。

 特別な処理のなされた緑色のモンスターボールを掲げ、その内を覗き込む。中に居るのは、横歩きする赤い甲殻と、のそのそと「根っこ」を動かして歩く植物。どちらもオレにとっては初めての仲間だ。

 

 

「グッグ、……ブクブクブク」

 

「……ボールの中って、水無いのな。当たり前っちゃ当たり前だが」

 

 

 人気の無い校舎裏でサボタージュしていたハナダシティの現ジムリーダーから譲り受けた、クラブ。オレの問い掛けにVサイン((はさみ)仕様)で答えるなんて陽気さがピンと来てたりする。両の鋏の内、大きな方を器用に揺らしている。

 と、もう一方のボールの内。

 

 

「へナ、へナ、へナ」

 

「お前はさ。外で歩く時はオレの腕とかに巻きついといた方が良さそう」

 

「へナッ」

 

 

 もう一方はマダツボミ。脚代わりとなる根っこを必死に動かし、身体にあたる茎部をくねらせ、頭を大きく揺らして歩くのだが……思わず手を差し伸べたくなる光景だったので。

 因みに、このマダツボミは学園内を見回っている樹木医の先生から、ついさっき頂いた。その樹木医の先生からポケモンを貰ったのはオレだけらしいが、まぁ、こんな人気も無く入り組んだ所に来るのはオレ位のもんなんだろうな。変人の類だし。

 そう……入り組んだ所。現在地、その周囲を見ても壁、壁。もひとつ壁。目の前にだけ、狭い通路が開けている。

 さーて。どこなんだろうなぁ、ここはさっ!

 

 

「さておき。……どうするか。もう1匹貰う事も出来るんだよなぁ」

 

「へナッ」「ブクブク」

 

 

 周囲には人っ子一人見当たらない。とりあえず校舎外をあてなく歩いているだけだから、現在地が分からずとも問題は無いのだ。けど、ゲン先生の言っていた、「バトル大会」が気になる所か。

 バトル大会の目的 ―― トレーナーとしての売り込みに関しては、オレとしては非常にどうでも良い。けど、今ポケモンを貰っておけば卒業後にそのまま譲り受ける事もできるらしいし。

 何より「バトル大会を勝ち進む事」、そのものには多大に興味がある。折角ルリ(と呼ぶ様に彼女に強制されたのだが)に教わるんだからな。参加しておきたい。結果も、出来る事なら付随させて。

 

 

「となれば、やっぱり」

 

 

 大会は手持ち3匹で参加する方式、と言っていた。もう1匹は確実に必要だ。その分の負担は大きくなるものの、勉強の一環だと思えば文句も無し。というか、仲間が増えるのは素直に嬉しい出来事だ。

 

 

「―― 決まりだな。あと1匹を……お?」

 

 

 狭まっていた通路の先。たどり着いたオレの視界が、いつの間にか開けていた。

 四方を高い壁 ―― 校舎に囲まれた、小さな中庭。

 小さなと評したが、あくまで校舎全体の敷地と比べればの話。花壇と生垣に彩られ、中央には大きな藤棚が据えられて。中庭としては充分すぎる敷地面積である。4月も中盤を迎えた藤棚からは、大きく紫色の花が垂れている。

 うん。垂れている。……で、その下に。正確には、下にある木製ベンチの上に。

 

 

「いや、誰?」

 

 

 顔の上に本をかぶせ、横になっているエリトレ候補男子学生が居た。気配的には寝ているに違いない。彼がエリトレ候補生だと読み取れるのは、制服と刺繍のおかげだ。

 それにしても……何をしているのか。ポケモンを貰い終えた奴、にしては妙過ぎる。ボールホルダーには一切ボールが付いていない。かといって、1匹は貰わなくては授業も受けられないのだ。

 起こすべき? それとも。そんなことを考えながら、一先ずは近づいて行く。

 ……て、おい。

 近づいていく毎、悩んでいた自分が馬鹿らしくなった。確信が持ててしまう。こいつは、起こすべきだ。

 

 

「―― おい。起きろー、ショウ」

 

「ん、ん。……ぅぉ、シュンか! ……ってか、マジで。俺、寝てた?」

 

「そらもうグッスリと」

 

 

 白衣が無いため判断が遅れたが、寝ていたのはショウだった。オレが肩を揺すると上半身を起こし、若干寝ぼけながらも吃驚してみせている。

 と、いうか。

 

 

「仮眠を取るのはいいけどさ。お前、ポケモン貰ったか?」

 

「いや、これから。……ミスったな。プリンのコンサートを聴いてからの記憶が無い」

 

「プリンの歌聴いたんなら、寝てて当たり前だろ……」

 

「まぁいいさ。……んー、ポケモンラリー終了まであと30分てとこか? 丁度良いんじゃあないかなぁ、と」

 

 

 相変わらずな奴だな。流石ショウ。……と言ってしまうのが適切なのかは、判断できないが。

 ショウはベンチから立ち上がり、左腕に付いた時計を見て。

 

 

「んじゃ、そろそろ貰いに行くか」

 

「もしか……せずとも、当てがあるのか? ショウは」

 

「実はある。俺も企画側だからな。まぁ、不公平だと思ったから、タイムアップぎりぎりまで待ってたんだ。……ところでシュン、何体貰った?」

 

「オレか? オレは今の所2匹貰ってる」

 

 

 言いつつ、腰のホルダーを指す。ショウはボールを覗き込む、かと思いきや。

 

 

「あー……まぁ、見せ合いは部屋行ってからのお楽しみにしといて。先に貰いに行こうぜ」

 

「……なんでオレも?」

 

 

 顎に手をあてて思索の後、そう言い放った。

 ま、確かにもう1匹貰うという方針を決めたばかりではあるのだが。何ゆえそれが判るのか。

 

 

「お前今、『今の所』って言ったろ? それに、前々から強くはなりたいって言ってたからなー。上限まで貰うってのは予想できた。……んで、どうする? 今から俺、『当て』までポケモン貰いに行くんだが。勿論お前だってもらえるぞ?」

 

 

 ニヤニヤするな、畜生。残り時間も残りポケモンも少なくなっている時間帯だ。この提案が渡りに船なのは違いない。

 ……ええ。貰いに行く。行きますよ。 

 

 

「決まり。―― あっちだ」

 

 

 ショウに先導されて、見慣れぬ校舎の中へと足を進めた。……なんだかあれだな。妙な雰囲気、というか……どこだここは。校舎の雰囲気すら、本校舎とは別物なんだけど。

 ドアを潜ってすぐ、視線を巡らすオレに気付いたのだろう。ショウは笑いながら説明を開始した。

 

 

「ここは研究棟だよ。よく言えば世界に誇るタマムシ大学、その中心部だ」

 

「へぇ、研究棟だったのか。そりゃ当然、オレは知らないよな……」

 

 

 現在地不明のままだったが、これで合点がいった。オレはどうやら、タマムシスクールの敷地内では比較的端のほうまで来ていたらしい。

 ……でも世界に誇る、って言う割には。

 オレ達が頻繁に講義を受けるであろう西・東棟および中央棟と比べると、狭くて暗い廊下だ。壁もどこか色気無くて。

 

 

「あれだ。失礼だけど、ぼろいと思う」

 

「ま、管理棟と新A・B棟は新しいけど、研究棟はこんなもんなんだよ。機材が多くて運び出すのも、運び込むのも一苦労しそうだ。せめて廊下の拡張くらいは行うべきなんだろうけどなー」

 

「へぇ。そんなもんか」

 

「おう。そんなモンそんなモン」

 

 

 説明を受けながら階段を上がっていくと、6階に到達。ショウは6階で階段を離れ、部屋の並ぶ廊下へ出ようとしている。

 好奇心が首をもたげて、続いていた階段を振り返る。この上は……屋上、だよな。

 

 

「なんだ、屋上が気になるのか?」

 

「あ、ああ。スクール校舎の方は、屋上進入禁止だったからな」

 

 

 一応、事故防止のためらしい。学生用という事もあるのだろう。

 だが、オレが興味を示すのにもワケがある。タマムシの建築物は屋上が一つの観光スポットみたいなものなのだ。

 

 

「まぁ、『タマムシの屋上』だからなー。気持ちは分かるぞ」

 

「……開放して無い理由も、勿論分かるけどさ。こればっかりは好奇心だから、どうしようもなくて」

 

 

 タマムシシティでは屋上の緑化義務があるため、一般建築物だろうがマンションだろうが、屋上に緑が据えられている。大企業やこれだけ規模の大きな学園……庭師を雇っている様な場所は、屋上も凄くきれいにされてるのが通例なのである。それは時に、観光名所とも成る程。

 ショウは名残惜しそうな顔をしたオレを見、口に指を当てて。

 

 

「……ここだけの話。こっちの校舎の屋上は研究者が頻繁に出入りするから、鍵閉まってないんだよなぁ。こっち校舎から入って、屋上伝いに行けば、そっちの校舎の屋上にも合法的に入れる。……見付かったらこっちも出入り制限されるだろうから、あんまし使うのは勘弁な?」

 

 

 タマムシ校舎は外観も重視しているらしい。増築時も屋上までが継ぎ足される念の入れ様だ。屋上を伝っていけば、確かに可能なのだろう。

 ……それにしても良い事を聞いた。この情報は是非とも、今後の参考にさせて頂くとして。

 階層の端まで歩いた所で、ショウが足を止めた。扉の横には「マサキ」と書かれた表札が掲げられている。施錠がされていない事を確認した後にノックをし、中に入った。

 

 

「マサキー、いるかー?」

 

「お邪魔します」

 

「んー……いないぽいな。ま、鍵開いてるからその内戻ってくるだろ。麦茶で良いか?」

 

「特に好みは無いから、何でも。というか、勝手に使っていいのか」

 

「構わないと思うぞ? だってこれ、俺が持ってきた差し入れだしなぁ。あ、シュンはその辺のソファに座っといて」

 

 

 ショウは手馴れた様子で、机の横に据えつけられた冷蔵庫を開けた。中に入っていた無数のジャンクフードと栄養食品には目もくれず、立てられた麦茶の容器を手に取る。シンクの横からグラスを3つ用意し、目の前に置いた。

 オレは大分濃くなった、放置時間が長いと思われる麦茶を口にしつつ……それにしても。

 

 

「散らかってますね」

 

「研究者なんてこんなもんだよ。例えそれが美人だとしても、変わりは無いさ」

 

「それ、経験談か?」

 

「んーにゃ、微妙」

 

 

 ショウにしては歯切れの悪い返答だった。が、気にしないでおこう。

 待ち時間の間、このマサキさんの部屋を見渡す。明かりの漏れる小さな窓はブラインドで覆われ、窓際には埃が積もっている。壁にはポッポ時計。ポッポ時計のその下、壁際に置かれたパソコンとその周辺機器が、部屋の主であるかの如くでんと鎮座していて。電源は……切られていない。カリカリとシーク音が響いている。

 

 

「と。そんじゃマサキを待つ間に、シュンの貰ったポケモンを拝見しようか」

 

「お、そう言えばそうだ。……こいつとこいつ」

 

 

 戻ってきたショウの言葉に応じ、コツコツと机の上にボールを置く。上半分は市販のと同じ赤ではなく、緑色をしている。訓練生用の特殊処理をする為、ボール自体が特別製らしい。

 ショウはボールを手に……しかし、持たずに。視線を向けただけで、オレに向かって促した。

 

 

「出してみていいぞー。ここ、ポケモン出すの禁止されて無いし」

 

「……ポケモンを、出す?」

 

「ん。遠慮なくどーぞ」

 

 

 促され、ボールを再び手に取りながら。……ボールから出す? なんでだ?

 見るだけならばボール越しに見ればいい。この状況でポケモンをボールから出しておく。その意味も、ショウの意図も判らないが……

 

 

「まぁ、いいかな。―― 出て来てくれ」

 

 《《 ボボゥンッ! 》》

 

「グッ、ググッ? ……ブクブク」

「ヘナッ!」シュルリ

 

 

 クラブとマダツボミがボールから出た。クラブはぶくぶくと泡を出しながら鋏を動かしており、マダツボミは、オレとの会話を覚えていたのだろう。出るなりビシッと敬礼し、オレの腕に巻きついた。

 そんな風景を暫く見ていたショウが、口を開く。

 

 

「―― ほほう。成る程、成る程」

 

「評価をいただけるか? 研究者目線の評価を貰えるなら、オレとしても ――」

 

「ん、良い選択だと思うぞ。チーム云々とかバランス云々とか、陸海空を揃えるとかな。そんなのはどうでも良くて」

 

 

 ショウも正面のソファーに腰掛け、麦茶を1口。グラスを置いて、続ける。

 

 

「トレーナーとして『ポケモンを選ぶ』。そういう意味ではお前の目は確かだと思うぞ、シュン」

 

「どういう事だ?」

 

「時間もあるしちょっと説明するか。世間じゃ、6体パーティには空を飛ぶポケモンと水に潜れるポケモンが『必須』だとか言われてるだろ? けど、それはポケモンリーグにおける話なんだ。その点をどうにかするのは、そもそもトレーナーの役目な訳で。……なら『選ぶ』時には何を重視すれば良いのか。そんなの、実際には答えなんて無いんだが……こと『スクール』なら別だろーな。一緒に居られる時間も短いし、何より1年間って期限がある。さぁて、さて。遠回りしたけど、んじゃあ何が重要なのかってーと ――」

 

 

 クラブとマダツボミを、びしと指差す。

 

 

「ブクク?」「ヘナッ」

 

「シュンに『懐いて』いるか。シュンと『上手くやっていけそうか』。そんな部分なんだろうな、と俺は思ってる。……実は配られるポケモン達だって、ただ無事平穏に集められたんじゃあないんだな、これが」

 

「ああ、やっぱりそうなのか」

 

「お。ここでその反応って事は、気付いて選んでたみたいだな。……学生達に配られるために『集められた』ポケモン達。その条件は、実は『低レベルである事』だけなんだ。そんな集め辛い条件だから、数を稼ぐ事こそが優先事項になってしまってな? ポケモン孤児院にいたヤツや、身寄りの無いポケモン。もっと状況が悪いのを含めれば、捨てられたポケモンなんかも居るんだ」

 

 

 それは……

 

 

「そーそ。別にポケモンが悪い訳じゃあない。それに時間をかけてコミュニケーションを図れば、いつかは判ってくれるだろ。だけど、スクールに居る内に、って考えれば別だ。特に大会なんかで使おうと思うんなら、そんな時間は無いんだよ。残念ながらな」

 

「オレとしては、ピンと来るやつを選んだだけなんだけどさ。でも確かに、何かこう……ゴウ風に言えば、『目が』淀んでるって言うのか? そんなポケモンも沢山居たよ」

 

「だな。まぁ元々、ポケモンの種類によっても懐き易さはあるし……選んだとしても、その後はトレーナーの腕の見せ所だ。むしろ結びつきは強くなるだろうし!」

 

「何か嬉しそうだよな、ショウ」

 

「まぁな。これから、っていうトレーナー達を見るとワクワクするだろ」

 

 

 ワクワクする、て。お前は親か。視線が教員側だぞ、おい。

 ショウは、そのワクワクした顔のままで解説を続ける。

 

 

「そのマダツボミは多分、人に接し慣れてる。前の人があんまり好戦的ではなかったか……もしくは治療の為に捕獲したか、て感じ。会ったばかりのシュンの指示に従ってるからなぁ。人への信頼感を持ってるのは、判る」

 

「ヘナッ」

 

 

 マダツボミが腕から顔を覗かし、頷いている。……樹木医の先生だから、かな? 先生の人柄なら、ありえない話でも無いとは思うけど。

 

 

「あー、そのクラブはまぁ、よくいる低レベルのポケモンだな。これから人を『知って行く』感じ。恐れ過ぎては居ないけど、信頼感もそこそこだ。そいつを育てるのは、トレーナーとしての良い練習になると思うぞー」

 

「グッ、グッ」

 

 

 大きな鋏を掲げてバランスをとりながら、足元をしゃかしゃか歩くクラブ。

 でも、そうなのか。なら頑張って接してみるか。などと、考えつつ。

 

 

「改めて。宜しくな」

 

「グッ!」「ヘナナッ!」

 

 

 クラブは鋏を一際高く上げ、マダツボミは葉っぱで敬礼。言葉に応えてくれた相棒達の姿は、実に頼もしく感じられた。

 目線を合わせてから、顔を上げる。頼もしいけど、この行事の残り時間も気になる頃合だ。そう考えて、時計を ――

 

 

 ――《バァンッ!》

 

「いや、待たせてもうた!! よー来てくれた、ショウ!」

 

「おーす、マサキ。こっちこそゴメンな。勝手に上がってて」

 

「かまへんかまへん。ショウなら何べんも来とるし、アポもらっとったのに居なかったんは完全にこっちの責任やさかいな!」

 

 

 頭を掻きながら、苦笑。暖かい笑顔が快活さを滲ませている。

 会話や表札から推察するに、今居る部屋の主にしてオレ達の待ち人。マサキさんは、コガネ弁を話すこのお方で間違いないであろう。

 その人、マサキさんが入ってきて ―― 手に2つ。

 

 

「ほな、時間も無いしぱっぱと行こか。ワイが用意したポケモンは、こいつらや!!」

 

 

 モンスターボールを、掲げた。

 

 





 講堂での「その他」の皆様は、かなりネタに走りました(笑

 ポケモンを貰う、というのはワクワクする行事であって欲しいですよね。そういう思いを込めて、こんな感じにさせていただきました。
 学生生活を思い浮かべながら書いておりますと、なんともワクワクする心持の今日この頃。
 ……でも、原作が遠いですね。目の前にしていると、尚更です。

 因みに。
 植物医はポケモン世界にも存在します。原作で言えば、RSE(ルビー、サファイア、エメラルド)の『おくりび山』……の、画面的には下の道路に存在しておりますので。
 ……うーん。流石に今になってからエメラルドをやると、慣れゆえの違和感が凄いです。特殊物理の概念が、技固有ではなくタイプ別ですし。

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