「っと、着いたな。カナズミシティ」
飛行機でカナズミまで一発到着。……と、まぁそんな訳でやってきましたホウエン地方。
ホウエン地方はカントー地方の南に位置する、この国の南端となる地方である。特性としては自然が多かったり、地方の南側は殆どが海で占められていたりするといった点が挙げられるだろう。そんなホウエン地方の北側に位置するこのカナズミシティは、ホウエン地方への玄関口となっているのだった。
さて。俺がこのカナズミシティに来た理由は、とりあえず1つ。それは「デボンコーポレーションと化石再生技術の取引を行うこと」だったりする。
「クロガネでもやったけどさ。まぁ、これさえ終わればあとはほとんど自由に訓練できるからな」
ホウエン地方ではオダマキ博士の手伝いをする予定はあるものの、訓練の合間に数匹を捕獲しておけば名目は立つだろう。ならばかなり自由に時間を、訓練のために使えるはず……なのだが。
「(……ホウエンって、基本的に野生ポケモンのレベルが低いんだよなぁ……)」
そう。ゲーム中のホウエン地方では、終盤になってもそう高いレベルのポケモンが出てくる場所が少なかった。つまり、単純に「どこで訓練しよう?」という問題が俺の中では急浮上しているのだ。
わざわざ俺自身も危険な高レベル帯で修行したい訳じゃあないが、高めに越したことはない。
「(そらのはしら……は、入り口が開いていない可能性が大きいな。チャンピオンロード……はそもそもリーグ期間以外は入れない。うーん、どうするかね。やっぱ手当たり次第バトルするべきなのか?)」
分割思考で悩みつつ、石畳で覆われたカナズミシティの道をコツコツと鳴らし、デボンコーポレーションのある北側を目指す。
もっとも、俺は『なみのり』が使えないのだから、高レベルのポケモンが出現する南側を訪れるには船の調達が大切になるんだし。……こりゃ、こっちの地方に案内人とかをつけなかったのは失敗だったかね? シンオウ地方の時はシロナさんがいたからなぁ。
「……うお、あれは」
そうして悩んでいる内に、俺はデボンコーポレーションについてしまったらしい。石造りの妙に古めかしい外装をした建物、デボンコーポレーション本社が眼前にそびえ立っている。
で、ついでに。
「おや。キミがショウ君かい? ボクはダイゴ。この会社の開発部職員をやらせてもらっている。今回の取引に、本筋ではないけれど参加させて貰うよ。よろしく!」
「……ヨロシクオネガイシマス」
この流れだと、会社の前に突っ立っていたこのお人が案内人になってしまう!
またもやチャンピオン(候補)の案内人かっ!
ΘΘΘΘΘΘΘΘ
「……と、こんな感じです。只今使用いたしました資料もお渡ししますんで、ご検討くだされば有難いです」
「あ、はい。こちらこそ、わざわざホウエン地方まで来て貰って非常に助かりました。有難うございました!」
クロガネの時と殆ど一緒だが決して、台詞の使い回しではありません……などという小ボケは置いとくとして。
例え企業に在籍していようと、研究職という性質からは逃れられないものだったらしい。ニビ博物館員やクロガネ炭坑博物館の人たちと似たような進行で、デボンの開発部の方々も化石再生技術には非常に興味を持ったようだったな。うん。
そんでもって。俺は、このやり取りをずっと横から見ていた会社の御曹子へと話しかけなくてはならないのであろう。ビジネス的にも。そう勇気を振り絞り、ダイゴのいる方向へと歩き寄って、話しかけてみる。
「あー、えと。大誤算、ですね」
「? ……あぁ、イントネーションが聞きなれなくて反応が遅れてしまったね。すまない。それで、確かにボクがダイゴだよ。今日はお疲れ様。とても良いプレゼンだったと思う」
「ありがとうございます」
「はは、さて。ここからは敬語は要らないよ。キミと私的な話がしたくて、ボクはこうして会議室に残っている訳だからね」
「……では遠慮なく。んで、私的な話ってのは?」
会議室には既に俺とダイゴしかいない。そんなに広い会議室という訳でもないから、話があるのならば聞いても問題は無い状況だろうと思うので。
あぁ、そういえば。ダイゴはRSE(ルビー・サファイア・エメラルド)にて、チャンピオンだったり只の石マニアだったりしていたお人。ついでに言えばデボンコーポレーションの御曹司でもあり、ポケモン勝負についてもゲーム中ではトップクラスの実力者だったりしてたなぁ。
……で、話ってなんですかね。
「ショウ君。ボクと一緒に、ムロタウンまで来てくれないかい?」
「えぇぇ……まぁ、何用なのかによりますが」
ムロタウンに行くのは悪くはない。けれど、ダイゴの用事に付き合うというのであれば、安請け合いはしたくは無いと感じている。
そんな俺へとダイゴは、
「うん。石集めだよ!」
会心の笑顔でこの台詞を言い放った。うわぁ、
「この石頭めっ!」
「……珍しい石の事で頭がいっぱいなボクの状態を『石頭』と言い表したという事かい?」
「解説しなくても別に良いけど、そうだな」
ホウエン地方のデボンコーポレーションの小会議室は、このやり取りによって一気に魔空間と化した。実にシュールな空間が出来上がっております。俺の面倒くさい部分とダイゴさんの天然っぽい部分が反応した結果、有毒的物質を会議室中に充満させ――以下略。どうでも良いので。
……さてと。
「無駄思考は彼方へと放り投げてだな。それでは俺のメリットがないし、お断りします」
俺が切り替えてから繰り出したこの「問い掛け」に対し、ダイゴは驚いたような表情をしてみせた。
「へぇ。……因みに、件のメリットはデボンの船・飛行船の一ヶ月無料チャーターでどうだい?」
「あ、おっけー。引き受ける」
「……おや。意外とあっさり引き受けるんだね」
「ホウエンでの移動がままならない俺にとっては、立派なメリットだぞ。それに『ムロタウンまで』だろ? その距離を着いていって一ヶ月も無料チャーター出来るのであれば、ぼろ儲けだ。それにそれに……」
「……」
「こう見えて、面倒な出来事は慣れっこなんだ」
「は、ははっ! 流石はショウ君!」
目の前で、未来にて自称最強を語る予定である御曹子が笑い出しているのだが。
――ムロタウンはここ、カナズミシティからそう距離のある町ではない。それこそ船を使えば、1日かそこらで着くこともできる位置にある、島の中に建てられた町だ。
……しかし甘い話なぞ、作り出すことは出来ても鵜呑みにはしないってのが俺だからな。警戒するに越したことは無いし。
まぁ、結局。「俺がムロタウンにまで着いていって石を拾ったらそれで終わり」なんていう甘い話は多分、ないのだろう。これはそれなりに面倒な依頼だということだ。
「じゃあ、早速ですけど行きますかぁ!」
「あぁ。既にトウカの森の向こうに、船を準備しているよ。まずは森を抜けよう」
「うぉ、流石は金持ちだな」
「別にいいじゃないか。さぁ、行こう!」
ダイゴが俺の前を先行して、意気揚々と歩き出す。
あー、また面倒なことに首を突っ込んだのかね? 俺は。
――
――――
「ショウ君はどうして片っ端から木の実を採取していたんだい? さっきはフラワーショップにも寄っていたみたいだし……」
「これが俺には必要だからだな。ホウエン地方は植生が関係しているのか他の地方よりも大量に木の実が採れるから、ここで採っておきたかったんだ。あとで木の実名人の家も訪問しようとは思ってる」
「ふぅん。……あ、もしかしてお菓子作りに使ったりするのかい?」
「ま、そんな感じ。コンテストとかお菓子作りが得意な友人がいるから、そいつへのお土産を兼ねてってやつな」
「うーん……?」
現在、ダイゴが個人で所有しているというブルジョワジー全開な船の上。
俺がトウカの森を抜けるまでに木の実を(ある程度の節度を保った上で、だけど)大量に採取していたのが、どうも不思議だったらしい。採取している最中はダイゴも木の実自体に注目していたんだが、ここにきてその理由にも興味が向いたんだろうな。
さてさて。ではその理由については脳内説明を開始しよう。
ΘΘ思考の海ΘΘ
久しぶりの再登場だがな!
(とかいう振りは、無視して構わないんで)
まぁ、理由を端的に言えば「木の実が欲しかったから」だ。
……いや。じゃあ何に使うんだよって言われると「持っておいて損はないから」って言う解答になってしまうんで、少しだけ木の実の効果について解説しておこう。
木の実には様々な効果がある。HPを回復したり、状態異常を回復したり、何時ぞやの様にダメージを抑えたり、能力をアップさせたり。その効果は実に様々だ。しかし、その中には上述みたいに戦闘中に効果を発揮するものだけでなく、戦闘時以外にも効果を発揮したり、コンテストで有用なコンディション調整の為のお菓子作りに使われたりといったものも存在している。
俺としてはコンディション云々も興味があるが、ここで着目してみたいのはとある種類の木の実たちが持つ「努力値を下げる」という効果だ。
「努力値」。ゲーム内での呼称は「きそポイント」。
廃人的知識かと問われれば、そうなのかも知れない。いや、普通はそうなのだろう。しかし「ゲームの対人戦では」、必須ともいえる要素だったんだ。
ゲーム中での努力値について本当に端折って説明すると、「戦闘でポケモンを倒すことによって加算される、経験値以外の隠しステータスボーナスの通称。どのステータスに努力値が振られるかは、相手ポケモンの種族によって決定されている」といった所だろうか。上手く説明できたとは思わないけどな。
この値を調整することで「異様に早いピジョン」や「異様に硬いニドリーナ」などを作り出すことも出来たりするのだ。
で。
この世界においても努力値なんていう要素は存在しているらしいんだが……俺はどっちかっていうと「ポケモンの学習能力」といった感じで受け止めている。
例えばニドリーナが相手のイシツブテを倒すと「防御」の値が上がって「硬めのニドリーナ」に育成することが出来る訳なのだが、この際にニドリーナが「相手、硬いなぁ。あたいももっと硬くなりたいかも!」といった感じで相手の良い部分を学習しているのだと思う。
……あ、ニドリーナの台詞は俺の妄想だから気にしなくて良いんで。
えぇと、話を本題に戻そう。
この「努力値」にも当然のように限界がある。ある一定値までステータスを底上げし切ると限界が訪れ、それ以上は努力値を得ることが出来なくなるのだ。
ゲームであればその「上げ切るステータス」のみを2種類ほど選択して振り分けるというメジャーな方法も出来ていたんだが……現実としてあるこの世界において、そんなに上手く行くはずはない。
取得努力値を増加させるアイテムなんて未だ手に入らないし、野生のポケモンが襲ってくれば自らの手持ちポケモンで相手をしなくてはいけないし、1日で大量の野生ポケモンを相手するというのもこの世界ではかなり難しいし、そもそも逃げるだけでも体力を消費するし。
終いにゃ苦労して素早さ調整などしたところで「細かい数値によってはっきりと攻撃順が別れる訳ではないこの世界」では、同程度の素早さだと只の相打ちになってしまうんだしな。
たっぷりと時間があればそんな方法でも出来なくはないのかも知れんけど、実際にこうして9才まで生きてみて、ゲームの時ほどに計画的に努力値を調整してやるなんてのは、俺としては夢のまた夢だと感じたのだった。それに、そんなんやってたら手持ちポケモン達にも大きな負担がかかるからな。それは出来る限り避けたい。
しかし。先程の「努力値を下げる」事の出来る木の実があるとこの話は変わってくる。
……つまりは「相手を選んで努力値を取得する」のではなく、「余計な努力値を選んで減らして」やればいいのだ。
木の実を直接ポケモンに与えたり、木の実の効果を崩さない加工でおやつにしてみたり。そうして工夫していくことで余計な努力値を減らすという手法をとるのであれば(努力値を限界まで振り切るのに時間こそかかるであろうものの)、戦闘相手を気にせずとも、俺のポケモン達に余計な負担をかけずとも、上手く調整してやることが出来ると思うのだ。
この計画を実現させるために、シンオウ地方でヨスガシティに行った際にも近くにある木の実名人の家に寄っていたんだし。今もこうして木の実は出来る限り収集しているという流れなのである。
うし。説明終わりっ!
ΘΘ 浮上 ΘΘ
……分割された俺の思考の片側が、無意識のクロスホエンから浮上する。
ま、こんなんは非常にどうでもいいんだけどな。今回の思考の海も、正直見なくても全く問題は無いんだし。どうせ「育成に木の実が必要だから」で説明が済んでしまうのだ。んじゃあなぜ解説したし、俺。
「……かといって、この説明は避けて通れないからなぁ……今更だけど」
「? どうかしたかい、ショウ君」
浮上した直後で思わず脳内が外へと漏れ出した俺に向かって、ダイゴは本当もしくは天然にこちらを心配しているとみえる言葉をかけてくれる。良いヤツなんだな、ダイゴ。
「うーん、なんでもない」
「そうかい? それならいいけどね」
「ありがとな。……そういえば、ダイゴはなんで俺の事を知ってたんだ?」
話題逸らしを含めて、気になっていたことを聞いてみることにする。
俺とダイゴは本日、デボンの前であったばかりの間柄。だというに、ダイゴは俺の名前や目的を知っていたのだ。俺は化石再生技術の売込みで来ているのだから名前と目的は分かっていても不思議ではないとはいえ、面識が無いはずの俺の性格まで特定していた節があるように思えたので、とりあえずは聞いてみた。
「あぁ、それはね。ボクのいる部署で、『ポケギア』というトレーナー支援機器の開発を目指しているんだ。その提携という事で、シルフカンパニーにゴスロリ……あとは分かるかい?」
「ミィだっ!」
「ご名答!」
流石は我が幼馴染ぃっ!
「お近づきの印にとボクのお気に入りのポケモンを一緒に捕まえに行ったりもしたけど……まぁ、彼女に護衛は要らなかったみたいなんだよな……」
「いや、本当に気をつけろよダイゴ。アイツはマジで強いぞ、色々と」
「そうみたいだ。確かに、身をもって実感したから。……ぁぁぁ」
ダイゴの台詞は語尾から次第に力が抜けて行き、最終的には目がどこか遠くを見始めた。体勢も船の縁に寄りかかるという力の無いものとなり、そして勿論、口からは白い物体(エクトプラズム)。
……いやぁ、ダイゴ。中々に良いリアクションするじゃないか。
そして、オダマキ博士に会いに行くのは……まぁ。連絡しとけば後回しでもいいだろ。
ここにきて努力値の説明です。今更感が物凄いですよねすいません。
ぶっちゃけ、バトルにおいてはともかく本拙作の物語本筋においてはあまり重要な要素ではありませんので、努力値が振られたポケモンは「早いピジョン」「硬いミニリュウ」などとかなり漠然とした表現で書かれると思います。(その都度、説明は致しますが)
文中にある通り、~抜き調整や~確1調整などというモノはこの世界においてあまり意味を成さないので……恐らくは2種極振りかと。
努力値計算も今回話(このおはなし)の方法により、そんなに細かく書くつもりはありませんので、ゲーム的な育成を期待していた方々には非常に申し訳ありません気持ちでいっぱいなのですすいません。
尚、ホウエンのゲームマップを思い出しながら、「デボンが北にあるの? 西じゃなくて?」という疑問を抱くかもしれません。
そんな時はタウンマップを思い出してくだされば。
東にサイユウ、西にカナズミ。
つまり、ホウエンのマップは左90度反転なのです。