ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ47 VSプリム

 

 

『さぁ始まりました! 快晴の青空が顔を覗かせるサイユウシティにそびえ建ちました第1闘技会場にて! ポケモンリーグ開催記念、オープン前哨戦イベントの開催でぇっす!』

 

 《《ワアァアッ》》

 

『いやー、どもども。本日は第1・第2闘技場が共に始めてのお披露目となるだけでなく、全国でも有数の実力を持つホウエン地方バトルクラブの実力者達がポケモン勝負を繰り広げる予定となっているため、非常に多くの観客がコロシアムへと押しかけておりますよぅ!! 集客率抜群ですね!!』

 

 ――《《ワァアアァアァアアッ!》》

 

 

 元気のいいアナウンス嬢が、俺の置かれた状況を的確に説明してくれた様で。ご苦労様です。

 ……さて。俺自身は前日の予告どおり闘技場の真ん中に立っているんだが、前哨戦との言葉通り、向かい側には俺が対戦する相手が立っている。

 

 

『それでは全4戦行われるオープンイベントの初戦、本日の対戦カードをご紹介いたしましょう! まずは挑戦者!』

 

 

 会場の中心高くに設置された電光掲示板やらオーロラビジョンやらに、一斉に情報が映り始める。

 

 

『若干9才ながらにして、ポケモン研究の第一人者であるオーキド博士と共にポケモン研究を行っている天才少年……マサラタウンのショウ!! 本日はいわずと知れた我らが街の大変人、エニシダさん御推薦での登場だぁ!』

 

 ――《《ウォオオオオッ!》》

 

 

 空気が、観客の声援によって一気に震えた。つっても一般人じゃあ俺の事なんて知らないだろうし、大半の観客はノリで歓声あげてるだろうなぁ、これ。まぁ、別にいいけど。うーん、ひとまずは手でも振り返しておくか。

 

 

『続いて、挑戦者を迎え撃ちます我らがバトルクラブの一員を紹介しますよぅ!』

 

 

 アナウンスに応え、俺の目の前に立っている金髪の女性が一歩前へと踏み出した。……俺はこの人、ゲームで見た頃あるから知ってるんだけどさ。

 

 

『ホウエンバトルクラブ、ナンバー5! 南国の地に咲いた一輪の氷華! 美しき氷ポケモン使い……プリム様ぁぁあッ!!』

 

 《《ドワァアアッ!!》》

 

 

 アナウンスの一際熱のこもった紹介に目の前の女性……っていうか、プリムさんな。ゲームにおいてはホウエン地方の四天王であったというプリムさんは、観客の声援に手を振り返した。

 ……ただし声援の中には踏んでくださいだの、フリーザークイーンだの、オレも凍らせてくれぇぇだの、あなたへの愛が永久凍土、だのといった内容のものが含まれていてだな。まぁ趣味嗜好は人それぞれだし、気にしない気にしない。

 

 

『それではメインディッシュであるポケモンバトルを開始致します前に、本日のバトル形式やらルールやらをご紹介いたしますよぅ!』

 

 《《えぇぇえええっ!?》》

 

『いやいや、ブーイングですかこんチクショウ! 焦らされた方が美味しいんですから、暫くお付き合いくださればと思いますがどうでしょう!』

 

 ―― しょーがねぇなぁ! 早くしろよ!

 

『御(おん)ありがとうございますっ! では! 本日のバトルは手持ち2対2、交換形式はポケモンリーグ「本戦以外」に準拠しまして、挑戦される側は勝ち抜き制、挑戦者ショウ選手については入れ替え制という特別ルールを採用しております! これはショウ選手が連戦になることを考慮し、「本戦以外」の年のほうが似通った状況であるからとの理由ですっ! まぁ2対2であるからして、私的にはあんまり意味ない気もするんですがね!』

 

 ―― お前の意見は浅いから聞いてないよっ?

 

『酷っ、酷いです!』

 

 ―― おねーちゃん泣かないで頑張ってぇ!

 

『うぉお、やる気全開っ、めげませんよぅ! 解説を続けまして、えぇと、トレーナーによる道具の使用は互いに禁止で――』

 

 

 漫才っぽいやり取りがあるけど、どうやらアナウンスを使用して観客へルール説明を行う様子。

 

「(……と)」

 

 この間にと向かいから、プリムさんが歩き寄ってきているのが見えている。俺も挨拶に行くか。

 そう考えて歩き出し、モンスターボールの描かれているバトルフィールドの丁度中心辺り。ざわめきと解説が続く会場の真ん中で、プリムさんと握手を交わしてから自己紹介を行うこととなった。

 

 

「先ずはご挨拶を。わたくしはプリムといいます。あなたの事はカンナより聞いてますよ?」

 

「ども、ショウです。……カンナさんからですか」

 

「はい。不肖、わたくしめの姉妹弟子なのでして。どうやらあの子もカントーでは結果を残せたようで、姉心ながらに安心しています。ふふっ」

 

「四天王ですからね。その同期となれば、誇ってもいいんじゃないですか」

 

「誇る前に、自らの実力を見直したいと思うのがわたくしでした。これもバトルクラブの……そうですね。フヨウが言う所のタマシイといったものなのでしょう」

 

「あー、なるほど。だから氷ポケモン使いなのに、こんな南国くんだりまではるばる修行にやってきたっていう」

 

「そうですね。と、あら」

 

 

『――となっておりこれにて解説終わりですどうだ出来る限りの早口だぞこのバトル大好きヤロウ共ぉ!』

 

 《《ウォオオオオッ!!》》

 

 

「……どうやら時間のようです。それでは――」

 

 

 プリムさんはドレスと金髪を翻して後ろへと振り返り、トレーナーの待機場所へと戻りながら。

 

 

「あなたとのバトル。本気を出しても大丈夫だと、嬉しいのですが!!」

 

「どうぞご自由に。本気を出さずに負けることになろうとも、負けは負けですし」

 

 

 言いながら俺もトレーナー待機の位置に着く。腰のモンスターボールに手を沿えると正面へと突き出し、プリムさんと相対する。向こうを見てみると、プリムさんもモンスターボールをこちらへ突き出していた。

 

 

「……言ってくれますね!」

 

「そちらこそ。俺は勿論、全力を尽くします」

 

『さぁ、互いに準備は整ったようですよ! それでは! ポケモンバトル、レディ――』

 

 

 スタジアム全体が、一瞬だけ静けさを取り戻す。

 

「(公式戦用の舞台だけあって、石畳で編まれたステージの脇には水場が設置されてるか。遮蔽物は無いけど、かといって、あの水場を使うかといわれたら少なくとも俺は使わないだろうな。移動が制限されるし、直接接触が必要な技の使い方が難しくなってしまうんだから。うし、確認終了!)」

 

 さぁて、始まりだ!

 

 

『――ファイトッ!』

 

 

 バトル開始の号令と同時。振りかぶらず、素早くモンスターボールを投げ出して、っと!

 

 

「頼んだ、ニドリーナ!」

 

「行きなさい、オニゴーリ!」

 

 

 スタジアムの歓声に包まれながら、ニドリーナがオニゴーリと……時間の無駄使いをする前に。指示の先だしから『にどげり』だ!

 

 

『おおっと、2人の繰り出した初手はニドリーナとオニゴーリで……ってニドリーナ、早いですぅっ!』

 

 

「――ギャウッ!」

 

「……オニゴーリ! こおりのキバっ!」

 

 《ゴンッ》――《ゴス!》

 

「オニ、ゴォリッ!」

 

 

 地面を疾駆し、ニドリーナがオニゴーリに肉薄。『にどげり』を受け、遅れてオニゴーリが『こおりのキバ』で反撃。ニドリーナはそれを受けつつも後退せず、

 ……んじゃあ、もう1発。今度は『アイアンテール』!

 

 

『おおっと!? ニドリーナ、男気溢れるインファイト! オニゴーリに引っ付いての接近戦を展開しています! ……ひゃ、すいません! ニドリーナは女の子ですけどね!?』

 

 

「ギャウゥ!!」

 

 ――《カァアンッ》

 

「くっ、もう1度! こおりのキバです!」

 

「ゴォオリッ!? ……ォオリ!」

 

「! ギャウ!」

 

 

 『アイアンテール』で相手が吹き飛ぼうが『こおりのキバ』を受けようが、ニドリーナは作戦通りオニゴーリの傍を離れない。そんでもって、

 

 

『これは、ショウ選手のニドリーナがオニゴーリの攻撃に全くひるまずの3連撃をしかけるのかぁっ!?』

 

 

「ニドリーナ! そのままラストだ!!」

 

「仕様がありません、オニゴーリ! 冷凍ビー……」

 

 

 プリムさんがオニゴーリへと指示を出そうとするが……指示の間もあってか、予想以上に遅い!

 ニドリーナは既に尻尾を硬質化させ終え、横薙ぎに尻尾を振るう体制もできているからな。行っけぇ!!

 

 

「ギャッ、ゥウウッ!」

 

「オニゴォ……リィィィ――!?」

 

 《ガァンッ!》

 

 ……《ドスンッ》

 

 

『これは、ニドリーナの目にも止まらぬ3連撃が炸裂うっ! オニゴーリは壁に叩きつけられて起き上がれないようですね!! 勝者、ショウ選手のニドリーナ!!』

 

 《《ドワァアアッ!!》》

 

 

「……有難うございました、オニゴーリ。戻って休んでください」

 

 

 プリムがオニゴーリをモンスターボールへと戻し、こちらを見据えてくるけど……うし! とりあえずは1勝だな。目論見どおり、互いに至近距離での近接戦にすることができたし。

 

 

「やりますね。得意の冷凍ビームを封じられるとは思いませんでした」

 

「接近戦なら、冷凍ビームを当てきるのは難しいですからね。狙わせてもらいましたという次第で」

 

「それにニドリーナが殆ど指示をうけていません。自分で考えての行動をさせているのですか?」

 

「残念ながら、それは企業秘密です」

 

「……ぅふふふふッ。いい度胸です……!」

 

 

 うわ、プリムさんの笑顔が怖くて冷たい! 笑ってないだろアレ!

 

 そんでもって、今のうちに毎度の無駄解説をしたいと思うんだが。いいでしょうか。いいですね(自己完結)。

 

 まずは毎度の先手必勝で、指示の先出しをしているのはお判りかと思う。それによってニドリーナにはすばやさアドバンテージがあるんだが、今回はオニゴーリに毎回先手が取れているという違いがあったからな。これの解説をば。

 

 その理由(たね)は『指示の先だしを3つ先まで行う事』だったりする。

 今回の戦闘において……相手がプリムと判明していたので……相手のポケモンは全て氷、もしくは氷の複合タイプであるとの予測がついているのがミソだ。そんな風な予測がついているのなら、こちらは「効果抜群であろう技」を始めから決めておくことができるという訳。

 そうして俺は今回、ニドリーナに①『にどげり』+高速接近、②引っ付いて『アイアンテール』、③旋回しつつ追いかけて『アイアンテール』という流れで技を繰り出すように指示しておいたんだ。これを指示なしでっていうのは相当の練習が必要だったけど、まぁ、今回のニドリーナはやってのけてくれた。ほんっと、ありがとうニドリーナ!

 その結果オニゴーリは予想以上の速さのニドリーナに対して、物理攻撃による反撃しか出来なかったという仕組みだ。俺のニドリーナはある程度耐久性が上がるような育て方をしているし、『れいとうビーム』の様に強力な技でもって反撃されない限りは先に落ちるということはまずないと踏んでいたので。

 

 では次に、『れいとうビーム』について。俺とプリムさんの会話において「接近されては冷凍ビームを当てきることが難しい」といった類の会話があったんだが……まぁ、端的に言ってもその通りの内容なんだけど解説をしておきたい。

 上記にあるように、接近したニドリーナへは『れいとうビーム』での反撃はし辛かったんだ。これは単純に「技の速度」によるもの。「技の速度」とはいっても先制技による優先度の付加とは違って……うーん。いうなれば「技自体の繰り出される・飛んでいく・相手に効力を発揮するまでの時間の差」というものがあるんだ。

 例えば『れいとうビーム』では相手に向かって、凍るビームを打つ。これはビームが当たった時点で効力を「発揮し始める」技だ。ゲームでの威力は95で高い部類に属しているし、プリムさんは既に氷ポケモンのプロであるからして、『れいとうビーム』に関しては最大威力を発揮できるよう鍛えられているだろうな。ポケモン全部が。

 ……しかしこの『威力95』は、一定量のビームを当てきればの話。

 遠くにいる相手であれば、こういった間接技は射線・射角的にも当てやすいだろう。打つ側の振り向く角度が少なくて済むしな。だが接近しきられてしまうと、『れいとうビーム』の様に「線」で相手を捕らえる技では相手に合わせて大きく振り向くことが必要とされる。つまりは「当たるにしても当たる量が減ってしまうので、ダメージが減少する」んだ。「かすりダメージ」みたいなものだな。

 勿論、だからといって全く当たらないというわけではなく、むしろ攻撃タイミングが悟られていれば「至近距離で全弾ヒット!」といった悲惨な結果にもなりかねなかっただろう。まぁこれについては、ニドリーナが予想外の素早さを発揮したこと、旋回することでオニゴーリの射線を避けつつ仕掛けたことなんかによって補っているという次第だったりするんだけど。

 

 

 さて、解説はここまで。

 こちらは残り2体で、俺の脳内から放置されている目の前のプリムさん(with 冷たい笑顔)は残り1体。

 

 

「ぅふふふふふふふっ!!」

 

 

 ……いや、怖い怖い、まだ怖い。むしろさっきより笑顔が冷たいし! これを笑顔と表現していいんだろうかっ!!

 

 

『おおっと、プリム様が追い詰められて燃えております! 笑顔が、実に! お美しいですぅッ!』

 

 《《ウォォォォオッ!》》

 

 

 いいんだろうな! どうやらこの笑顔は燃えている証らしいし、観客の盛り上がり的にも確かっぽい!!

 まt……

 

 「踏んでくださーいッ!!」「ひぃやっほぉう! テンション絶対零度ぉーッ!!」「ふむ。この笑顔がいきなり見られるなんて、相手の少年の実力は確かなようだな」

 

 変態の地獄絵図と丁寧な解説をどうもありがとう、観客。

 ……でも、観客には悪いけど……

 

 

「いや、悪いけどさ。多分俺の勝ちだぞ?」

 

「もう勝ち宣言ですか。幾分か早いのではないですか」

 

「だから一応、多分との言葉をつけてます。これは予測なだけで、油断はしないですが」

 

「そうですか。では、いきなさい……トドゼルガッ!」

 

「頼んだ、プリン!」

 

「ットドォッ!」

 

「プーリンッ♪」

 

 

『出たァアアッ! プリム様のエース、トドゼルガです! 幾数もの対戦者をちぎっては投げ、凍っては溶かししてきたトドゼルガ! 本日の標的はまるくてピンクのにくいヤツ、眠りの歌姫ことプリンなのかぁ!?』

 

 

 解説は無視したほうがいい気がしてきた。これは突っ込んでるとキリがない。

 ……さて、と。残った相手がトドゼルガならプリンは相性抜群だろう。目の前に鎮座するトドゼルガのオットセイ or アシカ or トド or セイウチっぽい巨体に向かってなのか、もしくは、会場全体に向かってなのか――プリンが大きく息を吸い込んで体を膨らませたところで、歌い出す準備は完了だ。

 

 

「んじゃ、プリン! 『得意の歌』!」

 

「プリュッ! ……~♪」

 

「くっ、今度は先手での奇襲など……。……?」

 

「……トド、ドッ?」

 

 

「プゥ、プル~……プウ、プリィ……プー、プゥリィン~……♪」

 

 

『おおっと、意外にも先手を取ったのはプリンです! おなじみのメロディですが、マイナー調の非常に悲しそうな歌が会場内に響き渡っておりますよぅ! これは!?』

 

 

「今度は、距離を詰めて来ないのですね。しかし残念ながら、わたくしのトドゼルガは眠らなかったようですよ? ならばこちらの番です……トドゼルガ! 冷凍ビーム!」

 

「ゼルッ……ガァ!」

 

「~♪ ……プリュ! p」

 

 《ヒィ》――《カキィンッ!》

 

 

『うわあぁプリンが氷漬け! 凄まじいまでの威力の冷凍ビームが直撃いたしました!』

 

「あー、プリン戦闘不能ですっ! 戻ってくれ、プリン!」

 

『トレーナーの自己申告により、プリン戦闘不能! これで1対1の決戦ですよぅ!』

 

 

「ふふ、ほらみたものですか。後悔するのも早かったでしょう」

 

「ありがとな、プリン……さて。その割には慎重でしたね、プリムさん」

 

「確かに、先程のように接近してくるとの予測は外れました。ですが、あなたのこちらを眠らせる作戦も通じなかったのですよ? あとはダメージを受けていたニドリーナを倒せば、わたくしの勝利なのですっ!」

 

 

 おぉ、プリムさんは熱くなってるって言うかテンションダダ上がりって言うか。会場のボルテージもそれに呼応して熱くなっていってるのが分かるな。流石の人気ということなんだろうし、それこそ本人の言葉を借りるなら「魂が熱いお人」なんだろう。プリムさんは。

 ……けどさ。

 

 

「慎重になりすぎて、1ターン分ほど犠牲にして身構えてしまったのは……どうなんでしょう」

 

「え? ターン?」

 

「それじゃあもう1回……頼んだ、ニドリーナ!」

 

「――ギャウゥッ」

 

 

『ここでショウ選手、もう1度ニドリーナの登場ですぅ! さぁ、プリム様の硬い硬いトドゼルガの牙城を打ち崩せるのか? ……トドゼルガの「牙城」って、今の上手くないです!? トドゼルガだけに!』

 

 

「ニドリーナ、アイアンテール!」

 

「ギャァ――ウゥ!」

 

 《ガス!》

 

「その程度! ……トドゼルガ、あられです!」

 

「ド、ド、ドォ!」

 

 

 プリムさんは、ニドリーナが接近しようが距離をとろうが問題ない技を選択したのだろう。ニドリーナの『アイアンテール』では全く吹っ飛ばなかった程の重量級ポケモン・トドゼルガによる『あられ』によって、南国の会場には似つかわしくないあられが降り出すこととなる。

 ……あー、これじゃあ後手後手だと思うんだけどな。でもってそんな後手後手だと思われる目の前のプリムさんは、

 

 

「あなた。あられの天候では、これが当たり易くなるのはご存知ですか?」

 

「……」

 

「ふふ……トドゼルガ、吹雪(ふぶき)!」

 

「ニドリーナ、まもる!」

 

「トドゼルッ……ガォッ!」

 

「ギャウン!!」

 

 

 トドゼルガの吐き出した必中の『ふぶき』は、ニドリーナの出したバリアー的な構えによってダメージを無効化される。

 うん、もうちょっと早ければ良い手だったんだけどな。

 

 

「無駄な抵抗です。まだあられは止みません! もう1度、ふぶ――」

 

「……ゼルゥ、」

 

「―― えぇ、トドゼルガ!?」

 

 

 《ドスゥウンッ!》

 

 

『うわあぁあ!? トドゼルガ、ダウン! 戦闘不能でしょうかっ!?』

 

 

「トドゼルガ、……トドゼルガ!」

 

 

 プリムさんが慌てて駆け寄り、トドゼルガを覗き込む。が、どうやら起き上がる気配はないらしかった。

 

 

『判定員による判定が出ました、トドゼルガは戦闘不能ですぅ! うぉおぉおッ!? これにて、ショウ選手が勝利ですよぉっ!』

 

 《《ウォオオオオオッ!!!!》》

 

 

 会場が一層の大声援と、阿鼻叫喚といった雰囲気に包まれる。これは仕方がない。なにせ、見た目的にも小さな少年が、ツワモノぞろいのバトルクラブのナンバー5に……例え2対2、こちらのみ入れ替え制というハンデはあるにしろ、勝利してしまったんだからな。

 …………いやさ。ほんとに勝っちゃったんで、俺自身も少しビックリしてるけど!

 

 

『大 ☆ 番 ☆ 狂わせぇーっ! ショウ選手、プリム様に大勝利ですぅーー!?』

 

 

 痛い痛い。歓声が3割アナウンスの大絶叫が7割の原因で、耳が痛い。

 

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 

 トドゼルガ戦の種も明かせば、簡単なこと。

 プリンが繰り出していた技は、相手を眠らせる(プリンの代名詞ともいえるであろう)技……『うたう』ではなく。3ターン後に相手と自分を戦闘不能にするという技、『ほろびのうた』だったんだ。ラスト1体に向かって『ほろびのうた』を決めることが出来たのなら、あとは耐えるだけという次第で。

 

 プリン相手に身構えたので、1ターン経過。

 

 『あられ』を出したので、もう1ターン。

 

 タマムシデパートで買った技マシンで覚えさせた『まもる』にて必中『ふぶき』を守りきって、最後の1ターン。

 

 で、トドゼルガが撃沈と。

 

「(一応、ニドリーナにはもう1つ仕込みがあったんだけど)」

 

 プリムさんが後手後手だったために、効果が日の目を見ることはなかったなぁ。いや、楽に勝てるに越したことはないんだけどさ。連戦だし。

 

 ……それでは。

 

 

「……お時間はよろしいでしょうか」

 

「あー、はい」

 

 

 現在サイユウシティ郊外の草原に座っているという状況な俺の、そのまた後ろからこちらへと歩いてきている本日の対戦者だったお方と話をしておくとするか。わざわざ俺を追いかけてきてくれたに違いないし。

 そう決め、南国の明るい月夜の下で振り返って、と。……言葉だけならロマンチックなシチュエーションなんだけどなぁ。

 

 

「ども、今日は有難うございましたプリムさん」

 

「いえ、こちらこそ。ショウの実力を見ることが出来て光栄でした」

 

 

 スカートを摘み、上品な仕草で(貴族っぽいアレである)こちらへ礼をするプリムさん。どうやら夜まで悩んで落ち着いた様子で、対戦時の冷たい笑顔は浮かべていないな。うん。これは間違いなく良い事だ。夜に見たいと思える笑顔ではないしな、あの笑顔!

 などと、いつも通りに無駄な思考で占められた脳内は放置して。今度はプリムさんから口を開く。

 

 

「この様な場所に来ているということは……うふふ。人目に付いて、大変だったのですね?」

 

「そですね。俺の背格好ではどうしても目立ってしまいますから」

 

「それで……ですね。今宵はショウにわたくしの敗因を聞きたくて来たのですが、よろしいですか?」

 

「いやいや。何故俺に」

 

「ふふ。なんとなく、ですよ」

 

 

 なんとなくなら仕方があるまい。解説しようじゃないか!

 ……ではなくて。相手が教えてというのなら、断る理由はこちらにはないと思うからな。

 

 

「では、今回だけ。……プリムさんの氷タイプの扱い方は、問題ないでしょう。氷タイプが苦手なタイプなんかは知っているでしょうし、『あられ』からの『ふぶき』なんかも知っていたようですから」

 

「はい」

 

「……あのコンビネーション、相当数のバトルをこなしたり猛吹雪の中とかで特訓したりとかしないと、気付かないですよね。となれば、プリムさんが習得していたのは修練の賜物でしょう」

 

 

 この世界では「レベル」も、「技の内容」も、「タイプ相性」も……「コンボ技」も。いずれにせよ未だ、知識として浸透していないものばかりなのだ。

 専門タイプとして精通している人であれば「その専門タイプについてであれば」、どんな技が強いのか、タイプ相性、「習得できるポケモンが比較的多い技」の効果についての知識なんてものは持っているだろう。また他に、例えば今回のプリムさんの様に……得意な技組み合わせなんかも持っているならば、それこそトップクラスのトレーナーにもなれるに違いない。ゲームみたいに表示をしてはくれない世界だからなぁ。単体タイプのエキスパートなんかにでもならなくては、技の強弱や詳しい効果なんかも見えてはこないに違いない。

 

「(まぁ、例えゲームだとしても知識はその位で十分だろうしな。むしろ、シナリオクリアというなら十分過ぎる)」

 

 だがしかし。俺にはそれにプラスして、さらに「深い」もしくは「無駄な」知識が備わってしまっているのだ。

 例えば今回の『ほろびのうた』。俺のプリンの十八番であるこの技は……それこそ今回の戦闘において殆どの人が勘違いしていた様に……『うたう』との判別がつきにくい。マイナー調であるとの特徴はあったにしても、おそらく、この世界で効果を知っている人物は数少ないだろうと思う。

 ……いや、だってさ。トレーナーにしてみれば『うたう』が有名なことによる先入観から「歌っても歌っても相手が眠らない」技な訳だ。試しに野生ポケモンに使ったとしても眠らないし、『ほろびのうた』を使うようなレベルになってから野生ポケモンと3ターンも技を交わして戦闘することなんて稀だしな。そのため、『ほろびのうた』が使われる/効果が発現する状況っていうのは中々に作られ辛いのだ。だからこそ知られ辛い、と。これをこそ「データが表示されない弊害」と言っていいと思う。

 

「(まぁ、俺は転生で知ってたけどな!)」

 

 つまりは、またも、転生様々だという!!

 

 

 ↑ここまで脳内の解説。

 ↓ここから現実の続き。

 

 

「―― 賜物でしょう。ですのでプリムさんに『お教え』できる敗因は、技に対する知識としか言いようがありません」

 

「技に対する、知識?」

 

「はい。あ、もちろん氷の技についてもですが……例えば他地方のポケモンやらに対する知識もです。新タイプ含めて」

 

「成程。自らが氷タイプという1つに縛られた環境の中で頂点を目指すのであれば、先ずは相手を知りなさい……というのですね」

 

 

 うん、正しい正しい。正しい……けど。

 

 

「えーと、……そんなに『俺が偉そうにみえる風味』に解釈してくれなくてもいいんじゃあないですかね?」

 

「わたくしからの意趣返し、です」

 

「人を呪わば……逆凪ですか」

 

 

 ならば仕様がないな、うん。今度こそ。

 

 

「まぁ、俺もプリムさんも丁度良く修行中の身です。他のタイプに対する経験を積むのであれば、これ以上ない絶好の機会ですからね。これからこれから、です!」

 

「えぇ。御指導だけでなく、有難うございます。……それでは」

 

 

 プリムさんは聞きたいことが聞けたのか、始めの礼の時と同じく気品ある仕草で、会場やら街やらのある方向へと振り向いた。

 ありゃ、帰るんですか。

 

 

「はい。これ以上をあなたの言葉によって聞いてしまっては、わたくしの成長にとって妨げにしかならないでしょう?」

 

「……」

 

「ですので。わたくしがこれから修行を行ってでも足りない部分、ポケモンバトルの凄さや恐ろしさ等も……また、今度……あなたとの『ポケモン勝負から』学ばせてくださいまし」

 

 

 郊外の高台から見下ろす南国の夜景を正面に、氷ポケモン使いが去って行く。

 ……うーん。台詞といい雰囲気といい、カッコいいなプリムさん。ファンが多いのも頷ける。

 

 

「……んじゃあ、また。プリムさん」

 

「はい、また。……次はわたくしよりも上のランクの相手です。そこでわたくし達バトルクラブの本当の恐ろしさ……ポケモンバトルの楽しさを、確かめなさい」

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 ショウ VS プリム(若)

 

 勝者:ショウ

 

 






 最も気を使った台詞。 
   ↓
「トドゼルッ……ガォッ!」

 どうでも良いですねすいません。

 尚、実況のうざさについてはご勘弁くだされば。
 こうでもしなくては、話が何とも単調に過ぎまして。苦肉の策なのでした。
 ……ある意味では私もノリノリで書いてはいますがっ


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