とある映像を、終える。
テレビの電源を切って、俺ことショウが振り向いた。
問いかける。もうひとりの少女へ。
「……なぁ、リーフ。この試合をどう思う?」
マサラタウンのとある家。
テレビに繋いだ記録媒体から、とあるポケモンバトルの試合を流したところだ。
俺の隣に居たリーフは、少しぶうたれながらも。
「……ねえ、ショウさー。これに答えたら、あたしと一緒にカントーの旅、してくれるの? ホントに?」
「答え次第、って感じ。もう半年近く待たせてるのは悪いと思うが……」
こちらとしても言い分はあるので、適度に台詞を返す。
「そもそも俺だって旅に出るのは来年なわけで。その旅のための時間を、リーフに使うってことなんだぞ? そら俺にも利がないといけないだろ」
「むー。一緒にポケモン捕まえたりとか。ポケモンバトルの相手をするとか。そういうんじゃだめだってことー?」
「そういうデータで済む様なとこは、間に合ってるんでな」
にやりと笑って見せると、リーフはますます不機嫌になった。
ご機嫌は……まぁ一応、取っておくとするか。
「つーて、リーフには一応別のご褒美も用意したよ。このバトルの感想を聞かせてくれたら、レッドとグリーンと一緒に俺の大学の大学祭に招待するぞー」
「ほんと!? ショウの大学って、タマムシ大学の!? 答えるだけで、いーのね! ウソは言わないでよー?」
「ほんとほんと。だからまぁ、見るだけ見ちゃあくんないか」
「わかった! 貸しいちね!」
「貸されちゃあいないんだなこれが」
なんともマイペースに、リーフはくるりとテレビの側へと向き直る。
もう一度、映像を流してやる。……先日の夏合宿におけるベストバウト。「シュンvsイツキ」の試合を。
むーんと、リーフは少し悩んで。
「……
「ほーん」
それはまぁ、そうだろうけど。
「もっと詳しく」
「ポケモンバトルって、とにかくポケモンを最終進化させて、タイプの相性をつくっていうのが『決めて』だった。少なくとも、数年前までは」
リーフがこっちを……俺を見る。
その所感は正しい。これまでのポケモンバトルを、極限まで圧縮して言語化するとそんな感じになる。
そう。俺がリーフに期待している能力が、これだ。
彼女はこの世界の人間でありながら。一歩引いた、俯瞰的な視点を持っている。
あれなんだよな。実は、マサラタウンに研究所が移ってからしばらくした時。
俺は『リーフにモンスターボールを投げられ、何度もぶつけられた』ことがある。
……最初は冗談だと思ってたんだよ。けど、どうも本気らしくてなー。
そっから色々とリーフと話もするようになったんだが……。
彼女はレッドやグリーンとは少し違い。家でポケモンバトルを「見るのが趣味」だ。
つまりそれは「ポケモンバトルを断片化、データ化したものを自分なりに読み取れている」ということで。
既存のトレーナー達とはひとつもふたつも世代の違う、新世代のトレーナー……に、なれる可能性のある人物だという事である。
話を戻そう。
リーフが感じていた「数年前」までのリーグでの試合をみると、そういう感想にはなるだろう。
もっと詳しくと言われていたので、リーフ(9才)なりに頭を悩まして。
「ショウに合うといっつもこういうむつかしいことされるからなー。改造人間にされちゃうよ」
「それはスマン」
「だからさー、いっつも言うけどさー。ショウ、あたしに捕まってみない?」
「もっとリーフの立場が上になって、福利厚生がしっかりしてたら考えるよ。……ほい、考えはまとまったか?」
「ん」
リーフは膝に行儀よく手を置いて、首を左右にふりふりする。
ぴた、と止めたところで口を開く。
「眼鏡のないほうのトレーナー。『壁を割る』とか『タイプを読まれない技』を駆使してる。『相手も自分のポケモンについて知っていること』を前提にした、『作戦』を持っているトレーナーだ」
シュンについての批評。
次に、イツキについての批評。
「眼鏡のある奇術師みたいなトレーナー。『自分の強みを押し付け』つつ、『統一性を一点突くことにカウンターを用意』している。普通のトレーナーではないけど、自分の知識に戦法をうまく乗せてる。ジムリーダーとか四天王みたいな、今のポケモンリーグでの勝率が高いオーソドックスな戦法を……だね」
ふん、と鼻息荒く。
リーフは腰に手を当てて、偉そうに。
「でも、あたしが
「どういうところが好きなんだ?」
「うん。相手の策を打ち破る速度がスゴい。何パターンも用意された構築に、即時対応をし続けている。そして自分の武器も用意……しようとしてる、よね? だって、あのポケモン達、トレーナーを信じるってだけじゃなく……最後まであきらめない目をしてる」
……リーフはテレビから視線を外すと、こちらの側を振り向いた。
彼女にらしい、どや顔で。
「で、どう? あたしはショウのお眼鏡にかなったかしら?」
「そーな。合格」
「やたっ。……そうよね、ショウを捕まえるんじゃなくて、あたしが捕まるのもアリよね!」
拳を握って天にガッ。
喜ばしいことで。ただな。
「実のところ、リーフの旅には最初から付き合うつもりだったんだけどな」
その方が「抑制」も「促し」も出来るだろーな、って結論だ。
この世界に生まれた因子だのに、例外でもあるっていう……源流の特異点。
その傍にいることは、悪いことじゃあないだろう。向こうが要望出して来てるんだしな、そもそも。
なんて、正直に言うとリーフは……まぁ、予想の通り。
「んはー? なにそれー! 聞いてないんですけどー!」
「言ってないからな。だって言ったら慢心するし」
「慢心しないー!」
ぼふぼふとモンスターボール型のソフビボールを俺に投げまくってくるリーフ。
全部掌でさばいてキャッチして、むむむと唸って噛みついてくるのでそれも捌いて背負い投げ。ソファーの上へ!
「暴力系ヒロインはモテないぞーぅ。……いや、ご時世的には全盛期かもしれんが」
「暴力じゃなーい! ちっくしょー、やっぱりショウは捕まえないとダメかーぁ!」
ばたばたとソファの上で四肢を動かす彼女をなだめつつ。
さーて。これから秋は、リーフらも招待することだし。
学園祭とかの準備を始めておくべきかね? んー、仕込みしとこ。
リーフに組み込まれる要素はまぁFRLGでしかないんですが。
彼女が黒ワンピースを着ている限り、ピカブイという要素が少しだけ後押しをしてくれます。
彼女のイベントについてはつべとかで動画でもどうぞ。
これは世界観的にもかなりのイレギュラーで、作者私的にもおもしろいなーと思っています。
彼女の「要素の薄さ」に、「外来要素」が割り込んでいるというわけです。
だからこやつらに目ぇつけられてるって感じですね。
こやつら。
あと今日は23時くらいにbwの閑話があがります。
ノイズのベータ。