ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ23 サファリゲーム

 

 

 俺がジムの裏口から外に出てポケモンセンターへと向かうと、建物の中からはミィが待ってましたとばかりに(ただし歩いて)出迎えてくれていた。

 ……実際、待ってくれていたんだろうけどな。

 

 

「用事は、無事に済んだのかしら」

 

「ぼちぼちかな。アンズはどうだった?」

 

「家で、待ってくれているわ。素直な良い子ね」

 

「一応俺らと同年代なんだが……まぁ良いか。んで、次はあっちの方だっけか?」

 

「そう」

 

 

 あっち、といいながら俺が指差すのはポケモンセンターのある高台の裏側。

 元々セキチクジムへの報告を終えた後は、次の目的地のあるセキチクシティ北側へと向かう予定だったのだ。

 

 

「次……私の用事は、サファリの施設調査ね。休憩所とか、安全装置の配置とか」

 

「それもシルフの管轄なのかよ……」

 

 

 何故北側を目指すかというと、そこには現在1つの商業施設……「サファリパーク」があるからである。

 セキチクシティの北には元々特殊な植生環境が存在しており、そこにシルフ上層部のおっさんが目をつけた。そのおっさんが国へと働きかけながら作り上げた「ポケモン保護、兼、民間トレーナー娯楽の為の施設」……それが「サファリパーク」。

 …………じつは北側に限らず、セキチク周辺のポケモン生態は中々に特殊なんだけどな。東にはメタモンいるし、西にはベトベターいるし。

 

 さて、そんなサファリパークだが、現在は商業施設としてのオープンのために設備を整えている最中である。でもって、そのための視察をミィが請け負っているのだった。

 つまりはこれもシルフの事業ということで、……手広くやってるんだなぁ。

 

 ……さらには、

 

 

「ついでに、サファリゲームで遊んでいく予定よ」

 

「意外とアクティブだな、ミィ」

 

 

 とのお達しである。……まぁ、サファリボールの試験的な意味を含んでいるらしいから別に良いんだけどな。

 

 さて、またも切り替えて。

 

 ここで俺達が2人でセキチクに来た理由を纏めると、「俺もミィも来る予定があったため、ついでに2人で行こう」という感じなのであった。

 

 ……つまり、これでは自転車の埋め合わせにはなっていないのだが。

 それはまた後で何とかするかなぁ……。

 

 

「……後で良いか」

 

「ショウ、言葉に出ているわ」

 

 

 おぉぅ……。申し訳なさのせいで、思考が頭の中から漏れ出てしまったようだ。

 ……「頭の中から漏れ出る」って表現がなんか脳漿みたいで嫌だけど!

 

 

「どうせ、また無駄なことを考えているのでしょう」

 

「まぁ、大正解だけどな」

 

 

 しっかりと当てられる辺り、流石はミィというべきか。

 ……当てても景品とかは無いけどな。

 

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 

「……私が、シルフ社の使いよ。バオバ園長からの許可もあるわ」

 

「どうも、私がパークの環境担当になります。以後よろし……」

 

 

 そんなこんなで歩きながら、俺とミィはサファリのゲートへと到着していた。

 さっそくミィは係員との打ち合わせを始めたのだが、俺はやることが無い状況で……なら、

 

「(とりあえず周りを見渡してみるか)」

 

 これこそが時間つぶしの第1選択だろう。(俺調べ)

 そう考えて後ろを振り向くと、サファリゲートからはパーク全体を大きく囲む柵が伸びている。また、サファリ手前にはゲームの通りに珍しいポケモン達が展示されている様だった。

 

 

「サファリにくるトレーナーの意欲を煽るためなんだろーな、これ」

 

 

 一応はポケモン保護法にも気を使い、展示は1日おきに同種別固体のポケモンが3匹でローテーションしているらしいんだけどな。

 ……つーか、ここにはラプラスとかも展示してるんだが……サファリではゲットできないだろ、確か。

 

 

「これは詐欺じゃないのか?」

 

「別に、ゲットできるとは表記して無いから良いのでしょうね」

 

 

 ミィがサファリの係員から書類を受け取りながら、俺の言葉に返答する。……うーん……いいのか。グレーゾーンならいいのか。まぁ別にいいけど。

 

 と、まぁ俺はそんな風に(無駄に)悩んでいたんだが、ミィは様子から見て係員との打ち合わせを終えたようだな。

 

 

「そんじゃ、準備するか」

 

「えぇ」

 

 

 行くと決めたのなら行動は早くても損は無いだろう。俺達はさっそく係員からサファリボール(これもシルフ製品)と餌・石を受け取ると、ゲートの前に立つ。

 これらの道具一式は配布されたポーチの中にしまってあるため、2人ともポーチを腰につけた後……モンスターボールを外す。

 

 

「お前らはここで留守番していてくれよ」

 

「あなた達は、待っていて頂戴」

 

 

 サファリはポケモン保護区でもあるため、手持ちポケモンを係員に預けなければいけないのだった。

 ……おっと、因みにミュウに関しては、今回だけは預かりシステムを利用して預けてきている次第だからな。

 

 

「……っと、これで準備完了だな」

 

「それじゃあ、行くわよ」

 

 ――《ガチャッ》

 

 

 ミィの声で、俺達は同時にサファリゲートをくぐっていく。

 ゲートをくぐった先にはトンネルのような空間があり、……なんとなくここを歩いて進むたびに、辺りの風景や空気が急激に変わっていってる感じがするな。

 そのまま暫くは歩いていると、

 

 

「……あれが出口か?」

 

 

 少々歩いていって辺りの変化も落ち着いてきた頃、角を曲がった俺達の先に出口と思われる扉が見えてきた。

 

 

「うし、開けるぞ」

 

 

 そしてその扉を開けた先で、

 

 

「……サバンナってこんなんなのかね?」

 

「さぁ、サバンナには詳しくないから」

 

 

 目の前には、俺達の住んでいるカントーと同じ地域とは思えない環境が広がっていたのだった。この景観ならばそれこそ、ケンタロスやガルーラがいても納得できるという感じの風景だと思う。

 ……ラッキーはよく分からないし、アフロ牛がいる訳ではないんだけどな。

 

 ま、そんな事はいいとして……

 

 

「さて。サファリに到着したことだし……まずは休憩所を回るか」

 

「あら、ショウは遊んでいてもいいのよ」

 

 

 到着してさっそくの行動方針を提案した俺に、ミィからのツッコミが入る。

 んー……その気持ちは嬉しいが、

 

 

「せっかくミィといるんだから、遊ぶにしても一緒のほうがいいだろ?」

 

「……貴方は、そういう人間だったわね」

 

「なにも、典型的な『やれやれ』ってポーズをしなくてもいいんじゃないか……」

 

 

 どうせサファリの完成前に俺達の研究班がポケモンの研究は終えているし、遊ぶならば……と考えていたんだけどな。

 因みにミィのポーズは、両手掌を水平に挙上しながら上に向けて首を横に振るという古典的なあれである。

 ……アイツには妙に似合うなぁ、このポーズ。見た目はちっこいのに。ゴスロリの癖に。

 

 

「まぁ、それでいいわ。ショウの提案に乗ってあげましょう」

 

「お、了解。んじゃ行くか」

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 

「さて、残り時間も少ないのだけれど……遊びましょうか」

 

「時は過ぎ行くものだからな……」

 

 

 一瞬で過ぎ去った時間達が無常の理を……

 ……まぁ、良いか。

 

 

 サファリに入ってから50分程たった現在、俺とミィの立っているのは大きな池の前。

 その50分でミィが行ったのは、休憩所の機器のチェック、サファリボールや各道具の点検、サファリ内にあるポケモン保護区域の監視機器調整etc……。

 見事な仕事量であったと思うぞ、うん。

 

 

「……お前も大変なんだな、ミィ」

 

「あら、それは貴方も変わらない筈だわ……ショウ」

 

 

 それもそうなんだけどな。

 ……っと、これは置いとこう。

 

 

「んじゃ、遊ぶか! サファリゲーム的にはあと10分ってとこなんだが」

 

「なら、これを使いましょう」

 

 

 そう言ったミィは、ゲートにて配布されたボールや餌なんかが入っているポーチとは別の……私物である「バッグの様な袋(オーパーツ)」から、折りたたまれた1本の長物を取り出した。

 ……長物とはいっても刃物ではないので悪しからず。言わなくてもわかると思うけど。

 んで、

 

 

「それ、なんだ?」

 

「シルフ社製の、釣竿よ。ただしグレードは高ランクの……なのだけれど」

 

「つまりは『すごいつりざお』とか『いいつりざお』だな」

 

「……そうね」

 

 

 この世界にも一般的な釣り人は大勢存在する。だが「ポケモンを釣る」となると専門的な装備が必要で、シルフカンパニーの製品がよく使われているのだ。そしてその中でもグレードが高いものが、ゲームで言うところの『すごいつりざお』または『いいつりざお』なのである。

 因みに、グレードによる違いは「専用の糸が水中のポケモンからは見えない」「ハイスペック素材で竿が折れにくい」「糸が長い」「根がかりしにくい」などなど、高グレードに相応しい機能だったりする。

 

 

「そんなら、試しに釣ってみるか。目の前に湖があることだし」

 

「……はい、これで組み立て完了」

 

 ――《ヒュゥン》

 

 

 ミィは組み立て完了と同時に、錘をつけた仕掛けを湖へと投げていた。

 相変わらず行動は早いな、ミィ。

 

 

「釣れるといいな……

 

 ――《グイィィィ!》

 

「かかったわね」

 

 ……早ぇよ!」

 

 

 行動だけでなくかかるのも早い!

 

 そんな感じで(心の中ではツッコミながら)俺もミィの持つ竿を見ると、垂らしてから数タイミングにして既に竿がグイグイいっている。

 ……って、んなことより……これは危ない!

 

 

「ほれ、お前は竿をしっかり持ってろ……って、ほんとに引きがヤバいな!」

 

「……大物ね」

 

 

 ミィにしろ俺にしろ、精神年齢は置いといて体は未だに8才のそれである。

 この竿の引きの強さでは湖に体ごと引き込まれる可能性があるので、俺はミィの背後へとまわって体を支えることにしたのだ。

 ……勿論、手はミィの腹の位置で組んでいる! 

 (ラッキーなんたらに関しては全力で回避)

 

 

「ったく、この湖のポケモンは、飢えてるのか……よ!」

 

「……確かに、釣り人には、飢えてるのでしょうね……っ」

 

 

 そう言われてみれば、このサファリパーク、ひいては前身であるポケモン保護区域全般には……「釣竿」を使用されることは殆どなかったのだ。

 そりゃあ飢えてるだろうし、ポケモン(釣り対象)も警戒して無いのかもな。

 

 とか考えてるところから現実に戻るけど、この引きの強さじゃあ流石に長期戦はキツイ!

 

 

「さっさと、……釣りあげられろっての!」

 

「……そろそろ……っ、これで、」

 

 

 ミィは、オートで巻かれている竿の根元……電光表示の部分を見ている。

 俺もその部分を見てみると、糸の長さが表示されていて……

 

 ……5m……

 

 ……0m!

 

 

「いけ!」

 

「……ふぅっ」

 

 ――《ザパァン!!》

 

 

 0mになると同時に勢いよく水面から飛び出たポケモンは、釣り上げた反動のまま陸へとうちあげられることになった。

 

 

「あれは……」

 

 

 釣り上げられたそのポケモンは、体躯としてはすらっと長く2メートル程。色としては空のような青色と白色。目はつぶらで、ぱっと見としては……言い方はアレなのだが……「蛇」っぽい。

 また、外見について、非常にチョイスは悪いがわかり易いであろう表現をすると……「でかいナメクジ」とも見て取れるのかもしれないのである。

 ……いや、この喩えはほんと酷いんだけどな。

 

 さて、無駄なのはともかく。転生者である俺達にとっては見覚えがあるこのポケモンは、間違いなく未だ図鑑には登録されていない新種だ。……新種調査をしている身としては願ったり叶ったりなので、

 

 

「これは……丁度いいかもな。捕まえるか」

 

「……私達は、手持ちがいないけれど」

 

 

 一応サファリゲームに参加している俺達は、手持ちポケモンをゲートに預けてきているのだ。これでは確かに戦闘は行えない、が……

 

 

「そこはゲーム通りで問題ないだろ?」

 

「それも、……そうね」

 

「「サファリボール連打で(ね)」」

 

 

 さぁいけぇぇぇっ!

 

 

 ――「!」

 

 

「そら、……もう1回!」

 

 

 ――「!!」

 

 

「……これで、入って」

 

 

 ――《ボウン!》

 

 

「うし、入った!」

 

 

 後は、出てこないことを祈るのみ……これぞサファリの必勝法だ! 

 (ただしこの見解には個人差があります)

 

 

 

 ――、

 

 

 

 ――、

 

 

 

 ――《カチッ》

 

 

「……げっとだぜ、と。これからよろしくお願いするわ」

 

「……そういやお前はその台詞、気に入ってるんだったなー」

 

 

 こうして、ボールを連打(連投)した俺とミィは、何とか逃げられる前にそのポケモンを捕まえることに成功したのだった。

 出会うと同時にボール連打とか、こんな所ばっかりゲーム準拠なのな。

 


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