ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ5 3の島にて

 

 

 事件は何時だって、現場で起きているらしい。

 

 

「おぅ……初っ端からくだらなさ過ぎるぞ、俺の脳内……」

 

「……? ショウ、なにを……」

 

 

 俺は隣で訝しげな顔をしたカトレアを「いやゴメン、何でも」とかいう台詞で誤魔化し、歩き続ける。

 さて、明朝の内に「3の島」へ到着した俺とカトレア。実は、ミィや研究班との情報交換を終えて、早々に現場 ―― 『木の実の森』へ突入していたりするんだが。

 いや。だから、さっきの無駄思考(ネタ)な。現場がどうたらこうたら。……まぁ、どうでもいい……どころか、どうでも良すぎるとは思うんだけど!

 

 んじゃ、朝の森を歩いているだけなんで、とりあえず解説をしておきたい。

 さっきまで一緒にいたミィや研究班に『3の島』での神隠し事件について聞いた所、原因については俺と同じ考えに行き着いているらしい。

 

 ―― 少なくとも3の島における事件の黒幕は『スリーパーである』と。

 

 あれだ。ロリコンがどうとか、ショタコンがどうとか、ハーメルンの笛吹がどうとか、ハーメルンだけに洞窟がどうとか。……例えが多すぎなのは勘弁してもらうとして……とかく。『子供を連れ去る』のは、スリーパーと言うポケモンの特権なのだ。図鑑文的にな!

 

「(いやさ。子供をさらった所で、夢を食べるだけらしいが……)」

 

 事実、3の島で居なくなっているのは孤児院の子供、レッド達、妹という子供ばかり。ついでに言えば、FRLGの3の島ではスリーパーを公式変態たら占めた「マヨちゃん誘拐イベント」まで存在する。スリーパー(ヤツ)は至れり尽くせり、だがしかし、社会的には恐怖でしかないバックグラウンドを手に入れているだった。

 ……まぁ、つまりは。ネタは尽きないポケモンだと言う事で。

 

 そんで。件のスリーパーの生息地が、現在俺達が探索中の『木の実の森』な訳なのだが……うーん。

 ここで辺りを見回してみても、見事な黄色広葉樹林帯。生い茂った木々が空を隠し、合間を縫って南国の強い日差しが下生えまで射し込む。それらが相まって、異様な不気味さを惜しみなく醸し出して下さっているのだ。

 ……とりあえず、さっさと解決の糸口(スリーパー)だけでも見つけたいところだよな。6の島の謎は解けてないんだし、少なくともスリーパーは何らかのヒントにはなってくれると思う。

 

 

「……ミィ達は、無事でしょうか?」

 

「ん? 心配か、カトレア。……ま、アイツらならだいじょぶだろ」

 

 

 そう。3の島に捜索に出向いている研究班達は、俺とカトレアとは別のルートを通って、『木の実の森』の奥へと進行する手はずになっている。今もこの森のどこかには、研究班達も居る……その筈なのだ。

 そんなんだからか、エスパーお嬢様は気だるげな顔をしながらも、実の所はミィ及び研究班員達を心配してくれていたらしい。

 まぁそれ自体は嬉しいんだが、むしろ戦力的には向こうの方がそろってるからな。我が班員達は俺に付き合って何度も修羅場を潜り抜けてきているし、ミィに関しては言わずもがなだ。それこそ言葉通りに、心配無用だろう(……と言うか、ここで心配した所でどうにもならない、と言った方が的確ではあるんだが)。

 そして、ついでに。俺とカトレアだけが別行動なんていう事からして、今回の部隊編成は偏っているのがお判りだろうか。

 偏りの理由は「俺の班以外の研究員も捜索に加わっている」ってな点にある。つまりは、少なくともカントーから来ているその他大勢の旅行者の前では……俺は手持ちを迂闊に出せない、って事だ。だって、ルリの手持ちまんまなんだし。

 なんて風に考えて、俺とカトレアは集団と別行動にしてみたのである。

 ……だからこそ、こっちのが状況的には厳しいんだけどな? カトレアは守んなきゃいけないし、原因も突き止めなきゃいけないし。

 

 

「普通に考えたら無謀でしかないんだが……ま、何とかしてみせるか」

 

 

 腰周りにつけたボールホルダーとそこにある6つのボールを撫でながら思う。カトレアと2人きりなら、こいつらも全員使えるんだ。ならば何とかして見せるのが任された側の責任と言うものだろうな、とかとか。

 そんじゃあ、

 

 

「いつも通りに頼んだ、ピジョット!」

 

 《ボウン!》

 

「―― ピジョォオ!」

 

 

 とりあえず、警戒役としてのキャリアも長いピジョットを繰り出しておく。

 ボールから出ると同時、空を滑るようにクルリとターンしてみせ……

 

 

「ピジョッ!」

 

「……えぇと」

 

「挨拶だよ。久しぶりですね、だとさ。勘だけど」

 

「ナルホド。……お久しぶりです、鳥さん。お元気でしたか」

 

「ピジョオ!」

 

 ――《バササッ》

 

 

 どうやらピジョットは、以前ライモンシティで出会ったカトレアを覚えていたらしい。カトレアの周りを数度旋回し挨拶を返してから、周囲警戒をするべく飛んでいった。

 因みに当のカトレアは、ピジョットへとふらふら手を振りながら「護衛をお任せします」とか呟いている。

 うん、おかげでピジョットもやる気を出してくれているみたいだし、この調子で進むとするか。ただし、

 

 

「―― ただし、時間も勝負だからな。よっ……と」

 

「それに乗るのですか?」

 

「ああ。ほれ、ここここ」

 

 

 俺はバッグから転送した自転車の荷台(昨日の準備でつけておいた)に座布団を敷き、カトレアを座らせる。

 ……ただし、なんとカトレアお嬢さま。よりにもよってお嬢さま座りなんてものをして下さったんだけどさ。

 まぁ、そんなんはとりあえず気にしないでおくべきか。事態は結構深刻、かつ急ぐに越した事は無い状況なので。

 俺はカトレアにしっかり掴まるよう説明し、舌を噛むからとの忠告も忘れず、ペダルに足をかけた。電動アシストを受けた魔改造自転車が草原の合間を縫ってスピードを上げていき、ピジョットがそれに先んじて飛ぶ。

 

 そんじゃあ、さっさと出て来い! スリーパー!!

 

 

 

 ――

 

 ――――

 

 

 

 

 俺とカトレアは、先行していたピジョットから連絡を受けて森の深部へと進んでいた。

 森の奥深くまで漕ぎ付けると……一際大きな樹木の下で、空き地大の空間が開けている部分に到達する。

 ……っと。ブレーキブレーキ。

 

 《キィッ!》

 

 T字ハンドルをレバーごと強く握るとディスクブレーキが反応し、タイヤを鋭く噛む。ピストンブレーキで自転車を段階的に減速させ、停止。

 因みに停止した理由は至極簡単だ。俺とカトレアの目の前……空き地の中心には、

 

 

「……ッ?」ニヤリ

 

 

 振り子をたらした黄色い身体 ―― スリーパーが此方を舐るように見据えていたりしていたのだから。こら大変だ。

 ……一応、他意はないに違いない。違いない……が、スリーパーには悪いけど、あんまり気分の良い視線じゃあないな、コレ。

 

 

「……嫌な念」

 

「だろうな。あと、あのポケモンの目と振り子は見ないほうが良い。協会曰く、3秒で寝るぞ」

 

「……それは本当なのでしょうか」

 

「さぁな。試してみるか? 今なら俺が起こせるし」

 

「でも、万が一では、あのコ達の様になってしまいます」

 

 

 カトレアが言葉と共に、スリーパーの後ろを指差す。そこには10人近くの子供達が、大樹に寄りかかって眠っていた。

 

 

「目標発見、と。とりあえずは救出優先だな」

 

「ハイ」

 

 

 中には俺の妹やレッド、グリーン、リーフの3人、そして見覚えのある孤児院の子供たちも確認でき……アイドル2人は残念ながら姿が見えないが……間違いないな、こりゃ。

 俺は早く助け出さないと、と考える頭を押さえ込み、思考。

 

「(……恐らく、この位置関係じゃあ逃げられる)」

 

 ミィ達との打ち合せで、スリーパーが子供達を連れ去ったそのタネは予想がついている。

 ……いやさ。タネ自体、俺としちゃあ半信半疑なんだが……まぁいいか。それは見てみれば判る事なのだ。

 俺とカトレアはモンスターボールに手をかけながら、スリーパーに向かってにじり寄る。

 

 

「……ムフ」

 

「……あの顔。気に喰わないです」ムスッ

 

「カトレア、あんまり刺激するなよ? 逃げられるから」

 

「……理解しています。しかし……」

 

 

 目の前のあれだって、カトレアお得意のエスパーポケモンなんだけどなぁ……と考えながら、彼我の距離を測る。スリーパーまではまだ距離があるからな。「タネ」によって近づく前に逃げられては、後々が面倒だ。

 ……さて。そんじゃあ、どうやってこの距離を詰めますかねー。

 

 ―― などと、悠長に手段を探しているのがまずかったのか。

 

 

 《……ヒュォォン!》

 

「ゴォォス?」「ゴォォス!」

 

「……ニタッ!」

 

「……ムフ」

 

 

 南国には似合わない冷たい風が吹くと、辺りにあった木々の影から、ゲンガー系統ご一行が現れていた。俺とカトレアは幽霊集団に囲まれる事となる。

 

「(……って、おいおい。このタイミングで増援かよっ!!)」

 

 なんでこの島にゲンガーが? とは思うんだが、事実居るのだから仕方が無い。

 ……それにスリーパーにこいつ等が協力している状況には成る程、とも思う。これで事件における、5の島との関連は確実だろうな。思考の解説はとりあえず、後回しにするけどさ。

 

 さてさて。

 混迷を極めたこの状況、清く正しく面倒だ。なにせ俺とカトレアは前面のスリーパーだけじゃあなく、周囲一帯を警戒せざるを得なくなったんだから。

 互いに背中を合わせながら、対策について。

 

 

「……ショウ。アナタの手持ち全員を出して一気に、では駄目なのでしょうか?」

 

「うんにゃ、駄目じゃあない。俺達の安全、って意味ならそれで正解だ。ただしそれじゃあ、スリーパーが逃げるからなぁ……」

 

「……子供達を連れて、ですか」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 納得の意を示してくれる。

 何しろカトレアはともかく、俺の手持ちとあのスリーパーじゃあレベルの差があるのだ。繰り出すにしろプリンやモノズなら、何とか逃げないで居てくれるだろうが……それじゃあ今度は戦力として足りない、ってな問題が出る。相手は只のエスパーポケモンではなく、催眠ヤローなのだからして。

 さぁて、この難題。どうしますか。

 

 

「一応言っておきますが、アタクシとしてはコクランの言う事など真に受けず、我が身より子供達を優先して欲しい場面ではあります」

 

「……気持ちはありがたいが、そうもいかないんだよなぁ。二兎を追うものは……だけども」

 

 

 なんて話している間にも、俺達を囲む幽霊軍団の環はじりじりと狭まって来ている。カトレアを任された身としても、打開策を講じるなら早めが好ましいだろうな。……うし。

 

「(要するに、ポケモンを繰り出さなきゃあ良いんだ。―― 上空を旋回中のピジョットで『でんこうせっか』。先手でスリーパーを子供達から遠ざれば……)」

 

 先行していたピジョットは上空にいるのだ。初手としては悪くは無い選択、だと思う。ポケモンを繰り出す間がなければ、ゲンガー達もスリーパーもすぐには対応できまい。その隙を突いて手持ち全員で、カトレアも庇いながら輪を抜けさえすれば……と。

 んじゃあ、時間もないし。その作戦で勝負を仕掛けますか!!

 俺は右腕を目立たない程度に軽く挙げ、ピジョットがこちらを見ていることを信じて、指示を出す。

 

「(スリーパーへ、横合から、『でんこうせっか』。遠ざける、子供達……左腕を挙げた時)」

 

 これで伝わるかは……まぁ、ピジョットなら汲んでくれるだろう。

 あとはカトレアへ、だな。

 

 

「スリーパーをどかすから、その隙を突いて引き離す。カトレアは自分を守っとく為に、手持ちを出す準備しといてくれ。俺が出たら、後退だ」

 

「……ハイ」

 

 

 カトレアも流石に、一触即発のこの状況に緊張しているらしい。若干顔が強張っているけど……あー、ごめんな。後でなんか埋め合わせするから、何とか踏ん張ってくれ!

 ……そんじゃあ、行きますか。

 俺は左腕を ―― 挙げると、同時。

 

 

 

「―― 見つけた! フジ博士! 居ました、スリーパー!!」

 

 

 多分、捜索に参加していたトレーナーなんだろう。『大樹の横合から』、見知らぬ一般人が飛び出してきていたのだ。

 スリーパーやゲンガーの視線がそちらへ集まる……けど!!

 

 

「―― ピジョ!?」

 

「えっ!? ……うわっ!!」

 

「……ピィ、ジョオォッ!!」

 

 《ズザンッ!!》

 

 

 件の人は、ピジョットの突っ込もうとしていた方向から飛び出している。その結果、ピジョットは避けようとして『でんこうせっか』の軌道を無理やりに変え、スリーパーの横合を掠めながら茂みの中へと突っ込んでしまっていた。

 だがしかし、その草むらの中からは ――

 

 

「……って、あれは!? まずっ!」

 

「……っ!」

 

 《《ボボウン!》》

 

「ミュ?」「ガウゥ?」

 

 

 ボールを投げ出す間が惜しい。スリーパーは事態の変化を感じ取り、せめて何人かはと考えたのか、「タネ」を使っての逃走を計っているのだ。

 俺はゲンガー達の視線が逸れた一瞬をつき、ミュウとモノズのボールを「足元へと落として」からダッシュ。

 

 

「……っ!」

 

 

 て、おい! カトレアまで着いて来てるしっ!

 俺としては環から飛び出した後、後退して欲しかったんだが……カトレアも俺につき従い、スリーパーの横で眠る子供へと。よりにもよって最も近くに居た、我が妹へと向かって疾走している。

 

「(カトレアの思い切りが良すぎた。さては、この状況を狙ってたな!)」

 

 俺がカトレアを後退させる暇が無い、この展開を。

 親切心からか、はたまた冒険心からなのか。カトレアの心は知れないが……仕方が無いか。とりあえずモノズとミュウへ、走りながらもゲンガー達を挟撃してくれとのサイン指示を出しておいて、思考を次へと奔らせる。

 

 

「あ……あ、あ?」

 

 

 予期せぬ出来事によって、折角スリーパーの裏側から出てきたトレーナーは腰を抜かし、地面に座り込んでいるのだ。戦力として当てにはできない、が、そんな一般トレーナーへ向かってゲンガーやゴースが一斉に『ナイトヘッド』を放とうとしているって部分が問題か。

 それらを防ぐべく、トレーナーを庇う位置に残る内2つのボールを、投げる!

 

 

「ギャオオンッ!!」「クチーッ! ガチガチ!」

 

「その人を守ってやってくれ!!」

 

 ――《グワァァン!》

 

 

 『ナイトヘッド』を、間に入ったニドクインとクチートが受けてくれた。

 「守ってやってくれ」なんて曖昧な指示もここに極まれり……なんだが、これでも共にリーグを勝ち抜いた相棒達だ。何とかやってくれると信じて、こっちはこっちの成すべき事を成そう!

 

 

「―― チュ、チュンッ!?」

 

 《《グワアッ!!》》

 

「……チュゥンッ!! ……」

 

「……っ、はっ!」

 

 

 俺もカトレアも、走るのは止めていない。

 俺の目標としているそのポケモンは、ピジョットの突っ込んだ草むらに居たんだろう。吃驚してそこから飛び出していたために……ゲンガー達の攻撃に巻き込まれ、吹っ飛んでしまった。明らかにオーバーキルであるゲンガー達の『ナイトヘッド』連発だが、……間に合うか!!

 

 

「―― カトレア! 自分の身は守ってくれ!!」

 

「心得ましたっ、妹さんは、アタクシが!」

 

「……ムフ!?」

 

 

 カトレアがスリーパーの右脇を、俺が左脇を ―― 「すりぬけた」。

 俺は巻き込まれていたオニスズメ(・・・・・)を抱え、カトレアは俺の妹を庇うように抱え。

 

 

「……ッッ!!」

 

 《ヒュイイッ……》 

 

 ――《シュンッ!!》

 

 

 急いで発動させたと思われる、スリーパーが隠し持っている「タネ」――『テレポート』によって、視界がぶれていく。

 効果範囲内にいた俺とカトレア、そしてオニスズメと我が妹も巻き込まれて、何処かへと飛んでゆく羽目になったのだった。

 

 ……って、マジか!

 そういや手持ちがプリンしかいないっ!?

 

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 

 ―― Side レッド

 

 

「……、……?」

 

 

 どこか遠い闇の底から引きずられる様にして、僕の目が覚めていく。まぶたを力の限り、開けた。

 ……目の前に広がった視界。木々の間に広がる空と、ツンツンの髪だ。

 

 

「……グリーン」

 

「は。やっと目が覚めたのか、レッド。遅せぇぞ」

 

「うっわぁ。あれ、ゲンガーかな!? スゴイスゴイっっ!!」

 

「ああ、ゲンガーだな。……ったく。こんな状況で目をキラキラさせてんじゃねぇってぇの、リーフ」

 

 

 起きた所は、どこか薄暗い森の外だった。

 グリーンと(リーフ)がいて、周りにはまだ沢山の子ども達が眠っている。

 けれど、そんなことより目が向いてしまうのは ―― 周囲に沢山浮かぶゴースを相手取るトレーナー達の、中央。

 一際強そうなゲンガーと、その相手をしている「優しそうなお爺さん」が居た。

 

 

「お願いです、ニドリーノ!」

 

 《ボウンッ!》

 

「ギュウンッッ!!」

 

「グゥ! ン、ガァ!!」

 

 ――《ブゥンッ》

 

 

 ボールから出たポケモン、ニドリーノが出様に噛み付く。苦し紛れに振り下ろされたゲンガーの手を避け、今度はタイミングを計ってから、飛ぶ。

 

 《ガブッ!》

 

 紫の身体を浮かし、大きな口でもう1度、噛み付いた。

 噛み付かれたゲンガーは凄く苦しそうな表情を浮かべ、お返しとばかりに、黒いものを纏った右手で殴りかかる。

 ……今度は当たった。けれど、ニドリーノはゲンガーの攻撃を受けても殆ど怯まない。

 

 

「―― ギュウッ!!」

 

「ゲッ、グゥ、ガァ!? ……!」

 

 《……バタッ》

 

 

 そのままもう1度噛み付いて、勝負はついた。倒れたゲンガーの影が薄くなってゆき ―― 限りなく薄まって、消える。

 辺りのゴース達も、すぐに制圧されるだろう。研究員たちは、勢いと数で勝っている。

 そんな風に見渡していると、僕の横にいた(リーフ)が目に入る。彼女はピョンピョン跳ねながら、快哉をあげていた。

 

 

「すごい、すっごぉいっっ!! あのポケモン、自分でゲンガーに勝っちゃった!」

 

「……だな。あのジィさんは、ホントに指示を出してねぇ。つまりあのニドリーノは自分の考えで技を出してた、って事になる。あんな風になるって、どんな育て方をしたんだよ……ああ、なんつーポケモン! なんつートレーナーだ、畜生!!」

 

 

 グリーンとリーフの言う通りだ。よくよく考えると、お爺さんは指示を出していない。

 

 

「……あのポケモンは、凄いね」

 

「……ちっ。お前と同意見なのは癪だけどな」

 

 

 グリーンはいつもの態度だけど、今日はちょっとだけ素直だった。

 ……そして、そんなことをしている内にも、事態は終結を迎えようとしている。

 リーダー格であるゲンガーが倒されて数が減っていた事もあるのだろう。研究員が端っこのほうに居たゴーストを倒すと、残っていたゴース達も方々へと逃げ出していった。

 

 

「―― ありがとう、ニドリーノ」

 

「ギュウンッ!」

 

 

 その真ん中。足元に擦り寄ったニドリーノを、お爺さんはとてもシンプルな言葉で迎えた。しゃがみ込んで抱きかかえると、その背中を撫でた。

 隣にいるグリーン、そしてはしゃぎながら見ていたリーフも、この暖かさのある光景に見入っている。そのまま見ていると、

 

 

「―― 貴方達、無事だったみたいね。……良かった」

 

「あっ、ミィだ!」

 

「……ミィさん」

 

 

 僕達の後ろから歩き出てきたのは、グリーンの家に部屋借りしているショウさんの幼馴染。いつもフリフリフワフワな服を着ている人……ミィさんだった。

 リーフが凄い勢いで走りより、

 

 

「ミィーっ!!」

 

「っ、ぅ。……突撃は止めなさい、リーフ」

 

「お、ミィか。おせぇんじゃねぇの? とっくに片は付いたみたいだぜ」

 

「……はぁ。周りにも、居たのよ。ゲンガーが合計12体と、率いられる無数のゴース。それにショウの手持ちを回収していたし、ね」

 

「……マジかよ」

 

 

 ミィさんはリーフの突撃をいなし、撫で、溜息をついた。ついた後には、いつもの微笑。

 

 

「恐らくは、森の方が。影が多いから潜ませていたのでしょう。ここは大樹のせいで開けているから ――」

 

 

 言葉につられて、僕たちは空を見上げる。

 ……なるほど。確かに、ここは回りの森に比べて日差しが多い。ミィさんによると、ゲンガーが潜むのに、周りの森が好都合らしい。

 でも、だとすると……

 

 

「……それは、ミィさん……1人で?」

 

「あら。レッドは、頭の回転が早いのね。……一応は他の研究員も居たのだけれど」

 

 

 どうにもショウの研究班以外は軟弱なのよ……と、ミィさんは続ける。つまり、結局は殆どミィさんが片付けたのだろう。

 

 ……スゴイ、な。

 

 

「……さて、と。何でスリーパーだけでなくゲンガーが、とか、問題は山積みね。それに、一般研究員の証言によるとショウもあのエスパーお嬢様も妹も、消えてしまったみたいだし。……はぁ。そもそも、スリーパーが。『テレポート』を覚えているなんて。確かに覚える事もできたけれど……面倒な事を仕出かしてくれるわ、まったく」

 

 

 ミィさんが腰に手をあて、……何とは無い話で僕達を落ち着かせようとしてくれているのだろう。無表情な中に、僕たちを気遣う感じがあるから。

 隣のグリーンもそんなミィさんを見ていて、すると、ミィさんは中央の方を向き ――

 

 

「……フジ老人と、ニドリーノも。良いコンビになったみたい。重畳ね」

 

 

 お爺さんとニドリーノを見ながら、優しく笑った。

 

 

 ……僕は、僕たちは。

 こんな、凄いトレーナーに ―― 成る事が出来るのだろうか?

 

 僕は、「成りたい」。

 

 

「(……成って、みせる)」

 

 

 目の前にいるミィさんみたいに、誰かの為に。

 ニドリーノのトレーナーであるお爺さんみたいに、優しく。

 テレビで見た最年少チャンピオンみたいに、強く。

 そうなりたいと、なってみたいと。

 僕は……そう、想った。

 

 





 ああ、やっと投稿できるっ……(泣
 お待たせしてしまいました、更新再開です。
 なんとも長い期間を置いてしまいまして、申し訳ありませんですすいませんっ


 ゲンガー VS ニドリーノ。
 これをやらないと「ポケットモンスター」が始まらない気が致しておりまして、という展開でした。

 因みにスリーパーが『テレポート』を覚えることが出来るのは、初代の技マシンによる習得のみなのです。
 ……つまり、現環境では覚えることが出来ない(はず)です。悪しからず。

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