ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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9月とは何だったのか……(ぉぃ
とりあえずお茶を濁します。


1995/秋へ G-cisとは不協和音である

 

 遡って、シュンがショウの居るテントを離れた直後。

 

 

 

 Θ―― シオンタウン/公園設営テント内

 

 

 

「……それで、ゲーチスさん。わざわざ俺の方に顔を出してくださったのは嬉しいですが、一体全体何用で?」

 

「いえいえ。バーベナとヘレナの顔を見るのもそうですが ―― ショウ。改めて、アナタをスカウトさせて戴きたく思いましてね」

 

 

 勧めた椅子に腰をかけ、俺の出したウェルカムドリンクを一口だけ含み、目の前で(表面上は)にっこりと笑うゲーチスさん。

 ゲーチスさんといえば、BWおよびBW2で悪の組織……プラズマ団の親玉を勤めたお人だ。会話繰り、人を扇動する能力、上に立つカリスマ。それら全てを併せ持っている上、ゲームにおける「人の悪さ」の描写が半端ないんだよなぁ。

 だからこそ……サカキ以上に判らないお人かと。サカキが鉄面皮だとすれば、この人のそれはポーカーフェイス。厚化粧を塗りたくった上に演技派の技巧を加え、デコイを置きまくってチャフをばら撒きながらマニューバとかそんな感じ。コクピット周辺にはiフィールドも忘れないで、とかとか。

 ……何か表現も判り難いな。まあいいけど。

 

 

「それで、スカウトでしたか。……んー、前も1回断りましたよね? だから改めてって言うのは判りますが、今回も言葉は同じですよ」

 

「ショウ。貴方ならばそう言うであろうとは思っておりましたが……ですから、改めて。ワタクシの抱える一団とその息子の理想を適える(・・・)ため。賢人としての貴方の力でもって、一助となっては下さいませんか?」

 

「11才のガキを捉まえて賢人て。ってか今、不穏な意味の『かなえる』を当て()めた気がするんですが」

 

「気のせいでしょう。……それで、返答は? 何れにせよ返答をいただかなくては引くに引けないのがこの世という物の在り方でしてね」

 

「相変わらず面倒な人と形ですね。……仕様がない。んでは、前より詳しく」

 

 

 悪の組織の親玉、しかもよりにもよってゲーチスさんとのお喋りなんて好んでしたくはないんだけどなぁ。

 ……仕方が無い。攻め手としては、この辺りから突いて行きますかね。

 

 

「はてさて ―― 俺は、物事の善悪をくっきりはっきり……白黒つける事が出来る人間でもなければ、ましてや人一人の人生を導く事が出来るような人間でも在りません。周囲の評価は置いておくとしても、俺自身でやりたい事があるからです。どちらかをと問われたならば、俺は必ず自身を優先しますんで……それって、実質的には兎も角、組織に適した人材では無いですよね? これはどうでしょう」

 

「それならば問題ありませんよ。我等が頂くのは『王』ですから、ショウはその手助けをして下されば良いのです。それに貴方は自分を優先しつつ、周りをも巻き込める力をお持ちだと考えております。『個人』でもって組織をも引っ張る事が出来るのならば、適した人材ではありませんか」

 

「ですが貴方が欲しているのは少なくとも、貴方自身の思惑から外れない行動を示すことの出来る『個人』なのでしょう? その点、俺は貴方の思想の通りには動けません ―― とお答えしているんです」

 

「ふむ」

 

 

 ここでゲーチスさんは悩み……悩んだ体でブレてはいない。座った机の角をカツカツと指で鳴らし、再び視線を交える。

 

 

「しかし個人だけでは変えようが無いのが世界というモノの在り方です。ワタクシの誘いはあくまで、大きな流れの支点の1つになって欲しいというもの。大勢の力でもって変えてみせる。その為の手段が、我等の団なのです。巨大にして強大な光の中に違う色がぽつりと混じっていたとして、実はそれが皆を纏める始まりの光であったとして……誰がそれを気に留めるでしょう」

 

「それは勿論、ぽつねんとした光そのもの(・・・・・)が気にするでしょうね。あとご期待を頂戴して申し訳ないですが、俺自身にそんなネームバリューはありませんよ」

 

「それこそご謙遜を。ポケモンタイプの提唱者。バトルとコンテストにおける開拓者。そして実践する者でもある。そんな貴方が居るだけで変わるものは、確かに大きいでしょうに」

 

 

 おおー……ゲーチスさんのドヤ顔語りが留まる所を知らない。しかもよりにもよって俺を持ち上げる部分で、だから堪ったもんじゃない。

 しっかし、相変わらず、こういったアピールに関してはずば抜けたセンスを持った人だよなぁ。ただし同類から見るともの凄く胡散臭いんだって。残念ながらな。

 とはいえ話の内容それ自体は俺にとって良い流れ。そんじゃあ。

 

 

「そうですね」

 

「……ほう」

 

 

 今までの否定一辺倒から、遂にその言葉を肯定した俺に、身長差も遥かなゲーチスさんの視線が覆い被さる。

 ……うっわー、流石はボス。潜めてるにも関わらず立ち上る、毒々しさ満点の威圧感が半端無い。

 でもここで負けてたらプラズマ団の賢人にされてしまうんで……あのマントを着るなんて事態は避けておきたい所だな。うっし。

 

 

「まぁ、そんな感じです」

 

「では、何故」

 

 

 オレは口の端を釣り上げ、にやりと笑う。ゲーチスさんに視線を返して。

 

 

「ええ。先ほどゲーチスさんに仰っていただいた通り、俺は色んな事をしてますんで、予定が詰まってるんです。……ここでいたずらに仕事を増やすってのは、断って当然じゃあないですかね?」

 

 

 さっきまでの面倒な内容の舌戦をひっくり返して、あくまで一般論。そして何よりの本音でもって反論を試みた。

 いやぁ……要するに、正直、まだまだカントーでやりたい事があるこの時期に外国での活動を誘われるとかキツイだろ!? って事だ。

 敵役の組織だとかそういうのは置いといて、この部分にゃ俺の本音が丸出しだ。嘘の欠片も含んじゃあいない。さてさて、ゲーチスさんの反応やいかに。

 

 

「……」

 

 

 無言というか脳内で、喧々囂々で侃々諤々な議論が飛び交っているのだろう。ゲーチスさんは悩んだ末。

 

 

「……ふう」

 

 

 溜息を1つ、ついた。

 ……よーし。これにて、少なくともゲーチスさんの言論は封じた訳で……痛み分けといった所か? いや、判定はかなり怪しくビデオ判定でも必要なくらいではあるんだけどな。言ったもん勝ちという感じで。

 息を吐き出したゲーチスさんは、幾分か深くした笑みを湛えたまま席を立ち、腰を上げる。

 

 

「ショウ、話に付き合ってくださり感謝します。……ですが貴方は、ワタクシ共の事情を随分と理解してくれている様です。それも『御家』との繋がりからですか?」

 

 

 鋭い……けど、まぁ、俺の交友を知っていれば当然か。カトレアとは結構一緒にいるからなー。

 つっても勿論、それを馬鹿正直に話せるわけも無く。

 

 

「あっはっは! なんて、その点については笑って流させていただきまして。……まぁ、実を言うとこういう意味がありそうで全く無い、損ばかりする問答は苦手なんですよ」

 

「……」

 

「貴方は俺と話をした所で揺るがない。つまり建設的じゃあないです。そもそも何が良くて何が悪いかなんて、十人十色で一概には決めようが無いでしょうに。こういうのはむしろ、そっちの国のが理解は進んでいると思っていたんですが」

 

「その知っていた筈の事を忘れ、新たなモノを知った気になっているのが大人という人種なのですよ、ショウ。いつまでも人の世は、過ちを過ちと判っているというのに、義と利を天秤にかけては、多くの大切なものを手放してゆくのです」

 

 

 右半身マヒの症状が窺える、歪な、鈍い表情。しかしその中に確かな色の見え隠れした様子で、ゲーチスさんは語る。

 ……いやぁ。

 

 

「思ったより人間してるんですねー、ゲーチスさん」

 

「……。……ワタクシとした事が、どうやら語り過ぎました」

 

 

 言葉の通りに苦虫を噛み潰した様な表情に改め、腰を上げ、モノクルの向こうで再びの視線を交わす。

 

 

「ショウ。貴方がワタクシの事をどう想っているのかは掴めたと思います。良いでしょう。時期が来たならば、貴方をイッシュ地方へ招待させていただきます。賢人としてではなく、ね」

 

「やっぱりこっちを推し量るのが目的でしたか……って、良いんですか? 招待とか」

 

「構いませんよ。ええ、それぐらい計算済みですとも」

 

 

 原作の台詞に反応した俺が訝しむと、ゲーチスさんがニヤリと笑った。

 いや、なんだ。まるで悪ガキが反撃してやる方法を思いついたとでも言う様な……って、

 

 

「ショウ。差し出がましいですが先達として、ワタクシから貴方への忠告を1つ。……貴方の様に天稟を持ちながらも献身的な人物というのは、得てして組織という集団の中に埋もれて行く運命にあります。これは歴史が証明する紛れもない真実」

 

 

 かつりかつりと指を叩く。

 腕は広げず。脚をずるりと引き摺り。ゆったりと。

 

 

「例えばそれを横から見ていた人物がいて。消え行く運命にあるその光を消すまいと、手を差し伸べる。それは ―― はたして。エゴに埋もれた人の世にあって、まだ優良な自己満足だとは思えませんでしょうか?」

 

 

 ……ん?

 なんだ。つまり……「単純に善意から言ってんだぞこの野郎」……って訳せば良いのか?

 …………うーん。さっきイニシアチブを取ったのに対するお返しとも考えられなくはないが、だとすると腰を上げてから思い出した様に話すのは……いや。ゲーチスさんの場合はそれも演出の可能性はある、か。

 などと無駄な考えが回るものの、何れにせよ言動の内容それ自体は好意的にも解釈出来るもの。

 

 ………………あー、判った。びびっときた。悟った。開眼した。

 

 

 ―― つまりはこれ、捻デレなのであるっっ!

 

 

 異様に無駄な事実を悟った俺なんて、そのまま解脱してしまえば良いのになっ! きっと攻略難易度が高いんだろうゲーチスさん!!

 とまぁ脳内で慌てておいて。……いやあ。期待してない人物(オッサン)からのデレによって、人間は真っ白になるもんだと、改めて実感出来たな。うん。エビデンスすら必要ない真理だ。

 さて。せっかく真理を体得したので、それを対価に身体(の支配権)を取り戻しておいてだな。えふん。

 

 

「えふん。……招待には応じますよ。折角のお誘いですし、……あー、忙しくなければ、是非」

 

「ええ。機は伺います。―― かかって来るといい。その時には、ワタクシが直々にもてなして差し上げましょう」

 

 

 そう決め台詞的に言って、ゲーチスさんは(きびす)を返した。

 表情をニュートラルに戻し、お茶を一口。

 

 

「さて、長居が過ぎました。お茶もぬるくしてしまい申し訳ない。お(いとま)しましょう」

 

「いえいえお気遣い無く。……あの子らは呼ばないので?」

 

「ふむ……公園の外へ出たら呼ぶ事にしませんか。どうやら子供には怖がられるようですからね」

 

 

 ここでとりあえずとダーク3人衆(カッコカリ)達について振っておくも、ゲーチスさんは首を振った。

 確かになぁ。あの3人を見た子供たちの反応は、きっと怖がるか忍者ーっていってはしゃぐかのどちらかだ。どっちかっていうと負のオーラ満載なんで、怖がる可能性の方が高いかも知れんし。

 

 

「でも、それはそれであいつ等が可哀想な気もしますねー。悪気があってやっている事ではないでしょうに。あ、ヘレナとバーベナと子供達が焼いたクッキーありますんでどうぞ」

 

「クッキーですか。帰りの便の茶請けとして丁度良い。ありがたく頂きましょう」

 

 

 俺は手を伸ばし、机の上に袋詰めにしていたクッキーを……

 

 

「……5つ?」

 

「はい。ダーク達と、貴方と、この間に俺もお目通りした貴方の息子の分です。あ、途中で捨てないでくださいね? 女神姉妹、あれでも向こうに置いてきた弟分の事を結構心配してるんで」

 

「その願いは勿論聞き届けましょう。……それにしても、バーベナとヘレナをつかまえて女神とは。言い得てはいますが、まだ2人とも子供ですよ」

 

「あっはっは! ヘレナもバーベナも花言葉はともかく、成長したらこのあだ名も似合う様な人物になると思うんですよね。俺としては」

 

「ええ。他ならぬワタクシがそう願い、付けた名前です。こうして誰かに期待をされ、また実際に立派な人物になってくださるのとすれば。それは……嬉しいに違いありませんけれどね」

 

 

 口の端に笑顔を滲ませ、ゲーチスさんは今度こそ完全に振り向いた。

 扉の前に立ち、……扉の向こうに何かが降り立った足音が3つ。あいつ等が迎えに来たに違いない。

 俺は笑顔を向けつつ ―― ゲーチスさんと見合って。

 

 

「愉快な時間をアリガトウ、ショウ。再び合間見えるその時を楽しみに……しかし難敵の増援は願わずに。お待ちしていますとも」

 

「ええ、こちらこそ。……ポケモンバトル、楽しみにしておきますから!」

 

 






 ゲェェェチス! ゲェェェチス!

 こういう語りをしてくれそうなキャラは好きです。動かしやすいですからね(笑
 ですが、ゲーチスの捻デレとか誰得なんですかねぇ……はい、作者得です。親父は好きです。

 尚、ゲーチスさんの原作の様な狂喜あるいは狂気染みた雰囲気は、拙作中では大分少ないのですね。
 本拙作の設定上、今の所、BW原作開始まで残り8年程度はある予定。BW2となると10も年を取る計算に。

 BWの年代予測はDPPtから共通してカトレアを基準とします。
 カトレアがもっとも精神的負荷の高い時期(いわゆる中二の14歳あたり)からバトルを封じられたとして、バトルを見る程度にはリハビリしているDPPt(&HGSS)時に16歳。あの爆発的な成長(どこがとは指定せず。あえて言うなら毛髪)と四天王という役柄から、大人レベルには成長していると仮定しまして、プラス4年させていただいております。
 逆に言えば「BWのカトレアが何歳に見えるか?」という辺りで微調整が可能なのですけれどね(苦笑
 ……こう見ると、駄作者私的にもカトレアは重大な役目を担ってくれていますね。流石はヒロインの一角(強)。

 ついでに。
 うろ覚えではありますが、スタッフの台詞から「王」さんの年齢はBW時点で20歳程度をイメージされていると聞いた覚えがあるような(無いような。ファンミーティングだったかも……)。
 なので、「王」さんは本拙作における主人公と同年代という計算になります(1996のFRLG開始時点で12才なので)。この辺りは狙ってやってました。ええ。都合よく設定させていただいてますので。

 ……まあPWTとかを見るに、年代予測って徒労以外の何でもなさそうだと感じるのですがねっ!!

 という訳で迂遠になりましたが、諸々の事情により今のゲーチスさんはBW時代より焦っておらず、心の余裕が半端無いのです。舌戦もどきも「あ、コイツめんどくさいわ」と察したゲーチスさんが引いてくださった形です。ゲーチスさん、おっとなー(白目
 とまぁ、その辺りは後々に。

 ……。

 ……ゲーチスさんとの問答についてはあれですが、内容的に要約するとポケットにファンタジーな曲やらベストなフレンドの曲が大好きですと(意味不明

 義と利を天秤に~はとある六賢人さんの台詞より噛み砕いた言い回しを抜粋。
 あとは、未来の話になるでしょうけれども、ショウとゲーチスさんの戦いがあるとすれば実に絵になりそうな雰囲気がありますね。
 ええ、切り札の手持ちポケモン的に対比がし易そうなのです(フラグ。

 では、では。

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