「カントーの気候凄いな。この時期でもそこまで寒くないとか……」
などとぼやきながら歩くことしばらく。俺は今、ミィに会うためにヤマブキシティまで出向いていた。マサラとかヤマブキとか移動が忙しいが……いちおう、人向けのポケモンタクシー的なものが存在するのだ。『そらをとぶ』がなくても、移動に関してはそこまで融通が効かない訳じゃあなかったりする。まぁ、個人がポケモンを有しているこの世界においては需要がとても少ないので、会社自体は小さなものなんだけどな。主に貨物輸送とかの方がメインだったりするんだが、そこを無理を通してお願いしたのが俺。迷惑千万である。
さて。
そんなこんなでやってきましたヤマブキシティ。ここはカントー地方の中でももっとも開発が進んだ地域だ。四方を壁に囲まれ、ゲートができ、高層ビルが立ち並んでいる。なかなかに壮観だ。入るためには検閲も済ませなければならなかったりするが……まぁこっちは世間を騒がしている犯罪集団のせいってのが大きいな。お騒がせ。
さてさて。
先程ここの気候に苦言のようなものを呈していた俺だが、この辺り、少なくともカントーは温暖気味な土地である。よく考えればシロガネ山でも半袖の主人公達とか、短パンだの海パンだのミニスカートだのが蔓延っているのだから予想できたことではあるな。流石に冬は寒くないわけでもないので、防寒具は身につけているとは言え。
まあシロガネ山頂付近は雪が降ってたし、四季もある。……話題の軌道修正。
現在俺が目指している場所はここヤマブキシティの一等地、「シルフカンパニー本社」。摩天楼ヤマブキシティの中にあって一際存在感を放つ巨大ビルの持ち主である。
「おー。流石にでかいなぁ、シルフのビルは」
無駄思考をしながら、俺は目の前にある本社を見上げる。
山吹との名の通り町のイメージ色を黄色または黄金色で統一しているこの町に、一応は馴染んでいる。将来悪の組織に占拠されることなど予想もしていないんだろうなぁ。そんなこと予想しながらビル建てる人はいないだろう……誰とは言わないけど、ご愁傷様。
「さて、入りますか」
「ーー その、必要はないわ。別に仕事で呼んだわけではないし、ビルの中に用事はないもの」
既に横にいたよ! と、ゴスロリな幼馴染のご登場である。
彼女の隠密スキルには慣れているけど。びっくりしたぁ。
「わざわざ外で待ってたのか? ……あー、確かに中でポケモンバトルやるわけにはいかないか」
「えぇ、そういうことね」
そう。本日ヤマブキを訪れた理由はこれ。ポケモンバトルの訓練を行うために、休暇を使用しているのだ。
……手持ちの強化はこの世界における自衛のためにもなるしなぁ。研究におけるフィールドワークの助けにもなるため1石3鳥という訳だ。ただし、これが休暇かといわれれば、俺としては首を横に振りたい気分ではあるけれども。
「んー……ま、バトルそのものは楽しんでやれるからいいか。そんじゃあ、何処でやるかね?」
「……ジムか、格闘道場でも。借りようと思っているけれど」
「ほいほい。なら、今日は実践的にいくか。広いところを借りれる時じゃないとなー」
ヤマブキシティの大きなビルの真ん前。2人の7才児が訓練予定を話し合いながら町の北のほうへと進路を取る。
すると、だ。
「そうね。……実践重視ならあの娘も呼ぼうかしら」
ふむん。
ヤマブキで俺らの練習に協力してくれる女傑と聞いて、真っ先に思い当たるのは。
「ナツメさんかー」
「そう。エスパー縛りに、なるけれど。私のコイルの相手をしてもらえば基礎ポイント的にも丁度良いわ」
確かに。格闘道場の筋肉な人たちはとても気前がよく、俺らの様な子どもでも喜んで練習を手伝ってくれたりする。むしろカラテ王さんの貪欲な技術の吸収ぶりは、こちらが見習わなければならないほどだ。
しかし、あの人たちとのバトルでは、主に上昇するのは攻撃なのだ! 努力値的に!!
……まあ俺達はそこまで努力値を気にして育成しているわけでもない。だが、できるならば手持ちのポケモン達にはある程度の役割を持たせたいところではある。もっと単純に、鋼タイプとは相性も悪いしな。俺のポッポとニドラン♀にはバッチリだけど。
ちなみに。ミィが捕獲したコイルについてなのだが……しっかりと「‘鋼タイプ」と認識されていたりする。この辺はFRLGに準拠するようだ。けどまぁ、となるとひとつ気になることもある。この地方でそれを確かめられるのは……プリンとかピッピかなぁ。出来れば仲間にしておきたいところだな。研究者的に。
さらに話題を変えてナツメさんについて。ナツメさんは現在、俺達の3つ上の10才。元々自身が超能力者……エスパーという事もあり、近い未来、順当にジムリーダーになれるであろう実力をもっている。元々タマムシと近いヤマブキ。シルフカンパニーとも協働していたため、自然に知り合いになっていたのだ。というか俺が格闘道場に出入りしていたら、ナツメさんが喧嘩(バトル)を売ってきたという形なのだけれども。どうやらカントーの公認ジム資格をめぐって、格闘道場とは色々と因縁のある間柄であるらしい。大変みたいだからなぁ、あれ。
そんなこんなで、俺達はジムリーダーを目指す彼女とトレーニングを度々行っているのである。
「まーいーか。相手してくれるんならありがたいよな。ナツメさんもそのポケモンも強いし。それに面白いし」
「……面白い、って」
可愛さとかに言及したら後が怖い気がしないでもない。まあ、この世界ではナツメさんのが年上だけれど、精神年齢的には俺達がかなり上だし。これでいいと思っておこう。女優デビューしたら面白いって評価もあながち間違いじゃあなくなるんだしな。
そういいながら、ミィがナツメさんに携帯で連絡を取る。
……取ろうとすると。
「やっぱりきたわね。ショウ、ミィ」
ビルの向かいにシルエット。
おおっと、連絡つける前に普通に合流してきたよナツメさん。
エスパーか! ……はい、エスパーでしたね!!
「っと。お久しぶりです。ナツメさん」
「私とは、久しぶりではないけれど。調子はどうかしら……ナツメ」
「あなた達がこうして来てくれたということは予知能力も調子良いみたいだし、いいと思うわ。ショウも、久しぶり」
どうやら俺達の訪問を予知していたようだ。
流石はエスパー少女……しょうじょ……。
……さて……計算しよう!
1991年現在……ナツメ少女10才!
レッド達が冒険を始める1996年……ナツメ少女15才!
HGSS時代はその3年後。1999年でナツメさん20才!!
BWは……言わずもがな!!!
「(今の内だけだな……)」
「ショウに失礼なことを言われている気がするわ」
はい。エスパーでしたね!!
「いえ。これはマインドリーディングではなく、ただの勘です」
「ショウ、貴方。こういう時は意外と顔に出ているの」
俺は脳内でしか言葉を発していないのに、なぜか会話が成り立っているなぁ。良いんだけどさ。
ちなみに、ナツメさんの超能力は予知に長けているらしい。偶発的にそれが発動することはなく、またポケモンバトルに使うことはないようだ。彼女自身のポリシーであるらしい。その割にはバトルの前に色々とあれなことをのたまっていた気はしますけども忘れた。
「とまあ……いつも通りの漫才はこの辺にして、俺はカラテ大王さんにも挨拶入れてきますんで。2人は奥の方入っといてください。貸してくれるのは多分、いつもの奥の方のどれかのフィールドだと思いますし」
「……へえ」
なぜ不満そうな顔をするしナツメさん。
……あー、格闘道場とジムは仲が悪いんだったな。ナツメさんとしてはそっちと懇意にされると後々困るんだろうな!!
うん。きっとそんな感じ。
「……ナツメ、ショウは後で来るから」
「……絶対ですよ。今日こそはショウに負けないわ!」
ミィがフォローを入れてくれる。とてもありがたいですマジで本当に!
フォローを貰ったおかげもあり、話題を切りかえる事ができそうだ……と考え、口を開く。
「んー、負けないつっても戦績は五分五分くらいですよね? 俺とナツメさん」
「タイプ相性では私が有利でしょう。五分では駄目よ。それに、わたしは年上じゃない」
そうすねてみせるナツメさん。まーそうな。ニドラン込みで考えれば、エスパー統一のナツメさん有利なのは間違いない。だからといって、そう簡単に負ける気は無いけどな?
ただタイプのことを言うなら、とても優秀なタイプである鋼の手持ちがいるミィが1番有利だったりするし。ナツメさんはそっちとも五分だから普通に強いと思うんで。
「……まあ、俺も簡単に負け越す気は無いですよとだけ」
「それはわたしも望むところよ!」
「……私は、そこそこで。いいかしらね」
うーん、皆さん戦意に満ち満ちておられる。
さて。希望に添えるようにさっさといってきますか、格闘道場!
・ナツメ
エスパー少女。のちの作品においても出番があるという点で優遇されている気もするが、初代とリメイク版、そしてbwでのジュジュべ様への進化を見るに迷走している感を受けなくもない。
初代のナツメさんのグラフィックから受けるイメージは、おそらくポケスペが1番近い。
ユンゲラーさんはお許しおめでとうございます(
個人的には電撃ピカチュウ!のふしぎお姉さんが捨てがたい……!
2020/1215 そこそこ大幅に改修
2020/1220 前後との話題を調整