ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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 ここからは作者(ディレクターズ)が後から手を加えた、再編(バージョン)となります。
 ナンバリングが「8-?」になっているのは全話タイトルを直すのが億劫なための処置なのであしからず(


Θ8-1 タマムシシティ周辺にて

 グレンタウンの研究所との交流を始めてしばらく。やっとこさ遠征の段取りがついたのは、年末になろうかという時期だった。

 いちおうマサラタウンでは間借りしている身。年末くらいはと博士たちに背中を押され、俺はタマムシシティの実家に帰省することになったりした。

 

 いやぁ。帰省したとはいえ、黙っているのは苦手だから色々と動くんだけどな?

 

 両親ともに自由奔放な俺を応援してくれるので、ご飯くらいは実家で食べつつ周辺をうろうろ。目的はやっぱり、自分のポケモン達のレベルアップだ。コンビネーションというか、それ以前の問題だな。指示の飛ばし方とか、技の習熟とか。基礎的な部分も忘れたくない。

 そもそも強い技を覚えさせるのは良いんだが、どうもポケモン達のレベルが低いと扱いきれなくなるらしい。昨年度の学会誌に、低レベルのまま威力の高い技をうつと「身体が反動に耐えられない」という旨の先行研究が幾つかあった。ポケモンの「技」の権威の博士のグループ研究な。技の有無で進化を左右されるポケモンに関する研究の副産物らしい。

 ……うーん、やっぱり今はレベルで覚えられる技を使っていくのが無難だよなぁ。ポケモン達に無理もさせたくないし、そうしよう。方針決定!

 

 

「と、と。……通り過ぎるとこだった」

 

 

 考えている内に目的地の建物の前を過ぎようとしていた。足を止め、振り向く。

 鎮座しましたるは、正面 ――「格闘道場」の看板!

 道場に来るのは、ナツメとあの激戦(心情的に)を繰り広げた時以来だけど……俺の年齢で、ミィ以外の人と相応のレベルのバトルが出来るのはここくらいしかないからなぁ。ああ。俺は道端でバトルすると多分、補導されるからな! 見た目的に!!

 

 

「研究者資格があるから、自分のポケモン持ってるのは合法なんだけどなぁ。確かにバトルのレベルちょっと、世間一般よりは高いものになるが……その都度止められてたら、練習の意味もないし時間も惜しい。あと世間様の目が痛い。止められない場所でやるに越したことはないもんで」

 

 

 世間の子どもたちは、そんな妨害を振り切って、よりにもよって道端で、意気揚々とポケモンバトルを繰り広げるからなー。凄いの一言だよほんと。

 などと無駄なことを考えながら、そのまま格闘道場の内側へ。すると早速、カラテ大王(・・)のタケノリさんが俺を出迎えてくれた。

 

 

「来たか、ショウ!」

 

「うっす。今日もご指導のほど、よろしくお願いします!」

 

 

 俺はタケノリさんに一礼して道場の中へ。ついでに入り口でボールからニドランとポッポを出すと、2体とも俺の真似をして首をくいっと下げて挨拶していた。何度も出入りしているからか、覚えてくれたようで。何より! 可愛い!!

 道場の皆さんに次々挨拶をされ、俺も返しながら廊下を進み本館へ。本館に敷設されているのは、フラットで遮蔽物のないバトルフィールド。組手用の場所だ。

 

 

「今日はどうする?」

 

「いつも通り、実戦メインでお願いします。……というか今日もタケノリさんが相手してくれるんですか?」

 

 

 この格闘道場のトップみたいなものなのに、毎回相手をしてくれるんだよなタケノリさん。

 少し申し訳ないなぁと思うも……件のタケノリさんは、実に男前に腕を組みながら。

 

 

「がっはっは! レベルが下のポケモン達のトレーニングという意味合いを持たせているからな。それにお前との組手は、こちらにとっても新たな発見が山ほどにあるのでな。そこは案ずるな、ショウ!」

 

「ありがとうございます。……そんではこちらは準備オーケーですが」

 

「うむ。こちらもだ」

 

 

 向かいで仁王立ちしたタケノリさんが、モンスターボールを手に持って両手を腰に。今にも拳を突き出しそうな体勢だ。

 こちらも準備は良し。足元で、ポッポとニドランがやる気十分に鳴き声をあげている。おーい、シングルバトルだから両方は飛び出さないでおいてくれよーと願っておいて。

 

 そんでは……特訓いきますか!!

 

 

 

 

 ΘΘ

 

 

 

 

 そして、叩きのめされること数時間。俺もニドランもポッポも、床に突っ伏しているのだった!!

 

 

「ッポー……」

 

「ご苦労さんな、ポッポ。いやほんと。ニドランも、かなりダメージ受ける役割なのによく頑張ってくれたぞ」

 

「キュゥン!」

 

 

 明らかに打撃を受けた位置に軟膏型の傷薬を塗りつけ、スプレーも吹き付けながら道場の入り口でたむろする俺たち。道場の中では、師範やカラテ大王さん達がポケモン達のクールダウンをさせている最中だ。

 お弟子さん達のポケモンは、合わせると3桁に近い数がいる。それを管理監督するってのは今の俺だと想像もつかないレベルなんだよなー。単純にすごい多い! ノウハウが必要になってくるよな、このレベルの規模だとさ。

 ポケモンバトルが6体までってのも、ポケモンの総数があればあるほど有利になる仕組みも、トレーナーの実力そのものが試される形。そう考えると格闘道場の大王さんの凄さも伝わってくれるだろうか。統率力というか、総合力というか。実に凄い場所なんだよ格闘道場。ゲームだとほぼポケモンもらうだけの場所になってるけれども!

 あと、俺も疲れているのは道場の方針で「トレーナーも体を鍛える」からだ。その点については俺も同意しとく。正直、俺は公式なバトルの大会とかよりは……ゲリラ戦とか野生ポケモン戦とか。そういう既存の枠にないバトルこそ負けられなくなるだろうからなー。

 

 

「さて。柔軟と手当ては済ませたか、ショウ」

 

「あー、はい。今日もありがとうございましたタケノリさん」

 

 

 タケノリさんがうむと大きく頷く。筋骨隆々の腕を組んでやられると、とても様になるなぁそれは。ラーメン屋じゃない。

 2体をボールの中に戻して立ち上がり、尻の埃をはらって(ないけど)。

 ……なにか視線を感じるなぁと顔を持ち上げると、タケノリさんがこちらを見ていた。なんだろ。

 

 

「俺に用事とかですかね? 俺で出来ることなら、おおよそは協力しますけど」

 

「まぁ、そうだな。用事だ。ちょっと奥までついてきてくれるか、ショウ。合わせたい人がいるんだ」

 

 

 タケノリさんからのお願いは珍しいなぁと思いつつも、俺は後ろをついていく。行き先は離れの家屋。

 どうやらお客が来ているみたいだが……ううん? いや、もしかしなくてもこの人は……。

 

 

「お待たせした。彼を連れてきました」

 

「―― うーん、ご苦労ちゃん!」

 

 

 やたら軽妙な挨拶で片手をあげるご老人がひとり。……うーわ。ここで会うのか、この人に。

 カラテ大王さんの後ろから顔を出した俺がぺこりと頭を下げると、挙げた手をひらひらと振る。それでいて「隙が隙に見えない」身のこなしで、その人は問いかける。

 

 

「さて……チミ、ワシちゃんの事を知っているかな?」

 

「知っています。どもです、マスタードさん。……ガラル地方の元チャンピオンですね! 現役の頃の映像を幾つか、参考に見させてもらいました」

 

「うふふふふ! そーね、知っとるのね。タケノリちんから聞いたとおりだねーぇ」

 

 

 そう言って笑うのは、マスタードさん。剣盾の「鎧の孤島」で出会う元・チャンピオンだ。

 ガラル地方は実は、バトルの興行化がカントーよりも遥かに進んでいる地方だ。最初はただのバトル同好会だったものが、自然を規模を増していき。自然と「ポケモンリーグ」の形を成していたのだそうだ。

 マスタードさんはそんなガラル地方で20~30年前にチャンピオン位を得て、惜しまれながらも引退。直近まで無敗記録を更新していた。ただ、その伝説的なチャンピオンもどうやら色々あったようで、成績を落とし始めてからは引退。引退後は雲隠れし……。

 

 

「どこぞの島を買い上げただとか、奥さんと一緒に世界中を旅しているだとか噂を聞いたんですが、まさかカントーに来ていたとは思いませんでしたよ」

 

「カントーはポケモンに関する学問の最先端だからねぇ。ワシちゃんもジジイになったからには、それ相応の立ち回りってのを身に着けたいと思うのよ!」

 

「なるほど……。あ、俺はショウって言います。遅れましてすいません、以後よろしくです」

 

「ショウちんね! 覚えたよん! あー、ワシちゃんから吹っ掛けた形になっちゃったから、ごめんね!」

 

 

 ソファーにだるっと背をもたれ、両ポケットに手を突っ込みながらマスタードさんが俺に視線を合わせる。

 なんというか、やっぱり「食えない」っていう表現が似合う人だなぁ。失礼だけど。

 

 

「それじゃあショウちん気になってるだろうから、理由を先に話すよん。ワシちゃんがここへ来たのは、親友のタケノリに合いに来たのがひとつ。手合わせ(ポケモンバトル)も含めてね。それと、もひとつあるんだけど……」

 

 

 で、俺をまたもやじっと見る。

 ……うはー、怖いなこれ。特になにかしら悪いことしている訳でもないのに、謎の見透かされている感があるぞ。

 しばらく目を合わせた後に……にかっ。

 

 

「うん! 聞いた通り。ワシちゃんにも物怖じしない、肝の据わったいい男の子じゃない! 気に入っちゃったよ~!」

 

「それは光栄ですけど……あの、結局用事は何なんです?」

 

「気に入ったショウちんになら、預けられるかなーって思うからね。話しちゃう! ……出ておいで!」

 

 

 するとマスタードさんは振り向いて、部屋の奥側へ手招きしだした。

 扉の影に気配。身体を傾け、ひょこっと現れたのは……耳。そして顔。きりりとした眉。短めだが、取り回しの良い手足。

 そのポケモンが、こちらを覗き込む。視線が合った。わーお。

 

 

「……ベアッ」

 

「ショウちん。しばらくこの子 ―― 『ひでんのヨロイ』であるダクマと一緒にいてあげてくれないかな!」

 

 

 そう、いきなりの難題をくださったのだった!

 






 予告とか知りません。

 こちらはエリカさん編、私的(でぃれくたーず)再編版となります。
 随分前に書いていたものを、ノリで置いておくイメージ。ほとんどがNEW文章となりますのであしからず。
 ナンバリングを割り込ませているので、8-1~のスタートです。


・マスタードさん
 ポケットモンスターソード・シールドのエキスパンションパス第一弾「鎧の孤島」より。剣盾作中50年ほど前の元・ガラルチャンピオン。
 専門(専任)タイプは「かくとう」。だのに当時のライバルであったピンクの16才()と競り合い、勝利するというとんでもないお方。(ガラル地方のリーグは恐らくカントーのそれとは大きく違うので、専任なのか専門なのかは迷うところ。ただ、ジムリーダーにタイプ毎の枠があることを考えると、恐らく専任という形が当てはまる)
 作中のマスタードさんは、チャンピオン引退後間も無くあたりの時系列。この辺りは流石におおよそでみてますのであしからず。


・ダクマ
 だいたいは同上(ぉぃ。鎧の孤島の後半部分のストーリーはこのポケモンと共に進められる。
 少なくとも剣盾主人公への扱いをみるに、誰彼にでも渡すような個体数はいないと思われる。


・カラテ大王(タケノリ)
 仔細を言えば、カントーの空手道場の頭。スリバチ山で修業をしていたお方。
 金銀およびアニメ版=リメイク版では名前が違う……そのようだ。カラテ王、師範代、カラテ大王等々、色々あってなんとでも解釈できる余地はある。
 本作においては、素直にFRLGでエビワラーサワムラーを下さるカラテ大王の名前に準拠。今二次創作の原作ですので。


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