ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ21‐② VS新米ジムリーダー

 

 

「戻れ、ガルーラ。……なるほど、毒か」

 

 

 戦闘不能でボールに戻ったガルーラを見て、サカキはガルーラが「予想よりも弱っていた」原因を挙げてみせる。

 というか、

 

 

「せっかくの俺の秘策なんですが……こんな簡単に見破りますか」

 

「俺の手持ちの関係で、毒ポケモンも多く扱うのでな」

 

 

 そういえばニドキングだのクインだの使うんでしたね……。それにしてもご慧眼で。

 

 ……まぁ、それはとりあえず置いといて、まずは種明かしをしよう。長いけど。

 

 

 先も述べたように、ガルーラは「特攻」以外は満遍なく高い種族値を誇る強敵。ミュウ自体は種族値が更に高いが、『へんしん』によってピジョンと同じ種族値になっている状態だ。

 そのピジョンにおいては、最終進化の手前だけあって……ミュウ戦のときもそうだったけど……ぶっちゃけガルーラを相手取るにはまたもや攻撃力不足なのである。

 少なくとも『かぜおこし』と『でんこうせっか』を当てただけでは沈まないだろう。

 

 ……と、ここで図鑑を見ると、サカキのガルーラはLV:25と表示されていた。レベル差や努力値云々があるから、何とか同速勝負くらいには持ち込めていたらしい。

 …………いや、ピジョンじゃ素早さ種族値も負けているから、本来は先手を取れないんだ。鳥って早いイメージなのに。

 

 軌道修正。

 

 そこでガルーラのHPを削るために、サイホーン戦でニドリーナが『どくばり』を連射した仕込みが効いてくるのだ。

 あれは俺達が編み出した、『どくばり』をあちこちの地面へと「外す」ことによって作る……いうなれば『擬似どくびし』とでもいうべき技。

 使い勝手は殊更悪く、最低でも2ターン分くらいは連射しなくては十分に作り出せないうえ、範囲も中々に狭い。因みに、今回は「指示先だし」とサイホーンとの距離が開いていたことで、2ターン分くらいは確保できた次第だ。範囲についても狭かったのだが、ガルーラの方からどくばりの刺さった地面を「割りに」来てくれたことが幸いしたと思う。

 

 しかし、この様に使い辛いからといって、ニドリーナが『どくびし』をレベルで覚えてしまえばこの技はお役御免かといわれれば、そうでも無いはずだ。利点として、相手に気づかれにくいこと、『どくばり』がベースになっているため踏んだダメージもあること、撒くと同時に攻撃も出来ること、とかがあるからな。

 ただし最初のサイホーンには硬くて刺さらなかったご様子で……やっぱり使い辛いかもな、うん。

 

 

「どくばりによる罠か。使い辛いが面白い発想だ」

 

「あー……はい、ありがとうございます」

 

 

 俺、口に出して無いのに! あなたもエスパーか、サカキ!!

 

 

 ……さらに置いといて……念を入れて仕掛けておいた、ばれていない仕込みもある。

 

 実は、サイホーン戦の初手でミュウには『ミラータイプ』という技を使ってもらっていたのだ。

 これは相手のタイプを自分にコピーするという技で、サイホーンのタイプをコピーしたことにより、ガルーラとの対戦時のミュウは「岩タイプのピジョン」というややこしい状態になっていた。

 だからガルーラのタイプ一致『メガトンパンチ』を「効果いまひとつ」で耐えられたし、実は『擬似いわおとし』も耐えられた手筈なのだ。かわしたけどな。

 

 ここで更に言い訳したいのは、何故ミュウが『ミラータイプ』を使えたかということ。

 『ミラータイプ』は確かにミュウがレベルにて覚えることの出来る技だが、ゲームではピジョンに『へんしん』した状態では「ピジョンの技しか使えない」システムだった。

 だが、こちらの世界では違っており……確かにピジョンの技も使えるが、それに加えて元覚えていた技も使える仕様なのだった!! 技の記憶容量の違いが何かしら影響しているのかもしれない。

 

 これはなんというチート! と思うだろう。勿論、俺も思ったし。だけどな。よく考えたら『へんしん』はミュウとメタモン、もしくはドーブルにしか使えず、メタモンが元から覚える技は『へんしん』、ドーブルに至っては『スケッチ』だけ。つまりはミュウにのみ許されたチートなのである。

 

 ……ずるいよな! 本気とか言ってるから使うけど!

 

 ついでに、『へんしん』後にピジョンの姿で『サイコキネシス』を放つことなども出来るが、検証した結果としてやはりタイプ一致としては扱われていないようだった。ゲーム準拠だな。しかしその割には『へんしん』対象の種族値になるのだから、攻撃に関してはあまり有用ではないかもしれない。

 これを利用すればピジョンに『へんしん』しながら『バリアー』とかも張れるのだが、あからさまに「超能力!」って感じの技を使うとミュウの存在がばれてしまう可能性があった。そのため、ひっそりと使うことの出来る『ミラータイプ』のみを使用したのだ。

 ……せこいとか言わないでくれ。

 

 まぁ、これらの仕込みは最終的に……受けたダメージ元のほとんどが『メガトンパンチ』であり、どちらにせよ一撃は耐えられたであろうことから……役に立たなかったから、サカキにもばれていないのだろうな。

 

 

 はい種明かし終了!!

 

 

 

「……俺は最後の1匹だ。行くぞ少年」

 

「了解です」

 

 

 さて、長い思考も終了したところでサカキからバトル再開が告げられる。

 ここで状況を確認すると、サカキの最後の1匹はサイホーンLV:24で、俺の手持ちよりもレベルが低い。対する俺は残り2匹で、ピジョン(ミュウじゃない方の本体)に至っては全くの無傷である。

 ……それでも油断はしないけどな?

 

 そんな感じでまとめると、サカキと同時に俺もボールに手をかけ……

 

 

「さぁ行け。サイホーン」 

 

「さぁ行こう、ピジョン!」

 

「ピジョオ!!」

 

 

 俺はへんしんミュウではなく、無傷であるオリジナルピジョンを繰り出す。

 サイホーンがミュウ戦で見せた大ジャンプを警戒し、ピジョンには高めに飛行させて……っと。目の前にサイホーンが、……いないな。

 

 

「サイホーン、そのまま……」

 

 

 サカキは指示を出しているようなのだが、

 

 

「――ォォ――」

 

 

 って、なんとなく聞こえるこれは……サイホーンの鳴声か?

 聞こえる方向からして……

 

 ……うお、危ないぞこれは!!

 

 

「……踏みつけろ!」

 

「――ォォォオン!!」

 

 

「……あぶな、ピジョン!」

 

「ピジョ!!」

 

 

 ――《《ズッドオォンン!》》

 

 

 なんと、サカキはピジョンのはるか上空にボールを投げて上空から『ふみつけ』させたのだ! その足元からは砂煙が巻き起こり、……音からして地面は粉々になっているに違いない。

 俺が急いでピジョンに呼びかけたところ、何とか回避優先が伝わったようで……危な過ぎるだろ……!

 

 ……だが、うまくかわしたなら!!

 

 

「反撃だ! (たつまき!)」

 

「ピジョオオ!!」

 

 《ゴウゥゥ!!》

 

「ホォォン!!」

 

 

 よし、直撃!

 

 

「……サイホーン!」

 

 

 そんな『たつまき』をくらっている中、サカキはサイホーンになにやら指示をだしていて……今日の経験上、嫌な予感しかしないなぁ。

 俺はその予感に従い、サイホーンの方を『たつまき』で視認し辛い中でも観察しようと凝視する。するととサイホーンは、少しだけ移動した位置でなにやら地面に頭を突っ込んでいた。

 

 ……繰り返す。

 

 「地面に」、「頭を」である。

 

 

「ピジョン、来るぞ!!」

 

「ピジョ?」

 

「ホオォォ……」

 

 

 サイホーンのいる(または落ちた)位置は、先程のガルーラが「地面を砕いた」ところ。

 その地面はサイホーンの超高空からの『ふみつけ』によって更に砕けており、とかいう前にさっさと指示だ!

 

 

「(移動! サイホーンの周囲を旋回をしながら、タイミング指示でたつまきは継続!!)」

 

「ピジョ!!」

 

「……ォォン!!」

 

 ――《ブォオン!!》

 

 

 繰り出されたのは、先程のガルーラと同じ戦法……擬似『いわおとし』である! サイホーンが「割れた」地面の中に頭をいれ、投石器のように土塊を飛ばしているのだ。

 先程と同じだがしかしより細かく砕かれた礫は、細かくとは言っても中々の質量を持った大きさでもってこちらへと飛んできていて、

 

「(今のピジョンには『ミラータイプ』はないし、マジで危ないだろう!)」

 

 と、考える……が、ここは!

 

 

「攻め立てるぞ! ピジョン! 移動しながら、……」

 

「そのままだ。続けろ、サイホーン」

 

「……ホオオン!!」グッ

 

 

 サイホーンが力を溜めている。礫を飛ばす方向が決まったところで、……

 

 

「……今だっ!!」

 

「ピジョオ!!」

 

 《ゴウッ!》

 

 ――《ブオン!!》

 

 

「……ピジョ! ……ピィ……ジョ!!」

 

 《ゴゥウウ!!》

 

「オォン!?」

 

 

 サイホーンがひるんだ様子! ……ならば!

 

 

「そのままもう1度!!」

 

「……ピジョッ!!」

 

 《ゴウゥウッ!!》

 

 

「ォォ……ン! ……」

 

 

 ――《ドスゥゥン!!》

 

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 

「これで俺の手持ちは全て戦闘不能だ、少年。……キミの勝利だ」

 

「……どもです……」

 

 

 バトルを終えた俺達は、手持ちを回復し終わっていた。因みに薬は殆どサカキがくれたのだが……さすがに、疲労は隠せない……。

 なにせ結果としては2体を残して勝利することができたが、あの超高空『ふみつけ』をかわせなければおそらく大ダメージだったろうし、そもそもサカキのサイホーンやガルーラとは結構なレベル差があった筈なのだ。

 そのうえ、サカキは飛べるポケモンを所持していないにもかかわらず様々な方法・コンビネーションで迎撃を行ってきて、こちらが反撃するのに苦労させられたからな。

 

 ……ま、良い経験にはなったけどな!

 

 そんな風に前向きにまとめた俺は顔を上げ、近寄ってきたサカキの方へと視線を向ける。

 こちらへと歩いてきていたサカキは、ある程度の距離になったところで留まり……話し始めた。因みに両手はポケットの中な。

 

 

「やるな。とても大切にポケモンを育てているじゃないか」

 

「いえ、とても勉強になりました」

 

「俺の方も、まだまだ修行が必要だと感じたよ」

 

「それも、こちらこそというヤツです」

 

「……キミとは、また、会うことになるだろうな」

 

「はい、俺もジム挑戦はする予定なので、いずれかは」

 

「……そうだな」

 

 

 今の「また」には、なんとなくもっと違う雰囲気の含みを感じはしたが……ここは子どもっぽく素直な返答を返すことにする。俺、8才だし。

 

 

「では、俺は行くとしよう。いつの日かまた、少年」

 

「ありがとうございました」

 

「……さらばだ」

 

 

 礼を言った俺に対して振り向きながらも軽く笑う(ただしニヒルに)と、サカキはポケットに手を突っ込んだままでトキワ郊外の方へ向けて歩き出し……俺からは見えなくなっていった。

 

 

「……さて、そんじゃ俺もナナミのとこに行くか」

 

 

 色々思うところのある邂逅ではあったが、そもそも詳しい自己紹介すらしていない間柄だ。

 それよりはまずは目先の……ナナミを優先するべきだろう。

 

 そう切り替えた俺も、丁度よく昼時になったトキワシティの中へと……全身に疲労を感じながら、手はポケットから出したままで……歩いて向かうのだった。

 あー、チャリが欲しい……。

 

 

 ……ところで、終わったところで話を変えて無駄思考をしたいのだが、気になることがある。

 サカキは、バトルの時ですらポケットに手を突っ込んでいた。今振り返ってみても、手をポケットから出したのはボールを投げる時くらいだろうと思う。しかも、それでも片方しか出していなかったし。

 只のポリシーなのかアイデンティティなのか、はたまた大穴で切実な理由があるのか。

 

 ……理由、ね。

 

 

「……あの人は居合い拳とかの使い手なのか?」

 

 

 もしくはポケットの中にはいつだってファンタジーだとか、「俺はまだ両手をポケットから出していない」っていう能力開放フラグとかな! 

 

 






 ……表現力とか、文章にメリハリをつけられる実力が欲しい……(切実)。

 因みにゲーム版サカキは(ゲーム内全般にて、毎度の事なのですが)口調が安定しておらず、自称は「俺」と「わたし」の2種類を使用しているようでした。偉ぶる時や、性格が落ち着いてきたと思われるHGSSでは「わたし」を使っているような傾向はあるのですが、レッドに向かっている際には両方を使うので。
 本作ではひとまず、カッコ良さ的に「俺」を採用しております。

 また、作中でのガルーラによる『いわおとし(偽)』は、覚える技という意味でのゲームとの齟齬が生じています。その点については、彼女も『いわなだれ』は覚えることができるので、「いわおとしも実は覚えられたけど教える人・物・環境がなかった」との無理矢理感漂う解釈をして下さると、主に私が助かります。介錯(私を)でもよろしいかと思いますが。
 あとはサカキが「地面」使いという部分や(偽)であることも加味して、この件についてはご容赦くだされば……。
 ……そして私のイメージでは今のところ、『いわなだれ』は「岩壁とかを殴ったりなんだりで崩落」、『いわおとし』は「岩をぶん投げる」という差別化を妄想してますね。


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