ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ19 いざ、トキワへ

 

 

 ―― Side グリーン

 

 

 今日はなんか、ねーちゃんが妙に張り切っている。

 

 

「……こんな感じかしら」

 

「……? こんな早くからどっか行くのか、ねーちゃん」

 

 

 ねーちゃんは学校でも男にも女にも人気がある優等生。そんなねーちゃんが気合を入れてめかしこんだなら、それはもうふんわり系美少女なんだ。

 けど、この町……マサラにいるのならばそもそもめかしこむ必要が無いと思う。

 

 

「うん。ちょっと、トキワまでね」

 

「トキワぁ? なんでだよ」

 

 

 トキワはマサラと比べれば都会だけど、わざわざ出かけるほどじゃないだろ。

 

 

「ポケモン大好きクラブに入会しようと思ってるの」

 

「ふーん……それでかよ……って、なんでねーちゃんが行くんだ?」

 

「え? それは、日中しか申し込みできないから……」

 

「……クチバにある本会に郵送で申し込みすればいいだろ」

 

「……」

 

 

 ……ねーちゃん、迂闊なヤツ……。

 

 

「なるほどな、目的はアイツか。めかしこんでたのもそれでだ」

 

「……えーっと……」

 

 

 ま、別にいいだろ。俺もアイツは嫌いじゃないし。

 ……でも、アイツってねーちゃんと同じで俺の2こ上なんだよなぁ。その割には……

 

 

「ショウも年の割りにかなり大人っぽいしさ。案外そんな感じでめかしこんで、正解かもしれないぜ?」

 

「  」

 

 

 ついに言葉もなくしちまったよ……ったく。

 とはいえ、さっき言った事は嘘じゃない。ショウはじーちゃんのところで研究者をやってるというだけじゃなく、なんかこう……オーラ? とかそんな感じのが大人っぽいからな。

 ……その割にはガキっぽいところもすげぇあるけど。

 

 

「そんじゃ頑張れよ。ねーちゃん。ショウは学校行ってないんだから、こういうチャンスは逃しちゃいけないと思うぞー」

 

「ぅ……あ、こら! 待ちなさい、グリーン!」

 

 

 待ってどうすんだっつーの……。

 ……さて。家にいらんなくなったし、レッドとリーフのとこ行って宿題でもするか。

 

 

 ―― Side End

 

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 

「そんじゃ行くか、ナナミ」

 

「はぁ……そうね」

 

 

 今日はナナミと約束していたトキワへと行く日だ。ナナミと合流した俺は、トキワへと向かう……はずなのだが、しかし……

 

 

「……暗いというか……なんか元気ないな、ナナミ」

 

「えっ、あっ、そう?」

 

 

 何となく様子がおかしい。……俺、なんかしたかな……。

 ……まぁわからない分には無駄に思考しても仕方ない。歩きながら聞くとするか。

 

 

「んー……とりあえず、ポケモンを出しておいていいか? 護衛かねて」

 

「……うん。お願いするわ」

 

 

 ナナミの了解を得て、俺は手持ちポケモンを外に出すことにする。

 

 

「ほーれ、出てこーい」

 

 《ボウン!!!》

 

「ギャウ!」

 

「ピジョッ」

 

「……ミュウ?」

 

 

 ボールからニドリーナ、ピジョン、ミュウが出てきて……どうやら3匹とも俺からの指示を待っているようだ。

 約1匹は眠そうなのだけれども!

 

 

「ピジョンはいつも通り警戒をよろしく。ニドリーナとミュウは……まぁ、遊撃警護で」

 

「ギャウゥ」コクコク

 

「ピジョ!」バサッ

 

「……ミュウ?」フワッ

 

 

 俺からの言葉に頷く2匹と、おそらくはわかっていない1匹。……ミュウは俺が直接指示すればいいかな。

 それに、この辺の野生ポケモンと俺の手持ちではレベルがかなり違うので、ある程度は任せても大丈夫だろうと思っておくことにする。

 さて、次はナナミの番かな。

 

 

「そんじゃ……あとは歩きながら話すか」

 

「……それもそうね。どうせ、トキワまで結構あることだし」

 

 

 そう言いながら、俺達はトキワへと歩き始めた。

 

 

 

 

「で、どうしたんだ」

 

 

 しばらく歩いたところで、本題をいきなり切り出す俺。芸が無いという気もするが、こういうのは単刀直入でいいだろう。多分。

 

 

「えーと、どうかしたという訳じゃないんだけど」

 

 

 ふむ。それじゃあ、

 

 

「んじゃ、なにか心配事があるのか」

 

「そう、ね。心配と言えば心配かもしれないわ」

 

「なら、話してみろよ。話せないことなら別にいいけど」

 

「えーっと……。……うん。……あの、今日のわたし、変じゃない?」

 

 

 妙に小刻みな沈黙の末に、ナナミはそう問いかけてきた……成程、そう来るか。

 

 …………そうだな。

 

 

「いつものナナミと違って、余裕が無い感じはするな」

 

 

 そう。いつものナナミはなんと言うか……もっと余裕のある、良く言えば大人っぽい、悪く言えば人をくったような(カニバではなく。念のため)雰囲気がある……ような気がする。

 

 

「……」

 

 

 ナナミは沈黙。次の言葉を待っているようだ。

 えーっと、あー……

 

 

「ま、俺としてはそんなナナミの一面が見られたのも新しい発見で嬉しかったけど」

 

「……! ……」

 

「あと、今日の格好は大人っぽくて似合っていると思うぞ」

 

「…… ……」

 

 

 とりあえず、思った部分を素直に褒めてみました。はい。

 

 

「…………ありがとう、ショウ君」

 

 

 お、何とか復活したかな? ナナミの表情が明るくなった気がするし。

 

 

「はは! ナナミが元気になった様で何より。それでこそ、褒めた甲斐があったっていうもんだ」

 

「むぅ、なんだか気に入らないわ」

 

「あー、すまんすまん。……まぁ、昨日に話した通り、今日は午前の大好きクラブに行く時と午後の買い物くらいは俺も同行できるからな。楽しみにしてるよ」

 

「……ふふふ、そうよね! 楽しめるときに楽しまないとね!」

 

 

 おおう、完全復活し過ぎたかもな……とか考えるが、まぁ元気なことは良い事だろう。

 そうして、復活したナナミと共にトキワへと向けて歩き続けるのだった。

 

 

 

 

「……ピジョー!」

 

 《ゴオォウ!》

 

「コラ!? ッターァァ……」

 

 

 そんな俺達の横では、警戒していたピジョンが見事にコラッタを吹き飛ばしているのだが。

 ピジョン、「きまぐれ」のはずなのに本当に良い子である……!

 


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