洞窟の奥へと進む毎、霧は濃く深くなっていく。そろそろライトオフで進むのも難しいか、といった具合。
……っと、野生のゲンガーがいるな。
「(プリン、先手で『うたう』。オニスズメは『つばめがえし』)」
「(プールーゥ!)」
「(チュン)」
俺が岩陰に潜んだままで指示の先出しをすると、プリンはウィンク。それと、もう片方。野生の癖俺との相性/コンビネーション共に抜群であるオニスズメは、すまし顔だったり。……ここは一本道だし、突破しないと先に行けないからな。
うし。作戦を確認した所で、早速と角から飛び出し、―― 此方を認識される前に!
「……プー、プリュ~♪」
「ッ!? ゲンg、」
「―― チュ、チュンッ!」
プリンが一旦注意を惹きつけ、別方向から飛び掛ったオニスズメが『つばめがえし』。図鑑で状態及び相手のレベルチェックを行いながら……「ゲンガー:レベル25」。相手のHPバーは半分近く削れてくれてるな、よし。
ゲンガーは左手を挙げ、近場に居たからであろう。丸くてピンクの目立つ奴、プリンへと『シャドーパンチ』による反撃を試みるが……
「プーリンッ!」
「ンガァッ!?」
「―― チュゥゥンッ」
《シュンッ!!》
勿論、ダメージはない。『うたう』によって眠りかけた間を利用しオニスズメが連発した『つばめがえし』で、ゲンガーのHPはあっさりゼロになってくれた。
……ゴーストはノーマルの属性を持つプリン、ついでにオニスズメにも「こうかがない」からな。戦闘的な意味での相性は、実に抜群なことで。
「辺りに他の奴等は……いないかな、と。うし。プリンもオニスズメも、あんがとな。戻ってくれ」
俺はコソコソと辺りを確認しつつ、プリンとオニスズメへ定位置に戻るように促す。プリンはふわりと浮かび上がって俺の腕の中、オニスズメはぴょんと跳ねて我が頭上だ。
……なんぞ、この定位置。とか突っ込みを入れたいのは山々だが、今は先へと急ぎたい所だからな。脳内だけにしておこう。
さて、洞窟の奥へ奥へと進み始めた俺達。そうしてから既に、時計の上では30分ほどが経過している。
避けられるものは避け、倒すべき相手は倒しつつ奥へと進んでいるんだが……うぅん。こうしてみても、幽霊ポケモンってのは実に厄介だな。
「(今は昼だから眠っているムウマやヤミカラスはともかく、ゴース系統の『ガス状ポケモン』が問題だよなぁ。霧に混じると判別が付き辛いんだ、ほんと)」
ゲンガーは実体ぽいのがあるから判り易いし個体数が少ないからまだいい。のだが、ゴースとゴーストが面倒だ。
なにせ協会員を、ひいては図鑑の文を信じるとすれば……ゴースのガスを吸うとインド象が2秒で死に至るらしいし。ついでに、ゴーストなんかは舐められただけで苦しみながら死亡だ。更に更に、ただでさえ壁をすり抜けてくるその癖、奴等は『ふゆう』で空まで飛びやがるときた。
「(図鑑の文章が物騒極まりないよな、ったく)」
……あー、もう。こんなのの相手をするのは、本来ならば出来るだけ避けたいよなぁ。今は仕方が無いから戦うけどさ。
「とはいえ、先には進まなきゃいけないし。―― お、開けた」
既にどう進んだかも覚えていないほどの距離を歩き、奥へと進み……辿り着いたそこは、大きな縦穴となっていた。壁から顔を出した俺達は、穴の底を高台から見下ろす形になっている。
……うーん。深すぎるのか、縦穴の底が黒く染まって見える。プリンは只でさえ大きな瞳を一層見開き、オニスズメも身を乗り出して穴の底を覗き込もうとする、のだ、が。
「(んん? ……あー、成る程。こりゃあ、底を見ようと思う事自体が無駄なんだな)」
なにせ、底に向かって傾けたポケモン図鑑が、律儀に『解析を開始してくれている』のだ。
あーあ。どうやら、我が頼りになる(悪い)予感は通常進行なご様子らしい。
「―― ッ! ―― ホーク!」
「―― ムクゥ!!」
暗闇の内にあるのであろう穴の底から、何がしかを指示したぽい人の声が響き、1体の鳥ポケモンが俺達の目の前を飛び昇っていく。まるで、穴の底に潜む「何か」に追われる様に。
……いやさ。実際に追われてはいるんだろうけど。
――《バサバサバサッ!》
真っ先に上っていったポケモン ―― ムクホークを皮切りに、無数の鳥ポケモン達が付き従い、空へと昇る。
その中には……おお。スバメ、ホーホー、ポッポなんかも居るな。色々な場所から集まったと思われるそれらは、しかし。
――《オオ゛オオ゛オオ゛ッ!!!》
底に溜まっていた『黒さ』がぐるりと回り、空を見た。
鳴き声ともいえぬ、その何か。非常に違和感のある音をたて、自らの寝床たる「縦穴」の中心から、技を放つ。
どうやら、黒い霧の塊のような『それ』には独立稼動できる腕があるらしい。片手を縦穴の底、地上に立った無数のトレーナー達……鳥ポケモン達の主であろう……に向けながら、もう片方を鳥ポケモン達へとかざし、
『10万ボルト』。
膨大な熱量の雷が通行路にある邪魔な岩壁を砕き、耳を
その距離から察するに、この世界における空気の通電性は俺の知る電圧的意味の10万ボルトとは一線を画すと思われる。流石は
《《ガカッ、ガァァンッ!!》》
うお、規模が半端無いな! 洞窟の天井が若干空いていなきゃあ耳がイカレる所だぞ、今のは。
なんて、俺が音やら気圧やらに脅威を感じたりしていると、鳥ポケモン達がバタバタと地面に落下していく中ですら機械的に動いていたポケモン図鑑が解析を終了し、結果を表示。
目の前の黒い塊は ―― 「ゴースト」。レベル89だそうだ。
……体長30メートルはありそうなんだけどな、アレはっっ!!
「そもそもゴーストにしちゃあ、やけに顔が怖い。……つーか、よりによってゴーストて。戦い辛いのが相手だな」
「チュン!? チュチュゥンッ!?」
「んー、難しいのは判るけど、とりあえず落ち着いとけ。ほれ、プリンとか見習うと良いぞ」
「プールリュー♪」
「なんとも豪胆だろ? コイツさ。……それに、アレは必ずしも『倒さなきゃいけない』なんて相手じゃあないんだから」
俺は頭の上で
縦穴の底にいる人物 ―― トレーナー達は多分、コクラン達だろう。ムクホークなんていうポケモンの珍しさといいさっきの声といい、ついでにトレーナーの数も。『御家』ならば納得できる規模だからな。
となると、カトレアがこの場に居ないのが幸い。
「(とか言ってる内、カトレアから電信だ)」
先ほどの雷と見まごうばかりの『10万ボルト』によって天井が貫かれたからだろう。カトレアから、トレーナーツールに連絡が来ていたのだ。―― その文面からしてどうやら、行方不明者全員まとめて救出してくれていたみたいで。
……おお、流石はエスパーお嬢様。期待以上の御活躍で、是非ともお礼を言いたい所ではある。
「(けど、ならばこっちは、元凶をこそ何とかすべき場面だな)」
とは言うものの、手持ちは2体だけ。その2体もプリンと半野生のオニスズメだとかいう、俺個人だけならば絶望的戦力……なのだが。コクランたちも居るんだからな。何とかなるだろうと思いたい。
……さて。野生の癖、技マシンでしか習得できない『10万ボルト』を覚えていると言う事は、このゴーストの正体はかなり古株の野生ポケモン、または元トレーナーのポケモンの2択か。
「(……あの図体的には野生の線が強そう、か?)」
通常に育てて、こんな図体になるとは思えない。野生のままで強さを ―― とかいうのの辿り着く先がこのゴーストだとするとレベル的には頷けるし。只のゴーストとは思えない
とすれば、利用するべきはあの伝説ポケモンにも匹敵する『広範囲技』か。うし。
眼下に広がる穴の底、暗闇の淵を見下ろして……まずは降りるべきかな。
「ほっ、やっ……着地完了で、と」
お碗型に削れた穴の中心へ向かって、適当に駆け下りてみる。何とか転倒せずに着くことができた。
そしてそのまま、コクランと思われる ―― しかしほぼコクランで間違いはないであろう「執事服」の近くまで駆け寄って行く。
多数のトレーナーの中心に居た執事服足るソイツが目ざとくも足音を聞きつけ、
「―― ええっ、ショウ!?」
「おーす、コクラン。……細かい事は置いといて、まずはコイツの相手をしようぜ」
「……本当に、ショウ? コイツの作り出した悪夢じゃあなくて?」
「折角の援軍の到着を、悪夢て」
黒い霧の塊となっている、相当な質量を持つであろう規格外のゴーストを指差して、コクランであることが確定した人物と適当なやり取りをしながら。
……それにしても、コクランの吃驚する顔は見飽きないなぁ。良いリアクション。
「でも、ああ、そうだね。……そう言うからには、ショウには何とかする『アテ』があるんだろう?」
「ん、勿論だ。―― このゴースト、『捕獲』しちまおう。つか、捕獲しないでもう1度暴れられても困るしな」
「成る程、確かに。この巨体を捕獲しようなんて思えなかったけど、野生ポケモンなら捕獲できるのが道理だ。……そして、コレ、やっぱりゴーストなんだね……」
うんざりといった表情でゴーストの背中を見上げ、信じたくないけど……と続けたコクランの気持ちはよーく判る。判るが、
「あー、でも、図鑑がゴーストだって判別してるんだ。それに、体のパーツ的にもゴーストとは一致するぞ? ……質量やら図体はともかくとして」
「だよねぇ。……あ」
そんなやり取りをしている内に、真っ黒な体が回転した。身体の真ん中にある赤くてギザギザした口と、ハイライトの一切無い眼が俺達へと向けられ、ギンッという効果音を放って光る。
……何の技だかは判らないけど、視線と威圧感、半端無いなぁ!!
「ほんとにゴーストかが疑わしくなってくるよな、コイツ」
「本当は、どこかの伝説ポケモンなんじゃないかい?」
「プールルー?」「チュ、チュン……」
緊張をほぐす為、または逃避的な思考をする為、軽口を叩き合ってみる。
ついでに、手の中のプリンはともかくオニスズメは体が強張ってるな。ま、このゴースト相手じゃあ無理もないか。ほれ、かいぐりかいぐり。
落ち着けとまでは言わないけど俺の指示は信じて欲しいという気持ちを込めて、その頭を撫でてやる。……少しはマシになったか?
「……チュン」
「キルー! キルルゥ!!」
そして、目の前にいたキルリアが、主たるコクランの袖をくいくい引っ張っている。んー、何となくだが、ツッコミを入れられている気がするな。「そんなことしてる時間はないよ!」とか。想像だけど。
俺とコクラン揃って、目の前の特殊固体ゴーストへと心身共に向き直す事にする。
「あんがとな、キルリア。ちょぉっと逃避したかったんだ。……だいじょぶだいじょぶ。今度はちゃんとやるって」
「そうだね、すまない。キルリア。……このゴースト、オレ達調査隊が来た時には既に目覚めていてさ。けど、目覚めたからには洞窟の外へ飛び出してしまう可能性がある。そもそもオレ達だって『くろいまなざし』のせいで逃げられないからね」
「あー……理解した。さっきのは『くろいまなざし』か。『こわいかお』かと思ったよ」
「らしいね。で、さっき外へ向かわせた鳥ポケモンを囮に、何人かは無事に脱出することが出来たんだ ―― けどさ」
成る程、さっきのはそういう作戦か。恐らくは鳥ポケモン達に気を向けさせている内にトレーナー数名を『あなぬけのヒモ』で外に逃がしたのだろう。その代償として、辺りにはまだ落とされた鳥ポケモン達が「ひんし」状態で気絶しているけどさ。
コクランはボールに納めた「ひんし」状態のムクホークを見つめつつ……そうだな。
「伝令を出したからといって、近場にそうそう都合よく強いトレーナーが居る訳じゃあないって事だろ? 大体、『5の島』に来るにも時間がかかるしな。つまり、」
「ああ、ショウ。オレ達でコイツを何とかしたい所だよね」
「おっけ、共同戦線だ。俺は仕掛けをするから、コクランは『御家』のトレーナー達を引き連れて、なんとか防衛線張ってくれ。因みに作戦は『いのちをだいじに』だ。継戦能力重視にしとこう」
「もう作戦があるってのがショウらしいね。……了解したよ」
「いやぁ、俺1人だったなら逃げの一手なんだけどな」
「そうかい? ……さて。とりあえず、アレを他のゴーストと区別するために、個体名を付けたい所だね。辺りに浮かぶ幽霊達と区分けが無いから、呼称する時に紛らわしいよ」
「……あー、そうだな。コクラン、適当に付けてくれるか?」
「うん、そうだ。……
「それはそれは、良いセンスをしてますことで。文句は無いけどルビ振りが必要な名称だよな、それ」
「異存が無いなら問題は無いだろ? それじゃあ ―― トレーナー隊、行くぞ!!」
――《 オ゛オ゛、オォ……? 》
コクランが
よぉしよし、とりあえずはこれで良い。
相手が巨体で高レベルとはいえ、野生のポケモンならばやり様はいくらでもあるのだ。
……スリーパーが初代でしか覚える事のできない技を使ったとはいえ、『ふぶき』が猛威を振るう訳でもなく、『きりさく』で急所が連発出来る訳でもなく、道具欄の7番目でセレクトボタンを……な訳も無いんだし。
「(相性と技次第で、と。俺の手持ちおよび協力者は、プリンとオニスズメ。オニスズメがいるなら、この作戦で何とかなるだろ)」
んじゃあ、間はコクランに頼んでおくとして……こちらも仕込み開始といきますか!!
――
――――
戦闘が開始されて10分ほどが経過しようとしていた。
今の所、ゴースト特殊個体 ―― 『ブラッグフォッグ』の
《《 オオ゛ッ!! 》》
ブラッグフォッグは黒い両手を掲げ、雄叫びと共に技を繰り出す。雨粒の如く打ち出すのは、『シャドーボール』だ。通常1発毎に力をこめて打ち出される筈の『シャドーボール』がこうも容易く拡散射出されるのは、コイツが「伝説」足りうる個体であるからなのだろう。攻撃範囲的にな。
まぁ、見た目からして普通じゃないからなぁ。只のポケモンじゃないのは、あの強面を見ればわかる。
「―― 皆、回復を!」
「はいっ!」
コクランの指示に従って、控えていたメイド達が前線のポケモン達を回復し始める。各々トレーナー達は『シャドーボール』による広範囲攻撃によって倒された自らのポケモンへと心配そうな顔を向け、しかし、ブラッグフォッグから視線は逸らさない。出来る限り違うタイプのポケモンを繰り出し、ブラッグフォッグの攻撃を絞らせまいと攻撃を仕掛けている。
……が。
「(圧倒的に攻撃力が足りていない、か)」
攻撃によるダメージは、殆どといっていいほど見られていないのだ。仕方が無いといえば仕方が無い。それこそがレベル差による問題点でもあるのだからして。
だが、ダメージを与えられないという事は捕獲もし辛いという事になるからなぁ。何とかするか。何しろ「何とかする」―― そのアテをこそ、俺は用意していたんだし。
俺は屈んでいた場所から立ち上がりつつ、思考を巡らす。
さて。目の前に存在する『ブラッグフォッグ』、その攻撃範囲は広大だ。しかして俺の手持ちはプリンとオニスズメのみで、ミュウツー戦のように『
ここでさらに都合が悪い事に、相手は『10万ボルト』『ナイトヘッド』『シャドーボール』などの攻撃技を使いこなしてくるときた。フルアタ気味な構成ではあるが……他の技も幾つか覚えているとみて良いだろう。
そんな相手に対する、コクラン達『御家』の防御陣は単純明快。攻撃を受けて大勢のポケモンが倒れ、次のポケモンで戦っている内に後列のメイド部隊がボールに入った「ひんし」のポケモン達を回復するというものだ。
……これ、まさに金持ちならではの持久戦であると!
「なら、復活した傍から戦っているポケモン達が『疲れない』内に、カタをつけなきゃな。んじゃあ、ちょっと力を貸してくれ!」
「ッポ!」
「ホー、ホゥ?」カックリ
「スバッ!」
俺は周囲に佇む多くの鳥ポケモン達……『10万ボルト』によって落とされたポケモン達を『げんきのかけら』で回復させた……の同意を得ると、ブラッグフォッグを見やる。
「―― チュゥンッ!」
「講師役ご苦労さん、オニスズメ。さぁて、と!」
《ボウンッ》
「プ、ルーゥ!」
頼りになる我が手持ち+アルファーの鳴き声を受けつつ。
―― ここからが、俺達の反撃だ!
って、うおぁえッ!?
《《ズヴ、オオオ゛オーッッ!!》》
折角反撃を仕掛けようかという所で、まさかの広範囲攻撃。その大きな身体を回すと、辺りを囲むポケモン達から可視化した緑色の生態エネルギーが溢れ、大口を開けたブラッグフォッグへと吸い込まれて行く。
ビジュアル的には『ゆめくい』だが……恐らくは、『ギガドレイン』か!!
効果範囲は幸い、かなりの距離をとっているこちらまでは届きそうに無いが……対多数から吸い取っているとすると、
只でさえダメージを与えられていないってのに、ったく。強いなぁ、アイツ!!
……ついでに、この攻撃をされている間は俺達も近づく事が出来ない。頼むぞ、コクラン!!
「、―― ッ!!!」
勿論、有能な執事たるわが親友も黙って嬲られているほどドMではない。
指揮者の如く腕を振ると、メイド部隊が入れ替わりに前へと出た。エスパーポケモン達を繰り出し、一斉に飛び掛らせる。
揃って放たれたのは、超高密度の『さいみんじゅつ』だ。
「―― んなら、合わせて、プリン!!」
「プリィ!! プゥ、プルー、プー、プリー……♪」
《ッ!! ……オ、オ》
聴覚と念波による多重催眠。流石にたまらず、ブラッグフォッグの身体がゆらりと揺らめくと、ハイライトの無い目を覆うまぶたが降り始めた。
確かに、「眠り」状態ならば、反撃を受けずに攻撃し放題だ。これこそが単対多の利点でもあるんだし。
……だけど、あれだけの濃密な状態変化技を受けて、ブラッグフォッグは未だ眠りきってはいないのだ。片手で自らの頭を覆いながらもう片方を掲げ、黒い光が集まり――
―― ここだ!!
「出番だ! 行くぞ、みんな!!」
「―― チュ、チュゥーンッッ!」
「ッポー!」「スバッ」「ホゥホー」
ここが反撃のチャンスだ。
俺が合図を出すと、オニスズメを先頭に出番を待っていた鳥ポケモン達が一斉に飛び掛り、ブラッグフォッグの周囲を覆う。
それでもブラッグフォッグの攻撃は止まらない。『シャドーボール』が散弾銃の如く撃ち放たれ、
――《 バヒュゥンッ 》
「チュンッ!!」バササッ
打ち出された黒い塊が鳥ポケモン達に当たる度、蒸発したように消えてゆく。
うっし、作戦通り。ノーマルタイプを持つポケモン達にゴーストタイプの技は「こうかがない」んだから、オニスズメだけでなく、間に入った全ての鳥ポケモン達は未だHP満タンのままで健在だ。疲労困憊のコクラン達に攻撃が届く事も無い。
……本来であればそれはこちらも同様で、ノーマルの攻撃はゴーストタイプに効きはしないんだが……
「(飛行タイプは、それ単体で成り立つ事は殆ど無い。ほぼ全員がサブタイプを持ってる。特にノーマルは多いからな)」
つーか、例外はトルネロスだけだよな。その筈。
んでもって、それはどうでも良い。それよりも、お披露目といきますか。この理不尽さを活かした ―― 足りない攻撃力をも補う為の、作戦。
大きく息を吸い、
「頼んだっ、一斉に ―― 『オウムがえし』でっっ!!」
《《バサササッ ―― 》》
――《《 ドシュシュシュシュ、ドシュンッ!! 》》
オニスズメに次いで、ポッポやホーホーやスバメが『オウムがえし』に『シャドーボール』を撃ち返す。俺のオニスズメが『教えた』これは本来、タマゴ技でしか遺伝できないんだが……そう。この世界、トレーナーが付きっ切りで指導してやれば、遺伝技は「修得することが出来る」んだ。
なにせ元々、遺伝とはいえ「使う事が出来る」技だからな。元から使うことの出来るオニスズメを師範として暫く練習してれば、付け焼刃故に成功率た再現率は100%とまではいかずとも、その性能は発揮出来るという次第。
因みに、「野生ポケモンが技マシンを覚える」場合とか「教え技の習得」も大体は同じ様な方法だったりする。俺もリーグ挑戦前にニドクインやクチートに3色パンチを習得してもらう時とかは、格闘道場のおっちゃんの所に通い詰めになっていたんだよなぁ。懐かしい。
「(『教え技の教え方』は、シンオウ行った時に教えてもらえたからな。いつかは『忘れオヤジ』とか『ハートのうろこマニア』にも弟子入りしたい所かね)」
……ってか、そんな思い出話もどうでも良いな。可及的速やかに現実へと回帰すべきだろう。
さて。目の前で鳥ポケモン達から撃ち出される『シャドーボール』は、ただの『シャドーボール』ではない。黒い弾が着弾する度に爆発し、ブラッグフォッグを覆っていく程の数だ。『10万ボルト』によって落とされていた鳥ポケモンの内、『オウムがえし』を覚える事の出来る10体ほどでこの数を撃ち出す事が出来ている ―― その種。
特殊個体たるブラッグフォッグ……その拡散弾よろしくの『特殊なシャドーボール』を
『オウムがえし』は相手の技を真似て、相手に返す技。相手の『シャドーボール』が『拡散シャドーボール』ならば、そのまま『拡散気味シャドーボール』として撃ち返す事が出来るのだ。その点において『ものまね』や『スケッチ』とは違う使用となっている。
それに、返された『拡散シャドーボール』は、ブラッグフォッグのデカイ図体に面白いほどよく当たる。攻撃力の不足分は、十二分に補うことが出来るだろうと考えたんで。
そうしている内に、鳥ポケモン達がターン分の『拡散シャドーボール』を返し終えた。煙が多少晴れて……デカイ図体に群がってた黒い点が見えなくなったな。どうやら今の一斉射で、辺りに群がっていた野生のゴース達が『きぜつ』したらしい。逆に言えばそれらを楯にしたという事なんだろうが、
「……まだ来るか?」
コクランと率いられるトレーナー達が息を呑む。勿論俺も。
けど、まだだろうな。威圧感が消えていないから。
《 ―― ォ ―― 》
「……っ!!」
《《 オ゛!オ゛!オ゛!オ゛!オ゛! 》》
爆発煙を片手で払い、再びその巨体を現したブラッグフォッグが叫ぶ。
……効果は抜群、無数の『シャドーボール』を受けつつも体勢を立て直してみせるか! 手元の図鑑に表示された仮計算上の「ゴースト:レベル89」のHPバーは、とっくに空になっているのに、だ!!
《 ―― ゥオオ……》
だが、ダメージが通っているのは解る。ゲンガーがそうだったように、ブラッグフォッグの身体はあちこちが煤け、破れかけた布のようになっているのだ。言い方は悪いが、ズタボロになった雑巾が丁度こんな感じだろうかと思う。幾分か浮き方も傾いて見える感じがするし、少なくともかなりのHPを削ることに成功しただろう。
『シャドーボール』の雨に圧されて地に落ちていた身体をゆらりと浮かし、
……来るか!?
《 ウ゛ゥ 》
――《 ヒィンッ!! 》
「うわっ!?」
反撃かと思われた矢先、突如ブラッグフォッグが閃光を放った。
近くにいたコクランや『御家』トレーナー達も、慌てて光を遮ろうと体をよじる。俺も例外ではなく、とっさに手をかざし ―― !
「……消え、た!?」
メイド部隊にいた少女が、再び開いた目でシンと静まり返った洞窟を見て、ポツリと一言。
この言葉を皮切りに、辺りが少しずつざわつき始める。そのままざわつきの波が広がり続け……
「わぁぁぁん! 怖かったー!!」「やった、やったぞ!」「生きてるって素晴らしいッ!!」「ぅぉーッ、やってやったぜ!!」「やりゃあ出来るもんだな、おい!!」
勝利ムードだなぁ、ったく。まぁ、仕方が無いといえば仕方が無いか。幽霊ポケモン達は、倒されるとその場から「消える」のだ。ブラッグフォッグは確かに「消えた」し、いなくなったという事は、当面の脅威は去ったということだし。この反応も間違いではないのだろう。
……ただし。残念ながら、今の光は明らかに「めくらまし」だったからなぁ。図鑑の追跡機能を起動して、と。こうなりゃ俺1人で ――
「聞いてくれ!! トレーナー部隊の皆、戦闘は終了だ! 各自、回復と脱出準備を始めてくれ!」
「「「は、ハイッ!!」」」
大声で指示を叫んだのは、執事長ことコクラン。
慌てて統制を取り戻した部隊は、素早く撤退の為の手はずを整えていく。
「……あれ、執事長は?」
「わたしはショウと一緒に、周囲警戒をしてくるよ。辺りにまだ強力な幽霊ポケモンが潜んでいないとは言い切れないですからね。先に戻っていてください」
「わかりました! では ――」
コクランの指示を受けたメイドが集団の中へと走ると、コクランは暫しその光景を眺めてから、俺の方へと歩いてくる。肩をぽんと叩いて、
「さて。行くか、周囲警戒」
「……いい友人を持ったもんだよ」
まさか察してくれるとは。こりゃあ一家に1人、高性能執事の時代が来るかも知れないぞ。
……なんて無駄思考も程ほどに。
お椀型の闘技場の隅、倒れた柱の影。黒い霧の流れ出ているあの穴あたり、警戒しに行こうかな!
――
穴の中へと入り、人工的な階段をコツコツと音をたてて降りていく。近づく毎に霧は濃くなっていくが、先程までの威圧感は幾分か以上に成りを潜めていた。
因みにどうやら、ブラッグフォッグが逃げの一手として使用したのは、『あやしいひかり』だったご様子。さっきまでプリンもオニスズメも、ちょっと目の焦点が定まっておらず……『こんらん』していたのだ。
「チュゥンッ」
「オニスズメ、プリン。気分は晴れたか?」
「プルルリュゥ♪」
「大丈夫みたいだね。俺の手持ちも、もう回復したみたいだ」
そう言い、コクランが手持ちのボールを目視して状態を確認していく。順にムクホーク、キルリア、ヘルガー、エンペルトだな。
因みに、俺の手持ちはプリン、オニスズメ。以上。
……レベル差的にもメンバー的にも、もうコクランに任せていいかな、俺!
「何を言うんだ? ショウがいないと始まらないじゃあないか」
「……うーん、でもなぁ。なんつーか、こう、戦力差がな?」
「はいはい。さっさと進もうよ、ショウ」
「一応、足は止めてないって」
言いつつ、手の中にある「切り札」へと視線をおとす。
……何の事は無い。「切り札」なんてご大層な呼ばれ方をしているのは、所謂モンスターボールだ。だが、ただ1つ違うとすれば……
「―― なぁんてやってると見えて来るんだよな」
「……居る、ね」
「プルルルルゥ」「チュゥン!」
階段が途切れ、俺たちの足が石畳の敷かれた床に着いた。コクランが思わず「居る」なんて言ってしまうのも仕方が無い。洞窟の底たるこのフロアーには、洞窟に立ち込めていた「霧」が、より一層の濃さでもって溜まっているんだから。
暗すぎて全貌が見えないが、辺りには倒れた柱や建築物の残骸と思われるものが散乱している。
……こりゃあ、大人数で来なくて正解だな。なにせ、ゴーストであるアイツは「壁はすり抜けるもの」とでも言わんばかりに、
「で、ショウ。ブラッグフォッグはどこなんだい?」
「―― そだなぁ、方角と距離。でもってなにより、ラスボスのお約束としちゃあ、あの建物の中にいると思われ」
言いつつ俺が指差すのは、50メートルほど先にみえている神殿だ。
図鑑の持つ「追跡機能」を使用した結果、先のブラッグフォッグはあの辺に居るとの結論がでているので。
……本来なら原作通り、ライコウとかエンテイとか、ラティ兄妹に使う予定だったんだけどな。この機能は。
「おじゃましまーす」
「プールル、リュー」「チュ、チュンッ」
「野生ポケモンの巣に入るってのに、随分と律儀だね」
「んー、気分の問題だな」
「ふーん……まぁ、いいや。……ご免ください」
結局お前も言うのかよ、おい。
「―― と。『居た』」
《 ――、―― ォ 》
脳内ツッコミと同時に扉を開いたその先に、ブラッグフォッグはいた。大きな身体を器用に丸め、廃墟と化した神殿の床に臥せっている。
俺たちの侵入には、とうに気づいていたのだろう。神殿の大広間らしきその空間に足を踏み入れると同時、ぎろりとした視線をこちらへと絡みつかせてきた。
《 オ、……オォ 、 ッ》
「……来るぞ。プリン!」
「頼んだ、ムクホーク! 『まもる』!」
「―― プリュッ!」
「―― ムクゥ!!」
《シュン》――《カィンッ!》
入るなりの投石で御歓迎と来たか。指示の先だしを受けていたプリンとムクホークが『まもる』によって生み出した障壁で、飛ばされた石片を弾いてくれた。
……それにしても、なんだろうな今の技。ブラッグフォッグの出自的に考えれば『サイコキネシス』だけど、この世界のそれは「思念波をぶつける技」だ。となれば、真なる意味での念動力、とかか?
…………んー、いや。違うな。
「とりあえず。ありがと、プリン」
「お、おい。ショウ、無用心に近づきすぎじゃあないか」
「問題ない。……多分、体力切れだ」
プリンを横に浮かしつつオニスズメを頭に乗せ、ずかずかと近寄って行く俺。そんな俺へ向かって、コクランは焦った声で静止を呼びかけてくれるが……さっきのは、あの『手』を浮かばしている力の応用で石を『投げた』だけだろう。幽霊ポケモンなりの『投石』という訳だ。
つまりは、正統なる『技』じゃあなく――
「あー、強いて言えば『わるあがき』だな」
「ああ、もう! 待てって、ショウ!!」
「ムクゥ?」
コクランと不思議顔のムクホークが後を追ってくる。が、気にせずそのまま、顔の近くまで寄った所で。
……ほれほれ、怖くは無いぞー。
「チュンッ!!」
「……ゴゥ、ス」
「お、初めて『鳴いた』な」
おお、オニスズメの呼びかけには応えてくれるか。だが実際の所、ブラッグフォッグに力は残っていまい。
宙に浮かぶ力は既になく、床に伏せ。身体は
ついでによくよく見てみると、身体の端々から黒い霧が流れ出てるな。どう見ても満身創痍だ。
つまりは、
……それでいて尚、少ないながらに威圧感を発しているってのは、凄いと思うんだけど。あのミュウツーでさえ、倒れてからはおとなしいモンだったってのにさ。
「これが野生産の強さ、かー」
「―― はぁ、は、やっと追いついた! ……っ、」
《 オォ…… 》
「大丈夫だ、判ってもらえたぞコクラン。……なぁ、ところで。なんで俺がコイツを捕獲しようとしてたか、判るか?」
「えぇ……。……はぁ。唐突な質問だけど、何となく、と答えておこうか。ショウはつまり、このポケモンを『助けたかった』んだろう?」
コクランの返答は半分正解で、だがしかし肝心な部分が抜けている。俺は確かに、目の前で倒れているブラッグフォッグを助けたかった。
……だが、それは俺自身の問題だ。
コクランとの会話を一旦切り上げ、力なくたゆたうブラッグフォッグを見上げる。
《 オ、オ 》
「えーと、だな。俺はお前を捕獲しようと思ってたんだ。でも、聞いてくれ。これは選択肢であって、強制じゃないんだ。……ほれ」
俺は手に握っていた、「白いモンスターボール」をブラッグフォッグへと差し出す。
「これは『試作品』で、普通のモンスターボールとは色々と使用が違うんだよ。制限がない、って言うのが適切か。―― 例えばお前を研究者権限を使わずに捕獲して、もっと回復できる場所へ移送してから、『足の着かない形で逃がす』とかな」
「! ショウ、それは!」
毎度、コクランの良いリアクション。
トレーナー制度が始まって以来、管理が厳しくなったこの世界において……今俺が「出来る」と言った行動がどれほどの問題なのか、コクランは正確に理解出来ているんだろう。
勿論、俺も判っている。だからこそ、トレーナー資格を取る前の段階であるこの旅が最後の機会だと考え……その最後に、イベントを入れたんだからな。
だから。今なら『ブラッグフォッグ』も、便乗させてやることが出来る。
「―― どうするよ。このままここで『還らずの穴』の墓守を続けるか? ……お前を怖がる余りにポケモントレーナーを集めてしまうほど、島中のポケモンに嫌悪されているとしても」
《……》
光を一切映さないブラッグフォッグの瞳が、俺の姿を映す。
しかし、そう。今回の事件の顛末は、……
「つまり、スリーパーがこの『ブラッグフォッグ』を怖がって、倒す事の出来るトレーナーを集めていたって言う事なのかい?」
「あー……俺としてはゲンガーが、ひいては洞窟中のポケモン達が怖がってスリーパーに協力要請したセンを押しとくぞ」
ゲンガー達なら「技」で人を眠らせることは出来る。が、連れ去るならばスリーパーが「適任過ぎる」んだからな。眠ったトレーナー達の夢を食べるのを条件に……なんてのは、ただの妄想だけど。
……つっても、どちらにせよナナシマ中を巻き込んだ事件に発展しちまったって結果は変わらないからなぁ。
「さて、どうする」
《 ……オ、オォ 》
問いかけると、ブラッグフォッグの身体が正面の俺へと向き直る。
悩んでいるのであろう。急かすのも野暮だし、しばらく待ってみるか。
「えぇと、だな。トレーナーのポケモンになる事の特典でも説明するか?」
「ショウ、流石にそれは……」
「判ってるって。でもな。間が持たないだろ」
「プールゥ♪」
「いや、お前のライブは遠慮しとく。それだと皆仲良くお昼寝タイムに突入しそうだ。疲れてるし、ポケセンに帰ったらよろしく!」
「チュン」
「え。俺、なんか呆れられてる? 何ゆえ?」
「うんうん……オレは分かるよ、オニスズメの気持ち。ショウの手持ちって、皆こんな感じなんだ」
《 ……ォォ 》コクコク
「……ぉぉう。ブラッグフォッグまで」
《 ……オ゛オ 》
「えふん、そんな事より。……さて、俺たちも皆を待たせている身でね。返答を頂戴しよう!」
逡巡の間を経て導き出された、その結論は ――
―― 《 スゥ 》
返答は、NOだった。
ブラッグフォッグの身体が、端から段々、洞窟の底に立てられた墓所の闇へと同化して行く。
はぁ、仕方が無いといえば仕方が無いか。と。
「プリュ!? プルルリューッ!?」
「……優しいなぁ、プリンは。でもこれがアイツの選択なら、尊重してやるべきだと思う」
「プ、……ルルゥ」
「……チュゥン」
プリンは、シンオウでの自分と同じような境遇にあり ―― しかし提案を跳ね除けたブラッグフォッグへ一言いってやらずにはいられなかったのだろう。
その脇へトトッ、と跳ねて来たオニスズメが、俺たちを見上げて不思議そうな顔をしている。……あと、コクランは、またかと言う様な呆れ顔。
「いいのかい? 結局、強大な野生ポケモンが野放しな訳だけど」
「コイツはあくまで『墓守』だ。荒らされない限りは大丈夫だって。こんな深部まで踏み込めない様にしちまえば、それで事態は解決だろ? 今回のだって、目覚めた時の物珍しさで怖がっていただけだと思うしさ。野生ポケモン達なら、すぐにでも慣れるだろうよ」
「……わかった。そのための下地作りは、オレが引き受けよう。お嬢様を守って貰ってる借りがあるからね」
などと、溜息をつきながら。
……あー、いやぁ……御家の力を借りたいのは山々なのだが。
「―― スマン。実はカトレアお嬢様、現場に着いて来ちまってて」
「うん? ああ、大丈夫。俺が言っているのはスクールでの事だ。お嬢様からメールが来たから、知ってるよ。お嬢様自身が独断でついてきたんだろう? お上が考えての行動なら、俺に文句を言う資格は無いさ」
「……んん、いや、ほんとゴメン」
「危険云々だけど、結果が無事ならいくらでも申し開き様はあるから良いさ。それに住民を助けた、っていうのはお嬢様と御家の箔にもなるからね。大いに宣伝として使わせてもらうから問題ない。……ただし、晩飯はおごらないから!」
「そらもう、当然。……ありがとな、コクラン」
「構わない。ショウなら上手くやってくれると思っていたさ」
「プールリーィ♪♯」
「うんうん。同意してくれるのは嬉しいぞ、プリン!」
《 ……ォ、 》
消えつつあるブラッグフォッグ、その最後に残った目が、俺とコクランの姿を……そして、トレーナーとポケモンの姿を捉える。
内に閉じられた、渦巻く「何か」を受けつつ ―― それでも俺が、ポケモントレーナーとしてかける最後の言葉は。
「んじゃな、ブラッグフォッグ! 機会があったら、今度は俺の全力メンバーとポケモン勝負しような!!」
「そうだね、君とのバトル……オレも、オレのポケモン達も楽しかった!!」
「プールーゥ!!」
「……チュ、チュチュンッ!!」
俺達が到着した際には既に戦っていて、長時間に渡る戦闘を繰り広げていたのであろうコクランが言うなら、間違いは無い。
プリンとオニスズメも何事かを叫び、コクランの服の内に付けられたモンスターボールも、カタカタと揺れている。
―― 「ゴォ、ス」
対峙した相手を驚かす為の怨嗟の鳴き声ではなく。自分本来の鳴き声で鳴いて、ゴーストは ―― 少なくともこの空間からは、完全に消え失せた。
何もいなくなった空間を少しの間見つめてから、強張っていた身体で伸びをして……ふぅ。
「ふぅ、と! そんじゃあ俺たちも、撤退した部隊に追いつくとしますか!」
「プリュリー♪」「チュンッ」
「だね。……それにしても、『かえらずの穴』から帰ることが出来て良かったよ」
「帰るまでが遠足だぞ、コクラン。それに結局、今後も安全になるかって部分には、御家の辣腕を振るってもらわないと」
「相変わらず言葉だけは厳しいね、ショウ。でもまぁ、そうか。『かえらずの穴』なんてネーミングは活用させてもらうとして……」
帰りの階段を登っていく最中という時間が惜しいのだろう。コクランはその間にも、ぶつぶつと対応策を挙げていく。
……でもまぁ、俺たちが帰ることが出来るってのは当然だ。
「(いつだって ――『帰ることが出来る』のは、生きてるモノだけなんだ)」
いなくなった奴に囚われたままの、ブラッグフォッグ。
彼または彼女が幸せかどうかを決めるのは、決めるべきなのは。
決める事が出来るのは、決めていいのは。
そんな権限を持ってるのは、奴自身なんだ。
……だけど。アイツが生きる長い長い時の中で、今回の俺みたいに。手を差し伸べる奴がいても、まぁ、悪くは無いかと思う。
……ああ。
偶には、な!
コンセプトは「特殊個体」、「タマゴ技・教え技・技マシン技の習得方法」、「電撃! ピカチュウ」の3本だてでお送りしました。
……ええ。詰め込みすぎたせいで、読みづらいことこの上なくッッ!!
申し訳ありませんですスイマセンッ!!