ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ7 グレン島にて

 ナツメとのバトルからしばらく。俺はまたもや研究に没頭していたりした。

 さあて、来たりまするは ―― グレン島!

 

 

「特に噴煙の匂いがするわけでもなし。強いて言えば硫黄っぽさはあるくらいか……?」

 

 

 なんて、いつも通りに無駄なことを考えながら島の中央通りを歩いてゆく。

 ここグレン島は、位置的にはカントーの南西。マサラタウンから真南に海路をたどって着く場所だ。最近やっとジムが建設されたばかりで……とはいえゲームの印象よりははるかに広い。人口も4桁はいるらしいしな。

 地理的に言えば、この島は周りを海に囲まれている火山島。そんな場所へ人が集まったのには理由があってだな。

 

 ああ。見つかったのだ……古代の化石が!!

 

 ゲーム本編においても、化石ポケモンの復元装置が初めて実装されたのがここグレン島だった。ただ、見つかる化石は実はポケモンに限らず。周囲に未開の自然なども多いことから、現在では研究者の前線基地といった様相を呈していたりするのである。

 

 つまり、だ。

 俺が任されている研究班一同は、来年に予定されている「外国現地調査」の計画合わせのために、この島へと降り立ったのである。

 

 ちなみに。一応言っておくと『なみのり』が使えなくてもクチバから1か月に1度往復船が出ているので、大丈夫。

 島から脱出不可能になったりは、しないのである!

 

 

「こんにちはでーす」

 

 

 島の西側、大きな屋敷の玄関についたところで声をかける。

 どうやらこの大きな屋敷が、研究者達の根城になっているらしい。また、今回俺達が協同で研究を行う研究班のトップがこの屋敷の持ち主でもある。

 この屋敷があること、その持ち主兼研究者がここにいることも島に人が集まった理由のひとつなのだろう。

 その持ち主とは、ポケモンの遺伝子に関する研究を行い、ひときわの名声を得た ―― 研究者。

 

 

「こちらでしばらく待っていてください」

 

 

 俺の挨拶で出てきた白衣の男性に施設の中に案内され。そのまま応接室に通されたのでしばし待つことに。

 待っている間は少しだけ屋敷におかれている美術品とかを見て時間をつぶし……って、どう見ても研究とか場違いなくらい豪華な屋敷だな、ここ。研究者の話によると、機材などは全て地下のほうに持ち込んでいるらしいけど……いや、立地的にここはもしかしなくても。

 

 

「……燃える前の屋敷、か?」

 

 

 などと時間をつぶすこと、5分。ドアが唐突に開かれる。

 入ってきたのは待ち人。ひとりの老人だ。

 

 

「おお、お待たせしました。いや全く、すまないね。ちょっと手が離せなかったものだから」

 

「いえいえ、こちらこそ急な訪問で申し訳ありませんでした」

 

 

 彼と挨拶と名刺を交わして、互いにソファへ。

 飲み物を口につけてから、口上を続ける。

 

 

「……では、まずは少しばかり自己紹介をさせていただきます。本研究を協働させていただきます、タマムシ大学携帯獣学部のオーキド研究班です。班長代理を務めていますショウと言います。以後よろしくお願いします」

 

 

 俺は礼をしながら握手を交わし、他の研究班員についても説明を行っていく。

 ひと通りの紹介を済ませたところで。

 

 

「いやなに、私の方にもキミの噂は届いている。弱冠7才でポケモン研究の第1人者であるオーキド博士の研究班で活躍する、若きエースだと」

 

「褒めていただいたのは嬉しいのですが、自分はまだ貴方……『フジ博士』ほどの大きなプロジェクトを持ったわけではありませんので」

 

「いやなに、謙遜することは無い。キミの研究成果はおおよそ普通の研究者では……」

 

 

 以下、褒め合いになったので割愛。……すすんでやりたいものではないなぁ。うん。

 時間を無駄にしているのも本意ではないので、本題に入ろうと話しかけることにする俺。

 

 

「ええと、じゃあ早速で申し訳ないんですが、打ち合わせの方をお願いします」

 

「そうだね。……まず、調査地はギアナ奥地のジャングルだ。私達が遺伝子サンプルを欲しているポケモンがそちらで見かけられた、という報告があってね。その採取を目的としたい」

 

「それは確かなのですか?」

 

「ああ。先行調査をしたところ、確かに1度だけ姿を映像に捉えることができている」

 

「ならば構いません。では、サンプル採取に関しては協力したいと思います」

 

 

 それだけでも、俺たちが協力する意義はありありだからな。

 さて。「フジ博士」に「ギアナ奥地」。これは「原作」における有名な、あのイベントなのである。予想は出来ていたけど。

 

 

「では次に……私達オーキド研究班の方は『フジ研究班の護衛』『現地におけるポケモンの生態調査、データ採取』が主な目的となります。私的調査の方は休憩などの合間に護衛人員以外が担当しますので」

 

「宜しくお願いするよ。ジムリーダーなどの公的トレーナーは、外国までは着いて来てくれんからね。君達が護衛をしてくれるのは非常に助かるよ」

 

「出来る限りの力を尽くさせていただきます」

 

 

 護衛を兼ねるのであれば当然であると思うのだけれど、まぁご安心くださいとか無責任なことも言いたくはないのでこういう形にしておく。

 だってなぁ。ジャングルだぞ、ジャングル。一応フィールドワークとか極地での現地調査の経験ある人たちを連れては行くし、ポケモン達がいるおかげで危険性はむしろ少なくはなるんだけどさ。実際のジャングルよりは。だからといって、安全かと言われるとな。

 とかとか。考えを一瞬で終えつつ顔を上げると、フジ博士が大声で笑い出した。

 

 

「……ははは! こうして話をしていても、見た目以外は本当に7才とは思えないな、キミは! しかもその若さで研究だけでなく、ポケモンの扱いも飛びぬけているという。この老いぼれにはまぶしい才能だ!」

 

 

 なんとも豪快な性格なんだな、フジ博士。それで研究者のトップ張ってるのは、

 さてさて。俺が「班長代理」兼「責任者」などやっているのは理由がある。ポケモンバトルはレベルがあるのであれだけれども、外国産のポケモンに関する知識を最も持っているのが俺だという事(少なくとも今回の研究班では1番)。これは新タイプに関する研究の副産物だな。どうしても外国産や他地方のポケモンが多くなるのは致し方あるまい。

 そしてもうひとつ。オーキドのおっさん……いや、博士が最近年で動けなくなってきていることの2つだ。まぁ、オーキド博士直々に行ってくれと言われたら行くしか無いだろう。

 などと愚痴ったが、実際は俺にも理由はある。

 

 

 俺はさ、あのポケモンに会ってみたいんだよ。野生環境下で。

 

 

 と。ここまで分割思考でお送りしたが、その内に博士と概要のすりあわせを行い終えている。後は、契約についてだな。

 

 

「後は、サンプル対象ですが……契約の通りサンプル採取以外では私達もデータ採取などをさせて貰うことになります。調査の結果によっては新種として登録もしますね。他に何か質問は?」

 

「無いよ。只でさえ護衛、現地入り、向こうでの必要物資ですらそちらの伝手を使って準備してもらうのに、研究費用の受け持ちまでそっちのほうが多いんだからね」

 

 

 言ってフジ博士は笑顔を見せる。ふぅ、どうやらまとまったようだな。

 その後、空港や食料などの調達の関係から先に北の大陸の地方を経由するとか、ジャングルでの注意事項とかについての説明を細かく行って解散になった。

 

 

 

 

 ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 

 その後1泊した俺達研究班は現在、クチバ行きの往復船に乗り込んでいる。

 ……と、今最後の研究員が乗り込んだ。あとは俺が船に乗り込むだけだな。

 

 

「……では、これで失礼しま……」

 

「うおーい!」

 

 

 俺の声を遮って、禿頭の男性が隣……といっても結構離れているが……の建物から大声を上げて走って来る。

 どうやらフジ博士の知り合いか……って、知ってるけどな!!

 

 

「おお、カツラじゃないか。ジムの方は良いのか?」

 

「いやぁ、ようやくジムとして機能できる目処がついたのでな! ……ところでこちらの少年は?」

 

 

 グレンジムのジムリーダー、カツラであった。

 ……当然ながら、ヅラではない!

 

 

「どうも。タマムシ大学から来ました……」

 

 

 自己紹介は割愛。ちなみに俺の自己紹介に、カツラさんは「がっはっは! 頑張れよ、坊主!」とか言ってくれた。明るい親父だな、カツラさん。

 ……というか、この島の住民は殆どが研究者なのにジムがあっても……あぁ、そうか。ジムがあるからこそ人が集まるっていう面があるのかもしれないな。

 ま、俺はこの島に住むつもりはないんだけどな。未来の噴火的な意味で。そっちは人的被害が出ないよう、なんとかしたいところでもあるしなぁ

 等々。俺がポケモンジムの有用性とかについて考えていると、写真を撮ろうという話の流れになっていたようだった。

 

 

「ちょうどいい、わたしのジム開業記念だ! 君も一緒に写真に写らんかね?」

 

「あー……良いのですか?」

 

「なに、構わん構わん!!」

 

 

 えっらい明るい(性格とか)親父だな、カツラさん!

 カメラはフジ博士が用意したそうだ。スタンドにカメラを置いて、シャッターを押し。こちらへ走って来て2人が肩を組む。俺は身長的に、その2人の前に立ち……。

 

 

「はい! チーズ!!」

 

 

 《パシャッ!》

 

 

 またも掛け声がカツラさん。

 禿頭含めてめがっさ明るい親父だな、カツラさん!

 

 

「はっはっは! あとで坊主のところにも送っておいてやろう!」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

「では、ショウ君。来年の実行までは何度か顔も合わせるだろう。これからもよろしく頼むよ」

 

 

 俺はフジ博士の言葉に丁寧に返答し、船に乗り込む。

 これからの未来に起こるであろう「実験」を思うとあまり気は進まないんだけど、これも正しい歴史ではある。

 せめてあのポケモンを「まぼろし」にしてしまわないよう、尽力しておきたいよな。

 

 

 





・ミュウイベント

 この一連の流れが原作前での1番大きなイベントですね。
 ちなみに原作ではミュウ発見は「20世紀後半」となっています。これを本作においてはギリギリ20世紀であるということから、ねじ込んでいる次第です。
 (作品内は現在1991年、主人公が言っているように来年行くので調査・発見が1992年となります)
 ……えぇ、私も強引だとは思うのですけど。

 この辺りを追体験……というか、後日談的なものを見られるイベントは、ルビー・サファイアにおける「さいはてのことう」イベントとなっております。
 色違いを探したりするには有用。


※20210714 追記校正
※20210810 後書き修正。みなみのことう→さいはてのことう

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