ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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1995/春 春色の散歩日和

 

 Θ―― 学生寮(男)/325号室

 

 

 外を囲う日差しはやや強さを増し、春の風は湿気を含むようになってきた。お優しかった春も、寂しいながら、佳境を迎えてしまっているらしい。

 カントーでの日々を過ごすオレはというと、変わらずの毎日。

 座学は未だ基本的な部分や教養科目が殆どだが、夏に入ればエリートトレーナーとしての専門科目も始まるし、自分たちのポケモンを使った実習もスタートする予定らしい。だからこそショウとの朝錬にたまに参加してみたり、ヒトミとのバトル練習をしてみたり、オレやナツホの入った園芸サークルに顔を出してみたり……なんて、結構充実した日々を送っているので。

 

 そんなありきたりな内容はさておき。

 来たる本日。日曜日で、お日柄も抜群。ベッドの上に寝転がっているオレことシュンは、ありがたい休日の過ごし方について思索を広げている最中なのだった。

 

 

「―― スゥ、……ブィー……」

「グッ、グッ、グッ、グッ」

「へナァ」ユラユラ

 

 

 部屋の隅で眠っているイーブイ(アカネ)、泡を吹いて遊んでいるクラブ(ベニ)故郷の街(キキョウシティ)の塔を思い出させるゆらゆらした動きで日当たりの良い窓際に陣取るマダツボミ(ミドリ)……という我が手持ちの面々。

 ま、こうして部屋に居る分には問題ないのだが、折角の日曜に引き篭もっているというのは11歳の学生としてどうなのと思う。

 ……けどなぁ。

 ショウは昨日から何処だかへ出かけているし、ユウキはヒトミに連れられて郊外のバトルスペースを貸しきっての訓練に付き合っているらしいし(半ば強制だったが)。ゴウとケイスケっていう珍しいコンビは図書館に篭っているらしいし、ナツホとノゾミはミカンちゃんやカトレアお嬢様を誘ってタマムシデパートへ買い物に出かけると言っていたし。因みにオレもナツホから買い物に誘われたが、その面子に男1人は嫌だなぁなんていう至極真っ当な理由で断っていた。社交的にはあれだけどさ。

 っと……あれ。ここで重要な事に気付いてしまったかも知れない。

 

「(今日のオレ、ぼっちなんだな!)」

 

 致し方が無い。ぼっちにはぼっちなりの過ごし方と言うものがある。オレはベッドから起き上がると最低限の荷物をポーチにまとめ、腰に括った。エリトレ制服ではなく私服へと着替えて、と。

 

 

「さて、一緒に散歩でも行かないか?」

 

「グッ、……ブククク」

「ヘナッ……ヘナッ!」ピシリ

 

 

 ポケモン達へと問いかける。ルリの講義から一月ほどが経過しているが、課題を忠実に実行し部屋の中でも隙あらばボールから出している我が手持ち。その内、比較的アクティブな2匹が頷いてくれた。そして、

 

 

「……ブィ」コクリ

 

 

 最後の1匹であるアカネも、小さいながらに頷きを返してくれた。よし。

 折角のお散歩日和なのだ。オレはベニを残して他2匹をボールに収めると、部屋の扉を開け、外へと出かける事にした。

 

 

 Θ―― タマムシスクール敷地外/北西側

 

 

 敷地の外へ出て、とりあえず北西に向けて歩く。別段明確な目的がある訳でもないのだが、ぼんやりとした指針はある。一先ず、オレも所属している『園芸サークル』の畑を見に行こうと思ったのだ。

 木の実の果樹園とも呼べるほど鬱蒼と……しかし確かに整えられた園芸サークル管理の畑はスクール敷地外の北西、サイクリングロードの脇に存在している。理由は幾つかあるが、主な理由は「タマムシジムに近いから」だ。

 園芸サークル。その名の如く植物やらを育てるサークルで、実は野菜なんかを育てているグループもあるのだが、それは置いといて。オレやナツホが所属するのは中心も中心、『木の実』を育てるグループだ。

 ショウやミカンちゃんが参加しているのも同じグループで、どうやらショウはコンテスト用ポケモンのコンディション調整に『木の実を使ったお菓子』を使用するためにも所属しているらしい。ま、ショウはよく珍しい木の実とかを持って来る中心人物な訳で……その辺りの流れはどうでも良いのだが。

 閑話を休題し、園芸サークルの立地の話に戻して。

 スクール敷地外の北西。タマムシシティからすれば南西に位置するその場所の何が便利なのかというと、タマムシの誇る『公認ポケモンジム』が同区画に存在し ―― タマムシジムには園芸サークルの管理責任者であるエリカ先生がいるのだ。

 

 エリカ先生。

 年齢はオレ達とそう変わらないながら、タマムシシティのジムリーダーを勤めている才媛である。昨年末のポケモンリーグにも個人として参加し、見事に上位入賞を果たす草ポケモンの実力派トレーナーだ。また、実家の関係から日舞と活花の実力もあるという。そんな若さに見合わぬ才と美しさから、トレーナー達の羨望を一身に向けられているのは有名な話。

 だが、それだけではない。 

 トレーナーとしてだけではなく、今を煌く世界的会社・シルフカンパニーにおいてデザインアドバイザーを勤めていたり、先日のようにタマムシ大学の講師としても彼女の才は発揮されている。

 まぁ、兎に角。エリカ先生のこれでもかと言う程の高スペックさは、社会的な評判を加味すればあのショウ以上であると言って違いないだろう。

 

 で。そんなエリカ先生は、園芸サークルの管理責任者でもあり……学生管理とするにはあまりにも広い畑や敷地を、タマムシジムの管理下とする事でサークル所有のものと認めさせたらしい。だからこそジムの近くに建設されているのだ。

 まぁ、強いて言えば畑までの距離が問題だが、自転車で通えばそんなに遠い距離でもない。……学園に程近い寮住まいのオレが自転車を持っているのかと問われると、その内に購入予定だと答えるしかないのだが……と、そろそろ畑が見えてくる頃合だ。

 オレは考えるのを中断し、まずは足元へと視線を向けた。

 

 

「ブクククク」シャカカ

 

「そろそろ歩き疲れたか? 最近はちょっと日差しも強くなってきたしなぁ」

 

「グッ、グゥ。ブクブクッ」コクリ

 

「そんじゃ戻れ、ベニ! ……えーと、日差しが強いならミドリの方が良いか。出てこい、ミドリ!」

 

 《ボウンッ!》

 

「―― ヘナッ!」

 

 

 今はまだ水場が遠い。畑の中には用水路があるが、ちょっと遠いからと考えてベニとミドリを交替した。だが、出てきたミドリはいつもと様子が違う。オレの腕に絡まろうとして来ず、自分の根っこで立っていて。

 

 

「……あ、もしかして天気がいいから?」

 

「ヘナッ、ヘナナッ!」

 

 

 ミドリはオレの質問に何度も頷き、クラブ顔負けの脚運びで辺りを駆け回ってみせる。どうやら素早く動けることを証明したいらしい。実際、あの日見たたどたどしい歩行とは比べ物にならない元気さだった。

 よし、なら良いか。ミドリが十分に歩けるならば問題は無い。このまま進む事にしよう。

 

 

「―― と ―― ですわ」

 

「ん?」

 

 

 暫く歩き、畑の手前に作られた温室の横へと差し掛かった時だった。閉じられた温室のある方向から、話し声が聞こえてきた。誰だろう。こんな休日にタマムシの郊外まで出て来る輩なぞ、よっぽど熱心なサークル員か……もしくは。

 ん。もしくは、の方が可能性は高そうだ。オレは少しだけ回り込み、覗き込む。温室の入り口に立っていたのは、

 

 

「はい ―― はい。それでは、ごきげんよう!」

 

 

 暖色を基調とした着物に身を包んだ黒髪の女性。エリカ先生だ。口元に当てた携帯通話機に向けて、これ以上ない喜色に溢れたごきげんようを繰り出している。うーん。エリカ先生って何かこうしとやかーなイメージが強かったけど、こんな表情も出来るのな。

 何を、誰と話しているのかは知れないが、邪魔をするのも忍びない。オレはとりあえず、温室から離れてゆく事にした。うん。予定通りに畑に行って、モモンの実の袋がけとかしてれば良いと思うんだ。そうしよう。……こっそりと。

 

 

 

ΘΘ

 

 

 

「―― 今、ショウに窺いました。どうやら孤児院の方は順調そうでしたわ。そもそも、わたくし達が心配する様なものではなかったみたいです」

 

『そう。……もう、ショウは直ぐに突飛な行動に出るから。ミュウツーの時だってそうだったでしょ? ああするしか方法がなかったとはいえ、1人であれに立ち向かうなんて』

 

「ふふ、ナツメも心配だったのですね。……とはいえ、孤児院の側が孤児の数を調整するのは必要な事。その転居先の主と面談するのも、……ショウが相手をする必要性は無いのですけれども……フジ様の御年齢では止む無き事ですわ」

 

『分かっています。ああもう、なんでショウはこうなのかしら。……そういう分ならヤマブキやタマムシを頼ったって良いでしょう、ねぇ? 11歳の少年が、社会福祉事業よ?』

 

「あら、それはどうでしょう? 社会福祉事業だからこそ。流石に孤児院の支援となれば、わたくし達を友人として頼るというのは範疇を超えてしまいますもの。……勿論わたくし個人の感情は別として、ですけれども」

 

『……そうね。……はぁ、判った。これからシオンタウンまで行って孤児院の様子でも見てくるわ。テレポートがあれば遠い距離でも無いし……この話題はここで終わりにして、本題に移りましょう』

 

「ええ。年末の『対抗戦』の事ですわね。……当初の予定では例年通り、タマムシとヤマブキの二校でクラス毎に選抜した生徒でポケモン勝負をする予定でした。ですが今年は、さるお方からの要請もありまして。どうやら規模を拡大する事になりそうですわ」

 

『シンオウチャンピオンとホウエンチャンピオンと、その辺からの依頼だったかしら? 4校合同での総当り対抗戦になるという話ね』

 

「ええ。一般組、エリトレ組、ジムリーダー組からそれぞれ2名ずつ。総数24名でポケモンバトルを行うそうです。詳しい企画はまだまだ詰めている所なのですが……やはり、お上の方々が少し煩いですわね」

 

『仕方が無いでしょう。そういえば組み合わせの理由は、シンオウとホウエンのスクールにその他上級科目組が創設されていないから、かしら』

 

「はい、そうです。そして代表ですが……我がスクールでは夏と冬の期末にスクール全体でのポケモンバトル大会を行っていますが、それとは別に、選抜予選を開こうと思っております」

 

『……へぇ? それは何故?』

 

「ふふふ。それは勿論、スクールのレベルで勝負するに当たって、ただ『ポケモンバトルが強い』というだけでは美しくないからですわ。今年はショウの教え子たちもいらっしゃいますし……彼ら彼女らの実力をみるに、ただのバトル大会は役が不足しています」

 

『そう。……わたしの所は、やっぱり実力主義になりそうね……そんな事が出来るのもエリカ、貴女が居るからかしら?』

 

「いえ。それもこれも、わたくしの力などではありません。……ダツラさんは熱く、実力のあるお方。ゲンさんは思慮深く鋭いお方。カリンさんは誰よりもポケモンを愛せるお方で……皆が人格者揃いだからですわ」

 

『そういうのを聞いてると、相変わらずタマムシのスクールは面白そうよね。ヤマブキはどうしてもエスパー主体の学園になってしまうから、代わり映えがなくて駄目。……とにかく。そういう事なら今年のシンオウやホウエンの事も調べて、対策をしておくべきね』

 

「学園主催のバトル大会は全地方共通ですから、招待を受ければ多少は情報も集まりそうですわね。……そうですわ! こういうのはどうでしょう? ―― と ―― で !」

 

『成る程ね、面白いかも知れないわ。わたしは賛成。でもそれ、あのリーグや協会が許すかしら?』

 

「チャンピオンの方々は積極的な様子ですし、時と場所を考えて提案すれば、ですわね。こういう時のために幾つか手札をやりくりしていますから。……ふふふ」

 

『今のふふふ、は完全に悪人面よね』

 

「あらあらまぁまぁ。わたくし、顔に出すほど無用心ではありませんわ」

 

『今の台詞は、完全に悪人側の台詞よね』

 

「それが生徒達の実になるのなら、幾らでも」

 

『……ハァ。判った、判ったわ。こっちにもお偉いさん方と繋がりのあるエスパーは沢山居るもの。ちょっとだけ手を回してみるわ。その企画は面白そうだし。でも、プレゼンと企画はエリカの方でお願いね』

 

「ええ。承りました。……あら、そろそろゼミの時間ですわね。それでは御機嫌よう、ナツメ」

 

『はいはい。またね、エリカ』

 

 ――《プツンッ!》

 

 

 

ΘΘ

 

 

 

 Θ―― タマムシ西郊外/サイクリングロード(修理中)

 

 

 モモンの実の枝を整えたり袋をかけてやったりしている内、外は日差しが強くなってきていた。手伝ってくれるミドリと共に一通りの作業を終えたオレは、ぶらりと海際まで出ていたり。

 夏に差し掛かったじっとりした空気の中。目の前に、青い空を飛ぶ無数の鳥ポケモン。波が寄せては退く砂浜。数キロほど先には、現在修理中の海上通路……通称サイクリングロードが水平線と平行し、横一線に伸びている。

 

 

「ブクク、ブククク!」

 

「お、ベニが元気だ。ここでミドリを出したら萎れそうだな……海水とか」

 

「……ブィ!? ……ブイィ!?」

 

 

 後手を組みながら、前を走り回るクラブと、波が来るたび飛び退くアカネを眺める。

 海もしくは淡水生まれであろうクラブは兎も角、アカネは海を見るのが始めてらしい。何事も経験は大切だからな、と考えて、街中でも無いので2匹を外に出しておいているのだが。

 因みに、只今、本気で散歩中なのである。

 散歩だから本気も何も……と言いたい所なのだが、時間を潰すのとコミュニケーションを図るのを同時進行するに、散歩と言うレクリエーションはかなり有効だと思うのだ。

 ―― うん、そう。オレがヒトミの様にバトルの練習ばかりをしたって、彼女に並ぶ事が出来るとは思えないからな。オレは、オレなりのアプローチ方法で上達を試みる。そうするだけの目標が、ある。

 改めて、故郷(ジョウト)を離れカントーの地に来ている自らの目的を思い返す。よし。それじゃあ本気で散歩をしようじゃないか。

 

 

 《ピーィ》――《ピューイッ♪》

 

「うん? 何だ、この音」

 

 

 突如海岸に鳴り響いた甲高い笛の音。その出所を探して、オレ達は周囲を見回す。すると前方、サイクリングロードの根元にある小高い丘へ向かって、鳥ポケモン達が飛んでいくのが見えた。丘の上と関係がありそうだな。

 

 

「……ブイッ?」

 

「ん、お前も気になるのか、アカネ。……よし」

 

 

 どうやらアカネが興味を持ったらしい。少し遠出になるし、海際を気に入っているベニには申し訳ないのだが、アカネが興味を持ったというのなら行ってみても悪くないだろう。今は特に目的があるわけでも無いしさ。

 とか考えて、実に適当に方針が決定。オレ達は砂浜を北に向かって歩いていく事にしたのである。

 






 エリカ様が腹黒くおなりに……(泣
 さてさて、久しぶりの更新となっております。待たせてしまった方々には、もう、大変に申し訳なく。
 本来私が目指す1話ごとの文章量はこのくらいでして、出来れば、なるべく考え過ぎないように書いていきたいと思っているのですが……ううん。

 因みに、ポケモンも絶賛プレイ中なのです。
 X・Yの台詞集をメモ帳に書き出したりしながらのプレイですので、クリアまでの時間はかかるでしょうが……兎角、楽しんだ者勝ちでしょう。
 ……X・Yの要素を出すに、FRLGはちょおっと昔過ぎますかね……?

 そういえば、「スカイバトル」やら「対多数戦闘」やら。私が「原作前」で取り上げたものらが最新作に盛り込まれたように感じるのですが……ええ。気のせいでしょう。

 ……気のせい、ですよね? 本拙作、監視なんてされていないですよねっ?

 手持ちもプリンやらクチートやら、何やら都合の良い方々が揃ってしまっていますし。相手が相手。ポケモンだけに、二次創作云々はかなーり怖いのですが……いえ。原作には最大限の敬意を払って作らせて頂いているつもりですし、商業文章にする気はさらさらないのですが……ガクガクブルブルしていたりします。

 では、では。
 更新速度、上げたいですね……(落涙。

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