ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

117 / 189
1995/夏 合宿バトル、にて

 

 Θ―― VS チトセ

 

 

『―― 始めッ!』

 

 

 彼女とか言う単語には何となく釈然としないが、驚いている暇は無い。オレは大慌てでボールを掴むと、前へと投げ出す。

 

 

「任せた、ミドリ!」

 

「ヘナナッッ」

 

「いけっ、ディグダ!」

 

「ディググゥ!」

 

 

 両の根でひたっと降り立ち、ミドリとディグダとが向きあう。

 草VS地面。相性はこれ以上ないが……いいや。躊躇している時間も惜しい。

 手元のバトルレコーダーを使用し、相手(チトセ)の登録ポケモン数とレベルを確認。ディグダのレベルは5。だがこのレベルは最近にポケセンに寄った際にトレーナーカードを通じて自動更新されるものであるため、実際にはもう少し高くなっている可能性を考慮しておかなければならない。

 

「(そして、チトセの手持ちは、3匹)」

 

 なら数でもこちらが不利に違いない。初っ端は、攻撃一択で!

 

 

「ミドリ、『つるのムチ』!」

 

「―― 戻って、ディグダ! ……いけっ、ロコン!」

 

「ヘナッ!?」

 

「―― ロコォン!」

 

 《ビシィッ!》

 

「コンッ……コォン!」フルル

 

 

 放った蔓を止める事はできず、そもそも止める必要性は無い。チトセが交換して繰り出したロコンに効果はいまひとつだが、……ここからどうするかだ。

 ここでオレもベニに替えることは出来る。だが炎タイプと言えば「やけど」の状態異常がやっかいだ。可能性は低いが、ロコンの持つ炎技で物理攻撃が得意なクラブが機能停止になってしまうと、その時点でオレの負け。

 その上ディグダとロコンはオレのもう1匹の手持ちのベニで突破可能であるが、相手には未だ見ぬもう1匹が潜んでいるのだ。此方の手の内は出来る限り隠しておきたい。

 

 

「となれば、だ。……できるか?」

 

「ヘナッ!」

 

「だよな。……いけ、ミドリ! つるのムチ!」

 

「えっと、ロコン、『ひのこ』っ!」

 

「コォンッ!」

 

 《ボボッ……ボッ!》

 

 

 種族的な素早さの差があってか、先手は譲る形。……けど、それで『つるのムチ』が止まるかと言われると!

 

 

 ――《シュルッ、バシィンッ!》

 

「コンッ!?」

 

 

 相手のロコンはレベル6近辺であり、また着火→飛ばすという技行程のたどたどしさを見る限り、本当にバトルに慣れていないのだろう。ミドリの方がレベルが高く、技の習熟度が高い事もあって、『ひのこ』の方が出は早くとも『つるのムチ』の速度が勝ったのだ。

 放たれた火の粉を突き破り、ミドリの手(葉っぱ)近くから伸びた蔓がロコンの前足を払った。ロコンは地面に転倒し、べちゃりと地面に顔を打ち……放たれた火の粉は、途中からあらぬ方向へと向けられた。甲斐あって、火は僅かに触れたという程度。

 

 

「もう1回!」

 

「ヘナァッ!!」

 

 

 物理攻撃は使い方次第で連携を取り易い。量の減った『ひのこ』を耐えたミドリは、再びロコンに向けて蔓を伸ばす。

 ミドリは、あの『ひのこ』程度では体勢を崩されない。逆に相手は転倒している。となれば、これは絶好の好機。根を踏ん張り、全身全霊を込めた一撃を ―― 狙って!

 

 

「ミドリ、顎だっ!!」

 

「ヘェ……ナァッ!!」

 

「あっ、危ないロコンっ!?」

 

「コン?」

 

 ――《ズベンッ!》

 

「コォンッ! 、……」

 

 

 

 勿論闇雲に狙ってもらったのではない。急所を狙った(・・・・・・)のだ。

 これは毎日観察をしていて実感できた事なのだが、マダツボミという種族は脚にあたる根や手にあたる葉っぱよりも「蔓の方が器用に動かす事が出来る」。そのため、蔓を自由自在に ―― ロコンの顎をピンポイントで狙う様な動作も朝飯前なのである。先の『つるのムチ』の錬度の高さもこの辺に由来する。

 そして恐らく、チトセはこう考えていた筈だ。キズぐすりが使えるのなら、まずはロコンで受けておこう……と。効果がいまひとつならば回復する機会はあるのだし、大筋として間違った思考ではないと思う。

 だがそれはロコンが『つるのムチ』を十分に耐えられる事が前提だ。また、トレーナーズスクエアから回復アイテムを使用するには遠隔アイテム投与ツールを起動しなければならない為に時間がかかってしまう。 

 因みにオレはというと、キズぐすりの使用に関しては練習していない訳でもないが……如何せん、勝ちたい試合に組み込むほどの要素ではない。レベルが低い以上、受け役がいたとしてもタイプ相性が重要になってきてしまうからな。

 さて。蔓に顎をどつかれたロコンは、身体を大きく反らしたままだ。熟練されたポケモンであれば反撃できなくは無いだろうが……チトセもロコンも狼狽している以上、これは大きな隙でしかない、な!

 

 

「とどめっ!」

 

「ヘナ、へナァッ!!」

 

 《ビシィッ!》

 

「コォォンッ!?」

 

「大丈夫っ、ロコン!?」

 

「……クォン」

 

「もう、こっちは戦闘不能ね。ありがとロコン。戻って!」

 

 

 チトセが吹っ飛んだロコンをボールへと戻す。対してこちらは、勝ち抜きルールのためミドリを交換する事はできない。

 

 

「ミドリ、ナイスだ!」

 

「へナナ!」

 

 

 蔓と手とでハイタッチ。

 ……良し。次だな。

 バトルレコーダーの画面上でチトセの手持ちを表すボールマークに×がつき、チトセが新たなモンスターボールに手をかける。

 

 

「しょうがないよね。いけっ……ディグダ!」

 

「ディグゥ!」

 

 

 ボールから出たハズなのに、地面からポコッと顔を出すとか。

 ……さて、ここでディグダか。教えを生かして、「相手の思考」を考えてみよう。

 この場面で『つるのムチ』が効果抜群なディグダ。考えられるパターンとして、

 

・相手のもう1匹がマダツボミに対して(ディグダよりも、更に)相性が良くない

・このディグダに何かしらの方策がある

・もう1匹を使う為の下準備

・オレと同じく、もう1匹自体に何かしらの問題がある

 

 辺りが可能性として濃厚だろうか。これはディグダに限った話ではないが、教え技を含めるとポケモン達が覚える技のタイプは実に多種多様であるらしい(・・・)のだ。マダツボミに有効な技を持ち合わせている可能性は十分にある。

 ディグダの種族的な能力から考えて……先に発動する事で有効に働く変化技か、もしくは。

 

 

「お願いディグダ、『つばめがえし』!!」

 

「ディグッ ――」

 

「っ、『つるのムチ』!」

 

「へ、ナッ」

 

「―― ディググッ!」

 

 《シュババッ》――《ズバンッ!!》

 

 

 ディグダは「素早い」ため、ミドリが先手を取るのは難しかった。目を回すほどの速さで、ディグダが爪っぽい何かを振り回した……そんな気がする(はっきりとは見えなかったが)。

 ロコンの火の粉によってHPが少ないながらに減っていたからであろう。多方向からの攻撃によってミドリの身体がジグザグに曲がり、倒れてしまう。

 

 

「ヘナュ」

 

「こっちも戦闘不能! 戻って休んでくれ、ミドリ!」

 

「よぉしっ!」

 

「ディグッ!」

 

 

 安心した、という風にチトセがグッと拳を握る。

 成る程。彼女の『しょうがない』発言は、『つばめがえし』が習熟されていないからだったか。自信を持って繰り出せるならロコンで受けようとせず、始めから『つばめがえし』を出していれば良い筈なのだし。

 ミドリが倒され、これで残るはクラブのベニのみ。……ディグダが相手なら、コイツで、相性的にも問題は無いな。

 

 

「任せた、ベニ!」

 

「グッグゥ!」

 

 

 ベニはボールから出るなリ、任せてくれとばかりに左の鋏を掲げる。よし、頼んだぞ。

 出した瞬間がバトルの再開だ。チトセのポケモンも此方へと向きなおし、

 

 

「『はさむ』!」

 

「ううっ、ディグダ、『すなかけ』!」

 

「ディグッ!」

 

 《ズザザッ!》

 

「グッ、グッ……!」

 

 ――《バチンッ!》

 

「ディ、グゥッ!?」

 

「ああっ!?」

 

 

 『すなかけ』によって視界が遮られたものの、ベニの鋏がディグダを捉える。そのままギリリと締め上げると、ディグダは力なく地面に潜っていった。

 よし、これで残るは1匹のみだな。

 

 

「戦闘不能! 戻ってディグダ! ……くぅ、こうなったら……!」

 

 

 ボールにディグダを戻したチトセが、新たなボールを取り出した。願う様に額につけ、……

 

「(えっと、あの表情は……不安か?)」

 

 そのままボールを宙へと放る。

 開き、中から現れたのは。

 

 

「行けっ……ライチュウ!」

 

「ラーァィ、ヂューッ!」

 

 

 橙の肌。すらりと伸びた尾をピンと立て、頬についた電気袋をバチバチと光らせる。進化前のポケモンと違う大きなその身体は、一際の異彩と威圧感を振りまいている。

 

 ……ほぉ、ライチュウ。

 

 

 ……。

 

 

 …………はぇ!?

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 自分がバトルをする闘技場へ向かいながら、大きく腕を伸ばしてのびをする。伸ばす先には、今日も変わらぬカントーの青空が広がっていた。

 

 

「やっと! やっっっと自国に帰ってこれたっ!!」

 

「ええ、長かったものね」

 

 

 そう。俺ことショウ、それとミィはつい先日まで、我が研究班員の研究の為にイッシュやらカロスやらの外国をウロウロしていたのだ。が、学業の方もサボる訳には行かないのだからして。エリカ先生から代替の効かない合宿には多少遅れても良いから合流するようにとのお達しが来ていたのだ。そんなこんなで、俺はこうしてセキエイ高原まで来ている訳で。

 因みに、我が班員の研究はイッシュ地方を中心に行うことが決まった。その点については成果がでたと言える。いやぁ、何より何より!

 

 

「グリーンは大丈夫そうだったのかしら」

 

「あー、まぁ大丈夫なんじゃないかね? 元気にバイビー言ってたし」

 

 

 因みに原作XYの通り、グリーンはカロス地方へ留学中。ボンジュールはともかくバイビーは……ま、良いか。本人が気に入ってんだし問題無いだろーな。

 我が班員の研究の候補地としてカロス地方も挙がっていたために訪れたんだが、まぁ、結局はイッシュでやる事に決まったからな。その間、俺もグリーンとカロスを周ってみたりしていたのだ。勿論そこそこのイベントもあったりしたんだが……さておき。

 んー! やっぱり慣れたカントーの空気はいいな!

 

 

「原作前はあれだったけど、最近じゃあタマムシにも慣れてきたからなー……と?」

 

「……あら」

 

 

 通路を歩いている最中、響いた音につられて横を見ると、通りかかった闘技場の中で数名の生徒がポケモンバトルを繰り広げていた。陣形を見るに、俺とミィもこれから行うバトルの実践授業だろう。端にカメラが設置されている状況からして、バトル内容を記録しているに違いない。

 その中でも俺とミィが注目したのは……

 

 

「シュンだな。しかも相手がライチュウとか」

 

「……相手の娘、苦々しげな顔をしてるわね」

 

 

 確かに。ミィの言う通り、相手の娘は何やら小難しい顔をしている。……あれかね? 間違って進化させた、とか。

 実際ゲームじゃあ、石で進化するポケモンは進化のタイミングが難しかった。速く進化させてしまうと覚えないレベル技があるからだ。俺もニドクインへの進化はかなりタイミングを計ってさせたものだが ―― だとしても早すぎだな。っつーことは。

 

 

「いや、タイミングは間違ってないんじゃないか? あの慣れた尻尾の動きを見る限り、むしろ始めっから(・・・・・)ライチュウだったとか」

 

「そう、ね。でも今は、進化のタイミングは兎も角……言う事を聞かないのが、問題」

 

 

 トレーナーとポケモンとの関係はただでさえ流動的なもの。レベルが上がりきらず、半年すら一緒に過ごしていないポケモン。その上進化形態なのだから、言う事を聞かないのも仕方があるまい。

 ……どうも進化するとポケモンの格ってかプライドみたいのもあがるらしいんだよなぁ。野生の生物的には当然だとも思うけど。

 

 

「そんでシュンの方の手持ちは、と。……クラブ。んー、結構行けんじゃないか?」

 

「そう、かしら」

 

「あー、まぁ、普通に考えたらヤバイ。けどあれ、低レベルのライチュウだし……」

 

 

 それに俺は、シュンのクラブの技レパートリーを知っている。

 シュンが教えた教え技。その内には ―― 勿論。

 そして何より、あのクラブとシュンの連携も。

 

 

「ま、勝敗は後の楽しみにしとこうぜ」

 

「それも、そうね。私達もこれ以上遅れる訳にはいかないもの」

 

「うっし、行きますかーぁ」

 

 

 去り際にチラッと、シュンの方を見やっておいて。

 

 

「……頑張れよと言いたいけど、その前に俺達もだな。気張って行こう、イーブイ!」

 

 ――《カタタッ!》

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

「ライラィ! ヂューッ!!」

 

「お願いしたわよ!」

 

 

 《バチッ》――《バリリリィッ!!》

 

 

 驚きも束の間。

 目の前に現れたライチュウは、出るなり電気を撒き散らし始めた。えーと、ライチュウの特性は『いかく』じゃあ無い筈だよな。ベニの反応を見ても威圧された感じはないし。

 と、バトルはもう始まっているのだ。ライチュウ……電気タイプの相手なら、クラブの技に幾つか有効なものがあったハズ。それを生かす方針で、と。よし。

 例の「アレ」を試しますか!

 

 

「ベニ、『あわ』を出しながら走れ!」

 

「グッグ、ブクククッ!」

 

「ライチュウ! 『でんこうせっか』よ!」

 

「……ヂュウ!!」

 

 

 やや間があった後、ライチュウは四つ足で『でんこうせっか』を繰り出した。間のおかげでベニが先手を取り、水場へと横走りしながら『あわ』を吐いて……やっぱり早いのな、おい!

 

 

「ヂュッ、ヂュー!」

 

 《バッ、》――《ズババッ!》

 

 

 ライチュウは『でんこうせっか』のスピードを利用し、これみよがしに大きな回避軌道を取ることで『あわ』の直撃を避けているのだ。

 ……とはいえ、これはオレにとって都合が良い。

 

 

「あくまで牽制で良い! そのまま移動だ!」

 

「ブククククッ!」

 

 

 『あわ』を吐きながらフィールドを横切るベニに、猛スピードのライチュウが追いすがる。

 あと少し……もう少し……よしっ!

 

 

「そこだ、ベニ!」

 

「グッ、――」

 

「ラァ、ヂューッ!」

 

 《ズシンッ!》

 

 

 『とっしん』じゃないかと思うほどのライチュウの『でんこうせっか』を、鋏を構えたベニが受け止めた。

 

「(よし。いける!)」

 

 狙い通り、受け止めたベニの真後ろには水場がある。これは主に、水生ポケモン達を活躍させる目的で設けられる場所なのだが……ベニとライチュウが立っているのは、その「境目」。

 水場と土とが入り混じり、「泥」になっている ―― クラブが最も得意とするフィールドっ!!

 

 

「ベニ! 『どろあそび』!」

 

 

 叫ぶと、ベニは素早く攻撃に転じてくれた。ライチュウを受け止めた鋏を下に滑り込ませて、

 

 

「グッ、グゥッ!!」

 

 《ズサッ、》

 

「ヂュ?」

 

「あっ、駄目、ライチュウ!? 『離れて』!」

 

 

 よし、ここだ!!

 

 

「 ―― からの、『マッドショット』!」

 

「えっ、あっ!?」

 

「ヂュッ……!」

 

 ――《べショッ!》

 

「ヂュゥッッ!? ッ!?」

 

 ――《ズべシャッ!!》

 

 

 まずかきあげた泥で『どろあそび』し、チトセの『離れて』との指示に従い飛び退ったライチュウに、『マッドショット』で、追撃を!

 

 

「ヂューゥ゛!?」

 

 《ズザザザッ!》

 

 

 ライチュウは飛んだまま。空中で泥を受け、中途な位置まで後退し体勢を崩した。

 そう。この「泥連撃」は、オレがショウ達と練習をしていて編み出した「素早さ」を補う技だ。

 切欠は園芸サークルだった。ショウとミカンちゃんがポケモンコンテストに向けて、「技のコンビネーション」の練習をしていた期間の事。

 

 ――

 

 ――――

 

 園芸サークルのとある日。

 この日もオレ達は土仕事を終え、休憩室でミィの作る菓子やらを堪能していた。

 園芸サークルにはショウとミカンちゃんの影響でコンテストに興味がある者が多く居る。そのため休憩室のテレビでは、ショウが録画してきたコンテストの映像を頻繁に流しているの、だが。

 

『……あ、あの……ショウ、君……。……この、技の、事なんだけど……』

 

『ん? ああ、『どろあそび』と『みずあそび』のコンボか。オレとしてはかなりオススメしとくけど。覚えられるポケモンは限られるけど、アピールとして有効で、なにより可愛いからなー。……え、もしかしてお前のネールちゃんに覚えさせたいと?』

 

『うううん、それは無理です。あの。そうじゃなくって……なんていえば、良い、かな』

 

 ショウに尋ねられたミカンちゃんが両手をアワアワと動かしながら、言葉を模索する。因みにこの会話、2名の間に3メートルほどの距離をとりながらの会話である。どうも男子に慣れていないミカンちゃんに、ショウが気を使っているらしい(あの野郎め)。

 

『急かしている訳じゃあないぞ。落ち着けって』

 

『おどすんじゃないわよ、ショウ。ほらミカン、深呼吸して』

 

『は、はい。…………すぅ、はぁ…………はい。あの。この技って、繋ぎが凄く綺麗だなー……って、思って』

 

 ナツホに促され、ミカンちゃんが深呼吸。

 指差す動画の中では、ショウの知り合いだと言う芸術家っぽい男性がドジョッチを繰り出し、虹色に輝くステージの上で『どろあそび』からの『みずあそび』を出している。

 それにしても、確かに。言われてみればと言う程度の違いだが、技と技の接続が滑らかにも思える気がする。

 オレとナツホも見入ったテレビを、ショウが一瞬、真剣な顔で見て。

 

『―― 成る程。「あそび」同士で、大元の動きが同じだからか? もしかしたら同系列の技でこれを再現すれば……いや。そうなるとノーモーションの間接技はどうなる? プリンの歌とかは普通にターンを消費するし……とすれば恩得を受けるのは限られてくるだろーな。よし、行くぞシュン!』

 

『へ、オレ?』

 

『ああ。シュンはこないだクラブに「マッドショット」を先行習得させただろ? 俺のイーブイとで、すこーしばかり試したいことがあるんでな。悪いが手伝ってくれ。ああ、お前にも損はさせないぞ。これが完成したら面白いかもしれないからなっ』

 

 実に眩しい笑顔だなおい。

 その後ベニとイーブイで特訓を繰り広げる事、幾星霜。

 ショウのナチュラルスパルタな特訓の果てに、オレとベニは『コンビネーション』を身につけたのである。

 

 ――――

 

 ――

 

 いきなり回想に入ったが、それは兎も角。

 『どろあそび』は泥をまとい電気タイプの技威力を半減する技。『マッドショット』は泥を放って相手に地面ダメージを与えると共に、その素早さを下げる技。

 どちらも泥による攻撃。ショウはそこに目を留めたのだ。

 

 さて。視点を現在に戻すと、目の前には受身を取りつつも転倒したライチュウがいる。身体をふるって泥を払おうとするが、全てを払う事はできない。泥の重さの他にもスリップを気にしなければならなくなり、攻撃の為の移動スピードを落とさざるを得ないはずだ。

 対するベニは、『どろあそび』により泥を纏っている。確認すれば、相手のライチュウはレベル3。『でんきショック』程度の電気技や、ベニの能力的に電気タイプの物理技は十分に耐えられるに違いない。

 で、あるならば!!

 

 

「このまま倒しきる! 『マッドショット』!」

 

「ググッ ――」

 

 

 止めの泥を放つべく、ベニが鋏を構えた、

 

 

「―― えーぇい! もう、いっちゃえライチュウ!! 『好きに動いて』ぇっ!」

 

「ラィヂュ」ピクリ

 

「は?」

 

「グゥッ?」

 

 《べシャッ》

 

 

 その時、チトセが好きに動いてと言った瞬間、ライチュウが矢の如く飛び消えた。

 当然というか放った『マッドショット』は地面に弾け、……ライチュウはどこだ!?

 ベニも後退しながら辺りを見回し、

 

 

「ヂー! ューッ゛!」

 

 《バリバリバリッ》――

 

 

 帯電を始めた音と轟く雷光によって存在を誇示する電気ネズミが1匹。

 ベニの、真後ろっ!!

 

 

「ベニ! そのまま鋏を振りまわせっ!! ……『クラブハンマー』ッ!」

 

「! グゥ、グッ!!」

 

「ラ゛イ゛ヂュ゛ーッ!!」

 

 

 未完成だが、威力と勢いが必要な場面だ。そう考えて練習中である『クラブハンマー』を指示。

 ベニは要領を得ないであろうオレの指示に素早く従い、泥に塗れた鋏を横一文字に振るい、そのまま身体を捻る。

 真後ろで放電しようとしていたライチュウに向けて、鋏が ―― 電気袋から雷が溢れ出て。

 

 

 《バリバリ 《《ズドンッ!》》 バリィィッ!!》

 

 

 ……同時か!

 あの電気量からして只の『でんきショック』ではない。少なくとも『10万ボルト』クラスの電気技の筈。

 

 

「グッ、……グッ?」フラフラ

 

 

 ベニは雷を受けて朦朧としていて ―― 当たり一帯に雷光を迸らせたライチュウは。

 

 

 ――《ドサッ!》

 

「ラ……キュウ」

 

「……グッ」

 

 《パタン!》

 

 

 鋏による物理攻撃だった事が幸いしてか、ライチュウは既に地面に倒れこんでいた。僅か遅れて、ベニも地面に倒れこむ。

 え、と。確かこの場合は……?

 

 

「ライチュウ、そしてクラブのベニ、戦闘不能! リーグルールにより先に倒れこんだライチュウを敗北とみなします。

 

 ―― 勝者、キキョウシティのシュン!!」

 

 

 ……あ。勝った、のか?

 ベニの元へと駆け寄り、抱きかかえながら呆けていると、自分のポケモン全てをボールに収めたチトセが手を差し出してきた。オレはその手を取り、立ち上がる。

 改めて見ると、チトセは清々しい笑顔を浮かべている。この笑顔がナオキを虜にしたのだろう。

 

 

「ゴメンね。実はわたしのライチュウ、自然に進化してしまった珍しい個体なんだって。わたしが貰った時には既にライチュウだったんだけど、早すぎた進化のせいで、放電があまり上手くなくって。……これでも上手になったんだよ?」

 

「成る程。だから最後はわざわざ、こっちに接近してた訳ですね」

 

「うん。本当はわたしがもっと上手く指示できれば良いんだろうけど……あはは。わたしはあまり、上手くなくってさ。だから本当は、ライチュウに任せちゃった方がバトルは良いんだ。でも……」

 

 

 手に持ったボールを覗き込む。ライチュウは「ひんし」状態にありながら、チトセに向けてぐっと拳を握っていた。

 

 

「うん。……ライチュウがわたしにもっと頑張ろう、ってさ」

 

 

 だからこそライチュウは、チトセの指示に従っていたのだろう。彼女を友と……

仲間と思っているからこそ。

 チトセは息を一つ吐き、表情を引き締めて向き直る。

 

 

「ありがとう。良いバトルだった。きっとわたし、このバトルの事を忘れない! そして、もっともっと強くなってみせる!」

 

「はい。……オレ達も、もっと強くなってみせます。お互い頑張りましょう!」

 

 

 笑顔で握手を交わした。

 オレの初バトルは、何とも苦しいながら ―― 何とも嬉しい、勝利で飾る事が出来たのであった。

 






 低レベル石進化は、誰もが一度は通る道だと思っております!
 が、実際戦うとなると強敵この上ないですよね……。低レベル時に進化の無い高種族値のポケモン相手とかも、超高○級の絶望です。
 ……種族値の暴力がががが。

 先に倒れこんだ~のルールは、ゲームにおける『だいばくはつ』のあれをイメージしてくださればと。
(『だいばくはつ』で自ポケモンダウン → 相手ダメージ、相手ダウン……の場合、ゲームでは『だいばくはつ』を使用した側の敗北になります。)

 狙って急所に当てるは、アニメの要素……ではなくXYの要素です。
 気になるお方は、XYのポケパルレで、ニンフィアの八重歯をとくと拝みましょう。そしてNPCと戦闘すれば一目瞭然の摩訶不思議です。

 そして細かいですが、シュンが「電気の物理技なら~」云々と語っているのは、特殊物理の概念やクラブの種族値は知っていながらも、「電気タイプの物理技は(レベル習得が)少ない」という知識が無い事に由来しています。
 教えれば『かみなりパンチ』、技マシンで習得のうえ特訓を積めば『ワイルドボルト』もいけなくは無いでしょうが、いずれにせよ教え技を習得しているのは一部のタイプエキスパートやリーグ上位常連さん方々、最近になって、エリトレの一部が習得に乗り出しましたという程度との設定ですので。


▼エリートトレーナーの「チトセ」
◎出典:DPPt/229番道路(バトフロの島)
 手持ちポケモンはダグトリオ、キュウコン、ライチュウ。
 目と目が合ったら、の印象的な台詞回し。負けた後の下記台詞。シュンと初めに戦わせるのは彼女と(勝手に)決めていました。
 恋人云々については、同じ環境に居るエリートトレーナーのダイアンとバトラー(ポケモン映画:ジラーチのに登場する主要キャラ)の関係に憧れていたという捏造設定があったりなかったり。実際にダイアンとバトラーは同じく229番道路に存在しています。が、彼・彼女らに憧れると言う事は、ナオキはメタ・グラードンでも召還すれば良いのでしょうか。何とも先の忍ばれる。

「なんだか生まれて始めてポケモンで戦った時のこと思い出しちゃった。どうしてだろ?」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。