フキヨセシティで機材を受け取って後日。俺はとんぼ返りに、ヒウンシティを訪れていた。
ここにある拠点に施設・機材の設置を行った後、食料関係の調整を行う必要があったからだ。これは出発地点で調達するのが最も手っ取り早いもんで。
とは言っても。
俺が行うのは確認と挨拶くらいなもんなんだがなっっ!!
いやさ。そのために入国前から色々と手配をしていたわけなんだし。仕事が少ないのは良い事である。うん。
さてそんな俺は現在、こちらの国のリーグとの仲介を申し出てくださったうえに研究への出資までしてくれた、さる「御家」の使いの人と会って、調整を終えたところだ。
その使いの人物とは。
「―― 数の問題なしっと。これでどうにかなるな。ありがとな、コクラン」
「いや、こちらとしてもお代は貰っているしね。何よりショウの国だけでなく世界的に有名なオーキド系列とのコネが出来たのは、こちらとしても嬉しい限りだ」
そう。プラチナにてバトルキャッスルのブレーンを務めていたコクランが「御家」の使いとして出てきたのだった。
ちなみに家の側に俺が出向いているので、コクランだけでなく、メイドだの執事だのが後ろにいっぱいいるけどな。
「コネかぁ。……まぁ確かに、オーキド博士にはお世話になってはいるけれども」
「ショウが目をかけられているってのは把握しているよ。早速今回の調査もリーダーにされているみたいだし。……ついでに筆頭著者にされたりするんじゃないかい?」
「うっわ、って言いたいところだけれどもそうなるだろうなぁ。うーん、
こちらの事情も理解してくれてるみたいなので、このくらいの
因みに彼とは年が近い(とはいってもコクランのほうが結構年上だけど)ことから、砕けた口調を使っている。コクランのほうも割と乗り気で、今では中々にフランクになってくれているのは嬉しい限りだ。
「まー、そもそも論文として出すかは気分次第だけどな。データ取るだけ取って、こっちの国に渡すかも知れんし」
「そういうこともあるのかい?」
「んー……リーグとの関係次第、とだけ言っておく。そんなだもんで、俺とのコネが役に立つのかは判らんぞ」
「いや、最近そちらの国に城を建てて本拠の1つにする計画もあるからね。……何より、
にやりと笑うコクランに確かに、と笑い返す俺。なるほどなぁ。良い性格をしているじゃないか、コクラン!
俺だって金持ちとのコネは困らない。実際に今回も出資していただいている身であるわけだし。
……そういえば軽く流したけど、城って! やっぱり金持ちは違うな!
ただでさえ今居るのは「御家」が所有するビルの室内だって言うのに。ヒウンシティの一等地だぞ!?
んまぁ、金持ちだろうとさる「御家」だろうと、縁があるならば将来俺の力になってくれる可能性は大きいだろう。
ということで。
「『また』があるかは分からないけど、何かあったらこちらからもお願いすることにするよ。まぁ今のところ頼りっぱだけども」
「その『また』を楽しみにしておくことにするよ。君に借りを作っておくのは楽しいことになりそうだからね」
そう言って、コクランは俺に合わせてにやりと笑った。
……そういえば、現在のコクランはまだ10才そこそこなのだが、「御家」においては既にかなりの地位を持っている執事なのだそうだ。
そんな感じだから俺とは境遇も似ているし、思うところもあったのだろう。次に会うのがいつになるかは分からないが、良い友人になりそうな予感がするな。なってくれると良いなぁ。
などと、俺が自身の友人関係について思索をめぐらせていると、コクランが切り出してくる。
「さて。話も終わったし。ポケモンバトルといくかい、ショウ?」
「おー、良いぞ。出発はまだまだ後日だし、今の俺は暇だし。つーか『御家』への顔見せと交流こそが仕事みたいなものなんで。コクランの都合が良いなら望むところだ」
コクランに曰く、こちらでもポケモンバトルはトレーナー同士の挨拶みたいなものなのだそうで、「俺のポケモンやその実力を見たい」と言われたのだ。
随分とカロリー高めの挨拶だなぁとは思うが、まぁ理解は出来る。なにせポケモントレーナーだからな、俺もコクランも!
さて。バトルをするとは決まったが、ここ……「御家」の室内ではできないだろう。倫理的に。
「バトルの場所はどうするんだ? 近場のフィールドとか」
「向こうに俺の仕えている御家が所有しているリーグ準拠のフィールドがある。そこを使おう」
「アウェーじゃないか、俺」
「嫌かい? ……ならばどこでやるかな……」
ただでさえさっきからメイドさん方々の視線を感じるんだよな。こう、なんというか好奇心というよりも値踏みされてる感がある。なんでだ?
だので俺はイッシュのヒウン周辺の地形を思い出し、うーん……街中は却下。東は橋だよな確か。西と南は海。
というわけで北しかないな、うん。このビルからも遠くはない。
「じゃあ町の北側ゲートから出て、その辺りの道でバトルってことにしよう」
「ここからなら遠くはないし……良いか」
と言うと俺とコクランはビルから出て歩き始める。
……だが、妙に後ろに気配を感じて振り向くと、
おいおい……後ろにいたメイドさんやら執事やらがゾロゾロついてきたぞ。
これだったらさ。
「どっちにしろアウェーじゃないか……?」
「これでも多分、『御家』のフィールドへ行くよりはマシだと思うんだ」
そんなになのか、お前ん家!
――
――――
「手持ちは2匹ずつ。ルールは勝ち抜き制になりますが、よろしいですかー」
「あー、はい。良いです良いです」
「異存は無いね」
ヒウンシティの郊外で大勢の執事&メイドに囲まれながら、審判をするメイドさんの言葉にうなずく俺とコクラン。
……で、またもや審判メイドが口を開く。
「あとはー、敗者が勝者に昼ご飯をご馳走する、でしたねー」
「あー、はい。そうですそうです」
「異存は……ってえぇ!? それは聞いて無いな……?」
俺達(なぜか審判メイドも)はどうどう、とコクランをなだめる。ちなみに、この条件はさっきこっそり付け加えた。アウェーは不公平なので!
それにしてもコクラン、良いリアクションをする奴だ。そういやゲームでもテンション上がったと思われる時の驚き方は大概だったなぁ。
さて。
そんなこんなでバトルのためにヒウンシティの外に出てきた俺達(と観戦の執事メイドご一行)だが、その光景は俺の記憶と結構な違いがあった。
「(……砂嵐がないな。砂地はあるけどそんなに酷くないし)」
そう、BWでは盛大に砂嵐が吹いていたこの4番道路がただの荒地になっているのだった。
おそらくはこの後、数十年かけて砂漠が進行してくるのだろう。砂漠怖い!
「まったく……。……まぁ、昼ご飯くらいはいいか。オレが作れば良いんだし。それじゃあ始めようか、ショウ」
「おう。……行くか!」
環境問題とコクランのため息はとりあえず置いといて、バトルに切り替えよう。
そういえば1番心配なポケモンのレベル差だけど……俺とコクランのトレーナーの年季は同じくらいなのであんまり無いと思う。多分。
まあ、なるようになる!
「では、バトルー……スタートです!」
俺とコクランが開始の合図に合わせてボールを投げる。
開いて、飛び出すっ!!
「行けっ、ムクバード!」
「頼んだ、ピジョン!」
俺のピジョンはLV:23。コクランのムクバードも進化して無いし20台だろう。
そう。進化してくれましたポッポが!!
エリカお嬢とプラタ―ヌ兄と協働し、ロケット団と相対したあの調査の後。流石に負けられないバトルが増えるだろうなぁと、気合いを入れてレベリングさせて貰ったのだ。親にカントーの色々な場所に遠征させてもらったりしてな。おかげで大変に捗りましたし、トレーナーとしての
さては対面、ピジョンVSムクバード。
奇しくも空中戦になったのだが……さて、いつも通りに行きますか!
「ピジョン!」
「ピジョ! (コクリ)」
「ムクバード! 『かげぶんしん』だ!」
「ムク!」
俺は「いつも通り」に、ピジョンに指示の先出しをしている……『ふきとばし』!
「ピジョー!」
《ゴォォウ!!》
「ムク!? ムクーウゥゥゥ……」
本来ゲームであれば後出し技だった『ふきとばし』だが、指示を出して受けてというやり取りを省略した分、『かげぶんしん』と同着……分身しきる前にムクバードを吹き飛ばすことができた。
うし! これで交代だ!
「あー……と、コクラン様のポケモンは大きくバトルフィールドから離れてしまいましたので、ポケモンの入れ替えを行ってくださいー」
審判メイドが交代を指示する。
そう。この世界での『ふきとばし』は色々と便利に使えるのだが、バトルでの主な使い方はゲームとそう変わらない……「相手の強制交代」だ。
審判のいるバトルにおいて、ポケモンが審判の視認出来ない範囲まで行くか決められたフィールドから出た場合、交換しなくてはならないのである。
そして、実は俺、コクランのもう1匹は予想できていたりする。
ゲームにおけるコクランの使用ポケモンと、彼が仕えている「御家」の特徴からして。
「ならば……行けっ、キルリア!」
コクランの仕える「御家」は、BWでエスパー四天王を務めていたカトレアお嬢様のいる家系。エスパー系統の可能性が高かった!
んでもって!!
「ピジョン! (砂を巻き上げろ!)」
「キルリア、ねんりき!」
コクラン自体はエスパーでもなんでもない。(ただし万能執事ではある)
ナツメとトレーニングしている俺にとって対エスパー戦はお手の物。『かぜおこし』によって砂を巻き上げる指示を出し……すぐさま、ピジョンが動く!
「ピジョッ!!」
《ゴウッ!!》
「……!!」
砂を巻き上げてしまおうと考え、俺がサインで指示した『かぜおこし』が先に決まった様なのだが……キルリアからの反撃が無い。
キルリアの方を見ると、両手を顔の前で交差させて耐えている様子だった。……あれは。
「(……もしかしてひるんだのか?)」
「どうした、キルリア!?」
コクランも呼びかけているが、キルリアは反撃できないようだ。
俺は件の『かぜおこし』(っぽいもの)を見上げると……妙に渦を巻いている、というか……威圧感がある、というか……。ここで思考。
「(ピジョンが覚えられる技でひるみの効果……。『エアスラッシュ』はレベル的に無いし、技のビジュアルが完全に違う。と、すると)」
……あるとすれば『たつまき』か?
いちおう、FRLGでは『たつまき』は覚えられず。その後のシリーズで覚えられる技になるって流れなはずなんだが……。
まぁ考えるのは置いといて、キルリアが動いていないのは事実。とりあえずはこの好機を利用しておこう!
未だ上空にいるピジョンに呼びかけとハンドサインで指示出し!
「ピジョン! (『でんこうせっか』!)」
「くっ! キルリア、『テレポート』!」
指示が交錯し、ピジョンとキルリアが同時に動く。
「ピジョッ!」
《シュンッ》――《ガッ!!》
「キルッ! ……!!」
《――ゥゥン!》
「ピジョッ!?」
『でんこうせっか』は決まったものの、キルリアは『たつまき(仮想)』の範囲内から脱出した。
さてはさてはの、追い討ち!
俺はキルリアの『テレポート』した位置を指差しながら、ピジョンに追撃を指示する。
もっかい、『でんこうせっか』!!
「ピジョン! (もっかい!)」
「『ねんりき』だ!」
コクランは『ねんりき』での迎撃を指示する、が。
「キル……」
「ピィ……ジョ!!」
《ズガッ!!》
ピジョンの『でんこうせっか』のほうが早かったな。
「あ、キルリアは戦闘不能ですね。ピジョンが勝利ですー」
審判メイドからは戦闘不能が告げられる。
……さっきから思ってたけど、間延びしてて緊張感がどっか行く声だなぁ、審判メイド!
まぁ友人戦なんで緊張感はいらないにしろ、昼飯がかかっているもんで!!
20220805改稿
地の文の追加と口調の調整のみ。追加展開なし。