ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ40ex スズラン島にて

 

 

 ――《ドドドドドド……》

 

 

 上から滑り落ちる大瀑布の真横を、関係者用リフトに乗って登る。

 

 ……現在地であるのは、スズラン島。

 

 ナギサシティの北に位置する、ゲームでは「ポケモンリーグ」としか表記されていなかった島なのだが……どうやら名前はアニメ準拠らしいな。

 

 

「―― という訳で、スズラン島の本街は奥のほうにあるのです。リーグの運営本部などもそちらにありまして……いえ。リーグの運営を任されているとはいえ、バトルクラブの方々の事ですから、今日もバトル三昧なのでしょうけど……」

 

「あはは、楽しそうな方々で何よりですね」

 

 

 あの後、プリンを仲間に加えてからは212番道路での俺の「目的」も終え、ノモセタウンなどを通過してからナギサシティへと到着。俺が着いた時にはシロナさんは未だいなかったため、先に用事のあったスズラン島へと到着していた。

 ……という訳で、ナギサシティも既に通過している。なにせ、特に用事がなかったからなぁ。むしろ、用事の殆どはこの島に集中していたので、シロナさんが追いついてくる前に、早め早めで用事を済ませておこうという算段だったりするのだが。

 

 

「―― それにしてもショウさんは、バトルクラブに用事があるとのコトで。本日はバトルクラブにもう1人お客さんが来ているんですよ」

 

「もう1人?」

 

 

 隣に乗っている案内の人(シロナさんに紹介してもらった)が、そう話してくれる。俺が思わず聞き返すと、

 

 

「はい。えぇと、小説家の方らしいのですが……バトルクラブのキクノさんに用事があるとのことで」

 

「……へぇ。小説家の方ですか。もしかして、黒くてメガネの幽霊ポケモン使いだったり……」

 

「あ、もしかしてお知り合いですか?」

 

「……多分」

 

 

 恐らくは、シキミか!

 そういえばナツメの試合の後、取材に行きますとか行ってたしな。……なんでこの時期になったのかは知れないが。

 

 

「うーん。ならば今日のバトルクラブは一層楽しいでしょうね!」

 

「そ、そんな風に捉えられるのはショウさん位だと思うのですが……はは。能天気といいますか、のんきといいますか」

 

 

 苦笑いを浮かべる案内のお人。……けど能天気、と言われるのは流石に初めてだなぁ。意識的に前向きにしようとは思っているんだけどさ。

 

 

「もう暫くかかります。それまでは、この島の説明などさせていただきますね」

 

「ん、そですね。よろしくお願いします」

 

 

 そうしてリフトに乗ったまま、揺られていく。

 案内人さんの話のおかげもあり、スズラン島本街への道のりは、退屈をしないで済むのだった。

 

 

 

 

 

 

 ―― スズラン島、本街

 

 

 さて。バトルクラブとは、この地方で「元からリーグのような活動はしていたけれどクラブとの名義を採っていた団体」。いうなれば「ポケモンバトル大好きクラブ」みたいなものである。

 いつだかの思考にあったと思うが、ポケモンリーグという形がとられたのは確かに、近年になってからの出来事だ。だがしかし当然といえば当然、ポケモンバトルを好んでいる人々というのは元々から多数存在していたので。そのような人々が集まって研鑽を繰り返したり色々なバトルを試してみたりしていた団体こそ ―― ポケモンバトルクラブ、という訳。

 しっかし、

 

 

「行きなさい、サイドン。地震ですよ!」

 

「これは良いタイミングでした。……わたしの次のポケモンは、ドータクンです」

 

 《ワッ、アァァ!!》

 

「……目の前の様子を見る限り、これはこれで良いのかも知れないなぁ」

 

 

 どちらもゲームにおいては四天王であった2人……キクノさんと、ゴヨウがバトルを繰り広げていたのだ。周りで観戦するバトルクラブのメンバーたちも、一般客に負けず劣らずどころかより一層の声援を送っているご様子。

 ……だけどさ。

 

「(俺の知ってるヤツに似ている雰囲気があるんだよなぁ……)」

 

 ゴヨウにしろ、キクノさんにしろ。

 

 ―― おおっと、

 

 

 《《ワァァッ!》》

 

「……おほほ! あたしの負けですね、ゴヨウ」

 

「ありがとうございましたキクノさん。わたしのエスパーポケモン達も、キクノさんとのバトルには非常に満足しています」

 

「貴方自身はどうなのかしら?」

 

「ああ、これは失礼。勿論わたしもです」

 

 

 どこからか本を取り出し、小脇に抱えながらキクノと握手をしているゴヨウ。交わされている会話からして、どうやらバトルはゴヨウの勝利で終わったらしい。

 さぁて、

 

 

「それじゃあまずは、あの2人に聞いてみるか」

 

「えぇ、そうしましょう。……あ、すすす、すいません! なんだかアタシ、便乗したみたいですけど、違うんです! 元からキクノさんに取材をさせてもらうつもりで……」

 

 

 バトルを観戦するために集まっていた人ごみの中。勝手に隣に立ち、勝手に慌てているメガネの女性は……シキミか。どうやら隣にいるのが俺だと気付いていないらしい。なら、まずは認識させる所から始めるべきだろうな。

 

 

「……あの、シキミさん。俺です。ショウですよー」

 

「あわわわ!? ごごご、ゴメンなさい! ショウさんでしたか! ……って、ショウさんは何ゆえここにいらっしゃるのデスマス!?」

 

「落ち着け落ち着け」

 

 

 シキミは百面相を見せながら、ノリツッコミっぽい質問を投げかけてくる。相変わらず大げさに反応してくれるため、退屈しないのは何よりで!

 そして俺の落ち着けとの言葉に、またもや。

 

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

「って、だから……あー、シキミ」

 

「ひゃ、ほぁい!」

 

「これから取材なんだってな。その前に落ちつくのをオススメするぞー……ほれほれ。深呼吸、深呼吸」

 

「……ひ、ひ、ふぅ。……ほぁ。そうですね。これから念願の、キクノさんへの取材なのですから。アタシが落ち着いていないと、御迷惑をかけてしまいますよね!」

 

「その調子その調子」

 

 

 けど、何故にラマーズ法!

 ……などというやり取りをしている間にもキクノさんとゴヨウは別れ、次のバトルが始まっているからな。流石はバトルクラブ。噂どおりのバトル好き達が集まっているみたいで。

 そう考え、あの2人が行ってしまう前に ―― と。

 

 

「んじゃなシキミ。キクノさんは任せた。俺はゴヨウさんに聞いてみるよ」

 

「え、あ、はい。……所でショウさんは、どんな御用事でここに?」

 

 

 あー、……成程。シキミからしてみれば当然の質問か。なにせシキミと前に会ったのは、カントー地方だったからな。

 だがしかし、

 

 

「そりゃ秘密だ。今は詮索しないでおいてくれ」

 

「……ふぅむ。―― 秘密を抱く少年、怪しき笑みを湛え ――」

 

「ぅぇ、やめ! その響きはなんか嫌だっ!?」

 

 

 「怪しき笑み」とか「秘密を抱く」とかな!

 これは、これ以上ネタにされる前に逃走するべきなのかっ!!

 

 

 

 ――

 

 ――――

 

 

 

 ゴヨウが目の前で椅子に座り、パタンと本を閉じる。

 

 

「これは良いタイミング。それではわたしが話をお伺いしましょう……ショウ君」

 

「えぇと、お願いします」

 

 

 スズラン島にある図書館の中へと移動した後。何とも丁寧な物腰の男、ゴヨウとの「お話」が開始されているんだが……

 

 

「あらためて自己紹介します。私が事前に連絡させていただいていた、ショウです」

 

「これはご丁寧に、どうも。……そんなに堅苦しくしなくても大丈夫ですよ」

 

「……あー、ではお言葉に甘えて。それにしても、ゴヨウさんはエスパーじゃあないんですよね? 本を読み終えるタイミングがピッタリ過ぎです」

 

「ああ、残念ながらそれは秘密なのですよ」

 

「……うわ」

 

 

 目の前で目を閉じ、微笑を浮かべるゴヨウ。悪戯好きというか何と言うか、つかみどころのないお方だなぁ。

 

 

「まぁまぁ。そんなことは置いておきましょう」

 

「貴方がそれをいいますか、ゴヨウさん」

 

「それより。……キミは、バトルクラブ代表としてのわたしに用事があったのではないのですか?」

 

 

 ふーむ、それもそうか。

 

 

「……そですね。ならばオーキド研究班の一員として、御協力をお願いしてもいーですかね。ゴヨウさん」

 

「勿論です」

 

 

 見事に快諾してくれるな。これであれば、こちらとしても遠慮せずともいいだろう。

 んじゃ、まずは。

 

 

「ではまず、バトルクラブの大まかな規模と……研究の手伝いをしても良い、という人がいるかどうかを聞いてみて下さいますかね」

 

「わたしとキクノさんは問題ないですよ。微力ですが、御協力させていただきましょう。他の方達は……そうですね。後で聞いてみることにします。……とはいえ、」

 

「それは何の笑みですか」

 

「いいえ。ポケモン図鑑などという夢溢れる名前を出せば、恐らく、バトルクラブの皆様は喜んで……というか、むしろ我先にと協力を申し出てくれますよ」

 

「ふぅん。……それは予知ですかね」

 

「秘密です」

 

 

 むぅ、見かけ通りにガードがお堅い。

 

 

「……というのは冗談でですね。ただの予測です。ショウ君は先程、バトルクラブのあの盛り上がり様を見たのでしょう?」

 

「……なるほど。ああいう人達が中核となっている、ってな訳ですか」

 

 

 ここまで移動するまでも、何人ものクラブメンバーとすれ違っているからな。何となくではあるがゴヨウの言いたい事は分かる気がする。

 メンバーのお人たちの傾向からするに……この団体の仕組みたるや実にシンプルで、上下関係は気にせず。とりあえずまとめ役は決めといてさっさとバトルしようぜ! というどこぞの英語名が灰の主人公かと言いたくなるような気質のお人達だったのだろう。それはそれで「組織の構造としてどうよ」とは思うけど……

 

 

「だからこそ、ゴヨウさんをトップに据えているってな理屈なんですかね」

 

「あぁ、確かに。言われてみればそうなのかもしれないですね」

 

 

 おいおい。当人がその反応か。

 

 

「わたしとしましては、やはりキクノさんが相応しいと思っていたのですが……どうにもキクノさんがわたしを推して下さりまして。若輩ながら、頭などを勤めさせていただいているのです」

 

「うーん。確かに強いですよねー、ゴヨウさん」

 

「……ふむ。ですがこうして近くで見てみると、キミもなかなか……」

 

 

 ……なんぞ、その視線。

 

 ……身の危険を感じるんだがっ!!

 

 

「……冗談でもやめてください。いやマジで」

 

「いや、強そうだねと」

 

 

 嘘付け、絶対に分かっててやってるだろう!

 

 ……そういえば。もしこの人もエスパーだとすれば、イツキなんかよりも警戒しておくべきだったのでは……!?

 

 …………えぇと、うん。

 

 

「……うぅ。とりあえず、この思考は置いときましょう。でもって、本題のお話をしたいのですが!」

 

「? ……さっきの話は本題ではないと」

 

「そですね。……では、これを ――」

 

「―― ! ……へぇ」

 

 

 そうして軌道を無理やりに修正して、この後。

 数時間にも及ぶ話し合いが展開される事となる。

 

 

 

 

 

 ―― で、件の数時間後。

 

 

「ショウさん、ショウさん!」

 

「あー、シキミさん。キクノさんへの取材は終わったんですか?」

 

「はい! それよりも、聞いてくださいよっ!!」

 

 

 水に、自然に、ポケモンに、人工物に。まさにシンオウの自然を縮小したとでも言う様なスズラン島の夕方の、非常に美しい街中にて。

 話し合いを終えた俺へと、同じく取材を終えたのであろうシキミが小走りに駆け寄って来ていてだな。

 

 その手に持ったメモ帳をぱらぱらとめくり、ビシ、と指差して。

 

 

「キクノさんがあんな格好をしているのは、寒いからではなくて砂嵐対策なのだそうですよっ!?」

 

「開口一番に伝えたくなるネタがそれですか、オイ!!」

 

 

 少々強引だが、見事に締めてくれた。

 シキミ、実にありがたいっ!

 






 キクノさんは、シンオウ四天王の中で最も厚着をしているお方です。
 (というか、他の人たちが薄着過ぎるだけ)

 ですが、いくらモデルが北海道とはいえ、ゲームでも雪は一部しか降っていないですからね。薄着でも問題はないのでしょう。おそらくは。

 ……キクノさんが寒がりなのか、寒いところに住んでいるのか、他の方々が暑がりなのか。


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