ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

155 / 189
1996/冬 ルリ(中の人)講座、冬

 

 

 

 さてさて。

 年が明けてすぐさま翌日。

 寮の玄関口で靴を履いて、鞄を背負い、オレは前を向く。

 

 

「……いくぞポケモン(マスター)。『きずぐすり』の貯蔵は十分か!」

 

「うし。勝ちフラグも建ったし行きますかね!」

 

 

 などと軽口を叩き合いながら、オレと(夜中に帰ってきていた)ショウは早速と寮を後にする。

 

 理由は簡単。これより、ポケモンバトルのための自主合宿へと向かうのである。

 

 その修行場所としてショウが指定したのは、タマムシ郊外を更に南東へ下った位置。ヤマブキシティとセキチクシティの間にあたる森の中だった。

 理由は幾つかあるのだが、この時期のタマムシ周辺における大学傘下や公共の施設は、同様の事を考えた有力エリトレ候補やジムリ候補、さらには年末に目白押しとなった公認のポケモンバトル大会などの練習目的のトレーナー達でごった返してしまい ―― つまり、混雑を避けると共に情報漏えいを考慮した場所選びでもあるらしい。

 

 ヤマブキシティなら兎も角、タマムシは郊外に行くと雪も見られる。ざふざふと薄く積もった雪を踏みしめ、歩く事1時間。

 ……とはいえ辺りの景色は変わらず、木とか林とか森。同種の進化系に囲まれている状況である。オレ、ショウに言われて宿泊グッズとかも持ってきてるんだけどな。どうするんだこれ。ここでエリトレの野営技術を活かしてもいいけど、冬は寒さがちょっとやばいぞ?

 そんな疑問を呈したオレを他所に、前を歩くショウはどこまでもマイペース。一本の樹の前を陣取って立ち止まると、両手を腰にあてふんすと白い息を吐いた。

 

 

「さてさて、余裕もなければ時間もない。さっさと進めますかね。……あ。シュンには先に言っとくが、俺も年末のとあるトーナメントに参加するんでバトルの練習はするぞ。同じ大会じゃないけどな」

 

「? そうなのか。じゃあ何のトーナメントに出るんだ?」

 

「ポケモンの『マルチバトル』だぞーっと。トレーナー2人ずつ、ポケモンは2対2。新形式のバトルルールになるな。なんで参加人数は少ないけど、お前らの大会の裏番組で同時進行するらしい」

 

 

 どうやらエリカ先生の発案らしいそれに、ショウは参加をすると。

 いや、それって。トレーナーが2人という事はつまり。

 

 

「……それもそれだ。誰と参加するんだよ」

 

 

 ショウの相棒は倍率が高そうだから、次第によっちゃあ修羅場ると思うんだけどさ。

 

 

「あっはっは! でもま、そこはちょっと参加規程とかもあるしな? 相棒はもう決まってるんだ。修羅場る必要もなくな。誰と参加するのかは、後の楽しみに取っといてくれると嬉しい」

 

 

 後の楽しみとか。でもその大会、オレの出場する『シングルバトル』のと同時進行するんだろ?

 だとすればオレがショウのバトルを直接見ることは出来ないはずなのだが……それを理解していない訳じゃあないだろうに。

 などという疑問は浮かびまくるものの。

 

 

「それよりも、だ」

 

 

 それら疑問を打ち消し凌ぐ余りある「何か」が、オレらの進行先に大口を開けてお待ちかねだった。

 

 

「―― のーんびりー」

 

 

 そう。

 ……目の前の樹から伸びるツタを、ぶち壊しな台詞と共に、するすると降りてくるケイスケ!!

 

 

「ん? あー……ケイスケか。ここは俺の『ひみつきち』でな。ケイスケが長期休暇中の寝床を探してるってんで貸し出ししてるんだ。あ、ちなみに相棒はケイスケじゃあないとは言っておくぞ」

 

「どーもー」

 

 

 降りてきて、いぇーいとローテンションだかハイテンションだか判らないハイタッチを交わすショウとケイスケ。

 ……いやさ。今現在のオレの練習相手という意味ではこの2人で正しいのだが、なんだかややこしい組み合わせになったぞこれは。面倒くささが倍々ゲームだ!

 

 

「それより早く上がろうぜ。冬は流石に寒いからな」

 

「お前が言うかそれを……っと。……おお、なんか凄え」

 

 

 突っ込みを入れつつも、ショウに促されるままにツタを上ってゆくと、そこには樹上とは思えない快適空間が広がっていたりした。

 道具とか家具とかは、これ、転送技術を使用したとしてもさ。この空間自体が摩訶不思議なんだけど。どうやってるんだ?

 

 

「ポケモンの技で『ひみつのちから』ってのがあるだろ? バトルじゃあ、フィールドの力を借りて攻撃するやつ」

 

「あるけど、ああ、それが関係あるんだなってのは判ったけど」

 

「理解が早い。……実はあの技の本質は、『空間を読み取って操る』ことに有るんだ。それを『ポケモン以外を対象』にして上手く利用すると、適正がある地形なら変化させて不思議空間を造れるって訳でな。不思議な生き物の面目躍如って感じだろ? 因みにこの秘密基地を作ってるのは俺のイーブイだな」

 

「へーぇ……」

 

 

 とりあえずは納得した声を出しておく。室温的にも寒く無い。加えてこの快適な室内だけで、明らかに樹上のスペースを越えていると思うんだけど。

 ……何と言うか、あれだな。胃袋よりも大質量の食事を腹に詰め込んでいる人を見て「なんだ」って思う感じ。おかしいぞ、明らかに奴の胃袋よりも食べた体積の方が大きい! みたいな。オレでなきゃ見逃しちゃうね、みたいな。

 しかしそれでこそポケモンである。感想は置いといて、とりあえず荷物をかたしておこう。

 

 

「荷物はこの辺に置いても良いのか?」

 

「おう。自由に使ってくれていーぞ。……でもまぁ、『ひみつのちから』の別の使い方を知らないのは仕方が無いだろーな。なにせポケモンレンジャーが盛んな地方とか、若しくはホウエン位でしか使われて無いもんだし」

 

「ポケモンレンジャーが盛んな地域って言うと、シンオウの南側にあるアルミア地方とかフィオレ地方とかか?」

 

「あとはまぁ、オブリビア諸島とかもだな」

 

「その辺りはーぁ、自然保護区が多いところだねー」

 

「そうだな。あとは、イッシュ地方やオーレ地方なんかにも所々に自然保護区があって、レンジャーが盛んになってるらしい。むしろ面積の狭いこの国が例外なんだよなぁ……」

 

「へぇ……」

 

「まぁ、そういう地方でなら野営するのに役立つんだが、いかんせんカントー圏はそこかしこにポケモンセンターがあるだろ? 野営の必要性自体が薄いとなると、こうも奥まった場所で野営するなんて人はそうそう居ないし、居たとしても『ひみつのちから』を知ってないといけないもんでな。しかも練習が必要ときてる。『ひみつのちから』を活用する人はかなり少ないだろーな」

 

「となると……うーん、流石はショウ。レンジャー科は伊達じゃあないって事か」

 

「俺自身としちゃポケモンレンジャーになるつもりはあんまないんだけどなー。手持ちが居るんで」

 

「ああそっか。レンジャーになったら活動の時はボールに入れたポケモン手放して、スタイラー持たないといけないんだっけ」

 

「それとー、2年毎の活動報告だねー」

 

「補足をどうもだ。ただ先輩方の話によれば、資格の更新だけなら結構甘い活動でも許されるっぽいんだけどな」

 

 

 部屋の入口脇。デスクトップパソコン(電源不明)の前に座りながら解説を挟むショウに相槌をうちつつ、オレは荷物を片してゆく。ショウとの相部屋生活も長くなっている為、時間は掛からない。因みにその間、ケイスケは奥まった位置に置かれた青いテントの中で寝そべりながら駄弁っていた。

 部屋決め。そして家具の追加(ショウが転送した)なども終えると、奥の部屋に3人で集合する。いよいよ作戦会議の時間である。

 ショウはホワイトボードの前に立ち、さてと意気込んだ。

 

 

「さて。年末年始以外の期間は、この『ヤマムシ樹海域』の秘密基地を拠点にしようと思ってる。ここを拠点にする利点は幾つか言ったが……」

 

 

 ショウは視線を移し、ホワイトボードに張ったカントー中心部の地図を指差す。

 タマムシシティが描かれた場所から、つつーっと下へ。ヤマブキシティとの中間距離にあるために「ヤマムシ」と名がついたそうなのだが、その場所で指を止める。

 

 

「ここが現在地な。既にセキチクシティの北側とも言える、境目の場所なんだ。セキチクシティの北側は自然保護区……通称『サファリパーク』があるお陰で、野生ポケモンの種類が多いし戦闘意欲が強い。ここは自然保護区の外だけど質は変わりないと思って良いぞ。まぁつまり、練習相手に困らないってのが実に好都合でな」

 

「そういう理由はありがたいな。でも、対人の勝負ってなるとそれだけじゃあ足りないんじゃないか?」

 

 

 と、オレも一応の指摘をしておく。

 対人勝負と野生ポケモンが相手では、想定すべき部分もかなり違ってくるだろう。高レベルの試合となれば尚更だ。

 指摘に「一応の」とつけた理由は、勿論、ショウもそれを判っていない訳じゃあないだろうという信頼からだ。とはいえ特訓を受ける側であるオレ自身も目的を理解しておいた方が良いのは確かだからな。解説を期待しよう、と。

 

 

「いや、俺としては『どちらも必要だ』と思ってるんだ。方針は今から解説するが、対人戦に関しては俺とケイスケがいるし、シュンの友人達もちょいちょい顔を出してくれる都合がある」

 

「そういえば言ってたな。ゴウとかノゾミとか、ヒトミとか」

 

「勿論ナツホもだな。張り切ってたぞー。……バトル練習の時は、ヤマブキにあるカラテ道場を借りる。馴染みの場所だからついでに俺の知り合いも協力してくれるそうなんで、相手トレーナーって意味じゃあ必要数には困らない。そこは安心してくれて良いはずだ」

 

 

 でもそれは逆に豪華すぎる面子になってきましたねと!

 ショウにも考えがあっての事だろうし、アドバイザーの意見は真摯に受け止めておくけどさ。

 

 

「あと質問はないか? ……ん、うっし。そんじゃあ対策会議を始めますか」

 

 

 ショウが意気揚々と仕切りなおして、兎に角。

 それでは前置きを終えまして、講義の開催である。

 えふんと咳き込み、ショウがホワイトボードを裏返す。「打倒、ジムリーダー!」という表題が左上に小さく描かれていた。

 

 

「さて。エリトレ候補生達は手持ちポケモンの種類がバラバラだが、上の人たちがそうじゃないのは知ってるよな?」

 

 

 頷く。それは知ってるな。予習済みなんで。

 オレらを含むエリトレクラスは好き好きでポケモンを選ぶ人が多いのだが、ジムリーダークラスは違い、エキスパートタイプを選ぶことが義務となっている。

 それは将来シムリーダーとなるための予行演習でもあり、つまるところ、手持ちポケモンのタイプが偏ることになるのだ……が、しかし。

 

 

「そんで、そのエキスパートタイプの弱点を突けば勝てる! ……とかとか、それが最善策だと思っていると大変にマズいわけで」

 

 

 そらそうだ。続けたショウの言葉に、オレはまたも判ってるぞーという意味を込めて頷いてやる。

 普通に考えれば。対戦相手は当然、ジムリーダーの専任タイプに対する対抗策……もっと簡潔に言ってしまえば、有利なタイプのポケモンを繰り出すのが筋という物なのだろう。

 それでも、そんな「誰しもが考え付く方策がある」というのに、ジムリーダークラスは強い。バトルにも勝てている。明らかなデータに顕れるほど、「結果としてそうなっている」のである。

 

「(これって、『挑戦する側の方が有利である』のに『ジムリーダー側の方が勝率は高い』という矛盾が発生しているんだよな)」

 

 そんなジムリクラスの生徒達がオレらに勝り、バトルにも勝てているのは、何かしらの種 ―― 理由があるのだろうと踏んではいるのだが。

 理由には、オレ自身も幾つか見当はつけられた。向かいからはショウの発言を待つ視線。……挙げてみるか。

 

 

「えーっと、下級生側のが知識が少なくて、安易に突っ込んで行ってる。ジムリーダーは変化技の使い方が上手い。あと、ポケモンの個性を活かした『当て方』が上手い。その辺りまでは、オレもスコアを見直してたら気付けたよ。けどさ。でも、なんで勝率がひっくり返るんだ?」

 

 

 なにせ今オレが挙げたものは、誰でも思い当たる点ばかりなんだ。ポケモンバトルはそんなに単純じゃあないはずなんだけどな。

 この質問に意を射たとばかり。

 

 

「うっし。それを説明する為に、ちょっとだけ歴史をおさらいするぞ?」

 

 

 ショウは満面の笑みでペンを動かし始める。

 ホワイトボードに書き始めたのは、ジムリーダーという職業の歴史についてだ。オレもおさらいの意味を含めてホワイトボードを見つめておく。

 

 ジムリーダーと言う仕事は、つまるところポケモンリーグへ挑戦する者を絞る為の「ふるい」の役目である。

 トーナメントの時には参加自由だが、それ以外の期間。「チャンピオン位」を求めて四天王へ挑戦しようとするトレーナーは膨大な数に登り、リーグの速やかな進行においてそれを制限しなければならないためだ。

 厳密にはもっと細かい決まりがあるが、年度内に8つのバッジを手にして期間内にチャンピオンロードを突破する。

 そして4日以内に四天王を勝ち抜く事で、リーグチャンピオンへの挑戦権を得る。

 制約有りのリーグチャンピオンに勝利すれば、晴れて「カントーチャンピオン位」の会得 ―― という流れだ。

 これがどれだけ果てしない試練であるのかは、あれだけの人気を誇ったルリがチャンピオンに就任していた1年間の間ですら、挑戦権を得たトレーナーが現れなかったと言うエピソードが存在する時点でご察しである。

 

 

「つまりは、とんでもない難関なんだよなぁ……ポケモンリーグ」

 

「はっは、リーグの仕組みについては同意しておく。ただ、ジムリーダーへの挑戦には別の意味合いもあるんだな、これが」

 

「別の意味……っていうと、ああ、記念挑戦とかか」

 

「おう。むしろ単純に挑戦って言う意味なら、そっちのが多いかもしれないしな」

 

 

 オレの指摘にショウが頷く。

 話題に挙げられた「記念挑戦」というのは、「8つも集めるつもりは無いが、バッジは貰えるので挑戦しておこう」っていう軽い感じの奴だ。

 実際ジムバッジというものは1つ集めるだけでも十分な記念になる程、入手が大変なものだ。なにせジムリーダーは、トレーナーのバッジ所持数とは他に(上限はあるものの)相手方の実力に合わせたポケモンを使用して来るのであるからして。

 その分、バッジを持つほどのトレーナーにはポケモンが言う事を聞き易くなるっていう話もあるらしいのだが……。

 

 

「まぁ、そんな感じのトレーナーを数に加えると、挑戦者ってのは膨大な数に膨れ上がる。つまりジムリーダーってのは『不特定多数を相手にする事が前提になる職』なんだと考えてもらいたい」

 

「ん……あ、そうか。不特定多数を相手にするなら、いちいち相手に合わせる必要性が無い。自分に沿った勝ち筋が有るほうが『勝率を残せる』。そういう意味でタイプを統一するってのが有効なんだな?」

 

 

 納得納得。しかもタイプを統一しておくと、天候やフィールドの変化技に「一貫性」が出てくるしな。

 ポケモンと言うのは実に不思議な生き物ではあるが、タイプが揃っていると何かとコンビネーションが取りやすくなるのである。それは天候であったり特性であったり、技の組み合わせであったり。

 

 

「お、さっすがシュン。そこまでを理解してくれると助かる。……さて。それを踏まえた上で、ジムリを攻略する側としてまず考えなきゃいけないのは、『複合タイプ』の存在になるな」

 

「まぁ順当だよな。……でも、ポケモンの種類って半端無いからなぁ」

 

「あっはっは。そこは覚えるしかないとはいえ、大変だろーな」

 

 

 ショウはいつもの笑みに苦笑を交えているものの……オレらがこうしている今ですら、ポケモンの新種と言うのは発見され続けているらしいからな。それが図鑑に登録されているか否かは、ただ研究の手が回っているかどうかに過ぎないのである。

 十分すぎるほどに理解しているであろう図鑑開発者のチーム員たる目の前の男子は、「複合タイプの対策についてはシュンの記憶力に期待しとく」と流しておいて話題を移す。

 

 

「んでもって次に、これは前も言ったかもだが『相手がこれをしてくる!』……って決まってるなら、実はそれってトレーナー側の工夫でなんとでもなるんだ。ジムリーダーなら尚更な」

 

 

 ショウはそのまま説明を付け加え、一例を挙げてくれた。

 例えば「電気」タイプの弱点を突こうとすると「地面」タイプの技を使うことになる。ただ、そのために繰り出したのが「地面タイプ」である場合、「電気タイプのポケモンに水か草の技を覚えてもらう」事によりカウンターで相手の弱点を突くことができるのだ。

 

 電気タイプのジムリーダーに対して、挑戦者が安易に地面タイプのポケモンを出す。すると『タイプを逆手に取った』ポケモンによって、華麗なる逆襲に合う……ってわけだな。成る程、確かに昨年度のバトルスコアでもそんな感じの逆襲が多かった。つまり対策が容易なんだな。

 この考えは実際、現役のジムリーダー達には殆どそのまま用いられているらしい。ただ単純に弱点を突こうとすると失敗するという教訓たる実例である。

 

 

「その他にも電気タイプなら特性が『ふゆう』のポケモンや『でんじふゆう』、手持ちの道具とかで地面技を無効化するっていう手もあるな」

 

「へぇー。……スコアには特性や道具までは記載されてなかったけど、不自然に技が通じてない場合って、もしかしてそういう?」

 

「だろうな。他にも電気タイプのポケモンはタイプのイメージから素早さが高くて防御が低い種族が多いんだが、そもそも弱点が少ないって言う大きな利点がある。地面しか抜群じゃないから、対策はバッチリしている筈だ。素早さを生かすのが得意なマチスさんなんかは、先ずこの辺でくるだろーし」

 

 

 ショウはここで一息、間を挟んで……次の話題。

 

 

「そしてなにより、ジムリーダーのポケモンは『鍛え方』が違う。専門性があるんだ」

 

「専門性、っていうと……その口ぶりだと、エキスパートタイプがどうこうとかとはまた別のものか」

 

「そーそ。ジムリーダーの人たちは、ポケモンの学習能力……まぁ、『ポケモン固有の能力にプラスした学習能力』ってのがあって、それを上手く身につけさせてるんだ。『育成のコンセプト』って奴だな。……ただ正直、これはエリトレクラスのトレーナーには難しい」

 

「……また知らない話が出たよ。それって、具体的にはどうするんだ?」

 

「簡潔にいえば、戦うポケモンを選ばなきゃいけない。木の実を使って減算していく別のやり口もあるけど、それはかなりの時間が掛かる。どちらにしろポケモントレーナーっていう職の年季がなきゃあ難しいんだ」

 

 

 判るだろ? という感じの視線を向けてくるショウ。それは確かに、無理難題だな。何分オレだって、半年近くはポケモンとのコミュニケーションに注力せざるを得なかったからなぁ。

 

 

「そんなんで、ジムリーダー対策自体は別の方法を提案しとこうかと」

 

 

 そう言うと、ショウはホワイトボードに書き込みを始めた。

 段階を踏んで。ここまでジムリーダーの強さと武器を解説しておいて、いよいよの対策である。

 一文、ぴしりと指をたてて。

 

 

「まず1つは、相手のポケモンを徹底的に『メタる』こと」

 

「『メタる』?」

 

 

 なんだ、はぐれたのか? どくばり持って追っかければ良いのか?

 

 

「経験値をくれるのはタブンネかハピナスの役目だぞー……って、それはどうでも良いけど。『メタる』ってのはつまり、相手のポケモンや作戦を徹底的に研究し尽くしてその対抗策をたてて行くって感じだな。それは勿論、メンバーにおける『ポケモンの構成』すらも含めてなんだが」

 

 

 ガリガリと髪をかきまわして、ショウは溜息。ああ。

 

 

「……これ、トーナメントなんかじゃあ現実的じゃないってのは判るだろ?」

 

「ああ。なにせ相手はジムリだけじゃない、不特定多数だし」

 

「ジムリーダーを攻略する、って部分だけみればかなり有用な戦略ではあるんだけどなー」

 

 

 なにしろエリトレ候補生達のポケモンはその年に受け取り育成を行ったもの、と決まっている。しかもトーナメントは組み合わせ発表すら直前だ。そのため、「メタる」とやら……1人に応じた対策「だけ」を練習していては、他のトレーナーに足元をすくわれかねないのである。

 そもそもポケモンのレベル差だって、トーナメントをどれだけ勝ち進めるか、バトルの経験をどれだけ積んだかといった辺りに大きく影響されてしまう。上限は低いとしても、「勝ち進めるほど強い人」はそれなり以上の経験を積んできていることだろう。

 ……成る程なぁ。

 ここまでジムリーダー(候補)の強さを挙げられまくって、ようやく判ったよ。

 ジムリクラスのトレーナーが持つ、勝率を覆すほどの大きな「武器」とは、つまり。

 

 

「つまりは ―― オレと同じ(・・・・・)。一般エリトレみたいにバラバラじゃあなく、組み合わせ(チームコンセプト)を持ったポケモン育成と戦略が武器ってことだよな? ジムリの先輩方には、ポケモンバトルの経験もあるし」

 

「その通り!」

 

 

 良い笑顔だな、ショウ! でも絶望しか感じられないんですがなにか!?

 ……いやさ、あくまで立ち向かうべきはオレなんだけどな。それで判明したジムリの強さが、「オレの行き着いた場所と同じ」だったのには驚きなんだけど。

 

 

「単純に考えても、ジムリクラスはタマムシの豪華な環境の中で1年多くポケモンバトルを経験してる。それは育成に関してもおんなじで、結局、要点を心得てるんだよ。これがかなり大きくてなー」

 

 

 うんうんと頷いておいて、ショウはそのまま此方へ視線をちらり。

 

 

「……ただ実は、バトルの経験に関してって言うんならシュンも存外に負けてないと思うんだよなー?」

 

「そうなのか?」

 

 

 視線を向けられながらも、頭上には盛大に疑問符が浮かぶ。

 そりゃあ、この9ヶ月は努力したけどさ。バトルの実践経験はやっぱり、上級科生よりも少ないと思うぞ。そもそも経験って目に見えるものじゃあないし、自信は無いし。

 

 

「んー、そりゃあ数値に出るわけじゃないからってのは判るが。……ミィに聞いたんだよ。シュンは図書館でバトルスコアをよく見てるんだろ?」

 

「まぁ、見てるけど」

 

「だからだよ。多分だいじょぶ」

 

 

 何が「だから」で何が大丈夫なんだ、おい。

 ……確かにオレ、スコアを見ながら仮想戦をするのは好きだけど。でも、いや、理由になってないし。

 

 

「あっはっは。その辺りは追々な。……ただまぁ、経験ってのは確かに見えないもんな。シュン自身の『自信になる武器』が欲しいってのは判る。『天候切り替え』があるにしろ、武器ってのは多く持ってて損がない。手札が増えるわけだからな」

 

 

 どうにも似合う、遠回りな着地をしておいて。

 ショウは顎に当てていた指をぴしっとたてた……ブイの字に2本!

 

 

「そこで俺がオススメするのは『型』を奇抜にすること。そして相手を驚かすこと。この2点だ」

 

 

 良い笑顔だな。うん。しかし……うん?

 型を作るってのは今もやってるけど、「奇抜な」か。それに「驚かす」って言われてもな。

 

 

「そんじゃ、こっちはちょっと詳しく説明するか。この辺は理解してもらっておかないといけないし。……驚かすって言うのはつまり、簡単に言うと『怖いトレーナーになる』練習なんだが」

 

 

 なんだそりゃ。詳しくはなったのかも知れないが、砕かれてないぞ。複雑怪奇な感じになった。なんだよ「怖い」トレーナーって。

 などと考えていたんだが、なんと、これまでは黙って聞き手に徹していたケイスケが隣で頷いているではないか。

 

 

「うんうんー。怖いってのはーぁ、怖いよねーぇ」

 

「……いやさ。納得している所悪いんだが、ケイスケに通じるってことは一般的に判り辛いってことだろ?」

 

「あっはは! ま、そうだな。知ってた。……んー、とな。口で言うのも難しいんだが ―― 『怖い』ってのは要するに、『相手の想像を超えてやる』って感じなんだ」

 

「うーん……想像を超える、なー……」

 

 

 ピンと来るような。来ないような。

 首を傾げるオレに、ショウはおうと頷いておいて。

 

 

「ポケモン同士だけで考えると、勝負には相性とか色々な要素が絡む。でもな。トレーナー同士でぶつかった時、勝敗に直接関与するのってやっぱり『発想力』だと思うんだよな。あー……あくまで発想力なんで、想像力が足りないよとか駄目だしされることは無いと思うし」

 

「そーだねー」

 

 

 誰に駄目だしされるんだよ。そして何でケイスケは頷いているんだよ。

 ……というかなんだ、想像力が足りないとか言われるのか?

 

 

「発想と想像はーぁ、別物だよー」

 

「ケイスケはそれ、わざとややこしくしてるだろ」

 

「まーそれは冗談にしてもだ。……相手が何を考えてるか。相手のポケモンはどうか。自分はどうか。自分のポケモンはどうか。フィールドはどう利用できるか。戦況はここからどう動くか。その辺りを踏まえて、何をしてくるか判らない ―― 相手が予想だにしていない事を仕出かす。つまりは想像を超えてくるトレーナーって、相手にしてみれば怖さを感じるんだよ」

 

 

 言われてみればそうか。さっきショウも言ってたものな。「相手の行動が判っているなら、トレーナー側の工夫でなんとでもなる」って。

 「行動を読まれない事」は「相手の身動きを取り辛くする」。

 それが積もり積もって、「自分の動きやすさ」にも繋がってくるのだ。

 一手が選局を左右する高レベルのポケモンバトルにおいて、それが大きなアドバンテージであるのは言うまでもないな。つまり一石二鳥どころの話じゃあないんだ、これは。

 ……にしても、その「怖さ」ってのはだ。

 

 

「それが何より楽しいんだろ、ショウにとって」

 

「おう。まーな! ……序でにこれは俺の私見だが、イブキさんとかみたいに経験よりも才覚に比重を置いてるトレーナーの弱点てのは、その辺りだと思うんだよな……」

 

 

 おーっと、意味深な発言だ。……ま、オレにしても「相手が何をしてくるか判らないのが楽しい」ってのは理解できる。

 いつもいつでも上手くいくなんて保障は何処にもないからな。なので、それはさておき。

 

 

「トーナメントになれば参加者のポケモンが判るだろ? でもって、予選はともかく別本戦はトーナメント制で、1日1戦までっていう決まりが有る。ジムリクラスの持っている『勝ち筋』を読みきるには努力が必要にしろ、何とかならないことも無いよな」

 

「……確かに、休憩時間を使えばトーナメント期間中でも対策を練ることはできるのか。でもそれって一夜漬けだし、その対抗策を練るってのがそもそも難しいんだろ? ポケモンを休ませられない……のは、まぁ、どうにかなるかもしれないけどさ」

 

「そこいらは心配ないと思うぞ。理由とか細かい事は、後でまとめて実践しながら相談する。ただ結論はこうだ」

 

 

 まるで悪戯を思いついた子どもの様相だなと思わず呆れが混じるものの、「ショウはやはりこうでなくては」という安心感もある。奇妙な友人だよな、やっぱり。

 そんな風に思い返しているオレの目の前でショウが再び、さし指をぴっと立てる。

 そのまま親指をグッと、サムズアップに移行した。

 

 

(ミミロップ)2体をうまく(・・・)追う。同時に進めれば良い。堅実じゃあないが、これはある種の王道でもある……」

 

 

 指の向こうで、先日とは違う表情。

 その唇の端から漏れる声は、喜色に満ち満ちていた。

 

 

「――『トーナメントを利用してポケモンを育てる事を勘定に入れる』んだよ。……さあ、驚かしにかかってやろう!」

 

 

 そう、実に楽しそうに、方策を告げたのである。

 






 ポケモンバトルバトルバトルバトルバトル。
 ポケモンバトルバトルバトルパルレバトル。

 ( ↑ 現在脳内)

 バトルの枠組みを考えるのは楽しいのですけれどね……実際に文章に起こすと、何というか、実力不足を痛感いたしますというか。
 幕間のラストに繋がりますし、大筋の粗方は決まっているので気合入れてがんばりたい所ではありますね!

 アルミア地方、フィオレ地方、オブリビア諸島はそれぞれポケモンレンジャーの舞台となった地方になります。いずれもDPPtとの連動がなされていた(カントーとは遠く離れている)という設定があるため、シンオウ周辺だという事にしてあります。
 因みに、オーレ地方はXDの舞台です。イーブイ好きの方は是非ともプレイしていただきたい作品なのですよ……(涎

 そして遂に、バトルの解説がかなり本筋っぽくなってきました。
 かくいう駄作者私も一端のトレーナーではあるのですが、それにしてもレート上位の方々とは比べ物にならないポケモン脳(ローレベル)でしょう。
 ただ、素早さとかそういうのを気にしなくて良い世界観ではあるので、その点についてはこれまでと変わらず描いていこうと思います。


 ……メガシンカする前に上から襲われるんですよねー……!

(そんな貴方に『まもる』!)


 ええ。技スペースの関係で無理です。
 駄作者私は『みがわり』や『ちょうはつ』を優先して使いたい性分ですので。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。