ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ40 湿地帯の手前にて

 

 

 ミカルゲを無事捕獲したさらに数日後。

 俺はヨスガシティを発ち、一旦は木の実名人の家を訪れた。しばし木の実談義を繰り広げたりなんだりした後で、現在は南側の212番道路を歩いている。

 因みにシロナさんは捕獲者としてまた研究者の1人として、ミカルゲの出てきた石の塔をヨスガの外へと移設するための指揮を行ってから来るそうだ。そのため、俺とはナギサシティで合流しようという予定になった。

 

「(移設って言っても、あの塔の移設先はゲームの通りにヨスガの東あたりになるんだろうな)」

 

 まぁ。流石にあれだけの騒ぎを起こしておいてお咎めなしとはいかず、塔の移設とはなったものの、ミカルゲの封印が解けた原因……かなめ石にヒビを入れたのは観光客という事だったしな。ミカルゲだけが悪いわけじゃあない。多分。

 ついでに言うとあの奥の広場は移設と共に完全封鎖されるそうだから、少なくともヨスガシティ内部で再発する可能性は低いという理屈で、「移設だけで良い」となったのだろう。

 

 さて、思考を切り替えて。

 俺が現在歩いている212番道路がどういった場所かというと「タウンマップ上ではL字に表示されている、長い道路。上半分はウラヤマさんの豪邸、残り半分は湿地帯」となっている地域だ。今のところは延々と続く石壁や手入れの後が見られる花壇の間を歩いているだけなので「ウラヤマさんの豪邸」の部分なのだが、この先には雨ばかり降っている場所が出て来る筈。その場所こそノモセ周辺の特徴とも言える「湿地帯」で、幾つかやりたいことがあって俺単体としての目的地にしているんだが……

 

 

「……長いんだよなぁ、この道路」

 

「ピヨッ♪ ピヨッ♪」

 

 

 花壇に囲まれている道路なため、小回りが利かない自転車は押して歩いている。そんな俺の周囲をミュウは何ともご機嫌に飛び回っているのだ。だがしかし俺としては左側に延々と見えるこの壁、壁、壁! な風景は何処まで続くのか、と言いたくなるのが普通であろうと主張しておきたい。

 

 

「むしろ、ウラヤマさんの資産が知りた……いや、別に良いや」

 

 

 何をしている人なのかは知らないが、各地方から集めたポケモンを庭で放し飼いで捕獲自由なんて事をやらかすお人の資産だ。俺が知ったところで「よくわからん」との烙印を押され、記憶の隅から漏れ出て行って風化して最終的には記憶から消えていくという流れが予想できてしまう。つまりはこれ、無駄記憶。

 

 ……で。

 ここまで無駄思考は盛大に展開させていた俺の目の前に、やっとのことで「壁の終わり」が見えてきている。実際には終わりではなく今度は門があるんだろうとは思うが、とりあえずの区切りが見えてきたことは素直に嬉しいことだな、うん。

 

 

「うーし。こっからはそろそろ草むらも出てくるはずだから、ミ……じゃなくてピジョンも――」

 

 

 そんな風に、終わりの見えた壁を左に曲がろうとする俺。

 

 の、目の前!

 

 

「待ってください! えいっ!」

 

「プルリューッ!!」

 

「と、ぅわっ!」

 

 

 《ポスンッ!》

 

 

 とある界隈でのお約束を消化するかのごとく、ただし朝と言える時間帯ではなく食パンも咥えてはいないが。

 俺は角から飛び出してきた1匹のポケモンとぶつかる事となったのだ。運命的なのか、これは!

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 

 

「と、言うわけなんです」

 

「あー、理解はしました」

 

「……」

 

 

 ぶつかった数分後。どこかサイドンっぽい石像や噴水等のザ・お金持ちという装飾の庭を抜けた先にあるウラヤマさん豪邸で、とりあえずお話を伺ってみるという次第に。

 そんな俺の後ろ、体の陰からは先程ぶつかったポケモン……プリンが、恐る恐るといった感じで向かいに座った執事さんを見つめていてだな。俺だけ何か妙に懐かれているというか、頼られているというか。これが運命効果なのか(それはないと思う)。

 

 

「つまりこのプリンは自由への逃走を繰り返している、と」

 

「はい。わたくし共と致しましても、何とか、せめては無断で逃がさないようにとの努力もしているのですが……」

 

 

 しかしさっきの出来事といい執事さんの表情といい、対策の結果は芳しくはないらしいな。

 ここで執事さんの説明を纏めてみると、ウラヤマ豪邸は裏庭を調整中らしい。ゲームでは色々な地方のポケモンを捕獲できていた裏庭なのだが、この時代では未だ環境調整をしている段階なのだそうだ。そんな庭へ最近、試運転が目的でポケモンが何種類か色々な場所から運び込まれており……その内の1匹がこのプリンらしい。

 

 

「他のポケモン達は庭の改良の結果として満足してくれた様子でおとなしいものなのですが、何故かこのプリンだけは……。野生ポケモンの庭を造るにあたっての盟約から協会だのとの兼ね合いもあった関係で易々と逃がすわけにもいかず、かといって縛り付けるにはこのプリンも可哀想かと……」

 

 

 苦労していたのであろう執事から、今日あったばかりだと言うのに次々と苦労話だのが話されていく。

 ……確かに、苦労してたのは本当なんだろうな。それには屋敷の主人がここに居ないのも状況の混迷さを際立たせるのに一役かっているのだろう。その分の苦労が全て執事やメイドにのしかかっているのだから、まぁ、大変ですねーと。

 

 

「はい、大変なのです。毎日毎日メイド達が屋敷の外へ――」

 

「……んー、……ん?」

 

「……プリュ」

 

 

 執事の話が続く中で、ふと袖を引く力が強くなったように感じて、斜め右下へと視線を移す。すると自然に俺の腕に隠れつつ掴まりながらソファーに立っているプリンと目が合うことになる……んだが。

 

「(……俺が連れて行ければ、これは万事解決なのかね? でもなぁ……)」

 

「自由を得たいのか、庭に未だ改良すべき点があるのか――」

 

 またも執事の話が続く中で、困った目をするプリンとは見詰め合ったまま、少しばかり迷ってしまう。

 なにしろ俺は未来に伝説ポケモンとの対決、悪の組織との対決、リーグ挑戦といったハードな予定を建ててしまっている面倒な人物。そこへ連れていくポケモンには当然のごとく特訓やら力量やらが求められるので、最近はどうも手持ち達に申し訳なさを感じてしまっているのだ。

 実際、今の俺の手持ちであるピジョン、ニドリーナ、ミュウは本当によく俺の特訓に付き合ってくれていると思うので感謝は絶えない、が、このプリンはそれに耐えられるのか。そしてその道は俺の一存で決めてしまっていいものなのか、と。

 それに、

 

「(プリン、かー)」

 

「そもそもそのプリン。脱出する方法自体が――」

 

 

 某ぶっ飛ばし合いなゲームであれば、滞空力という特徴があるポケモンだろう。だがしかし、この世界はポケモン本編の世界であるからして……「プリンではそもそもの力量が足りない」可能性もあるのだ。

 

「(俺は『勝たなくちゃいけない』闘いも多くこなす羽目になるだろうからなぁ)」

 

「それでですね。わたくし共も応戦してみるのですが、それがまた――」

 

 

 種族関係なく強みを活かす事が出来れば良いのだが、今の時代ではそれは難しいと思う。なにせ俺ではプリンを活かすに、遺伝技を使わない方法を思いつくことが出来ないのだ。……あー、廃人してたせいで視野が狭くなってたのかな、俺。

 かといってこの場しのぎで一旦は手持ちに入れて、挙句上手くは活かすことが出来ずパソコン生活となってしまったのではあまりにも申し訳なさ過ぎる。そこを活かすのが俺(トレーナー)の力だと言いたい所でもあるので、となれば、プリンを活かす方法か。方法、方法。

 ……が、プリンならせめて遺伝技が使えればなぁとの思考へ戻ってしまった。俺の知識は遺伝技だのといったもの込みでの戦略に向いていると思うし。つってもやっぱり、卵さえ見つかっていないこの時代に遺伝技は……

 

 と、思考ループしかけた所へだ。

 

 

「そのプリンは他とは違ってですね。飛んでいる鳥ポケモンを落として踏み台にしたり、なにやら悲しそうで滅びそうな歌を歌ったり――」

 

「……なくはないのかっ!?」

 

「プルリュッ!?」

 

 

 プリンをびっくりさせてしまったのは申し訳ないが、重要情報なんですそれ!!

 

 

「執事さん、その歌の後って手持ちが『ひんし』になったりしません?」

 

「あぁ、はい。プリンもですけど」

 

「もしかして、……それなら」

 

 

 進化させるとしたら「月の石」のほうは、ニドリーナの分も合わせて何とか工面できるだろう。あとは技マシンとかなんとかで……

 

 

「……なぁ、プリン」

 

「プリュ?」

 

 

 考えを纏めたところでプリンと再度目を合わせ、話しかける。

 

 

「お前は外へ出たいのか? それとも、遊びたいのか?」

 

「プ、プリュ、プルルリュー」

 

 

 膨らんでみたりしぼんでみたり、手をめいっぱい動かしてみたり……うん、これは解読レベル高めで自信がない。分かるような、分からないようなだ。なら、端的に選んでもらってみるか。

 

 

「執事さん、このプリンは俺が連れて行ってしまっても?」

 

「そうですね……えぇ。わたくし共としましては逃がすことにならず、またそのプリンが望むのであれば。後々のことはこのセバスチャンが何とかしてみせましょう。旦那様もポケモン自身が望んだとあれば、むしろ喜んで見送ると思います」

 

「……だってさ、プリン。で、だな」

 

 

 執事さんから了解を貰ったところで、プリンからは目を逸らさないまま。

 

 

「お前なら、活かしてやれるかもしれない。だから誘ってみる。……んーとな、俺の手持ちポケモンにならないか?」

 

「プリュッ?」

 

「あぁ、『お前なら』だ。上手く伝わるかはともかくとして、俺の手持ちになると漏れなく特訓が付いて来てしまうんでな。キツいかも知れないし」

 

「プーリィ」

 

「それでも俺と一緒なら色んなところに行けて、色んな奴らと会えるっていうのは保障するよ。それを加味した上で……と」

 

 

 目線の高さをプリンへとあわせ、バッグから取り出した(未だ持っている)白い試作モンスターボールを捕獲モードに切り替えてから机の上に置く。最後はプリン自身に選んでもらうというなら、このやり方が適している筈だ。

 

 

「大変かもしれないけど俺と一緒に来たい、一緒に頑張ってくれる。そう決心を付けられたなら……ボールに触れてくれ」

 

「……」

 

「あー。まぁ、そう簡単に決めなくていいからな。断っても良いし」

 

 

 相手が俺なら無期限でのクーリングオフも効くし。

 そう告げながら、執事に俺のボックス転送先を教えておこうと……思った時。

 

 

「……ッ! プルリー!!」

 

 

 俺が執事の方向を向いた途端。プリンはキッと凛々しい目をしたかと思うと、体を膨らませた勢いのまま俺に向かって「びしっ」と、その短くてピンクの右腕を衝きつけた。

 そのまま腕は大きく振りかぶられ、

 

 

 ――《ボウン!》

 

 《カチッ!!》

 

 

 ボールへと、一度も揺れずに、ピンクの体ごと収まってくれたのだった。

 

 

「なるほど。このプリンが初対面にしては貴方に懐いていましたのは、お人柄からですかな」

 

「……うーん、いえ。単に冒険がしたかったんじゃあないですかね。俺はこの通り旅人トレーナーっぽい風貌ですし。あとは、俺はいつもポケモンを外に出してるんでポケモンっぽいにおいがしてたとか」

 

 

 こちらへと歩み寄る執事と話しながら、においといってもマリルみたく雑巾のではなくとか考えながら、プリンの入ったボールを持ち上げて覗き込む。すると先程と同じ強気で大きな目をしたプリンは、こちらへとウインクをしてくれた。

 おー、俺と気は合いそうだよな。ノリでウインクを返しておくけど!

 

 ……でもって、寝ている間に顔に落書きするのとかはやめてくれと頼んでおくのは忘れない!

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 捕獲ポケモン

 

 プリン♀

 

 LV:10

 

 






 シンオウまで行っておいて、この選択! 
 どうぞマイナー野郎と呼んでやってくだされば。なにしろ、作者私自身からして、ピッピとどちらにするべきか迷った末の手持ち抜擢なので。はい。好きなんです、プリン。食べ物ではなく。ダッシュキャンセル上スマッシュかまします。オイチさんのパートナーらしいですね(伝聞系)。

 ……ただし今回のプリンの特殊性、遺伝技についてはご容赦くだされば有難いです。都合上どうしても必要かなぁ、と考えている次第なので。

 そして勿論、本拙作のプリンは落書き云々だけではなく、自分で隠した月の石を探すためにピカチュウ眠らせて引きずったりはたくで滝を割ったりだのといった事は致しません。
 (元ネタが分かる人がどれ位いるやら知れぬネタですが)

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