ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ32 事後報告と後始末

 

 

 1993年、変わらず春。

 オツキミ山事変からは、数日が経過していた。

 

 

『成程、ね。元気のかけらについては、瀕死からの復活はするけれど改良の余地あり……と言った所かしら』

 

「んー、試薬だからなぁ。今回はあって助かったけれど」

 

『なら、渡して良かったのかしらね。……それじゃ、データは開発部に送っておくわ』

 

「ういうい」

 

 

 マサラに戻っている俺は只今、シルフにいるミィに『げんきのかけら』の使用報告をしている所だ。

 因みに会話に出てきた「げんきのかけら」とは、使用した「瀕死」状態のポケモンを戦闘可能な状態に復活し尚且つ体力を半分まで回復させるというアイテム。だがしかし、この時代においてはトレーナー製品も未だゲームのようにはラインナップが揃っておらず、「げんきのかけら」の様なものに至っては最近になってから開発が始まったらしい。

 ならば何故そんな物を俺が持っていたのかというと、今回オツキミ山でロケット団と戦闘を行う可能性が高かったためにテスターとして幾つか貰っていたのだ。

 そして結局幹部との戦闘で使用したのだが……如何せん「瀕死」から回復はするものの、回復率はゲームの様に半分までとはいかなかったという訳だ。まぁ、そこについては何とか改良するらしいんだけどな。

 

 

『けれど、全く。言うに事欠いて「瀕死からの回復はポケモンセンターに任せておけばよい」……シルフの重役はこれだからいけないの』

 

「まぁ、欠片自体の値段設定も高めだし。旅をしないトレーナーからしてみれば無用の長物なんだろ」

 

『公式戦や、ジム戦におけるジムトレーナー側の道具の使用制限が無用感を助長しているだけ。需要はしっかりと存在するわ』

 

「そりゃ確かに。協会側もシルフも、上の職位にいる人達はポケモントレーナーとして旅なんかした事ない世代だろうからなぁ」

 

 

 かといって、今はトレーナー絶賛増加中だ。「げんきのかけら」であれば、売り出してみて売れないという事はまずないだろう。少なくとも俺は買うしな。

 

「(しっかし、うーん。シルフ内での開発も中々に大変そうだな)」

 

 こりゃ、この時期に頼むことじゃあなかったかなー……トレーナーツール。

 そう若干の罪悪感を感じて、とりあえずは聞いてみることにする。本人が電話の向こうにいる訳なんで。

 

 

「なぁ、ミィ。トレーナーツールの方はいけそうか? 忙しいなら無理にとは言わないぞ」

 

 

 トレーナーツールとは、HGSSで言うなら「ポケギア」、RSEでいうならば「ポケナビ」、DPPtで言うならば「ポケッチ」、BWで言うならば「C-ギア」にあたる、トレーナーを補助する機器の事だ。

 FRLGの時代では存在しないこれらのツールなのだが、俺としては出来れば欲しいところなので、ミィにオーダーメイドでの製作をお願いしておいたのだ。特にポケッチなんかは廃人の為の機能がてんこ盛りの優秀な機能だったしな。まぁポケッチの「ドット表示主体の機能自体」とか「多機能腕時計とか言うそもそものコンセプト」がこの世界の技術力からして古くないかー、とは思うんだけど。

 

 ……で、返答やいかに。

 

 

『私と、ショウの分を作るくらいなら問題ないでしょう。ポケギア以外のツールに関しては、他の会社に分散させながら任せるつもり。……それに、欠片なんかは、私が案を出したり間を取り持っているだけよ。私の本業は今のところ、機器開発とポリゴンの製作になっているから』

 

 

 それは非常に有難い。

 

 

「うん、ありがとな。ミィ。……なら、俺の方も早めに自転車改造進めとくかな。と言っても、こっちは電動アシストとかつけるだけなんだけど」

 

 

 以前俺がミィに引き取ってもらったミラクルサイクルの自転車は、絶賛魔改造中なのである。しかし魔改造とは誰がいったか知らないが、速度を重視し過ぎるとただの原付であるからして。

 とはいえ折りたたみ機構に電動アシスト、高性能のサスペンションとかディスクブレーキは勿論のこと荷物や修理道具を置ける部分も欲しいし……付属品で携帯PCつけてマップ表示とかもしたいところだな。

 ……うおぅ……こういった部分で夢が広がってしまう辺り、やはり俺も男の子だと言うことなのだろう。何かワクワクするし!

 因みに、自転車に関しては俺がミィの分も含めて製作中だ。ミィの自転車に関してはシルフ子会社のものを買ってきたらしいけど、まぁ、何とかなるだろ。魔改造で。

 

 

 ――《ピピピピッ♪》

 

 

 ……っと、PCに連絡が来てるみたいだな。

 

 

『あら、そちらの通信かしら』

 

「おう。そうみたい」

 

『なら、愚痴の続きはまた今度お願いするわ。……そういえば、最後に。伝言があるわね。小母様から』

 

「ん?」

 

『ショウの妹は、寂しがっているそうよ。偶には実家にも顔出しをなさい』

 

 

 その言葉を最後に、ミィは通信を切った。

 ……トレーナースクールに通いだしたなら、毎日でも一緒にいられるんだけどな。

 

 そんな感じで自分の妹との関係を考えつつも、それはともかく。さてさて何の連絡かなーと画面を見ることにしておく。連絡の相手は……

 

 

「グレンの『ポケモンラボ』からか」

 

 

 わかり辛いかもしれないから補足すると、「ポケモンラボ」はグレン島で化石再生なんかを研究している研究所の名前だ。これは以前俺がニビの博物館でタケシ達と相談していた案件で、研究班の長であるオーキド博士や大学側なんかからも許可を得たので活動を開始しているのだった。

 ただし研究内容については化石研究オンリーとは行かなかった様で、色々な珍しいポケモンの研究も平行して行っているんだけどな。

 ……でもって、件のラボからの連絡なのである。

 

 

「はいはい。マサラはオーキド研究所、ショウです」

 

『すいません、ショウさん。こちらポケモンラボです。えと、……』

 

 ――、

 

「えーと。……つまりはポケモン屋敷から出張ってきた柄の悪い研究員が『誰のシマ荒らしとんじゃワレ』……って言ってるって事ですか」

 

 

 要約した上に曲解を加えるのが正しいというのならば、これでも正しいのかもしれないけど。

 

 

『はぁ。内容はその通りかもしれません』

 

「うーん……」

 

 

 しかし、成程。

 今まで仕切ってきた島に……例えフジ博士からは了承を得ているとしても……別の研究者グループが入ってくるのは、ロケット団的に気に食わないということなのだろう。

 

 

「とりあえず、了解です。オーキド博士と対応を検討してから、近いうちに俺が代理でそちらに行くと思いますんで。向こうの人と会えるよう調整しておいてくださいますか?」

 

『分かりました……では、先方にもそう伝えておきます。有難うございました』

 

「いえいえこちらこそ。有り難うございます」

 

 

 ラボ職員はそういって電源を切る。

 うーん、グレン島のラボにはオーキド研究班の名義と幾人かを派遣しているだけで、今のところは殆どニビ博物館で動かしているようなものだからなぁ。次の実験段階からは俺も研究班ごと出向くことにはなるんだけど、今のところは出番がないんで。

 でも、確かにロケット団なら難癖付けてきそうな研究施設ではあるからな。

 

「(ラボの創設者にフジ博士を据えて、……あとは珍しいポケモンに関する研究の方のデータを少しだけ開示してみるか? 何にせよ悪用できないデータを渡すなら大丈夫と思うけど……でも、避けたい手段ではあるなぁ)」

 

 データ開示は最終手段として、一応了解は取っているから理詰めで押し切ることも出来ると思うし。この辺についても大学側との調整含めてオーキド博士と話し合っておかなくてはいけないだろう。

 

 ……しっかし、またやることが増えたな。

 

 これは自業自得で望む所でもあるのだけど、……とりあえずは化石研究を片付けるのが先だろう。化石ポケモン達さえ揃えば、図鑑も残すところ後1匹だしな。開発中のポリゴンに関してはデータスペックを既に貰っているので問題ないし。

 

 

「うし。なら、さぁて……博士のところに行きますかー!」

 

 

 日程調整にロケット団対策。大学側との調整に自身の研究。その他諸々。なんとも忙しい限りだが、まぁこれも良いだろう。以前よりは楽しくやれていると思うんだ。使命感に追われているというよりは、やりたい事が出来ているという実感もあるし!

 

 そうやる気を補充して、個人部屋から研究所の奥に向かうため廊下を歩き出す。いつもの通路を暫く歩くと目の前には開けた空間が見えて来て、その空間の端にはいつも通り、オーキド博士の定位置である机が。……ただし今回は、

 

 

「おお? ショウか」

 

「はい、オーキド博士。少しばかりー……って、」

 

「ウム! ショウ、久しぶりだ」

 

 

 その隣に、件のオーキド博士にも負けないロマンスグレーと共に立派な髭を生やし、小脇に上着を抱えながらベストとネクタイでビシッときめている強面爺さん……ナナカマド博士が立っているのだった。

 ナナカマド博士はゲームのDPPtにおけるポケモン博士であり、ポケモンの進化に関する研究を行っているお人。またオーキド博士の先輩であるという事もあり、今回の研究にも色々と協力してもらっているのだ。

 あと余談だけど、ナナカマド博士は子供好きで甘いもの大好きという印象とのギャップ攻撃を仕掛けてくる侮れない御仁でもある。

 

 で、ナナカマド博士がここに居るという事は……だ。

 

 

「どうもです、ナナカマド博士。……もしかして、解析終わりました?」

 

「そうとも。ワタル君の手持ちに関しては、殆どデータを取り終わったところだ」

 

「はっやいですねー……けど、有難うございます。俺も後でデータ見せてもらいます」

 

「それがよかろう」

 

 

 オツキミ山事変の前にワタルにお願いした研究協力なのだが、ワタルは直ぐに実行に移してくれたらしく、カイリューとハクリューのデータを取ることが既にできていたのだ。

 ナナカマド博士には進化関連ということで解析に協力してもらっていたのだが、

 

 ……俺も「ゲームでの既定進化レベルである55未満なのに、カイリューに進化出来ている」ワタルのカイリューのデータは見てみたいからな!

 

 …………いや、チートじゃないらしいし、事実として進化してるんで。流石に『バリアー』は覚えてないけど!

 

 と、まぁそんな理由もあって俺としてもデータには興味津々なのである。

 

 

「ところでショウ。ワシに用事があったんじゃあないのかの?」

 

「あー、そうでしたそうでした」

 

 

 おっと。進化レベルが云々とかいう思考に囚われてたけど、オーキド博士の問いかけで思い出した思い出した。(繰り返し)

 

 

「すいません。ご相談があってですね。ナナカマド博士も相談に乗ってもらえますか?」

 

「ふむ? 構わんが」

 

 

 人数は多い方が良いだろうと考え、ナナカマド博士もついでに巻き込むことにする。

 

 こうしてポケモン界の権威である2人に、ラボでのいざこざという非常に小規模な諍いについての相談を受けてもらうのであった。

 

 


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