ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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1995/秋 祭りに学べ

 

 Θ―― タマムシシティ/スクール敷地内

 

 

 諸々の事件から予定していた男子会は最終日に控え、マイとの出逢いから数時間後。友人全員を集めた万全の護衛体勢を整えたオレ達は、生徒会に相談をすべく歩を進めていた。

 夜の空は晴れきっていて、実に星空が美しい。空はヤマブキシティの灯りに照らされ、薄赤い雲が印象的で。

 

 

「―― いつもとは目前の景色が違うけどさ」

 

「当たり前よ。だって明日は学園祭だもの。ねえノゾミ」

 

「うん、そう。だよね、マイ」

 

「……ん」

 

 

 ナツホの問い掛けにノゾミが頷く。いつもと違うお客人ことマイは、オレらの内ではノゾミと最も波長があったらしく、今も歩きつつ彼女の影に隠れていたり。うんうん。クールビューティーの気があるからな、マイも。確かに気は合いそうだ。

 ……けれど、そう。辺りを見渡す限りの人。敷地内を行き交う資材。そして喧騒。タマムシ大学は「虹葉祭」に向けた準備の真最中なのである! 夜中でも! 前日だしな!

 

 

「はっはぁ。でもマイはタマムシ出身なんでしょう? 随分と慣れていないもんだねえ」

 

「そこはマイの気質だろうよ、ヒトミ。察しろ」

 

「おおっと、ユウキの口から察しろという言葉が出るとは!」

 

「んだそりゃ」

 

「いやね。そこを察しながらも敢えて聞き尋ねるのが淑女の嗜みかと思ったもので」

 

「淑女がド直球を放るもんかよ」

 

 

 珍しく庇う側に回ったユウキを、ヒトミがいつもの調子でド突きまわす。

 この様子にマイも始めは困惑していたが、暫く続ける事で2人の人柄を察したのだろう。どうやらマイの空気察知能力、それ自体は低くも無いみたいだ。無口が過ぎるけどさ。まぁ、なら、そこまで遠慮する必要も無いか……と考え、とりあえずは放置しておく事にしてみていたり。

 暫くはユウキとヒトミ、時折ナツホとオレ。ノゾミとゴウがマイに気を使ってちょくちょく合いの手を入れるといった形で会話を続けながら管理棟を目指して歩く。

 その合間にも、所々で屋台やらを組み上げるサークル員の様子が次々と目に留まった。管理棟の前に広がるエントランスの広場は真なる戦場。真ん中を突っ切るというのは自殺行為にも思え、やや遠回りをして外壁伝いに管理棟の入口を潜った。

 

 

「それじゃあここまでだな。頑張れよ、シュン!」

 

「アタシも応援してるよ。あの生徒会長はかなりの曲者だからね、気をつけて」

 

 

 まずはサークルの違いから、ユウキとヒトミが別行動。

 

 

「それでは僕達も失礼する。話は通しておいた。お前なら上手くやってくれると信じているぞ、シュン」

 

「うん。……じゃあね。……マイ、頑張って」

 

 

 ノゾミに付き従って、ゴウも別行動。マイに手を振って、無表情のまま去っていった。

 こうなると、残るはオレとナツホ。でも、そういえば、珍しくケイスケが寝ていないな。何時もサークル活動の際には寮でだらーっとしているのが恒例なのだけれど。

 オレが隣に、疑問気な視線を送ってみる。すると。

 

 

「んー、ボクはあまりー、イブキとは顔を合わせるべきじゃあないからねー。食堂に行ってー寝てるかなー」

 

 

 ならば何故ここまで帯同をしたのだろうか。……いや、世事に興味のないマイペース・唯我独尊を地で行くケイスケとて、学園祭には多少の興味があったに違いない。そう思っておこう。うん。

 オレもナツホが思わず曖昧な返事をしている内にも、ケイスケは適当に手を振りながら何処ぞへとふらふら移動し、喧騒に紛れてしまった。

 ……オレと、ナツホと、今度はナツホの後ろに隠れたマイ。

 

 

「そんで目前に管理棟、と。……さて、行くか!」

 

「ま、そのために来たんだものね。当然よね。……ほら。行くわよマイ」

 

「……」コク

 

 

 1人と1人をお供に。

 いざ、いざ! 我がスクールの生徒会とやら!!

 

 

 

 Θ―― スクール敷地内/管理棟5階

 

 

 

 管理棟、というのはスクールの敷地のど真ん中に構える建物の事だ。

 1階には学生事務があり、2階から4階には各部門の教員の部屋や応接室。5階は少し特別で、屋上で他の棟と繋がっているために音楽室や美術室といったサークル向けの部屋が立ち並んでいる。

 その内の一室。国立図書館が見える廊下を進めば、一番奥が生徒会室だ。

 

 

「おっけ?」

 

「よし。行きなさい」

 

「……」コク

 

 

 扉を前にしてナツホと顔を見合わせ、マイが頷く。

 ノックすると暫くして返事が返ってきた。扉を開いて中へと入る。

 ……眺めのいい部屋だなぁ。タマムシの夜景が一望できる。部屋を見渡すと、コの字形に置かれた机やその周囲にちらほらと数人の生徒がいるのが見て取れる。

 そのまま数歩踏み入ると、入口を潜って直近の場所にいた女生徒がオレ達を見て……何だか驚いた顔をしているのだが。

 

 

「ナツホ! 生徒会に用事なんて、どうしたの?」

 

「ヒロエ寮長!? な、なんでこんな所に……」

 

 

 女生徒の顔を認識した瞬間、ナツホは思わず身を引き……引く前に頭を下げた。オレも倣って頭を下げる。マイも。

 相手ははぁいと手を振り、気さくな感じだ。ナツホの言葉を引用するならば、彼女は女子寮の寮長であるらしいけれど……女子寮という事は、先輩だな。科は何科なのだろうと考えつつ、こちらも会釈。

 

 

「オーケイ、ナツホ。そんなに構えないで。リラックスしていきましょ! 深呼吸、深呼吸!」

 

「はっ、はい」

 

 

 おおらかな様子の先輩に促され、ナツホは言う通り深呼吸。改まって正面に立つヒロエさんを見つめた。

 

 

「……それにしてもヒロエ寮長が何故こんな所に?」

 

「わたしは生徒会の書記なのよ。言ってなかったかな?」

 

「はい。聞いてませんでした……」

 

「んー……まぁ言うべき事でもないし、言ってなかったかもね。それより、その男の子が例の?」

 

「  」(返答に窮している。誤字ではなく)

 

「あっはは。それはじゃあ、また今度聞く。寮長権限でパワハラだー。……それよりもこの時期に生徒会に用事という事は、学園祭についてだね。それなら会長に直接話してくれるかな。ほら、今丁度奥に座ってるから。格好つけて」

 

 

 ヒロエ寮長が指差した先には、明らかな改造制服の男が腰掛けている。それで良いのか生徒会長。マフラー巻くには早過ぎだろ生徒会長。

 オレとナツホはヒロエさんに一言お礼を言って、奥へと向かう。窓ガラスが近くなる。タマムシの、秋だろうが構わず虹色に輝く夜景と街並みに目が眩む。

 

 

 ――《ピィンッ》

 

 

 オレ達の気配を感じ取って、なのかは分からないが……会長がコインを1つ、弾いた。

 くるくると上昇してゆき……。

 

 ……。

 

 どうした。落ちてこないぞ、コイン。

 

 

「……やれやれ。今日はどういう日かな? 続けざまに相談者がやってくるとは」

 

「あの、それよりも、コインが……」

 

 

 落ちてこないんですが。

 

 

「どうやら窓際にいたせいでかブラインドのレールに引っかかってしまった様子さ。これは誰にとっての節目かな。……さては、役目に従い君達の相談を受け付けようか」

 

 

 やれやれと手を振って、腕を組み、ギーマ会長が正面を向く。

 やや釣った目。バックにあげた髪型。長いマフラー。そして制服をパリッと着こなした細身に長い手足。うん、オレも入学式の時に代表挨拶で見たギーマ会長だ。

 話の流れは分からないが、兎に角相談を受け付ける体勢が整ったというのは判った。オレはナツホが、ひいてはその影に隠れたマイが見えるよう身を引いて話し出す事にする。

 

 

「どういった相談だい? ……ああ待って。あてて見せよう。日は沈み、この時間、そしてこの時期。……学園祭に関する悩み事だろう?」

 

「それはさっきヒロエさんが言ってましたけどね」

 

「……ふっ」

 

 

 オレが咄嗟に言い返してしまうと、ギーマ会長は手を顔に当て目を閉じ吐息を漏らす。何ですかその反応は。

 

 

「勝つ人がいれば、必ず負ける人が居る。勝負とはえてしてそういうものさ。しかしこのギーマ、一流の勝負師として目指すものは次の勝利だけ。さぁ、相談の内容に移ろう!」

 

 

 何だこの人面白いな! それと確かにヒトミの言う通り面倒臭い!

 などと、ギーマ先輩のお人柄にも少しだけ興味は湧いたものの、先に話をしなければなるまい。

 

 

「……」キョロキョロ

 

「実はこの娘も関係してくるんですが ―― 」

 

 

 辺りを忙しなく伺い始めたマイの横に立って、オレは各々の自己紹介の後、先日のロケット団の件を相談し始めた。

 ギーマ先輩は時折頷き、こちらの反応を観察しながら相槌をうってくれる。大事なのは一点。この子(マイ)の安全と学祭に来る人の安全だ。

 その点について万一にも不備をきたしてはならないと身振り手振りを交えながら、マイの兄がプレゼントをの(くだり)までを語り「さあこちらの話は終わりだ」とギーマ先輩の反応を待つ。

 すると。

 

 

「―― まず君に尋ねるよ。そのロケット団は何を狙って事前に、犯行予告紛いの事をしでかしたのか……と思う。君の率直な意見を聞きたい」

 

 

 事実、犯行予告ですけどね。

 ……うーん。オレの感覚が正しいのかは判らないが、出遭ったロケット団員はあのゴウが慎重になっていた相手だ。ギーマ先輩の言葉に応えるなら。

 

 

「ロケット団って捕まる時は一気に捕まるじゃないですか。そんな事件も多い。だとすると計画的な犯行って少ないのかなー、とか思ってたんですが……あのリーダー格っぽい男と実際に会ってみて、オレの印象はかなり変わりました」

 

「印象か。良い意味でかな? それとも」

 

「ロケット団にとっては良い意味。オレ達にとっては悪い意味です。マイを囲んでいた人員の配置といい、少なくともあの頭は綿密に動くタイプの人間に感じました」

 

「だとすると、事前に伝える事ことが目的か……もしくは。フム。ばれても問題の無い計画かもな。それとも、それら全部に加えて想像だにしない選択肢っていう確立だってありうるぜ」

 

「ですね」

 

 

 ギーマ先輩が次々と選択肢をあげ、オレが頷く。どちらにせよ学生の領分かといわれると疑問符の浮かぶ案件には違いない。だからこそ生徒会がその窓口か、と、こうして相談に持ちかけているんだけどさ。

 暫く悩んでいた先輩は、胸元から別のコインを出して弾き ―― 伏せる。

 

 

「どっちだい?」

 

「表で」

 

 

 開口と同時に即答。その質問は予測してましたので。

 そろりと掌を明かせば。

 

 

「―― アタリ、か。ナルホド。この面倒、生徒会も引き受けようじゃあないか」

 

「うわ。アンタ、当たんなければ引き受けなかったの?」

 

「手厳しい。……これはギーマ流の精神統一みたいなものさ。見逃してくれると嬉しいよ、レディー」

 

 

 厳しい口調になったナツホに向けて気障で皮肉気な動作で笑い、視線を逸らすギーマ会長。

 いやナツホ、いままでの会話で大体判るだろ。この会長は面倒くさいタイプの人間だって。それに多分、今のコインは両方表か両方裏だと思う。どこの国の通貨でもなかったしさ。事前に確認もしなかった。

 

 

「さて。そちらの影に隠れた小さなレディーが襲われた当人だね。宜しく。……ナルホド、そちらのレディーも腕は立つようだ。とはいえ護衛は必要だろう。ご実家は?」

 

「両親ともにタマムシ大学に勤めているそうです。研究が忙しくなる秋場は居ない日もあるそうで、残念ながら今日がその日で」

 

「そうか。なら大学内の応接用の客間を宿泊用に使ってもらおう。その方が両親も安心できるし、何より近い。事案が落ち着くまではここの3階に居を構えてくれるよう連絡を回しておこう。両親にも連絡を回す。研究棟かな」

 

 

 言ってギーマ先輩が指をぱちりと弾くと、その辺りに立っていた女子生徒がおっけーでーすと子機を取る。以心伝心であるらしい。この辺りは流石といった所か。

 そのままマイから、今度はもう1つと話題を移す。

 

 

「虹葉祭の警備についても先生方と検討しておこう。だけどね、時期が時期。たったの前日だ。正式な脅迫状が届いた訳でもなし。警備を強化する以外の選択肢は存在しないだろうぜ」

 

「例えば、お祭りをずらすとかは駄目なんですか?」

 

「こういうのは決まり事ってヤツでね。上の方々ってのは何事も時分通りに進まないと気が済まないもんさ。それも学生の本分は勉強だと言われれば不本意はない。……が、そんなお祭りを学業の一旦だと言い切っているのは誰なんだか。真顔で言い切るあの人種には、一度鏡を見てみる事をオススメするよ」

 

「あによそれ。都合都合って面倒くさい」

 

「それが学生の限界。だからそう怒ってくれるなよ、君達。タマムシ大学全てを使っての規模と成ると経済効果も大分なんだぜ? 不確かなもので中止にするのが勿体無いかどうか、数字を見ることがあれば判断もつくだろうさ」

 

 

 いやさ、怒る理由は無いけど……それもそうか。だからこそあの男もオレ達に声をかけたのかもしれないな。影響がないと判っていて……けれども、それに対応する人員の反応をみたくて。

 

 

「という訳でこのギーマ。会長としての役職を引き受けている限りは、まずは、学生達とお客様方の安全に気を配るとしようか。警備の見直しと増員。それにロケット団員への警戒をしておくことにするさ。それも一般客に紛れられてしまえば難しいだろうが」

 

「お願いします」

 

「……判ったわよ」

 

「……」ペコリ

 

 

 オレとナツホ、それに始終を見守っていたマイも揃って頭を下げる。

 しっかし、生徒会に頼んだとしては最高の反応ではなかったか。最悪、質の悪い冗談だと受け取れる可能性まで考慮していたんだけどさ。

 

 

「シュン。痛みの訴えは、当人が痛いと言えば確かに有るもんなんだぜ」

 

「ありがたいです。でもそれを全て応対していては身が持たないんじゃ?」

 

「そこを見極めるのがこのギーマの引き受けている役目さ。実働は生徒会だけでなく教員にもしてもらう」

 

 

 だからこそ教員との関係は大事なのさ……だそうだ。流石は先輩だな。というかギーマ先輩は何歳なのだろう。どうも上級科生のジムリーダークラス以上になると年数がバラけてくるんで判らないんだが。

 とは思いつつも、用事は済んだ。それも良い方向でだ。ギーマ先輩は頼れる人だと思うし、長居することもあるまい。頭を下げ、退出を。

 

 

「―― ところで、シュン」

 

 

 けれど、ナツホとマイが出口を潜った頃合で、再びオレを呼び止めた。

 なんでしょう。

 

 

「君はケイスケという男子生徒の友人かい?」

 

「まぁ、はい」

 

 

 ですが、その情報を何処から仕入れたのでしょうか。

 

 

「ああ。あのイブキ君が彼の事になると口煩く言うものでね。友人だという君の名前も何度か挙がっていたよ」

 

「イブキ先輩が? ……ケイスケを?」

 

 

 イブキ先輩といえば昨年末の学生トーナメントでエリトレながらに準優勝をした、現ジムリーダークラスの事実上の主席である。因みに一昨年の優勝者が目の前に居るギーマ先輩な。

 さて。そんな人が何故ケイスケの悪口を……いや、口煩くというだけで悪口とは決まっていないけど。

 

 

「いや。これが聞くだけ聞けば、全く持って悪口なのさ。その文面に秘められた意味を理解するには、直接彼女の言葉を聞いて反応を窺わなければならないだろう」

 

「……それって」

 

「「―― ツンデレ(かい)?」」

 

 

 思わずギーマ先輩と声が被ってしまう。いやさ。こちとらそんな幼馴染と数年来の友人やってるんで、真っ先に単語が浮かんできてしまうんだよな。ツンデレ。

 

 

「そうか。このギーマ、彼女の意思を後一歩で測りかねていたが、だとすると色々とおもし……明確にものが見えてきそうだ」

 

 

 今、面白いって半分以上言ったけどな。言いかけですらないです。

 しかし、イブキ先輩はツンデレなのか。そう言えばケイスケも言っていた気がするな。それもまだ疑惑ではあるが……うーん。

 

 

「イブキ先輩、ケイスケと直接会ったりはしてますか?」

 

「見たことがないね。ツンデレというのはツンツンする当人が居なければツンだけだろう? それは只の取っ付き辛い人だ。しかしてこのギーマ、良く知りもしない人間を端から決めてかかるのは好きじゃあない。そしてそれは生徒会の人間も同様だ」

 

「成る程」

 

 

 もしかすれば、今正にイブキ先輩がそういった状態であるのかもしれない。ギーマ先輩と同じく生徒会をやっているイブキ先輩の真意は測りかねる……が、だとするとツンデレと判明するのは良い事なのかもしれないな。ナツホもそうだったしさ。

 考え続けるオレにありがとうとお礼を言ってギーマ先輩は話題を切る。

 

 

「わざわざ帰る前に声をかけさせて貰ったが、どうという事は無い。これだけさ。あのレディーには聞かせない方が良いと判断したのでね」

 

「気遣いをありがとうございます」

 

「ああ。事件については進展があったら君と小さなレディーへ伝えよう。園芸サークルにも、直接ね」

 

「はい。お願いします」

 

 

 最後に真心を込めて頭を下げ、生徒会室を出る。

 ……何と言うか、やぱり個性的な人が多いな。この大学傘下。何だろう。そういう時期柄なのだろうか。変人が集まる世代か。掛け値なしに嫌だな。だってオレもいるんだぜその世代。

 そんな無駄な事を考えつつ、オレとナツホはマイを引き連れて敷地内へと戻る事にした。

 

 

 

 

 Θ―― タマムシシティ/運動公園

 

 

 

 明けて翌日、明朝。

 

 とはいえオレ自身、マイが再び狙われる確率が高いとは思っていない。それについてはあの後にギーマ先輩が相談してくれた教師陣、加えてジュンサーさん達も同様の見解のようだ。

 その原因は、ロケット団が何故マイの持つポケモンを狙ったのか……その理由にある。

 

 

「神様の系譜?」

 

「……。この、ロコン。……ホウエン地方で、有名な一族、みたい」

 

「そりゃまた随分と豪勢な家系だな。なんなんだ。華麗なる一族とかなのか」

 

「それは人。ポケモンの場合はお神輿に担がれるんじゃないの?」

 

「ん」

 

 

 朝のジョギングをしつつ、マイが頷く。

 人目のある公園ならばと早朝ジョギングに誘ってみると、マイは存外に快く応じてくれた。もしかしたら見知らぬ部屋に閉じこもる疲労もあったのかもしれないな。あ、勿論ナツホ同伴。

 しかしそれよりも、ロコンの素性だ。ナツホの「お神輿に担がれる」って考えはあたらずも遠からずみたいだ。マイはこくこく頷いて。

 

 

「……日照の、岩戸」

 

「ああ。踊ってたら出てくる奴な」

 

「実際はもっとえぐいけどね。それで、その日照りの岩戸に出てくるのがこのロコンの家族なの?」

 

「……」コクコク

 

 

 らしい。

 実際、ポケモンを神様として仰ぐ地方は数多い。こないだ国立図書館でお菓子を調べようとした際に、文献で沢山見かけたしさ。

 因みに、オレの故郷でもあるジョウト地方は古めかしい所以でか特に顕著で、ホウオウと三犬、海の神様の伝説とポケモン神話には事欠かない。中でも有名なホウオウは、特にマツバ寮長やハヤト(元)委員長なんかが詳しい。というか、伝説の少ないカントーが例外的だ。

 ……とはいえそれら伝説と謳われるポケモン達は、総じて人前に姿を現さない。虹や嵐といった自然現象に置き換えられるのが通常だ。

 となると、このロコンは。

 

 

「―― ロコン。日照りの、神さま」

 

「それも今は休業中なんだろ?」

 

 

 らしい(2回目)。

 つまるところ、マイが抱えるモンスターボールに納まったロコンは日照をもたらす力があった(・・・)ようだ。ショウの言葉で言うポケモンの「特性」だ。あ、理由は判らないが今は能力も失われて過去形らしい(3回目)。

 しかし、天候を変える程の強力な特性となると聞いたことが無いな。ホウエン地方の伝説にある古代ポケモンにその一端が垣間見える程度で、もし実在するとすればバトルにおいても非常に有用な特性になる筈だ。

 ま、その能力を失っているとすればロケット団にとっても優先度は低いよな……という思考の流れなのである。血統自体は有用だったのかも知れないが、危険を犯してまで大学の敷地内に奪いに来る相手かと言われると微妙だ。目の前にあったなら、そりゃあ奪うだろうけど。

 後は、会話におけるマイの三点リーダが少なくなって来た事は幸いか。とはいえオレ達が居なくなるとまた言葉少なに戻る訳で、マイの未来には一抹の不安を覚えるな。どうにかこうにか、良く喋る……彼女の意図を汲んでくれる器用な友人が居ればなぁ。それが居ないから苦労しているんだろうけれどさ。頑張れよー、おにぃちゃんとやら。

 

 

「……でも、この子。特性が無くなって……それで……。……」

 

「普通のポケモンに戻れたなら、喜ばしいこともままあるさ。人生、何事も経験だって」

 

 

 だからこそロコンはこうして一般に出回った、って事だしな。それはきっと幸せだと思う。囲まれ祭られ、一箇所に留められているよりも ―― 少なくともオレはさ。

 そういった想いを込めつつ、マイに語りかけていると。

 

 

「……ん」

 

「そのお兄さんって優しい人なんでしょ? だったら大丈夫よ。喜んでくれると思うわ。……べっ、別にシュンの楽観的な意見を庇ったわけじゃないけどね!?」

 

 

 流石は幼馴染。オレの意見を順当にフォローしてくれつつもツンデレる抜け目ない可愛さよ。

 なんて、走っていた足を止めてほっこりしていると、マイの足元……地面からのそりとポケモンが這い出てくる。

 

 

「ツッツチィ?」

 

「……おいで、ツチニン」

 

 

 足を止めたことで追いついたのだろう。マイはゆらゆらと髭のような触覚を揺らす虫ポケモン……ツチニンを抱き上げる。

 ツチニンは確かこの辺りには居ないポケモンの筈なのだが、マイに曰く彼女のポケモンは大体が兄または兄の仲間達から譲られているポケモンであるらしい。

 とはいえ、マイは一般科スクールの生徒でもあるためオレらと同じくボールによるレベル制限がかかっているのだが、ツチニンのレベルも13と一般クラスにおいてはかなりの高レベルとなっている辺りに、彼女自身の勤勉さも窺えるというものだ。

 

 

「……ん」

 

「ま、その恩を返すためにもロコンはしっかり兄貴に届けなきゃあな」

 

「それはそうね ―― うん?」

 

 

 ――《 パァンッ、パン、パアンッッ!! 》

 

 

 タマムシの空に炸裂する火薬音に、思わず会話を止めた。

 空を見上げる。

 

 

『―― ガ、ガガガガッ。

 本日午前10時より、タマムシ大学学園祭『虹葉祭』を開催致します。タマムシ大学の敷地内全域を使った学園祭に、皆様どうぞご参加ください。

 繰り返し、お伝えいたします。本日午前10時より、タマムシ大学学園祭『虹葉祭』を ――』

 

 

 スピーカから流れた放送に、ナツホと、それにマイとも顔を見合わせる。

 

 

「開催まであと1時間ちょいか。そろそろ園芸サークルにも人が居るかな」

 

「プランター出しとかは昨日の内に済んでるけど……そね。お菓子班の方とかなら手伝えるんじゃない?」

 

「そんなら、サークルに顔出すか。売り子の当番は昼過ぎだけど、まぁ何か手伝っておこう」

 

「うん。ほら、マイも」

 

「……ん」

 

「ツッツチ!」

 

 

 ナツホがマイの手を引いて、マイの頭上にツチニンが上って。

 そのまま、いよいよ、学園祭が催される敷地内へと脚を向けた。

 

 





 さてさて。
 これにて今回分終了です。皆様、良いお年をーぅ。



▼エリートトレーナーのヒロエ
 出展はRSEより。チャンピオンロードで待ち受けるエリトレ軍団の一端。手持ちポケモンはヤミラミ、アブソル。
 リメイク版では、確か、いなかったはず……。トレーナー種がかなり変更加えられていますので。あ、とはいえリョウヘイは居ましたね。相も変わらず勝ち抜き一家の長男でした。
 因みに負けた時の台詞が「ワンダフル!」。どこぞの人はグロリアス。明るめな台詞がお気に入りです。

「チャンピオンロードだって今までの道のりと変わらないわ。残りもエンジョイしてね」


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