ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ-- エピローグ

 

 

 とある洞窟の底。

 流れる水の音を背景に、水晶を見つめる1匹のポケモン。

 視線の先にある水晶に映るのは、いつか戦った人物(・・)と、そのポケモン達だ。

 映像の中で自らの(おや)であるポケモンがモンスターボールから飛び出し……戦闘を見つめること、20分程。

 

 ――《ボチャンッ》

 

 白い身体を持つポケモン ―― ミュウツーは水晶の中に映っていた戦いを見届けると、自らの超能力でもって水晶を水の中へと放り込んだ。

 放り込んだ張本人、ミュウツーは思う。

 いくら意思疎通(テレパス)を使ったとはいえ、あの人間に自分の想いが正確に伝わったのかは、正直判らない。

 なにせ、人間とポケモンなのだ。

 それでも自分と戦っていたあの人間には、コイツならば、と思わせてくれる「何か」があったのも確か。

 先程までの電波放送を見る限り、あの人間はどうやら「チャンピオン」と呼ばれる存在になったらしい。

 ―― ただし、あの人間ならばその役割を自ら投げ出しそうでもあるのだが。

 その根拠はとりあえず1つ、存在する。「アレ」は自身と似ているのだと、そう思うのだ。

 ―― 主に『自分の我』が薄いその癖、『欲求』には忠実だという点で。

 

 

「……ミュー」

 

 

 何より、戦いが好きなのだ。

 ……「自らが戦う」ミュウツーと「自分のポケモン達が戦う」という、非常に大きく重要な相違点はあれども。

 

 

「……」

 

 

 無言のまま岩の天井を見上げ、思い出してしまった戦いの顛末について思い返す。

 自分はあの勝負に負けた時、正直、「あの人間にならば」と思っていた。だがしかし目を覚ましてみれば、アレは自身の傍に立ち、モンスターボールを此方へ投げるでもなく。

「うっし。そんじゃあ、勝者権限な。俺からお前に『お願い』があるんだ」

 なんて言う、とても「勝者権限」とは思えない話を始めてきたのだ。

 更に此方の意をも汲むようなアレの『お願い』は、自身にとっても好都合なものだった。

 この洞窟のポケモン達を、自身の修行のついでに「街には近づけないでおいてくれ」と。

 この4ヶ月ほど自らの能力を振るった結果として、元々高レベルかつ知能が高い者が集まっていたこの洞窟のポケモン達は、ミュウツーの指示した禁則には従うようになっていた。

 ……そもそも実は、かの人間の施した仕掛けによって、この洞窟は人間とポケモン両方が「出入りし辛くされている」のだが、それはともかく。

 

 自らも認めるに至った、かの人間。

 かの人間が呼ばれていた称号、ポケモンリーグチャンピオン。

 ……そう呼ばれるような人間であるのならば、もしかしたら、その者も……

 

 

「……ミュー」

 

 

 外へと移動すると世界を包む蒼穹を見上げ、まだ見ぬ光景への期待に想いを()せる。

 超能力で身体をふわりと浮かすと、今度は自らの意思で、青色の内へと飛び込んで行った。

 広い広い、未だ知らぬものに溢れかえっている、世界の内へと。

 

 

 ……自らの張ったバリアーによって、洞窟の守りは万全にしたままで。

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 1994年の始まった、とある世界。

 場所はこの世界における一大イベント「ポケモンリーグ」の開かれている、セキエイ高原の闘技場。

 件の闘技場を囲む観客席には数多く設置された座席数をも大幅に超える、多くの人々が集まっている。その理由は年始だからというだけでもなく、ポケモンバトルがこの世界における人気競技であるからだけでもなく。

 

 ポケモンバトルの最高峰・ポケモンリーグ ―― その決勝だからこそ集まっていると言い切って間違いはない。

 

 闘技場のバトルフィールドの内の片方に立つ青年は、湧き上がる歓声に応えるかの様に。腰につけられた内、最後のモンスターボールを前へと投げ出した。

 

 

 ――《ワーァァァアッ!!》

 

 

 歓声を一身に受けて現れるのは、2メートルを越す巨躯を軽々と翻してみせる ―― (ポケモン)

 

 

『ワタル選手最後にして最強のポケモン、カイリューぅぅ!! 満を持してのご登場ーぅッ!!』

 

『さぁ! 先日は現四天王のカンナ選手を打ち負かすという見事なバトルを繰り広げてくれたルリ選手の、残る手持ちは2体!! ワタル選手のエース・カイリューちゃんを、打ち崩すことが出来るのかーぁ!?』

 

『雷だの吹雪だの、ワタルさんのカイリューちゃんは生きる災害製造機ですからねぇ!』

 

『かく言うワタル選手も先日は、現四天王かつ兄弟子でもあるというリュウドー選手に勝利しての決勝進出ですからね!! ―― どう思われますか、オーキド博士!?』

 

『ふむ。ワタル君のカイリューも、実に良く育てられておるからのう。ワシにも予想はつきづらいのじゃ。ルリ君の次のポケモンに拠るが、ふむ』

 

 

 実況が大音声で飛び交う中で青年の反対側にある赤いトレーナースクエアに立つ人物は、年端も行かない少女とみえる。

 そんな少女(仮)は、青年 ―― ワタルの様々な技を駆使するカイリューの出現を目の前にして、しかし、より一層カタカタと揺れ動いてやる気をアピールしてくれる手元のボールを見つめた。

 少しだけ苦笑した後で顔を上げ、満面の笑みを浮かべると、揺れ動いていたボールを前へと投げ出した。

 

 

 ――《《ド、ワァァァッ!!》》

 

 

 いつもよりも気を使って身だしなみを整えてきたトレーナーがスカートを翻しながら投げ出した白いボールから、ピンクの身体を持つポケモン「ミュウ」が飛び出す。尻尾を揺らしながら謎の光を纏い……空を舞うカイリューに対抗でもしたのか……クルリと宙を滑ってみせた。

 

 

『おーぉ、ついに出ましたよぅ! ルリちゃんの持つ謎のポケモンッ!!』

 

『本戦に進出してからは毎回頼りにしているみたいですし、予想通りというか期待通りというか、決勝ラウンドにもお目見えしましたね!』

 

 

 少女(仮)が一躍有名となるきっかけとなった、ある動画。その動画にも出ていた謎の ―― もしくは未知のポケモンの登場に、より一層の歓声が向けられる。

 

 

『そう言えばワタル選手のカイリューもルリ選手のコも、最近までは発見すらされていなかったポケモンですよねー』

 

『あー、もうっ!! この所のポケモン関連の新事実の連発に、わたしはもうドキドキして仕方が無いのですよぅッッ!』

 

『うむ、その通り! この世界はまだ見ぬ新しさに溢れておるのじゃ! そういった意味でもこの2人は、決勝に相応しいトレーナーであると言う事が出来るじゃろう!』

 

『未知と未知とのワクワクでドキドキなぶつかり合いということですねっ、博士!!』

 

『ああっ!? なーんて言ってる内に、始まってますぅ!!』

 

 

 アナウンスの驚く声とともに、浮かんでいる2匹が動き出す。空中で2度、3度とぶつかり合い、そのたびに大きな歓声が沸き起こる。

 カイリューが一旦距離をとった所でワタルから指示がとび、右肩を中心として渦巻く青い炎を纏い、突撃。

 それを迎え撃つミュウは、なにやら手元をぐるぐると動かし ―― 直撃、ではない。

 巨躯による突撃を、衝撃と激突音を辺りへと撒き散らしながら、完全に受け止めて見せたのだ。

 

 

『ああっと、ルリちゃんのポケモン! カイリューちゃんの『げきりん』をまともに受けて、なんと! なんと!! なんとなんとの無傷ですぅぅぅぅーッ!?』

 

『勢いで多少吹き飛ばされはしましたが……博士!?』

 

『うむ、あれは『まもる』という技じゃ。繰り出した場合、相手ポケモンの技とその効果を防ぐことが出来る。ただし、習熟しておらんと無傷とはいかないがの』

 

『あとは確か連続して守ってばかりだと、集中力が切れて守れなくなるんですよぅ、アオイちゃん!!』

 

『流石はクルミ! 博識だね!!』

 

『えっへん!』

 

『……ふむ?』

 

 

 オーキドが何かに感心したかのような声を上げるも、勝負は次の場面へと進んでいく。

 攻撃を完全に防がれたワタルは、カイリューに小手調べの状態変化技として『でんじは』を指示。

 しかし「ルリ」は距離を取った時点で、既にミュウへと指示を出し終えている。指示を受けたミュウはというと、纏っている光球がチカチカと光り出し、

 

 

『おおぅ。ルリちゃんの子、イルミネーションみたいでキレイですねぇ』

 

『でもそれだけ。これじゃ、直接的な効果はわからないです。うーん、ルリ選手の事だから、意味が無い行動って訳じゃあないと思うんだけど……』

 

 

 この行動に対する会場の雰囲気は、困惑というよりも期待。

 なにせルリはここまで、自分より各上であるポケモントレーナー達を相手に勝ち進んできているのだ。

 何をしでかしてくれるのか、という期待が会場を包み出す、が。

 

 

 ――《ザワザワ……》

 

『ほわっと!? 『でんじは』を出したのはカイリューちゃんなのに、カイリューちゃん自身もしびれてるっぽいよぅ!?』

 

『クルミ、多分「ホワイ」の方が状況に合ってるよ。……えーと、それはとにかく。どういうことでしょうか、オーキド博士?』

 

『おそらくはルリ君の持つポケモンの特性じゃな』

 

『ほうほう。つまり博士、あのコの特性は『シンクロ』と言う事ですかぁ?』

 

『うむ、うむ。クルミ君はよく勉強しておるようじゃのう。双方共にマヒ状態にあるとすれば、基本的にはそう考えても間違いではないじゃろう。勿論例外は存在するが、と ――』

 

 

 博士の説明を遮ったのは、動き出した2匹のポケモン。

 マヒ状態で動きが鈍っていても影響の少ない遠距離技『だいもんじ』で攻撃を仕掛けるカイリュー。巨体であるカイリューの身の丈ほどもあろうかという火炎が、大の字を(かたど)って吐き出される。

 またも相対するミュウは、しかし、「手元に持った木の実を食べ」――

 

 

 ――《ワァッ!!》

 

『おおっと、回避ですかぁ!? 『でんじは』を浴びた筈ですが、木の実を使用して元の動きを取り戻しましたよぅ!!』

 

 

 ミュウはカイリューが『でんじは』のシンクロによってマヒし、動きが鈍った事を利用して、素早く回避行動を取ってみせる。そしてトレーナーである「ルリ」が腕を振ると……反撃に出る。

 

 ただし今度は、先程カイリューが使用していた、青く渦巻く炎を纏う突撃 ―― 『げきりん』による、反撃。

 

 『だいもんじ』使用後の硬直にあるカイリューを、自由自在に宙を滑るミュウの炎が蹂躙する。

 

 

 ――《ド、》

 

 ――《《ァァ ―― ワアアァッ!!》》

 

 

 ド派手な技の応酬に呼応し、今年度ポケモンリーグ1番の歓声が空気を揺らした。

 

 

『これはッ!! カイリューちゃん、果たして耐え切れるのかぁッ!?』

 

『おおーッ、……あッ! そこ、そこだよッ!!』

 

『はっは!! さて、どうなるかのう!』

 

 

 接近戦に持ち込まれたワタルとカイリューは、同じく『げきりん』で迎え撃つ。

 ミュウの『げきりん』と、3(ターン)目のぶつかり合い。

 渦巻く青い炎同士が激突し、

 

 

 《《ズゴゥンッ!》》

 

 

 

 ――《ァァ》

 

 

 ――《、》

 

 

 《《《ワアアァァーッ!!》》》

 

 

 

 

ΘΘ

 

 

 

 

『さぁさぁそれでは! 勝利者インタビューを……って、アレ? ルリちゃんはどこに行ったんですぅ!? インタビューがまだですよぅ……ま、まさかぁ!』

 

『ほっほ、そうだの。恐らくクルミちゃんの想像通り……残念ながら彼女は急用があるそうでな? それに、人前に出るのは好かないと言っていたよ』

 

『はっわぁ……まぁ、仕様が無いですかねぇ。あの人なら……』

 

『うん? クルミちゃん、何か言ったかな?』

 

『いえいえ、何も言ってませんよアオイちゃん。……急用じゃあしょうがないですよねぇ。なら、タマランゼ会長さん! さっさと「殿堂入り登録」にいっちゃいましょうよぅ!!』

 

『ほっほ、そうだの! それでは……コホン!』

 

『第……回ポケモンリーグ優勝者、ルリ!』

 

 《《ワァァァ!》》

 

『厳しい戦いを勝ち抜いたキミと! 共に戦ったパートナーのポケモン達を!』

 

 《《……ワァァ!》》

 

『そしてここへ至るまでの、全ての思い出を!』

 

 《《ァァァ、》》

 

『このマシンに記録する!!』

 

 《《……ァァ! ―― 》》

 

 

 ―― ジ、

 

 ―― ジジッ、

 

 ―― ジーッ

 

 

 ・

 ・

 ・

 

『トレーナーレポートを、レコードに記録中です』

 

 ・

 ・

 ・

 

 

『 殿堂入りトレーナー:

 

 ルリ : トレーナーIDNo,G_____A

 カードランク : ゴールド

 

 

 殿堂入りポケモン:

 

 

Θピジョット:♀

 LV:44

 

Θニドクイン

 LV:48

 

Θミュウ

 LV:53

 

Θプリン:♀

 LV:12

 

Θモノズ:♂

 LV:36

 

Θクチート:♀

 LV:43

 

 

 

 ―― 殿堂入り おめでとう! 』

 

 






 はい。
 更新方法を元のに戻した所で、「原作前」編終了と相成りました。
 ……ええ。原作前だと言うに、男主人公が殿堂入りしてしまいましたがッ(ェェェ
 とはいえ両主人公の目的は殿堂入りでは無いのですし、これでもいいかなぁとか思っていたりなんだりやり過ぎた気もしないでもなかったりむしろ当然やり過ぎだろうと……はい。すいませんです申し訳ない。
 因みに殿堂入り時の主人公の手持ちは、過ぎた数ヶ月の間にポケモンリーグ用の特訓をしたおかげでミュウツー戦時よりも幾分かパワーアップしております次第です。
 そうでもなければ初代600族様には……と。
 ……いえ。確かにミュウも一応、合計種族値的には600族と呼べるのですがッ

 そして、またも小ネタ。
 今話にて現四天王・ワタルの兄弟子との設定がなされたお方の名前に聞き覚えがある方。その記憶は無駄記憶では無かった様です。
 ……ともだちの輪ッ(なに
 ……「でんせつのコイキングデッキ」(ぉぃ


 では、では。

 長い長い原作前も、これにて終幕。
 ここまでお付き合いくださった皆様方に、そして一度でも御拝読頂いた皆様方に、あとはこれから御拝読ご予定の皆様方に、……ついでとばかり調子に乗って御拝読とか関係ないと言う皆様方にも……心からの感謝をば。
 どうか来年も、そして続く幕間及び原作本編もよろしくお願いされてくだされば、作者としてこの上ない幸せなのです。
 平成24年は移転に次いで駄作者私の力至らず、一話に異常な容量が詰まってしまっていたり更新速度が落ちてしまっていたりしましたが、どうぞ、どうか、切に、よろしくお願いいたします。

 長くなっておりますが、最後に。
 来年のこの季節にて ―― 1年を振り返った時、皆様方にとって幸せだったと言える年と成ります様、僭越ながらに願わせていただきまして。
(鬼が笑っているでしょうけど、是非とも無視を)
 そして願わくば本拙作が少しでも、その幸せやら楽しさの内にいられる様なモノと相成ることを、私自身の抱負とさせて頂きまして。

 ではでは、これにて。
 皆様、良い年末年始を。


 平成24年、12月の某日
 年賀状(自分で書いている途中)の山を切り崩そうと悪戦苦闘中の、香辛料作者
 ―― 生姜

 あらあらかしこ(違う

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