頭上に星の雲。
足元に黒い海。
あたしはテレポートをした……はず。だったのですが。
気がつけばこうして、謎の空間ことハイリンクの中に放り出されてしまっています。
周囲を見回しますが、一緒に居たはずのショウさんの姿が見えません。
……あたしに。あたしだけに何かを伝えたい、ということなのでしょう。
足元が、波立って。
前回も見かけた影が、あたしの前ににゅっと顔を出します。
黒い人型。雲のように白く揺れるスカート。率直に言って、この影には見覚えがあったり。
ダークライ。
生息地の周囲に、無差別に悪夢をばらまくといわれているポケモンです。
全身を黒塗りにしてくださってはいますが。そのシルエットはあたしがポケモン図鑑によって姿形を知っている、ダークライそのもの。
怖さはありません。ハイリンクにおいては喋るポケモンなんのその。コミュニケーションどんとこい。そのようなご様子なので、ダークライがあたしに何かを伝えたいというのならば、持って来いの場所だったりするのですよね。
周囲にポポポポポ、と湧き出してゆくのは。モノクロ写真のような、以前にも見たショウさんの残影。
波打つ足元は不安定。以前と違い、今にも砕けてしまいそう。
これは不安、なのでしょうか。
それとも何かを伝えたい……?
視線を上げると、ダークライのシルエットが動きます。伝えてきます。
あの夢をみたあたしに向けて。心づもりは決まったか、と。
あなたが
あたしは彼を救いたい、と思います。
ではどうすれば、というのは。
あたしにはまだ、全く見えてはいないのですけれども。
……。
ダークライ。ダークライ……に、見えていますが。
疑問が浮かんでしまいました。目の前にいるこの影は、はたして、ダークライなのでしょうか?
ダークライがショウさんを助けたいと思う。違和感はありません。
ダークライがあたしに何かを伝えたい。違和感はありません。
しかし現在。
ダークライが引き起こすという悪夢の集団発生は、確認されていないのです。
思い返します。
イッシュ地方に、確かにダークライは出現した過去がありました。昔のワンダーブリッジにまつわる逸話が、件の悪夢による影響とされていたはずです。
しかしあの事件は、
加えてさっきの話によれば、それら事件はミィさん方特殊部隊によって安全に処理をされていて。
……その際にもっとも危険な状態の地域であったストレンジャーハウスは、争いの舞台にはなり。ハイリンクによるリバースマウンテンの活性化と休止の狭間に巻き込まれ、荒廃はしましたが。今は安全に解体が進んでいるのです。
つまり ―― ダークライによる過去の事件は、ポケモンと人との関係を崩すこと無く、解決された。
そこだけが気にかかります。
生態系に影響がなくっても、後を引く悪名がなくっても。ショウさんに恩があったから、ハイリンクに来てお話をしたかった。別にそういうこともあるでしょうし。
それこそショウさんであれば野生ポケモンをお助けしていても、不思議ではありませんからね。
でも。
あたしは、じっと、目の前の影を見つめます。
浮かんでいる影がゆらゆら。
向こうもこちらを見たようで、視線が交わります。
真っ黒に塗り潰されたその影は。
―― ぐるり。
時計回りに世界が反転。
夜は朝に。地面が空に。海が星に。黒は白に。
逆さに立ったあたしの目の前に ―― 真っ白な影。
小さな女の子の、影。
明らかにさっきまで象られていたダークライのものではありません。
人間の。小さな女の子の影です。
両腕を腰辺りで組んで。
胸元に……ケーシィでしょうか。真っ白なので輪郭しか判りませんが、そのくらいの大きさのポケモンを抱いているようです。
ウユニ塩湖みてーな白紫の水面に立って、女の子は話します。
直接は伝えることが出来なくって、お姉ちゃんに頼りたい。
あのお兄さんは
羽が間に合ったから。
わたしは間に合わなかったけれど。
わたしを助けてくれて、嬉しかったよと。
だからわたしから。あのお兄ちゃんに伝えて欲しい。
助けてくれて……ありがとう!
ぱりん。
世界が割れた音。空白の
浮遊感。落ちてゆく世界の先には、ヤマジタウンの倉庫が見えます。
小さく空いた世界の穴の先。
こちらを見上げる彼と ―― 目が合いました。
嬉しさを届けたいと思いました。
後悔よりもありがとうを伝えたかったんですよ、と。声を大にして叫びたい。
決壊した暖かさを溢れさせ。
この感情をどうすれば伝えられるのだろうと考えて。
あたしは彼に勢いまま、抱きつくことに、したのです……!
・ウユニ塩湖みてーな
でも1番判りやすい字面かなと思いまして(
・まぁもう元ネタ話してええか
その方が適時性はありますからね。
BW2より、ストレンジャーハウスの幽霊ぽいイベント。
および、ワンダーブリッジにおけるクレセリアイベントより引用。