ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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1995/秋 終幕ですか、3日目

 

 Θ―― 管理棟/生徒会室

 

 

 

「顛末は聞いたぜ? 大活躍だったみたいじゃあないか」

 

「知ってるでしょうギーマ会長。オレの場合、ルリが居たからですって」

 

 

 ゴキゲンなギーマ会長に、苦笑でもって返すオレ。

 ロケット団幹部とのバトルを終えて翌日、オレはまず生徒会室へと向かった。本当は当日にでも向かうべきだったのだろうが、全ての決着がついたのは既に夜中。ルリが率先して報告を引き受けてくれた為、オレは寮に戻り休息を取っていたのだ。

 さて、そんなオレを出迎えてくれたのはジュンサーさん達と生徒会役員。学園祭の3日目があるため既に通常業務に戻ってはいるが、総勢拍手でのお迎えだった。

 その中にはあのイブキさんも居て、幹部は逃がしたものの屋上で破損していた機材を回収した旨を報告すると、「やるじゃない」とのお言葉を戴いていたりする。いやはや、やはり通ずるものがあるな……イブキさんとナツホには。

 

 

「ふっ。ロケット団の幹部と対峙しておいて、ポケモンバトルを挑む。しかも勝利をもぎ取ってくるなんざ、活躍以外の何物でもないだろうに」

 

「オレの直接の相手は幹部じゃありませんでしたし……ってか、勝利なんですか? これ」

 

 

 元々相手にかなり有利な条件だったし、その目論見も結局よく判らなかったと思うんだけどさ。

 ……ラムダの言う「研究」が、屋上に放置されていた機材を使用したものだっていうのは想像も付くけど。でもその機材すら、マタドガスの『だいばくはつ』によって半壊状態とかさ。

 そんな不満気が面に出ていたのだろう。ギーマ会長が続ける。

 

 

「なあシュン。今回は生徒側、警備側、どちらにも被害は無い。ロケット団の人員は2名を捕縛。学園祭の開催にも影響は無かった。……この結果は勝利と呼んで差し支えないだろうさ」

 

 

 ……慰めてでもくれたのだろうか? その気遣いはありがたいけどさ、落ち込んではいないですぞーと。

 ああ、そうそう。ギーマ会長の言う通り、オレとルリが幹部に挑んでいる間に「あなぬけのヒモ」らを封じるという策はぎりぎり間に合い、最後のほうで数名のロケット団を捕縛することにも成功したのだそうだ。

 しかも爆発物と詐称されていたブツに関しては、爆発物処理班が解体した所、謎の機械が詰め込まれているだけだったという顛末だ。それもエスパーお嬢様の予知の通りという訳だな。最後にマタドガスは爆発したけど誰も巻き込まれなかったのでそれは兎も角。

 ついでに、マタドガスが爆発といえばだ。

 

 

「そう言えば、ルリは何処へ?」

 

「ああ。彼女にはまだ現場の処理を任せてしまっている。彼女もついでに調べたいことがあるそうでね。元チャンピオン権限だと言われてしまったよ。……ヤレヤレ。俳優顔負けのアクションをしておいて、まだ働くとはね。この国のワーカホリックはとんでもない」

 

 

 そう言ってヤレヤレポーズのギーマ会長。どうやら今日もオレより先に来ていた筈の元チャンピオン様は、いつの間にか生徒会室を後にしていたらしかった。

 加速装置まがいの靴の事とか、すごい進化ピジョットの事とか、『クモのす』の張り具合は何処から計算してたんだとか。ルリに聞きたいことは、山ほどあったのにな。

 ……ま、良いか。

 

 

「その辺りはいずれ機会もあるだろうぜ。それより君は、行くべき場所があるんじゃないのか?」

 

「……それもそうですね。それでは失礼します、ギーマ会長」

 

「グッドラック。君らの進み行く未来に、幸多からん事を」

 

 

 うん、相変わらず気障だなこの人!

 とは言え、確かに、行かなければならないのだろう。

 そこに我が幼馴染とゴウ達、それにマイとその両親も居る。

 

 

 

 

 Θ―― 管理棟5階

 

 

 

 学園祭3日目の開会時間はまだ。

 早朝だけに行き交う人の数は少ないけど、それでも生徒会室を目指す生徒はいるらしく、数名とすれ違いながら階段を降りてゆく。

 5階。目的地たる客間の廊下……扉の前に立つ影が、3つ。

 

 

「―― 無事か?」

 

「無事だね。よかった」

 

「ふん。まぁ、良かったわ」

 

 

 昨日振りの我が友人らがゴウ、ノゾミ、ナツホの順に労いの言葉をかけてくれる。

 オレはそちらへ、軽く手を挙げながら近づく。

 

 

「まぁ無事だな。ミドリ達が頑張ってくれたよ」

 

「無茶したんじゃないでしょうね?」

 

「してないと思う。昨日はすぐに休ませて貰ったから、そういう意味でも無茶はしていないな」

 

 

 出来る事をやっただけだな、オレは。

 フェンスからダイブとかポケウッド的なアクションで無茶したのは、ルリだけだ。

 

 

「あれは主役かスタントのオファーがきても可笑しくなかったぞ」

 

「ルリの場合は、ショウとかヒトミと同じ馬鹿族バトル脳だからしょうがないでしょ」

 

「ふふ。ナツホはずっと心配してたから。あとで安心させてあげてね」

 

「だだだ、誰が心配してたっていうのよノゾミ! そりゃ、無事でよかったけど!!」

 

「デレをありがとう。……それで、マイは?」

 

「―― 向こうだ、シュン。マイが待っている」

 

 

 そう言って、ゴウは後ろ側を指差して横へと避けた。

 何分、オレが今日も早くから生徒会室へと出頭したのは、マイが兄へロコンを渡すという念願の場面を見届けるためでもあったのである。

 マイ母からの連絡によれば、マイ兄は今朝早くに家(仮住まい)に顔を出し父親と母親からお小言をいただいていたらしい。それも済み、今はマイと2人で学園祭へと繰り出す準備をしているのだそうだ。

 けど……ん?

 

 

「なんでオレだけ?」

 

「僕達は既に顔合わせを済ませている。……ここはお前が行くべき場面だ、シュン」

 

 

 他2人も同様の意見のようだ。

 ノゾミもナツホも後ろでうんうんと頷き、その場を動くつもりはないらしい。

 

 

「? ……ま、それじゃあ行って来るか」

 

 

 3名に見送られ、若干の疑問を感じながらもオレは角を曲がる。

 簡易ソファが窓際に置かれたそこは、自販機スペースとなっていた。そこで、ソファに腰掛けていた2人が腰を上げる。

 2人。服の端をつまみながら影に隠れるマイと……

 

 

「……ショウ?」

 

「おう。そーゆーことだな。マイの兄です宜しくどうぞ」

 

 

 そこには、にかりと笑うショウが立っていたのだった。

 

 ……。

 

 ……うわ、脱力感が半端無いぞこれは!!

 

 

「あらためて礼を言うよ。ありがとな、シュン。ほい、マイも」

 

「……あ、……あ……が……とぉ、ぅぇふ」

 

 

 またこいつかとの感嘆符は取り置くとして。待ち受けていたマイの兄がショウだったとかさ。

 ……何でオレ、その発想に思い至らなかっただろうな? 目先のロケット団に気を取られていたのもそうだし……そうだな。ショウに妹や両親が居るっていう感じが無かったのも大きい。

 ……、……いやさ。普通に考えて親が居るのは当然なんだけど、ショウの場合はなんだか独りで生きてるというか既に自立してるというか、そんなイメージがあるんだよな。なんでだろ?

 

 

「俺にだって親はいるぞ?」

 

「知ってるよ。可愛い妹も居るしな」

 

「……」ササッ

 

「「……照れてるな」」

 

 

 とまぁ、マイの挙動について意見は一致。伊達に兄をしていないという事なのだろう。

 ま、なんにせよ無事兄君に会えたのならば喜ばしい結末だ。オレ達も頑張って守った甲斐があったよ。

 さてと、だ。

 

 

「さてと。……ほらマイ。お兄さんに会えたら渡すものがあったんだろ?」

 

「……ん」コクリ

 

 

 最後のイベントだ。マイはおずおずと、ショウの影から足を踏み出す。

 離れ、ショウを見上げ ―― 大事そうに抱えていたモンスターボールを差し出した。

 唇を何度か震わせ、続く三点リーダの末に声を絞り出す。

 

 

「……これ、ロコン。……ガーディの、お礼にって」

 

「へえ……俺にか?」

 

「ん」

 

「というかお前以外に誰が居るんだよ兄貴」

 

「そらそうだ」

 

 

 ショウはマイからボールを受け取り……暫し覗き込んでいたかと思うと、にかりと笑った。

 

 

「ポケモン交換だな。ありがとな、マイ。ガーディの替わりにロコンって辺りが凄い嬉しい」

 

「……ん」コクリ

 

「嬉しいのは良いけどさ、なんでガーディの替わりにロコンだと嬉しいんだよ」

 

「んーん……バージョン?」

 

「意味不明だぞおい」

 

「あっはっは! んまぁとにかく、ありがとうって事だ!! 大事にするよ、マイ」

 

「……」サササッ

 

 

 そしてまたしても兄の影に隠れてしまうマイ。

 お兄ちゃんっ子だな。でも兄の視線から逃れるために当人の背後に隠れるとか斬新過ぎるだろ。確かに死角ではあるけど、それは密偵とか武術者とかそっち系の思考だ。

 そんなオレを他所に、目の前でショウが笑い、マイが仏頂赤面とかいう新技を繰り出している。

 いずれにせよこれにて、学園祭を軸とするロケット団の騒ぎも、無事に収束を迎える事となったのだろう。

 最後を笑顔で飾れたのならば……ま、良い結末に違いない。何よりもな!

 





 あとがきは次の話に。
 どうでもいいですが、マイが「ありがとう」と言えないのは作者による強権です(ぉぃ
 別段呪われているだとか言ったら爆発するだとか、そういう理由はありません(ぅぉぃ

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