ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ58 VSミュウツー④

 

 

 ―― ハナダシティ、北北西の郊外

 

 

 クルミの呟きを無視したついでとばかりに肉体の疲労を根性で無視し、更についでとばかりに雨粒をガン無視。必死で息継ぎをしながら最後の丘を走って登る。

 因みに、ここまで来る間も引き続き野生ポケモンの相手をしてくれていたピジョンに関しては、上手く経験値を稼ぐことが出来たから今はボールの中だったりなんだり。

 

 隣を走るピンク髪の眼鏡アナウンサーことクルミは戦闘が近くなってきた事を察してか、カメラの電源を入れているご様子。

 俺も丘の頂点に差し掛かった所で立ち止まり、息を整えて、と。……ふぅ。んじゃまずは、隣で不審な行動をしているお人へ突っ込みを入れるとしましょうか。

 

 

「えーぇと、こう、でしたっけ? あれ?」

 

 

 手持ちがスリープオンリーのこのお方は、手元で小型カメラを何やらこねくり回していてだな。

 ……もしかして。

 

 

「もしかして、自分撮りは初めてですか?」

 

「はいですぅ。そもそもわたしもアオイちゃんも、声ならともかく、映像出演は本業ではないですからねぇ。……うぅん。とりあえず、このボタンを押しちゃいましょう。えいっ!」

 

「そですか。……あ、それで撮れてるみたいですよ。ランプが点灯してます。それと手元ばかり見ていますが、転ばないように足元にも気をつけて下さいね」

 

「おぉぅ、確かにつきました! ナイスですよぅ、ルリちゃんっ! ……ですが、わたしはそんなに転倒率高くはないのですよ? アオイちゃんはあれですけども」

 

「……アオイさんのあれ、本気でやってるんですか」

 

「多分、そうですよぅ。わたしもボケキャラ以外は、結構素ですからねぇ」

 

 

 どうにものほほんと話すクルミ。……それにしてもよりによって、その話し方が素だってのがおっそろしいんだが。

 

 ん。そんな戯言思考は置いといて。俺も本気で行くための仕込みをするとしますか。まずは、俺の隣にいるクルミからだ。

 

 

「あー……ところで、クルミさん」

 

「なんですぅ?」

 

「1つだけ、お願いがあります」

 

「む、なんでしょうか」

 

 

 言いながらも、俺たちは歩みを止めない。ひたすらに丘の向こうを目指す。

 

 

「クルミさんがこれからこの丘の向こうで見ることは、他言無用にして下されば、と」

 

「……わたしがこれから撮る動画を、お蔵入りにしろというのですかぁ?」

 

「いえ。『貴女が見たこと』は、他言無用です。……きっと貴女は、色々と気付きます。貴女だからこそ、気付いてしまいます。……映像を公開する分には、全く問題はないんですよ。ただそこに『貴女の』コメントさえないのであれば」

 

「……その代償は、」

 

「えぇ。クルミさんが他言無用でいてくれる事に対するあたしの支払いは、カントー地方の平和と安寧という事で、どうでしょうかね」

 

「……うー……それって脅迫じゃあないですかぁ?」

 

「いえ。残念ながら、そういう事じゃあないのですよ。―― あなたの映像があるからこそ、『自分』は本気を出す意味があるのです。が、あなたが映像を撮るからこそ気付かれてしまう。つまり、」

 

「広められるのであればぁ、『本気を出せない』と?」

 

「おぉ、そですね。流石はクルミさん。話が早いです」

 

「……もしかして、最初からそのつもりだったんですかぁ。わたしを同行させたのも、つまりは……」

 

「おぉ、そですね。流石はクルミさん。以下同文」

 

「うっわぁ……ルリちゃん、恐ろしい娘ですねぇ」

 

「はいはい。そろそろ着きますから。カメラの準備は良いですかね?」

 

「そんなもの、とっくの昔に済んでますよぅ!」

 

 

 こんなやり取りをしながらも歩みを止めずにいた結果として、俺たちの目の前には「丘の向こう」が見えて来ていた。

 緑気の少ない、灰色と土色の入り混じった丘と薄暗い林。登る間向こうに見えていた空は、既に視界の外に。

 変わりに映るのは ――

 

 

「行けぇカイリュー! 『げきりん』ッ!」

 

「相打て、カイリキー! 宙に投げた岩を砕け! 『いわなだれ』!」

 

「ラプラス! 『ふぶき』!」

 

「リューゥッ!!」「ィリキィ!」「クォォンッ!」

 

 

 ―― ガ、オンッ!

 

 

「……ミュー」

 

 

 四天王3人のポケモンによって繰り出された『げきりん』『いわなだれ』『ふぶき』が直撃するも、ミュウツーは多少揺れ動くのみ。吹雪が過ぎ去った宙に平然と浮かんでいる。

 

 

「くっ……! やはり通じないか。だが、それでこそ心躍る!」

 

「なんかもう、レベルが違いすぎるわね。でも、それでも、戦わない訳には行かないわ。力を貸してね、ラプラス!」

 

「はっはっは、流石だね! ……まだまだ行くぞ、カイリュー!」

 

 

 ワタル、カンナ、シバの3人の顔に映っているのは、絶望というよりは喜悦。

 なにせあんなに、「ポケモン(ミュウツー)とトレーナーの両方が」楽しそうにしているんだからな。

 む、そういえばミィとキクコさんの姿が見えないが……ちょっと連絡しておくか。こんな時のためのトレーナーツールなんだしな。

 俺はトレーナーツールを弄り、ミィへと電子文面での連絡を送る。そんな俺の隣では、

 

 

「……はぁ。なんですかぁ、アレ」

 

「ん? 決まってるじゃあないですか」

 

 

 きっと、困難極まる死闘を想像していたんだろう。呆れ顔を浮かべたクルミに向かってボール片手に振り向き……言ってやるか。あれは、

 

 

「あれは ―― 『ポケモン勝負(バトル)』でしょーが!」

 

「この状況でその笑顔は、非常に眩しいですよぅ!?」

 

 

 ツッコミを入れたクルミを尻目にコートの内から白塗りのモンスターボールを取り出し、今の俺の全速力で走ると、半ば丘から滑り降りるような形になる。

 さぁて、最終決戦! 気合入れていきますかぁ!!

 

 

「クルミさんは、どうぞそこで撮影をば!!」

 

「どうぞご武運を! ……来ますよぅ!!」

 

 

 ……なんて呼びかけで前へと視線を移せば、ミュウツーはさっきの3発のお返しとばかりに腕を掲げ、「紫色の光」を浮かばせていた。

 来るぞ、『サイコブレイク』!

 

 

「ミュー」

 

 ―― ヒュワッ、

 

 《《ドォウッ ―― バァンッ!!》》

 

 

 四天王3人のエース達が吹き飛ばされ、地面が広範囲に「引っくり返された」。

 地中の爆発物が一斉に爆発したかのような勢いで土が吹き飛び……ミュウツーが上から攻撃したため、横に吹き飛んでくれたのがせめてもの救いか。降ってきた土に押しつぶされちゃあたまらないからな。

 爆発音が鳴り止まないうちに俺は丘を降りきり、四天王3人とミュウツーの間を位置取る。コートの内からボールを取り出し、

 

 

「……ミュー」

 

「やぁやぁ。お久しぶり、ですかね?」

 

 

 宙に浮かぶミュウツーに向かって手を挙げ、とりあえずのご挨拶をしておく。ヤマブキ以来のご対面だな……と、いや。そんなに時間は経っていないんだけどな? 気分的なもんだ。

 さて。ミュウツーも此方(おれ)を認識してくれた所で……その前に、と。

 

 

「……無事ですか、カンナさん?」

 

「えぇ。残念なことにね!」

 

 

 そのタイトな格好を雨交じりの土によって泥だらけにしたカンナさんは、俺の呼びかけによって見事に立ち上がってくれたのだった。

 ……あの威力の『サイコブレイク』を受けて立ち上がれるってのも、凄いと思うんだけどな。まぁ実際に「受けた」のはラプラスなんだし、四天王だから別にいいんだろう。多分。

 

 で。立ち上がったカンナさんは横で倒れているラプラスを撫でながら、素早く後ろを振り向く。

 

 

「……ワタル! シバ! 無事なの!?」

 

「ああ。おれ自身は、な。手持ちはともかくとして、だが」

 

「ふうっ! なんとか無事だ! ……オレも手持ちは全滅してしまったけどな」

 

「それはわたしだって一緒よ。……さて、お嬢ちゃん。非常に不躾で、みっともなく、大人らしくないお願いよ。―― この場をお願いしても良いかしら」

 

 

 カンナさんのラプラスをボールに戻し、俺と視線を合わせた後での台詞である。

 ……あー、責任感強めのカンナさんのことだ。見た目的にも実状的にも子供たる俺へミュウツーの相手を任せるってのに、罪悪感を感じているんだろう。セキチクでの事もあるしな。

 しっかしミュウツーも、この3人を相手にしておきながらまだピンピンしてるとかいう。―― うぅん。

 俺は、再び浮かぶミュウツーへと視線を移しながら。

 

 

「それにしても、カンナさんでも駄目でしたか」

 

「えぇ。……というかこのポケモン、最初からお嬢ちゃんを待っていたみたいよ?」

 

「……。マジですか?」

 

 

 四天王のお三方を待ち合わせまでの暇つぶしに使うとか、見事な贅沢っぷりだと思うんだが。

 

 

「ミュー」

 

「ほらね」

 

「うっわ。肯定しますか!」

 

 

 視線と話題を向けられたミュウツーが、コクリと頷いてみせる。肯定すんのかよ、おい!

 

 

「オレもシバもカンナさんも、手持ちのポケモンは全部やられてしまったよ。……ならキミが、待ち合わせの相手たるキミが。相手をしてくれると、助かるんだけどな」

 

「む……俺からも頼みたい。この白いポケモンが満足するに至るバトルを、俺達ではしてやることが出来なかった」

 

 

 ワタルと、その次に口を開いたシバの言葉が妙に頭に響く。 

 ……そうか。待っていてくれたってのは非常に嬉しいような迷惑なような、微妙な心持ではある。

 だが確かに、ミュウツーは判っていてくれたのかもしれない。

 

「(俺は海上じゃあ、手持ちのポケモン達を最大限活かしてやることが出来ない。サカキの隣にいる状態でも、色々と制限がかかるからな。おんなじだ)」

 

 そう。今までの俺では、色んな柵があるせいで全てを出し切れていないのだ。

 だからと言ってここで全てを出せるのかといわれれば、(クルミの撮影の事があるんで)そうでもないんだが……

 

「(……どちらにせよ、策は尽くせた。あとはクルミ次第か)」

 

 こんな面倒な事態になってるのは、俺が色々と「仕込み過ぎる」のが悪いんだからな。自業自得ってもんだ。

 だがまぁ、「仕込み」がなくては後々に苦労が多そうなんで……いや、どちらにせよ苦労する事は約束されているんだが……仕込みをしておきたかったのも、確か。

 

 つまり何が言いたいかというと、仕込みに関して(コレ)は、ここで悩んでいても仕方がない無駄思考の類でしょうと!

 

 

「そんなら、行きますか! カンナさんは、皆さんを連れてハナダへ戻っていてください! その後は街中での援護に回ってくだされば!」

 

「……それで、良いの?」

 

「ハイ、です!」

 

「……わかった。ここはお嬢ちゃん達に任せるわ。それと、ミィとキクコさんはもうちょっと外側で野生ポケモン達を追っ払ってくれているの。もう少しで合流してくれると思う!!」

 

「引き受けました! ……んじゃ、ご武運を!」

 

「それはこっちの台詞よっ!!」

 

「頼んだよ、シ……ルリちゃん!」

 

「もう何も言うことはない。おまえ自身、その先へと進むといい!」

 

 

 言いながら、カンナさん達を背に乗せ「ひんし」状態ながらに飛んでいくカイリューの巨体が視界の端に映る。どうやらミュウツーも素直に逃がしてくれているらしく、そちらへ『プレッシャー』を放ってはいないご様子で。

 ……ワタルの野生的とでも言うべき勘の良さには、ちょっと吃驚したけどな。

 さてさて。対する俺はというと、飛び去った一行のその代わりにとでも言うべきか。ミュウツーの『プレッシャー』を一身に浴びながら……モンスターボールを足元へと放る。

 

 

「頼んだ、みんな(・・・)!!」

 

 《《ボボゥンッ!!》》

 

 

「ギャゥゥ、オォン!!」

 

 

 先ず出てきたのは、うす青い身体の怪獣っぽいポケモン、ニドクイン。

 俺が2番目に手にしたポケモンにして、最古参の1体でもある。思えば、ニドリーナ時代には俺のメンバーに足りない攻撃力を補ってくれる要を担ってくれていたな。さらに今では、ホウエン地方で『かみくだく』を覚えてニドクインに進化し、エースとしての役目も負ってくれている頼もしいヤツだ。

 

 

「ンミュッ! ミューミミュ!!」

 

 

 ヤル気満々で出てきてくれたのは、ミュウ。

 所謂「伝説ポケモン」の1体で、俺が海外出張でギアナに行った際に捕まえてきた……この事件の発端とでも言うべきポケモン。

 その明るさ、何にでも突っ込んでいく好奇心、そして何よりバトルのセンス。伝説との名前にそぐわない実力を発揮してくれている、ニドクインと並んで頼もしいヤツだ。

 ……ただしこれまで俺が「伝説ポケモンを衆目に晒す事を避けていた」こともあって、ミュウ自身はポケモンバトル好きだというのに、思う存分バトルをさせてあげられてないんだよな。

 まぁ、それに関してはその内に何とかしてみせるからさ。もうちょい待っててくれ。

 

 

「プーリュー♪」

 

 

 ボールから出ると同時にクルリとターンして見せたのは、プリン。

 シンオウ地方に行った際にウラヤマさんの庭から着いてきてくれたこのプリンは未だにレベル12であるものの、補助技でサポートをしてくれるため、今では欠かせないメンバーとなった。

 低レベルだというのに物怖じせず高レベルポケモンにも向かっていけるその肝っ玉は、多分メンバーの中で1番だろう。

 因みに自慢の美声で我が班員の研究に協力してくれていたりもしたが、うぅん。俺の「研究に協力させていた」目的もあるからな。それは一旦置いといて。

 

 

「クゥ、チィ♪」「ガチ、ガチィンッ!」

 

 

 クチートは俺の方へと向きながら、パチリとウィンクをしてみせる。頭の後ろの大顎は、相手(ミュウツー)に向けたままだ。

 ホウエン地方を冒険中に「そらのはしら」から着いてきてくれたコイツは、この時代では非常に貴重な「鋼タイプ」要員である。「そらのはしら」が高レベルダンジョンであることから元々のレベル自体も高く、即戦力となってくれているのが嬉しい限り。

 元々の習得技がトリッキーなこともあってか、状態変化要因としても活躍してくれているしな。ゲーム同様に器用な戦いが出来る1体だ。

 

 

「ガゥゥ、ウウ!」

 

 

 満を持しての5体目。

 俺の足元辺りをのたのた歩くのは、俺がシンオウ地方からマサラへと帰った際にシャガさんから譲られたポケモン ――

 

 

「―― 頼みましたです、モノズ!」

 

「ガゥ」ノッシノッシ

 

 

 おおう。相変わらず、非常にマイペースなお方。

 さてさて。対峙するミュウツーを意にも介さず四足でのそのそのたのたと歩くのは、ご紹介に(あずか)りました通り。

 BW以降で登場している悪・ドラゴン複合タイプのポケモン ―― モノズだったり! (名前は本邦初公開だけど!!)

 ドラゴン使いたるシャガさんから譲り受けたコイツは、青い肌に黒々とした頭巾を被ったような、怪獣っぽい外見をしている。カントーにいない「悪タイプ」も研究対象としている俺としてはコイツの存在自体が非常にありがたい。そして何より、悪タイプは「エスパータイプの技を無効化できる」からな。ミュウツー戦の切り札にもなっているという次第なのだ。

 

 

 さぁて。そんなモノズを差し置いてご紹介するのは、俺の「戦闘用ポケモン」最初にして最後の1体。

 

 

「―― ピィ、ジョオオオオッ!!」

 

 

 バサバサと翼をはためかせるその身体は、鳴声こそ以前と大差ない。しかしここまで連戦をこなしてもらったからには経験値も入っており、ついでに、これまで優先してレベルを上げていたニドクインが無事に進化できたこともあったからな。俺との付き合いが一番長い、文字通り「初めてのポケモン」であるコイツの特訓にも力を入れることが出来ていたのだ。

 ……んでもって、よくよく見ると身体つきは以前よりも2周りほど大きくなっている。トサカも長く、サラサラモフモフになっている。これならマッハ2で飛べそうだ。

 つまり、

 

 

「さぁ……実力を見せてあげましょうです、『ピジョット』!!」

 

「ピィィ、ジョォーッ!!」

 

 

 うん、よし。ヤル気とコンディション、共に十分!

 

 俺はこの6体を出した所で、(プリンだけは俺の隣だが)自分の周囲にぐるっと環状に配置する。するとミュウツーは此方の準備が整ったのを感じてか、「もういいのか?」とでも言いそうな視線をこちらへと向けた。

 いや、ホントにゴメン。……一応脳内解説だったんで時間的には数秒だったと思うんですが、長いですよね。スンマセンです。

 なんて風に脳内で謝っておきつつ、俺もミュウツーへと向き直ることに。やや上に浮かぶ姿を目に映して、口を開く。

 

 

「まぁでも、これで準備はオーケーですよ。あちらの丘の上に撮影係さんがいますが、彼女は邪魔をしませんから」

 

「……ミュー」フワッ

 

 

 今まで地に足をつけていたミュウツーは俺からの呼びかけによって浮き上がり、戦闘態勢を取る。

 ……しっかし、こうして見上げてみるとミュウツーの威圧感がよく判るな。遠くでは、カメラ片手のクルミさんがこの威圧感の余波を受けて若干カメラを構えなおしたのが見えるし。

 見えつつ……俺は回りにいる「6体のポケモン全て」に見える様に腕を振りかざながら、思う。

 

「(全部を出す、か。言葉で言うのは簡単だけど、こうして実際に伝ポケと向かい合ってみてると……難しいよな)」

 

 でもそれが普通なんだ。少なくとも、この世界で生きる……ポケモントレーナーとしては。

 なにせこのミュウツーは、俺の知識を総動員しようと「勝てるかどうかわからない」。つまり、この世界でのトレーナーとしての力量こそが試される相手なんだ。

 

「(倒さないと……って、やっぱり違う。俺はこの世界に住むポケモントレーナーの1人として『倒したい』んだ)」

 

 結局はそこに尽きてしまう。

 今までの転生先とは違う点……俺の戦闘能力は、この世界における主要な『強さ』を成してはいない。ポケモンこそが、『強さ』であると言えるだろう。

 だからこそ ―― この世界でこそ。俺は……っとと!

 

 

「……ピジョ?」「ギャゥゥ?」「ミューゥ?」スイッ「プリュー!」「ガウ」グイグイ「クチ、チィ。ガチガチ!」

 

「うぉ! ……心配かけたか。いやいや、だいじょぶ。ちょっと考えてただけだからな?」

 

 

 少しだけ考えに嵌っていた所で我が仲間達からの呼びかけを受け、思考の沼から浮かび上がる。

 そうだよな。心配かけてスマン! ただここで、俺は全力を尽くす。それで良いんだ。

 頑張ってくれているお前たちのためにも、ここまで作戦に付き合ってくれているこの世界の人達のためにも、ついでに、俺のためにもな。

 

 

「……ふぅ」

 

 ―― ザーァァァァァ……

 

 

 思考を切り、いつもよりもすっきりとした心持ちで正面を見る。

 大きな雨粒がボツボツと濡らし続けるハナダシティ郊外の大地は、今まで繰り広げられていた四天王(マイナス1人だが)とミュウツーとの戦闘によってボコボコに変形していた。

 俺の身体を囲むように居てくれるポケモン達と順番に目を合わせ、確認。これは9年間この世界で生きてきている経験からなのか……どうやら皆、プレッシャーに圧されてはいないみたいだってのが伝わってくる。

 次いで目の前のミュウツーと視線を交差させ、うん。やっぱり改めてのご挨拶からかな。

 

 

「お待たせしましたです、ミュウツー。あたしは、マサラタウン在住の……えっと、その……えぇい! 『ショウ』でも『ルリ』でも、好きなほうで覚えてくれりゃあ良い!!」

 

「……ミュー?」

 

 

 どうせあの距離のカメラじゃあ音声までは拾えないし、口元も殆ど見えないだろ!!

 

 

「なんて、大切なのはこっからなんです。―― これが、最終決戦だ。俺は、出来る限りの全力を尽くす! だから俺のポケモン達が、そしてポケモントレーナーたる『俺が』! 全力を持ってお前を負かしてみせる!」

 

「ミュー」

 

「……すぅ、はぁ。すぅ、はぁ」

 

 

 息を吸い込む。ついでに目を閉じ、しばし深呼吸。

 

 ……うっし。行くか!

 

 戦うんだという意思を漲らせた目を見開き、ミュウツーにも自分のポケモン達にもよく聞こえる様に。そしてなにより俺自身に言い聞かせる為、大きな声で開戦の言葉を告げる。

 

 

「行こう、皆! ……楽しい楽しい、ポケモンバトルのスタートだ!!」

 

 

 これが今の俺が出せる、「ポケモントレーナー」としての、全てなんだから!!

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

「……ミュー」

 

 ――《ズワァッ!》

 

 

 俺が指示を出すと同時に周りの5体(中央に立つ俺の隣にプリン)が動き、迎え撃つミュウツーは素早く腕を振って念波を繰り出す。

 『サイコキネシス』……じゃあないな。出力が桁違いだからアレだけど、『ねんりき』か!

 けど勿論、心配はない。このために「俺の前にはモノズが配置されている」んだ。

 

 

 ―― クワァァンッ!!

 

「うっお……モノズ、大丈夫か!?」

 

「ガウウ!」

 

 

 目の前の身体がフルフルと奮え、無傷であることを示すために元気の良い鳴声をあげてくれる。此方へ向かってきた念波は「予定通り」、モノズを中心とした一帯から消え去っていった。多少距離の離れた所ではぶつかった念波が炸裂しているが……今は、反撃!

 

 

「『じこあんじ』! (『あやしいかぜ』!) 『りゅうのいぶき』! (『かみくだく』!) 『うたう』! (ミュウも『あやしいかぜ』!)」

 

 

 俺は『左手を掲げてニドクインとピジョットとミュウへサインで指示を出し』、『俺の指示になれていない手持ちポケモンには口頭で指示を出し』、『右手を使って自分の周囲に配置したポケモンの配置を反時計回りに動かす』。

 指示は口頭でも出すけれど、指示を出されるポケモンの内……『じこあんじ』はクチート、『りゅうのいぶき』はモノズ、『うたう』はプリンしか覚えていないからな。なんとか皆対応し、指示通りに技を飛ばしてくれる。

 

 

「ギャオオォォンッ!!」

 

 ――《ド、シィンッ!!》

 

「……ミュー!」

 

「……ンミューゥ!」

 

 ――《《ひゅおおんっ!》》

 

 

 最前にいたニドクインが地面を砕くほどの脚力で跳躍し、『かみくだく』でミュウツーを引き摺り下ろしつつ、他のポケモンで追撃。

 ニドクインの両後ろに位置したピジョット、モノズが間接攻撃を。俺の後ろにいるミュウとクチートには遠距離攻撃および補助技を繰り出して貰っているからな。

 

 ……かといって、これじゃあ根本的な解決にはなっていないんだが……うむ。それはひとまず、援軍待ちとしようか。

 

 

「ミュー」

 

 ――《ヒィ、》

 

「来るぞ、皆! ――『ローテ』だ!!」

 

 

 ミュウツーの「溜め」に合わせてまたも右腕を振り、モノズを俺の前方に回す様に陣形を動かす。

 ―― んでもって。ここいらで解説を。

 只今俺は、散々焦らしていた『切り札』を使用していたりする。つまり、ここで『切り札』たるのは、エスパータイプを無効化できる悪タイプのモノズでもなく、遂に進化できたピジョットでもなく。

 

 ―― 先程から行っているこの『戦い方』こそが切り札なのだ。

 

 

「戻ってニドクイン! (モノズ、頼んだ!)」

 

「ギャウ!」「(ガウガウ!)」

 

「ミュー」

 

 《ズウォンッ!!》

 

 

 ニドクインが1飛びで戦列へと戻り、モノズが俺とプリンを重点とした五角形の先頭に回る。するとミュウツーが腕を振って出した念波は、掻き消されたかの如く消えて無くなった。その結果、こっちの手持ちは全員が無傷だ。

 この戦い方。ポケモン6体に対してトレーナー1人で指示を出し、一塊の円形(というよりは五角形なのだが)に陣取ったポケモン達を動かしながら攻撃と防御を行う。

 

 ……その名も、『6体ローテーション(フルローテ)』!

 

 んじゃあここで、まとめて説明でもしておこうか!

 久しぶりの ――

 

 

 

 

 

ΘΘ思索の底ΘΘ

 

 

 本当に久しぶり! だいぶ出てなかったけども!!

 (そして出るたびに名前が変わる気も!)

 

 

 さてさて、俺の切り札こと『6体ローテーション(フルローテ)』。

 これは俺が今まで行ってきた『複数のポケモンに指示を出しながら戦う戦闘』の最終系とでも言うべき戦い方。ゲームじゃあBW以降で行われる、「ローテーションバトル」で使われていた戦い方なのだが……

 

「(何より「位置移動(ローテーション)にターン数を消費しない」ってのが素晴らしいよな)」

 

 利点を簡潔に言ってしまえば ―― 繰り出したポケモンの内、「ローテーションバトルでは先頭のポケモンしか相手の技を受けない」のだ。つまり先頭にモノズを配置しさえすれば、ミュウツーのエスパー技は防げる事になる、と。

 けど勿論、問題もあった。

 これは俺の9年間にわたる試行錯誤による経験からだが、普通に口頭で技名を叫んでいては、同時に指示を出せるポケモンはゲームの通りに3体が限界数だったと思う。ゲームでは3対3で戦う方式だったからなぁ……ローテーションバトルって。

 だが俺は「ポケモントレーナーとして持てる全てを出す」とすれば、まだ「先」があると感じていた。それが、そう。『手持ち全てのポケモンを出して、戦う事』だったという次第!

 

「(えーと……他に纏めておくべき事は、っと)」

 

 ここらで一息、ついでの解説(むだしこう)をしておくか。無駄思考怖い。

 

 ……えふん。置いといて。

 思うに目の前のミュウツーは「伝説ポケモン」との呼び名に名実共に相応しい。なぜなら「攻撃の範囲が格段に広いのに、技威力の減衰が殆ど無い」んだ。

 

「(ミュウツーじゃあ、言語的には『伝説ポケモン』なんて呼び名は相応しくないけど……なら、定義付けを変えてみれば良い)」

 

 『伝説ポケモン』なんていうのであれば、ウィンディも入ってしまうんからな。まぁ、それは良いとして。

 

 ゲームであれば、『伝説ポケモン』としての区切りは(これは恐らく、個人的に、ってなもんだが)『種族値の高さ』と『貴重さ』だったろう。

 (600族云々は置いといて)合計種族値が高めで、とりあえず卵による孵化が出来ない……通信対戦などにおいては制限をかけたくもなって来るようなポケモン達を『伝説』と呼んでいたんだ。これはまぁ、色々と初代からの流れ的な理由も含まれているけど。

 話を戻して。

 そんじゃあこの世界における定義付けだが……『伝説』と呼ばれるポケモン種自体は、変わらないと思う。だが、そのポケモン達が「そう」呼ばれる理由は「広範囲の地域に影響を及ぼすことが出来る」事だと思うのだ。

 

「(シロナさんから話を聞いた限り、シンオウでもどこでも、『伝説』なんてのは『多くの人を伝って語り継がれる』ものらしいし)」

 

 つまりはミュウツーみたいに多くのポケモン、多くの人、更には多くのトレーナーをも「1体で相手にする事が出来る」ポケモンこそが、『伝説』足り得るのであろうと考えたのだ。

 実際、目の前のミュウツーは対多数戦闘においては一騎当千の実力を持っている。これは結果論だが、強いトレーナーとの戦いを求めて、カントー全域を恐怖に陥れたのも事実。

 

「(オマケに攻撃範囲も段違いときてる。範囲を広げた『ねんりき』1発で、サカキのニドキングが吹っ飛んでたからな!)」

 

 エスパー使いたるナツメでも、ダイゴ戦のメタグロスでも、エスパー技は攻撃範囲を広げるとその範囲辺りの攻撃力は弱まっていたんだ。これがミュウツーの……ひいては「伝説ポケモンの」特性なんだろう。

 

 で。

 この「攻撃範囲の広さ」に対して、俺たちが取っている「6体ローテーション(フルローテ)」はすこぶる相性が良い。なぜなら、一塊になっているからには「攻撃範囲は意味を成さない」。ついでに「6体ローテーション(フルローテ)」の特性から、「その攻撃は先頭の1体だけで受けることが出来る」のだ。

 ここで無効化タイプを活かしたり『まもる』を挟んだりすれば、……実際にこうしてミュウツー相手であっても、鉄壁の防御力を誇る陣形となってくれる次第なのである。

 

 ……一応「ポケモン1体を前に出して壁になって貰う」という作戦も考えはしたんだが、それはミュウツーの学習能力の高さを考慮するとどうにも悪手な気がするからなぁ。それは後々に。

 

 

 

ΘΘ以下、現実ΘΘ

 

 

 

 

 ―― うん、これにて無駄思考は終了。経過時間は0.1秒位。

 

 ところでこんな風に纏めてしまったけど、これから俺は未来で伝説ポケモン(そんなの)と何度も戦闘する予定なのである。伝説ポケモンの異常な強さが判明すると、俺にとっては未来の不安材料にもなってしまう。

 ……とりあえず、今は後回しにしておくか。その時期までまだまだ時間はあるんだしさ。

 

 

「それに、集中しないと目の前の相手に失礼だ……っと!!」

 

 

 再び腕を振ってニドクインを先頭に据えつつ、反撃の指示を出す。

 ピジョットとミュウが『あやしいかぜ』を吹かせつつ、先頭に移動したニドクインがそのまま跳んで『かみくだく』。クチートが『うそなき』で無駄覚悟の特殊防御低下を仕掛け、モノズは『りゅうのいぶき』。

 ついでに、プリンには「奥の手」があるんだが、こればっかりはクルミに期待しておくしかないからな。もうちょっと状態異常狙いで歌っててもらうか。

 

 

「……だけどなぁ」

 

「―― ミュー」

 

 

 その白い身体はこれらを受けて尚、無傷だったりする。ワクワクしているのか、ミュウツーの気持ちテンション高めな鳴声が空しく響く。響いてしまうんだっ!

 ……一応、この堅さはある程度まで折込済みではあるけどな。なにせ『どわすれ』および『バリアー』を積みまくったと思われるミュウツーだからな。仕方がないだろう。合間合間で『しろいきり』と『しんぴのまもり』までかけている手の込み様だしさ。お陰でクチートの『うそなき』による強引な突破すら容易には許してくれなさそうだ。

 だけども、その「堅さ」とレベル100である事に所以する「攻撃力」が揃ってしまっていては……と。

 

 

「もう少し耐えててくれ、皆!」

 

「ギャオン!」「ピジョオッ!」「ミューッ♪」

「クチッ!」「プーリュー♪」「ガウッ」

 

「……ミュー」

 

 ――《ズオオッ!!》

 

 

 勢い良く出てきたその癖、俺と俺の手持ちポケモン達は。

 ……非常に気の遠くなるような持久戦を強いられてしまうのだった!

 

 






 大幅に遅れていまして、申し訳ありませんですすいませんっ。

 ポケモンの紹介をしていたら大分、容量がががが!
 そして大分、時間も喰ってくれましたたた(以下略

 ……最終決戦というだけでなく、今後の展開上の都合でもあるので、これについてはご容赦をば頂けると嬉しいです。
 個人的には容量の程度はテキスト形式10~15KBあたりが読みやすいと感じているのですが、vsミュウツーが⑩とかまで並ぶ目次も嫌なので、という。……このお話しも、26KBとかになってしまっています。申し訳なくっ(土下座

 そして主人公が悪・鋼タイプを研究している云々というのは、このためのフラグだったという次第でもあります。
 なにせ、悪・鋼は初代で猛威を振るったエスパータイプの調整役として機能するタイプですので。それはミュウツー戦においても然り、という流れなのです。
 因みにミュウツーがエスパー技以外を使えば済む、という当然のツッコミへの疑問は、次話で言い訳をさせて頂きます。今話はあまりにも言い訳を詰め込みすぎましたので。その詰め込みようたるや、思策の底(解説スペース)を引っ張ってきてしまった程なのですすいません。



 そして、非常に聡いお方向けの言い訳。
 …………メタモン、ですかー。
 こいつを使わなかったのには、変装要員であるということも勿論なのですが、かなり主人公的な理由があります。悪しからず。


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