Side ナツホ
シュンをベンチに座らせ、その膝に
見覚えのある人物に「呼ばれ」たあたしは、その傍へと歩み寄った。近づいてきた此方を改めて目に留めると、お嬢様は不遜にも見える笑みで笑いかけてくる。
「お久しぶりですわね、ナツホ」
「……ヒヅキ」
シオンタウンの公園の外側。道路沿いに立っていたのはセキエイ高原での合宿で知り合い、今はシンオウ地方に居るはずのコトブキ社令嬢……ヒヅキだった。
曇天の下、近付いたあたしとヒヅキの間に沈黙が下りる。交錯した視線の間には、見ようによっては、火花が散っているように見えたかもしれない。
……だとしたら、それはあくまで幻視なんだけど。
「それで、何でアンタがここに居るのよ」
「随分な言い草ですのね。折角、あなたに頼まれていた件について調査をしてきましたのに」
「……そうなの?」
「ええ」
再び微笑むヒヅキ。……だとしたら。
「そ。……それは、だったら、ごめん」
「まあ構いませんわ。こうして付き合ってみて、あなたの性格は掴めてきましたもの。シュンの苦労が忍ばれますわ」
「むぐ……」
思わず言い返そうとしたけれど、此方に非があることに気付いて口を紡ぐ。どうにも直情的に成ってしまうのは、あたしの悪い癖だ。
……幼少からそんなだったあたしは、孤立しがちな性格だった。そんなあたしがスクールで孤立しないようにと気を使ってくれていたのが、他でもないシュン。
思わず口を突く罵倒を一身に引き受け、友人の前でこの悪癖を「ツンデレ」と言い表し、ノリの明るいユウキを連れては何事においても矢面に立ってくれて。
あたしは間違いなく面倒くさい幼馴染だったに違いない。それでも幼馴染をやってくれているシュンに、あたしはとても感謝をしている。……うん。それをあまり露骨に表面に出さないようにとは、気をつけているけれど。
そんな感謝を、恩を、少しでも返そうと。あたしはこのお嬢様にある「お願い」をしているんだけど……勿論、感謝だけじゃない。相手が相手。負けられない捨てられない矜持というものも、あるのだ。
「今、隣街のヤマブキシティで、お父様がシルフカンパニーとの会合を予定しているのですわ」
「それはシュンから聞いたわ。……でもあんたは良いの? こんな所で油を売ってて」
「ええ。普通はこんな子供に会議なんてさせませんもの。わたくしの役目は、あくまで相手方のお子さんとの顔合わせみたいなものですわ。そういう意味での本番は、今夜開かれるレセプション。それまでは自由行動ですわね」
「……だからって、それでシオンタウンまで来るのはどうなのよ……」
「あら。わたくしだって、シュンには返さなければならない恩がありますわ。近くに居たら顔を見せるくらいは構わないでしょう?」
このお嬢様は、そんな台詞を平然と言ってのける。
……あー、もう、強敵なのには間違いない。けど、アイツ自身が居ないこの場でど突き合っていても不毛なだけだ。あたしは言葉で勝負できる性格でもない。ここは、話題を変えてしまうべきよね。
「……良いけど。それより、お願いしてたことの進展があるならさっさとそれを聞きたいわね」
「せっつきますわね……。まあ、良いですけど。コトブキ社の伝手で、探偵事務所に調査を依頼しましたわ。シュンの父様……ワタリさん、その行方について」
ヒヅキは手に持ったA4用紙をぴしりと伸ばし、告げた。
でも、そう。あたしはヒヅキに依頼していたのは、シュンの馬鹿親父 ―― ワタリさんの行方についての調査だ。
調査という意味ではカトレアにお願いしても良かったかも知れない。けど、その母体である「御家」はあくまで外国。それに、聞く限りカトレアは「御家」の中でも撥ねっ返りみたい。その家に頼るのは、友人としてしたくはなかった。
その点このお嬢様が令嬢をしているコトブキ社は、シンオウ地方を拠点とする大会社。ごたごたもないらしい。だとすれば、あたしやシュンよりも遥かに有効な調査が出来るに違いない。そう考え、調査をお願いしたんだけれど……
「その探偵事務所って何処なのよ。適当じゃないでしょうね」
「あら、手腕を疑っているのかしら? ご安心を。父様御用達、国際警察さんが別口で営む事務所ですわ。所長のハンサムさんとはわたくしも面識があります。頼りになるお方ですわよ」
「国際警察……って、随分と大げさな名前が出たわね……。まぁ、ヒヅキに頼んだのはあたしだから信用はするけど」
「光栄ですわ!」
とか言って、漫画っぽいオホホ笑いではなく、淑女然とした仕草でスカートの端をふわりと摘む。
……くっ、動作が一々お嬢様っぽい……! あたしには無い如何にもな育ちの良さとかっ!!
なんて少しだけ劣等感を覚えはするけど、嫉妬をしていても仕方が無い。あたしが目線で先を促すと、ヒヅキがコクリと頷く。
「さて、結論から述べますわ。彼……ワタリさんはどうやら、世界を飛び回った後、5ヶ月ほど前にイッシュ地方で足跡を消していますわね」
「……イッシュ地方」
「詳しく言えばイッシュ地方の東側。ブラックシティやホワイトフォレストがある場所辺りで、野良バトルをしている彼を見かけた人が居る……と伺いましたわ。それも5ヶ月前を境に証言が途絶えては居ますが」
溜息と共に、用紙を指でぴしりと弾く。
野良バトルをしてほっつき歩いている辺りはあの馬鹿親父らしい。その辺りには奇妙な安心感すらある。しかし問題は、姿を消したという点。表立ったバトルを止めたのか……もしくは。
その先へ想像を伸ばそうとして、しかしあたしは頭を振った。どうせあたしが考えてみた所で、大した結論には行き着きそうに無い。折角出来た友人達を頼るべき ―― そしてこの少女もその友人に加わったのだ、と、思い直す。
正面に立つ友人へ直り、あたしは笑顔を向けた。
「十分よ。ありがと、ヒヅキ」
「受けた依頼はきっちりと達成するのが流儀ですわ。調査はこれからも続けます。……それに、オトウサマのことです。わたくしも人事ではありませんわ!」
「ありがと……って、オトウサマの発音がおかしいっ!」
わざわざおかしくする辺りは義理の父の方っぽいし!!
なんて、あたしが慣れない突込みを入れていると、ヒヅキが堪えきれないといった風に笑う。ねえ、こっちは渋面ものなんだけど。
こうして一々牽制を入れてくる彼女の気性には、少し、辟易しつつ。
「にしてもナツホ、何であなたの方がそんなにも気にかけるのです? オトウサマについて、シュン自身はあまり気にはしていない様子でしたわ」
「……っはぁ」
これみよがしに溜息をつくと、ヒヅキの顔が若干強張った。……いつもの悪癖が出ているわね。反省。
とは言いつつも、過ごして来た年月によるアドバンテージを覚えつつ。でもライバルで、友人で。前を向き出したあいつに惹かれているこの少女にも、説明を受ける権利はある筈だ……なんて、思い直してみた。
そんなお人好しな自分に呆れつつ、判り易く伝えるにはと頭を捻って言葉を選ぶ。
あいつ……シュンは。
「シュンは今、ポケモンバトルに夢中なの。他に気を回している余裕なんてない。つまり、気にかけて
言葉に反して、あたしの顔には自然と笑みが浮かんでいた。
……あいつの周りに居るのは、そんな危なっかしさを放っておけない人ばかりなのだ。
面白いことやってんな……と、仲良くなっていたユウキとヒトミ。
委員長気質から輪に加わっていたゴウと、彼が守る対象であるノゾミ。
ゴウとユウキに引っ張りまわされ、時には引っ張りまわす側にも回る、問題児のケイスケ。
今はまだ、大丈夫。友人達の助力もあって、あいつは真っ直ぐに前を向いていられるから。
「でも何時か未来に、シュンがポケモンバトルを上手くなった時。一息ついて周りを見る余裕が出来た時。その時、あいつは絶対に気付くのよ。自分が父親の影を追っていたことに、ね。……そしたらめでたく馬鹿親子の誕生よ。シュンは周囲を省みず父親を追って、世界中を旅しながらバトル三昧。そんな感じになるのが目に見えてる」
その時のシュンに、後ろを振り返る気持ちはあるかも知れない。けど、あの親父の挙動がそれを実行に移させないでしょう。……何せあいつは、だからこそ馬鹿親父でしかないんだから。
爪を食い込ませながら拳を握る。いつか胸に抱いた決意を想いに乗せて、あたしはヒヅキに向かって吐き出す様に。突き付ける様に。その想いがどうか ―― 素直に伝わる様に。
「でも、二の舞にはさせない。その為にあたしが居る。それがあたしの役目で、やりたいことなの。誰にだって文句は言わせないわ。だから……」
それでも今、こうしてエリトレ組に所属したあいつならば。そうしてバトルに傾注していた末に、未だ見ぬ何かを掴む事が出来るのではないか。馬鹿親父とは違う何かを見出せるのではないか……と思わせてくれる。
不思議な魅力、とでも言うのだろうか。要するに、ただ放っておけないというだけじゃあなく、あたし達は期待もしているに違いない。
自然と伏せていた顔を上げる。ヒヅキは息を吐き、あたしの顔を正面から見つめていた。……あによ。
「ねえナツホ。そこに、ナツホの私情は入っていないのですか?」
「ぅ。……それは……」
割り込まれたヒヅキの言葉に言葉が詰まる。
勿論、私情は入っている。むしろ私情が8割だ……という、認めたくは無いけど、実感はある。でもそれを素直に話すのも……ん。悔しいというか、何と言うか……そんな感じよね。
だから、
「……それ、黙秘ね」
「あら。普通に話すよりも雄弁に語っていますわよ」
「うるさいわね」
くすくすと笑うヒヅキにぶーたれる。
逃げるように進む足は、自然とシュンの待つベンチへと向かっていた。
……シュンはきっと、あの親父の事に決着を着けなければこちらを向いてくれない。なぜなら、向いている余裕が無いから。
だから目下、あたしの目標。
いつかあの馬鹿親父を引っ叩いて、そして言ってやるのだ。
シュンは家族を蔑ろにするあんたなんかと違って、ずっと、ずうっと、格好良いんだから ―― と!
Side End
ΘΘΘΘΘΘΘΘ
オレがお爺さんとの会話を終えて暫く。ナツホは何故か、ヒヅキさんを連れて戻って来た。
因みに当のヒヅキさんは挨拶だけをして去っていったのだが、学園祭の開催中にもう1度カントーを訪れるのだそうだ。その折にオレとも再会する事を約束した。隣に居るナツホとも親しげな(いつもの容赦の無い言葉で)やりとりを交わしていたので、仲が悪い訳じゃあないのだろう。ただしその後でオレに向けられる、猛禽的な視線が恐ろしい。くわばらくわばら。
さて。
そんなこんなで午後は名作劇場紙芝居だとか人形劇だとか、そういったイベントが多く催された。オレとナツホも「100万回生きたニャース」の朗読を行ったり、創作劇「ピカチュウの夏休み」を手伝ったりと忙しく動き回っていた。
プログラムは滞りなく進み、15時にて終了を迎える。一杯に遊んで満足げな顔を浮べた子供たちが、それぞれの施設の大人やボランティアに連れられて公園を去っていくのを見送った。
その後に残されたオレ達が後片付けを行う事20分ほど。全イベントは恙無く終了。オレの出遭ったお爺さんはやはりというか偉い人であったらしく、彼が皆の前に立って締めの挨拶を行った後、スタッフも解散となった。
ショウはどうやらポケモンハウスに泊まるらしく、タマムシへ帰宅するのはオレとナツホのみ。ショウは『テレポート』による移送を提案してくれたのだが、それを断固として拒否してピジョン輸送を選択した。
カーゴを行ってくれる施設はシオンタウンの南郊外にあるらしい。場所を聞いてから、オレとナツホはそこへと足を向ける。するとその頃合で、ショウが「ちょっと待っててくれ」と声をかけて『テレポート』し……オレとナツホはショウの到着を待つ事に。
「何の用事だろうなぁ」
「さあね。ショウの考える事ってよくわかんないし」
「そうか? オレとしては結構判りやすいと思うんだけどさ」
「それはアンタがショウの同部屋で、いっつも馬鹿ばっかやってるからでしょ」
「成る程な。それは同意しておく。因みに次のボランティアへのお誘いとかだったらどうする?」
「断る理由はないんじゃない? バーベナとヘレナと、子供達にもまた会いたいし。……『テレポート』だけはお断りするけど」
「それも同意しておくかな。……さーて、釣れるかどうか」
サイレンスブリッジへと続く橋の横で河川を眺めつつ、オレは竿を振るった。
因みに、この竿は近くのレンタル小屋で借りた物だ。何故釣具を……というのには理由がある。
実は、サイレンスブリッジは別名『釣りの名所』と呼ばれている。朝方と夕方は釣り人でごった返すことで有名だ。つまりは折角なので、待っている間釣りをしてみようと言う試みなのである。
そしてそのまま待つこと10分。ショウは行った時と同様に、『テレポート』で戻って来た。
「悪い、待たせただろ。少しばかりやる事があって引き止められてた。……おっと、釣りか。釣れるか?」
「いや全く。ピクリともしないな。それよりそのやる事ってのは大丈夫だったか?」
「んー……少しいざこざがあって、近々、野生のカラカラを大勢抱えることになりそうでなー。まぁ、その辺を決めるのはオレだけじゃあないから安心していいと思われる」
「そっか。お前がそう言うなら気にしないでおくよ。……でも本当に『テレポート』で酔わないのな、お前って」
「これくらいの距離で酔ってたらナツメの幼馴染なんて出来ないからなぁ。そこは経験がものを言う。……んで、ほい」
すると近寄った途端、脈絡なくショウが両手を差し出した。オレとナツホは、反射的にそれを受け取る。
竿から意識を外し、手に持ったそれらをまじまじと観察。
中に炎模様、雷模様、水の波紋のそれぞれを宿した石。そして葉っぱを象った化石みたいな石 ―― の、合計4つだ。ナツホには葉っぱの替わりに、三日月形の薄黒い石が渡されている。
オレが思わず顔を上げ疑問の視線を向けると、ショウは待ってましたとばかりに口を開く。
「それが本日ボランティアを手伝ってくれたお礼だ。『炎の石』はナツホのガーディを。『水の石』はナツホのヒトデマンを。んでもって、『雷の石』を合わせたこれら3つ全部が、イーブイを進化させてくれる選択肢になりうる。ついでに言えば『リーフの石』はマダツボミを最終進化させてくれて、『月の石』はニドラン♀を最終進化させてくれるんでな。お前らなら持って置いて損は無いと思うぞ」
1つ1つ説明を付け加えるショウ。
……そういえば春先に、こいつ自身が言ってたな。ナツホの手持ちは最終進化に苦労する、って。道具がないと進化できないと、そういう意味だったのだろう。
ついでに言えばその際、ショウはオレの手持ち3匹の弱点を的確に言い当てていたりする。「レベルを上げて物理で殴れ」……つまり、特殊攻撃の少なさを。見事にもイツキに突かれ、敗北の原因となったそれだ。……ショウ、お前もしかして未来が見えたりしないよな? ナツメさん的な。
「それはない。その3体の特徴を
「というか、つまりはショウ。お前、オレ達にこれを渡そうとしてボランティアに誘ったのか?」
いずれオレ達に進化の石が必要となることは判っていて。それを合理的に、無理ない理由で渡すために ―― ボランティアへの参加を勧めた。そう考えるに自然な流れが出来てしまっているからなぁ。
このオレの指摘に、奴めは微妙に視線を下に向けて逸らしつつ、頬をかいて。
「まぁ、それも否定はしないかね。……化石研究のために発掘をしてると、結構余計に出て来るんだよな。進化の石。つー訳で俺個人からのお礼だから、まぁ、構わず受け取ってくれると助かる」
そう言うと、ショウは腰辺りにつけたモンスターボールに触れる。イーブイが入っているボールだ。……あ、なるほど。オレ達のために……と言う他に、アイツ自身も使うに違いない。つまり石の入手はショウにとって、ボランティアの人手増加を含めた「一石三鳥」な手段であったのだ。
……となると、さっきのあれは照れ隠しが入ってるんだな。うん。こいつも十分に捻デレだ。
さて、と、オレはもう1度手元に視線を落とす。ごつごつとした進化の石が4つ。
どちらにせよ必要になるのなら、まぁ。
「ありがたく貰っとくか。どうもありがとな、ショウ」
「……ふん。まぁ、ただ働きよりは良いものね」
とか何とか言いつつも、丁寧にハンカチに包みながら石をバッグに入れるナツホ。ツンデレをありがとうございます。
そんな様子に、オレがほっこりとしていると。
「……って、おおっと!」
「どうした……って、竿が引いてる!?」
「ええ!?」
ショウがオレの横を抜け、何かに飛びついた。飛びついた先は、釣竿。オレが目を放している隙に、垂らしていた釣り糸がぐいぐいと引かれ始めていたのである。
ショウは慌てて竿を押さえつつ、リールに手をかける。
「くっ……やっぱ電動リールじゃないと、力とか足りないなっ……シュン! この竿どうする!?」
「釣れば良いんじゃないか……ってか今更オレに竿を渡すなよ!? どうすれば良いか判らないし!!」
「そんなら俺がこのまま引き受けるか。橋の下は潜らせないぞー……っと! ……シュン、ナツホ、釣具屋から網を借りてきてくれないか!?」
「わ、わかった。網を借りてくれば良いのね?」
「おう。頼む!」
というやり取りの元、魚ポケモンとの格闘が始まった。
河川を縦横無尽に泳ぎ回るポケモン。糸だけは切らすまいと竿を操るショウ。
5分ほど格闘していると、ナツホと釣具屋の店主が大きな網を持って駆け寄ってきた。
「これで良いの!?」
「おっけ、十分! ……釣り名人の兄の方、今から俺も本腰入れて引き上げます。網を!!」
「おうさ、判った!」
何故か知り合いっぽい釣具屋の店主とショウが息を合わせて動き始めた。いやだからどんだけ顔が広いんだよ。
オレが突っ込みを入れている内にも、リールがどんどんと巻かれて行く。次第に魚影が見え始め、
「跳ねるっ!?」
《ざぱぁんっ!!》
「―― あっぶなっ。でもまだ、行けるな!!」
糸を切るべく水面を跳ねたポケモンに合わせ、ショウが糸を解放。功を奏したらしく、糸は切られずに済んでいた。
危機を回避したならばショウの攻勢。魚影がくっきりと見えた頃合になって、店主(釣り名人兄)が水面に網を差し込んだ。
網の中には。
「って、コイキング……か?」
思わずポツリと呟いたのは、釣り名人兄。
それもそのはず。網の中に居たのは、コイキングと同様のフォルムを持った魚型のポケモンで……しかし。
「でも何か、みすぼらしいわね。……あ、何かショウに怒ってる?」
「コイキングと比べると身体も少し小さいし、色も綺麗な赤じゃあなくて灰色だ。……それと確かに、ショウにガンくれてるよなぁ。何かしたのか、ショウ?」
「釣り上げたけど、その他にちょっかいだした覚えは無いな。ってか……」
「―― のッ、のッ!」
網の中に居たポケモンとショウとが見合う。見つめている内、突如ポケモンがじたばたと暴れ始めた。ショウの方向へ行こうと必死な様子にも見えなくは無い。
オレとナツホが言う通り、釣り上げられたポケモンはコイキングとは違うように思えた。体色だけならばアカネの様に色違いだと思ったかもしれないが……どうにも、ボロボロな外見とは裏腹に、強気な印象を受けるポケモンである。少なくとも流し素麺と一緒に流れて来たり、ケイスケの腕の中で窒息しかけたりはしないタイプの性格だろう。
「とりあえず、下ろすぞ?」
「はい、お願いします」
「のッ、ののッ!!」
《びちっ、びちっ!》
釣り名人兄が広い場所に網を下ろすと同時、そのポケモンが跳ねてはショウに突撃。いや、ダメージは無いけどさ。
……どうするのだろう。と眺めていると、ショウは一度此方に視線をくれて。
「なあシュン。このポケモンは……」
「オレは遠慮する。というかオレがしたのは竿を振るうくらいであって、竿を準備したのは店主さんだし、吊り上げたのはショウだし。……そもそもオレは、3匹で精一杯だぞ」
「んー……そっか」
そう告げてやると、ショウは顎に手を当てて考え始めた。
暫くして頭を掻くと、ショウは腰を落としてそのポケモンに視線を合わせる。じぃっと見つめると、暴れていたポケモンもその身を止める。
「あー……そう言えば見覚えあるな。タマムシの水質調査の時に、清水源流の汚染区域から逃がした個体か?」
「のッ」コクコク
「だよな。道理で今のカントーに居ない筈のポケモンが居る訳だ。お前だけだったもんなー、あそこに残ってたの。……おかげでお前達の種族は、カントー図鑑からは除外されたんだが……」
聞くに、どうやらショウに恩義のある個体だった様だ。それにやっぱり、コイキングではないらしい。何せ、コイキングの場合は住む場所を選ばないからな。清水源流どころか海水淡水問わずといった有様だ。
頷いたポケモンに納得だとばかりに頷いて、ショウは笑う。そのまま視線を交え ――
「―― うし。一緒に来るか?」
「のッ!」
「先に言っとくけど結構キツイぞ? あ、クーリングオフは効くけど」
「のッ、のッ!!」
「あー……意思は硬いか。それならまぁ、仲間に居てくれれば嬉しいよな。……おっけ。ほい、これ。中に入って暴れないでいてくれればすぐだから、宜しく」
「ののッ!」
そう言って、何の変哲も無いモンスターボールを差し出す。
ポケモンが鼻先で触れると、粒子となってボールの中に入り込み。
――《カチッ♪》
「宜しくな ―― ヒンバス!」
ショウが嬉しそうにボールを掲げると、腰のイーブイの入ったボールもカタカタと揺れる。それが果たして、嫉妬なのか歓迎なのかは判断つかないけどな。
こうして帰り際、オレらは進化の石というアイテムを。ショウは新たな仲間を得て、シオンタウンにおけるボランティアは幕を閉じたのであった。
以下、本来の意味であとがき。
▽ ここは つりの めいしょ
サイレンスブリッジとか、中々ピンと来ない単語ですが原作の通りなのです(笑
まぁ、実際には主に違う『つり』の意味で使われることが多いのですけれどね。この警句。
さて、やっとの事ボランティア編が終わりましたので「秋へ」の題目は過ぎ去って、本格的に秋のスケジュールに入ります。
具体的には今話に少しだけ話題を挙げている学園祭ですね。それと日常が少し。
……久しぶりにSideを使ったら、思ったより難しかったのです……!
増えたお仲間は、始めっから決めうちしてました。水ポケモンを持たせるならば彼女でしょうと。
何せヒンバス(の進化先)は駄作者私が初めて遺伝技を持たせ、厳選し、努力値を振ったポケモンなのですよね。彼女と共にフロンティアを攻略していたのが懐かしくも感じます。それももうすぐリメイクを迎え、彼女はリメイク先へまさかの里帰りをするわけなのですが……。
……彼女? ああ、はい。
勿論、ショウの捕まえたヒンバスは♀です!(力説
ぱっぱと書けると良いなぁ……と、筆速を渇望しつつもインスタント味噌汁が美味しい。特にロー○ンの揚げナスの奴が(ぉぃ
ORASの季節がやってきますし、暫くはフィーバーしてそうなのですよね、駄作者私。