ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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1995/夏 いざ、いざ

 

 明くる日、オレはポケモン達と共に外 ―― シロガネ山の山中へと出かけることにした。山荘の周りでならば雪原遊びをしていて良いとのお達しがあったので、折角だからと散策を実施。

 因みに、ナツホはノゾミやミカンちゃん他多数の女子メンバーを連れて(もしくは率いて)近場のスキー場に向かった。ゴウとリョウ以外の男連中は大体まだ寝ているし、件のゴウはノゾミによってスキーに強制連行。リョウは虫ポケモンは寒さが苦手だと言う事で、山荘周辺に留まっているという……男子どもが実に残念な有様だったりする。うん。こういう環境でのアクティブさにおいて、オレら男共が女子に適うことはないのだろうというのが実感できたな。

 以前は似たような起床時間であったオレだが、近頃は同年代平均男子と比べて比較的早起きになった。理由としてはショウと同室になったのが大きいだろう。……なにせアイツ、朝っぱらから走りに行くからな。オレもそれに同行する割合が結構高めだし、習慣的に目覚めは早ってゆくので。

 ただし勿論、ここは秘境・シロガネ山。一般的な雪遊びとは違い、オレの散策の場合は護衛を付けることが条件でのお許しとはなったのだが。野生ポケモンが危ないからな。

 

 

「で。件の護衛がショウだ、と」

 

「ナツメに睨みを効かせられたらなー……断れないだろ」

 

 

 そう。ナツメさんに護衛を依頼されたのは、いつもの如くショウだったのである。何の面白味も無い展開だ。

 ……ああ、いや。ショウも学生だのに、とかは別にいいんだ。こいつは色々と規格外だし。

 だが男2人で雪原を散策して何の楽しみがあるものか! とは力説しておきたい。少なくとも散策に関しては楽しめるけど、それ以上にロマンスはなさそうだ。むしろ男同士でロマンスがあったら嫌だ。

 と、いう訳で。

 

 

「……あのう。わたくしは何故、誘われたのです? そろそろ理由をお聞かせ願いたいですわ」

 

 

 どういう訳なのかは知れないが、ただ今オレの後ろに居るのは、金髪(ゆるめ)縦ロールのお嬢様2号……ヒヅキさんだ。

 彼女に関して言えば先日のイツキのあれこれやらがあったが、今回は同行した事案には特に直接的な関係も無く。利害(というか、彼女は洞窟でポケモンバトルの練習をしようとしていたらしく、彼女の友人から半ば強制的に散策への参加をさせられたのだが)が一致したための同行と相成ったのである。

 

 彼女の友人に曰く。「ヒヅキは頑張り過ぎ」だそうで。

 

 ……というか、金髪(ゆるめ)縦ロールて。語尾に「ですわ」て。お嬢様か! ……いえ実際お嬢様でしたね、はい。

 まぁという訳で、オレとショウ2人だったら全力全開で逸脱した散策をしていたかもしれないのだが、ヒヅキさんの諸々を考慮した結果、軽ーい散歩な具合となっていた。ただでさえ精神的ダメージを受けているんだし、思い詰めるのは勿論、肉体的疲労も程々にしなければならないだろうとの考えからだ。

 だのに、困った点が1つ。当のヒヅキさんは……友人にどう説明されたのかは知れないが……オレ達から散策への勧誘を受けたという事になっているらしい。だからこそこうして理由を尋ねられている。の、だが。

 

「(どうするよ、ショウ。オレらは2人とも、すすんで彼女を誘ったというのは色々とやばい立場じゃないか?)」

 

「(……どうしようかね。いや、まったく)」

 

 オレもショウも、彼女の諸事情を鑑みればこそ友人達からのお願いを引き受けた。しかし、よりにもよってのオレら2名だ。

 なにしろショウにはゴスロリの姫とエスパーお嬢様……プラス、その他色々。オレにもツンデレの幼馴染がいるのである。互いに恋人という訳ではないが、それなり以上に深い付き合いだ。オレは自身の事だから勿論、ショウの場合は枯れてるうえ相手が皆個性派で……ああ、相手がい過ぎて判りづらいってのも大きいな。そういや。

 と。つまり互いに、帰ってからの風評被害=折檻が怖いのである!!

 

 

「(いつもの悪謀を発揮しろ、もしくは、たらしっぷりでも良いけどっ)」

 

「(たらしはともかく、会話しなきゃあならんとは思うんだがなぁ。……生憎初対面なもんで、会話の切り口が思いつかないんだ)」

 

「? あのう……」

 

 

 まずい。オレ達があーだこーだとやっている間に、ヒヅキさんが疑問符を浮べている。ここで帰られては本末転倒だ。

 ……でも、そうか。そもそも誘った理由を聞かれる展開がマズイのだ。話題を逸らすべきなのだろう。同じ事を察したのかショウは目を閉じ腕を組みながら話題を探し、オレもなんとか話題を探ろうと頭を働かせる。

 

「(……っ!)」ピキーン

 

 突如奔る、脳内雷光!

 先日カトレアお嬢様が言っていた言葉だ。これはと思いヒヅキさんの腰に着いたボールを見ると、そこには。

 

 

「間違いなくこれだな。―― あっと。ヒヅキさん、だよな?」

 

「はい。わたくしは名前をヒヅキと言います……けれども。自己紹介は先程終えましたわよ?」

 

「あ、ごめん。違う違う。オレとユウキ、そしてショウの他にマサキさんからイーブイを貰ったって言うエリトレ候補生。それってヒヅキさんのことだよな?」

 

「……えっ?」

 

 

 ヒヅキさんは驚きの声を漏らして見せるが、マサキさんがイーブイを渡した最後の1人はヒヅキさんで間違いないだろうと。

 実はあれから、オレはひそかにイーブイを貰ったもう1名を捜していた。なにせイーブイは個体現存数の少ないポケモンだ。ショウやユウキだけでなく、同じポケモンを持つ人と情報を交換するのは大事だと考えての行動……なの、だが、捜索の甲斐なくその所有者は遂に見付からなかった。少なくともオレの手の届く所にはいなかったのだ。

 しかし探索の顛末を聞いたショウが、マサキさんに直接聞いてきてくれた。するとどうやら、シンオウやホウエンのスクールも同日にポケモンの配布を行っており、マサキさんはシンオウ地方にイーブイを1匹譲ったらしい……という所までが判明。あ、因みに調査自体はそこで打ち止めだ。シンオウ地方に居るのなら交流することもあるまいと思っていたからな。そもそも個人情報だし。

 それでも、エリトレ組。マサキさんの発言から勝気なお嬢様。そして先日のカトレア発言から、ヒヅキさんのパートナーはイーブイ。遥かシンオウ地方のスクールにまで移送したのを「渡した」と一括りにするのはどうかとは思うが……

 

 

「どうしてそれを? ……まぁ隠す事でもないですが。おいでなさい、ブラウン!」

 

 《ボウンッ!》

 

「―― ブイ」

 

 

 ヒヅキさんが投げたボールから出たるは、オレらも見慣れたイーブイ。強いて違いを挙げるとすれば……ボールを出た場でぴしりと4つ脚ついて背筋を伸ばし、落ち着き払って動かないその性格か。いや、オレの知るイーブイ達とはこれだけでも大分違うけど。

 さてさて。ブラウンことヒヅキさんのイーブイは、半眼でオレとショウを見上げている。値踏みされてるような、職人さんに見透かされているような。随分と渋いイーブイだなぁ。本当に低レベルですかと。

 

 

「確かにわたくしはシンオウのヨスガスクールで、ミズキさんという方からこのブラウン達を譲られました。それでなんです? 貴方がたは……」

 

「イーブイ仲間同士仲良くやろうぜ、ってことだな」

 

「おっ、そう繋げるかシュンよ。……うーし、出てこいっ」

 

 《《ッボボン!!》》

 

「ブイブイッ♪」

「ッ、ブイッ!?」

 

 

 ショウのイーブイは出るなり雪の上を駆け回り、我がイーブイ(アカネ)は何時もの定位置。オレの脚の後ろだ。

 突然飛び出た同種ポケモンに驚きに目を見開いたのも僅かな間。ショウのイーブイが自分のイーブイ(ブラウン)の周囲を周り出した光景を見たヒヅキさんは、実にお嬢様らしいきらびやかな笑顔を浮かべ、ばさりと縦ロールをすき挙げ腕を組む。いや。腕を組むと胸部が強調されるんだけど。

 

 

「ナルホド。同じくイーブイをパートナーとする者同士、という事ですわね。……です、わ、ね? ……いえ。よくよく考えれば理由にはなってないですわ」

 

「まぁ情報交換でもしたいと思って」

 

「イーブイ使い同士、という事ですの?」

 

「と、まぁ、ん。そんな感じ」

 

「―― いや、実は理由は2つある。俺達が役目を『引き受けた』理由はシュンの言う通り、イーブイで間違いない。だがま ―― というか、本当のトコはあんたも判ってるだろ? つまりは、あんたが友人に心配されてたってーことだよ」

 

「……ふぅ。成る程、そういう事ですの。理解しましたわ」

 

 

 気付かれたことを取り繕おうとしていると、ショウが明け透けに話してしまう。この台詞を受けてヒヅキさんは、頭に手を当てながら溜息を吐いていて。

 ……うわぁ。口に出してしまえば早かったのか。どうやら女友人達の気遣いを、ヒヅキさんは正確に察しているらしい。表情を少し苦々しい笑顔に変えて。

 

 

「ええ。あの娘たちには、いくら感謝を捧げても足りません。わたくしが令嬢だということ。目立つ立場だという事を差し置いて、良き友人として接してくれているのですわ。……なにせ、先日はみっともない姿を見せてしまいましたし」

 

「ブィ」

 

「あら。貴方はよく戦ってくれましたわ、ブラウン。ですがわたくし共々、実力が足りなかったと言うことですわね」

 

 

 どこか諦めた表情を浮べてヒヅキさんは遠景を見やり、その足元に目を閉じたブラウンがぴしっとした姿勢でつき従う。

 斜面を吹き上げる冷たい風が巻き上げた白色を伴って頬をぶつ。視線の先には連なる山々。その中にあって一際大きなシロガネ山だ。見渡す先には一面の空と、果てしなくも雄大な銀世界が広がっていて。

 彼女が何を思っているのか。判らないようでいて、しかし、オレには判ってしまうのかもしれない。

 ……んまぁ、だからこそだな。早速だけど本題と行きますか。

 

 

「―― ところでヒヅキさん。アナタはイツキに勝てないとお思いで?」

 

「ぶっこみますわね、シュン。……しかし、ああ、どうでしょう? 少なくとも見えていた筈のその背も、今のわたくしには見えませんわね」

 

 

 目を閉じて微笑するヒヅキさんの姿は、お嬢様と呼ぶに相応しい優雅さを備えていた。

 ……だが、「見えていた」か。かつての彼女はやはり、以前のオレと同じだったに違いない。

 イツキは決して、エスパーという天凛に胡坐をかいている訳ではない。だからこそオレ達は、どう差を詰めるのかに苦慮するのだ。本来ならばポケモンバトルというステージにおける才能の差を埋める為に、これから幾年もの年月をかけて研究がなされ、その対策を検証して。それでやっと対等になれる(・・・・・・)程の才能なのだ、エスパーは。

 オレはここでヒヅキさんから一旦視線を逸らし、やや後ろに下がったショウを見る。ショウは微妙に様相を崩して。

 

 

「そこまで振ったらお前が教えとけ、シュン。貰った資料使えば何とかなるだろ。足りなきゃ俺が作るし」

 

 

 ショウのヤツ何気に役割回避してやがるぞ、畜生め。ルリに言いつけてやる。

 ……けどま、それもそうか。イーブイの話題を聞いてヒヅキさんの散歩を引き受けた ―― 彼女を放っておけないと思った主体は、オレ自身なのだ。オレが黙っていれば、代わりにショウが手を差し伸べたに違いない。それでも結果はこうだ。指し示すのもオレでなくてはならないのだろう、多分、恐らく。

 

 

「ってか、俺は後から研究者としての身分がばれたら同じモンだと思われて終わりだって。お前じゃなきゃ駄目だろ」

 

「そうか? ショウならそれすら含めて、何とかしてしまう気がするんだけどさ」

 

 

 押し付け合いとも呼べるやり取りを繰り広げるオレとショウを、ヒヅキさんは再びの怪訝な眼差しで見つめていて。

 

 

「結局、何を仰りたいんですの……?」

 

 

 この問いに答えるのは、オレの役目になった。

 後のナツホが怖い気もするが……まぁそれは何とか許してもらおう。誠意で!

 

 

「つまりはこういうこと。―― オレと一緒にイツキに一泡吹かせてやろう、ヒヅキさん」

 

 

 

ΘΘΘΘ

 

 

 Θ―― ポケモンリーグ/宿舎・氷水の間

 

 

 合宿も残るは3日。予定通りにシロガネ山を下山してからの数日は、特に滞りなく進行した。

 疲れた身体に鞭を打ち、岩山然としたチャンピオンロードで野営訓練。野生ポケモンからの身の守り方は勿論の事、キャンプ設営の実地や地形の見通しに関する講義が面白いものだった。

 バトルでは様々な人を相手取り、講義では名の知れた人たちの講義を受講する。ポケモンブリーダーである老夫婦からの講義で、ポケモン同士のタイプとは違う「相性」にある程度の決まった型があるという論題はオレだけでなくエリトレクラスの皆々を驚かせていた。

 他にも実地と講義織り交ぜての様々な修学を経て、最後の3日間。この期間を利用して、合宿の総まとめとしての意味合いを持つ簡易的な「バトル大会」が行われる予定となっているのである。

 

 

「んで、オマエはコトブキカンパニーのお嬢様とお知り合いになったと。……おれはしらねぇぞ、シュン」

 

「判ってるって」

 

「いいや。僕も忠告しておこう、シュン。最近のナツホはツンデレだけでなく押し隠す事を覚えたからな。お前が決めた事であれば信頼こそしていれど、それとこれとは話が別だろう。嫉妬は信頼や納得とは関係なく生まれるものなのだ」

 

「んー……ボクもー、ツンデレはのんびーりしてないと思うなーぁ」

 

「……流石にケイスケにまで言われると、オレもどうかと思うけど……兎に角。ナツホの事を忘れるつもりはないさ。その意味で順番を間違えたりは、しない」

 

 

 何故オレはナツホよりも先に、男連中に言い訳をする羽目になっているのだろうか!

 ……まあ心配してくれてるのは判るけど。そういう意味では良い友人を持ってるよなぁ、オレって。

 しかし脳内でも同じことを宣言するが、ナツホはオレにとっても大切だ。その点において優先しないという選択肢はない。トレーナーとしてもそうだが、今のオレが在るのは常に隣に居てくれた……幼馴染たるナツホのおかげと言っても過言ではないのだから。

 なんて会話からは、話題をスライドさせておいて。

 

 

「ところでシュン。……どうだった?」

 

「いや、何がだよ。そしてアサオのその笑みはなんの笑みだよ」

 

「ヒヅキお嬢の双丘……いや、双峰といった方が適切だかんな、アレ」

 

「シュン×ヒヅキさんという事か」

 

「……はぁ。アサオ。あんま拗らせんじゃねぇぞ、面倒だから」

 

「それはいーけどよ。シュンの相棒としちゃあ、ナツホが怖いもんでなぁ」

 

「イブキもー、ツンデレだけどねー」

 

「ふむ。それはまた、イブキさんの新しい情報だな」

 

 

 同室のカズマやナオキ、アサオやリョウヘイといった面々を加えていつもの歓談となっているのだ。

 ……まぁ皆緊張してるんだろうなぁ……とか。この面々で始まった合宿も既に終わりが近づいている。だからこそこういう時間は、大切にしたいと思えるのだろう。

 そんな風に感慨深く思いながら、感慨をセルフでぶち壊す馬鹿話を展開し……すると。

 

 

 ――《ザザ、ザ》

 

『……これより、ポケモンバトル大会が開催されます。生徒の皆さんは、指定の闘技場へと移動してください。繰り返します……』

 

「お、時間じゃねえか。……そんならここで解散だな。健闘を祈るぜ、じゃな!!」

 

「ふむ。互いに全力を尽くそう」

 

「ボクもー、どらごーんって頑張ってこようかなー」

 

 

 ユウキ、ゴウ、ケイスケが後腐れも何も無く廊下へと出て。

 

 

「……ちっ、いこうぜアサオ」

 

「ああ。……シュン達もな。健闘を祈る」

 

「それじゃあオレ達も行こうぜ」

 

「おうさ。バトル自体は楽しみだかんなー」

 

 

 リョウヘイが悪態をつき、アサオが無駄に爽やかな笑み。カズマとナオキがいつもの通りに連れ合って。

 さてと。他の皆は各々の闘技場へと向かった。今回オレは近場の闘技場だしバトルの順番も遅めだから、急ぐ必要はない。そう考えて……

 ……いや。部屋に残ったのには、も1つだけ。明確な理由があるのだ。

 オレは意を決して、窓側へと振り向く。

 

 ―― そこには、仮面を被った少年が(ひじつき)の椅子に腰掛けている。

 いや。前々から思考の通り、いつかは話しかけようと思ってたんだよなぁ。結局、合宿最後のイベント前になってはしまったものの。さて、近付きながら……コミュニケーションタイムと行きますか!

 

 

「―― なあ、お前は闘技場、行かないのか?」

 

「いきなりお前という他称はどうかと思うよ?」

 

 

 お。見た目に反して存外すんなり返してくれたぞ、仮面少年。やはり人は見た目で判断すべきじゃあないよな。

 だが仮面の少年は旅館窓際の安置隔離スペースの椅子に足を組んで座り、顔がこちらを見た以外は微動だにしていない。うーん、反応に困るな。そして怯むなよ、オレ。とか自分を叱咤激励しておいて。

 

 

「いや、ゴメン。互いに自己紹介もしてないしさ。なんて呼べば良いか迷った末の、苦渋の切り出しなんだ。―― 因みに、」

 

「シュン君だね。ボクはイツキ。君も知っての通り、ヤマブキに群れを成して(たむろ)するエスパートレーナーの1人だよ。……ああ、呼び方については気にしなくて良いよ。ボクもなんて返せば良いか迷った末、苦渋の切り替えしだったんだ」

 

「お、そう言ってくれると嬉しいな」

 

 

 オレの言葉に、茶目っ気を出しながら話すイツキ。

 うん、エスパーだからって身構えてると駄目だよなぁ、やっぱり。イツキの今の口調からは、エスパーによくある「取っ付き辛い変人加減」が感じられない気がする(ただし着けている仮面からはひしひしと感じるけれども)。何と言うか、「意識してエスパーっぽく振舞ってる」という印象が適切か。

 そして「知っての通り」とかいう語り口な。エスパー全開なのか?

 

 

「ってか、エスパー全開なのか?」

 

「……へぇ、ナルホド。思ってることをずばずば口に出す。エスパーに好かれる切り口だね。……そして、うん。実は遮蔽物が少ない空間で距離も近いと何となく思考が『見える』んだ、ボク。エスパーだからね」

 

「何に納得されたのかも気になるけど……ま、そういう奴を相手に会話をするなら、単刀直入に思ってることを口にすると良いってオレの友人が言っててさ。でもって、エスパーは凄ぇな。それってポケモンバトルとかでもなのか?」

 

「その友人はきっと、エスパーの事を深く理解している人だよ。大切にね。バトルに関しては……スクエア同士は結構離れているから、基本的には見えないかなぁ。よっぽど焦っていたり強く念じていると見えることもあるみたいだけど……そういう時って、そもそもエスパーじゃなくても顔を見れば分かるからね」

 

「そうなのか。……でもそれは、日常が大変そうだな。あ、だから部屋の端に居たのか」

 

「思考も早い。ああでも、シュン君の言う通り。ボクが端っこにいたのは、そういう理由さ。別に人が嫌いとかそういうのじゃあないから、安心して」

 

 

 言ってイツキは立ち上がり、此方へと右手を伸ばした。オレも右手を伸ばし、握手を交わす。

 

 

「―― へえ!」

 

 

 するといきなり、イツキの口が驚きに開く。いきなりはこっちも吃驚するんだが。

 

 

「イツキ。何か見えたのか?」

 

「うん。というか、判るんだ?」

 

「そこそこだけど」

 

 

 握手して第一声に「へえ!」とか声をあげるのはなぁ、流石に判る。見えた! って言外に言ってるし。

 

 

「……うん、うん。……シュン君はトーナメントの組み合わせ、知ってるかい?」

 

「いや、まだ。総当りの予選は見たけど……」

 

「ついさっき、上の組合せ表が発表されてね。これなんだけど」

 

「へえ。……オレは……お?」

 

 

 イツキの差し出した用紙を覗き込むと、ある事態に気付いた。思わず声をあげたオレに、イツキが仮面の内から笑いかける。

 今回の大会はブロック総当り+トーナメント方式。オレはMブロックに所属しているが……その近くに。

 

 

「ボクはPブロックだ。総当りを抜けて、トーナメントで1勝すると、シュン君と当たる位置だね」

 

 

 なんでしょうか、その意味深で予言的な発言は!

 しかし、そう。イツキとオレは存外に近い位置に居たのだ。それこそ言う通り、当たる可能性が薄くはない程度には。

 ……とはいえ、だ。

 

 

「そりゃま、大会の方式的には、オレとイツキが勝ち続ければいつかは絶対にあたるからさ」

 

「うーん。そういう考え方をされると、ボクとしても反論しようがないんだけど」

 

「おおっと。エスパーを言い負かせるって、実は貴重な経験だったり」

 

「負けてはいないけどね?」

 

 

 そして意外と負けず嫌いな事が判明したな、今。まぁ負けず嫌いでもないと、ヤマブキで一番になんてなれやしないか。

 などと脳内で勝手に納得しておいて……ついでに思う。これは、ある意味僥倖だ。なにせイツキがその位置なら ―― オレの前に、彼女と(・・・)あたる。

 

 

「オレと勝負するのを期待してくれるのは嬉しいけど、」

 

「判ってる。キミ達(・・・)なんだよね?」

 

 

 うぉ、っと。凄いな。

 言葉を怯ませたオレの反応に満足がいったのだろう。バトルを控えたイツキは、仮面の上にも満面のやる気を漲らせていた。

 

 

「あのナツメさんだって、ボクの兄だって、予知は完璧じゃあない。ならボクの予知なんて予想の域を出るワケがないんだ。―― でも、それでもボクはエスパーだ。この予想を実現させてしまえば、それって予知だと思わないかい?」

 

「それは独創的な発想だなぁ。とてもエスパーとは思えない」

 

「エスパーなんてそんなものだよ。モンスターボールを浮かした所で、ポケモンが強くなる訳じゃあない。テレパスをした所で、サイン指示を使えば同様の効果が見込める。……いや、多少はエスパーポケモンとの意思疎通が取りやすくはなるけれど……大事なのは、結局手札の使い方なのさ。そうだろう?」

 

 

 これはいよいよ、イツキ攻略に暗雲が立ち込めてきたな。イツキは自分の力に慢心していない。オレ達がルリから教わった事すら既に理解し、……その対策もしていると考えて良いだろう。

 

「(けどま、そういう『ポケモントレーナー』って事だよな)」

 

 いくら壁が高かろうと、イツキがエスパーらしからぬエスパーだろうと、やることは同じ。

 むしろ、これこそオレが学ぶべき ―― 経験すべきバトルなのだと思う。

 

 

「そんじゃあ向こうで。宜しくな、イツキ」

 

「うん。キミ達(・・・)とのバトル、期待させてもらう。それじゃあ」

 

 ――《ピシュンッ!》

 

 

 言った直後に、イツキの姿が掻き消えた。恐らくモンスターボール内にいたエスパーポケモンの『テレポート』を使用したに違いない。

 ……それにしても移動も自由自在とか、便利だよな。いつか一家に1匹エスパーポケモン、の時代が来るのだろうか。

 

 

「よっし……それじゃあ」

 

 

 時間的にも頃間(ころあい)だ。オレも腰につけたモンスターボール達を確認し、闘技場へと歩き出す事にする。

 わざと歴史感を意識して作られているのだろう。セキエイ高原の中を歩いていると、よくよくテレビで見ていた光景だからか、自分がポケモンリーグの出場選手になったような感覚になり……学生同士の大会だというのに身が引き締まる。教員たちもこれを狙ってセキエイ高原にしたのだろう。実際、オレみたいな生徒には効果てき面だ。

 もちろん、イツキの前にも戦うトレーナーがいる。そこで負けては話にならず ―― しかし、オレの合宿試合における勝率が7割という好成績であった事を考えれば、油断さえしなければそこそこまでは勝ち残れるはずだ。そしてオレがイツキとあたるまでの間に、少なくとも高名なトレーナーはいない。皆が学生である。それは実力が拮抗しているという事でもあるが、「絶対に勝てないという相手ではない」という事でもある。

 シロガネ山でオレが企んだ提案。あれから、シロガネ山登山とチャンピオンロード野営訓練の内に個人的な修業も積んだ。オレとショウと、もちろん、彼女(ヒヅキ)さんもだ。

 ショウは兎も角、オレにしろヒヅキさんにしろ因縁浅からぬエスパーが相手。別段エスパーが憎い訳でもないのだが、それでも今回は、全力で戦う事そのものに意味があると思える。ポケモン達もそのために(・・・・・)特訓を積んでくれたのだから、尚更だ。

 これにて仕度は上々。あとは結果を出すのみ。

 目の前に開いた闘技場の控え室を通り抜け、出口にして入り口を潜る。眩しい陽光と共に、合宿の間に見慣れた土の会場が視界一杯に広がって。

 階段の最後の一段を昇り、見上げる。

 

 ――さぁて、行きますか!

 

 観客は少ないが、闘技場の中へと踏み出す。

 そのままポケモントレーナーの定位置であるトレーナーズスクエアの中へ。

 1回戦の相手を正面に捉えた所で、オレの腰に着いたモンスターボール『3つ全て』がカタカタと揺れ出した。

 スクエアの正面、対戦相手の少年を見据える。

 掲示板にトレーナーと手持ち数とが表示され……

 

 

『ポケモンバトル、スタート!』

 

 

 モンスターボールの1つを手に持って、投げ出す。

 電子音と共に、夏合宿最後のバトル大会がその幕を上げた。

 





 更新再開しておいてですが、とりあえずある程度出来上がったものを、2話ほど。
 また、文章量が無駄に増えている気がしてならないのですが……ううん。

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