ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ45 ムロタウン辺りにて

 

 

 寄せては返す波をすぐ傍で見つめる静かな町、ムロタウン。

 

 

「意外と船とか重機とか多いんだなぁ。ムロ」

 

「今は丁度、リーグの整備中だからかな」

 

「おー。なるほどなるほど」

 

 

 ゲームで見た町並みよりはちょっとばかし賑やかな印象を受ける、その風景の中。ダイゴの船で移動してきた俺は正面に件の石マニア:ダイゴを見据えながら町中の砂浜に佇んでいる。その石マニアは建物の中からこちらへと歩いてきているので……さてさて、と。

 

 

「で、どんな石集めをするんだよ」

 

「ちょっと待ってくれ……ああ。よし」

 

 

 俺はダイゴのお願いに乗っかってここへ来ているんだからな。まずは内容を聞いてみなくては。

 ムロタウンについてから一旦はポケモンセンターへと寄っていたダイゴは、手元に資料を持ちながらなにやら思案顔を浮かべ、「よし」の言葉と共に顔を上げた。そして、ムロタウンの北側を指差す。

 

 

「あちらに『石の洞窟』という洞窟がある。ショウもボクと一緒にそこへ行って、現地ポケモンを幾匹か捕獲してきてくれないか? 勿論、捕獲用のハイパーボールはこちらで用意しようじゃないか」

 

「はぁ。ハイパーボールの支給とはまた、金のかかることで。……で、なんで俺を?」

 

 

 ただ捕獲するというのであれば、俺じゃあなくても良いだろうに。

 

 

「ん? あぁ、言い忘れていた。『石集め』ならぬ『鉱物ポケモン集め』なんだ。捕獲をお願いしたいのは『鉱物ポケモン』の類……それなら、ショウに頼むのが1番じゃあないかい?」

 

「あぁ……はいはい、なるほど」

 

 

 化石再生、鋼やら悪やらの新タイプ登録といった事をやらかしているからな。ポケモンの見極め含めて、鉱物的には俺が適任だということなのだろう。一般人に頼んでノーマルタイプのゴニョニョだのを大量に捕まえてこられても困るだろうしな。……鉱物的にって何だよ、とは脳内でツッコんでおくけど。

 

 

「ボクは外壁をつたって奥にある縦穴を降りるルートを通るから、その穴の底で合流するとしよう。ショウは洞窟の中を通って来てくれないか。ほとんど一本道だから、迷うことは無いと思うけど」

 

「了解了解。俺も研究用に何体か捕まえるから、一応の集合時間を……今は10時だから14時くらいにしとくか」

 

「うん。じゃあ行こうか、ショウ!」

 

 

 砂浜に足跡を残し、意気揚々とポケモンセンター前を後にするダイゴ。うーん、このテンションの揚がり方。流石は石マニアと言ったところか。

 そう人となりを捉えながら俺も……東側の砂浜を通って北へと向かうために……一旦は、東側へと歩き出していくのだった。

 

 

 

 

 ―― 石の洞窟

 

 

 俺ことショウを取り囲んでいるのは、洞窟の生み出した真っ暗闇。

 

 

「くーらーいーぞーぉ」

 

「ンミューウ!」

 

 ――《バサバサバサッ!!》

 

 

 洞窟内の地下へと階段で降りて、数十分。大声を出してみても、聞こえるのはズバットたちが驚いて一斉に羽ばたく音のみだ。そんな果て無き暗闇の洞窟を奥へと突き進む9才の俺とか言い表してみれば、なんとも無謀な語感の状況ではある。

 

 

「いや、ミュウが何か光ってるからまだマシだけどさ」

 

「ミュウッ」

 

「おう。流石はエスパーだ!」

 

「ッミュ~ゥ」

 

 

 『フラッシュ』ではなくエスパー的な何かによってぼんやりと発光しながら宙に浮かぶミュウの頭を撫で、奥へと歩き続ける。

 因みに自転車については、暗い洞窟内では徐行しなくては危ない為に乗ってはいない次第。ライトを取り外して使ってはいるけどな。

 

 ……さて。ここ「石の洞窟」は、ゲームにおいてはダイゴが佇んでいた場所で、手紙を渡すためにストーリーで訪れることになるダンジョンだ。しかしこのダンジョン、その他にこれといって特別なイベントがある場所ではない。どちらかといえば北東に位置する点字のレジ遺跡なんかが濃い目のイベントだからな。これは仕方の無いことだろう。と、まぁ、この「石の洞窟」の影の薄さはどうでもいいんだが……

 

「(ゲームではココドラやクチートなんかの鉱物ポケモンがいたんだけどなぁ)」

 

 こうして歩いていても、出てくるのがゴニョニョやイシツブテやズバットくらいなのである。今は原作前なので鉱物ポケモンの生息地がゲームとは違うということも考えられるけど、今回ばかりは出て来て欲しいところか。俺の研究的にも、ダイゴのお願い的にも。

 となれば、だ。

 

 

「うし。奥のほうに急いでみるか」

 

 

 ダイゴのお願いの「石集め以外の部分」が何なのかは未だ分からない。しかしながら、どちらにせよ研究のためにホウエン地方のポケモンを捕まえなくてはならないのだ。なら、全力で捕獲に動いてみても悪くは無い。

 

 

「こういう時は、奥まったトコに生息しているってのがよくあるパターンだしな。行くか、ピジョン! ミュウ!」

 

「ピジョオッ!」

 

「ミュウゥッ♪」

 

 

 ある程度は高さのある洞窟なのでピジョンも活動がしやすいだろうと考え、ボールから出した。うん、これで奥へ突き進む体制が出来たと思う。さぁ行くか!

 

 

 

 

 ゴツゴツした岩肌に沿って、奥へ奥へと進む。肌に触れている蒸し暑い夏の空気の動きからして、ダイゴの言っていた縦穴がそろそろなのだろう。

 ……ただし、未だ鉱物的なポケモンとは出会っていないんだけどな! どうしようか!

 出会えないのでは捕獲出来ないのも仕方がないとは思うが、かといって、1度引き受けた依頼を達成できないのもどうかと思うからなぁ。

 

 

「……と、「ミューゥ」「ピジョッ」……お?」

 

 

 そんな風にどうしたものかと考えている俺の目の前で、ピジョンとミュウが地面の方をしきりにアピールし出す。次いで視線を下に移し、手に持ったライトで足元を照らすと――

 

 

「……これは、梯子かね?」

 

 

 階層の隅にの元でぽっかりと開いた穴。その壁沿いに、お粗末な出来のつり梯子が架けられていたのだった。

 人工的な梯子は、人の出入りする場所では決して珍しくはない。開発された土地の近くにおいては、こうした人工的な階段や梯子も人の出入りに応じて造られていくのが自然というもの。

 しかし今、俺の足元にあるこの梯子は……かなり古い物だ。

 

「(でもって、ここに来て分かれ道かー)」

 

 ここまでは一本道といっても過言ではなかっただろう。事実、この梯子を降りずに進めばダイゴとの合流地点である縦穴にまでたどり着ける気もするしな。が、このまま行って鉱物的なポケモンが出てくるかというのもまた、怪しいものだと思う。

 時間には余裕もあるし、1度縦穴まで行ってみてからでも遅くはないけど。

 

 

「……とりあえずは、縦穴まで行ってマッピングしてから来るかね」

 

 

 何が起こるかわからないのであれば、余裕があるのだからして万全を期してからでも良いだろーな。うし。バッグから携帯機を取り出して、洞窟地下の形状把握を開始しようか。

 

 

 

 ――

 

 ――――

 

 

 

「そんじゃ、ピジョン。降りるから、減速落下でお願い!」

 

「ピジョオ!」

 

 

 一旦は地下1階の構造をトレーナーツールにマッピングし、合流予定地点である縦穴まで行ってきた後。ダイゴも未だいなかったために先程の古い梯子の地点まで戻り、地下2階へと降りてみることにした。

 身を乗り出し、ピジョンの脚につかまりながらゆっくりと下へと降りていき……着地、と。着地したところでライトで辺りを照らしてみると……奥行きが見えない。天井も遥か上だ。

 

 

「上の階層よりも圧倒的に広い、かね」

 

 ――《オォォォォオオ》――

 

「ピ、ピジョ?」

 

「ミュ! ミュ? ミュ♪」

 

 

 見た限りから、この階がかなり広いであろうとの予測をつけてみる。それに、ピジョンにつかまって結構な時間降下したしな。高さもあるだろう。風の音も洞窟内に反響しており、ピジョンは吃驚、ミュウは興味津々なご様子で。

 周りを一通り確認したところで、んじゃあ。

 

 

 ――《オオォォ》

 

「もう少しこの階の奥まで……」

 

 

 《ォ、ォ、グオォォッ》

 

「行ってみたい、と、」

 

 

 《ガン、ガッ、グオォオッ!》

 

「思ってたんだけど、」

 

 

 《グオオオンッ!》《ガツンッ!》《ガンッ!》《ガキィンッ》《オオォオン!》

 

 ――《ドスゥンッ》

 

 「グゥアアァオオォン!」

 

 

 野生の ボスゴドラ が 現れた!

 

(その他、進化前系統も無量大数のご同伴で!)

 

 

「……一時撤退で!」

 

「ピジョオッ!」バサッ

 

 

 奥のほうからその巨体をぶつかり合わせながら移動してくる、鋼の軍団の大行進。俺は急いでピジョンにつかまって、岩壁から突き出された高台となっている部分に急いで飛び乗ることにする。

 しっかし、グオォとか聞こえてくる時点で風じゃあなかったな! 集団移動してくるなんて、サバンナのごとき野生力だし!!

 

 

 

「グゥオオオオオオッ、ゴォオドラァアアッ!」

 

 《《オォォオオオオッ!!》》

 

「ピジョ」

 

「(よっと。2度目の着地だな)」

 

 

 高台に着いたところですぐさまうつ伏せになって階下を見下ろし、暴走族か何かの集会といった様相を呈しているそれらの観察を開始する。

 どうやらこちらの存在には気付いていなかった様子で、コドラ・ココドラの集団にしろそれらを率いているとみられるボスゴドラにしろ、先程まで俺が立っていた場所へと一斉に移動してきた後はそれぞれが好き勝手動いているように見えるな。

 ……で、こいつらは何をしているかというと。

 

 

 《バリバリ、ボリボリ》《ボリッ、ガリッ》《ゴリゴリ》

 

「……あー、お食事求めて大移動していたって訳か」

 

 

 ココドラ・コドラ・ボスゴドラは、鉱石を直接食べたり、鉄分の含有量が多い湧き水なんかを主食にしているポケモンだったはず。おそらくこの「石の洞窟」の地下は、あのボスゴドラが束ねるグループの縄張りとなっているのだろう。俺は丁度、お食事の時間に遭遇したんだろうな。

 因みにボスゴドラは山1つを縄張りにする習性があり、山の自然環境の整備も行ってくれるというポケモンだ。眼下でグループの中心に立っているボスゴドラのツノは長く、またその鎧にも無数の傷がついており、レベルの高さを窺わせてくれる。うわぁ、強いんだろうなぁ。アレ。

 

 でもって。

 ……何となくではあるが、この集団の規模からして……

 

「(ムロタウン、ピンチじゃないか?)」

 

 うーん。

 何となくダイゴの思惑が見えてきた。だからハイパーボールなんて用意したのか、あのヤロウ。一石二鳥やら三鳥を狙っているな。石に関しては強(したた)かだと、褒めていいのか貶(けな)せばいいのか。

 ……まぁ、別に良いか。

 

 

「どうせボスゴドラ(あいつ)を捕まえなくちゃあ、俺もあのヤロウも困るんだろうし」

 

 

 敷かれたレールに乗ってみるのも、たまには。あんまり好きではないけど。

 決めると同時。腰にあった残り3つのボールの内、最も俺とのコンビが長いポケモンのボールにも手をかけ、足元で繰り出す。

 因みにプリンともう1体については、今回のバトルに耐えうるレベルには達していないし俺としても3体辺りが指示出し限界なので、どうしてもという状況にならない限りは出さないだろうな。非常にスマン!

 

 

「……ミュウ、ピジョン、ニドリーナ!」

 

「ギャウ!」「ピジョ!」「ミュッ!」

 

「ミュウは……で、……してくれ」

 

「ンミュー♪」

 

「ピジョン、もっかい降りるからお願い! ニドリーナも!」

 

「ピジョーッ」

 

「ギャウッ」

 

 

 今度は高台から身を翻し、またもピジョンに掴まりながら降下。ただし、途中で指示を出しながらだけどな。そして空中にいる内に、と!

 

 

「おっけ、作戦開始! じゃあ……ミュウ、ボスゴドラにへんしん!」

 

「ンミュ …… ゴドラァ!」

 

 ――《ドッシィィィン!》

 

 

 ミュウが『へんしん』によって、グループを率いていたボスゴドラと瓜二つになる。空中で『へんしん』したことによって大きな音を立てながら本物ボスゴドラの背後に降り立ったため、地下2階全ての視線を集めたに違いない。

 

 

「……グルゥ?」

 

 

 自らの背後に降り立った同種の体躯に、本物の方が怪訝な表情と共に振り向いた。……あ、因みに俺は隅っこの方に降り立ちましたんで。ニドリーナと一緒にな。

 さて。突如現れたボスの写し身に「率いられていた」集団の皆さんも困惑しているご様子で、

 

 

「ゴォ、ドラアァアアッ!」

 

 

 よし、作戦通り。本物ではなくミュウの方が上げた……「遠くまで、力の限り散らばれ」との雄叫び(めいれい)によって、

 

 

「ドラッ!?」

 

 《ドタドタッ》――

 

「ドラァァッ!!??」

 

 ――《ド、ド》――――《《ドドドド、ドドドドドドッ!!》》

 

 

 群れのコドラとココドラは、それぞれが方々へと逃げ去っていったのだった。

 

 

「グゥウ、ゴ……ドラッ?」

 

 

 で。

 未だ遠ざかっていく足音「だけ」は響いている石の洞窟の地下2階に、取り残されたボスゴドラが1匹。キョロキョロと辺りを見回すその姿には、哀愁すら漂っている気がしないでもない。

 

「(そこはかとない罪悪感……は、置いといて。集団を率いている野生ポケモンの恐ろしさは、ヨスガなんかで身を持って体験したからなぁ。けど、まぁ。何はともあれこれで1対1……いや、1対3だ)」

 

 いくら俺の手持ちと鋼タイプの相性が悪かろうと、この状況に持ち込めたからには、俺にも勝機が出てくるだろうし。というか、こうしないと勝ち目はなさそうだしな。ふぅ、成功して良かった良かった。

 そう思考を纏め終えたところで俺も岩陰から姿を現し、ボスゴドラの視界に入ることに。するとボスゴドラはこちらをギロリと一瞥し、……あぁ。俺は今、「貴様が原因か」とか言われてるな。エスパーじゃなくても判ってしまったのだから仕方が無い。どうでもいいけど。

 

 

「いや、まぁまぁ。ちょっと聞いてくれ、ボスゴドラ」

 

「……ゴァ」

 

「この先には新興の町があってだな。このまま洞窟を食べ進められると、ちょっと困ったことになるんだ」

 

「ゴドラァ」

 

「その町が発展しきっているのであれば、お前ら野生のポケモンとも折り合いを付けていくのは簡単だったんd」

 

「……」

 

 ――《ズシィンッ》

 

「……だよなぁ。そんなん知るか、ってのも仕様がない」

 

 

 ボスゴドラがこれ以上は聞く耳もたんと言わんばかりに、鋼に覆われた右足を1歩前へと踏み出して見せた。どうやら戦闘は避けられないみたいだな。

 

 ……そう。今回の「これ」は、非常に面倒な問題なのだ。

 このボスゴドラが率いる一団が鉱山を食べ進めるのは、ごくごく自然な成り行きだ。普通であれば、俺たちもそれらとの境界を保ちつつ、上手くやっていくこともできるだろう。ボスゴドラ達も前述の通り、ただ鉱山を食べつくすというだけでなく環境を整える役割も持っているのだから。……ただしそれで山の鉱物成分が戻るかって言われると、それはまた別の話になるからな。さておき。

 

 問題点は「ムロタウン、ひいてはホウエン地方全体が未発展である」という部分にこそある。

 

 これは俺の私見ではあるが、ホウエン地方にとって今回の地方リーグ開始は時期尚早であるとも言えるのだろう。全国的にポケモンをプッシュしている時期なのだからその流れに乗るのだと捉えれば良い事なのかもしれないが……多分、その他の役目が疎かになっているのだ。つまりは、今までは出来ていたポケモン環境関係の整備が追いつかなくなっているんだと思う。

 今回の事例において考えれば、このボスゴドラ達はおそらくはその内にこの鉱山を食べつくすだろうとの予測がつく。なにせ先程の様に「この場所まで群れを引き連れて大移動しなくてはならない」状況だからな。

 そうして鉱石がなくなって来るとすれば今度は、……別の鉱山へと移動していく可能性も勿論考えられるけど……ムロタウンへと降りてきて線路やら橋やらを食べだしてしまうだろうな。なにせ、ムロは今丁度「ポケモンリーグのために整備中」であり、鉄材や船や重機なんかも大量に運び込まれているんだから。

 ゲームでのココドラなんかの図鑑説明文にもあったように、野生の彼ら彼女らは(進化系統はおそらくその限りではないが)鉱物とあれば見境無くかぶりつく。先程の集団には多くのココドラが含まれていたし、そうなれば俺の目の前にそびえ立つリーダーが取る行動は「山を降り、ムロタウンへと向かう」となる確立が高くなってしまうと考える。

 

 ……強いて言えば「時期」、かな。

 

 

「あー……時期が悪かったと思うしかないだろ。お前らは何にしろ、犯罪なんて面倒な決まり事を犯している訳じゃあないし」

 

 

 目の前にいるボスゴドラに向かっている(てい)で、しかし、自らの心に向かって最後の言い訳を試みる。

 

 

「だからさ。ダイゴは俺に『捕獲』を頼んだんだと思う。いつか折り合いが付けられる程にムロタウンが発展した時に、お前がこの山もしくは群れに戻って行くことも出来る様にな」

 

 《ズシィ、ンンッ》

 

 

 ボスゴドラが、すぐにでも突撃できるような体勢をとった。ここまでかね。

 

 

「はいはい、長い話は終わりにするって。そんじゃあ、最後は男同士……拳で語り合うとしますか!」

 

「ミュー!」「ピジョオ!」「ギャウゥ!」

 

 

「グアアゥ、ゴ、ドラァアアアアッ!」

 

 

 俺の手持ち3体とボスゴドラがにらみ合う。

 いや。目の前のボスゴドラがオスかどうかは判らないし、俺の手持ちは今のところメスばっかりだけどな!

 

 

 

 

 ―― 数ターン後。

 

 《ガスゥウンッ!》

 

「ギャ、ゥウッ!」

 

 

 洞窟の地下2階にて、奥へ奥へと追い込まれつつもボスゴドラとの戦闘を続け……っと、反撃!

 

 

「ミュウ、どろかけ!」

 

「ゴドラー!」

 

「ピジョンはフェザーダンス!」

 

「ピ、ジョ!」バサバサッ

 

「ニドリーナ、しっぽを振る!」

 

「ギャウ!」

 

 

 ボスゴドラに変化技をかけまくる俺の手持ち。って、うっお!

 

 

「ゴ、ドルァアアアッ!!」

 

「ゴドラーッ!」

 

 ――《ガッキィンッ!》

 

 

 ボスゴドラに『へんしん』しているミュウが、ぶつかり合いを引き受ける。両者の間には衝突と同時に火花が散るほどのぶつかりあいだ。……しっかし、『とっしん』なのか『すてみタックル』なのかは判別つかないけど、このボスゴドラレベル幾つなんだろうな。1対3なのにまだ動きまくるって、体力ありすぎだろ!

 まぁ、そう考えてさっきから変化技重視で相手の「命中率」「攻撃」「防御」といった能力低下を狙っているんだけどな。俺の今出している手持ちの持つ技……エスパー・毒・飛行・ノーマルといった属性じゃ、ぜーんぶ、鋼には「効果いまひとつ」もしくは「効果が無い」だからなぁ。俺お得意の毒によるダメージも通用しないし、能力低下でもさせとかないと。

 それにそもそも図鑑で相手のボスゴドラのレベルや体力を確認できないから、どこまで攻撃したものかっていうのも気にしなくてはいけないのが面倒だな。ミュウの時みたいに光が弱まるとか、目に見えてHPの低下が確認できればいいんだけど……根性丸出しといった目の前のボスゴドラは、どう見ても弱みを見せてはくれなさそうだ。うん、根性的にやっぱコイツはオスだろ。勘だけどさ。

 

 

「ゴドラアァアッ!」

 

 《ガツンッ!》

 

「ギャウッ!?」

 

「ニドリーナ! ……いったん戻ってくれ!」

 

 

 ボスゴドラの攻撃を何度も受けたニドリーナは一旦戻し、薬を使用して回復させることに。

 えーと、HP低下が確認できないとなると次にとるべき方法は。

 

「(ボール連打で捕獲するか?)」

 

 ゲームであれば、開幕クイックボールなんかはむしろ定石といっても良かった捕獲方法だ。クイックボールなんて今はないけどな!

 ……置いといて。ボール連打はいつだかのサファリパークでやっていた捕獲方法だが、あの時とは状況が違う。今の相手は一方的にこちらからボールを「投げられてくれる」ようなヤツではないんだし。

 と、なればだ。

 

「(あの巨体の動きを止める必要がある)」

 

 ……さてと。

 

 

 ――《オォォオオ》

 

 

 俺の斜め前方から響いている、今度こそ本物の風の音。そろそろ洞窟も奥の方まで来た頃合なのだろう。

 例えば、「地下1階での縦穴のあった位置がすぐそこにある」くらいの奥までな。

 

 

「……ミュウ、戻って! すぐで悪いけど、頼んだニドリーナ!」

 

「ゴドラー♪」

 

「ギャウゥ!」

 

 

 ミュウを一旦ボールへと戻し、代わりに回復間もないニドリーナを戦線復帰。同時にミュウの『へんしん』は解けることになる。ボスゴドラのままじゃあ、エスパー技も使い辛いだろうしな。

 そしてまたもすぐさまミュウをボールから繰り出し、……その前にボスゴドラが突っ込んできてる!

 

 

「ゴアァアアッ!」

 

「頼む、ニドリーナ!」

 

「ギャウゥッ!」

 

 

 勢いよく突進してきた2メートル超の鋼の巨体を、それと比べれば小さなニドリーナの体はガスン、との音を立つつ完全に受け止める。動きが完全に止まったので……ここだ!

 俺はマッピングでつけておいた縦穴のある方向を指差し、

 

 

「ミュウ、あっちにサイコキネシスでぶん投げて! ピジョンも、あっちに向かって吹き飛ばせ!」

 

「ピジョオォ――」

 

「ンミューッ――」

 

 

 ――《《グオオンッ》》

 

 

「ゴド!?」

 

 

 攻撃の後の硬直のタイミング。

 『ふきとばし』と『サイコキネシス』によってボスゴドラの超重量の体は宙に浮き、

 

 ―― ぶつかれば非常に多くの岩が落下してきて体が埋まる、風が吹いているからには隙間が開いていると思われる縦穴の方向の壁に向かって、吹き飛んで行った。

 

 

「……夏に南国の洞窟入るとか、異常に暑苦しいんだよ! 少しは、風通し良くなれぇっ!」

 

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 

 ―― Side ダイゴ

 

 

 《《ドシィィィインッ》》

 

 ――《ドドドドドドドッ……》

 

 

「……あ。待ち合わせ場所の壁が落盤したうえ、あのポケモンが埋まっちゃった」

 

 

 空中でボクの手持ちエアームドに乗って、旋回しながら縦穴を眺めていたところ。縦穴の壁は崩れ、足音によってのみ存在を確認できていた……ムロタウンに近い将来被害をもたらすであろう(ボクが協会に保護を依頼された)鉱物的ポケモン集団のリーダーは、岩に埋まって身動きがとれずにいる。

 あの巨体なら岩程度は簡単に振り解くと思うんだけど……攻撃力低下でもかけられているのか、身動きが取れていない。

 

 

「そうか。さらに地下があったんだね」

 

 

 この「石の洞窟」は昔鉱山だった場所。しかし野生ポケモンの多さなどから、開発は志半ばで中止されていたのだ。そんな場所へボクの会社のにわか調査隊を送り込んでも、野生ポケモンへの対処で精一杯で、地下への通路なんて探している暇は無かったんだろう。

 そんな風に眺めていた中。案の定とでも言うべきか、リーダーポケモンはショウの投げた何度目かのボールへと収まった。

 

 

「……うん、見込みどおり」

 

 

 彼の力は確かみたいだ。

 ボクは確信を得たところでエアームドに地上へ降りるよう指示を出し、岸壁に集まった「その他数人」の中に降り立つ。さて。集まってくれた彼ら彼女らへと、結果を尋ねてみようかな?

 

 

「さて。どうかな? 皆さん」

 

「へへ……あの才能、文句ないよ! わたしが目をつけたブレーン候補達に勝るとも劣らない輝きだ!」

 

「オレとこいつらは自らを戦い鍛え、どこまでも強くするだけ。そういう意味では、アイツは相手に相応しい」

 

「お、シバもお気に入り? あの少年の『岩盤全体の落盤を避けるために穴の壁に叩きつける』って心配り。僕としてもなかなかのビッグウェーブだと思うね!」

 

「わたくしのポケモン達が張り切っています。うふふ、カンナにも聞いていましたが……流石の実力ですよ」

 

「……野生の生き物として戦ったポケモンに対してあの立ち回りか。結果としては良かったが、自らが埋まる危険性もあった作戦といい……わしは評価できん部分もあるな」

 

「アハハ! ねぇ、ゲンジじーちゃん! あのヒトとってもつよーいよっ!」

 

 概ね好感触、かな。ゲンジさんのこれはいつもの事だから。

 ……じゃあ。

 

 

「じゃあ、ショウを招待しようじゃないか。……サイユウシティへ!」

 

 

 

 ―― Side End

 






 休暇など無いお疲れの主人公に、更なる暗雲立ち込めた展開でした。
(それにしても、相も変わらず花のない内容なのが申し訳なく……)


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