1993年、年末。
カントー全域を大混乱に陥れた事件から、3ヶ月以上が経過していた。だが、かくいう俺……ショウはというと、やる事自体は相も変わらず研究だったりする。
いや、だってさ。夏休み修行からミュウツー事件、その後片付け……なんて流れになってしまってたからな? 研究の詰めは年末までに終わらせときたいし、今は頑張り時だろうと。多分な。
……でもこれで、仕事も ―― 終わり、っと!
俺は最後の一文をパソコンへと打ち込み、大きく伸びをした。その後で周囲から向けられる眼差しの主達へと勢い良く振り向き、喜びの一声を!
「うーっし、年内のノルマは終了だ!」
「ふっわー! やりましたね、ハンチョー!」「これも皆さんの協力あればこそ、ですが」「これで休めますね、班長!」
「ま、ノルマは終了ってだけだからな。まだまだ詰める部分はある……けどとりあえずは、休めるぞっ!」
「「「おおーっ」」」
懐かしい風の吹く町マサラタウンにある、世界的権威(の、筈である)オーキド博士率いる研究所にて。俺の班がこんなにも浮かれているのは、年末だからと言うだけではない。
―― ああ。なんとついに、ポケモン図鑑のデータを集めるだけでなく、纏める事が出来たんだ!
「(外観データはミュウツーを持って151匹のを採取完了済み。ステータスの数値化に必要なデータはあらかたとったし、クチートとモノズのおかげで鋼タイプ・悪タイプの研究も
強いて言えば、ステータスの数値化に関してはその数値の基準または中央値をどこに置くかという所で少し揉めはした。が、……これも原作知識様々だが……俺の提案でミュウの種族値をおおよそ100として、周囲のポケモンのデータを比較数値化していく事で何とかまとめることが出来たのだ。
なにせミュウさん、実に優秀な遺伝子をしてくれているからなぁ。ポケモンの祖っぽい感じの。研究班やら協会、リーグのお偉いさん方を説得するにあたって、この点が実に役立ってくれたのだ。祖であるからには、ミュウを基準とするのは間違っちゃあいないだろう……ってな。
「(ただしミュウを『公にする』のは、俺が何とかしてみせるべきなんだろうな)」
なんて、研究はもういいか(大分投げやり)。
俺は研究員達の横で半ば無意識に消音にしていたテレビをつけ、ここ暫く最も盛り上がっている話題 ―― ポケモンリーグについてのニュースを見る事にしてみる。
『―― と、はるばる海外からお越しのタイガ選手 ――』
「おお、ハンチョー。リーグのニュースですか?」
「あー、そうだ。……いくら俺でも、世間の話題に乗り遅れたくはないからな」
テレビをつけた所で班員が寄ってきて画面を覗き込むのだが……そう。ここ最近は研究室に篭りっきりだったが、現在世間は(ミュウツーによる事件のせいでカントーでの開催が遅れて)各地方一斉に行われる事となった、「ポケモンリーグ本戦」の話題で持ちきりなのだ。
『―― なぁるほどっ。シンオウリーグとホウエンリーグ、共に実力者が揃っているようですねぇ!』
『はい。ですが注目すべきは、やはりこの方!』
「……うげ」
これまた最近良く見るようになったアナウンサー2人がMCとなって進めているこの番組は、どうやらポケモンリーグ開催を控えての、各地方に居る有力トレーナーを紹介する番組になってるご様子。
けれども、注目すべきなんて大仰な言葉を使ってアオイさんが紹介するのは、そう。俺が思わずうめき声を上げてしまうような、……つまりは「黒コートのツインテ少女、
『おぉー、やっぱり。カントーリーグに出場すると予想されているルリちゃんですよね?』
『だって今年の「あの事件」で、大活躍した人だからねー。出場に期待しちゃうのは、仕方がない事でしょう!』
『まぁまぁ、タマランゼ会長さんも動画について「トレーナーとしての極致」なんてコメント出して、絶賛してましたからねぇ。とはいえルリちゃんは見た目的にもいいトコ10才ですよぅ?』
『んー……確かに。でも、カントー中の人が出場に期待しているポケモントレーナーなのは間違いないよ!』
『そうですね、そこに異論はありませんっ!!』
そう無責任に言い放って、腕をがっしりと組む2人。仲がいいのは判った……けどオイ。そこのクルミ科クルミ属な落葉高樹の種子的な名前のヤツ! お前、正体知っててその
「ハンチョー、出るんですか?」
「ニヤニヤするな我が班員。……まぁ、まだギリギリ間に合うからな。明日決めてくる予定だぞーっと」
「明日って言うとー、あぁ、リーグまで出張予定でしたね!」
眼鏡だけでなくその奥にある目をも爛々と輝かせて、期待の視線を向けてくる女性班員。
でもって本日で研究ノルマを終えたばかりだという俺の明日の予定は、班員の言った通り。あの騒動の後顔合わせをしたキクコに連れられて、ポケモンリーグまで向かう予定となっているのだ。
……実際、嫌な予感しかしないんだけどな?
「何とかなると、思っておきたいよなぁ」
そんな風に溜息をつきつつ……うっし。明日に備えて、色々と用意はしておくべきか。
そして迎えた翌日。
セキエイ高原の中央に立つ巨大な建物と闘技場。ここが通称『ポケモンリーグ』の中心地なのである。
キクコに連れられて文字通りここまで「飛んできた」俺は、ポケモンセンターに隣接されている競技場の更に横に建てられている、管理棟へと案内されている最中だ。
カツカツと杖を突きながら、しかし杖なんて要らないんじゃあないかってな姿勢の良さで目の前を歩いていくキクコの後ろを、ひたすらについて歩く。ついでに辺りをキョロキョロと見回してみて、……ふーむ。
「しっかし装飾過多な闘技場とは真逆で、管理棟は殺風景なんですね」
「そうかい? ……ひっひ! まぁ、お役所なんてぇこんなもんさ。装飾が多くても文句をつけられるだろう? ……それよりボウズ」
僅かにこちらを振り返り、俺へと話題を振るキクコ。……む、何用ですか。
「あんたは、ポケモンバトルが好きかい?」
「……ん。それは勿論、好きでしょうね。好きか嫌いかで返答するなら、ですが」
「期待通りの返答、感謝するよ。なら、これからされる話は渡りに船さ。……さ、着いた着いた」
キクコはそう言って立ち止まると、目の前にある扉を指す。
今まで並んでいた扉となんら変わりない扉だが、そこには「会長室」との表札がかかっていた。
「ほら、さっさと入りな。このためにあたしゃあ、ああして力を貸したんだからねぇ。……一応言っとくと、カンナに関しては独断専行だったんだがね! ひっひっひ!」
「……はいはい。カンナさんへの個人的なお礼も忘れませんよ。そんじゃあ失礼しまーす、と」
扉の脇に立ったキクコに促され、木製の軽い扉を開く。
俺が中に入ると扉は閉じ、部屋の上座で皮製の椅子に座っている
「―― うむ?」
老人は俺の入室に気付くと顔を上げ、席を立った。次いでこちらへと歩み寄りながら、口を開く。
「ほ。ようこそ、ポケモンリーグへ ―― 英雄さん。キミがあのトレーナーか……たまらんのう!」
「お会い出来て光栄です、タマランゼ会長。……光栄ですけど、やめてくださいよその台詞。会長の名前をもじっているのは判りますが、男同士で言われてもひたすら気持ちが悪いです」
タマランゼ会長。ポケモンリーグの代表兼総務みたいなのをやっているお人だ。
そして、どうやらこの会長。名前やら職種職能はアニメ準拠で、どうやらついでに決まり文句もアニメと同じく「たまらんのう」だって事が判明してしまった。……ひっじょーに、残念だけど。
俺の返し突っ込みという名の
「……自ら進んで女装しとったというに、随分と辛辣だな?」
「あー、はい。確かにしてましたよ。仕方なく、ですがね」
こんなやり取りをしながら、向かい合わせに設置されたソファへと座る。すると俺が座ったのを見届けた老人ことタマランゼ会長は、奥に立っていた事務員へとお茶を持ってくるよう頼んで、同じように向かいへと腰を下ろした。
事務員は一旦給湯室へと引っ込むとすぐさま戻ってきて、会長が座ると同時に、無駄のない動作でお茶を机の上に置いて見せた。
「よっこいせ、と。……おお、ありがとうアザミ君。キミの入れてくれるお茶はいつも変わらず美味しいからの」
「……最初から準備してありました。……あたしは、持ってきただけで」
「お礼は素直に受け取ってくれると嬉しいの。美人さんが持って来てくれる、というのは重要なのだからね。……それにしても、いつもながらつれないのう。アザミ君は」
「……お喋りは……好きではないので」
「む。だが、ありがとうという気持ちに偽りはないよ。……今日もありがとう。下がってくれたまえ」
「……はい」
そう言いながら隣の部屋へと引っ込んでいく黒髪ロングツリ目スーツの女性、アザミさん。あー……RSEにてバトルフロンティアにある施設「バトルチューブ」のフロンティアブレーンをやっていたお方だな、アレは。
つーかこうなってくると俺はもう、誰が出てきても驚かない気がするぞ。いや流石に、お茶汲みでゲーチスさんとか出てきたら吃驚するけど。
なんて本格的な無駄思考をしつつ、思わずアザミさんが去って行った後を目で追っていると、
「おお、キミもアザミ君が気になるか? 流石にお目が高い!! 彼女はバトルクラブ出身での。ポケモントレーナーとしても実力は確かなのだよ!」
「いや、多分会長さんの想像してるのとは違うと思いますけど……確かに気にはなりますね」
「ふむ。……彼女はトレーナーとして、なかなかに修羅場も経験している。故にわたしの秘書をやってもらっているのだ。これで、キミの疑問には答えられたかな? ショウ君」
こいつもエスパーか!
……エスパーなのか? (2度確認)
タマランゼ会長は途中で雰囲気を変えると、口には出していないはずの俺の疑問に的確に答えてみせたのだ。
……ふーむ。これは、油断できないなぁ。流石は伏魔殿・ポケモンリーグの会長、ってとこか。
そんな風に雰囲気を切り替えた所で一口お茶をすすって机に置き、ふぅと息を吐いた後。今まで以上に真剣な顔もちで、……来ますか。本題。
「さて……まずはお礼を言わせて欲しい。あの動画の主人公をオーキドから個人的に紹介された時は、流石のわたしも驚いたがね。―― 此度の騒動収束への尽力に、心よりの感謝を。ありがとう、ショウ君」
「いえいえ、頭を上げてください会長。俺は、俺自身の為にポケモンバトルをしたに過ぎないんですから」
「ほ、そういってくれると助かるがね。……会長としてもカントーに住む一人間としても、お前さん『方』には感謝しても仕切れんのだよ。会長として力の及ぶ範囲は、中々に狭いでの」
「……そですね。まぁ、やっぱり会長職は大変でしょうからねー」
「うむぅ。やはり協会やらシルフやら……ついでに国やらとの兼ね合いが大変でなぁ。今回の対応も、迅速にとは行かなかったのだ。その分はお前さん等が補ってはくれたが。そう言えば、我がリーグの誇るカンナ嬢も是非にお礼をと言っておったの!」
「お力になれてなにより。お礼はとりあえず、気持ちだけで。……それで、今回の呼び出しの目的は何ですか?」
「急くのう。ま、良いか。今日呼んだのは他でもない。わたし達からの『お礼』をキミに渡したいのだよ」
そう言うと、タマランゼ会長は手元にあったファイルの中から、2つの紙束を取り出した。
「これだ。……まず、1つ。キミに『トレーナー資格』を与えたい」
「……一応言っとくと俺、9才なんですが」
ポケモントレーナー資格を取るには「10才を迎える年の4月」にならないと、受験資格すらないんでしょうよ。あんたのトコで決めてるんですよ、コレ。そもそも俺が10才って、来年だし。……意外と近いな、来年。
「いや、ショウ君とは『別に』だ。将来的には特例中の特例で、合計2つのトレーナー資格を持ってもらう事になるだろうて。ほっほ。カードには『オマケ』も付けておくからの」
「……成る程。『ルリ』にトレーナー資格を与えるんですか」
「その通り! むむ、流石はショウ君。噂に違わぬ明察振りだ!」
「んー……まぁ、いいですよ。『ルリにトレーナー資格を与えておけば、今年度のポケモンリーグに参加させることが出来ます』し……それに。英雄を創り出しておけば、騒動に対する不満を
「うーむ、申し訳ない。……だが、2つめの申し出は先に言われてしまったね。ポケモンリーグ、出てくれるのかい?」
「はい。つまりこれは貴方達にとっても有益な話、ですからね」
「その通り! いやぁ。英雄云々もそうなのだが、『ルリちゃん』をポケモンリーグにゲスト枠で招待しろと、毎日山の如く要望書が届くのでな。リーグとしても無視できなくなってきているのだ。正直、キミが受けてくれて助かったよ。……だがわたし達にとって『も』という事は、キミにも利はあるのかの? カンナちゃんやキクコから聞いていたキミの性格からして、出場の話は断るのではないかと思っていたのだが」
「利はあります。そうですね……うぅん、と」
コレは所謂、開き直り。
俺が『ルリ』を全国的に有名にしたのは、このため。「謎の実力派ポケモントレーナーとして世間に根付かせてしまう為」なんだから。
俺は手元に白い試作モンスターボールを出し、内に入っている「
「謎の子どもトレーナー、ルリ。只でさえカントーでは見たことのない様なポケモンを多く使っていて、本人の素性も不明。……そんな人物の手持ちなら、思う存分『コイツ』もバトルをすることが出来ますから」
この作戦自体が、ミュウへのお礼でもある。
―― つまり俺はここまで一緒に来てくれた全ての手持ち達と共に、ポケモンリーグへ挑戦したかったのだ。
存在が公にはされておらず今の所は図鑑にも載る予定がない、ミュウ。映像媒体にはポケモンスナップみたいに「虹色の球体としか映されない」んだが、だからといって、ポケモンバトルが大好きなコイツを使ってあげられないのには罪悪感を感じていたからなぁ。どこかで思いっきりバトルをしたい、とは考えていたんだ。
でもって、そう。「ルリ」は「謎のミュウ使い」としてその役目を機能してくれる筈なんだ。
俺は顔を上げ、会長へと笑みを向けながら。
「やっぱり、ポケモンバトルはトレーナーとポケモンが一緒に楽しめなくちゃあいけないでしょう! ……なぁんて思ってまして」
「ほ! ならばわたしも、個人としての全力で協力しよう。ポケモントレーナー『ルリ』の、素性の隠蔽……いや。違うの。『ルリ』の存在の確立に、だ」
「あー……本当に良いんですか?」
「ふむ? まぁ問題が無いとはいえないが、しかし、ポケモンリーグに参加するに当たって、トレーナーの素性などは余り関係が無いからの。必要なのはポケモンバトルが強いか弱いか、その1点なのだよ」
「はぁ。……そんなら遠慮なく出場させてもらいますけど」
なら、出場に関しては一先ず問題ないか。……とはいえ、リーグに出場した「その後」は大変だと予想がついているんだけどな。例えば、「リーグに出場した手持ちは今後、目立ってしまう為に易々とは使えなくなる」とかさ。
「(それでも、会えなくなる訳じゃあない。マサラの研究所にでも預けてるなら、いつでも会える)」
それにあの組み合わせで持って歩けば気付かれるだろうけど、1体毎に手持ちに入れておくとかにすれば大丈夫だと思う。今でこそクチートもモノズも見慣れないポケモンだが、これからは別地方のポケモンの研究も進むからな。そうなってしまえば「ありふれたポケモンの1体」に違いない。
けど、ミュウは違う。研究が進むにつれ、その貴重さは更に浮き彫りになってきてしまうのだ。
つまりは今、この時。今年こそが……
「今年こそが、コイツと俺のコンビが大暴れできる……最も周りを気にせず楽しめる時期なんですから」
「了解したよ。それではわたしが、ポケモントレーナー『ルリ』をゲスト枠で登録しておこう。勿論、一般参加者と同じ扱いだがの!」
髭をすきつつ、実に楽しそうに手元の登録書を書き進めるタマランゼ会長。
……いや。確かにいきなり本戦参加! なんていうのじゃあなく、トーナメントからの参加にしてくれると助かる。後でグチグチ言われても面倒だし。
「ま、後はお前さんの実力でもって世間の口を黙らすと良い。こないだ『トレーナーの極致』と語った気持ちは、嘘ではないからの。トレーナーとしての実力に関しては、凄腕じゃと確信しておるよ」
「うーん……あー、ありがとうございます。褒められて悪い気はしないです」
「む、良きかな良きかな! っと。……これで書類は完成だの。年始には受付を開始するが、それはわたしがしておこう。キミは当日に来てくれるだけで良い。だが勿論、女装は忘れずにな!! ほっほ!!」
「気合入れて女装しますよ。……んじゃあ、今度は俺からの話を」
「ふむ?」
なんか快活に笑って締めようとしてるのかもしれないけど、まだだぞ。
……なにせ今回の締めとして、「ミュウツーの処遇」を決めなくてはならないんだからな。
「今回のコレは、俺から会長への個人的な『貸し』です」
「ふむ。やはり『ルリちゃんの素性隠し』だけでは足らんかの」
「そりゃあそうです。だって『素性隠し』については『ルリがリーグに出場する事』で、相殺の相子のトントンでしょう」
「むぅん」
「はいはいむくれないで下さい。……俺がお願いするのは、これです」
俺は不満げな老人を無視して、研究所で纏めてきた管理要望書を提出してみせる。
タマランゼ会長は机に置かれたその紙を手に取ると、季節的にも「サンタクロースか」とツッコミたくなる毛量の髭をひとしきり撫で、
「……これだけで良いのかの? 『今回の騒動でハナダ周辺に集まったポケモン達を一箇所に集めて隔離し、その場所の入口を協会権限で封鎖する』。これではむしろ、今でも野生ポケモン達の対処に手間取っている協会の手助けになっていると思うのだがね」
「はい。その要望が通れば、管理するのは無駄に権限だけ持っている協会員ですからね。一般トレーナー除けとして最適ですし、それに、あいつらの手持ちじゃあ洞窟の中は危ないです。そもそも入ろうとすら思わないかと」
「いや……確かにそうだが」
そう。
俺が提案 ―― もとい押し通すつもりなのは、「ハナダの洞窟」の管理体制だ。
今回カントーの南から北まで大逃走を繰り広げたポケモン達は、実に多種多様。そのうえ大量の他野生ポケモン達と戦いながら逃げていたからか、そのレベルも一般トレーナーじゃあ太刀打ちできないようなものになってしまっていた。
これについては今の所、ハナダシティ北西にある洞窟へと追い込んで隔離する「対処」としているんだが……
「お願いの中心はこれからです。……俺はそこへ、かの『元凶』も放っておきたいんですよ」
「!? ……成る程の。それは確かに、カントー全域へ安寧をもたらしたと言う大きな大きな『貸し』を返すに相応しい、『無茶振り』じゃのう。ふむ」
会長が一瞬俺から目を外し、空を見つめる。
暫くすると息を吐き出し、
「ふむふむ、判った。どうせ『謎のポケモン』なのだ。キミに……いや。それは『ルリ』に任せようじゃあないか。ただし……そうだの」
「あ、大丈夫ですよ。……俺は『ルリ』として、何より自分達が楽しむ為に、ポケモンリーグで上位入賞するつもりです。それならば『リーグ管理』として押し通す事も出来なくはないでしょう」
「……もしかすると、初めからそのつもりだったのかの?」
「うん? あー……いえいえ。それは買い被り過ぎです」
会長の此方を推し量る様な眼差しに、思わず苦笑する。
つーか、俺は自分の「ミュウ達と一緒にポケモンバトルがしたい」「ミュウツーはまだ自由にしててやりたい」っていう我侭を叶える為に、こうしてセキエイくんだりまで来てるだけなんだ。そんな大層な思惑なんて……多分、ない。多分な。
……さて、と。
俺はアザミさんの入れてくれたお茶を1口で飲み干し、腰を上げる事にする。
「これで話は纏まりましたね。んじゃあ、お
「ほ? 忙しないのう。これからキミお気に入りのアザミちゃんを呼んでお茶菓子でも、と思っておったのだが。何か用事でもあるのかね?」
「だからお気に入りではないと……それに、ですね。用事なんて幾らでも。只でさえ年末ですし、バトル訓練も研究も、ショウとして資格を取るためにトレーナースクールに入る準備もしなくちゃあいけないですからねー」
「おおそういえば、今年もキミの研究発表は面白かったよ。流石に鋼・悪タイプに関してはキミの独壇場だったな!」
「年明けにはもう1タイトル発表するつもりだったんですが、ポケモンリーグ出場っていう大層な予定が入ってしまいましたんで」
「ぅぉーい……それが出場するつもりだった、なんて言っておったヤツの台詞かの!? たまらんのう!?」
「ほいほい。もう良いですよ、それ。慣れましたんで」
「ノーリアクションはキツイ!? せめて嫌がってくれぃ!」
ポケモンリーグの会長ともあろうものが、構ってなのかよ! おい!!
なんて脳内ツッコミを入れつつ、セキエイ高原を後にするのであった。
……ただし当然、帰りもキクコの送迎に頼るんだけどな。俺。