ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ31 オツキミ山事変①

 

 

 装備なんかを整えて、月曜の深夜。

 

 あのポケモンコンテストやらナツメの試合やらの後、俺はロケット団がオツキミ山にいるという証拠を幾つか用意し、研究班や近隣のジムリーダーに協力を要請した。

 そして現在、要請に応えてくれた人達と共にニビ側からオツキミ山へと向かっているところだ。詳しく現在地を言うならば、オツキミ山前に最近出来たばかりのポケモンセンターの中である。ここは岩山の洞窟といった様相を呈しているオツキミ山第一層、その入口の脇に建てられた比較的新しいポケモンセンターだ。

 

 さて。協力を要請した近隣のジムリーダーとは、オツキミ山の立地からすればニビシティとハナダシティの方々なのだが……

 

 

「人数多くないか、これ?」

 

「ロケット団が関わっているなら多くても問題はないでしょう? 全く。せっかく私があの道場を倒してジムリーダーになったというのに、ヤマブキにもあいつ等は出張って来ているのです」

 

「あれま。新しいヤマブキのジムリーダーは可愛らしいお嬢さんなのねー?」

 

「おねぇちゃん! わたし、ロケット団なんてぶちのめしてやるわ!」

 

「俺の町の隣だからな、オツキミ山は。化石の発掘地でもあるし、人数は多い方が俺としても安心できるよ」

 

 

 ジムのリーダー格の方々だけでもこの大所帯。この他に俺の研究班から数人、各ジムから腕利きが数人ずつなので中々の規模となっているのである。

 因みに発言順に、俺、ナツメ、現ジムリーダーであるカスミの姉・サクラ、件の妹・カスミ、タケシの計5人だ。チーム的には、俺の研究班、ナツメのヤマブキ班、サクラ率いるハナダ班(カスミ含む)、タケシ率いるニビ班の4チームという事になるだろう。

 俺がちょっと思うところもあり協会を通さず連絡したんだが、ヤマブキからはナツメが、ハナダからは……今はまだジムリーダーではない……カスミが、予想外に集まってきてくれたのだった。

 でも、これ自体はありがたいことなんだけど確認しておきたいことが1つ。

 

 

「サクラさん」

 

「何かなー? ショウ君!」

 

 

 うお、目がキラキラしているよ。

 ……そういえばサクラってアニメ版でのカスミ4姉妹の長女の名前と同じなんだけど、どうもこの世界には他の姉妹は存在していないらしい。これ、余談な。

 それはともかくとして、少しばかり皆とは離れた一角に2人で移動してから質問する。

 

 

「カスミは連れて行っても良いんですか?」

 

「母さんから貰った自分の手持ちポケモンも持っているし、実力はあるわよー。あと、私とならコンビネーションも出来るし。足手まといにはならないと思うわねー」

 

 

 カスミは現在、レッド達と同年齢の8才。ポケモンの捕獲は出来ない年齢なのだが、この制度には抜け穴があるので10才以下でポケモンを「持っている」のは不思議という程でもない。

 つまりは親などからポケモンを「貰えば」、捕まえなくてもポケモンを所持すること自体は出来るんだからな。あとは借りるとか。この場合、トレーナー資格を取ると同時にポケモンの「おや」登録を変更することが出来る制度も存在する。

 まぁ結局10才未満では正規のトレーナーではないため旅やジム挑戦は出来ないんだが、郊外や町近隣の道路などで待ち構えてポケモンバトルを挑むことは出来るという次第なのだ。

 

 という訳で、問題はカスミの実力だったのだが。

 

 

「んじゃ、カスミはサクラさんにお任せします」

 

「良いわよー! おっまかせー!」

 

 

 まぁ、これで良いだろ。

 こんだけの人数がいるし、ジムごとに固まって連携していれば何とかなるだろうと思うしな。

 

 

「では、……皆さん聞いてください!」

 

 

 カスミに関しては丸投げした所で、俺はこのオツキミ山手前に出来たばかりでほぼ貸しきり状態となっているポケモンセンターに集まった調査兼討伐隊に声をかける。

 ざわめきが小さくなったところで……注目を集めた理由としては、決行の前に注意点を再度確認したかったのだ。

 

 

「今日は皆さんのご協力に感謝します。本作戦の主目的は、ポケモン『ピッピ』の保護及びロケット団の捜索・捕縛を同位とすることとします。同位であることに迷った場合には、各々の判断で行動して構いません」

 

 

 各々のと言えばアレだけど、責任の放棄ともいえるだろう。

 ……多分、ピッピを優先する人が多いと思うけど。

 

 

「連絡は各リーダーに渡した通信機器で行います。また、班員はなるべく固まって行動して下さい」

 

 

 奴ら、ロケット団の最も恐ろしいところは連携と数だからなぁ。

 数には数で挑みたい。

 

 

「ロケット団のみを発見した場合は尾行を念頭に置いて行動し、相手の本部発見を優先して欲しいと思います。勿論これはなるべくという行動方針に過ぎませんが」

 

 

 できれば、ピッピの件に関しては今回で一網打尽にしたいところだ。

 

 

「では次に、行動の確認を。ヤマブキ班とハナダ班は山のハナダ側に回って時間差で挟撃です。ニビ班は、俺と共にニビ側からロケット団員を直接捜索します」

 

 

 ついでに各リーダーには「仲間ではあるが、ロケット団のスパイがいる可能性を考慮して欲しい」との通達もしているけど、これは杞憂であると願いたい。俺としては容赦はしないけどな。

 

 

「これで確認事項は終了です。……では、行動開始をお願いします!」

 

「さぁ行こ! おねぇちゃん!」

 

「はいはい。またねー、ショウ君!」

 

 

 俺の掛け声に応じた元気な姉妹とハナダ班は、早速と自転車に乗り山を回りこむルートを取る。ニビ班はちょっと待機。

 ……んじゃ、折角来てくれた今回の作戦の「肝」を十分に使わせてもらって楽をするとするかな。

 

 

「(ナツメ、ナツメ)」

 

「……」

 

 

 俺のジェスチャーに、ナツメがこちらへと歩いてくる。

 でもって、ここからは小声で会話を開始。

 

 

「(ロケット団、いる?)」

 

「(えぇ。かなりの数。……だからこそ私もこの場に来たのよ?)」

 

 

 まぁ。要するに、

 

 エスパー頼み!

 

 なのである。ナツメさんの予知は本当に万能だからして、俺としてもナツメが来るといった時点で既にロケット団がいるのは確信していたという訳だ。

 (ナツメさんは予知が得意です。そりゃもう、3年前からレッドさんが来るのが判っていたほど。その3年前って今年だけどな!)

 

 

「(んー、どの辺りに固まってる?)」

 

「(そうね。……この頂上付近かしら? 予知で見えた視界には、空が見えていたもの)」

 

 

 拡大したタウンマップを指差しあう俺とナツメ。

 しかし……ナツメが差している辺りって、俺たちが以前ピッピを調査した時はごく普通の岩場だったんだけどな。その後ピッピを発見した場所とも全く被っていないし。……けど、

 

 

「(ありがとな、ナツメ。指針としてはこの辺を目指してみる事にする)」

 

「(あら? 指針としては……って、わたしを信じてくれていないのかしら?)」

 

 

 微妙に不貞腐れるナツメだが。

 

 

「(信用し過ぎても面倒だろ? 未来なんぞいくらでも変えられるし。……例えば、俺が無意識に未来を変える超能力持ちだとかならな!)」

 

「(……案外そうなのかも。確かにショウの未来は見えないし)」

 

 

 おおっと、冗談に素で返されるとは。

 俺としては、ナツメの未来予知をレッドだの主人公達が打ち破るというゲームの展開を知っているのを加味した上での会話の流れなんだけど。

 ……ま、

 

 

「(ならまずは、未来を悪い方向に変えてしまわないよう努力してみるかねー)」

 

「(そういうこと。……じゃあ、わたしも出発するわね。ショウ)」

 

 

 情報は貰った。あとは、作戦の中核である俺たち次第だろう。

 だが、ナツメに合わせて俺も立ち上がった所で、

 

 

「最近のショウはいつにも増して優しいわね。何故なのかしら」

 

 

 ナツメが小声解除だった。

 ただでさえ注目されていた所へ、周りの視線が槍衾のごとく且つ圧力を伴って突き刺さる。

 

 ……ニヤニヤをやめろタケシ。お前あんまし笑わないってキャラだろ。

 

 ……研究班。ハンチョーを取られるー、じゃない。違う。

 

 ……そしてシルフのある方角からのプレッシャー……は、物理的にはおかしい気もするが。

 

 ……マサラとタマムシからのプレッシャーが無いのは、僥倖。

 

 ……けど、

 

 

「あー、いや。……ちょっと待って。こないだの試合の時はともかく、今のやり取りのどの辺が優しかtt」

 

 

「「――■■■■――!」」

 

 

 

 以下略。

 

 

 ……以下略!

 

 

 

 

 

 暫くして騒ぎも収まり、ナツメ達ヤマブキ班とも分かれる事となった。でもってとっくに丑三つ時となった頃に、研究班とニビ班を連れてオツキミ山へと入ることにする。

 先程ナツメと共に確認してみたロケット団の溜り場(言動がチンピラなので、この表現がしっくりくる)は、山の頂上付近。

 オツキミ山は東西の入り口の他に北側にも大きく伸びているため、北側である頂上付近は俺が記憶している限りゲームでは通らなかったような場所だ。

 

「(いや、HGSSでオツキミ山は様変わりするけどな)」

 

 マップ縮小される運命なのかとかは知らないので、話を戻したい。

 まぁ、ロケット団が山頂付近にいる理由は予想がついているんだ。……勘だが、

 

「(ピッピの集落が山頂付近にあるんだろうな。でもって、あいつらは輸送だの活動し易さだのを考慮せず、ピッピの集落の近くにいるんだと思う)」

 

 ロケット団、単純だし!

 

 一応、ゲームにあった図鑑説明から、ゲームのピッピにもアニメ同様に集落があると考えられる。となれば、奴らも一箇所に固まることになるだろう。

 ついでに説明すると、俺たちが深夜に行動しているのもピッピの生態から。今日は満月だし、悪知恵は働くロケット団のことだから、明け方の寝込み際かもしくはHGSSであった様な広場のようなもので踊っているところを狙うだろうと予測している。

 外には観測員として班員のズバットや俺のピジョンを飛ばしているし、早めに頂上付近を「観測できる」位置(出来ればピジョン達回収の為に洞窟外が望ましい)には着きたい所だな。

 

「(しっかし。嫌な予感がしない訳じゃあ、ない)」

 

 脳内で語ったが、確かに平のロケット団は間の抜けた奴が多い。しかしそのボスであるサカキは流石の威圧感であったし、もしかすると……「幹部」が統率として出てくるかもしれないのだ。

 いや、ゲームでも強かったんだよ。幹部級は。

 

 さてロケット団はいいとして、残った謎は「何故ピッピ達が頂上付近にいるか」なんだが……こちらも至極単純に考えてみると……ま、山頂付近に隕石が新しく落ちたんだろーな(若干投げやり)。

 オツキミ山は頻繁に隕石落ちるらしいし、HGSSの「広場」は隕石が新しく落ちて出来たそうだし、そこにもピッピ来てたし、それでピッピは増えたらしいし。こう考えれば辻褄は合ってしまうのだ。

 つまりは新しく隕石が落ち、増えたピッピ達にロケット団はいち早く気づいて、商売っ気を出したという流れだと予測してみた。

 

 

 あとは、各ジムリーダーの手持ちとかも覚えたし……

 ……うし! 考察終了!!

 

 元から深夜行動なので辺りの明るさが変わる訳でもないのだが、だからといって行動が早くて損はないと思うので……

 

 

「んじゃ、洞窟に突入しますか。タケシ達も行こうぜ?」

 

「わかった、ショウ。……皆、明かりはつけるなよ。夜目に慣れてくれ。ズバットを飛ばせるトレーナーは洞窟内でも仕事があるから、心得ておくんだ」

 

 

 流石、タケシは班員に良くわかっている指示を飛ばしてくれる。見つからない為に明かりは最小限だし、洞窟内に入ってからロケット団を尾行する場合は確かにズバットに頼りたいからな。

 

 

「ま、そういうことなんで。よろしくお願いしまっす」

 

 

 俺の研究班員については野生ポケモンを追っかけまわすので隠密行動にもそれなりに秀でているし、何とかなるだろう!

 

 

「さぁ、突入で行くぞー」

 

「「「はーい、ハンチョー(班長、ハンチョウ)」」」

 

「……軽いなぁ、ショウは」

 

 

 タケシは若干心配そうだが、最近はいつもこんな感じなので研究班は順応してくれている様で。

 大丈夫。多分、意味は伝わるし!

 

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 

 そして、すぐさま対象と遭遇してしまうのだった!

 

「「おーら! いけぇ、コラッタァア(R団)」」

 

「タケシ、ここ頼んだ! ナツメ達も呼んでくる! 研究班も残って応戦で!」

 

「「了解です!」」

 

「くっ、頼む! ショウ! ……ニビ班、イシツブテ達がロケット団員には概ね優勢に戦えるから、焦るなよ!」

 

「「うっす!!」」

 

 

 ――《《ワアァァァ!!》》

 

 

 指示を出して俺だけ岩陰に隠れるが、洞窟の中は大乱戦で大乱闘である!!

 まぁ、こうなった成り行きを説明すると……

 

・洞窟入ってすぐ、僅か2・3歩。

・買出しに山を降りてきたロケット団員と対面遭遇!

・でもって、奴らは某黒きGのごとく仲間を増殖させてきました!!

・いや、黒きRだけれども!!!

 (最後はどうでも良い)

 

 ……無駄思考する余裕もあるみたいだし、こちらも援軍を呼ぶかな。そのために戦線を抜けたんだし。ついでに研究班とタケシ達だけじゃあ絶対キツいしな、これ。

 ではでは。

 

 

『本気……みたいね』

 

「いやほんとだってナツメ。因みに、買出しとかいう団員の事情は出会い頭に向こうがぺらぺらと話してくれただけだからな」

 

 

 ナツメに連絡。

 

 

『あれま。……うん、カスミもやる気だし。ちょっとハナダ側を増員してから、状況に則して人数を向かわせるわよー!』

 

「よろしく頼んだです」

 

 

 サクラに連絡。……で、これにて連絡は終了だ。

 

「(さて、と)」

 

 ここで俺1人が戦況から抜け出ているので岩陰から周りを確認してみると……あちらこちらで戦闘になっているせいなのか、わりかし広い筈のオツキミ山の洞窟内でも戦闘の音や双方のトレーナーによる指示の声が鳴り響いている。

 

「(あー、これは……チャンスでもあるのか)」

 

 正直なところ、あまりにも洞窟の入口部分での遭遇になったため、頂上付近まで未だに結構な距離がある。しかしながら奥から奥からロケット団員は沸いて出てくるので、チーム員誰一人として思うように進む事ができていないのだ。この数に時間を取られては、頂上付近にいるであろう指令系統の団員がピッピを連れて逃げていってしまう可能性が……

 ……つか、絶対逃げるだろうな。うん。ハナダでは民家の壁ぶち破ってでも逃げてたし。

 

 けれどこの状況。乱戦であることを考えれば、少数のトレーナーならば抜けていくチャンスでもあるだろう。

 ……「少数」って、今行動できるの俺しかいないけど!

 

「(……あー、ミスったかな。……ま、リーダー陣に連絡しとけば良いか)」

 

 数人であれば一緒に行動も出来たかもしれないのだが、まぁこうなっては仕方ない。時間は有限だし、今のところ見つかっていないのは俺だけ。タケシは戦闘指揮中、ナツメとハナダ姉妹はこっちへ向かっている最中だからな。

 俺は各リーダーに電子媒体を使った文面で連絡をとり……ついでに、せっかくの1人行動だし、ある「秘策」を使用することにしようか。

 

 

「(ちょーっと、静かに出てきてくれよー)」

 

 ――《ポン!》

 

「(ンミュー)」

 

 

 気持ち小さな音でもって、俺の投げた(というよりも下に置いたって感じだが)白いシルフ製試作ボールから出てきてくれるミュウ。暗い洞窟の中に、いつも纏っている謎の発光現象も抑えつつ出てきてくれる。

 さてさて。俺の「秘策」であるが……

 

 

「(それじゃあ、練習通り……)」

 

「(ミュ♪)」

 

 ――《グンニャリ》

 

 

 ミュウの『へんしん』で俺の頭とか服とかを覆い、『へんしん』で長くなった髪型なんかは盛大に変える。

 覆い切れない足元や小物は元から準備していた物でカバー。

 そして、変わったところで自分の姿を確認だ。

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 「黒い帽子と服」。

 「胸にR」。

△「エクストリームに外ハネ……しない、両側に纏めた髪(双側下尾)」。

☆「スカート」。

☆「擬似パッド、擬似コルセット」。

☆「ニーハイブーツ(借用私物)」。

 

 

△……グレーゾーンだと思いたい

☆……アウト項目

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 ……うし。これでどう見てもロケット団の女の子!

 

 

 ……いや、個人的見解だけど変装が女装なのはお約束だと思うんだ!

 

 

 まぁ置いといて、つまるところ皆よくやっている(俺調べ)『へんしん』による変装なのである。

 ただし、これをミュウでやるのは俺が初めてなのかもしれないけど! 伝説級でやるとなんか豪華だよな!

 

 

「(さて、行きますか!)」

 

「(ンミュー!)」

 

 

 偵察を任せているピジョンも早めに回収したいし、さっさと頂上付近にも接近したい。

 今は急ぐに越したことはないだろうと思うんで。

 ……んー、とりあえず「手持ちがなくなったんで伝令役をしに行きます」とか言って、ロケット団員の流路(既に液体扱いする程の数)を遡れば、大元に着くかな?

 

 さて、ソロ行動の開始といこう!

 

 

 

 

 

 ―― オツキミ山、頂上付近。

 

 

「いや、連絡役もいないとか。ロケット団大物だな」

 

 

 この状況に指揮系統がないのかという疑念を抱えるも、俺の作戦については失敗していない。

 さっき作戦通り「手持ち全滅したんで、連絡役行きます!」とか言ってみたら、「え、なにそれ」と返された。でもって「じゃあ何すれば良いですか」と聞いてみたところ、これだから新人は……とのお小言の後に「本部から新しいポケモン持って来い」との命令を頂いたので、結局目的は果たせているのだ。結果よければ全て良い……とは限らないけど!

 あとは、頂上側へと続く穴から外へと出た後にピジョンを回収。その結果として本部の方向は想定通りに頂上付近だと判明していた流れで、現在に至っている。

 

 ……で、だ。

 

 

「これが本部、ねぇ」

 

 

 そろそろ月も傾いてくるかという時間帯。洞窟からかなり複雑なルートを遡って頂上付近の外側に出た俺は、大きな縦穴……ロケット団オツキミ山本部をうつ伏せになって覗き込んでいるところだ。

 外に出たからには非常に明るい満月の下なので、本部を覗き込むにも明かりは必要ない。星空も綺麗なのだが、満月が明るすぎて目立っていないという程である。

 それにしても。

 

 

「隕石やばい。ひいては、宇宙がやばい」

 

「――待、――コラ――っ!」

 

「――ッピ――☆」

 

 

 縦穴の周囲はよく見るクレーター状にはなっているのだが……隕石跡をロケット団が更に掘り進めたのか……目の前には直径50メートル以上は確実であろう穴が開いていた。その縦穴内部の壁面は岩を削ったかのような跡が所々に見られ、なにやらよくわからない機械のランプや証明の明かりがちらちらと輝いている。

 そして縦穴内部の歩行通路でピッピを慌てて追い掛け回しているロケット団の姿や、急造で建てられたと思われるプレハブ小屋なんかも見えているな。追い回しているのは恐らく、逃げる準備なんだろう。

 

「(逃げる準備、ね。どうやらというか何と言うか、見事に予感は的中していたようで)」

 

 で、相手が逃げるという事は、ここで俺に出来るのは……やはり足止めかね?

 

 

「ミュウは実質戦えないというか、ロケット団の前では晒したくないし。ニドリーナとピジョンだけで、行けるかな……」

 

「(ミューゥ)」

 

「うん。ごめんなー、ミュウ」

 

「(ンミュ)」

 

 

 『へんしん』による変装にはロケット団に混じるという理由以外にも、1人で幹部級と出会う可能性もあるので俺の顔を隠すという大切な意味がある。俺の命まで危ないとかになればミュウにも戦ってもらうだろうけど、そうでもない限りは隠しておきたい。

 ニドリーナとピジョンでもかなり戦えるけど、見えている団員の数からして何十連戦になるのか分かったものではないしな。そのうえで幹部なぞ出て来ようものなら、(たとえ月明かりの下であろうと)おそらくは目の前真っ暗だ。

 ……ブラックアウトではなく、お先真っ暗の意味でもなく、ポケモンバトル敗北での真っ暗だからな?

 

 

 そう考え、……うーん。どうするか。

 

 

「えと、……ピッピ達に協力してもらうか?」

 

「(ミュ?)」

 

 

 これはアニメとかで見たことのある戦法だ。あの時は確か一斉に『ゆびをふる』……って、

 

 

「……運頼みは最終手段にしよう」

 

「(……ゥミュウ)」

 

 

 ピッピ達の状況を見るにこの流れになる確率は結構高いだろうと思うけど、運に頼るのは最後でも良いんじゃないかなと。捕まっているのを逃がすのも手間がかかるだろうしな。

 となると、だ。

 

 

「……じゃ、ボスを叩くか」

 

「(ミュミュ!)」

 

「うんうん。戦うとなったら、頑張るからな。応援ありがと」

 

 

 さっきも見た通り、ロケット団の指揮系統は機能していない……かの様に見えて、こちらでは逃げる準備を進めているということからすると指揮官はいるのだろう。多分、あの穴の中のプレハブ小屋とかに。

 そいつを叩けば、少なくともピッピ達がこれ以上連れ去られることはないと思う。上を倒せば、下っ端団員は逃げるだろうからな。

 ならばせめて陽動が欲しいところか。

 

「(ピジョンを先行させて時間を稼いでもらって、ニドリーナ単体で……はこっちがキツいな。さーて、どうしようか――)」

 

 

 と、困り果てた戦況へ……救世主が現れる!

 縦穴の所々に開いた洞窟の内、底の方にある出口からロケット団本部に勢いよく飛び出してきた ―― 3つの人影。

 

 

「やっ……と、外に出たー! よーし。ロケット団なんてわたしがぶっ潰してやるわよー! せめてせめて、せめまくるわ!」

 

「こーらー、カスミぃ1人で突撃するなー! あと、確かに外だけど何か穴の中だしー! というか広っ! 穴の中なのに広っ!」

 

「サクラにカスミ! 私の案内を、聞いてないでしょ……! タケシが全部の班を纏めてくれてくれたから、良いもの、の!」

 

 

 増援の後にここへ来たのであろうサクラとカスミ、お疲れのご様子のナツメでった!

 ナイスタイミングだ、ハナダ姉妹とナツメ! あと有難うタケシ!

 

 案の定、ロケット団員は穴の底の出口から現れた侵入者へと一斉に駆け寄り……

 

「(一斉にと言う事は、……指示者!)」

 

 ロケット団が統率のある動きを見せたので、この本部における指揮官を探す。

 俺は縦穴の淵からうつ伏せに下を覗き込む体勢のままで、

 

 

 先程あたりをつけたプレハブ周辺……誰もいない。予想はハズレたな。

 

 縦穴の所々に開いている洞窟からの出口……目立った奴はいない。

 

 あと考えられるのは……指揮官という立場からして、「見下ろす」位置から指示を出す……

 

 ……って、

 

 

「目の前か!」

 

 

 そして視線を上げると見事に、俺がうつ伏せになっている縦穴の淵、その「穴の反対側」に電話のような機器を持った団員が立っているのだった!

 そりゃ見下ろしてたら見つからない訳だよ。

 

 


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