ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ8-4 携帯獣学部の研究室にて

「そんじゃま、これより会議という事で。よろしくお願いします、お二方」

 

「おお! よろしく頼むよー、ショウ! それにエリカ嬢もね!」

 

「はい。よろしくお願いしますね、プラターヌ様」

 

 

 同日。俺はオーキド博士(実際問題一番多忙)と別れ、雑多な机とPCと論文の山とソファが置いてあるプラターヌ兄の研究室にお邪魔。早速と戦略会議を開始する。

 いやさ。実際、俺だけじゃ戦力が足りないとは思うんだよ。

 

 

「何せ、サファリパークの奥は自然保護区ですからね。俺とダクマ、それに手持ちのポッポとニドラン♀だけじゃあ踏破するのなんて夢のまた夢でしょうし」

 

「グッマ!?」

 

 

 ダクマから「俺を信用しろよ!?」的な視線が向けられる。博士との対談の時には廊下で素振りをしてたんで、身体が暖まっているようでキレがやたら良い。膝の上でぐりんと振り向いて、拳を小さく突き上げてくる。怖い怖い。

 ……んー、どっちかっていうと。

 

 

「ダクマがどうこうってより、単純に体力の問題だよ。プラターヌ(にい)に車は出してもらうけど、源流近くまで寄るにはかなり歩きも必要でなー。あそこ、起伏が激しいんだよ」

 

「ショウの言う通り。あの辺りは、人の手の入っていない……ある種の聖域だ。それこそショウが先の目標にしているギアナとか程じゃあないにせよ、それなりの装備と知識が必要になる。もちろん、体力もね」

 

 

 補足を入れてくださるプラターヌ兄。

 ここで一応の補足をいれておくと、プラターヌ兄は未来の博士。XYにおいて、カロス地方でメガシンカに関する研究を行っていた人物だ。年齢はどうやら俺の幾つか上。この時代においてはまだ博士号は持っておらず、師匠であるナナカマド博士について国内外問わず色々な場所を巡っている最中であるらしい。俺も研究室で会う時は結構お世話になってる。面倒見のいい、フットワークの軽い年長者って感じだな。

 そんな師弟、ナナカマド博士とプラターヌ博士に一貫した研究の目的 ―― 「ポケモンの進化」。DPPtにおいて目玉とされた既存ポケモンの新進化や、XYで実装されたメガシンカ。それらを題材としているのがこの師弟という訳だ。

 と、説明はこんなんで良いかな。脳内でそう締めくくっていると。

 

 

「ご心配なく。わたくし、足手まといにはなりません」

 

 

 気強……というよりは、ふんわりとした壁をまとう様なイメージ。さっきのダクマと同様の雰囲気で、エリカさんが言葉を挟む。

 あー、確かにな。話題の流れはそんなだった。お嬢様の負けん気がダクマ並みな気がする。とはいえ勘違いさせてしまったのはこっちのミスなので、早めに謝っておいて。

 

 

「エリカさんに関して、その辺りは全くもって心配してないです。ジムリーダー資格取ろうって人が、自身の基礎トレ積んでないとは思ってないんで。というか舞踊も体力勝負ですからね。年齢的にも体力いちばんないのは、俺ですよ」

 

「そ、そうでしょうか」

 

「そうです。では何を危惧しているかというと……俺とプラターヌ兄が注意払ってるのはそもそも、これだから大自然ってヤツは!の方。人の手の入ってない山林、森や丘陵の厄介さです」

 

「ンン……あのあたりは、テーマパーク予定地の原っぱとは違って奥に行くほどかなーり厄介な地形だからねー。サバンナ程の土地がないから、水源地域は普通に山だよ。だのに野生ポケモンは独特の生態系。水の含み方もこちらの国基準。シロガネ山のふもとじゃあないけど、起伏の激しい樹海ってのをイメージしちゃえば早いだろう。やー、体力に関してはボクも心配だ!」

 

 

 ついでに話を進めてしまう。流しちまうのが一番だろーなっていう、こすい考えありありだ。プラターヌ兄も抜群に空気を読んで俺の算段にのってくれたんで、大変にありがたい!

 ……やっぱりなというか、エリカお嬢様の芯の強さが垣間見えたけれども。そこは今突っ込むポイントじゃあないだろうしな。

 

 

「南側はサファリパーク開くってんで園長さんが力入れて整備してますが、北側は自然むき出しです。フィールドワークの経験はプラターヌ兄が一番ですかね?」

 

「まぁ、その辺りは任せておくれよ。ふたりはポケモンバトルの方に注力してくれれば、ボクとしてはありがたい。バトルは強くないからね、ボクらは」

 

 

 そう言ってプラターヌ兄は、腰についていた1つ、赤白のモンスターボールを目の前に持ってくる。

 ぽおん、と床に放ると。

 

 

「―― ッザーァド!」

 

「この通り。そこそこのレベルのリザードだけが相棒なのさ!」

 

「……ッザァド」

 

 

 伊達男ばりにふふんと胸を張るプラターヌ兄。リザードがちょっと呆れた風味に尻尾で小突くまでがワンセットだ。

 1匹いれば良いと考える人も居るかもしれないが……困ったことに。今世、未だ「げんきのかけら」系統の「ひんし」回復アイテムは存在していないのである!!

 研究の片手間に調べてみたところ、漢方はあるっぽいんだけども……それはちょっと遠出しないと手に入らないんで、キッズたる俺の手元にはないんだなこれが。つまり複数体のポケモンを所持していないと、回復する術がなくなってしまうのである。「目の前が真っ暗」には流石にならないけれども。

 

 

「だとしても手持ちポケモンがいなくなるっていう危険さは、皆さんの方が知ってるでしょう。オーキド博士が真顔で叫ぶレベルですからね、それ」

 

「あの人は叫ぶねぇ。ひっくい声で。ボクも叫ぶよ、悲鳴かもしれないけれど」

 

「エリカさん向けに補足しておきますと、プラターヌ兄は、ほとんどバトルの実戦経験が無いんです。フィールドワークの数の割にリザードのレベルが相応でないのは、後方要員と化しているパターンが多いからですし。いやさ、それでも俺のポッポとニドランよりは高いですけども」

 

「ナナカマド博士のお弟子たちはとても優秀だからさぁ。つい甘えてしまってね。……その中にはショウ。キミも勿論入っているというか、むしろトレーナーに依存するバトルの腕前なら筆頭なわけなんだが。ああ、手持ちのレベルというよりは指揮という意味でね?」

 

 

 プラターヌ兄は、そう軽い調子で道化っぽく肩をすくめる動作。……いや、実際プラターヌ兄はバトル以外の部分で動いて貰った方が優秀過ぎる(・・・・・)からそうなってるんだけどな。

 というか俺は道具に頼ってる部分がでかすぎる。むしろ主戦力はダクマと、エリカお嬢様まである。行き当たりばったり感がとっても強い!

 

 

「だのでまぁ、せめて目標くらいははっきりさせておきましょう。俺が目星を付けておいちゃいましたけど……ここ。カントー中央自然保護区『源流域』。ここに毒ポケモンが発生していないこと……まぁもう一歩くらい引いて、生息分布が変わっていない事を示せれば、まずもって影響は無いですと声高に報告することが出来るでしょう。お国からの追加調査の要望もなし。これをもって万々歳という結末です」

 

「力説するねぇ、ショウ。なにか確信があるのかい?」

 

「ないです。ただ、心当たりはあります」

 

「―― それはロケット団、ですわね?」

 

 

 おおっと。

 俺がぼかそうとしたところに突っ込んでくるなぁ、お嬢様。眼差しが強靭(きょうじん)

 

 

「あー……まぁ、エリカさんの読み通り。タマムシの人らは街周辺の水質をみて危惧しているんでしょうけれども、あれって明らかにロケットゲームコーナーとか、タマムシ北の工業区域とか、ヤマブキから合流した排水こみこみでしょうと」

 

「グッマ」

 

 

 なんかこう悪のにおいを嗅ぎつけて血でも騒いだのか、腕を組んで鼻息を鳴らすダクマをどうどうとなだめておいて。

 

 

「だので、タマムシ周辺側には問題出てないと思うんですよ。証明はしないといけませんけれど。……むしろ本当の問題点は、これら公害が意図(・・)を持って起こされたものかどうか。企みの中心に水質汚染が絡んでいるかいないか。そういう点だと考えてます」

 

「なるほどね。理解した。そっち(・・・)の研究には突っ込まなくて良いのかい?」

 

「彼ら彼女らも、書類上は国の許可を得ているそうです。彼らの開発研究内容も、俺の領分ではありません……残念ながら」

 

 

 というか「そっち」 ―― 『では何故ゲームコーナー周辺の水質は悪化するのか』とかは、子どもが聴き耳たてられず、口出せないレベルのお話だ。俺としても至極当然だと思うし。

 

 

「つーわけで。第一目的は『源流域』周辺の土と水質サンプルの採取。ポケモン分布域の調査の為ならボーリングまでは必要なくて、表層で十分でしょう。ついでに周辺ポケモンの分布の実質調査ですね。この2本立てで行きましょう」

 

「心得ました。ちなみに、わたくしの方からポケモンレンジャーの方に応援要請の声をかけさせて貰ってもよろしいでしょうか?」

 

「お願いします。それだとこっちからも追加人員を要請はしなくても良さそうで、大変助かります」

 

「現地に普段から逗留していらっしゃる方へ、お声がけさせてもらいますわ。2人ほど居たはずです。協力は、快くして頂けると思いますわ」

 

 

 エリカお嬢様がいるからこその申し出だ。実働しているレンジャーさんの協力は大変にありがたい。アドバンテージは有効に活用したいので、是非とも是非とも。

 ……こんなところかな?

 

 

「んでは、出立は出来れば明後日。器具はその辺からかき集めますんで、準備に1日。さっさと開始しましょう。なんか嫌な予感もしますし、スピード勝負で」

 

「ボクはオーケーさ。ショウの嫌な予感は、信に足るからね」

 

「ええ。わたくしも良いですよ。今夜の内に準備、整えてしまいますわね」

 

 

 こうして即席ながらに調査隊結成。家に帰って早速物品を漁ったり、母親からやたらに保存食を渡されたり、親父からフィールドワーク用途のブーツやらについてご教授いただいたり。妹がおねむだったり。マサキと一緒に研究室で平スピッツと無印ラベルを大量に発行したり。

 翌々日明朝。俺たちはタマムシシティを南へ向けて、旅立ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ΘΘ

 

 

 

 

 

 

 

 日は高く、冬だのにかんかんと俺らを照らし。

 

 目前、盛大に泥に半身を埋めた(いぬがみけ)

 

 キザに顎に手を当て、空を仰ぐプラターヌ兄。

 

 こんな光景を前にしてもあらまぁと口元を押さえるエリカお嬢様 with 探検着。

 

 ……うん。当日昼間にはもう、この凄惨な光景である!

 おかげで車はお釈迦。舐めてはいなかったんだけどなぁ、タイプ・ワイルド。

 

 

「グマァ……!!」

 

「モンジャッ!!」

 

 

 照りつける強い日差しの下、泥に嵌まった片輪をモンジャラのツタが持ち上げ、ダクマが当て身をかまして向きを変える。ちょっとだけ外装が凹んだけれども、車はごろりと転がって。底深い泥の区域からはなんとか抜け出していた。

 まぁ、水に半身浸かっても動くとのお触れのオフロードカーである。走ることは出来るのだろうけれども、毎回こうしていては時間が惜しい。

 

 

「ふーんむ。これ以上先は、徒歩かな?」

 

「ですね。この国は他に比べると土地が少なめですんで、悪路だとしても……ここから数キロ歩くだけ。まぁ、その数キロが困難な訳ですが」

 

「わかりました。ここからは歩いてゆきましょうか」

 

「モッジャ」

 

 

 エリカお嬢様が、腕をまくってふんすと息を吐く。足元に戻ってきたモンジャラが伸ばした蔦でぐっと力こぶ。

 うーん。やる気があるのはありがたい。では、ここより人力で踏破とゆきますかぁ!

 プラターヌ兄が荷物を背負い、俺も紙類と軽めの空容器を……半分くらいは、お姉さんオーラを発しながら割り入ってきたエリカお嬢様に奪い取られたけれども。

 そうして俺らご一行、足並みそろえて森林地帯の奥へと向かうのであった。

 

 







・プラターヌ
 作中で紹介している通り。
 後作となるサンムーンや剣盾の博士が印象強い分、相対的に薄くなっている(私比)博士。
 駅の落書きとかを見るに、それなりの物語はありそうなんですけれどね。マイナーチェンジ版はありませんでしたし、この頃は追加コンテンツによる深堀もありませんでしたからね。
 ……いや、剣盾がコンテンツ追加でキャラクターや地方そのもの、クリア後の世界について深く掘り下げられたかと言われると、あれですけれども。いちおう島で色んな人と会えますから……(震え。


・源流域
 私の中でのイメージは、ヤマブキ側は開発が進んでいて、タマムシ側は自然が残されていて、くらいの感じ。というか当初の絵起こしされた数々のカントーマップを見るに、本当に自然が多い。
 セキチク北部の環境はほんとに……。いや、モチーフの幅を増やすためには必要なのですけれどね。サファリパーク。

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