ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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■5.ライモンシティにて ー サブウェイマスター

 

 ■5.

 

 

 さて。

 翌日、「何でも屋」ことショウさんとチェックアウトしまして、それはさて置きポケモンバトル。

 あたし達は再びライモンシティの中央部を訪れ、一目散に地下へ。目的としていた始発のバトルトレインに乗車します。

 スーパーマルチトレイン、7週目。

 1~6車両目でもトレーナーの方々が待ち受けて下さいましたが、体調を万全に整えたあたし達はそれらを難なく突破し……その先。

 

 49車両目の扉が、いよいよ開きます。

 

 

「「―― ようこそおいでくださいました」」

 

 

 車両の奥で待ち受けていたのは白と黒、双子然とした両者のお顔、やけに長い外套の裾……注目すべきはそこではなく。

 バトルサブウェイのサブウェイマスター。駅員の中の駅員。ノボリさんとクダリさんのお出ましでした。

 お2人は「出発進行!」的なポーズを仕切りなおすと、直立不動、ぴしりと背筋を伸ばした姿勢であたし達を促してくれます。

 

 

「お二方とも、ポケモンの回復はお済でしょうか?」

 

「そりゃあ済んでるでしょう、ノボリ兄さん。あたりまえだよー」

 

「……車掌たるもの事前の確認は欠かしてはいけませんよ、クダリ」

 

 

 きっちりした印象の黒々とした車掌さん、ノボリさん。

 対照的に白々しててゆるふわな車掌さん、クダリさん。

 件のご両人の登場と相成りました。

 

 

「あー、だいじょぶです。だいじょぶですんでお構いなく」

 

「お久しぶりですノボリさんとクダリさん。回復はしっかりと済ませましたから、ショウさんの言うとおり、大丈夫ですよ!」

 

 

 力の抜けたショウさんの返答、そしてあたしの挨拶に、ノボリさんが小さく会釈。クダリさんは「ちわー」と手を振ってくれました。

 あたしとノボリさん&クダリさんとは、幾度もバトルをしたことがある、友人に近い間柄です。

 お2人は各サブウェイの49車両目を務める「サブウェイマスター」。しかしそれだけでなく昨年は旅の最中、キョウヘイ君と一緒に駅の前で呼び止めてまでバトルに付き合ってもらったこともありました。それからはあたしも、リーグチャンピオンという立場もしくはバトルサブウェイの挑戦者として、お二方と何度も交流を持ったことがありましたから。

 うーん、でも、だとすると。

 

 

「ショウさんも、お二人とはお知り合いなのでしょうか?」

 

「おう。一応な」

 

「うんうん。ショウ君はさぁ……」

 

「クダリの言うとおり、ショウは知人であります。ただ勿論、だからといってバトルに手心は加えませんが」

 

 

 あたしとしてはショウさんの対応の緩さが気になっての発言だったのですけれど……ショウさんはいつもの軽い感じ。クダリさんの発言は進行命のノボリさんによって遮られ、要領を得ませんでした。

 ……なんとなーく、会話の流れを切るのが目的だった気はしますが、ここはノボリさんをたてておきましょう。

 

 

「それではサブウェイチャレンジャーのお二方、準備を宜しくお願いします」

 

 

 ノボリさんに促され、あたしとショウさんはマルチトレインの車両、連結側のトレーナーズスクエアに陣取ります。

 同時に液晶窓に「LIVE」の文字が点灯し、このバトルの衛生中継が開始されました。

 これはバトルサブウェイにおける興行収入の1つ。中継を行うことによって同線に乗車した乗客の皆さんからもサブウェイマスターのバトルをご覧になれるという、集客システムなのです。

 あたしとしてはこれ、いつ立ち会っても慣れない仕組みなんですよね。此方からはお客の方々が見えませんし、バトル用の車両は他の客車と離して別ダイヤで運行されるので、悪目立ちするという可能性はないかと思うのですが……。

 

 

「やるよー!」

 

「気合が入ってますね、クダリさん」

 

「それは勿論。イッシュリーグの英雄であるメイさんがお相手……しかもその相方はショウなのです。力を入れるなと言うのは無理難題でしょう。私ノボリとて、いつもよりは緊張しておりますよ」

 

 

 随分と気合が入っているのは、そういう事でしたか。

 にしても、ショウさんの評価が高いですね……。まぁ、それはそれとしてポケモンバトルですけれども。

 そうこうしている間に、カウントダウン。

 3、2、1……

 

 バトル、スタートッ!!

 

 

 

「頼んだぞっ ―― ドレディアッ!」

 

「お願いしますっ ―― ワタッコ!」

 

「進路良し ―― ギギギアル!」

 

「出番だよっ ―― ローブシンッ!」

 

 

 

 

 ΘΘ

 

 

 

 

 すごい。

 その一言に尽きます。

 

 ……いえ、その、いよいよノボリさんクダリさんとのポケモンバトルが始まったのですけれど……。

 何が凄いのかというと、ショウさんとそのポケモン達の「懐の深さ」が、です。

 

「(……なんとなく、ですけれども!)」

 

 まあどれだけ懐が深かろうがこのバトルに勝てなければ悔しいので、その辺りは後回しにしておきましょう。

 さてさて。先発はダブル草タイプを選出したあたし達。ワタッコの先制『にほんばれ』&ドレディア『めざめるパワー』でクダリさんのギギギアルが退場。

 クダリさんの2番手ダストダスの攻撃を引き受けつつも「作戦」を実行しつつ、ドレディアが退場。ショウさん2番手のハッサムがダストダスを撃沈し、続いてクダリさんがシャンデラを選出。あたし自身もワタッコを引き下げ、同族、シャンデラを場に繰り出しています。

 同時にショウさんのハッサムも『とんぼがえり』で引き下がり、はてさて3番手、ショウさんが繰り出したのは。

 

 

「続くぞ、ガラガラッ!」

 

 《ボウンッ!》

 

「―― ガラルァッ!」

 

 

 頭蓋骨を被った二足歩行の怪獣 ―― ガラガラ。手に持った骨をくるりと回し、びしりと向かいのシャンデラに突きつけました。

 単純に考えて、地面タイプは炎のシャンデラに効果抜群です。攻撃が等倍で通ればまだしも、地面相手だと分も悪い。

 

 ご対面。

 サブウェイマスター両名、シャンデラ&ローブシン。

 あたし達、シャンデラ&ガラガラ。

 

 

「くっ……シャンデラっ!」

 

「しゃらんら~」

 

 

 その出現を受けて、ノボリさんはシャンデラの位置を入れ替るよう指示を出しました。クダリさんのローブシンと付かず離れず、いつでも庇える位置へ。

 ドレディアからのハッサムと来て、上手を取られる序盤は出し辛かったであろうノボリさんの2番手ローブシン。筋骨隆々なだけあってその体力と防御力は十分なもの。1番手のアイアントは状態異常を起点に引っ込めていただいたので、ノボリさん自身はまだ1匹も戦闘不能にはなっていません。

 この場面。注目し易い対面は、炎タイプのシャンデラに、地面の間接物理攻撃を持つガラガラでしょう。

 タイプ相性から言えば、それが順当だとはいえ……。

 

 

「ローブシン、『アームハンマー』行くよー!」

 

「ウロロォロ、ブォォォーッ!!」

 

 

 クダリさんの指示にローブシンが雄々しく叫び、シャンデラを庇うように一歩前へ出ながら攻撃の準備。

 ローブシンの攻撃対象は、恐らく、あたしでもショウさんでもどちらでも……という指示でしょうか。

 ですけれど、残念ながらこの流れは狙い通りです。

 ……読みが正しければ、おそらくは、ここで!

 

 

「シャンデラ、『みがわり』ですっ!」

 

「しゃーら~んっ☆」

 

 

 反応速度に勝るノボリさんのシャンデラは、狙いの通りに守りの一手を繰り出してくれました。

 庇われている内、体力がある内に次の攻撃を防ぐための『みがわり』。間違いではないでしょう。なにせ ―― 攻め立てられたノボリさんが残すポケモンは「1匹だけ」なのですから。

 これはマルチバトル特有のルールで、トレーナー2人が各3匹ずつポケモンを持ちより合計6匹の対面となるのですが、「1人3匹までしかポケモンは扱えません」。

 つまり今ノボリさんのシャンデラが撃墜されれば、あたし&ショウさんとクダリさんの2対1という構図が出来上がってしまうのですから……重ねて、そこまでを予測して防御を強化するのは間違いではないでしょう。引き下がったショウさんのハッサムに、何とかしてシャンデラを当てたいでしょうし。ええ。それは良くわかります。

 ですが、ガラガラには……!

 

 

「―― 今だガラガラっ!」

 

「グゥァラッ……ガラララッッ!」

 

 

 ショウさんが大きく腕を振るうと、フィールド中央で準備をしていたガラガラが前へ出ます。

 そう。ガラガラの得意技。2回攻撃判定で、『みがわり』を突破可能な代名詞。

 ローブシンの攻撃を受け止めながら『ホネブーメラン』を投げられる位置へ ――!

 

 

 

「させません ―― クダリ!」

 

「お願いされるよー、ローブシン!」

 

「ウロロゥッ!」

 

 

 ノボリさんもローブシンも準備は万端。

 ガラガラの代名詞たる『ホネブーメラン』は十分に警戒していたのでしょう。ローブシンはガラガラの前面を覆うように肉体を掲げ、盾になりながらも頭上で腕を組み、盾と矛とを同時にこなす、反撃の『アームハンマー』を構えます器用な筋肉。

 通常車両よりは広いとはいえ、ただでさえ狭い車両の中で、どでかい壁となったローブシン。これでは奥のシャンデラまで『ホネブーメラン』を潜らせる空間的な猶予はありません。

 はい。間違いなく、ありませんよ。

 ですからっ!

 

 

「こっちも、今だよ! シャンデラッ!」

 

「ッシャラァァー!」

 

 

 そのローブシンを厭わず、「あたしのシャンデラ」が直線距離を進撃します!

 

 

「受け止めてー……あれぇっ!?」

 

「ウロォッ!?」

 

 

 クダリさんの驚き顔。

 ですが、炎タイプであると同時に、ゴーストタイプでもあるシャンデラ。当然、ローブシンの物理的な肉壁なんて、ものともせずすり抜けられるのです。

 ローブシンの(肉)壁を抜け……もう一丁!

 

 

「今……『シャドーボール』でっ!!」

 

「ッシャラァァー!!」

 

 

 《ボウワッ》――《ヌルンッ》

 

 ――《ボフゥゥゥーンッ!!》

 

 

「しゃ~ら~ん!?」

 

「!? 『みがわり』の壁を、通り抜けて―― !」

 

 

 あたしのシャンデラが噴出した影は、相手のシャンデラを薄く覆った『みがわり』のバリアーをもぬるりとすり抜け、直撃!

 

 

「ら~ん……ら~」

 

 《トスン》

 

 

 ノックアウト。ノボリさんの3番手、シャンデラがご退場と相成りました。

 よしよしよしよし、とても良し! 狙いがばっちり!!

 これで先ほど示唆した、ノボリさん VS あたし&ショウさんという構図の出来上がりです。

 数の差は圧倒的。粘れるポケモンであるローブシンがガラガラの『ホネブーメラン』を食らっていたのも痛い。ノボリさんも残るポケモン達で粘りましたが、削りきるには相性が悪い。

 

 そうして、7ターン後。

 遂に。

 

 

『WINNER、チャレンジャーコンビ』

 

「うっしゃ!」

 

「勝利ですねっ!!」

 

 

 バトルサブウェイの車窓に、あたし達の勝利を示す文字が表示。クダリさんが最後のポケモンをボールに戻す姿を向かいに、あたしはショウさんとでハイタッチをかわしました。

 それにしても……狙い通り、と言う他ない展開でした。

 以下、あたしとショウさんが前日にホテルで話し合った内容ですが。

 

 まずはドレディア、ワタッコ……からのハッサムと繰り出すことによって、炎タイプのシャンデラを誘います。

 炎から逃げるという自然さを装い、突破力のあるハッサムを交換させることで、「シャンデラをその場に残したい」という欲を持たせます。

 場は相手優勢。油断はできないとはいえ、其方に……戦況を優勢に進めることに注力するでしょう。

 その隙をついて、両者『とんぼがえり』。一斉交換で隙を突き、「手持ちポケモンの残数を偏らせる」。具体的に言えばノボリさんのポケモンを素早く全滅させて、「クダリさん対あたし達」の2対1な状況にしてしまおうという作戦だったのです。

 

 ドレディアがアタッカーからの標的。

 ハッサムが毒タイプのダストダスに対する壁……からのアタッカー。

 そしてガラガラがアタッカーと見せかけた ―― シャンデラを確実に落とすための、囮。

 さらに言えば、それらショウさんのポケモン達が「目立ったこと」自体も作戦の肝です。

 あたしのシャンデラが特性「すりぬけ」持ちで、『みがわり』を無視して攻撃を与えられる。そしてノボリさんが集中的に狙われている……と言う2つの部分から目を逸らさせるための誘導でもありましたという。

 

 おそらくは1匹で幾つもの役割を担えるよう、各個訓練されているのでしょう。事前にたてた策とはいえ大きなミスもなく、ショウさんのポケモン達はあたしのメンバーに合わせつつも各々が「基点」「壁」「突破」「囮」という役目を目まぐるしく入れ替えていきました。

 ノボリさんとクダリさんも、それら変化に追いすがろうと必死でポケモン達に指示を出すのですが ―― 先手は後手に対して、「効果を先出しできる」という点について有利を保持します。

 変化に追い付かせない流動性。このバトルだけの、しかし、だからこそ成り立っている仮初の牙城。

 それら武器をこれ見よがしに振りかざすことで、ショウさんとそのポケモン達……ついでにあたしとあたしのポケモン達も、相手を翻弄し続けることが出来たのです。

 

 うーん。

 もしも……もしも、ですよ?

 ポケモンバトルという競技において「ポケモン自身の素早さが」ではなく。

 こうして、「トレーナーの組み立て」によって先手がとれるのだとしたら。

 それはポケモンバトルの革命であると言っても過言ではない……のでは、ないでしょうか?

 

 勿論今回は、指示系統が2つ存在するマルチバトルだからこそ可能な「回転の早さ」なのですけれどもね。

 

 

 

 

 ――

 

 ――――

 

 

 

 

「いや、どっちかってと相手が此方の思惑を『受けて立ってくれた』っていうのが大きいんじゃないか?」

 

 

 ライモンシティの東側、遊園地内のフードコートでショウさんがびしりと言い放ちます。

 ……いえ。あのですね。せっかくサブウェイを制覇したので、あたしのおごりでご飯を食べに来ているのですけれどね。バトル後の感想戦だというのにそれを言われると、大変に困ってしまいますという。

 そう。バトルサブウェイのマルチトレインを49連勝し、サブウェイ制覇を達成したあたしは、ショウさんを連れてとりあえず昼食をはさんでいるのでした。ライモンシティの街中は目立つとの事だったので、相変わらず蒸しっとした湿気の中、平日雨降り小雨の遊園地の中にまで遠出してみています。狙い通り、園内ならともかく食事処には人も少なくなってくれていますので、おかげであたしの顔ばれやらを気にする必要はないでしょう。

 あ、ちなみに、ポケモントレーナーが保持できる個人タイトルにおいて、賞金額とその後の副収入の合計が最も大きいと言われているのが現在あたしが就任している「リーグチャンピオン」でして。あたし的には金銭的余裕はありありなのでおごりも問題ありません。付き合ってもらったショウさんにお礼をしておきたいというのもありますからね。

 まぁそれはそれ、置いといて。

 

 

「それは何というか、身も蓋もないというか……そうですね。ロマンがありません、ロマンが!」

 

「フワワーァ!」

 

「ロマンて」

 

「ッサム」

 

 

 軽口をたたくあたしと、あたしのポケモンであるお揃いのお団子っぽい綿毛を揺らすワタッコの前で、ショウさんは苦笑を滲ませます。

 その横に立ってポケモンフーズを齧るハッサムと一度視線を交わし、バゲットサンドを1口もしゃり。

 

 

「んー……まぁ、作戦は確かにあてたけどな」

 

「はい」

 

「例えばだぞ? ノボリさんが初っ端ギギギアルに替えてシャンデラで、ドレディアの炎『めざめるパワー』を『もらいび』受けしてたらどうだ?」

 

「それは……1ターン損した上に此方を蹂躙しかねない炎タイプの無償降臨、ですね」

 

 

 「だろ?」と呟くショウさんの向かいで、あたしは頭を悩ませてしまいます。

 挙げられた場面は最初の最初、まさに1ターン目の部分です。

 確かに。草タイプはその種族としての特徴から『にほんばれ』を良く変化技の起点とします。『にほんばれ』は炎タイプの技の威力を増強してくれるため、サブウェポンとしての炎もまた有力な候補になってきます。『めざめるパワー』の属性としては岩か氷のが優勢かと思いますが、受けの鋼を意識すれば4倍を突こうという意味で間違いはありません。シナジーとてもよろしいです。

 相方のあたしのワタッコは、その素早さもあってどちらかと言えば補助が得意。ドレディアはサブウェポンに乏しいですが、特殊攻撃アタッカーとしての面ありあり。しかも相手は鋼タイプのギギギアル。それを炎で突破しようというのは、確かに、読み筋としても有力に考えられますね。

 だとすれば受けも十分に選択肢。強いて言えばシャンデラの『もらいび』受け無償降臨を1ターン目から行うと言うことは、戦局を左右しかねない博打でもあるという点が判断を尻込みさせるマイナスポイントでしょうか。うぬぬ。

 

 

「うぬぬ……『ノボリさんがあたし達の戦法をどう読んでいたか』、という部分に焦点をあてると……ドレディアかワタッコが炎以外のサブウェポン……いえ、いずれにしてもシャンデラは突破し辛いですね? 相性的には」

 

「だなー。シャンデラならクダリさんのローブシンとの相性も、まぁ、悪くはない」

 

「ならドレディア&ワタッコによる状態異常のばらまきという読み違えの線はいかがです? 草タイプですし、これで後手に回ったら面倒ですよね?」

 

「1ターン目から2体揃って状態変化か。それこそ博打だと思うがなー。ローブシン狙いなら物理攻撃力を抑えられる『やけど』か? こっちは先発が草タイプが2体だしなぁ……麻痺と眠りならまけなくはないけど」

 

「ああ、それもそうですね……催眠は、ちょっと」

 

 

 分が悪いですね。ショウさんの考えた手順(たられば)が、どうやら此方にとって致命的な一手であったらしいというのは判りました。

 ……けれどね。その辺りは1番最初に相談してあって(・・・・・・・)ですね。

 

 

「が、まぁ……それこそ、ホテルで相談した内容を踏まえての選出でしたからね。ノボリさんとクダリさんはあたし達の作戦を『受け止めてくださる』だろう、と」

 

 

 それはあたしとショウさんに共通の感。

 バトルサブウェイのサブウェイマスター。相手のホームで戦うからこその、読みでした。

 草タイプと言うのは、要約すれば「ハマれば強い」タイプ。場が整い、場面がぴたりと当てはまれば、限定環境下での無類な強さを発揮するのです。勿論全ての草タイプポケモンがという訳ではないですが、他と比べても明らかなタイプとしての特徴を持っている属性括りだと思います。

 

 相手があたし、リーグチャンピオンなことが思考の歯車に重さを含ませ。

 集客を見込む商業施設(アトラクション)だからこそ。

 エンターテイメント性を狙い、挑戦者に「花を持たせる」のを前提としていて……加えて相手の手管が読み辛く、手を(こまね)いてしまう。

 つまりあたし達は挑戦者と言う利を生かし、準備に時間(ターン)を費やしてOKだろうという予測だったのですから。

 

 

「その結果、あのお二方にあたし達は勝利しました。手を抜いていた訳でもありません。ノボリさんとクダリさんは、サブウェイマスターとしての役割を十二分に努めて下さいました……と、あたしは思いますよ? 勿論、ポケモンバトルの公平性という点について鑑みれば完全勝利とはいかないんでしょうけれど……」

 

 

 ここで、遠くから軽快な電子音が響き始めます。どうやらライモンシティの遊園地、昼の部のパレードが始まった様です。

 あたしは、頭上でゆらゆらとやじろべえのようにバランスを取って遊んでいたワタッコを腕に抱え、「フワワー」と浮かぶ綿毛と、小雨を降らす曇り空、遊園地に舞い始めた色とりどりの紙吹雪を眩しく眺め。

 それら光景からちょっとだけ斜に構え、目線を逸らしたショウさんへ、問いかけてみます。

 

 

「ひとまずの勝利。ですがバトルサブウェイというアトラクションを、あたし達はしっかりと突破したんです。……それでも十分でないと、ショウさんはお感じになっているのでしょうか」

 

「……あー……」

 

「ッサム」

 

 

 フードコートのパラソルの下。ぱらぱらと落ち続ける夏の雨がもたらす、暗さと湿気。

 目前、ショウさんは頬を掻き。コーヒーのカップに紛れ込んだ紙吹雪をちょいと摘んで、その指をハンカチで拭い。

 ハッサムが羽根をぶぅんと動かして、積もりかけた紙吹雪を端へと落としてくれた頃合い。

 

 

「結末に関していえば、良いんだろーな。勝ったという事象に憂いも未練もない。ただこれは個人的な感情なんだが……結果が重視される、ってとこだけ。それが微妙に悔しい(・・・)んだよなー……とかとか」

 

 

 どこか目に焼き付く寂しさを伴った表情で曇り空を見上げ、ショウさんは、そう、呟いたのでした。

 






 わ か り づ ら い (戦闘描写が)。
 突っ込み、お待ちしております。

 これが、サンムーン環境に適応できていない罰でしょうか……(ブランクです)。
 とはいえ特別編でガチに戦闘を組まなければならないのは、サブウェイマスター戦が最初で最後の予定。……の、はず。

 しかして、これにて1部終了。
 次回更新をお待ちいただけると幸いです。

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