目の前にあるPCで、「預かりボックス」の画面上を、次々と指差しながら博士達に説明していく。
「と、ここまでがノモセ湿原で捕獲したポケモンです。このボックスからがナギサシティ周辺になります」
「ふうむ。妙にノモセ周辺のポケモンが多いの」
「時間配分の都合です。それで、キッサキ周辺で捕獲出来たのは、申し訳ないですけどこの1種類だけです」
「ウム」
「……で、新しく俺の手持ちに加わったのがコイツです」
「プリュリー!」
「まぁ、このプリンは検査を受けてもらってたんで、今からが本格的な合流なんですけどね」
俺がシンオウ地方から帰ってきてから間も無く。
明日にでもホウエン地方に向かう予定なのだが、一応の名目上である研究調査の報告をしなくてはならないため、カントー地方はマサラのオーキド研究所に一旦寄っているのだ。
因みに上述の言葉通りにプリンは1度研究所に預けていた。調査等々が終わり次第、ここで合流する運びとなっていたんだ。カントーにもいる種類だとはいえ、俺のプリンは他の地方からのポケモンだからな。多少の検査をしなくてはならなかったのは、何とも、面倒なことで。
「という事で、俺は明日にはホウエン地方へ発ちますが……」
「なら今日は、ゆっくり休むと良いじゃろ」
「そうだな。ショウも疲れていることだろう」
まぁ確かに。これ以上は無いというほどの過密日程でシンオウ地方横断プラスアルファなど行ったのだから、9才である身にはキツかったってのは本当だ。
「そうですね。今日の所は博士達のお言葉に甘えさせてもらいた――」
―― 《ヒィイッ!》
―― お嬢様、お待ちください! そんなに力を使っては……ってワッハ!
「……じゃがの。表にいるあの娘は……。お主はやはり、大変じゃの……?」
「……せめて違います、と言わせてもらうくらいの権限は、俺にも欲しいところですが」
「はは! ショウは超能力のある者に好かれる傾向でもあるのかも知れんな!」
いやだから、超能力お嬢様とその執事は勝手に着いて来ただけなんですって。向こうから「ショウの研究している場所を見に行きたい」と言われたなら、断る文句が見付からなかったってのが主な理由なんだしな。
……そして俺がナナカマド博士の言う通りに「超能力のある者に好かれる」とかいう能力持ちだったとしたら、未来のジョウト四天王に物凄く警戒しなくてはいけない奴が1人いる事になってたんだが……まぁ。
先日のゴヨウといい、彼らに対しては全力を持って警戒しようか。うん。友情ならドンと来いなんだが。
「それでですね、その事は置いときまして。俺への用事ってのは、なんだったんですか?」
「おおそうじゃった。そういえば連絡をまわしておったの」
ここで話題転換。これは決して俺にとって都合が悪い話題だからではなく、業務上仕方なくの話題転換であることを判っておいて欲しい。まぁ、別に良いけど。
あー、さて。転換された話題の中心だが……シンオウ地方を回っている間に、オーキド博士から俺への連絡が来ていたのだ。どうやら至急の案件ではないらしく、研究所に寄った際にと書いてあったのだから、今がそのタイミングであると思うんだけど。
「海外のシャガ市長からだ。どうやら、ショウにプレゼントがあるらしい」
「はぁ、プレゼント。ソウリュウ饅頭とかですか?」
「別に旅行土産じゃあないからの。……ほれ。ここに1つ、モンスターボールがあるじゃろう?」
オーキド博士が机の上を指差している。その先には言葉通り、モンスターボールが載っているのだが。
「御三家……じゃあ、ないですよね。はい」
「お主の言葉はよく分からんが……お礼だそうじゃの。助言への」
「助言、ですか。そんなんありましたか?」
「シャガは、ショウの言葉で市長だけではなくジムリーダーの兼任を目指すことを決めたらしいのだ」
「……あぁ、あれですか。確かに覚えはありますね」
シャガさんと一緒にフスベシティから帰って来る途中。そういえば俺はシャガさんに門下生でもとればどうか、といったニュアンスの言葉をかけていたな。マジで実行したのか……って、いや。コレでシャガさんがジムリーダーになるのも別に悪い流れではないんだから、まぁ、それは良い。
けど、
「あの程度でお礼を貰うってのは、何だか気が引けます」
本当に提案してみただけだったんだし。始めから交換条件が提示されていたのであればともかく、こんなんでお礼を貰っていては善意の押し売りな気がしてならない。
そんな俺に対して、オーキド博士はやれやれといった態度で身をすくめた。
「仕様がないのう、ショウは」
「性格ですからね」
「それでもじゃ。最近は改善してきた気もするがの、こういうのは『相手が受け取って欲しい』もんじゃろうに」
「……究極の屁理屈な気もしますが、まぁ、そうです」
つまり、俺の価値観に照らし合わせるなら「相手はコレを受け取って貰うことでスッキリするのだから、気が引けるという程度なら貰ってやれ。その方が真に相手の為になる」という事なんだろう。自身を納得させるにもこの様な経路を辿らなければならないとは、いやぁ。なんとも面倒な思考構造をしていますことで。俺。
「……分かりました。ありがたく頂きましょう」
「ウム」
要望を飲み込み、博士達の間を抜け、机へと近づく。
研究所で机の上にあるモンスターボールを貰うっていうシチュエーションは、なんかゲームで最初のポケモンを選ぶ時の感じに似ている気もするけど、既に俺には相棒達がいるからな。場所と雰囲気、あとは博士達がいることによる気分的なものだろう。
そう無駄に考えながら机の横に立ったところで、左手でモンスターボールを持ち上げる。
「さぁて、よろしくな。……って」
その中に入っていたポケモンは――
ΘΘΘΘΘΘΘΘ
―― Side コクラン
研究所から、見知った友人が歩き出てくる。
その友人を出口から見送っている2人の博士と一瞬視線が合い、オレとお嬢様も礼を返した。先程挨拶もさせてもらったが、オーキド博士もナナカマド博士もとても良いお人柄だった。なんと言うか、威光と貫禄はあっても研究者特有の近づき辛さはないといった感じか。
そしてそのままこちらへ歩いてきた友人……ショウに、まずは話しかける。
「ショウ。相談は終わったのか?」
「ん、滞りなく。俺は明日にでもホウエン地方に飛ぶんだが……んじゃ、明日はクチバまで一緒に行くか? コクラン、カトレア」
「……アタクシは、是非」
「お嬢様が良いのなら、オレには断る理由がないよ」
「うし。ならまずは、マサラの宿にでも案内するか」
悪く言えば悪戯っぽい、よく言えば楽しそうな笑みを浮かべ、歩きながらショウがこちらへ説明を開始する。
「ちなみに、俺はヤマブキとクチバの間にある空港まで行けばオッケーだからな。コクランとカトレアは明日、ナナシマまで高速船で行くんだろ?」
「……ハイ」
「ならクチバの港でシーギャロップ号に乗るんだよな。港までは見送りしとくぞ」
「あぁ。ありがとう、ショウ」
「うんにゃ、土地勘無いのは当然だ。なにせ外国だからな! 俺もそうだったし!」
当然といった感じで、今度は頭上で空を飛ぶ自らのポケモンを見上げながら、マサラの中心へと歩き続ける ―― かと思いきや。ショウはすぐに顔を下ろしてこちらの方を向いた。
「あー、そう言えば」
「どうした? ショウ」
「ゴージャスリゾートに行くんならさ。カトレア達はレインボーパス、持ってるのか?」
「……ショウも欲しいのですか」
「まぁ、はい。イエスだけど」
おぉ、普段はダウナー全開なお嬢様が自ら興味を示したぞ。ちなみに確かにオレとお嬢様は、ナナシマ全ての島に入れるパス……レインボーパスを所持している。
せっかくお嬢様が受け答えしているのだしと考え、オレは執事らしく後ろで控えていることにしようかな。
「今の俺は研究者権限のトライパスしか持っていないから、行ったとしても4の島までしか入れないんだ。せっかくあんな所まで行く機会を得たとしても、入れない島があるって悔しすぎるだろ?」
「……そうですか。コクラン、手配しておいて」
「承知いたしました、お嬢様」
深く腰を曲げる。だから見えないけど、多分ショウは何ともいえない表情をしていることだろうね。
「いいのか? カトレア」
「いえ。アタクシの師匠であるアナタには、色々と貸しもあります」
「貸しって。……それに師匠て」
「師匠ですし、貸しです。返させてはくれないのですか?」
「……ま、良いか。んじゃ、とりあえずはありがとうな。カトレア、コクランも」
ん? ショウにしてはあっさりと引き下がったな。気になって顔を上げると、ショウは頭を掻きながらも仕様がないといった表情をしていた。
しかし、その事を問いただす前にお嬢様が質問を続ける。どうやらショウへは中々に興味深々なご様子だ。お嬢様はショウの腰辺りを指差し、
「プリンの他にも、新しいポケモン」
「ご名答。ついさっき親登録もしてきたトコだ。あ、でも、まだ迂闊に外に出すことは出来ないんで。それは勘弁してくれ」
お嬢様が、頭の上で夏の日差しを遮っている麦わら帽子の影の内で(恐らくは会話の筋が区切られたことに対して)ほんの少しだけ不貞腐れる。
「……そうなの」
「うーん、俺に合ってはいるんだけどなぁ」
ショウが申し訳なさそうな顔をするとお嬢様もそれに気づき、不貞腐れた顔はやめた。数瞬悩んで話題を探した(の、だろう)後に、
「合って……る?」
「おう、相性ってのは大切だからな。カトレアとエスパーポケモンみたいなもんだよ」
お嬢様、来ましたよ。これは絶好の話題ですっ。
「……ふぅん。そういえば、この辺りのエスパーポケモンってどの様なものがいるのです?」
「……あー、そう言えば。それに関しては俺よりも詳しいヤツがいる。連絡先でも教えておけば――」
ショウが何かを避けるかのように、話題をその「誰か」に擦り付けようとした。……お嬢様は今度こそ、不貞腐れた顔を隠そうともしない。
「アタクシは、ショウから聞きたいのです」
「……いや、別に良いけどな。それじゃ、まずは――」
なんにせよ、前を歩くお嬢様とショウの会話は弾んでいる。互いに共通点があるなら、お嬢様も口数が増えるのだろう。御家にいては見ることの出来ない、「楽しそうな」光景だ。
執事(オレ)はそのまま、マサラの中心部へと歩き続ける2人の後ろを、数歩引いて歩くことで背景に徹した。
風の吹く草原に生る木々の間の木陰を歩くと、セミ達の鳴き声が響く。
頭上には、じらじらと大地を照らす真夏の太陽と暑さを苦にせず飛び交う鳥ポケモン達。
夏真っ盛りのカントーの田舎・マサラタウンは、言い換えれば最も平和とも言えるのかも知れなかった。
「(お嬢様はとりあえずショウに任せて小休止、と)」
うん、束の間の夏休みを楽しむとしようかな。
実は作中は夏休みだったという衝撃の事実。
……キッサキは雪降ってたというに。
あと、新手持ちはもうちょっと後の公開で。
いえ。予想できている方もいるかとは思うのですが……とりあえずは出てくるまで見守ってやってくだされば嬉しいです。
……ついでに。
誰も気づいてくれないとなると寂しい様な気もいたしますためにここにて今回のタイトルの元ネタを解説させていただきますと、ポケモン映画の「ピカピカ~等」を意識しましたという所存。……冬休みを知っている方はどの位いるのやら……。
(ショウのプリンには、是非ともあの歌で歌ってほしいものです)