ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ36 神奥と豊縁と

 

 1993年、初夏。

 

 20才までの20年間はとてつもなく長く感じるとはよく言うものの、未だ9才の俺は20年の内半分も消化し切れてはいない。……いや、だからなんだと言われれば「別に何となく」と返すしかないんだけどな。

 さて、俺自身は相も変わらずマサラのオーキド研究所に引きこもって研究している……という訳でもなく、最近では化石再生技術関連で頻繁にグレン島に行っていた。そんでもって研究自体にようやく一区切りがついてワタルへプテラを譲り渡したところで、オーキド博士に1つのお願いがあったために研究所まで帰ってきたのだ。そのお願いとは、

 

 

「と、言う事で博士達。俺に夏休みで長期遠征の機会をください!」

 

「なるほど。丁度良い頃合じゃの。ワシは賛成じゃが、……ナナカマド博士?」

 

「ウム! わたしたちの様にポケモントレーナーを極めようと志した者は皆、旅をしたものだ。わたしも協力しよう!」

 

「いやー、有難うございます、ほんと」

 

 

 いつも通りに研究所の最も奥の部屋で机に向かっているオーキド博士とその隣に腰掛けているナナカマド博士へと、前々から考えていた件をお願いすることに。つまるところ、俺が旅に出られる期間が欲しいと言うことなのだ。

 オーキド博士が「丁度良い」と言った様に、化石再生技術の確立によってカントーポケモン図鑑も「149匹まで、あとは化石再生を待つだけ」となっている時期である。グレン島のロケット団の動きも大して変わりはなく、ミュウツーが脱走するであろう時期もゲーム内日記での日付からある程度分かっているため、手持ちを鍛えるならば今しかないだろうと考えたんだ。最近ではミィの手持ちとのレベル差も出てきているしなぁ。

 で、博士達からは色好い返事がもらえたので。

 

 

「それじゃ……今から2ヶ月程、シンオウ地方とホウエン地方の図鑑完成のための連携調整を兼ねて、各地方を回って来る予定で」

 

「ラボから何かあったら、……ほれ。このルートでショウまで連絡をまわす事にするからの」

 

「よろしくお願いします」

 

「シンオウ地方であれば、わたしの研究所へ寄ると良い。向こうでの案内人も要請してあるぞ」

 

「それはありがたいです。……でも、ナナカマド博士のとこはほったらかしじゃないですか」

 

「ウ、ウムウ! 最近では助手の子も3才になったのでな! 子供も多少は手がかからなくなったことだし、任せても大丈夫かとは思うのだが。何か大事あれば呼んでくれと伝えてはあるのだぞ」

 

 

 博士は若干歯切れの悪い返事を返したのは置いておくとして……そう。ナナカマド博士はこれでもかと言うほど、シンオウ地方には帰らない博士だったのだ。まぁ一応、カントーの図鑑は149匹でほぼ完成したとは言っても、実際としてここカントーに居たほうが研究ははかどるのは確かだし。それに博士達は先に俺が挙げた地方……シンオウやホウエンの他にも、既に開発の始まっている「ジョウト地方の図鑑」を作っていく必要があるので。なにせそれら全てが装備されて始めて、「全国図鑑」となることが出来るんだからな。ダブル博士による指揮をもって対応していって貰いたい所だ。

 ……だからナナカマド博士が帰らないのに決して、カントーの甘味を食べ歩いているだとか、いかり饅頭が冷蔵庫に大量補完されているというのは関係ない。多分、きっと。そう信じたい。

 と、そんな無駄脳内独り言い訳を繰り広げる俺へ、オーキド博士が1枚の紙を手渡しながら話しかける。と、この紙に書いてある博士は……

 

 

「ホウエン地方にはオダマキ君がおるし。彼の力を借りると良いじゃろう」

 

「あー、現地調査を重視しているお人ですよね。オダマキさん」

 

「彼なら現地のポケモン組織との関わりもある。彼自身は全国地方リーグの準備で忙しい時期であるし、研究にはおまえの力が必要になっているだろうな」

 

 

 今の言葉の通り、今年度カントーで開かれる『ポケモンリーグ本戦』後には、ついに全国各地で「各地方独立でのポケモンリーグ本戦」が開かれることになったらしい。各地方のジムは未だきちんと整備されてはいないものの、ジムバッジ取得が義務ではない複合トーナメントである本戦ならば大した障害にはならない。それに、本戦の結果によって四天王だけでなくジムリーダーを割り振ることなども考えているらしいから、このタイミングでのリーグ本戦の開催は一石二鳥だということなのだろう。……けど、まぁ。

 

 

「そういえば、旅とか調査以外にも色々とやることはありますからねぇ」

 

 

 そういって今度は、元々から俺の手元にあった紙束を覗き込む。手に質量以上のずっしりとした重みを残してくれるこれらは、俺がシンオウ・ホウエン地方へ行くと決まったことで依頼されたお仕事の数々である。内容は、えーと、大きな仕事で言えば化石再生技術関連での現地企業との調整。個人的なものでいえばミィから貰った試作トレーナーツールや四次元バッグの試し運用、魔改造自転車の細かい調整なんかだな。ま、別にいいんだけど。

 

 

「はっは! 化石ポケモンに関しては、お主の専売特許だからの!」

 

「権利を持つ博物館側が提示してきたのも、中々に大きな取引相手なのだろう?」

 

「結局は化石再生技術の売込みみたいなもんですよ。えーと、デボンコーポレーションと……クロガネ炭坑への」

 

 

 これらは博物館員が動けないからついでにと、依頼がこちらへ回ってきたのだ。技術が完成したからには売り込むことが必要で、相手こそ博物館側が決めているものの、俺を含むオーキド研究班も技術開発側の人員である訳で。つまりは丁度良いから俺が直接会って来るという次第なのだ。聞いてみれば取引相手もかなり乗り気なようだし……それに2ヶ所ともゲームでは化石ポケモンの再生が出来ていた場所だからして……売り込みの成功確立はかなり高いんだろうな。

 

 

「それに、俺としても旅には何かしらの目的(チェックポイント)があったほうが楽しいと思いますからね」

 

「それはそうかもしれんが、旅とは言ってもお主の場合は名目上研究のためじゃろう」

 

「ウム。トレーナー資格が無くては、何かと不便だからな」

 

「……そういえばそうですねー。資格はなくとも、俺のやることは変わらないんですけど」

 

 

 俺は「トレーナー資格が無いから実質旅は出来ない」ものの、いつかのイッシュ地方の様に「研究のためであれば研究者権限を使って色々と出歩ける」ので。それに、どちらの地方も急ピッチでポケモンリーグ制度の整備をしている最中なので、どうせジムといえるようなものは殆ど存在しないからな。ジムには挑戦できなくても問題はない。ならやっぱり、1番の目的は俺の手持ちを鍛えることにあると思う。つまりこれまた先程口に出した通り、やることは変わらないという事だ。

 

 

「そのためにも、10才以下で捕獲禁止の俺への捕獲許可は色々と貰いましたから。つっても、俺が捕獲したポケモンの殆どは研究用になるかもです」

 

「ふむ? お主も研究協力トレーナーなんじゃから、捕獲したポケモンの所在については遠慮せずともよかろうに」

 

「いえいえ。一応は9才ですし、そもそも『多くのポケモンを同時に育てること』自体からして難しいことですからね」

 

 

 この世界で実際にポケモンバトルを体験してみて、ポケモンと息を合わせることの重要さは身にしみて実感できた。これに関してはむしろ旅の中で手持ち複数匹を捕まえながら、育てながら、馴れながら、バトル訓練も出来ていたゲーム主人公達こそどれだけ化け物か! というレベルの問題だ。だからこそ俺は未だに手持ちをバシバシとは増やしていない、否、増やせないのだし。もし捕まえるにしても1、2匹が良いところだろう。

 それに向こうの地方特有のポケモン種……つまりはカントーにいない種類のポケモンは、少なくとも暫くは施設で預かられることになるだろうしな。別地方からの外来種だから。

 

 

「トレーナーになって制約と登録さえしっかり済ませれば、別地方のポケモンでも手持ちで自由にいられると思うんですけど」

 

「ウム。それに関しては、わたしとオーキドのほうからしっかりと働きかけておくことにする。ポケモン権利団体などを使えば、わたしたちの立場と相まって上手く立ち回れることだろう」

 

「有難うございます。ようは逃がす際にしっかりとパソコン経由で元の生息地に逃がしさえすれば、生態系は変わらないですからね。かといって、それに関しては俺ではどうにもなりませんから、博士達にお任せと言いますか。そんな感じです」

 

 

 数年後にはカントーの生息域にもジョウト地方等のポケモンが流入してくることになるという未来は、さておき。

 いくら別地方のポケモンを捕まえたとしても、3年後に控えているFRLGの時代で俺の旅に付いて来られないのではあまり意味を成さないだろうと思うんだ。それじゃパソコン篭りになるポケモンが可哀想な気もするし。ついでに、今の内に複数引きの育成に余裕を持っておけば、夢の「レギュラーポケモン6匹以上、秘伝込み」なメンバーが出来るかもしれないという算段もあるけどな。

 ……因みにポケモンをパソコンからしか逃がすことが出来ないのは、上記にある通り「ポケモンを元の生息環境から逃がすため」だ。とは言ってもこれは外来種云々ってよりは「元の生息環境に戻さないと、ポケモンのほうが危ない」といった理由のほうが適切なんだけどな。うーんと、例えば、マグマッグをグレン島とかで逃がしてみたのを想像してみて欲しい。体が冷えると固まってしまうポケモンであるのに、周りを海で囲まれている時点で絶望しか存在しない……って、グレンは噴火するんだったな。ならむしろ状況さえ合っていればマグマッグにとっては良い環境だ。なら良いや。

 …………と、無駄思考全開なところへ、

 

 

「ふむ。そういえば、ショウ。先程お主宛で封筒郵便が来ておったぞ? セキエイのカンナさんからじゃ。……お主、9才じゃろうに」

 

「違います。いえ、9才なのは違いませんが……あー、グレン島で研究者権限で保護したラプラスの経過報告ですよ? 他意はないです」

 

 

 無駄思考で染まりきっていた俺の脳内へオーキド博士から鋭い突っ込み(からかい)が入ってきた様で、すぐさま否定&言い訳を試みることとなった。いや、本当に他意はないんだ。むしろ数回しか連絡とってないし。確かにこのご時世、直筆での手紙は目立つから印象には残るだろうけど。

 

 

「あのラプラスはシルフへの移送が決定したんで、その報告です」

 

「成程。お主の幼馴染が行っている制度じゃったかの」

 

「はい。最近ではシルフ社内でかなり可愛がられているみたいですよ。社長がポケットマネーでラプラスのために水周りの設備を拡張したところ、余剰分でロビーに噴水が出来たり。しかも池付きで、2つです」

 

「……わたしとしては、社内に噴水は流石にどうかと思うのだが」

 

「いやー、色んな所はシルフカンパニー脅威の技術でどうにかしているんじゃないですかね? 分からんですが」

 

 

 ゴージャスなのはいいとして、社長が太っ腹なのも良いとして、噴水があるのがロビーだから良いんじゃないかと言うのも良いとして。この訳の分からなさこそ流石はシルフカンパニー、と言うべきなのかも知れない。

 ……まぁ、

 

 

「ここで話を戻しましてですね。つまり、カンナさんに俺が個人的にどうこうとかはないのです。そこだけは強調しておきます、博士達にも!」

 

 

 ―― 今のところ、ですか!?

 

 

「……いや、そこでわざわざ廊下から合いの手を入れなくていいからな研究班員!」

 

 

 ―― そうだぞ。班長は今から、長期出張先の別地方でフラグをばら撒いて来る予定なんだ!

 

 

「いやだからわざわざ……」

 

 

 ―― 是非とも、死亡フラグをばら撒かないように気をつけてくださいね。ハンチョウ。

 

 

「……あー、もう良いや。それで良いですから勘弁してください」

 

 

 諦めどころと、引き際は肝心だって言うしな!

 

 というか、俺の沽券なんてあってないようなものだからして!!

 

 

「……ショウも中々に大変じゃのう」

 

「ウム。だが、班員との仲がいいのは好ましい事だな」

 

 

 でもってナナカマド博士はいいとして、この流れからしたオーキドのおっさんの台詞内容には、班員達と同じものを感じるんだがっ!

 

 






 説明回となると博士達との絡みが非常に使いやすいため、現在の所このメンバーでの場面が多くなっております。私の拙い文章表現からではありますが、脳内風景がおっさん2人との個室会話というなんとも言い表し難い心象を受けるものとなってしまった場合には、物凄くお詫びをしたい気分ですね。
 なんとかバリエーションを増やしておきたいと、本気で思います。

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