ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ22 セキチクにて

 

 

 時は移り1993年の初め。

 

 明けた新年、今年中には俺も9歳になる……のだが、新年を迎えてからも研究には余念が無い。というか、過密スケジュールにて研究を行わざるをえなかった状況だったんだなこれが。

 そうそう。件の研究の進行具合については、研究班の活躍もあってカントー地方の殆どのポケモンを見つけることができた。

 

 ……そう、「ほとんど」であるからにはまだ足りないんだけどな!

 

 

 まぁ足りないのは仕様が無いとして、ここではさらに面倒な点がある。

 

 他の研究員やオーキド博士は「この世界」の人だからいいのだが、転生した俺の場合は、1995年に発表されるカントー地方でのポケモンの種類数は「150種類」だと知ってしまっている。

 そのため、他の研究員の様に「カントー全域を調査して見つかった数」というスタンスではなく「150種類を見つけて研究しなくてはいけない」という状況なのであった。

 と、言うことで。

 

 

「最低でも、来年の初め辺りまでには発見ポケモンを150種類揃えたい所だよな……」

 

 

 来年(1994年)までに150種類ポケモンを見つけ、最低でも外観データだけは個体研究を終わらせる。でもってオーキド博士の発表は1995年なので、前年までには研究をまとめ、発表素案を作ってしまう……という計画を進行中なのだ。

 ここまでを終わらせれば、1995年の年度内もしくは上手くいけば1994年には、俺もタマムシのトレーナーズスクールに行けるかもしれないからな。

 ……トレーナー資格がないと所謂「トレーナー修行」には出られないのだから、不便極まりない。まぁ社会的に考えれば、8才を1人旅に出さないのは当然だとも思うんだけど。

 

 などと愚・無駄思考をしたが……そんな感じで無駄思考すら研究に染まってきている俺へ、横を歩く相棒からの声がかかる。

 

 

「……今、それを言ってたら鬼が笑うわ」

 

「あー……。そういえばまだ、年始だしな」

 

「先ずは、目先のことに集中なさい」

 

「はいはい。了解了解」

 

 

 相変わらずの抑揚の無い声で話しかけるのは、ミィ。服装も相変わらずのゴスロリ&インバネスfeatドロワーズ+αで、……まぁ、良いか。

 周りからの視線にはとっくに慣れたし、本人が気に入っているし、何より似合っているのだ。問題あるまい。

 

 

「貴方は、さっさとジムへの報告に行ってくるといいわ」

 

「んじゃ……お言葉通りさっさと行くかな」

 

 

 因みに、只今俺がいるのはセキチクシティのポケモンセンターだ。年の初めっからこんなところにいるのは色々と理由があるんだが、……

 

 

「ちちうえの所に行くの? あたいも行く!」

 

 

 隣から元気な声を上げるのは、アンズ。セキチクシティジムリーダーであるキョウさんの娘にして、未来のジムリーダーとなる娘さんだ。

 ……ついでに言うと、娘さんは既にファザコンなのであるが……!

 

 

「アンズは、私と一緒に家に戻りましょう」

 

「えー……」

 

「俺からキョウさんに、アンズが会いたがってたって伝えといてやるよ」

 

「それならば、キョウは早く帰ってきてくれるかもしれないわね」

 

「でも……」

 

 

 なぜ俺達がアンズといるかというと……ポケモンセンターへと寄った俺とミィに「隣の家まで連れて行ってあげて」と、ジョーイさんが預けてきたのだった。

 ……実はアンズと俺達の年は同じなのだが、精神年齢が違いすぎるらしかったため、少々コミュニケーション的に苦労している次第なのだが。

 

 閑話を休題だ。

 

 あー……まぁ、預けられたことそれ自体は良かったのだ……別にな。しかし、ジムについてくるとなると面倒だろう。主にキョウさんが。となると俺への同行は諦めさせたいのだが、それにしてもアンズが渋っているので……

 ……ならば、ここはコンビネーションと行くか!

 

 

「(ミィ、合わせろ)」チラッ

 

「(了解)」パチパチ

 

 

 アイコンタクト完了。

 

 ……さて、ミィならばこれで十分にあわせてくれるだろうから、交渉開始だ。

 ただしこの交渉は揺さぶりとも言うし、都合を叩きつけるだけとも言うんだけど!

 

 

「いいかアンズ。俺がこの後、お父さんに伝えたとしよう」

 

「うん」

 

「貴女の父上は、すぐには帰って来れないにしても急いで帰ってくれる可能性はあるわ」

 

「あ……そうだね」

 

「ところが、ジムには俺について来たアンズが……」

 

「……」

 

「貴女は、大好きな父上に遊んで欲しくて来たのだけれど……その父上は忙しいから十分に遊べないかもしれない」

 

「……!」

 

「さらに、そのせいでアンズのお父さんは仕事が残ってしまって、家に戻る時間も遅くなるだろうな」

 

「……!」

 

「そのせいで、ジムでも、家でも、貴女は父上と遊べないのでしょうね」

 

「それは嫌だ!」

 

「なら、今はミィと一緒に家で待っててくんないか?」

 

「帰っているのなら、早く来た父上と遊べるかもしれないわ」

 

「……わかった。あたい、待ってる」

 

 

 陥 落 !

 

 

 

 

 

 

 ――さて。

 

 ポケモンセンターにて報告まとめを印刷し終わった俺は、先程にアンズを撒くことにも成功したので、セキチクジムへとやって来た。

 

 

「ショウよ、今回も有難く頂戴いたす」

 

「どうぞどうぞ」

 

 

 俺の目の前にて話をしているのは、件のお父様……セキチクシティのジムリーダーである、キョウさんだ。本日もザ・忍者な格好で、天井にぶら下がっていそうな雰囲気である。いや、実際にぶら下がってはいないけど。

 

 

「うむ……。拙者としては毒タイプの新種が見つかるのは嬉しいのだが、この様な形で増えているとはな……」

 

「これも現代の流れというものでしょう……っと、では少し説明させてもらいますね」

 

 

 キョウは俺の渡した資料を見ながら、苦々しい……とでも言う様な、なんともいえない表情をしている。まぁその気持ちはわかるんだけど。

 

 さてここで、俺がジムへと来ている理由を発表すると……新しく発見されたポケモン「ドガース系統」についての報告を行うためなのだった。 

 

 

「今キョウさんにお渡しした資料に書いてはあるのですが、一応の概要を説明させてもらいますね。……まず、今回の私達の『兵器工場跡』における新種調査にて、毒タイプのポケモン、ドガース系統が新種として登録されました」

 

 

 この新種調査は俺と研究班が先日行ったもの。元兵器工場が不当に廃棄された事が原因でその土地における土壌・空気汚染が進行し、そこには新種ポケモンが発生していたのだ。

 この跡地へは近寄る人が少なかったために今までは発見報告が無かったのだが、近年になってからは近隣の土地までポケモンが進行してきており、俺達の研究班が調査に向かった次第なのだった。

 そして、その調査にて見つかったのが、ドガース。ドガースは毒タイプであるためセキチクジムへの報告が必要で……本来ならこういった報告はポケモン協会を経由して行われるのだが、今回は俺達がセキチクに用事があったため、ついでに報告をしに来たのだ。

 こういった報告についてはどうせ後で質問メールをやり取りする羽目になるので、直接会話をした方が何かと有意義だからな。

 

 

 ……ま、こんな無駄(分割)思考の間に調査の説明は終えたんだけども!

 

 でもって、調査の流れを聞き終えたキョウさんが口を開く。

 

 

「近年で言うなればベトベターやゴースもだが……まっこと、科学とは恐ろしいものよ」

 

「使い方次第、って所でしょうかね。かといって、この点に関しては私たちが問答したところでどうこうなる問題ではないでしょうし」

 

 

 今槍玉に挙がったポケモン達も、俺にとっては真新しくもなんとも無いポケモンなのだが……この様な環境汚染が発生の原因と思われるポケモンは、近年になって増加しているのだ。

 キョウさんも毒タイプのジムリーダーとしてはともかく、何となく罪悪感の様なものを感じているのだろうと思う。

 それに、発見が進んでいるのは「汚染によるポケモンの増加」だけが原因ではない。

 

 

「おそらくは、私達の研究班が近年になってから新種捜索に力を注いでいるのも大きな要因の1つですよ」

 

 

 確かに公害とかが原因にあるのかも知れないが、実際の状況としては俺達が新種発見へと力を入れているのが大きいのは事実だろう。

 研究班も1995年に向けてちょーっとだけフル稼働だからなぁ……。

 

 などとそんな風にこれからも続くだろう研究の日々を憂いていると、キョウさんは少し慌てた様子で声を出した。

 

 

「おぉ、おぬし等の努力を否定したのではないぞ?」

 

「あー……いえ」

 

 

 おそらくは俺が俯いていたのを気にしてくれたのだろう。……何となく、研究漬けのせいで表情とか雰囲気とかが暗くなってるのかな、俺も。 

 

 

「気を遣ってくださったのは嬉しいです。まぁ、確かに忙しいんですけど……そうではなくてですね」

 

 

 キョウさんが俺達に気を使ってくれたのだろうということは、善意としては嬉しい。だが、ポケモンに関わる者としてキョウさんに「注目」して欲しい点はそこではないのだ。

 

 

「公害云々は置いといてですね。『こいつら』は既に生まれています」

 

 

 俺達が行いを省み、今後に生かすこと自体は無駄ではなくむしろ必要なことだろう。

 しかし、

 

 

「こいつらの存在自体は、私たちの勝手な後悔とは乖離させて考えなくてはいけないと思いますよ。『気を使った結果としてこいつらからは目を逸らす』のでは、それこそ目も当てられませんから」

 

「……成程。おぬしの言いたいことは理解したぞ。その点については安心するといい」

 

 

 そう言ったキョウは「フッ」という擬音が似合いそうな笑みを見せる。

 ……いや、キョウが笑うなら「ファファファ」と表現した方が良いのかも知れないけど。

 

 

「そうですね。なるべくならば、ジムリーダーであるキョウさんや、毒タイプのジムであるセキチクジムの皆さんが筆頭になってあげて下さい」

 

 

 ……まぁ、いつもベトベトンだのを扱っているキョウならば。ドガースなどの「社会的に虐げられそうな」ポケモンであってもその立場を作り、扱い、……広めてくれることだろうと思う。

 

 

「あー、ではその点についてはお願いします」 

 

「心得た」

 

 

 うし。これでキョウさん達に任せる事ができるだろうから、さっさと「本題」に入るとするか!

 

 

「では、アンズちゃんも待っているようなので……手早くドガースの特性とかそんな感じのについてのまとめを報告しますね」

 

「……アンズが、か」

 

 

 どうにも、先ほどのドガースの際とはまた違った表情を浮かべるキョウ。

 

 

「早く遊んで欲しそうでした……とは、伝えておきますよ。ですがまぁ、ひとまずそれは置いときましょう」

 

 

 キョウも少し育児方針について思うところがあるのだろうが、ここはまず報告を優先したい。

 俺だって時間は有限だからな……と考えて、急いで、矢継ぎ早に、ガトリングとかマシンガン的に概要を述べていくことにした。が。

 

 

「ドガースは暑いところでは爆発の危険性もあると思うので、気をつけてあげてください。あと、ガスの効果としては、涙とかみたいなアレルギー的な反応が止まらなくなるものだそうです。あとは……マタドガスの香水・芳香剤の原料としての活用案と、ポケモンバトルにおいての活用案を……」

 

「む、ちょっとまて……」

 

「……ありゃ、早口すぎますよね。すいませんでした。ではもう1度……まずは報告書の2ページの概要の部分から行きますね……」

 

 

 新種ともなれば概要にしてもそこそこの情報量があると思って……うーん……急ぎすぎたな、どうも。

 そうして再開した説明だが……その後は、何とか順調に進むのだった。

 


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