ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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1995/秋 VSロケット団②

 

 コラッタを無事捕獲したオレ達は、一度近場のジュンサーさんと連絡。

 その後に追ってギーマさんから収集の連絡が入ったため、三度生徒会室へと向かう事に。

 

 

 Θ―― 管理棟/生徒会室

 

 

「入りますよー」

 

 

 陽気なルリに引き連れられ、いざ生徒会室へと踏み入れば……恐らくは会長かジュンサーさん辺りが事前に説明していたのだろう。赤ジャージ瓶底眼鏡ツーテールに驚く人はいたものの、ルリが居る事それ自体にはそこまで驚かれずにいた。

 生徒会質はギーマ会長ら生徒会役員の他に、今回協力しているジュンサーさん(偉めの階級)。それに加えて教師陣の代表幾人かが腰を下ろして話し合いをしている最中である。

 その中に堂々と入り、取り外した首輪を手土産に、ルリが指し出したものはというと。

 

 

「―― なんだこれ?」

 

「ポケモンマーカー、と言ったか」

 

 

 オレとゴウが思わず疑問を口にするのも無理からぬこと。

 なにせ、エリトレ全員および警官達の持つトレーナーツールに、白衣眼鏡の女性……マコモさんが新たな(謎の)機能を追加してみせたのである。

 で、その機能の名前がゴウの言う「ポケモンマーカー」という訳で。

 

 

「是非とも説明をお願いしたいね、元チャンピオン殿」

 

「こういう時にしっかりと『元』を付けてくれる辺りが用意周到ですね、ギーマ会長。……ですがまぁ、これの開発に携わりましたのはあたしではなく、こっちのマコモ姉さんですんで。解説をお願いします、姉さん」

 

「はい、承りました!」

 

 

 促され、マコモさんは自分の手に持った機器(ツール)に件の「ポケモンマーカー」を起動させた。

 

 

「……これは」

 

「地図、だよな」

 

 

 そう。画面に映し出されたのは、タマムシ大学敷地全体の地図。

 注目すべきはその画面の1点。管理棟の辺りに「赤い点」が明滅している。

 

 

「その赤い点はなんですか?」

 

「ええ、良くぞ聞いてくれました。この赤印は、シュン君達が先ほど遭遇した首輪付きのコラッタの所在地を指しています。つまり、遭遇したポケモンを追う事が出来る機能なんです! これ!」

 

 

 コラッタの入ったボールを掲げ、女研究員らしからぬ軽快さでピョンピョンと跳ねながら、マコモさんはテンション全開に説明をくれる。鼻息も荒い。どういった原理でか、眼鏡のレンズがむやみやたらと光る。……うん、その隣にいるルリのしかめっ面が印象的だ。

 ま、それは置いといて。

 つまりこの「ポケモンマーカー」……略してマーカーは、トレーナーツールにポケモンの認識と追尾を備えさせるものであると。ルリ、合ってるか?

 

 

「ええ、合ってますね」

 

「だからさっきのコラッタを、そうしてボールまま持って来てるって訳か」

 

「はい。本来はID登録された時点でマーカー消去されるのですが、このボールが特別性ですので。……さて。このマーカー、本来はポケモン図鑑構築の為に作ってもらったのですが、マコモさんの発明家としての実力は想像以上でしたので、こうして色々な機器で使える様にしているのです。今回の事件に関して言えば有用な機能だと判断しましたが……どうです?」

 

 

 そんなの言うまでも無く有用だって。何せ相手は野生のポケモン達だ。先のオレらの様に、ポケモンの側に逃げられる場面はかなり多くなるだろうしさ。

 ルリの視線を(何故か)背中で受け止め、ギーマ会長は(やれやれと)頷いてみせる。素直じゃないなこの人も。

 

 

「あるとないとでは大分の差だろうぜ。ありがたい」

 

「お役に立てればなにより。……あー、そういえば。既に先手を打っていまして、先ほど途中で遭ったジュンサーさんにマーカーの現物を手渡してありますよ。此方から正規の命令を送ってくだされば直ぐにでも配布は可能かと思います」

 

 

 おお、成る程。ルリが途中でジュンサーさんの所に寄ったのはこのためだったか。

 この言葉を受けて、マコモさんのアドバイスを貰いながら、ジュンサーさん(偉)は通信機を使って指示を出し始めた。

 慌しく成り始めた対策本部にて。動じないのは、先ず、生徒会長。ジュンサーさん達を尻目に指を鳴らす。

 

 

 《パチンッ!》

 

「―― 次いでだ。報告を待つ間を利用して、この1時間で見付かった首輪から得た情報を統合してみるとしよう。ヒロエ君」

 

「了解ですよ、会長」

 

 

 この話題を切り出す頃合を見計らっていたのだろう。

 ギーマ会長が再び指を鳴らすと、ヒロエ寮長がホワイトボードに次々と書き込みを始めてくれていた。

 さてその内容はというと……これまでの人海戦術で捉えられた「首輪つき」のポケモンの数は3。ルリ達が捕まえてくれたもの以外も、いずれもがコラッタ。のんびり敷地内を駆け回っていたのだそうだ。

 

 

「生息地の広いポケモンだしな、コラッタ」

 

「……シュンよ。今はそれよりも、爆弾とやらの数に気を配るべきなのだが」

 

 

 ゴウの仰る通りで。

 オレも、今度は口を(つぐ)んで盤面を見つめる。

 

 

「では情報を統合して、警邏担当から1つ注意点を。これまで『首輪つき』のポケモンの周囲には、必ず私服のロケット団員が潜んでいました。いずれもポケモン勝負を挑んで来て捜索を妨害するそうです。この妨害は、今後もあるとみて間違いないでしょう。団員トレーナー数は1人もしくは2人。場合によってはもっと増えるかもしれません。一応、こちら側がバトルに負けたとしてもロケット団側は逃走する様子です。経験則ですが」

 

「解説に感謝するぜ、ジュンサーさん。……では我が生徒会からも注釈を加えておこう。逃走に関しては、多分『あなぬけのヒモ』を使用されている。此方も対策は打ち始めているが、圧倒的に時間が足りない状況だ。現状、よっぽど構えていない限り当事者らを捕まえるのは難しいだろうぜ。……ま、つまり、ロケット団員はほっといて目下の危険。爆弾の無力化を優先しようという訳さ」

 

 

 もう対策を打ってるのか。早いもんだな。

 とはいえ、エリトレ組の講義で習った限り「モンスターボール」や「あなぬけのヒモ」といった道具には犯罪防止のための対策措置や器具が用意されるのが決まりであるらしい。多少時間は掛かるみたいだが、その辺はオレ達にはどうしようもない。ジュンサーさん達に任せるのが得策だろうな。

 その説明に生徒会室に集まった人員……全員含めて30名ほどが頷いたのを確認して、ギーマ会長は続ける。

 

 

「……さて、ここいらで記憶媒体の確認も丁度終わったみたいだ。このデータを信じるならば、爆発物の数は全部で8。……場所が判明しているのは……新B棟裏、旧西棟前、図書館裏国立公園か」

 

「どれも管理棟からは遠いですね。早速、付近のジュンサーに捜索を要請します。暫しお待ちを」

 

 

 そう言って、偉めのジュンサーさんがきびきびとした動きで部下に指示を送る。

 生徒会室の後ろのほう。オレは腕を組んで壁に寄り掛かりつつ……それにしても、8個か。大学の敷地は広いぞ。全部を見つけるには中々に骨が折れるだろう。

 そして8とか、リーグ挑戦に必要なバッジの数と同じだな。ロケット団がジムトレでと考えると、語呂合わせとしても中々だ。……いやさ、本当にどうでも良いけど。

 満遍なく警備を敷いていたからであろう。程なくして、爆発物らしき物を確保したとの報告が入った様だ。ジュンサーさん(偉)が通信機を耳に当てたままで会長、それと教師を見渡す。

 

 

「―― 形は、各辺50センチほどの正方形の箱だそうです。ご丁寧にロケット団のマーク入り。頑丈ですが、外から何かを仕掛けて爆発させてしまっては元も子もありません。まずは、爆発しても無害な場所へ移送しましょう。解体は後回しに」

 

「頼もうか。ところで、平行して捜索を行っても良いのかな?」

 

「そちらは構いません。むしろこれまでポケモンを発見してくださったのが生徒ばかりだという部分を考えると、是非お願いしたい所ですよ、ギーマ会長」

 

「なに、学生には地の利があるからだろうさ」

 

 

 自嘲気味な台詞に、ギーマ会長は何を馬鹿なとでも言いたげな様子でもって返答。

 そんな会長を、ジュンサーさんは苦笑しながらみやり。

 

 

「ポケモンの扱いに関しても、恐らくは学生さんの方が上手いでしょうね。大人として情けない話ではありますが。……そして、あの」

 

 

 言葉を濁す。ジュンサーさんの視線はそのまま、隣にいた教員へと向けられている。

 件の教員はというと……いや。

 

 

「ふわ……。……うん? あたくし?」

 

 

 そうだ。あくびをしているけど、エリカ先生じゃあないんだなこれが!

 見事なまでの銀髪をなびかせているその教員は、カリン先生。カリン先生は現在、多忙な他教員の替わりに代表としてこの生徒会室に出頭しているのである。

 ダツラ先生(熱血)と足して2で割れば丁度良い按配になりそうな、ダウナーテンションが特徴のカリン先生。脱力して椅子の背もたれへと完全に体重を預けたその姿は、ジュンサーさんの視線を困惑一色に染め上げられている。

 

 

「あの……。……先生方としてはどうお考えでしょうか」

 

「? あたくしはさっきのそれで、別に、構わないけど。生徒の安全をって意味で聞いているなら……そうね。上級科生を子ども扱いするのもどうかと思う。子どもではあるけど」

 

 

 カリン先生の投げやりにも聞こえる返答を受けて、ジュンサーさんは眉をひそめた。

 うん。社会的にはジュンサーさんの反応が正しい。正しいが……しかしカリン先生は動じず、むしろ呆れた表情で見返して。

 

 

「なに、心配なの? それって無駄だし……大丈夫よ。だって、やるべき事ははっきりしているじゃない。状況は理解したわ。次からはあたくしも捜索を手伝ってアゲル」

 

「貴方が自ら?」

 

「そう。教員含めて、指示ならそこの会長に任せれば良いのよ。そいつ優秀だし。あと、あたくしそういうの苦手だし」

 

 

 だそうだ。指差されたギーマ会長は、ニヒルな感じの笑いと共に慣れた手つきのお手上げポーズ。

 ジュンサーさんの視線が遂には大丈夫かコイツというような感じになり……教員であるからには礼を逸することも出来ず、「はぁ」とかいう気の抜けた声に変わった。

 

「(うーん。でもま、カリン先生なら現場に出ていた方が活躍できるぞ?)」

 

 ジュンサーさんはカリン先生を「教員」として見ているのだろう。だからこそ失望気味なのだと思う。

 けど今回の事件において、爆弾のヒントを集めるべく「首輪つき」に挑むと、ロケット団にバトルを挑まれると言う。それについてはオレらも経験済みだしな。

 だとすれば。カリン先生のポケモントレーナー及び実働能力を知っているオレ達からすれば、この人が動いてくれることは頼もしい事この上ないんだよな。実戦的でさ。

 

 

「それに……何より、今って、形振り構っていられない状況じゃない? 好きよ、あたくし。そういうの」

 

 

 腰に手を当て、妖艶に笑って見せる先生。……でも好き嫌いで語るって、子どもか!

 とはいえカリン先生は困った人ではあるが一騎当千のトレーナーである。それら実情を知っている生徒会側からも賛成を受けると、ジュンサーさんは渋々疑問を引っ込めた。

 

 

「んでは、カリン先生の奮闘にも期待をばさせていただきまして……爆弾らしき物体の回収と移送、遅れて解体まではジュンサーさん達に。あたし達は早速、他の『首輪つき』のポケモン達を探しに出かけましょう」

 

 

 カリン先生については言葉で説明してもきりが無いと踏んだのだろう。ルリが締めると異論もなく、生徒会室での会議は終了となった。

 生徒会室に居た人員も、6割ほどが布陣について相談を始めている。動き出しが早いな。当然といえば当然か。ギーマさんからの連絡も追って入るし、ここに居るよりも「首輪つき」の回収を迅速に行う方針なんだし。

 

 

「それでは捜索へ移る!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

「所で、一般客の方に動揺は無いか?」

 

「お祭りの陽気にあてられてか、ポケモンが騒ぎ出す事件が幾つも。ですがどれも管理棟の前でしたので、直ぐに収まりましたね」

 

「ロケット団とのバトルについては、ゲリラバトル研究会の催しなどもあってか気に留められてはいない様子です」

 

「あの、会長、この報告なのですが……」

 

「ふん? ああ、それは、そうだな ――」

 

 

 ジュンサーさん達が一斉に動き出す。

 生徒会室に置かれたPCにも実働部隊からの電子文面が次々と届き。

 全員が1つの目的に向かって足並みを揃えている。実に緊張感を感じる状況だ。

 いやさ。爆弾騒ぎなんだから、これが本来、正しい反応な訳だけど。

 

 

「―― ふぁぁ……っく。ま、楽しくなってきたわ。悪の組織が矜持で持って行動しているのなら、それを打ち砕くのもまたあたくしの役目よね」

 

 

 とはいえ、そんな雰囲気を気にした様子も無く。カリン先生は早速とヒールを鳴らして管理棟の外へと向かったのであった。

 因みに台詞の出だしはあくびからあくびのかみ殺しに移行しただけであり、危険な単語とは一切関係が無い事を、ここに主張しておきたい。是非ともな。

 

 

「んでは……あたし達も捜索に行きましょう。シュン君、ゴウ君、マコモさん」

 

「あいあいあいまむー!」

 

「……マコモさんの返答は、アイが多いのだが」

 

「そういうお人なんだろ」

 

 

 過剰な愛は兎も角、心機一転。目的もはっきり明快だ。

 オレ達も、赤ジャージルリ及びマコモさんと共に、本格的な捜索へと移る事にしますか!

 

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 Θ―― タマムシ大学敷地内/大講堂横

 

 

 学園祭を楽しむ人々が未だ多く行き交う ――

 

 ―― 行き交う位置から数百メートルほど横道に逸れ、木々の合間に開けた空き地にて。

 

 

 予想通りというかお決まりの通りというか。

 兎も角。ロケット団との小競り合いは始められていますと……!

 

 

「―― っけ、ガキの癖していきがってんじゃあ……ねえ! とっとと噛みつけゴルバット!!」

 

「頑張れアカネ、『あくび』だ!」

 

「ブ、ブイッ!」コクコク

 

 

 オレおよびゴウに相対したロケット団2人の内、正面に居る団員のゴルバットに向かって、アカネが後攻めの『あくび』。

 白い(もや)に包まれ、ゴルバットの瞼が重くなってゆく……っし!

 

 

「ナイスだアカネ! 交替だ ―― ベニッ!!」

 

 《ボウンッ》

 

「グッグ!」

 

 

 ボールから飛び出したクラブ(ベニ)はすぐさま、鋏を楯の様に構えた。

 動きの鈍くなったゴルバットの『かみつく』を受け、そのまま、地面に降り立った瞬間を狙って……いっけぇ!!

 

 

「……ゴルバッ?」

 

「グッ、グッ ―― グゥ!!」

 

 《バシャァンッ!》

 

「げえっ……ゴルバット!?」

 

「ル……バァ~ット」

 

 

 渾身の『クラブハンマー』でもって、ゴルバットを地に落とす。

 ベニによる最大威力の攻撃だ。見事、レベル18(・・・・・)と高レベルのゴルバットを打ち倒すことに成功。

 よぉしよし。連携は上手くいってるぞ……とかとか、ガッツポーズをしている間にも、トレーナーたるロケット団員は姿を消していたりするんだけどさ。

 

 

「しかも『ひんし』のゴルバットを置いたままとか。……何ともはや、いたたまれない感じがするぞ。恐るべき逃げ足」

「グッグゥ」

 

「それが奴らのやり方、という事なのだろう。……此方も勝利したぞ、シュン」

「ムームー!」

 

「ありがとな、ウリムー。ダブルバトルでの『こごえるかぜ』は助かったよ」

「グッグ!」ジャッジャ

「ム~ゥ」ズリズリ

 

 

 ゴウと互いに、バトルを終えたポケモンを戻し。腹に貯まる勝利の余韻を反芻しながら。

 こうして闘ってみて判ったのだが、ロケット団が使うポケモンって、コラッタとズバット、それにアーボとドガースの系等に偏ってるんだよな。

 つまり、オレの手持ちであるマダツボミ、クラブ、イーブイとの相性は決して「悪くない」。何せ弱点を突かれる事が殆ど無いのだ。強いて言えば、それは相手も同じ事だけど……逆にトレーナーの組み立て次第でどうにでも出来るということでもあるし。

 オレもエリトレとして勉強しているからこそ実感できている。ポケモン勝負において、タイプ相性というものはひっくり返すことが難しい最大の壁でもあるのだと。

 ……ま、いずれにせよ腕の見せ所だと思えば、マフィアの平団員に負けている訳にはいかないよな。そこを何とかして見せるのがトレーナーの役割であり、最も楽しい部分でもあるのだから。

 そんな風に思い至りつつゴウと並んでいると、先行してコラッタの捕獲に走ったルリとマコモさんが正面から戻り来る。その手には勿論、コラッタ。無事、捕獲には成功したみたいだな。

 

 

「クーチィ!」「ガチガチ!」

 

「マタドガスの相手ありがとう、クチート。あたしの指示なしでも十分動けてましたね」

 

「チィ!」「ガチン!」

 

「ありがと! 後でサークルのお菓子をおごりますよ。お陰でこっちは勝手に動けましたし。……んでは、首輪を回収してデータを転送……マコモ姉さん?」

 

「はい、それは既に済みました!」

 

「手早くやってくださり助かります」

 

「いえいえ。それよりルリちゃん、ゴルバットは? やっぱり鹵獲します?」

 

「実を言うと、結果的に鹵獲では無い様なのですが……むう。……まぁそれは置いておくにしても『ひんし』のゴルバットを敷地内で放っておく訳には行きませんから、ボールには入れておきましょう」

 

 

 なにやらぶつぶつと続けつつ、元チャンピオンはボールにクチートを戻す。ゴルバットは同様に白い網の中へと納めて。

 それにしても、長年の経験からか、ルリとマコモさんは連携も万全の様子だな。実に頼もしい。

 さて……進行具合。そろそろか?

 

 

「んで、回収の進度は如何に……と」

 

「しばしのお待ちを。今、マコモ姉さんに伺って貰っていますので」

 

「―― はい、はい……そうですか。判りました。……朗報ですよルリちゃん! 首輪つきコラッタの捕獲は終了し、爆発物8つ全ての場所が判明したみたいですーっ!!」

 

「おー。それは何より……わぷ。抱きつかないで下さい、マコモ姉さん。苦しいので」

 

「カリン先生が頑張ってくださったみたいです!」

 

 

 それでも後ろから抱きつくマコモさん。うーん、こうして見ていると本当の姉妹みたいだ。態度と振る舞いで言えば、むしろマコモさんが妹みたいだけどさ。

 ルリ抱き枕を装備した状態のマコモさんに詳しい状況を尋ねると、どうやらカリン先生が鬼神の如き突破力でもってロケット団員をものともせず蹴散らした……らしい。妨害さえ無ければジュンサーさん達の機動力でもって捕獲するのは容易、って訳だったらしい。実にカリン先生らしいな。うん。らしいらしい。伝聞。

 

 

「嬉しいですねー!」

 

「はいはい嬉しいですねー」

 

 

 抱き合う2人は目の保養……兎も角。

 ロケット団との小競り合いや野生ポケモンとの追いかけっこをこなす事、数多く。苦労の甲斐もあってか、全ての爆弾の場所が判明したという。これにて事態は収束へと向かうはず。

 ……しかしオレとしては、ルリの表情が未だ晴れないのが気になるところだな。確かにロケット団……というよりも、あのリーダー格の紫髪の男か。あの男にしては、呆気ない事件の締め括りというか。もっと綿密な備えのある作戦な気がしていたのはオレも同様だ。

 気になるし、少しまとめよう。……報告の通り全ての爆弾の場所が判明したのなら、オレ達の仕事は終了なのだ。爆弾が見付かるのも時間の問題。その点についてはジュンサーさん達に任せてしまって良いハズ。―― ああ。本来は、だけど。

 するとここで、ルリは一頻り抱きつかせていたマコモさんから身体を離し、本部のある方向を指差す。

 

 

「ではマコモ姉さん、そろそろ先に本部へ行っていてください。30分もすれば人員が集まるでしょう。爆発物とやらの解体が始まるはずです。……只の爆弾なら良いのですが、中にビリリダマとかが仕込まれていたら、マコモ姉さんの力が必要になりますんで」

 

「むぅ、それもそうですね。……名残惜しいですが、それでは!!」

 

「宜しくお願いします。お気をつけて、マコモ姉さん」

 

「任せてください!」

 

 

 ばたばたと去ってゆくマコモさんを、オレとゴウも立ち止まって見送る。

 残された3人で顔を見合わせ……真っ先に口を開いたのはやはり、ルリだ。

 

 

「貴方達は……あー……同じく、先に本部である生徒会室へどうぞ。事件の顛末を見届けていてください。管理棟に行くならば、ついでに、貴方達が守ったという誰かしらの妹さんにも挨拶が出来るでしょうし」

 

「―― その言い様。まだ、何かあるのか?」

 

 

 ルリの話した内容は右から左へ。ゴウがそう尋ねると、ルリはばつが悪そうな表情を作った。

 「先に」……って。ルリはまだこの場に居残るか、もしくは。

 

 

「一緒に行かないってことは、そうなんだな」

 

「いえいえ。如何せん、野暮用ですが」

 

「その野暮用にロケット団が絡むんだろ」

 

「……あー、まぁ、恐らく」

 

 

 そして差し指で頬をかく。

 何というか、不器用な奴だな。隠す気はないのだろうけれど、進んでオレらを「巻き込む」つもりも無いという事か。

 微妙に居心地の悪い間。その間を縫って。

 

 

「ならば悪いがシュン、ルリ。……僕はそろそろ一度、ノゾミの様子を見に行こうと思う」

 

 

 と、ゴウは切り出した。

 この流れをぶった切る発言ではあるのだが、うん。

 

 

「? ……どういう?」

 

 

 ルリがオレを見ている。その頭上に疑問符を添えて。

 成る程。ゴウの発言を繰り返す。ノゾミの護衛を、か。

 

 

「―― そう言えば、もう16時か。3時間も待ってもらってるんだものな。お役目を放り投げるわけには行かないし」

 

「力になれずすまないが」

 

「いや、判ってる。危ない状況があるとすればここからだ。……ゴウが守るべきものを違えていなくて、オレとしては嬉しい限りだよ」

 

 

 ルリが巻き込みたくないという事は厄介な案件であるに違いない。それなら尚更、人手は必要だろう。乗りかかった船。オレはそれを手伝うにしても、ゴウには守るべき姫君がいるのだから。

 そんな風に納得したオレを、ゴウは……怪訝な眼差しで。

 

 

「む? ……いや。勘違いしているぞ、シュン。一般市民も多く参加する催しに脅威を振りまいたロケット団を、僕の手で打ち倒せない事……それはそれで悔しいが」

 

 

 腕を組み、憮然とした顔つき。

 

 

「僕が戻る理由の1つは、確かにノゾミを守るためだ。だが、それだけではない」

 

「他に……か?」

 

「ああ。ノゾミと、それにマイ。ナツホもだ。何せ彼女らは、同じ場所にいるのだからな」

 

 

 オレの友人は、そう、語ってみせる。

 先へと歩を進めるオレの、後顧の憂いを絶つ為に。

 

 

「行きたいと。行くべきだと思ったのだろう? ならばお前は、ここで振り返るな。……お前の横には最大戦力であるルリがいる。シュン1人ならば守る事も容易だろう。守りは僕以上に万全であるに違いない。だからこそ、シュン。お前自身を心配するのは筋違いというものだ」

 

 

 ゴウは振り向く。

 オレらと別たれ、管理棟へと歩き出す。

 

 

「―― ならば、せめて後ろは僕に任せておけ。行って来い、シュン」

 

 

 最後には半身のまま笑顔を見せて、ゴウはこの場を立ち去って行った。

 ……ギーマ会長の気障癖が感染したのかもしれない。けど、ゴウみたいに真面目な奴がやってくれると安心感を覚えるというか、何というか。

 兎も角。オレの友人が後ろの守りを引き受けてくれている。これで進まないと男じゃないな。そうだろ? ルリ。

 

 

「ええ。……いい友人を持ちましたねー。これではあたしも、貴方の危険だけを理由に同行を断るわけにはいきません。……それでは行きますか、シュン君!」

 

「だな。自慢の友人の分まで頑張ってみせるよ」

 

 






 展開のイメージ元はファイアーエムブレム「封印の剣」かと思われます。
 体格と移動マックスにしたロイでゼフィール倒しても終わりじゃねえんだぞと。イドゥンはルナティック可愛いですね。

 尚、ゲームにおいて、マコモさんの肩書きは研究員ではなく発明家となっている様でした。
 ですがアリャリャギさん(噛みました)と同期だとかも設定としてありましたし、そもそもやっている事が研究です。なので研究員、兼、発明家となるよう下地を作っておりましたという次第なのです。

 あとは……そうですね。カリンさんがあの台詞を言うのは大分先になりそうです。
 HGSSで追加情報が無かったので、原作におけるカリンさんのこれ以上の掘り下げは難しいでしょう。という訳で性格は台詞の内容から(邪)推測しております。駄作者私の妄想ですのであしからず。

 そしてポケモン世界における子どもが早熟な上に(悪の組織に喧嘩売る程度には)活発なのも、ある意味ゲームの通りです(苦笑
 大人に関してはご覧の通り。ゲームでも、主人公ズに関わっていないだけできっと皆様方慌しく動いていたとは思うのですが……という妄想が爆裂しております。


 それにしても、首輪つき……いえ、大丈夫です。

 < わたしの最高傑作に何をする!!

 ……いえ、ですから大丈夫です。私の(from)脳が。

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