「ショウ君にナナミさん! 君達を、名誉会員に認定する!」
「「はぁ」」
さいですか。
……トキワにて無事大好きクラブに入会を果たした俺とナナミは偶然、いつもはクチバにいる大好きクラブ会長さんと会っているところ。どうも今日はこちらの様子を偶々見に来ていたらしい。
で、俺の手持ちを見せた後の第一声がさっきのだったのだ。
「むほほ! このピジョンのモフ感が素晴らしい! ニドリーナも……」
「ピジョ……」
「ギャゥウ……」
……まじで話が長いんだなぁ。
とはいっても本当にポケモンが好きなのは伝わってくるし、悪い人では無いな、会長さん。
ニドリーナとピジョンは、悪いが耐えてくれ。
さて、そんなんでソファーに座りながら大好きクラブ会員のおばさんからお茶を貰い、会長の話を聞き流すこと10分。
手持ちはボールに戻し、俺も久しぶりに夏休み明けで校長先生の話を聞くあの感覚を思い出していたところで……
「……というわけだよ」
「「はぁ」」
……どうやら終わったようだ。俺のポケモンを褒めるだけで10分て。嬉しいけど。
と、終わったのを見越してさっきのおばさんが寄ってきていた。
「おおそうだ、名誉会員のカードの準備は出来たかい?」
「はい」
「うむ。君達、これを受け取ってくれたまえ」
「「はぁ」」
俺とナナミはおばさんの持ってきたカードを見て、……なんか1桁の会員ナンバーがついているようだ。
「それが名誉会員の証だよ。これで君達も大好きクラブの一員だ!」
「あー、ありがとうゴザイマス」
「嬉しいです、会長さん」
ナナミは素直に嬉しがっているようだが、俺は……まぁ良いか。
確かにポケモンは好きだしな、俺も。
さてそんな風に会員証を眺めていると、会長さんがまた話し出した。
「それにしても、わざわざマサラからここまで来るとはね」
「俺達は学生なんで、休日しか来れなかったんですよ」
正確にはナナミが、なんだけどな。
「む? それならば……」
「あ、あー、そうです! ショウ君はちょっと他にも予定があったよね!?」
……おや? ナナミが変なタイミングで間に入った。
確かに予定はあるんだが、
「……いいのか? まだちょっと予定より早いけど」
「いいのいいの! その分午後に時間が取れると思うし!」
「いや、だからのぅ……」
それもその通りか。俺としても会長さんの話がどうしても聞きたいわけではないしな。
……会長さんがなんか言いかけている気がするが、気にしない。
「それじゃあすいませんが、失礼させてもらいます会長さん」
「うーむ、仕方ないかの」
「わたしは他の会員さんのポケモンについても聞いていくから、また後でね」
と言う訳で皆から了承を得たので、ナナミと会長に挨拶をし最後におばさんにも頭を下げてから大好きクラブを出ていくことにする。
「(……ま、丁度良かったかな)」
……なにしろ、会長の本当の恐ろしさは自分のポケモンを語るときに発揮される。
しかし、先ほどは俺のポケモンを褒めるのみで自分のポケモンには触れていなかった。
つまり、これからが本番ということだ!
「頑張れよ、ナナミ」
ΘΘΘΘΘΘΘΘ
こうして予定よりもかなり早く自由時間となった俺は、予てからの目的だったトキワシティの北へと向かっている。
目指すは、一際高い丘の上にある「ポケモンジム」を建設中の場所だ。
「……着いたな」
小高い丘を何とか登り終えジムの横に着くと、未だ建設中であり……資材が運び込まれている所だった。
この「トキワジム」は最近になって就任するジムリーダーが決まったジムで、おそらくこうした資材によってジム内の「仕掛け」を作っているところなのだろう。
「あーっと、ジムリーダ名……『サカキ』。タイプは地面、か」
建設中の建物の壁に掛けてあるポケモン協会からのジム紹介を読み上げる。
……やはり、
「サカキ、か」
どうにも感慨深いと言うかそんな感じになって、思わず名前を再度呟いてしまった。
―― しかし、これが命取りであったのだ!
「俺がどうかしたか、少年」
「うぉ!」
俺が大げさなリアクションで動揺を隠しながら後ろを振り向くと、黒のスーツにオールバックの男が立っている。
ポケットに両手を突っ込み、……残念ながらRのバッジ的なものはしていないようだ。
「少年は、……見たところまだトレーナーの年ではないな。が、ポケモンは持っているようだ。トレーナー志望といったところか」
「あー、はい。そうですね」
……うーわー……。
この人……サカキこそ、ロケット団のボスでありトキワのジムリーダーである。
……うーわー……まさかの本人とご対面だよどうするよ。
つか、こうして対面しているだけでも滲み出る威圧感とカリスマ性が半端ないな。
……とりあえずは、幾つか会話しておくかね?
「あなたがここの新しいジムリーダーなのですか?」
「そうだ。いつかは少年とも戦うことになるかもしれないな」
「そうなれるように頑張ります」
……とりあえずな感じで、当たり障りがなさ過ぎるだろう!
もうちょっと面白い方に転がせないものかな……と考え、質問の趣旨自体を変えることにする。うん、無駄に遊ぼうとするこの性格が恨めしいな(だがそれが楽しいのだが)。
それはさておき、俺からの質問ターンである。
「……サカキさんは、どうしてジムリーダーに?」
これは前から思っていたことだ。悪の組織のボスが、ポケモン協会のど真ん中もいいところであるジムリーダーという役職についているのはどう考えても得策では無いと思うんだよな。
ということは、理屈以外のもので動いているかも知れなくて……ひとまずは聞いてみたかったのだ。
「ふむ。そうだな……」
サカキは顎に手をあて、空を見上げる。……この人がやっているとどうにも様になるというか、渋い仕草だな。
などとこんなときでも無駄思考には余念が無い俺へ、サカキは建設中のジムの方向へと視線を変えながら、続ける。
「俺は、『組織の力』……言い換えるならば、多少意味は異なるが『団結力』とでも言うか? ……それらの凄さを知っていて、また……信じている」
「……」
「だから、ポケモン協会にというよりはジムリーダーになって『人に指導を行う』というノウハウに興味があったのだよ」
「誰に、教えるのですか?」
「……俺の仲間に、だな」
組織における人材育成のため、と言うわけか?
……どうにもこの人は含みが多すぎて、感情が読み取れない。何かまだ隠している気もするが、……ここで俺が聞けることでは無いな。
ならば、とりあえずはここで話を切り上げるのが吉だろう。
「ならいつか俺にもポケモン勝負を教えてくださいね、サカキさん」
「……丁度良い。少年。バトルはそれなりに出来るのだろう?」
……。
……待て。切り上げるときの台詞選択をミスった様だ。
…………。
……嫌な予感しかしないぃ!!!!
「……はい。多分。それなりならば」
そして思わず嘘をつけないこの雰囲気! 一組織のボス半端無い!!
「時間があることだし、俺も育成途中の手持ちしか持っていない。……そこでだ少年。バトルをしようじゃないか」
「……」
……あー、まぁ……。
出来れば避けたかったけれど、こうなってしまっては仕方ないから切り替えよう。それに、良く考えたら……
「ま、ベストメンバーじゃないとはいえジムリーダーさんとバトルできるのは有益かな……」
「決まりだな。ついて来い、少年」
サカキのことを少しでも知っておく事は、未来のためになる。
なにより、サカキは強いだろうから……訓練になるだろうな、うん。
「わかりました。胸を借りるつもりで行きます」
「本気で来るといい。俺も、手は抜かんからな」
……あー、やっぱ止めとくべきだったかも。威圧感やばい。擬音語で表すと《ズゴゴゴゴ》とかそんな感じだ。
……まぁ良いか。
原作でのサカキさんは、ジムにて「俺の隠れ家」的なことを言ってますが、普通に考えたらそれだけではないのではないかと愚考。
という訳で、本作においてはもっと色々と理由だのなんだのをつけております。
独自設定ですので悪しからず。