ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ60 ひとまずの終幕/近辺

 

 

 リーグから帰った3日後、言葉だけではない真なる年末……12月31日。そろそろ煩悩の数だけ鐘が鳴り出しそうな頃合となった。

 因みに現在、俺の実家があるタマムシマンションの一室。遊びに来たミィと向かい合いながら、テレビなんぞ見て時間を潰している最中なのである。

 あと、俺の両親は準備した年越しそばを隣のマンションに住むミィの両親の所まで届けている最中だったり。妹は既におねむとなった結果、居間には俺とミィしかいないという運びとなっているのだ。

 

 

「ねぇ、ショウ。話はついたのかしら」

 

「んー? ……ああ、『ミュウツーとの』話ってことか。主語を抜かすなよ。大事だぞー」

 

「貴方、いつもの7割り増しで。だらけているわね……」

 

「コタツに入ったらだらけないといけないだろ」

 

「何の強制力なのよ、それは。……それよりも」

 

「あー、はいはい。お話ね。だいじょぶ、つけてきたから。ミュウに意思通訳(テレパス)してもらった」

 

「そう。……それで、あの子が。『ハナダの洞窟で高レベルの野生ポケモン達を管理してくれる』という認識で間違っていないかしら」

 

「おう。案外すんなり決まったぞ。むしろアイツ、ノリノリだったしな。……あと、ついでにどうやら、ミュウツーのが管理するに相応しいと思ってるのは俺達だけじゃあないっぽい」

 

「あら、そうなの。それならばサクラも同意してくれたのね」

 

「その通り。いやぁ、ハナダシティの管轄で良かったよな」

 

 

 これこそがミュウツーに「ハナダの洞窟」にいてもらう、1つの理由。高レベル帯の野生ポケモン達をアイツに管理してもらう為って訳だ。

 ……なにせ入って早々、洞窟内における組織のトップに君臨してみせたからなぁ。アイツ。嬉々として『サイコブレイク』を使いまくった結果、地下まで洞窟を掘り進めたりなんだりって暴走もしたけど。

 

「(それにしてもよく俺の言う事を聞いてくれたもんだよなぁ、実際さ)」

 

 アイツが俺とのポケモンバトルに何を見出したのか、実は俺もよく判っちゃあいない。ミュウが俺に伝えてくれたアイツの意思は、「強くなりたい」っていうシンプルなものだったから。

 けど結果としてアイツは俺の要望に応え、「ハナダの洞窟」の管理をしてくれているんだから……ふーむ、あれかね? 負けたからには言う事を1つ聞いてやる的な、神龍みたいな感じ。

 …………いやさ。真面目に考えると多分、アイツは洞窟に集まったポケモン達から技やタイプ相性を学ぶつもりなんだろうな、と。「トレーナーの有無に左右されない強さ」を目指すんだと思うぞ。ゲームでゼクロムレシラムも言ってた(って王様が言ってた)しさ ―― 野生のままで強さを高める者も、ってな。

 そして俺も、その「強さ」を見てみたいと思った。だからこそ先日、ハナダの洞窟の管理体制に関して口出しなんてしてたんだから。

 

 

「なら、んー……これで一段落、か?」

 

「……結局、ミュウツーの敗因は。『ポケモンなのに頭が回り過ぎた』点よね」

 

「まぁな。……あの最後の場面。あいつにトレーナーがいる、もしくはただのポケモンである事が出来たなら、俺が隠していたプリンの技に気を向けられてただろうからなぁ」

 

「そう、ね。野生ポケモンなら『うたう』と『ほろびのうた』、いずれにせよ全てに警戒するでしょうし」

 

「『うたう』の技としての効果を知っているからこそ、眠っていないイコール技が効いてないってな判断出来るってもんだ」

 

「……はぁ。でも、それも貴方が。ヤマブキなんかで『うたう』を使って、ミュウツーにわざと学習させていたからでしょう。結局仕込みは成功と言う訳ね」

 

「うーい。ま、終わったことは必要以上に気にしない事にしようぜ?」

 

 

 俺は生返事と共にだらんとコタツにもたれ掛かり、思い返してみる。

 ……俺達がここまで目標としてきた「ミュウツーをなんとかする」っていうのは、これにて終結。

 誰かしらの葛藤やらフジ老人の挫折やら、悲喜交々(ひきこもごも)にミキシングしてくれたこの世界もついに1994年 ―― 原作の2年前に突入しようとしているのだ。

 あとは俺が「ルリ」として、ポケモンリーグを存分に堪能すれば……と。そういえばだな。

 

 

「―― なぁミィ。ロケット団は」

 

「それも、『終わった事』なのだけれど」

 

「これを気にしとくのは『必要』だろ? ……ロケット団の奴ら、やっぱり逃げ出してたか」

 

「えぇ、そうね。私と社長が目を付けていたアテナと、貴方の捕まえたアポロは……ラムダやランス。さらにはその他多くの力が加わって、まんまと逃げ出していたわ。ヤマブキ北の収容所から、ね」

 

「あー、でもさ。目を付けていたからこそ、逃走には気づけたんだろ。お疲れさん」

 

「労いの、言葉は。素直に受け取っておくわ。でも ―― ロケット団上層幹部の逃走は、今の所どうでもいいの。これは『後で』解決すべき問題なのだから。それにニュースでも『ルリちゃん』の活躍に薄められて、社会的には小出しにされているのだし。それよりもサカキが、かなりやっかいな事を仕出かしてくれたのよ」

 

「ん? ああ、そういえば」

 

 

 ミィはやれやれという例のポーズで、能面のまま溜息をつく。

 

 

「サカキが、ヤマブキに居た理由……」

 

「脱獄を手伝ってただけ、じゃないんだよな」

 

「そうね。……あいつは、シルフの技術とデータを。盗みに来ていたみたい」

 

 

 ……うおぅ、やっぱりマジだったか! サカキのヤツ大胆不敵過ぎるだろ!

 確かにあのヤマブキの人々が街中のシェルターへと避難している状況なら、火事場ドロボウ(それにしちゃあ規模がでか過ぎるが)をするにはうってつけだったに違いないからな。

 つか、俺としてもサカキが「現在一般発売されていない『げんきのかけら』の使用方法を知っていた」為に、あたりはついていたんだけどさ。

 きっとサカキの事だから、足が着かない様に後始末とかも万全なんだろうなぁ。

 

 

「スマン。確かにアイツ、シルフ社の前に居たよ。……いやさ。会った時は、まさか単身乗り込んでスパイしてただなんて思ってなかったんだ。意外と情報処理技術もあるんだな、サカキ」

 

「……はぁ。別に、良いのよ。私もまさか、サカキ単身でセキュリティを抜かれるなんて思ってもいなかったのだし。それにどうせその場で問い質した所で、その場合はミュウツー戦に協力すらせず逃げていたでしょうから。それでは、ミュウツーを倒しきれなかったかもしれないわ」

 

「でもなぁ」

 

「そもそも、今回だけじゃあないのだし。以前から技術は横流しされていたのよ」

 

「あー……そういえば」

 

 

 ゲームでもシルフ騒動の時、スパイが入り込んでいたってな話があった記憶がある。

 ……やっぱりサカキを止めて、問い質すべきだったか? 結果はミィの言う通りになるだろうけど、それでもやられっぱなしよりは良いと思うんだが。

 んー……おおっとそういえば、重要な部分が残ってたな。

 

 

「ポリゴンとかは無事なのか?」

 

「私の、研究に関しては。プロテクトを余剰以上にかけているから今の所突破はされていないわ。けれど例えば、リーグ主導で開発していた『ボール数チェッカー』。ああ、名前は仮のものなのだけれど……相手トレーナーの所持手持ちボール数を自動カウントする機械よ。―― それを、よりにもよってロケット団のアテナが持っていたりしたのは。間違いなく産業スパイ達の仕業でしょうね」

 

 

 アテナ、か。ミィが以前戦ったロケット団女幹部。

 『コートの内に着けているモンスターボールの数を把握されてた』って言ってた原因は、それだったのか。こりゃ他にも幾つかトレーナーツールを盗まれてると考えた方が良いかも知れないな。警戒しといて損は無い。

 ……それにしても、んー……ボール数チェッカー、ねぇ。

 

 

「リーグルールで決まってるから『ポケモンを6体選んで戦う』んだもんなぁ。だからこそ今じゃ野良バトルも上限6体6なんかが主流だけど、7体以上持って歩くのも禁止されちゃあいないし」

 

「話では、どうやらその内に。ボール数チェッカーは『登録したボール数だけをカウントする』ように改良されるみたいね。……そもそも、この世界。平均的なトレーナーのポケモン所持数は、多くても2~3体程度でしょうし」

 

「ま、ゲームでも実際そうだったからな」

 

 

 そう。ポケモン6体所持ってのは、どこぞの誰かが調べた「愛情を注げるバランスの良い数」が6体だとか、そんな理由じゃあない。『リーグの決めたルールに則ると、6体が上限数になる』ってな理由なのだ。

 ……いやそもそも「愛情」とか曖昧なもんは数値化できないからなぁ。科学信仰万歳なこの世界で、エビデンスもないものを「公式」にする理由はない……のだと思う。多分だけど。

 まぁつまりは、別に7体以上持ってても「バトルの際に使うポケモン数が6体までなら良い」んだそうで。

 勿論多数を同時に育てるのは難しいってのもあるし、結局トレーナーの目指す最高峰はポケモンリーグなんで、大抵のトレーナーは結局所持数6体までで旅をしているんだけどさ。

 などと考え込んでいる俺へ、ミィは続ける。

 

 

「……それに、この間。折角開発を完了させたシルフスコープ。あのデータに至っては『奪われ』てしまったわ」

 

 

 シルフスコープは、俺がこないだホウエンに行った時にカクレオンを捕まえてきたあれだ。ポケモン発見の為の各種センサー集合体。むしろ原作みたいに「幽霊ポケモンを見るのに使用できる」なんて想像しているヤツは、この時代にはいないに違いない。

 つか、奪われたとか……

 

 

「管理体制を見直すべきなんじゃないか? それ」

 

「簡単に、言うけれどね……。あれも私の担当じゃあないのよ」

 

 

 今度はミィがこたつに突っ伏しながら、グチグチと文句を言い始める。

 そもそもミィの公的な立場じゃあ自分の受け持っている部門にしか権限が無いだとか、秘書って立場すら黒尽くめとして動く為の方便だとか、ラムダが持っていた変装用具もシルフ社内々の製品だとか、ラプラスがシルフ班員に懐いてしまってそのままデータ収拾に協力してもらっているとか。……最後のは只の近況報告だけど。

 そしてまたも、大きな溜息をついて。

 

 

「そろそろ、辞表でも出そうかしら。せめてポリゴンのオメガモーフ部分に関してくらいは、完成させておきたいのだけれど……はぁ」

 

「……今をときめく大企業は、やっぱり大変なんだなぁ」

 

「……、……。まぁ、別に良いわ。好きでやっているのだし、途中で投げ出すのも性には合わないの」

 

「……ははっ! やっぱそうだろ?」

 

「えぇ、そうね」

 

 

 2人して笑顔を浮かべ。

 今回の騒動の末に見出した、1つの結論。

 

 

「この世界に居る俺は、ポケモントレーナーだ。―― けどな」

 

「えぇ、その前に。1人の人間なのよ。―― こうして悩んで、何かを守りたいと考えて。何が悪いというの」

 

 

 未だ9才。来年で10才。

 それに人間、悩みなんて無いヤツの方が少数派だろうと思う。

 ならば 成すべき事を成そうとする俺達もまた、自由であるのだと。

 ―― やりたい様にやった結果、原作通りの状況を作り出すことが出来た俺達でも、世界は肯定してくれているのだと。

 そんな風に思う事も、まぁ、出来なくはないのだ。

 ……一応な! 私見だけど!!

 

 

「うっし。そんじゃあ、纏まりました所で……」

 

 

 俺達がコタツから出る決心をした所で、テレビの中から鐘の音が聞こえ始める。

 107……106……

 

 

「戻ってこない事からして、お前ん家で飲んでいるっぽい我が両親でも……迎えに行くとしますか!!」

 

「えぇ。……新年の挨拶は、忘れないようにしないといけないわね」

 

「あー、そうだな。でも、まだ早くないかな、と、うし」

 

「移動時間を考えると、微妙だと思うのだけれど……」

 

 

 2人揃って靴を履き、玄関の扉を開け放ち、タマムシマンションの廊下へと出る。

 高所にあるマンションの共用路から見下ろすタマムシシティの街中は、新年を祝おうとする人々で溢れかえっていた。

 ミィが靴を履き終えた所で俺達は階段のある方向へと足を向け、下りながら、隣のマンションへと歩き出す。

 

 足音を、響かせながら。

 

 

「そういえば、勝手に家を空けて。寝ている最中の妹さんは大丈夫なのかしら」

 

「あー、……多分あとで拗ねる。けど眠っているアイツを背負って階段を降りる訳にもいかないからなー」

 

「それなら、妹さんへの御機嫌取り(プレゼント)を考えておくと良いわ」

 

「お、そりゃあ名案だ。えーと、何がいいかね……」

 

「貴方が、悩みなさい。ショウ」

 

「判ってるって。……んーと、髪飾りとか」

 

「それなら、この間エリカがデザインを担当した製品があるわね。広告を貰って来ましょうか」

 

「ああ、あのリボンか? そういえばエリカが話してたな」

 

「あの、リボンは。新技術で劣化を抑えに抑えた本物の花弁(はなびら)を使っているのよ」

 

「……おーう……生け花も進化してるんだなぁ」

 

「えぇ。……そういえば、ショウ。来年の ―― に、―― 予定……」

 

「んー……ミィが企画した ―― か? 南国は ―― じゃないが ……」

 

「―― 、―― だから……でしょう。温泉回」

 

「そういえば ―― に行って ―― 悪くは ―― 」

 

「―― 貴方 ―― が、 ――」

 

「――、―― 学園回、 ―― つーか ――」

 

「――――、」

 

「――、」

 

 

 ……、

 

 …………。

 

 

 そうして、実に恙無(つつがな)く。

 俺達にとっても転機となってくれた年が、明けて行くのであった。

 

 


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