ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ9 フキヨセシティにて

 

 

 1992年、6月。

 俺と研究班はフジ博士達と合流し、海外のイッシュ地方へと飛んだ。

 ああ。初の海外である……!

 

 一旦は飛行機でヒウンシティの空港を経由。現在は俺だけで、フキヨセシティにまで来ていた。

 フキヨセシティは環状に起こされたイッシュ地方の街のうち、西側に位置している。最大手の航空貨物輸送会社である「フキヨセカーゴ」があり、そこから荷物などを受け取る必要があるためだ。

 いやさ。機材とかは流石に空輸しないと何ともならんかった。手続きもそうだし検閲もされたしな。 

 ……つまり、外国でもやらなくてはいけない仕事が山ほど待っていたのである!

 調査のための了承、現地ガイド的な人、国間を超えたポケモン調査についての了承・申請の最終確認などなど……こちらに着いてから行うこととなっていたのだ。

 しかし。

 

 

「……といっても、俺はあんまりすること無いんだよなぁ」

 

 

 そう、現在のところ俺がやるべきことは少ないのだった。

 事情を知らない現地の人には俺は只の子どもにしか見えない。そのため、他の研究員達が調整・連携をやった方が結果として時間の短縮になるようだった……と言うのがここ数日の活動から得た結果だ。ハンコも必要なく、今はもう電子決済みたいだしな。ここ。

 そんなんで俺は受け取り予約の確認を済ませ、機材の輸送の指示を出した後の暇をもて余しており……とはいってもそうそう自由に動くことも出来ず……とりあえずぶらぶらしている。

 街周辺の野生ポケモンとか、すっげぇ気になるんだけれどな。流石にひとりで出歩くわけにもいくまい。なにせイッシュは、野生ポケモンが魔境なのだからして(いやほんと)。

 ならばこんな時こそ無駄思考といきたいのだが、考えるにもネタがなくてはな。

 ……と俺が歩いていると、

 

 

 《――――ゥゥヴン!!》

 

 

「うっわ、すげぇ音」

 

 

 これは……飛行機か? と、近くにある滑走路を見る。すると3機の飛行機が順に降り立ったところだった。

 この町、フキヨセシティではそんなに珍しい光景では無いらしいが、俺は好奇心もあって近くへと行ってみることにする。うん、暇だしな。

 そんな感じで決めて滑走路に近づいていくと……飛行機からガタイのとても良いオヤジさんが降り、そこへ、建物の中から出てきた女性が近寄っていくところだった。

 

 

「はっはっは! いやあ、中々にきつかったな」

 

「あなた、無事でよかった! ……雨天の中でのフライトだなんて……」

 

「いやぁ、その点についてはすまないと思っている。だが、まずはこうして帰ってきたことを喜んではくれないか?」

 

「……まったく。……お帰りなさい、あなた」

 

「ああ、ただいま。……おおそうだ、フウロの様子はどうだ?」

 

「ええ、今は眠っているわ。やっと体重も増えだしてきているし、心配はいらないわよ」

 

 

 どうやら夫婦であるらしい。赤ちゃん談義を始める2人。

 ……あぁ、断片的な情報のみではあるが、おそらくはぶっ飛びさんの両親だろう。名前が聞こえたし。その辺の年齢だったか。

 これは俺が近寄ってもしょうがない、と考えて振り返る。

 の、だが。

 

 

「……あぁ、ショウさん! 良かったぁ、もう行ってしまわれたかと……」

 

 

 さっき手続きをしてくれたカーゴサービスの人が、大声で俺の名前を呼びながら近づいて来ていた。

 おかげで、うわ、俺の後ろのぶっ飛び両親もこちらの方を見ているが……ううん。まー良いか。

 とりあえずは急いで追いかけてきた理由を聞くべきだろう。

 

 

「どうかしましたか? 手続きに不備とか……」

 

「あのですね、ショウ様の荷物なのですが、搬送ルートで大雨の天候異常があって、搬送が遅れるそうで……」

 

「―― いや、待ってくれ。その心配は無くなったぞ」

 

「……うひゃあ!」

 

 

 カーゴサービスの人の台詞を遮る声。

 声の主を見るため後ろへと振り返ると……さっきのオヤジさんだった。

 

 

「突然すまないね。キミがショウ君かい?」

 

「はい、そうです。フキヨセカーゴサービスさんに機材の運び込みを依頼していました者で」

 

「私の会社を利用してくれてありがとう。それで荷物についてだが、大丈夫。私達が今、責任を持って輸送してきたところだ」

 

 

 なるほど、だから雨天フライトなどを強行してくれたわけか。

 ありがたいことだ。もちろんある程度は安全を確保できると判断したうえで運んでくれたのだとは思うし。ただなぁ。

 

 

「ありがとうございます。でも、良かったんですか? さっきあの人が言ってたのですが、大雨だったんでしょう」

 

「なぁに、心配は無い。これでも私は操縦と『空気読み』については1番でね。そもそも日程を遅らせないことは会社にとって重要なことだ。もちろん、荷物の安全も重要だがな」

 

「空気読みですか」

 

「ああ。風神様、雷神様のご機嫌取りでもあるな。その辺りは、空路の選択さえ幅が利けばなんとでもなるものなのさ」

 

 

 にやりと頼もしく笑うオヤジさん。なるほどな。確信があってのフライトだったわけか。

 だとすれば機材をありがたく受け取っておくか。そう考え、早速荷物の確認をさっきのカーゴサービスの人にお願いする。

 

 ……と。

 ……オヤジさんがこちらの方を興味深そうに見ている様だ。

 

 

「えー……あのう」

 

 

 なにか御用で?

 

 

「いや、この輸送は中々に大口の仕事でね。リーグを通しての依頼なうえに、ポケモン事業に関与する上の人(・・・)の監査も入った。その荷物の受け取り人にしては若すぎる……と思っていたのだが、なかなかどうして。立ち振る舞いは年相応のそれではないと思ってな。不快にさせたならすまない」

 

 

 これはしょうがない。

 俺の容姿は8才のそれであるため、もとの国(・・・・)ですらこのような反応をされるのは日常茶飯事である。外国なら尚更だろう。

 

 

「不快にはならないですね。むしろ褒め言葉として受け取っておきます。というか、そういうのを気にするんならこんな遠征調査で筆頭著者(リーダー)なんてやってませんので」

 

「ははは、それもそうだな。まぁ、これからもごひいきに。よろしく頼む」

 

 

 その後荷物のチェックなどをしている間、オヤジさんやその奥さんにポケモンバトルやイッシュ地方のポケモンについて、俺の研究について……等の話をしながら昼飯をご馳走になった。

 ついでに言うと荷物には全く問題はなく輸送されていたので、調査は予定通りに進みそうだ。 

 さぁ、次はヒウンシティに帰って仕事だな。

 

 

 

 

 ……ちなみにだが、フウロさんとは、断じて、顔も合わせていません。

 

 …………両親から攻略? うわ何という策士それも無い。

 

 ………………光源氏なにそれ怖い!

 





・フキヨセカーゴ
 本格的に使用するのはBW2。
 自然保護区域に行くとき、もしくはヤマジタウンに飛ぶときにお世話になる。


・フウロ
 BW、およびBW2のジムリーダー。専任タイプはひこう。
 エケチェン。



 20220801改訂
 地の文の整理と口調の調整のみ。展開の追加はなし。

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