ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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特別編② 白金よりも価値ある一歩

 

 ジムの中は氷漬け。足場を取られるフィールドでのバトルに、あたしとガーディは苦戦していた。

 けれども、それも何とかなりそうではある!

 

 

「……ガーディ(『ひのこ』)」

 

「ワゥンッ!」

 

 《ボオッ!》

 

「ュキッ!? ユユキキィッ!?」

 

「ああ、ユキワラシっ!?」

 

 

 サイン指示に頷いたガーディが、相手に向かって『ひのこ』を放つ。ジムトレーナーの繰り出していたユキワラシは空中広範囲に撒いた火の粉に降られ、あっちへこっちへ逃げ回る。

 滑る床に対するこちらの対策は、至極簡単。「遠距離攻撃」だ。此方が動かなければ「滑る」ことも、ない。

 ……勿論、「苦戦」というからにはこの作戦の穴も見えている。今の所はあたしのガーディの25というレベルの高さと、氷タイプへの相性の良さがあってか、一方的な展開になってはいるけれど……それにしても、この床。氷になっているその下は、どうなっているのだろう。

 そんな事を考えている内にも、逃げ回っていたユキワラシが目を回し、とうとう倒れる。審判の人がばっと手を挙げた。

 

 

「勝者、挑戦者マイ!」

 

「ありがとー。あ、この次はジムリーダーね。頑張ってよ!」

 

「……」コクリ

 

 

 スキーヤーの格好をしたエリトレのお姉さんに頷き、マッピングしたジムの構造を見直す。こうしてみれば、滑る床と滑らない床。そして雪球が意図を持って配置されているのが判る。

 ……スズねぇの所に行くには、一旦戻るかな?

 あたしはそう決めて階段を登り、入口の位置までを滑って戻る。真っ直ぐに高台を見据えると、石像の脇に立ったガイドさんがぐっと親指を立ててくれた。

 意を決して降りる。冒険用にと姉代わりだった人から貰った靴のスパイクも効かない、明らかにオーバースペックな床をバランスをとりながら滑って行く。摩擦係数を無視して、たまに階段を駆け上がり……高台の上、到着。

 すると。

 

 

「―― いけっ、ポッチャマ! 『つつく』!」

 

「ポッチャー!」

 

「カブゥ!? ッ、」

 

「っとぉ、ユキきゃブリ! ……あちゃー」

 

「ユキカブリ、戦闘不能!」

 

 

 あたしが着くと、既にバトルが開始されていた。マフラーを翻しながら元気良く指示を出すヒカリと、その相手はスズナさん。あたしがスズねえと呼んでいる、このキッサキジムのジムリーダーだ。元気良く飛び跳ねるたびおさげ髪が揺れて、今日も短パン装備。上着は腰に巻いていて。見ているだけで寒そうな服装をしているが、それももう見慣れてくれば……いや。やっぱり寒そうなんだけども。

 目の前でユキカブリが倒れる。電光掲示に映されたスズねえの手持ちに1つ、×が付いた。残るスズねえの手持ちは1体で、相対するヒカリは残り2体。……それにしても、ポッチャマかぁ。ヒカリはナナカマド博士の知り合いかな?

 そんな事を考えていると、スズねえが次のポケモンを繰り出した。

 

 

「行くよっ、タマザりゃシ!」

 

「タママー(はぁと)」

 

「あっ、見たことのないポケモン!」

 

 

 ヒカリが手元で何やら機械を操作する。……あ、やっぱり博士の知り合いっぽい。ポケモン図鑑を持ってる人だし。

 一応、ポケモン図鑑に名前と種族は表示される。時間さえあれば、データバンクに繋いで種族の平均的な能力値を見ることも出来るけど、今はそんな猶予はないはず。

 同じ事を考えていたみたい。ヒカリは素早く図鑑を仕舞い、タマザラシのタイプをうわ言の様に繰り返す。

 

 

「『こおり』と『みず』、『こおり』と『みず』……えーい、『つつく』よポッチャマ!」

 

「チャマーッ!」

 

「『まるくなる』!」

 

「マママー(はぁと)」

 

 《ガッ、》

 

 ――《ボヨンッ》

 

 

 ポッチャマの『つつく』。けど途中から、丸くなったタマザラシの柔らかい皮膚に威力を相殺されている。

 ……『まるくなる』。とすれば、次は……

 

 

「ポッチャマ、『つつく』!」

 

「行くよッ!!」

 

「タママッ!」

 

「―― チャマッ!!」

 

 《ボヨッ》

 

 

 先手を取られるのは判ってる。タマザラシは背中でポッチャマの嘴を受けて、同時に、目前にポッチャマを捉えた。

 ……スズねえ、容赦ないねっ!?

 

 

「ゴーだよ、タマザりゃシ! ……『ころがる』っっ!!」

 

「タマァ(はぁと)!」

 

 《ゴロンゴロンッ!》

 

「チャマッ!? チャマ、チャ、……チャムギュッ」

 

「ああっ、ポッチャマっ!?」

 

 

 逃げたけど、丸々と転がったタマザラシに、無残に轢かれるポッチャマ。雪の地面に深々と埋まり、大の字のポケモン型を作って見せた。あのポッチャマ、意外と芸人気質かも。良いリアクション。

 奇妙なニックネームで呼ばれているスズねえのタマザラシが使ったのは、『まるくなる』と『ころがる』のコンビネーションだ。『ころがる』という技は、『まるくなる』の直後に使うと威力が2倍になる、らしい。

 ただでさえ『ころがる』は使う毎、威力が倍になっていく技。僅かに命中させ辛さがあるけど、この雪と氷のフィールドでは、さっきのあたし達みたいに慣れていないと回避もし辛いに違いない。

 ……やっぱりスズねえ、容赦ないなぁ。これはもう、決まったも同然かな。

 

 

「ぐぅ、ケーシィ!?」

 

「(……! ……、)」

 

 《トスンッ!》

 

「ケーシィ戦闘不能っ! 勝者、ジムリーダーのスズナ!!」

 

「やーりぃ! 頑張ったねタマザりゃシ!」

 

「タママァ(はぁと)」

 

 

 2体目のピッピ、3体目のケーシィもタマザラシの『ころがる』によって跳ね飛ばされ、あっという間に決着が着いていた。スズねえの勝利である。

 暫くはタマザラシと抱き合っていたスズねえは、ヒカリの傍に歩み寄って握手する。

 

 

「ねー。君、いい感じに気合入ってたねー」

 

「あ、ありがとうございました」

 

 

 ヒカリは握手をした後モンスターボールを掲げ、ポケモン達にありがとうと声をかけ……ながらも、明らかに肩を落としている。

 あれ。これもしかして、なんか終わりだと思ってる? ここでスズねえを見てみると、何やら協会の人と話をしていて……どうしよう。あたししか話す人がいない。けど、話さないと、ヒカリは誤解したまま帰ってしまいそうな勢いだ。

 ……ぐっと(心の)拳を握る。気合だよ、気合いれて、マイ!

 

 

「……、あの……」

 

「ぐすっ……あ、ご、ゴメンッ!! えーと、マイちゃんだったよね! わたしは負けちゃったけど、マイちゃんは頑張ってね!!」

 

 

 うわぁ泣いてたッ!?

 えーと、どうしよう。泣いてる人を宥める方法とか、知らないし。……落ち着こう。……ヒカリはやっぱり、勘違いしてる。……うし。

 

 

「……えと、ね。違う」

 

「……違う?」

 

「これ、見て」

 

 

 あたしは腕についた黒白の多機能時計、「ポケッチ+」の液晶をヒカリに見せる。その中では残り時間がカウントされていて、残り「35分」と表示されていた。

 何て説明すれば伝わるだろう。言葉を選んでみる。

 

 

「……これ、残り時間。制限、1時間で……ぅぇふ……まだ、挑戦できる」

 

 

 なんだよ「ぅぇふ」って、変な吐息混じったな(自分の言葉です)。

 でも……もう。自分のこの素直に言葉を言えない感じ、もどかしいと言うかなんと言うか。

 あたしの分かり辛い説明を聞いて、ヒカリは暫くぽかんとしていた。けど自分のポケッチも確認した所で、あっと声を上げる。

 

 

「あっ、えーと、つまりポケモンを回復してくれば、もう1回挑戦できる……?」

 

「……」コクコク

 

 

 確認する様な言葉に激しく頷き、同意を示す。35分もあればポケモンセンターとの間を7往復は出来るに違いない。そんなに無駄な運動はしないけど。

 ヒカリの表情がみるみる明るくなってゆく。

 

 

「よ、よぅし! 回復してもう1回挑戦する! 最初くらいは頼りたくなかったけど、そうも言ってられない。今度は全力を注ぐ! あの子にも、頼る!」

 

 

 どうやら元気が出たみたい。はぁ、良かった。ホントに良かった伝わって。

 ヒカリは肩に鞄をかけ直し、今にもポケモンセンターへ向かって走り出そうとする。する……けどその前に、立ち止まってこっちを振り返り。

 

 

「そう言えば、マイちゃんもこれからジムリーダーに挑戦だよね?」

 

「……」コクリ

 

「どうしようかなぁ。バトルを見れば、わたしの勉強にもなるのかな?」

 

 

 確かに35分もあればあたしのバトルを見てからでも再挑戦できるだろう。でも見られていると緊張すると思うんでやめてください本当に(切実)。

 この思考を当たり障りない程度に口に出すべく、分割思考しようかと考えていた。

 ……そしたら。

 

 

「―― そうだね、あたしは見ていった方が良いと思うなぁ」

 

「スズナさん!」

 

 

 ジム員との会話を終えたスズねえが、こっちに向かって歩いてきていた。しかもまさかの見学推奨である。

 スズねえはあたし達挑戦者2名の前まで来るとエヘンと胸を張り、

 

 

「ヒカリちゃんの手持ちはわたしが回復してあげるからさ、スズナとマイのバトル見てきなよ!」

 

「え、いいんですか?」

 

「だいじょぶだいじょぶ。わたしが気合でオッケー貰うから。……良いよね?」 

 

 ―― おっけーでーす

 

「はい! オッケーだって! さぁさ、あっちのテーブルに座ろう!」

 

「え、あ、はい……」

 

 

 相も変わらず強引だ。スズねえは昔っからの気性でヒカリの背中を押して、電光掲示板の横にある休憩スペースへと入っていく。

 ……どっちにしろ、スズねえのポケモンを回復する時間が必要。仕方が無い、あたしも入ることにしよう。そう考えて、あたしは2人の後を追った。

 




>>氷漬け
 原作の通り。摩擦は無視されます(ぉぃ

>>スキーヤーの格好をしたエリトレ
 確か本来は違ったと思いますが、あれです。脳内補完です。

>>マイよりヒカリのが早く着いてんじゃん
 2人とも初めてのジム戦で、待機トレーナーが2人しかいませんでした。マイは兄の教えの通りに地形把握を念入りに行っており、その差が出ているという感じです。

>>たままー(はぁと)
 毎回ポケモンの鳴き声の表現には四苦八苦しています(はぁと

>>タイプ相性
 私達はゲームの中でトレーナー何年分もの対戦を(この場合、疑似的に)体験しているので分かるのですが、実際、タイプの相性から丸暗記しようとするとかなり苦労すると思います。
 ……というかトレーナーのレベルが高い場合、タイプ相性というよりも「このポケモンにはこれが抜群!」といった形で覚えているのが多いのではないかと考えている今日この頃。

>>丸くなる+転がる
 ゲームで実際に使うかは、ともかく。
 ……アカネさんですら3番目のジムで「ころがる」単発で使い、あれほどの恐怖を振りまいているというのに……スズナさん気合い入ってますね、と。

>>ヒカリの手持ち
 ポッチャマ、ピッピ、ケーシィ。
 プラチナのゲーム内でダブルバトルをすると判明するNPC版ヒカリの手持ち(の、進化前)です。
 駄作者私としては、XYでライバルがピクシーを使っていて嬉しい限りなのです。

>>マイ
 脳内と思考構造は兄たるショウ。
 口数とオーラは姉代わりのミィ。
 実はバトルは、カトレアとエリカ、後半スズナによる仕込みとなっております。なので、ショウのものやミィのものと比べると、どっちつかずの中途半端だったり。

>>1時間は再挑戦
 ジム戦途中でのポケセンダッシュ。
 皆さんも実際、ゲームではやるかと思うのですが……最近の駄作者私は横着して、ストーリー中だというのになんでもなおしとミックスオレ、元気のかけらを買い込む方式です。

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