ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ21‐① VS新米ジムリーダー

 

 

 バトルを行うことになった俺は、サカキにつれられてトキワジムの裏に来ている。

 因みにフィールドは「土」といったところ。かなりの年月をかけて踏み慣らされた土のようだが、他に特徴になるものは無いと思う。

 

 

「手持ち3対3の入れ替え方式でいいですか、サカキさん?」

 

 

 ……やっぱり、マジでやるのかなぁ。

 一応、俺としてはサカキの手持ちも想像できている。恐らくはゲームコーナーで戦った際の手持ちがメインになるだろう。

 現在の俺の手持ちはピジョン(LV:27)、ピジョンに『へんしん』したミュウ(LV:30)、ニドリーナ(LV:30)の3匹で、『へんしん』したミュウはボールに戻さず使うしかないため「バトルの途中に交換で戻すことが出来ない」状況だ。

 

 

「それで構わない」

 

 

 さて、只今のサカキからの返答にて確認事項は終了。あとはバトルを始めるだけとなった。

 ……時間かけても緊張するだけだし、さっさと始めるか。

 

 

「それでは、セルフジャッジで行きます」

 

「ああ。バトル……」

 

「「スタート(だ/です)」」

 

 

 俺は腰のボール1つに手をかけ、ニドリーナを繰り出す。

 蛇足だが『へんしん』したミュウは元からボールの外に出ており、俺の横で出番を待っている状態だ……ってのは、本当に蛇足だな。

 

 

「ニドリーナ、頼む!」

 

「ギャウ!」

 

「さぁ行け、ペルシアン」

 

「フシャァ!」

 

 

 サカキは……ペルシアンか。

 

 ……ペルシアン!?

 

 確か、初代の「ピカチュウ」バージョンでは手持ちにいたはずだが……ここでも出してくるのかよ!

 俺の読みではサカキの手持ちはサイホーンとガルーラが確定だったため、『にどげり』による効果抜群を狙ってニドリーナだったのだ、が……まぁペルシアンにも抜群だしいけるだろうと思う。多分な。

 

 さぁ、「指示の先だし」から……『にどげり』!

 

 

「ギャ……ウ! ウゥ!」

 

「噛みつけ!」

 

「フシャア!」

 

 《《ズドン!》》

 

 ――《ドン!》

 

 

 よし! 指示の先出しによるスピードアドバンテージで、何とかペルシアンとの相打ちに持ち込むことが出来たようだ。ペルシアンの素早さ種族値は115、ニドリーナの56よりも圧倒的に高いため、下手をすれば一方的に攻撃される可能性もあったからな。

 因みに遅れて響いた音は『にどげり』の2発目で、同時に噛み付いているペルシアンを引き剥がしたところだ。

 

「(図鑑は……)」

 

 ここで図鑑のレベルチェック機能をみると、サカキのペルシアンはLV:30。ニドリーナと差は無い。

 さらに、新たについたステータスチェック機能の画面も見ると、今の『かみつく』でニドリーナは3割ほどのHPを持っていかれている。

 

「(だが、ペルシアンの『防御』から考えて向こうはそれ以上のダメージだろ)」

 

 ペルシアンの防御種族値は60。決して高いとはいえない数値である。

 ……素早さが高すぎて目立っているだけな気もするけどな。

 

 さて。そんな感じなのでもう1度『にどげり』を直撃させれば、ペルシアンは落とせるだろう。

 

 

「ニドリーナ、もう1度!」

 

「ペルシアン、もう1度だ」

 

「フゥゥ!」

 

 《ガブッ!》

 

「ャウッ……ガウゥ!」 

 

 《ドッ》――《ドフッ!》

 

 

 ニドリーナはペルシアンに先手を取られてかみつかれながらも、『にどげり』を2発とも命中させてくれた。そして、

 

 

「……フ! ……ニャア」

 

 ――《バタン》

 

 

 直撃したペルシアンは、地面へと倒れこんだ。そして倒れこんだペルシアンを、サカキがボールに戻す。

 

 

「戻れ、ペルシアン。……戦闘不能だ、少年」

 

「はい。じゃあ、次ですね」

 

「なかなか面白い技術を使ってバトルをするな」

 

 

 そういってニヤリと笑うサカキ。

 ……うぅ……これは、「指示の先だし」がみつかっていると考えていいだろう。

 かといって、

 

 

「全力という約束ですから」

 

 

 そういうことだ。ミュウは隠すけどな!

 

 さて、俺の言葉にも僅かに笑みを浮かべたサカキは、腰のベルトにある次のボールへと左手を伸ばしている。

 ……よく見たら全部ハイパーボールだな、あれ。やはり金持ちか……。

 

 

「では、次だ。……行け、サイホーン!」

 

「すまないけど頼む、ニドリーナ!」

 

 

 とかいう俺の無駄思考の間にもサカキはボールを投げ、サイホーンを繰り出した。

 俺はポケモンを替えず、またもやニドリーナをボールから出す。

 

 さて、ここでニドリーナは捨て鉢覚悟で手を打っておかないと、サカキの手持ちで予想している……ゲームにおけるタマムシゲームコーナーとシルフ本社で手持ちにいた……ガルーラに対抗し辛くなるだろう。

 そう考えた俺は、次の技としてニドリーナに『どくばり』を指示してある!

 

 

「ギャァウ!」

 

 《ビシュシュ!》

 

「サイホーン、角で突け!」

 

「ホォォォオン!!」

 

 ――《ドドッ、ドドッ、ドドッ!》

 

 

 この音はサイホーンがこちらへと走ってくる音だ。サカキの指示に雄叫びで答えたサイホーンは、俺のニドリーナの『どくばり』をものともせずに超重量の巨体を揺らし、向かってくる。

 ぶっちゃけものすごい迫力で、……これ『とっしん』じゃないのか? とすら思うぞ、俺。

 

 ……だが、如何な迫力でサイホーンが向かってこようがやることは変わらない!

 

 

「ニドリーナ、外しても良いから速度重視でどくばりを連発!」

 

「ギャウ!」

 

 《ビシュシュシュ!》

 

「……ォォオン!!」

 

 

 先と変わらず、ニドリーナの『どくばり』連射を受けてもサイホーンの勢いは衰えない。

 そしてその勢いのまま、

 

 

 ――《ド、ドォンッ!!》

 

「ニドリーナぁ!!」

 

「……ャウッ!!」

 

 《ヒュルルル…………ボスン!》

 

 

 思わず声を上げてしまった……というのも仕方ないと思う。サイホーンの突進まがいの『つのでつく』を受けたニドリーナは、空中へと吹っ飛ばされてしまったのだ。

 俺は慌ててバトルフィールドへ駆け寄り、ニドリーナを抱き上げる。

 

 

「大丈夫か、ニドリーナ!」

 

「……ャ……ゥ!」

 

 

 なんとか強がって見せてくれるニドリーナ。……そういえばサイホーンの突進は「高層ビルを粉々に砕く」らしいんだが……ソースは図鑑の説明文な。

 ……えふん。どうでも良いことは置いといて、最後まで立ち向かってくれたニドリーナへ感謝をしながら、ボールへと戻すことに。

 

 

「ありがとうな、ニドリーナ。……こちらは戦闘不能です、サカキさん」

 

「あぁ、そうだろうな」

 

 

 そしてボールへ戻すと同時に図鑑の各チェック機能を確認すると、

 

「(サイホーン、予測レベル24か)」

 

 ……レベル的には、俺の手持ちよりもかなり低めになる。そして俺の残り手持ち2体は空を飛べるため、飛べないサイホーンとは比較的有利に戦えるだろう。

 なら、隣にいる「ピジョンに『へんしん』したミュウ」に聞いてみるか。

 

 

「(任せていいか、ミュウ?)」 

 

「ミュ……ピヨー!」

 

 

 快諾してくれたようで。……言っとくが、「ピヨ」はミュウがピジョンの鳴声を真似ている声だ。

 ミュウ本人も『へんしん』にノリノリのご様子。

 

 さてはともあれ、ニドリーナは見事に布石をうってくれた。そして相手がサイホーンなら、ミュウで十分相手取れるだろう。

 ……あぁそういえば、俺は「へんしんミュウ」の事もピジョンと呼ぶので悪しからず。まっこと紛らわしいんだがな。

 

 

「そんじゃ任せるぞ、ピジョン!」

 

「ピヨー!」

 

 

 俺の横から元気よく飛び出していくピジョ……いや、ミュウだけど。

 サカキはポケットから出した左手をボールにかけ、

 

 

「もう1度出番だ、サイホーン……角で突け!」

 

「ホォォン!」

 

 

 サカキはサイホーンを再度出して、指示を行った。だが、そちらの攻撃の前に!

 

 

「ピィー……ヨー!」

 

 

 先手を取ったミュウは、一見何も起こらない技を繰り出す。だが、これは勿論予定通りで……って、うっわ!

 

 

 《ドッ!!》

 

「……ホォォン!」

 

「ピョォ!?」

 

 

 サイホーンは空中にいるへんしんミュウに対して、今度は跳躍からの突撃を行ってきたのだ!

 ……いや、多分『つのでつく』なんだろうけどな!

 

 

「ピィ……ヨッ!」

 

 《スイッ》

 

 ――《ドスン!!》

 

「ォォン! グルルル……」

 

「よし、ナイスだピジョン!」

 

「……速さが足りないか」

 

 

 ミュウには「指示先だし」と「素早さ種族値の差」という要素があって、何とか「技を繰り出してから相手の技を回避する」ことが出来たようだ。

 いや、それにしても、ミュウが多少低空飛行だったからといってあのサイホーン跳びすぎだと思うんだけど。

 

 そんなんで安堵しながらも考えをめぐらせるが、ここはミュウに頑張ってもらうところだろう。

 ……このまま行くぞ!

 

 

「ピジョン、フェザーダンス!」

 

「交代だサイホーン!」

 

 

 って、交代か!!

 

 サカキは俺の技指示と同タイミングでサイホーンを戻してボールを投げる。中からは……

 

 

「ガルゥ!」

 

 ――《パァン!!》

 

「ピヨッ!」

 

 

 ガルーラが出てきたのだが、速い!!

 ボールから出てきたガルーラは、こちらの技を出すより早く……ミュウに向かって手を叩いて驚かして見せた。おそらくは『ねこだまし』なのだが、いくら先制技だからといって、俺の指示と同タイミングで交代したガルーラがこちらの攻撃より早く先制できるとは……。

 

「(んー……コピーされたかな?)」

 

 交代は、ゲームで言うところの「1ターン」がかかる。普通であればその間に、こちらから1撃与えるくらいは出来るはずだ。

 それでも先制されたとなれば、俺も使っている「指示の先だし」を模倣されたかもしくは「同系統のスピードを補う技術」を使ったかのいずれかだろうと思う。

 何より、サカキが指示を口に出すのが確認できなかったしな。

 

 などと思考はしてみたが、俺の出しているのはピジョンではなくミュウだ。そしてニドリーナの張ってくれた罠もあるし、ガルーラ対策も既にしてあるのだから何とかなるだろう!

 

 

「切り替えよう、ピジョン! もう1度フェザーダンス!」

 

「ピヨ!」

 

 《バサッ!》――《バサバサッ!》

 

 

 なんかバサバサやっているが、これが『フェザーダンス』。ガルーラの「攻撃」を2段階下げる事が出来る技だ。

 なぜこの技を選んだかというと、ガルーラは高レベルでまとまった種族値を持つ強敵であるが、1つだけ……「特攻」のステータスがこれでもかというほど低い。

 そのため所謂「変態型」でも無い限りは攻撃手段が「物理技」のみになり、「攻撃」を下げることは攻撃手段封じともなりうるのだ。

 

 

「ちっ……ガルーラ、岩砕きだ!」

 

「ガー……」

 

 

 ……『いわくだき』? 

 

 俺も少し考慮していなかった技を告げられたため、観察しようとサカキの方を見る。しかし、ガルーラは先程距離をとったピジョンとの間を埋めようとはしていない様だった。

 『いわくだき』は直接接触が必要な物理技であるため、このままでは当てられない筈……と、ガルーラは真上に腕を上げているな。あのままだと、腕は下に振り下ろされるだろう。

 

 

 ……って、成程、そう来るのか!!

 

 

「……ルゥ!!」

 

 《バゴンッ!》

 

「ピジョン、地面を割った塊を飛ばしてくるぞ! 警戒しながら、かぜおこしだ!!」

 

「ピヨ!? ……ピヨォ!!」

 

 《ゴォゥ!!》

 

 

 指示通りにミュウは素早く『かぜおこし』を使い、その後に旋回を開始。 

 

 

「今だ、ガルーラ……擬似、岩落とし!!」

 

「ガルゥ……ゥウラァッ!!」

 

 《ブォオン!!》

 

 先程の『いわくだき』で、ガルーラは「地面を」砕いていた。その塊をピジョンに向かって投げ飛ばしているのだ!!

 

 

「ピヨッ!!」

 

 《スイッ》 

 

「……ガルル!!」

 

 

 ミュウに向かって投げられた地面隗は、距離があること、風で砂を巻き上げた目隠しがあることで、何とか避けることが出来た。結果としてガルーラだけに『かぜおこし』をヒットさせたため、少しは有利になっただろう。

 

 ……それにしても、強い風の中でもほぼ真っ直ぐに飛んでくる「殆ど岩みたいな土の塊」怖えぇよ!!

 ありゃ飛行タイプに効果抜群だわ! 確かに!!

 

 ……と、怖がるのもいいけど早く反撃しないと次のが来るな。

 ここは早めに決めたいところだから、一か八か……最大技で勝負に出るか!!

 

 

「ピジョン! (電光石火!!)」

 

「ピヨ!!」コクコク

 

 

 ハンドサインでへんしんミュウへと方向と位置の指示を出し、タイミングを計る……ここだ!

 

 

「ピィィ……」

 

「左斜め後ろ、メガトンパンチ!!」

 

 

 サカキの簡潔な指示に従い、煙の中から飛び出したミュウに向かって、ガルーラは的確かつ最小限の動きで振り向き ―― ドンピシャの迎撃!

 

 

「……ヨォッ!!」

 

「……ガルゥ!!」

 

 

 《《ズドッ!!!!》》

 

 

 ミュウの『でんこうせっか』とガルーラの『メガトンパンチ』が同時に炸裂する。

 

 ……今のを見て改めて実感するが、やっぱりサカキは強い。

 サカキは土煙が上がっているにもかかわらず、へんしんミュウの位置を補足。位置と技の最小限の指示だけで、完全に死角をついたミュウの攻撃に相打ちさせたのだ。

 この流れを実行するためには、ポケモンとの信頼・連携が欠かせないだろうことからも力量が伺えるというもの。

 

 だが、

 

 

「ガ……ルゥ……」

 

 ――《バタン》

 

「ミ……ピヨー♪」

 

 

 倒れたのはガルーラだけで、俺のミュウはやられてないんだなこれが。

 


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