Θ―― タマムシ大学敷地内、体育館バトルコート
『さあさあ、いよいよに始まりましたるタマムシ大学の年度末ポケモンバトル大会! 実況はヤマブキ放送所属、わたくしクルミとー!』
『そしてわたくしアオイ! 今日はそこに解説の方も加えて実況をお送りさせていただきます! ……さて、ただいまの話題にありました解説の方なのですが、実は現役のスクール生徒の方にお越しいただいているんです。カレンさん?』
『はいどうも。カレンといいます。今日はよろしくお願いしますアオイさん、クルミさん』
『いえいえこちらこそ、ですぅ!』
『はい。こちらこそよろしくお願いしますね。……ここで少し、カレンさんの紹介をさせていただきましょう。カレンさんはエリトレクラスおよびタマムシ大学の大学院にを置いていらっしゃる研究者で、特にポケモンの技に関する研究を中心になさっています。今年で言えば国家公務トレーナー……いわゆるエリートトレーナークラスにストレートで入学した方々と同い年の11才なのですが、その年にして既にいくつもの論文を手がけていらっしゃるんですね』
『ええ。ただわたしとしては、まさかこういった解説の席に呼ばれるとは思いませんでしたが』
『技に詳しいと解説が捗りますし、カレンさんの推薦をくだすったオーキド博士からも、厚い信頼をいただいていましたよぅ?』
『恐縮ですね。……何故「くだすった」と訛ったのかは判りませんけれど』
『さておき。さあさあではでは、紹介も終わりましたところで、今回の大会の概要とルール説明に移りたいと思いますぅ。今大会はタマムシ大学傘下にあるポケモントレーナーズスクール、その中でも「上級科生」を対象にしたポケモンバトル大会となっていますー。上級科というのを皆さんにわかりやすく説明すると、ポケモンレンジャーやエリートトレーナー、ジムリーダーといった「資格を取るための資格」になる専門教育課程をひっくるめたクラスなんですよぅ! あれですね、皆さんバトルがお上手なのでしょうとっっ!!』
『でしょうね。もちろん中にはバトルを重視していないクラス……たとえばジョーイさんになるための専門クラスなどもありますが、その方達はまずこの大会には出場しませんから』
『クルミちゃんのフォローをありがとうございます、カレンさん』
『……はっ!? もしや今、この場は、フォロー力が2倍になっているのでしょうか……!』
『頼もしいことです。いやホント。……さてでは、本日は既に大会の予選1回戦が行われているんですよね。早速、経過をみてみましょうか。クルミちゃん?』
『はいはぁい、わたしの『かいりき』をご照覧あれっ! ……ずぅぅしぃぃんっ!!』
『それでは皆様、『かいりき』よりもこっちの表をご覧ください。クルミちゃんが抱えて下さっているのがトーナメント表です。確かにでっかいですけど紙製なので重くはありません。……ご覧の通りの大きなやぐら! 総勢128名+
『予選というのはここ、下の4名または3名の総当たり戦の部分のことで、つまりポケモンリーグと同じルールを採用しているのですねぇアオイちゃん』
『そうですよクルミちゃん。なにせ未来の国家公務トレーナーですから、その辺りには気合も期待も込められているのでしょう。この流れでエリートトレーナーについても説明をしておきますと、エリートトレーナーというのはさらに上のジムリーダー資格などを得るために必要な下地の資格になります。また、研究協力トレーナーとして育成の請負やレポート報告をすることで収入を得たり、各地で開かれる大会に参加したりするためにも必要になりますね』
『研究協力トレーナーとしてのレポートは、依頼者から出資がなされる通常とは異なり、国がしっかりと買い取ってくれるようになります。つまりはポケモントレーナーとして幅広く活動するための資格なわけですよぉ、エリートトレーナー!』
『ただこれは、この大会で言えば、エリートトレーナー候補生はジムリーダー候補生より少なくとも1年はポケモン育成とバトルの経験が少ないという事でもありますね。その辺りはどう影響してきますでしょうか、カレンさん』
『うーん……育成期間は同じでも、やはり違いは出てくるでしょう。とはいえジムリーダー候補生はポケモンのタイプが1つ「専任タイプ」として決められています。そこを狙いたいエリートトレーナー候補生と、ジムリーダークラスの戦術とのぶつかり合いになると面白いでしょうか』
『観戦する側としてはその辺りに注目して見て行きたいですねー。……ではクルミちゃん、本日午前の結果を書き込んでいきましょうか!』
『おぉっす! 未来のチャンピオン達がしのぎを削る、ポケモンバトル大会 in タマムシ!! 予選1回戦の結果はぁぁ……』
『『 ―― これだぁっ!!』』
『さっすが、息ピッタリのコンビよねこの2人って……』
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Θ―― タマムシ大学敷地内/屋外バトル区画
「
「くっ……接近戦に持ち込まれた……! ニャース、『ひっかく』よ!」
バトルスペースのおおよそ中央部。
オレことシュンのベニと、相手のニャース。
指示を受けたポケモン2匹が、ほぼ同時に、腕を振り下ろす!
「グッグ ―― 」
「―― フシャァ!」
《《ゴツンッッ!!》》
「ウ ―― にゃァァ……」
しかし倒れたのは相手 ―― エリートトレーナーのサヤカさんの手持ちポケモン、ニャースのみだ。
物理防御力にも自信のあるベニは『ひっかく』を悠々と受けきり、その場で
「あわっ、ニャース!? ……戻って!!」
『ニャース、戦闘不能!!』
サヤカさんが自分のポケモンをボールに戻したところで、電光掲示板の手持ち数を示すボールマークに×がつく。先頭のピッピに続いての撃破であるため、相手の残るポケモンは1匹。逆に此方は、まだベニしかバトルに繰り出していないという状況だ。
その最後のボールを手にとって、サヤカさんは拳を握った。気合を入れ直している様子だ。何かを飲み込むような俯き、そして強い視線を此方に向けてくる。
「……強いねキミ。でも強い相手を求めるのはトレーナーの宿命よ。最後の1匹だって諦めないんだから!! プリーズカムヒア、パウワウ!!」
《ボウンッ!》
「パウ! ワーウ!」
ボールから飛び出た「あしかポケモン」のパウワウが、水庭の端に着地する。
ポケモンが出た瞬間がバトル再開の合図となる。総当りとなるこの予選1回戦。バトルフィールドは平面土の見渡しの良い地面と水庭だけと言う、シンプル極まりないものだ。とはいえそれは国の管理するフィールドが豪華なギミックを有しているというだけで、普通はこんなものなので慣れたもの。
パウワウは一度水に潜り、そのまま。
「パゥ ―― ワウゥッ!」
《ファッ》――《パキキッ!!》
「グッ……グ!」
「水に飛び込むぞ、ベニ!」
「グッ!!」
先に指示を出されていたのだろう。水面から頭だけを出したパウワウは、すぐさま口から『こごえるかぜ』を吐き出した。表面が僅かに凍り、動きが鈍りかけたベニには水中戦の指示を出しておいて。
……先手を取られたとはいえ「効果はいまひとつ」。ベニの物理攻撃力を警戒し、相手は徹底的に遠距離戦を仕掛けてきている……
「(……なんて思うのは、こっちに都合が良いような)」
気がしないでもないぞ、これは。
……諦めない、と彼女は確かに言ったのだ。だとすれば逆転の策を練っていると考えておくべきだろう。
大体、こっちにはまだ後続のポケモンが居るにしても、水タイプのパウワウに相性良く戦えるのはベニだけだ。警戒するに越したことは無い。
なら少し様子を見たい所だな、と考え、水中で1度の交戦をはさむ。
「すばやさ」は別にしても、水中での移動はパウワウの方が早い。此方が直接攻撃を仕掛けられる距離まで詰めている間に、再びの『こごえるかぜ』(というか水流というか)を受けきった所で。
「っ、 ―― 『アンコール』!!」
「パウッ! アウアウッッ!!」
反撃を仕掛けないこちらに対して、サヤカさんの指示と同時、パウワウが先手。両ヒレをぱしぱしと叩いた。
「グッグ!?」
ベニがびくりと硬直する。
『アンコール』は、直前に出した技を「数ターン強制する」効果を持っている。この効果を解除するにはポケモンを交換するか……いや、まて。
「(解除する必要はない……よな?)」
ベニが直前に使ったのはニャースを打ち倒した『かわらわり』。パウワウ相手には普通に通る。だとすればいずれにせよ、此方の攻撃手段としては固定されても「痛くない」のである。
オレ自身も
だとすればこの技の目的は ――
「成る程。それは確かに、僅かではあるけど光明は見えてるものな。……受けてたつぞ、ベニ!」
「グッ!」
相手の狙いは読めた気がする。間違いないかどうかは兎も角、「オレならこうする」って技がある。
ただしかし、こればかりは運否天賦。こっちとしては攻撃を仕掛ける他無いのである。
なにせあの技は熟達したとしても絶対に成功するとは限らず……いやむしろ、どうあがいても失敗の確率のほうが高いハズで。それでも少ないながらに逆転の目は残している。
可能性はゼロではない。サヤカさん達は、一縷の望みを托しているのだ。
「グッ ―― 」
「―― アウッ!」
互いに「直接技」が届く距離。ベニがパウワウの眼下に、パウワウがベニの頭上に構える。
上はパウワウにとられているが……これなら大丈夫!
オレとサヤカさんの指示が、同時にとんだ。
「行くわよ、パウワウ ―― 『つのドリル』!」
「攻勢だ、ベニ ―― 『かわらわり』!」
水中に静止したパウワウの角が高速回転する。
「ワウワウ、ワー……」
《キュィィィィンッ!!》
ベニが水底を蹴って飛ぶ。
《ゴボボッ》
「グッグッ、」
近付いて ―― 先手。
パウワウが頭上の角を突き出し、「上から下へ」。勢い良く飛び掛かる。
「アウッ!」
――《チュィンッ》
はたして、パウワウの角がベニを気絶させる……ことはなく。
大きな鋏をオールのように動かしゆるりと回転。一点突破の突撃を掠めるに留め、回避したベニは、がら空きの背後へ悠々と攻撃を繰り出した。
「グッグゥ!!」
《 べゴムッ!! 》
「―― アウッ」
水堀のような長方形のプールの底に、パウワウが叩きつけられる。
……しかし、まだ!
「まだまだっ、パウワウ! 続けて『つのドリル』よっ!!」
「パゥ……ワゥッ!」
トレーナーの気合に応えるようにパウワウは素早く身を起こし、再びの攻勢の為に反転した。
……ただ。
そこでは既に、ベニが構えているんだけどさ!
「早いっ……!?」
「『アンコール』で縛られてるなら指示を出すまでもないからな!」
オレからの指示は先の「攻勢だ」に全て ―― 「3ターン分」が集約されていた。攻撃の位置取りだけなら、ベニは十分に動いてくれる。
それにそもそもデータ上、ベニとパウワウの素早さは
それでも角を突き出そうとするパウワウに、一歩先んじたベニが鋏を叩き込む。
『サヤカ選手のパウワウ、戦闘不能! よってクラブの勝利! 勝者 ―― キキョウシティのシュン!!』
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Θ―― 男子寮/プレイルーム
「……という訳で、午前中に実施された大会の1戦目は無事に勝利して通過したわけなんだけどさ」
「そんで早速次の試合に向けた予定を組んでんだもんな……」
いよいよ開催された「タマムシ大学トレーナーズスクール上級科生ポケモンバトル大会」。その初戦で見事に勝利を収めたオレは、ユウキと共に男子寮まで戻ってきていた。
バトルとバトルの間の時間は、各自自由待機の時間。という訳で、体育館から遠くも無い男子寮のプレイルームは絶好の待機場所となっている。ちょっと騒がしいけど、各々が集中モードに入っているので邪魔な騒がしさという訳でもない。むしろ緊張感を保つには丁度良い感じがするな。
……というかユウキ。次の試合に向けて調整しなきゃいけないのはさ。
「それはユウキだって同じだろ?」
「おうよ。1戦目は負けたが次は負けねえぜ? ……ゴウの奴はまだ試合中だしな。ケイスケは寝てるけどよ」
「いや実はあれ、寝てるんじゃなくて……うーん、まぁ、大会中は良いか」
「んだよ、思わせぶりだな」
などとユウキと駄弁りながら、オレは手元のトレーナーツールをみやる。理由は簡単。大会中のバトルスコアが全て、トレーナーツールに転送される仕組みになっているからだ。
大会の予選は4名での総当たり戦で、その中から1名が勝ち抜けする仕組みとなっている。得失点差などの概念はなく、同率の場合は当人同士での再試合が行われるというルールで……「ポケモンリーグ本戦」そのままだな。これは。
ただ、ユウキやゴウはこの予選の時点でジムリーダークラスの生徒ともあたっている。ユウキの負けた相手というのもそうだ。
130名近い大会参加者の内、30名はジムリーダー候補生。そう考えると、予選の相手4名全員がエリトレクラスのオレのグループは運が良いといえなくも無いだろう。
……うん。いえなくもない、と、思うんだけどなぁ。
「そんで、シュンの次のお相手は?」
「エリトレクラスのヒカルさん、だそうだ。ユウキは知ってるか? オレは顔と名前が一致しないんだけど」
「ああ、確か、ポケモンバトルに異常に執着してる人だって聞いた気がすんなぁ……」
成る程。
オレとしては見聞はあまり当てにしていないし、そもそもエリトレの人達は差はあれど少なからずバトルには執着しているので、人と柄は兎も角。
……ユウキの耳に入っているとすれば、恐らくヒカルさんとやらは美少女に分類されるのだろう! それは楽しみでもある!
「正解。ナツホの奴にどやされんじゃねーぞ」
「その辺は抜かりないって。幼馴染だからな」
「……それもそーだな。ナツホマスターには言うまでも無い事だったぜ。……だとするとその次が例の
「まーな」
ユウキに頷いておきながらも、オレは続々と情報更新中のツールから視線を逸らさずにいた。
何分、予選の3戦は全て今日の内に行われる。最新のデータは今の内に見ておかなければならないのである。
なにせ。ヒカルさんとの対戦もあるが、ほぼ確実にそれ以上……エリトレクラスとして本スクールトップクラスの実力を持っているお方が、その後に控えているのだから。
『予選1戦目の結果はぁぁ ―― こうだぁっ!!』』
ぴったりと揃った小気味の良い掛け声。どうやらリアルタイム速報が更新される様子だ。
オレは手元でワイプを拡大。人気アナウンサーであるクルミちゃんアオイちゃんコンビの手元に映された表に、次々と○×が書き込まれてゆく。
時折、少しだけ顔見知りのカレンさんが解説を挟み。
……同グループの
「ふぅ。やっぱ順当に勝利したよ。エリトレなのに毒タイプ使い」
「タマムシエリトレの『次席』 ―― 忍者のアンズちゃん、だな」
オレも無事に予選を1勝したとはいえ、だ。
立ちはだかるエリトレ候補生の高い壁 ―― 未だ2枚!!
てんしょんにまかせてぷろっとをみながらひとばんでしあげました(遠い目。
バトル風味の説明回。間に合ってしまったので投稿しておきます。これにて今回更新分の終了(真)です。
会話を主体にすると書きやすい……。とはいえ、駄作者私の私見の混じったフリーダムアナウンサー2名がいてこその手段ではありますが。
この辺が駆け足なのは予選なので、という事で。大まかに使う部分だけは書けたので問題は無いと思います。あったら後で手直しがかかるやもですけれども(土下埋まり。
パウワウ(ジュゴン)は『つのドリル』よりも『ぜったいれいど』の感。トドゼルガと良い、無効タイプがないのでそちらが優先されるのも致し方なきことかと。
ただ、習得の難易度というかレベルと言うか、後発の『ぜったいれいど』は難しいイメージがあるのですよね……。やはり初代からある技の馴染みというものなのでしょうか。
『つのドリル』。
『ハサミギロチン』。
『じわれ』。
「「「 いちげき ひっさつ ! 」」」
では、では。
▼エリートトレーナーのサヤカ
またも珍しく3作品、しかも全てエリートトレーナー職で登場しているトレーナー。特に私自身、BW→BW2の流れは印象に残っています。
……いえ、モブトレーナーの名前なんて記憶しながらプレイする人がどれくらいいるのかは存じ上げませんが……。
作中ではカントーの手持ちを優先させていただきました。
なんというかこう、私的に、模範的なエリートトレーナーっぽい雰囲気なんですよね。この人。
・FRLG(チャンピオンロード)
:ピッピ、プリン、ペルシアン、ジュゴン、ラッキー
「強い相手を求めるのはトレーナーの宿命よ!
ああッつよい!
厳しい戦いを続けて本当の強さが身につくわ」
・BW(チャンピオンロード)
:エルフーン、ゼブライカ
「ポケモンリーグに行く前の腕試しさせてもらうわね!
……あたりまえだけど 上には上が居るのね……」
・BW2(チャンピオンロード)
:クイタラン、デンチュラ
「あなたの雰囲気、2年前のあのトレーナーみたい……
優しく厳しい所があのトレーナーにそっくり!
あのポケモントレーナーいまごろどうしてるのかな?」
▼エリートトレーナーのカレン
調べれば他にも出てきそうな名前ではありますが、とりあえずHGSSに出演していたお方。
「台詞が印象的枠」で選出と相成りました。前回登場時には紹介をしませんでしたが、技に詳しい(というか詳しそう)なキャラでして、ここで解説役となる予定だったでした。
……ええ。学生トーナメントの予選にオーキドさんを呼ぶのも気が引けてしまったもので……
・HGSS(フスベ下道路)
:マリル、カメール、カメール
「ポケモンで戦う時あなた何か考えてる? むやみに強い技を命令するだけじゃダメなのよ
……わたしのまけね。そうね余り強すぎる技は好みじゃないわ。
勝負は勝ちたいけど別にポケモン傷つけたいわけじゃないもの」