ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ6 VSナツメ(10)

 

 さーてさて。ポケモンバトルだな!

 バトルフィールドの左右にテンションだだ上がりの俺とクールビューティーナツメさんが陣取ると、固有名詞(ゴスロリ)が間に立って、まずは確認。

 

 

「ルールは、勝ち抜き制。……いいかしら」

 

 

 頷いて肯定を示すと、ナツメさんも戦意満々のまま頷いた。ポケモンバトルにおいて、トレーナー側の基幹となるルールはふたつある。

 そのひとつが「入れ替え制」。毎回のポケモンの戦闘不能後、両者がポケモンの入れ替えを行うことのできるルールだ。

 もうひとつは「勝ち抜き制」。これは敗北側だけが交換を行うことができる、比較的フラットなルール。

 ゲームのポケットモンスターではこれらルールが選択できたけれども、基本的に「入れ替え制」はプレイヤー側を有利にさせるためのシステムだ。公平性を期すため、バトルにおいてはほとんどが勝ち抜き制が採用される。

 だのでまぁ、この世界における入れ替え制は……そうだなぁ。挑戦者が連戦を強いられる「四天王戦」なんかのリーグ管轄の試合とか。そういう特殊な場において採用されることが多い。これらは野良バトルだと先に確認しておかないと喧嘩の元になったりするのでご用心を。まぁ、ゲームみたいに相手の繰り出すポケモンがわかる訳じゃあないからな。そもそも今は2対2のバトルなんで、入れ替え制だと先制したほうが有利になる。特に異論はないぞーと伝えると、ミィはこくりと頷いた。

 ゴスロリをまとうだけあって小顔で色白な我が幼馴染は、様になる優雅な仕草で手を挙げて。

 

 

「用意、いいわね。……バトル……スタート」

 

 

 透き通った掛け声によって、バトルが開始される。

 俺は手に持っていたボールを、振りかぶらず(ノーワインド)で投げ込む。

 さぁ、始めは定石どおりにタイプ相性を……重視なんてしませんよっと!!

 

 

「ニドラン! よろしく頼む!」

 

「キャウ!!」

 

「行って! ケーシィ!」

 

「……(コクコク)」

 

 

 ナツメさんはケーシィを繰り出し、俺はニドラン♀。タイプ不利対面!

 ボールから出ると同時にニドラン♀は動き出した。先手必勝!

 

 

「キャウゥ!!」

 

 

 丸っこい体、短い手足を動かし……その姿に見合わない速度でニドランが詰める。

 ナツメさんが指示を出す前に、ケーシィの真ん前!

 

 

「はやい……!」

 

 

「……! ――ゥゥウン」

 

 

 ケーシィがニドランに接触する直前『テレポート』。……よし。多分、タイミング的には当たったな!

 ナツメさん的には物理攻撃を回避できたと思っているかもしれないけれども、実は俺は攻撃を指示してはいない。勢いよく突撃して行くと見せ掛けて、ニドランには『しっぽをふる』を放ってもらった。直接接触が必要な技じゃないので、時間的なずれを見込んだのだ。

 さらに、素早さに差がある(ケーシィ>ニドラン♀)のに先手を取れた理由だが……今回のバトルの初手において、ポケモンを「出した後に指示する必要は無かった」というのがある。

 現在の俺の手持ちにエスパーに有効な技は無いうえ、ナツメさんの手持ちは種族が共通していることからパーティ内の役割分担が無い。完全にこちらの都合だけを考えて、事前にニドラン♀に『しっぽをふる』を出してくれるよう指示しておいたのだ。これによって指示の時間の短縮、指示内容が相手にバレないというメリットが得られた。案の定ナツメさんは「先手を取られた事」と「ケーシィの耐久力の無さ」から回避を選択してくれた。そのため、技の撃ち合いにはならなかったのだ。

 ……うん。本来であれば、そもそもケーシィには自力習得の攻撃技が無いんだが、ナツメさんの場合はなぁ。

 

 

「くっ! ……ケーシィ!」

 

「(コクリ)」

 

 

 このタイミング! 丁半博打!

 ナツメさんの指示のちょうど手前で……俺は右手でニドラン♀のボールを持ち、左手でポッポのボールを構える。

 タイムロス最低限、っと!

 

 

「交代だ、ニドラン! ……でもって、頼んだポッポ!」

 

「なっ!」

 

 

 ――《キュワッ!》

 

 

 ケーシィから交代したポッポに向かって『めざめるパワー』が放たれる。

 そう。技マシンを使えば攻撃技は習得できる……とはいえ、俺の知識ならばその技を予測することもできる。

 この時代の技マシンの内、ケーシィが得意とする特殊攻撃技を選択。さらに、手に入りにくかった技マシンを除外する。すると『サイコキネシス』『めざめるパワー』のおおよそ2択になるのだ。……確か、そのはず!

 しかし『サイコキネシス』はおそらくあのレベルのケーシィだと扱いきることができないだろう。仮に出せたとしても、体力とか精神力とかそういうのの消費が半端無くあるはずである。

 ならば、問題は『めざめるパワー』のタイプという訳で!

 

 

 ――《ォォン!》

 

 

「……ポッ! ……ポー!」

 

 

 虹色の力場がポッポに命中し、小柄な体躯が空中でよろけるが……飛び続けている。

 よし、受けきった!

 

 

「よっし、よく耐えたポッポ!!」

 

 

 ッポー!と力強い視線で返される。頼もしいな我がポケモン! しかし……抜群タイプのめざめるパワーではなかったようで安心だ。

 そして耐えたところでこっそり手元で開いていた図鑑の「レベルチェック機能」の結果が出た様子。

 ケーシィ♀ LV:13前後……か。

 ちなみに前後、とはあくまでレベル予測しかできないからだ。

 うーん、前よりもレベルが上がっているぞ。流石に勤勉だなナツメさん。

 

 

「次よ、ケーシィ!」

 

「ポッポ! (『かぜおこし』)!」

 

 

 次行動。

 ナツメさん側は物理攻撃ダメージ半減の『リフレクター』を選択した。流石はナツメさん、耐久としての物理狙いは読まれているようで!

 しかし、俺にも狙いはあるからな。

 

 

 《ブウゥン》

 

 

 ケーシィの前面に橙色のツルッとした光沢のある壁が展開された……ように思える。いや、物凄く見えづらいんだよあの壁。ただ、これの正体は指示が聞こえなくても判る。十中八九『リフレクター』。

 外観だけだと『ひかりのかべ』と見分けがつけられないが、相手は手合せ数がとても多いナツメさんだ。俺の手持ちポケモンの「今までに使っていた」技は知っているので、物理攻撃を警戒するに違いない。いや実際その通りだからな。むしろ『ひかりのかべ』張ってくれたんなら攻撃が通りやすくなるので、読み間違えてても楽になるまである。

 ……けれども。

 

(やっぱり……見えるぞ)

 

 未来とか人の思念とかそういうのじゃないからな、エスパー! 現在見えているのは『リフレクター』の位置な!!

 指示の通りにポッポが風を起こし、風が「フィールドの土や砂を巻き上げながら」渦を巻く。その結果としてケーシィの出した『リフレクター』が土を阻んで形を持ち、見えているのである。

 さて、視認可能になった『リフレクター』は周り全体に張られているわけではなく、定石通りにポッポのいる方向に向けて張られていた。もちろんこれはケーシィのエスパー能力的にも実際の防御的にも、間違いでは無いと思う。……『リフレクター』を周囲全体に張るのって、凄い体力使うらしいからなぁ。そもそも『しっぽをふる』の防御低下もあるしさ。

 それじゃあ位置も視認できた所で……いよいよ攻撃に回りますか!

 

 

「ポッポ! (『たいあたり』!)」

 

 

 俺はポッポへ『たいあたり』と「突っ込む場所の指定」の2種類の指示を出す。狙いはずっとケーシィの真横。『リフレクター』の影響を受けず突っ込める位置だ。これら指示を複合して出せるのは、積んできた訓練の成果だな。大変嬉しい! 

 種族としても利点がたくさんある。ポッポは視力が良いことや上空にいることから、比較的視覚による指示がしやすいのだ。声ではなく、ハンドサインやジェスチャーなどによる指示だな。指示の経路が増えたおかげで、技をだすタイミングや場所も指定出来るようになったうえ、俺との連携が非常に良くなるという副産物もあった。ちなみにニドラン♀も練習中だったり。

 そんでは、件のハンドサインでタイミングを計って……うし、突っ込む!

 

 

「……ケーシィ!」

 

「ポッポ! (ここから。……そんでもって……今だ!)」

 

 

 ナツメさんの声を基準に、相手の攻撃のタイミングを見計らう。先手を譲って、こちらは後攻!

 残っている風で指示が聞こえ辛い可能性を考慮して、できる限りの大声とジェスチャーを使いながら……壁張りを終えたケーシィはおそらくまたも『めざめるパワー』を使っての、迎撃!

 

 

 ――《キュワン!》

 

「! ポッ…ポォッ!」

 

 

 直撃は避けた! そのまま!!

 

 

「(……! ……!?)」

 

 

 ケーシィは土の舞った状況に目標を見失い……『めざめるパワー』をポッポが元いた位置に放ってくれた。指示によって位置を常に変えていたため直撃は避けられ、「予想範囲内」のラッキーを起こすことができている。

 ……可能性は低かっただろうけれども、『テレポート』で逃げて仕切り直しを狙われた場合は、俺達も『かぜおこし』しながら場所をとり直して相手に場所を絞らせず、『リフレクター』範囲外からの攻撃を続けるつもりだった。だから後攻が良かったんだよな。うん。俺の反射神経、頑張った!

 さーてさて。おかげで体当たりは直撃したが、もちろんケーシィは一撃では倒れない。

 

 

「ポッポ! (もう1度!!)」

 

「ポー!」

 

「……」

 

 

 『たいあたり』を当てた後、今度はポッポとの距離が離れたので、ハンドサインを使いながら移動位置を指定。ポッポは小さな弧を描いて旋回を始めた。

 次も同じ方法で……と考えていたのだが……この「ターン」のナツメさんに、指示を出す様子が見当たらないな。

 

(んー……なんか狙ってるか? ナツメさんはポーカーフェイスだからな。視線の先は、と。割と目線は動いてる)

 

 俺はトレーナーズサークルの反対側に目を凝らす。土煙で……いや、ギリギリみえた。棒立ちか、少なくとも口を開いている様子は無い。

 今までも、ナツメさんは技名を声に出すことはしていなかったが、ポケモンの名前による呼びかけは行っていた。テレパシーの意識集中の補助として名前を呼んだりすると、意思疎通が図りやすくなるのだそうだ。俺もこのへんはサイン指示を編み出すにあたって参考にさせてもらったりしたが……いきなり行わなくなったのは、不自然だよなぁ。ということで。

 俺は状況からナツメさんが「指示以外の行動」…おそらくは「位置の補足」を行われているかな、と予測する。目標を見失ったケーシィに対してナツメさんは……超能力か目視かのいずれかによって……ポッポの場所を見つけ出した後に、ケーシィに指示を出そうとしているのだろう。そのためにナツメさんは集中する必要があって、とかならつじつまは合うと思う。

 つまり……これは好機(チャンス)

 

 

「ポッポ!!」

 

 

 『たいあたり』の位置とタイミングを重ね、「行動変更」……「ポケモンを交換する」準備。

 指示を見たポッポがこちらへ戻って来ると、俺は素早く入れ替えてニドラン♀をフィールドに。いっけぇっ!

 

 

「ニドラン! 『ひっかく』!」

 

「ッキュゥゥン!」

 

「……! こっちよ! ケーシィ……って!?」

 

「(……? ……! ……!)」

 

 

 やっとの事で補足したみたいだけどお生憎。ポッポとニドランを交換した際に、その出現位置をさらに大きく動かしてある。これこそが交換する際の最大の利点だな。

 

(ものすっごい緊張したけどな! 一歩間違えれば、ボールから出た無防備な所を攻撃されるし……これはまぁもちろん、時間も消費してしまうし!)

 

 接近したニドランを見てナツメさんは交換された事に気づくも、時すでに遅し。戦況はともかく、後手後手に回るというのが流れとしてよくないのは十分に理解しているはずだ。ケーシィにもナツメさんの混乱困惑が伝わってしまっているようで、おろおろしている……その隙に、ニドラン♀の『ひっかく』が直撃した。

 

 

 ―― 《ズサン》!

 

 

 未だ砂煙のたつ中、鈍い音が辺りに響く。

 音から判断するに、どうやら『めざめるパワー』による迎撃は阻止できたみたいだが……。

 

 

「(……スィィィ)」

 

 

 音が止み砂が完全に晴れた後の地面には、うつ伏せに倒れこんで目を(閉じたまま)回しているケーシィの姿があった。

 

 

「ケーシィ、「ひんし」。戦闘続行不可能。……ニドラン♀の勝利ね」

 

 

 ジャッジを務めているミィによって戦闘の中断が告げられる。

 ……ところで「ひんし」は戦闘不能状態の仮称だ。誰彼が非道な仕打ちをしている訳じゃあありません!

 

 

「流石ね。アナタに先手を取られるとやっぱり、やりにくいわね。バトルの流れが掴まれてしまう感じがするもの」

 

「ども。ふいー。何とか勝てたようで、よかったです」

 

 

 ナツメさんが或いはいつものジト目で俺を見やる。ボールにケーシィを戻しながら、何やら唇に手を当てて策を練り始めた。

 しかし……いやぁ。めざパは1番の綱渡りだったなぁ。あれ、実は「タイプが変動する」技なんだよな。この世界だと。つまりはポケモンの個体値が……っていう推測ができてしまう訳なんだけど。リストラされるとそれはそれで悲しくもある。剣盾の話な!

 それにそもそも、攻撃を肩代わりしてもらうためにポッポを出すっていうのも、なんかすごい罪悪感だったんだよなぁ。精神的に。

 まぁ。これで「完全に」準備を終了することができたぞ。あとは仕上げをごろうじろ!

 

 

「次もこうはいかないわよ?」

 

「ユンゲラーはナツメさんの切り札だし、俺も作戦はたてていますよ。お楽しみに」

 

 

 とりあえず虚勢バリアー張っとこう。そんな軽い気持ちで軽口を叩いていると、ナツメさんからの視線がいっそう鋭くなった。自業自得ねとミィが視線で訴えてくる。そらそうだ(戒め。

 さーて……ケーシィは倒せたものの、次のユンゲラーこそが最大の障害。このレベル帯において進化済みという種族値(アドバンテージ)は実に魅力的なものだ。次点で技の強さとかかな。それらを、俺たちの全力をもって覆さなければならないのである。

 いやさ。せっかく本気でバトルをするなら、やっぱり勝ちたいからな!

 

 

「いくのよ! ユンゲラー!!」

 

「(……!)」コクリ

 

 

 ナツメさんがエースたるユンゲラーを繰り出す。スプーンを両手に持って、びしりとたててぐにゃりと曲げた。うーん、エスパー! アニメみたいにユンゲラー!とか鳴かないのな……とか、無駄思考もそこそこしておこう。

 既に砂煙は晴れている。けれど、ここは少しでも体力を削りたい。だとすれば!

 

 

「ニドラン、戻って! ……ポッポ!(『でんこうせっか』!)」

 

「―― ッポー!」

 

 

 交換直後の前だし『でんこうせっか』。優先度+1の先制技と指示の前だしによる、現状最速の時短合わせ技!

 ターンを無視できるとまでは言わないが、おおよそ同着あたりから1.5ターンくらいのタイムロスで済む利便性の高い技術だ。ちなみにこれを編み出したのはオーキド博士で、俺はそれを参考にさせてもらっただけなので悪しからず!!

 

 

「早い……! いくわ、ユンゲラー!」

 

「(スッ)」

 

 

 ナツメさんの指示に従い、ユンゲラーがこちらに手をかざす。……ユンゲラーのレベルは「LV23前後」。今のナツメさん的にはトップレベルのポケモンだ。スクール在中はモンスターボールの機能によって、ポケモンの取得経験値にかなり制限がかけられるんだよなぁ。

 そんなユンゲラーの持ち技だが、タイプ一致のエスパー技はレベル帯的に『サイケこうせん』か『ねんりき』の二択。『サイケこうせん』のほうが威力があるものの攻撃の範囲が「線」。『ねんりき』は「点」から「面」果ては「立体」まで実に多様な範囲で攻撃することのできる、汎用性の高い技だ。

 レベル差もあるし、確実に捉えるなら『ねんりき』……か? ニドランは俺の隠し札ではあるが、タイプ相性だけで見れば脅威には感じていないはず。あの技(・・・)は最後まで隠し通さなきゃ、勝ちの目は見えてこないからなー。

 

 

「ポッ……ッポ!」

 

 《シュンッ》――《ズガン!!》

 

 

 考えている内に、ポッポは『でんこうせっか』をユンゲラーに直撃させた。

 先手を譲られた……ということは、その技の後隙を狙われていると考えるべき。

 ……来る!

 

 

「(……!!)」

 

 

 《……グニャァアン!!》

 

 

 ユンゲラーの技によって、ものすごい音が頭に響くと共に目の前の空間が歪んで見える。いやまて。……空間が?

 おおっと、予想を超えてくるなぁ。『ねんりき』じゃあなく、より上位のエスパー技である『サイコキネシス』か! 仕上げてきてるな、流石はナツメさん!?

 俺は続けてポッポへ『かぜおこし』の指示をだす。が、「面」で展開されたサイコキネシスの直撃には間に合わず、ポッポへ超能力場……空間丸ごと歪んでみえる部分が襲い掛かった。

 

 

「……ポッ! ……!」

 

 ――《トスッ》

 

 

 直撃。ポッポが鳴声を上げながら地面に落ちる。

 こればっかりはしょうがない。むしろ、ポッポは良くやってくれた。

 

 

「ポッポ、戦闘不能ね」

 

「よくやってくれました、ユンゲラー!」

 

「ポッポ、ありがとうな」

 

 

 ミィから戦闘不能が告げられ、ナツメさんがガッツポーズ。

 俺はポッポを労いながらボールに戻し……ユンゲラーについて少し考えつつも、確認。

 

(『あの技』なら威力は問題ない。でもなんとかして「当てなきゃならない」って場面になったぞ)

 

 そう。残る俺のポケモンはニドラン♀。ユンゲラーが扱う技の威力が『サイケこうせん』や『ねんりき』止まりであれば、仕込みの策も合わせて耐えられる可能性が高かった。しかしナツメさんのユンゲラーは予想を上回り『サイコキネシス』をある程度使いこなしている。仕込みがあってもどうか、といった具合にされてしまったのだ。

 となれば先手をとって先にユンゲラーを戦闘不能にしたいところだが、「指示の先出し」っていう初見殺しはさっき盛大に見せてしまった。ナツメさん鋭いし、種までは分からなくても「素早さを覆す技術がある」って事を警戒されるだろうなぁ。

 そんな状況において、ニドラン♀では先手を取るに、素早さが足りないのである! そう! 速さが足りない!!

 だとすれば……うん。仕方ない。耐えられるかどうかは後回し。そもそも勝ちの目はこれしかないのだから、耐えて見せるのみ。つまりはニドランを、信じよう!

 

 

「腹は決まった。大げさなものなんて託さないけども、やれるだけはやってやろう。行こう、ニドラン!」 

 

「キュウッ!」

 

 

 勝負は、この一瞬。

 

 

「すぐ来るわよ、ユンゲラー!」

 

「(! ……)」

 

 

 《グニャアッ》 

 

 

 ニドランがボールから出た時点でバトルが再開される。

 指示の先だしを警戒し、ユンゲラーが早めに『サイコキネシス』を展開。「面」状に歪んだ空間が立ちはだかり、ニドラン♀の行く手を遮った。

 大切なのはタイミング。受けるにゃ受けるも、被害は最小限が望ましい。

 歪みが広がりきった。ユンゲラーは技のコントロールに集中するため足を止めた。

 ようし。そこを目掛けて!

 

 

「突っ込め!!」

 

「……キャゥゥウ!!」

 

「(……!?)」

 

「え!?」

 

 

 ニドラン♀は『サイコキネシス』をがっつり「耐えて」突き抜けると、勢いそのままにユンゲラーへと突撃する。

 さあさ、例の技、ご解禁!

 

 

「ニドラン……『かみつく』!!」

 

 

 ――《ガブッ!》

 

 

 つい最近に習得したばかりの『かみつく』を、決めてみせた。

 

 

「(!! …………)」

 

 

 ユンゲラーがたまらず両手のさじを投げる。

 浮き上がって、地面を転がって、もんどりうって、倒れ込む。

 

 

「うそ! ……ユンゲラーが一撃で? ……あっ、ユンゲラー!!」

 

 

 ナツメさんと審判であるミィがユンゲラーの元へ駆け寄り……ミィからジャッジが下される。

 

 

「ユンゲラー、戦闘不能。勝者はショウね」

 

 

 

 

 ΘΘ

 

 

 

 

「……やっぱり負けるのはとてもショック。でも、負けは負け。わたしの勝負に甘さがあったということだわ」

 

「まあ俺が勝てたとはいってもギリギリの勝負でしたから。良いバトル、ありがとうございました!」

 

「ええ。ん。……それとは別に、聞きたいことも色々とあるのだけれど」

 

 

 バトルの終了後、休憩室にて。ナツメさんと握手を交わしながらの会話である。

 実際、「エスパートレーナーとエスパーのコンビ」ってのはゲームにおけるそれとは大きな違いがあるからな。その経験を積ませてもらってるんだし、実践訓練としてこれ以上のものはない。

 いやぁ、良かった良かった! ……あー、判ってますってナツメさん。はぐらかさずにちゃんと答えますから。そのジト目は俺に効く。

 

 

「そんで聞きたい事ってのは? いや、きちんと種明かしはするつもりなんですけども」

 

「まずは……そうね。なぜニドランが……毒タイプが、高威力の効果抜群技である『サイコキネシス』を耐えられたか、からお願いするわ」

 

 

 はい、と請け負って解説を開始する。

 ……といっても今回俺が勝てたのは、ゲーム知識による優遇が大き過ぎるんだけどな。

 

 

「ええと。ニドランが耐えられた理由は、持たせていた道具ですね」

 

「道具というと、威力アップとか木の実とか……」

 

「そうです。そんでもって、俺がニドランに持たせていたのは、この木の実」

 

 

 俺はナツメさんに向けてポーチから「ウタンの実」を取り出して見せる。

 

 

「この実って、バトルに有用な効果がある実なの?」

 

「はい。かなり限定的な範囲にですが、効果があります。……これの効果は『効果抜群のエスパータイプの技の威力を半減する』こと」

 

 

 まぁ、ナツメさんが知らないのも無理はない。なぜならこの実はFRLGの世界ではゲームに無かったものだからな。その後のナンバリングで実装される、いわゆるところの「半減実」という奴だ。

 俺達が調査の合間にこの世界の「道具」について調べていたところ、この世界にも各「半減実」はあることが判明した。もっと言えば、「木の実の効果が判明していなかった」のだ。後々の調査で判明していく、っていう筋書きなのだろう。

 とはいえ俺達はバトルにおいて有用であることは知っているので、フィールドワークの合間に集めておいたというな。

 これらを転生について伏せつつナツメさんに説明すると「天敵じゃない……! なんてものを見つけてくれたのよ!」とか言われたが気にしないことにしよう。どうせこれはタイプが統一された各ジムリーダーの課題のようなものだ。うん。

 

 

「さて、後はなんですか?」

 

 

 後には引かず次の話題へ。

 先ほど「まずは」といっていたし、複数あるだろタブン。

 

 

「なんでユンゲラーは『かみつく』1撃でやられたの? 『でんこうせっか』の分削られていたとはいえ、効果抜群でもない攻撃では……」

 

「いえ、効果抜群なんです」

 

「……え?」

 

 

 そう、これこそこの「世界」の致命的だった部分……「あく」と「はがね」タイプが認知されていないということだ!

 まだ認知されていない、とはいっても「はがね」タイプは存在する。ミィの手持ちであるコイルなどが良い例だ。だが運悪く「あく」タイプはカントーに出現する一般ポケモンには、タイプとして備わっていないのである。だからこそ認知もされていないし……それに、いろいろと不明瞭な部分もある。

 じゃあ存在している『かみつく』なる技は、どういった認知によってタイプを識別されるのか。この辺にもっと突っ込めば、ではピクシーやプリンの「最新鋭のタイプ」なんかはどうなるのだろう? という話題にもなってくる。興味は尽きないなぁ。

 まぁメタ的な事を言ってしまえば、「あく」タイプは初代で強すぎた「エスパー」に対するバランス調整の意味合いを含んでいる訳で。俺としてはナツメさんへの対策に持ってくるのは当然と言っておきたいけどこういう知識で勝っても素直には喜べないのでとりあえず土下座。

 

 

「……まぁ、そんな感じで。ポケモンには未だ知られざるタイプがあるということです。あー、ちなみにデータさえ集まれば学会とか協会に報告しておくんで、その内ジムなんかには優先して情報が届くと思いますよ。特に天敵であるエスパーのとこだったら、なおさらです」

 

 

 なんなら直接渡しても良いですし、などと言いながら付け加え。

 ……しながらも……「あく」ポケモンが広まってきたらナツメさん家は大変だろうなぁ、とかとか。無駄思考の展開は忘れない。

 

 

「そう……」

 

 

 俺の説明を一通り受けて、何やら目を閉じ腕を組み、クールビューティーなオーラを取り戻すナツメさん。

 やっぱり特攻タイプの判明が尾を引いたか? と、ちょっと心配してみるも。

 

 

「でも、それじゃあ。その『あく』タイプっていうのについては、貴方たちが詳しく説明してくれるのよね? ……ね?」

 

 

 視線をそらし、頬を赤く染め、「くーるびゅーちー」くらいにオーラをランクダウンさせながら……ナツメさんがそう告げる。最後には念まで押されたぞおい。

 んー……ん? んん? いや、それはまぁ。

 

 

「……? まぁ、そうですね。ナツメさんがそう言うなら、全然、直接俺からデータも持って行きますし」

 

 

 半ば反射で、そう答える。

 いちいち(面倒な)ポケモン協会っていうフィルター通して伝えるよりは、直接伝えたほうが不純物混じらないよなと思うし。

 で、ミィの方を見るとため息を返された。何故に。

 

 

「……友人。ナツメに、とっては。数少ない友人に会えるのが、嬉しいのでしょ」

 

「べっ、べつに!? 友人じゃなくても嬉しいのだし!?」

 

 

 あー、分かった分かった。テンプレートな奴だ。うん。

 ミィがまぁうまーく流してくれたので、俺としてもありがたいと思っておこう。

 ……「友人じゃなくても」って単語のせいで、チェックかけられている予感はするけどな。

 

 

「でもま、そういう事でしたら喜んで。俺もミィも友人少ないんで、増えるのはとてもありがたいですし、嬉しいですよ」

 

「そうね」

 

「なら、呼び捨てでいいわ。年は確かにわたしが上だけど、あなた達は友人で‥‥‥ライバルよ。無理に気を使われているのは対等ではないでしょう?」

 

 

 ライバル、か。そうだな。

 

 

「……そうで……えふん。……そうだな、ナツメ」

 

 

 ミィがシルフカンパニーにいるからにはヤマブキシティ、ひいてはナツメs‥‥‥ナツメの所にも度々来ることになるだろう。そうなった場合、俺も無理に敬わない方が楽だからな。

 

 

「私は、始めから。ナツメ呼びなのだけれど」

 

「ミィはいいのよ。とっくに友人なのだわ」

 

 

 うん。とりあえず、ふたりが仲良さげで何より!

 

 

 

 

 

 

 ――

 ――――

 

 

 

 

 さては数刻後。

 準備と片づけを終えた俺は、ヤマブキシティの四方を塞ぐゲートのうち、タマムシシティへと続くそれの前に立っていた。

 後ろには、シルフカンパニーに籍があるため残るミィと、本日はとてもいいバトルを繰り広げてくれたナツメが、見送りに来てくれていたりする。

 まぁ俺は普通に帰るだけなんだが……ごほん、えふん。

 

 

「ナツメ。それにミィも、今日はありがとな!」

 

「……」

 

「えぇ、気をつけて帰りなさい。ショウ」

 

 

 ……ナツメからの返答がない。聞こえなかったかな……と考え、言い直そうと思った矢先。

 

 

「……それはこちらの台詞だわ。ショウ、それにミィも。あなた達とそのポケモンは、強い。それこそあなた達のほうが超能力者なんじゃないかって思うくらいに、強いわ。……そんな相手と練習できるのだから、お礼だって、こちらから言うべきでしょう」

 

 

 このセリフもそうだが、ナツメが当社比(いつもより)、しんみりとした雰囲気を放っている様に見える。

 まぁ、そうな。

 ナツメもジムリーダー候補になるほどの実力があるとはいえ、年少。ただでさえ「エスパー少女」であることだし、色々と大変なのだろう。友人が出来たくらいであれだけ喜んでいるくらいだからな。この世界のエスパー、特に強い能力を持った人が大変だというのは想像に難くない。確か原作でも、あのお嬢様とかが苦労をしている旨の描写があったはずだし。

 ……さて。実際俺達の持っているゲーム側の知識は超能力と言っても過言ではないレベルだと思うんだが……というのは置いておいて。ナツメが言っているのはこの世界における「スペシャル」の技能の事だろうから。

 今返すべき言葉は。ここでの返答は違うだろう、と台詞を考える。

 ――この少女が望んでいるだろう、言葉は。

 

 

「まぁ実際、超能力なんてただの個性のひとつだと思ってるよ。俺は」

 

「……!」

 

「もしかしたら俺達が強いのは本当に『そんな風』な超能力があるからかもしれないし、そんなんなら分からなくても『超能力』だし。そもそも俺達なんて超飛び級してる『天才児』らしいからな? それが他人にとって、どう映るかってのは気になるんだろうけれど……少なくとも俺達にとってナツメは、『ポケモンバトルが強いエスパー少女の友人』だよ」

 

 

 実際俺は、トレーナー側が持つ「エスパー」という要因が、ポケモンバトルに有意なアドバンテージをもたらすのは……この時代の一時期においてのみだろうと確信を抱いていたりする。

 確かにポケモンと意思疎通出来るってのは、普通に考えれば一方的に有利な要因なんだけどさ。

 それらはもう少し‥‥‥すこーしだけ。

 ポケモンという界隈に対する研究と、ポケモンバトルっていう競技に関する設備さえ成熟すれば……覆るだろうって、思ってる。嘘ではない。俺たちは、そのために頑張っているんだからさ。

 でもって、暗い空気は嫌いなんで……俺は先にゲートの側を向き。

 

 

「そんじゃな、ナツメ。友人なんだし、またバトルしような!」

 

「……そう……ね! ぜひ……来て、ください!」

 

 

 声の震えとかには触れないでおいて。

 ずっと気にはなってはいたが、突っ込めなかった「言わなくても以下略」。友人なら言えるだろう。

 

 

「じゃあ、最後にナツメの友人として1つ言っておこうと思う」

 

「……、……なに?」

 

 

 

 

 

「お前早くジムリーダーになって……ヤマブキジムのあの制服。女幹部(悪)みたいなやつ、変更してやれよ?」

 

 

 

 

「言われなくてもそのつもりだわっ!?」

 

「私は、別に良いと思うのだけれど」

 

 

 






・タイプ
 「あく」はエスパーへのバランス調整。
 「はがね」はおそらく炎タイプのバランス調整以外にも、ポケモンの世界観(硬さに対する数値としての防御力以外の概念が欲しかったのだと思う)を広げる役割を持っていたと思う。
 「フェアリー」はどうみてもドラゴン一強だった部分に一石を投じ、4倍弱点以外のドラゴンタイプの創造に一役買った。


 で、初代のカントーにはほんとにいないんですよね。あくタイプ……。
 FRLGも同様。だのでまぁ、広まっていないという設定でした。



・半減実
 第三世代には無かったアイテム。
 とはいえ世界観としてはないと困るので、ご登場いただいた。

 仮想敵やサブウェポンへの理解(というか構成読み力)がないと、扱うのが難しいと個人的には思う。
 だので私はあまり採用できない(戒め



・エスパー
 超能力者。
 ゲーム中で描写されているだけでも念動力、未来予知、テレパシーなど多種多様。

 ……では実際、世間的にどういった扱いなのか、についてはBWに登場するカトレアさんあたりを念頭に置いてみてみています。
 この辺りは幕間②あたりまで延々と描写し続ける問題のひとつ。






2021/0218 二話分を一話に集約。ついでに流れを改定。
     主に無駄な入れ替え制に関するあれこれを調整。
     いや入れ替え制は普通に主人公有利すぎますは。

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