ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ1 ニビシティ↔オツキミ山(遠足)にて

 

 さて、自己紹介から始めたい。

 俺の名前は「ショウ」。この世界のカントー地方、タマムシシティ在住の少年……なのだそうだ。

 もしも名前を漢字で書くとすれば「青」なのだろう。両親からもらった名前なので他意はないけれど、まあなんともぴったりな名前だなぁとは思うのでありがたい。

 少なくとも「ブルー」じゃなくて良かったとは思うけどな。あれはポケスぺから性別のイメージが固定されてしまってるんだよなぁ……。

 

 さてさて。転生しましたるはポケモンの世界。この世界においても西暦が使用されており、現在は1989年。乳幼児期は割愛して1984年生まれの俺は5才なのだが、その割にはかなりの語彙があることや精神年齢から、よくよく周囲から奇異の目で見られることとなる。

 ……寂しくはないぞ! ないったらない!

 というか普通に時間が持て余し気味かと思いきや、案外そうでもないんだよな。例えば。

 

 

「ねえ、遊びましょう」

 

 

 などと俺に話かけたのは、ミィ。近所の同年齢幼なじみ……という設定の、サブメンバーとして送り込まれた転生者である。前も今も、実際に幼なじみではあるのだが。

 

 

「なぜ周りに合わせるし」

 

「せっかく、遊べるのだから。遊ばなくては損かと思って」

 

 

 言われてみれば確かに。というのも、俺とミィは現在「実際に」ポケモンを見るのが初めてなため、知識・経験共に不足している状態なのだ。色々とその方が便利なので、義務教育の開始と共に飛び級しまくってタマムシ大学に進学する予定にしている。せっかく研究の最先端、タマムシシティに生まれたのだからそういうのは活かしていきたいし。

 ただ、そうなったら子どもらしく遊ぶなんて時間はなくなるだろうなぁ。もちろん、現在進行形でなくなりつつあるわけなのだけれど。ちなみに親がタマムシ大学に籍を置く教授であるため、アピールさえすれば進学自体は難しくもないと思う。

 ……そのアピールの機会自体は今はまだ皆無に等しいけどな! 園児だから!

 

 さてさてさて。

 ここでさらに無駄な思考を展開するが……1989年現在、ポケモンに関する学問の歴史は深いとはいえない。

 

 丁度90年前である1899年にニシノモリ教授が進化の概念を発表し「ピカチュウの進化に関する一考察」を発表。

 1925年にまたもやニシノモリ教授がポケモンの体が小さくなる特性を発見し、シルフカンパニーとぼんぐり職人の共同開発によってモンスターボールの研究が開始された。

 つまり、最近になってやっとモンスターボールの量産計画が始まったのだ。このまま量産が続けば、金銀の舞台となっているジョウト地方で制作されている、ぼんぐりボールの需要が減っていくのだろう。時代とは移ろいゆくものなのだ。諸行無常!

 ……そういうのは今のうちに手に入れられるなら、欲しいなぁ。まぁ園児なのでどうしようもないけどさ。

 

 などと感傷に浸ったり、初めて聞いたけどニシノモリさん凄え、とか考えていたのだが。

 

 ―― 数分後にはオツキミ山麓まで来ていたりするのだからあら不思議!

 

 

「遠足だってさ」

 

「そう。懐かしいわね」

 

 

 オツキミ山。カントー地方の北西に位置する、ニビシティとハナダシティを隔て繋げる、広く深い山脈地帯のひとつである。

 ゲームではニビシティの次に訪れるダンジョンであるため、野生ポケモンのレベル自体は控えめ。ただその前のダンジョンがチュートリアルを含んだ「トキワの森」であるため、広いし深いし階層まであるしロケット団がうじゃうじゃいるしで難所のひとつとしてもいいんではないだろうか。

 因みに俺とミィが属する保育園が企画したこの遠足自体、早くからポケモンとのふれあいを教育に取り入れた政府の方針から発案されたもの。今回の遠足のような感じで、子どもがポケモンの生息地近くまで行くことも増えたらしい。ポケモン研究の最先端であるタマムシにいたことも、理由の1つかも知れないな。

 ……この遠足は俺としては願ったり叶ったりなんだが……危なくないか? まあ護衛として、公務のエリートトレーナーさんとかがついてきてくれてるけど。

 

 

「そもそもこんな岩ばっかりじゃ楽しむも何もあったもんじゃないな……。博物館とかならすっごい見たいけど」

 

 

 ぼやく俺に対してミィが……というかミィよ。お前、ゴスロリ服で遠足はないだろう。

 

 

「そう、言わないで。私は楽しめているわ。確かに岩は多いけれど。あとゴスロリは趣味よ」

 

 

 何事も楽しめる姿勢は大切ということか。……というかミィよ。お前転生前から推察するに、成長したらマント? ケープ? インバネス? あの魔女みたいなのも装備するんだろ。暑苦しいやつ。

 ちなみに俺はきちんとスモック着用だ。和を乱さないことは大切だよな!

 さて俺達の服装は置いとくとして、今、他の園児は町の方の近くに作られたポケモン動物園みたいなのに集まっている。だがしかし、俺はさっきのミィからの「遊びましょう」の誘いに思いっきり乗って一通り遊んだから、ちょっとばかし。街道の中央あたりまでエリトレさん達と一緒に遠出してみたりする。急減する前にピッピも見てみたいしな。見れるかは分らんけど、山の中だけにいるって訳でもないだろう。その辺とか歩いてないかね。流石にオツキミ山の洞窟内にまで入る気はないのであしからず。

 

 

「あら、あなたも見てみるといいわ。……この岩壁、土の堆積……」

 

 

 ミィはどうやら路肩に夢中であるらしい。地層を眺める園児とか! なんて考えつつ、隣を寄り添うように歩いているミィの視線を追って俺も地層に目をやる。

 ……地層か。こうして見てみると、どうやらニビからオツキミ山にかけてのこの地域は地層が深くまで露わになっているようだ。そういえばオツキミ山では化石のイベントがあったしな。そういう地形なのだろう。よりにもよって「理科系のおとこ」が発見してるのはROM容量のせいだと思いたい。盗掘とかじゃ……ないよな?

 

 

「それはそれとして。今のうちから俺達も化石とか探してみるかね……。……ね?」

 

 

 セリフを中断したのには訳があるんだ。ゴゴゴゴゴって音がする。聞こえてる。

 

 

「……、地震かしら」

 

 

 確かに揺れてはいる。が、音は山の上から……ってうおおおお!

 

 

 ――《ゴゴゴゴゴゴ!!》

 

 

 大きな音を発して山から転がってくる、集団。それらを凝視してみると、岩の塊が数個。ついでに岩からは手も生えている。

 「手」ってことは!

 

 

「「ゴローンか(ね)」」

 

 

 ゴローンが大漁で大量である!

 しかしこの辺には、ゴローンなぞゲームではいなかったはずだが……。

 

 

「トレーナーが、増えて。山の奥の方に追いやられて行ったんでしょう……あ、すごい数」

 

 

 まぁイシツブテじゃあこんな山の裾まで転がってこないか。ゴローンなら生息的にもけわしい崖の中腹とかに住むらしいし、質量的にも良く転がるだろうなぁ。そういう風に住んでいる場所もあるのは実にゲーム(図鑑)準拠で、この世界に転生したからこそ味わえる嬉しい部分だったりする。入れないもんなぁ、オツキミ山の奥とかさ。

 ……さて。とにかく、危険が危ない。ここで俺もミィも逃げることはできるのだが、このまま町まで転がってしまっては他の園児が危ないだろう。いずれにせよ早く発見できてよかったくらいに考えたい。

 エリトレさん達は……気づいた。ちょっと遅い。間に合わん!

 

 ―― って2度目のうおおおお!

 

 

 たくましい おっさん が あらわれた !

 

 

「頼むぞ、ガルーラ! ケンタロス!」

 

「がるーぁ!」

 

「ぶもぅ!」

 

 

 俺達の後ろから飛び出したガタイの良いおっさん(白髪)が、躍動。

 ゴローンの進行ルートをふさぐことのできる位置にモンスターボールを投てき。自らのポケモンを繰り出し……。

 

 

「2人とも、耳を塞げ! ――ガルーラ、『メガトンパンチ』! ケンタロス、『はかいこうせん』!!」

 

「がーーぁるう!!」

 

「ぶもーぅ!!」

 

 

 先頭のゴローンへ、効果いまひとつのノーマル大技を2連発。

 すると、だ。

 

 

 《ズドドドドドドォォォオ!!》

 

 

 周囲どころかニビシティにまで響くであろう、爆発音。

 おー、なるほど。『じばく』による誘爆を狙ったんだな。おかげで俺の耳が痛い以外は無事である。耳は痛いが。

 ゴローンをただ戦闘不能にするのではなく、ダメージを自覚させて自発的に『じばく』させる。それによって普通では止められない量のゴローン達を、生態的な特性を生かして足止める。

 すごいな。流石の応用力。ゲームの知識だけじゃあこうは行かない、まさしくポケモン世界に生きているトレーナーならではの戦略だ。

 ……まぁ、この人(・・・)の場合はただのトレーナーってだけじゃあないんだけどな。知識も、技量も。

 

 

「大丈夫かね? 2人とも」

 

 

 俺はミィから手を離し(体で庇いながらミィの耳を塞いでいた)、2人同時に頷く。まあ、痛いとはいえ耳は聞こえるので万全無傷と言い表しても過言ではない。

 そうして、俺たちもおっさんが出したポケモンも落ち着いたところで、件の白髪混じり(白髪8割)のたくましいおっさんが自己紹介を始める。

 

 

「知己の子ということで、君たちの護衛についてきていた。ワシの名前はオーキド。タマムシ大学携帯獣学部の教授で、最近はポケモン博士と呼ばれておるよ」

 

 

 かの影が薄くない博士のご登場である!

 ……あー、この人護衛の中にいたのな。ポケモンばっか見てて気づかなかったよ。

 

 

「今回はワシがフィールドワークを兼ねて護衛をしとったから良かったものの……この通り。遠出は勘弁願いたいな、やはり。まあ助かったし、良しとするか」

 

「「ごめんなさい。ありがとうございます」」

 

 

 声を揃えて礼を言う俺達。しかし、いやあ……記憶にある博士よりずいぶん若く感じるな。何より、体型がガッシリしている。ここから本格的に研究にのめり込んで、忙しくなって、初老も迎えたりするのだろうか。

 

 

「さて、お前たちの先生と合流するかの」

 

「……、」

 

「お、おい!」

 

 

 とオーキドのおっさんが言いかけた。が、その横をミィがすたたたっと抜け、先程の地層へと駆け寄る。向かう先の地層からは……成る程な。確かに、ちょっと気になる。この世界では、どうなんだろう? 見つかっているのかな?

 気づいた俺もそちらへと近寄り、表面が吹き飛んだ地層を見つめ、2人で多少の土をどける。

 

 

「こら、お前たち、今は……」

 

 

 とオーキド博士から言われるが、元から斜めに露われていた露頭の表面の土をどけるだけ。結果、捕縛よりも俺達が早く土を除けきる。

 すると、少しだけ見えていた白い鎌の様な……おそらくはカブトプスの……化石が露わになった。

 ……というか、ストライクが化石だったらなんか嫌だ。カマキリといえばハリガネムシ……いや何でもない。

 

 

「これは、何かしら博士」

 

 

 俺がくだらない事を考えている横で、ミィがおっさんに尋ねる。すると、化石へと視線を向けたおっさんの目が見開かれ……数日後。ここで調査隊による発掘が開始された。

 これがこの当時世界最古とされたポケモン、カブトプスの発見だったりする。当時な。当時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠足はあれでいったん中止になりました。それはまぁ仕方ない。

 それよりも、化石ポケモンの発見である。カブトプスを発見した俺とミィは、調査のまとまった来年……1990年には発見者として名を轟かせてしまうだろう。あまり目立つのは嫌いなんだよな。目立たなきゃならんので不可抗力でもあるけど。

 ……というか、オーキドのおっさんが仲介して発表してくれたからこその目立ちだよなぁ、これは。まったく、手柄なんて奪ってくれても良いんだけどなー。功績だけ理屈だっていれば、飛び級とかするのも筋が通るので十分なんだけど。

 つまり。よくよく考えたらタマムシ大学入学には役立つな。なら良いか。手のひら返し! 

 まぁ、そんなこんなで研究界隈では名前が残る形になるであろう俺とミィである。

 ……というかミィよ。お前、やっぱり下着はドロワーズなのな。ゴスロリには確かに似合う。だので突っ込まなかったが。

 ……それはいいとする。良いとしよう。けどお前、その下に何も穿いてないだろ!

 

 

「もちろん、下着だしね。これも私のファッションだから……慣れると楽」

 

 

 下着とはいえ現代人的には何かしら対策はすべきじゃないのか? まあ、俺のことじゃないから決定権は向こうにあるんだけど。

 そもそも普通の感性してたら幼年期からゴスロリには走らないか……。一番似合う時期だからって突っ張って、ミィは絶対譲らないんだけどな。知ってた。

 

 

 

 

 




・カブトプス
 当時の世界最古。
 この辺りはご都合ですけど、この世界のポケモン研究は色々とまだ浅い設定なので、学術的に新種だと認められるレベルでの骨格の発見が初めて、くらいの意味合い。




 2020/09/14
 わりと改訂

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