ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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1996/冬 大会予選2試合目

 

 

 

 さてさて。

 強トレーナーたるアンズさんとのバトルが控えているとは言え、足元をすくわれていては元も子もない。なにせこの総当り予選は、勝ち抜けるのが1人だけなのである。

 だとすれば、1敗が明暗を分ける……1戦たりとて落とせないバトルになるのは間違いない。なのでオレは、休憩時間を利用して次の対戦相手、エリトレクラスのヒカルさんについて作戦を最終確認しておくことに。

 大会中は基本的に1人で行動することになる。食堂から直接次の会場に向かったユウキとは分かれたオレも例に漏れず、各々が試合を消化し出入りの激しい控え室の喧騒の中、トレーナーツールを広げる。

 動画は保存されていない為、手元で前試合のスコアを眺めつつ、対策を練り……しかし。

 オレはすっかりハマッた「ツボツボ製きのみジュース(どろり濃厚モモン味)」を片手に、思わず疑問符を浮べてしまった。

 

 

「……このモンジャラ、なんでこれで倒れないんだ……?」

 

 

 ヒカルさんの手持ちポケモンはモンジャラ、ダルマッカ、キャモメの3匹。

 その内、特にスコア中のモンジャラは、どう考えても倒れるダメージを受けても、何故か戦闘不能にならないのである。

 バトルの相手だったアンズさん(毒タイプ)との相性の悪さが際立ち、バトル自体は負けてしまったものの、そのアンズさんですらモンジャラによって2匹を突破されている。毒タイプで固めていないオレとしては、早急に対策を練らないとな。

 

 まずはレベル。

 セキエイ高原での夏大会を教訓にして……なのかは知れないが、公式の大会の場合、選手登録の際に「最新のレベルを登録すること」とバトルの前は「体力を回復させる事」が義務付けられることになった。上級科の学生大会も同様の仕組みを取り入れているため、あの時のように間違えられるという事もなく、レベルもしっかりと判明している。

 少なくとも一戦目の直前、ヒカルさんのモンジャラはレベル23。ダルマッカは21。キャモメは20。

 対するオレの手持ちはと言うと、イーブイ(アカネ)が14、マダツボミ(ミドリ)が20、クラブ(ベニ)が24という並びぶり。

 ……だがしかし、オレの手持ちにしてもヒカルさんの手持ちにしても、今大会に参加した学生の平均的な値を大きく飛び出しているわけではない。これだけでモンジャラの固さを説明しろといわれると大変に困った事になる。

 ショウの言う所の育成技術……「ポケモン個別のバトルに関連した身体能力及び反射能力における基礎数値点」だっけか? あれについても、時間をかけて調整でもしない限りは、そこまで強大な影響力を与えるものではないらしいし。

 

 

「だとすると……うーん」

 

 

 こういう時に着目するべきなのは、「スコアに明記されない要素」だ。スコアに記されない要因ならば読み取れないのも頷けるしさ。

 こうなるといよいよ「仕組み」について詳しいエリトレの授業が役に立ってくる。

 公認のバトルスコアにデータとして集計されないのはポケモンの「特性」、ポケモンの「疲労度」、手持ちの「道具」、そして「トレーナーによる技術」といった辺りだ。

 「特性」に関してはポケモン個々による差があるため、読む側が読み取るしかない。特に先日ショウなんかが言っていた「ポケモンの原生に近い特性」もあることだし。

 

 

「とはいえ特性が戦況に関与した場合は、前後の流れを見れば判断できるはず。……これは主要因じゃないとしておいて、次にいこう」

 

 

 「疲労度(PP)」に関しては、確かに疲労した状態で技を放つと威力は減退する。

 その上限の判断はかなり難しいけど……ただこれも、技の種類や回数で減り具合の予測はできるんだよな。このバトルにおいて、モンジャラは相手の「疲労度」を増す技は使ってないと思う。

 というかそもそも、そういうのはゴーストタイプの十八番だ。モンジャラで使う要素は薄いので……次だな。

 

 

「でも次。道具……道具、なぁ」

 

 

 「道具」は今も次々と新しいものが生み出されている最中だ。ただその中でも、ポケモンに持たせるものとなると数は限られてくる(・・・・・・)

 各タイプの技を少量ずつ強化する「能力UP持ち物」か、消費される「木の実」。それに「光の粉」みたいな「身体強化アイテム」(語弊はあるけど括りとして)もその1つ。

 

 

「確かに、大会の前には道具の回収が流行ったけどさ」

 

 

 実はポケモンの育成とは他に、道具の回収も各自トレーナーに委ねられている。道具の種類がバトルの結末を左右しかねない昨今、各学生たちも躍起になってお目当ての道具の取得に走っていたというエピソードがあったりするのだ。因みに、木の実を求めて園芸サークルを訪れるトレーナーを狙い、ナタネサークル長は荒稼ぎしていた。勿論それらは来期の活動費になった。

 さておき。

 ……モンジャラの固さの原因が道具になると仮定すると、かなり範囲が広くなって断定できないけど、モンジャラにオレの知らない身体強化アイテムが持たされていた可能性は十分にあるな。考えには含めておこう。

 一応、今回の大会では、決勝トーナメントに進むとトレーナー側からも道具の使用が許可される。「いいきずぐすり」、「各種状態異常なおし」、「各種能力アップアイテム」。この中から2つを選んで使用できるようになるのだ。

 予選で使えないのは恐らくスポンサーの方針。ただこれも、予選の内には関係ないのでさておいて。

 

 

「最後、トレーナー技術か」

 

 

 「トレーナー技術」というのは眼力や戦況観察能力、それにエスパーや千里眼といったトレーナー側の固有能力を含むその他の要員の事。ルリでいう「サイン指示」やミィの「教え込み」もこれにあたるだろう。

 ……秘密のトレーナー技術で被弾率を下げている? それはかなり難しいような気はするんだけどさ。

 ただ、トレーナー技術によって「技を出していないようにみせる」ことは出来る。様は「技の出だし」を悟られなければ良いのだ。

 『リフレクター』や『ひかりのかべ』なら、気付かせないように張れれば……会場に居れば薄い光の壁(見辛い)も視認出来ない事はないが……スコアの中には表記されない可能性もある。イツキなんかは得意だな。これは。

 あとは、偶発的に急所にあたったとかも明記はされないけど……それについては以前よりも(多少)改善された電光掲示板のHP表示機能がある。そもそもモンジャラが倒れない原因とHPが多めに減る要素(きゅうしょにあたった!)を無理やり関連付ける必要はないので、これについてはさて置き。

 

 

『シュン選手、ヒカル選手。会場準備が終了しました。ご入場ください』

 

 

 まだというか勿論というか、結論までは達しないうちに、ウグイス嬢の無機質な声が会場の控え室に響き渡る。

 とはいえ結論を出そうと思っていたわけじゃない。オレは早速と腰を上げ、出口を潜る。通路をすぐに右折すると、もう会場の入口が見えている。

 タマムシ大学が所持している闘技場はかなり広く、豪華な設備のものだ。特に決勝トーナメント用の闘技場など、セキエイ高原のそれと比べても規模は見劣りしない(セキエイ高原はそれを「幾つも」備えているが)。

 落ち着いた色の通路を直進していると、隣の通路からエリトレの女子生徒が合流した。

 ……美人さんだな。だとすると、恐らくは。

 

 

「―― 貴方が相手の人? シュン君?」

 

「はい。宜しくお願いします、ヒカルさん」

 

 

 小さく頭を下げるオレ。ただ、対戦相手のヒカルさんと思われる女子は、此方を一瞥するとすぐに視線を前に戻してしまった。いやさ。返事が無いのでヒカルさんだって確定できない。

 思わず言葉に詰まる。緊張なのか、はたまたコミュニケーションを取らないタイプのキャラなのか。ついでにどちらもか。

 ヒカルさん(多分)は真っ直ぐに前を見据えたまま、唇を小さく動かす。

 

 

「……宜しく。でも、あたし達が勝つわ」

 

 

 おぉう。キャラだった。強力ですね!!

 オレの知る限り「宜しく」には手心を加えるだとか、そういう意味は含まれていないはずなのだが、ヒカルさんはどうも真面目に言っているらしい。

 整った顔立ち。艶のある青色の髪。左端にひと括りにされたサイドテールが揺れる揺れる。

 そして、この発言。 

 

 

「勝って、この愛情を示してみせる……!」

 

 

 そんな呟きを残して、ぽかんとするオレを置き去りに、闘技場へと駆け入ってしまった。

 ……成る程。これは、ユウキの言う通りだ。残念な人だ。

 

 

「バトルに執着してる……っていうか、勝ちに執着してる? いや、なんか、もっと別の……」

 

 

 な、気がするものの。オレの目の前にも階段が見えてきていた。ここを登ればバトルスペースである。

 ヒカルさんの事情は後回しだ。実力的に考えて、アンズさんもサヤカさんに勝利するであろう。オレもここで負けているわけには行かないし。

 

 

「……行くか!」

 

 

 

 

 ΘΘ

 

 

 

 

 バトルスペースに入ってトレーナーカードを機械に提示するとすぐさま、電光掲示板にオレとヒカルさんの顔写真が表示される。

 同時に、準備時間2分のカウントダウンも開始される。ポンポンポンというボール同士がぶつった様な音をたてながら、互いのポケモンの種類と数が並んだ。

 

 

・ヒカル

 

 Θ(空)

 Θ(空)

 Θ(空)

 Θモンジャラ

 Θダルマッカ

 Θキャモメ

 

『HPバーの円環表示』

 

 Θクラブ(ベニ)

 Θマダツボミ(ミドリ)

 Θイーブイ(アカネ)

 Θ(空)

 Θ(空)

 Θ(空)

 

・シュン

 

 

 といった具合である。因みに、ポケモンの並びは単に登録順だ。

 オレらトレーナー側からしてみればより多くの情報が欲しい、簡易的に過ぎないものだが、観客やお偉いがたからしてみればこれで十分だろう。それに画面が情報の漏洩……互いの戦況に殆ど関与しないという点についても評価が出来る。これもあの日、夏の大会でショウが働きかけをしていた成果の1つなのだそうだ。

 

「(言っても、未だに怪しい技術らしいのであまりあてにはしないけどさ)」

 

 減ってゆくカウントダウン。視線を戻し、改めて正面をみる。

 バトルスペースの更に奥。トレーナースクエアに立つヒカルさんは、目を伏せたまま静かにバトルの開始を待っている様だった。

 オレも改めて対策について考える。要するに、大事なのは「組み合わせ」。戦うポケモン同士の相性だ。このポケモンにこのポケモンをあてる、というのさえ上手くいけば十分に勝利できる相手。

 ただそれは、相手にしても同じ事。不気味なまでの耐久力を持つモンジャラが何処でくるか ――

 

 

『それではバトルを開始します。3、2、1

 

 ―― ファイトッ!!』

 

 

「頼んだっ、アカネ!!」

 

「勝つ、ふぅ……っ、モンジャラぁっ!!」

 

 

 《《ボウンッ!!》》

 

 

「モジャッ!」

 

 

 やや水庭が広いが戦況を左右するほどじゃないフィールドへ、同時にボールを投げ入れた。

 モンジャラがその場にどさっと。

 

 

「ブィ、ィッ」ササッ

 

 

 対して、アカネはバックステップですぐに距離を取った。

 いきなりモンジャラか!! との思いはあるもののそうも言ってはいられない。視線は戦況に残したまま。

 出るなり、互いの技が飛び交った。

 

 

「ブィッ」

 

 《……くぁぁぁ》

 

 

 アカネが開いた口に釣られるように白い煙があがる。先制の『あくび』だ。

 

 

「モッ……モッ……」

 

 《ズッ》

 

 

 が、しかし。

 対面である。

 

 

「―― モジャァァァン!!」

 

 《―― ズモモモモモモッ!!》

 

 

 蔦が絡まりあったモンジャラの身体が、一気に膨れ上がっていた!!

 

 

「ブィ!?」ビクッ

 

「予定通りに行くぞ、アカネ!」

 

 

 オレは動揺は見せず、アカネに仕掛けを指示していく。

 ……見た目はあれだが、大きくなったのはモンジャラの『せいちょう』だ。多分。

 しかしつまり、ヒカルさんは此方の「得意な戦法」を理解しているのだろう。

 

「(晴れ下での『せいちょう』は、攻撃も特殊攻撃もかなりパワーアップさせるものなぁ)」

 

 モンジャラに対応する策は幾つかある。その内の1つがミドリの『ウェザーボール』だ。天候「晴れ」における『ウェザーボール』は、炎タイプの技になる。モンジャラには効果抜群という訳だ。

 そして、オレのパーティにおいて天候変化の分岐点となっているのがアカネ。

 つまりヒカルさんは、此方が「晴れにするであろう」と予測して、カウンター……つまり「相手が変えた天候を逆手にとって利用しようとした」のだ。

 ただでさえこのモンジャラには防御力がある。攻撃力を補おうというのは、エースという考えからしても至極当然。当の本人は息が荒いものの、ヒカルさんが冷静にバトルを進めようとしている証拠なのだろう。

 だとすればオレも、全力は尽くさなくちゃいけないな……と!!

 

 

「ふぅ、ふぅっ。……次よモンジャラ! 『つるのムチ』ぃ!!」

 

「モジャァンッ!」

 

「後ろに飛んで『にほんばれ』だ、アカネ!」

 

「ブ、ィィ」コクコク

 

「……ふぅ……ふぅ、ここで、ふぅ、『にほんばれ』……?」

 

 

 此方の指示に、ヒカルさんの顔がちょっとだけ疑問に染まる。

 モンジャラ……というか、ポケモンにおける草タイプというのは、天候「晴れ」によって様々な恩恵を得ることが出来る。その中でもモンジャラはミドリと同じ『ようりょくそ』を特性として持っており、晴れている間は素早さがアップするのである。

 ただでさえたった今、逆手に取ろうとした天候。しかも「晴れ」は後続のダルマッカの炎技をも手助けする。こちらが不利になる要素は満載だ。

 ……けどな。これこそ、トレーナーの腕の見せ所だろう!

 

 

 《シュルルル……》

 

「ブ、」

 

 《バシィッ!!》

 

「ブ、ブィッ!?」

 

 

 後ろに飛んで出来る限り勢いは減退させたものの、『せいちょう』によって大きくなっているモンジャラの蔦は凄まじい攻撃範囲を見せ、アカネを奥まで突き飛ばした。

 ごろごろと転がり、茜色の体毛を土色に汚したアカネを、素早くボールに戻し。

 

 

「こっちは戦闘不能です!! ……ありがとな、アカネ」

 

 

 そう告げると、掲示板の表示……イーブイの顔を表示している部分に×印。

 その性格上、アカネはサポートに積極的だ。直接の攻撃はあくまで最終手段の奥の手であり、ミドリとベニの攻撃によってそれを補っていくのがオレのパーティの戦い方でもある。

 ……ただ、それって、つまりはアカネはやられ役みたいな感じになるんだよな。勿論そうならないための手段も用意はしてあるけど、それは「今は」使えない。そもそも幾ら強くなったとしても、こういう競った試合になるとどうしても負けは出てきてしまう。オレとしてはお礼を言う事しかできないのが口惜しい。

 

 

「……でも、次だな」

 

 

 これで負けたら尚更酷い有様になってしまうからさ。

 なので、再び前を向いた……の、だが。

 

 

「じぃぃぃ……」

 

「いやさ、流石にそんな視線を向けられても困るんですけど……」

 

 

 ヒカルさんから熱視線を浴びせられているとかさ!

 なんだろうな。観察されてる? いや、ボールに戻すだけで他には何もしていない筈なんだけど。

 ……うーん、判らないし、気にしたら負けか。オレは手早く次のポケモンを場に出すことにする。

 

 

「出番だミドリッ!」

 

「―― ヘナナッ!!」

 

 

 ひたっ! という音と共に根を地に着けるミドリ。

 相対したモンジャラは蔦の真ん中、瞼を眠そうに開け閉めして ――

 

 

「……モジャ、ぐぅ」

 

 

 ついにその瞼を、閉じた。

 1ターン目に使用したアカネの『あくび』による効果が現れたのだ。

 

 

「くっ……」

 

 

 ヒカリさんが唇を噛むものの……バトルは再開されているぞ。

 この隙を、逃さず!!

 

 

「『せいちょう』だ、ミドリ!!」

 

「ヘッ……ナァァ!!」

 

 

 両の葉っぱを広げて陽光を集め、葉っぱと茎、それに蔦が一気に大きくなる。

 ここでヒカルさんがようやくと、理解に及んだという顔になった。

 

 

「―― 攻撃順を、ずらされ(・・・・)てるの!?」

 

 

 大声で叫ぶものの……そう。

 『あくび』で隙を作って「積み技」を重ね、ポケモンの突破力を跳ね上げるというコンボ。これは大会でもよくよく見かけるメジャーなものだ。

 ただオレは今回、相手のモンジャラをも強化する可能性があったとしても、『にほんばれ』を「使用しなければならなかった」。

 かなりの固さを誇るモンジャラを打ち破るにはやはり『ウェザーボール』を使用したかったというのがその種。ただでさえもう1匹のエースであるベニは、水タイプだしさ。

 モンジャラは物理攻撃に耐性がある。特殊攻撃で攻めたい。でも特殊相手だとしても「謎の固さ」がある。だから此方がパワーアップしておく必要がある。

 これらの面倒な条件を満たす為にどうするか? 答えは簡単だ。

 

 トレーナーの組み立てによって、特性や技が有効な順番の噛み合わせ(・・・・・)ズラす(・・・)

 モンジャラが強くなるなら、ミドリはもっと強くなっていればいい。

 相手が動けない……眠っている内に、此方だけがパワーアップしてしまえばいい!

 

 

「ミドリ、『ウェザーボール』で仕留めるぞ!!」

 

「ヘナァッ!!」

 

 

 《シュボッ》――《ズ、》

 

 《《 ゴオォゥッッ !!》》

 

 

 赤色を帯びた球体が1度浮かび上がったかと思うと、モンジャラ目掛けて落下。

 辺りにおびただしい熱エネルギーを振りまきながら、炸裂した。

 

 

「くっ……目を、目を覚ましてモンジャラ!?」

 

「モ、ジャ……!?」

 

 

 砂煙が舞う中。炎攻撃を受けて、眠っているとは言い難いが、まだ寝ぼけ眼ではっきりとは動けないでいるモンジャラ。

 ヒカルさんはモンジャラの「固さ」を信頼し、戦術の軸に据えていた。だからこそ『あくび』をかけられても換えなかったのだろう。

 けど、固さをも突破する攻撃力……晴れの状態における『せいちょう』で抜群にパワーアップしたミドリに対応できていない。思考から(・・・・)して、後手に回っているのだ。

 今からでもモンジャラをボールに一旦戻すというのも手だが、その場合、折角目を覚ましかけている状態がリセットされ、またボールの中で眠りについてしまう。

 相手にして見ればここで突っ張るか、戻すか、悩む場面だな。

 ……とはいえ今の一撃で倒れない辺り、ヒカルさんのモンジャラは本当にタフだ。

 でも、だから、単純に……何度でも!!

 

 

 《ュゴォォンッ!!》

 

「……ジャラァン……」

 

『ヒカルさん、モンジャラ、戦闘不能!!』

 

 

 眠気が残っているうちに3度の『ウェザーボール』を受けて、モンジャラは遂に倒れた。

 ……ふぅ。よし。これにて関門突破、だな。

 

 

「ナイス! このまま突破してやろうぜ、ミドリ!」

 

「ヘナッ!」ピシィ

 

 

 フィールドでゆらゆら揺れるミドリと、サムズアップ&敬礼を交わしておいて。

 ……つまりオレはモンジャラへの対応策について、固さの原因については深く考えない事にしたんだな、これが!

 知らない事は知りようがない。なので相手を、「凄く硬いモンジャラ」と想定して動いた。あとはどう突破するかを考えるだけ、という単純な流れなのである。

 まぁ、結果よければ全てよし。モンジャラを突破することは出来たので、あとは仕上げをごろうじる(・・・・・)べき場面となったな。

 

 

「ふーぅッ……! ふーぅッ……!! ……出番だよっ、ダルマッカ!!」

 

「―― マッカッカ!」

 

 

 ヒカルさん(いよいよ獣っぽい)が投じた緑色のモンスターボールからはダルマッカが現れた。赤い体色がぴょんと跳ね、素早くこちらに反転。向かってきた。

 確かに、「晴れ」ならダルマッカの炎技の威力が増す。ミドリは草&毒タイプ。相性としては悪くない。むしろ良い。

 ……でもそれって、あくまで「盤面上の話」なんだよな?

 

 

「ミドリ……『しぜんのめぐみ』!!」

 

「ヘッナッ!!」

 

 

 《ズワッ》――

 

 

 葉っぱの間で渦巻いたエネルギーが、ミドリの口の中に収められている木の実……「ズアの実」からもエネルギーをかき集め吸い上げて、土色に染まる。

 それをそのまま蔦で絡めとり、物理的に投げる!!

 

 

 ――《ビシュンッ!!》

 

 

「マッ……カ!?」

 

 

 《ズパァァァーンッ!!》

 

 

 此方に向かってきていたダルマッカよりも、素早く。鋭い音をたてながら、地面タイプの『しぜんのめぐみ』が直撃した。

 よっし、効果は抜群だ!

 目を回したダルマッカは、立ち上がることも叶わず。

 

 

『ダルマッカ、戦闘不能です!』

 

「っ!! ……戻ってちょうだい、ダルマッカ!!」

 

 

 ヒカルさん(憤怒の表情)は、丁寧な手つきでダルマッカをモンスターボールへ戻していた。

 顔は美人だけどオーラが怖いなヒカルさん。……確かに、思い描いたその作戦は成功しなかったんだろうけど……いやさ、確かに晴れていれば炎タイプの技は強力になる。ミドリに効果は抜群だ。

 けどさ。そもそもミドリを倒すのに「そんな威力はいらない」し……普段は別にしろ、晴れている間のミドリは『ようりょくそ』によってかなりの素早さを誇っている。ダルマッカに先手を取ることは十分に可能なのだ。

 相手のポケモンも、事前のバトルによって判明している。そもそも草タイプは炎に弱いので ―― だとすれば地面タイプの『しぜんのめぐみ』で迎撃するっていう予測は、難しい事じゃなかったからさ。これはジムリーダーも良くやっている作戦だってのは、ショウからの受け売りだけどな?

 さておき、兎に角。相手は最後のポケモンだ。

 

 

「くっ……。……出番よキャモメ!!」

 

 《ボウンッ!》

 

「ピョォォッ!」

 

 

 ヒカルさんが苦々しい顔をしながらも投じた最後のボールから、キャモメがフィールドに現れる。翼をパタパタと動かして旋回すると、弧を描きながらミドリへと接近し始めた。

 ……オレとしてもこの試合は、ミドリで勝ち抜きたい、経験を積ませたい(・・・・・)バトルだ。

 このまま、行かせて貰うぞ!!

 

 

「命中を重視して……『つるのムチ』!」

 

「そのまま『ちょうおんぱ』!」

 

 

 直接うち合っては勝てないと踏んでいるのだろう。諦めないヒカルさんは絡め手を指示し、キャモメはそれに従う。

 ただ、今のミドリは攻撃力も素早さも規格外のそれだ。キャモメはあっという間に絡みついた『つるのムチ』によって引き下ろされ、地面に落ちた。そこを(つる)二刀流のミドリが追撃する。

 

 

「トドメの全力だっ!!」

 

「へナァッ!!」

 

 

 ――《ビタァンッッ!!》

 

 

 威力を重視した『つるのムチ』が地面にキャモメを『たたきつける』。電光掲示板に表示されたHPバーがぐいと減った。

 動かない。ミドリが葉を振るって、敬礼する。

 

 

『キャモメ、戦闘不能。よってマダツボミの勝利です。バトル終了。……勝者、キキョウシティのシュン!!』

 

「ヘナッ!」

 

 

 ふぅ、と息を吐きながら結果に安堵する。これにて見事、2戦目も勝ち星が着いたことになるな。

 ミドリに「ありがとな」と声をかけながらボールへ戻し……うおっと。

 バトルの後は中央部で握手をするのがマナーなのだが、中央部で待っている人はどうもそんな穏やかな雰囲気ではないな。ヒカルさんはバトルの最中にもみせた、あの「視線」で此方を伺っているのだ。

 オレはやや駆け足に歩み寄りつつ。開口一番。

 

 

「……素晴らしい試合運びでした。でもこれ、どこから計算していたの?」

 

 

「どこから、と聞かれると返答に困るけどさ。……最初から、かなぁ……」

 

 

 ヒカルさんの質問に引っ張られる形で、オレは自分の頭の中にバトルのスコアを描いてゆく。

 ……こうして振り返ってみても、『にほんばれ』を(キー)にした攻防。戦略的なカウンターに次ぐカウンター。綱渡りにも近い戦法だったな。

 なにせ、もしも下手をうっていれば……『にほんばれ』を初手にしていれば。素早さ攻撃ともに上昇した(しかも防御力もある)モンジャラによって、此方が蹂躙されていたかもしれないのだ。

 それはもう、モンジャラを突破するどころの話じゃあない。

 

「(でも、それでも、勝ったのは此方だ)」

 

 狙い通りにターンをずらして強化されたのはミドリ。この辺りを調節して見せる事こそが、トレーナーの役目なんじゃないのかなと。なぁ。思うのだけど。

 

 

「……そうね。指示を出す事だけがトレーナーの仕事じゃない。それは勿論、判ってる。でも……あたしはやっぱり、勝たせてあげたいのよね……」

 

 

 うーん。

 ヒカルさんの勝ちに対する執着心はどうやら、ポケモン達に勝たせてあげたいという部分から来ているらしいな。

 

 

「それ、勝たせてあげたいっていうのは良いんだろうけどさ。でも別に、ポケモンの為にっていうなら……」

 

「だから、よ。バトルに勝つと、ポケモン達、喜んでくれるよね?」

 

 

 ……。

 …………うん?

 いやさ、喜んではくれるだろうけどさ。それは色々おかしいと……というか通じてますか日本語。

 

 

「あたし、だから勝ちたいの。だってポケモン達、喜んでくれるでしょ?」

 

 

 などと言いながら、ヒカルさんは心底不思議そうな表情で小首を傾げた。

 

 ぅーぉぅ。随分と歪な愛情表現ですね、それは!

 

 とは、勿論口には出さなかったが、頬が引きつってしまっているのは多めに見ておいて欲しい。

 間違いない。オレじゃあ説得の時間が足りないし、そもそも説得できるのかも怪しい。こういうのはショウの手合いだろう。アイツなら変人同士よろしくやれるはずなので(ぶん投げ)。

 

 

「……キミがそう思うんなら、それで良いんじゃないかな」

 

 

 君の中では、だけど。

 などという日和った返答に終始していると、ヒカルさんは向かいで眉をひそめた。

 

 

「まぁいいけど。……次の試合こそは、勝ってやるんだから……」

 

 

 抑揚のない声でそう呟きながら、通路の奥へと歩き去っていったのだった。

 

 ……。

 

 ……いやさ、怖い怖い!

 

 なんというか、バトルは終わったって言うのに、新たな火種を増やした気がするのは気のせいなんでしょうかと!!

 

 









 誰ですかパラスのこと千代ちゃんって言ったの!
 (そうとしか見えなくなってきた)


 とまぁのっけからあれですが脳は沸いていません、駄作者私。
 探検隊を買いたいですが、モンハンクロスとかも……。いえ。2ヶ月も間が開いてはいるのですけれどね。時間という物は激流のようなものでして……(何。


>>堅くて硬くて固いモンジャラ

 「原因」と書いて「種」と読み、「伏線」とルビが振られては「理由」に連なる(ややこしい)。
 そんなモンジャラの硬さについては明言しませんでした、わざとです。
 ……いえ、方々にはバレバレかと思うのですが、展開の都合上、一先ずはおいておいてくださると助かります。私が。
 …………それとここで説明しない事によって解説に使う文章が減った(後に回された)ので、やっぱり私が助かりました。ありがとうございます。


>>ポンポンポンというボール同士がぶつった様な音をたてながら、互いのポケモンの種類と数が並ぶ。

 その後の文章風味の図式も含めて、紙とかを気にせずこういう無駄表現が出来るのがネット書き物しかも二次創作の良い所だと思っていたりなんだり。
 普通ならページ配分とか、区切りとか、そういうのを考えなければならないところを、ゲームの表現を好き勝手に入れるだけで形になるのですよねー。
 因みに図式はアニメ方式。今年の映画は映画館に見に行くことができず悔しい思いです。
 ……いいですよ。別に。だって私、まだディアンシーの厳選終わってませんし(ぉぃ


>>威力を重視した『つるのムチ』が地面にキャモメを『たたきつける』

 あまり深く考えてはいませんが、ある意味では重要な一文。
 ログホラだとかSOA(そんなオカルトありえません)だとかなら、多分ここから主人公が開眼するとか。しないとか。口伝だとかスキルコネクトだとか。ですがそういう伏線では(まったくもって)ありません。
 要するに「技」というものの境界が概念的で曖昧だという話です。
 ……あ、その話は既に秘伝技の説明とかPPの説明でしていますが!(うっかり


>>新たな火種を増やした気がする

 気のせいではありません。
 ですがそれは遠い未来、別の場所(本編主人公)に降り注ぐ火の粉です(ぅぉぃ




 ▼エリートトレーナーのヒカル

 BW2のチャンピオンロード周辺にて、素通りも出来るほど端っこのほうにいるお人。
 採用基準は、どちらかと言えば台詞が印象的枠。こういう尖った人は好きですね。破滅的で。
 この(尖った穿った)考え方は「あの集団」に属しているトレーナーの方々に多いので、本作に置きましては、この人も「そういうこと」に設定してあります。BW2のチャンピオンロードには沢山いますしね。同じく「そういう」トレーナーの方々。
 ……しかしBWシリーズに日本的感覚でいう変人が多いというのは、やはりそういう事なんですかね……(どういう事だ

 BW2:ヒヒダルマ、モジャンボ

「あたしは勝利することでポケモンへの愛を示したいの!
 負けちゃったらポケモンへの愛情を示せない!
 あたし……勝つこと以外にポケモンへの感謝をいえないの。どうしたらいいのかしら?」

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