ガールズ&パンツァー~地を駆ける歩兵達~   作:UNIMITES

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お久しぶりです、UNIMITESです。
今回はサンダース戦の続きです。
頑張り過ぎて、文字数が多いと友人に言われたりもしました。
そこは今後自重していくので。
では本編をどうぞ。


第9話 勝利への賭け

 無線での通信を終えたⅣ号とⅢ突、M3、ヤブイヌ分隊、ワニさん分隊はジャンクション全体を把握できる丘から、サンダース&アルバート連合の動きを確認する。ヤマネコ分隊の歩兵はほぼ0だったため、2人をカニさん分隊に投入することで少しでも38tの随伴歩兵戦力上昇に回した。正直、これが正しいかはわからないが自分にとってこれが一番いいと思った。

「来ました!」

「北に3、東に4、西に2……合計9両、案外素直だな」

 無線通信を終えてから十分後、双眼鏡越しの塁と俊也が敵の姿を確認する。

「すげー、通信傍受の話は半信半疑だったんだけど……」

「確かに。しかし、こうも素直に動いてくれると、信じざる得ないだろ」

 八尋は頷きながらP90の弾倉を交換する。翼もうつ伏せでバリスタのスコープを覗き込む。

「……よし。囲まれた!全車後退!」

 みほの通信に合わせて八九式が後退を始める。八九式は取り付けられたワイヤーによって木々を引っ張りながら走行していく。

 多くの砂埃が巻き上げられる。

 そんな八九式を追うようにシャーマンたちが走力を上げる。

「見つかった、みんなバラバラになって退避。38tはポイントC2482R地点に隠れてください」

 みほの声が大洗の通信機とインカム、そしてアリサの通信機から響く。

「38t……敵のフラッグ車ね。もらった!チャーリー、ロック。ポイントC2482R地点に急行、砲兵部隊も全力でやりなさい!見つけしだい攻撃!」

「はい!」

「了解!」

 アリサの指示を聞いたシャーマン2両と砲兵中心の歩兵16人が指示されたポイントを目指して行く。

 見晴らしのいい地点である目標ポイントに到着したチャーリーたちが照準器を覗き、ゆっくりと砲を回転させていく。

「居ないな……」

 アルバート歩兵隊がそんな声を漏らす。

 茂みに照準器が向いたとき、違和感を感じたロックだったが、その存在に気づき顔を青ざめる。

 茂みからこっちに向けられた砲。それはⅢ突の砲口だった。

「ジーザス!」

「撃てー!」

 ロックの悲鳴とエルヴィンの声を合図にするように、Ⅲ突と38t、M3の砲撃が炸裂する。

 発砲のあと、狙い撃ちされたシャーマンからは走行不能を意味する白旗が上がる。

 続くようにジープの車内に手榴弾が投げ込まれる。

「グレネードだ、全員退避!」

 歩兵隊長の指示に合わせて搭乗していた歩兵たちが全員ジープを放棄して降りる。

 しかし、それを見逃すはずのない大洗歩兵隊、敵に銃を発砲しながらしながら突撃していく。

 敵歩兵の最も近くの茂みに隠れていたワニさん分隊の分隊長アーサーもカリバーンで敵歩兵の背中を斬り裂く、そして英治の長距離狙撃が逃走する敵歩兵の足を打ち抜く。

 逃走していた歩兵たちも応戦するが、この瞬間は大洗のほうが圧倒的に有利だった。

「撤退しろ!撤退ー!」

「おいおい、こんな展開聞いてないぞ!急いで撤退だ」

 予想外の展開だったシャーマン1両と数人の随伴歩兵は急いで撤退していく。

「逃げちゃうよ!」

「撃て撃て!」

「えい!……惜しい!」

 砲弾はシャーマンの数センチ右に落ちて、激しく地面を抉る。

 M3の車内でウサギさんチームがそんな声を出す。

「いいや、ここまでやれば十分だ!行くぞ、葛城、宗司!」

「了解です」

「雄二、先輩の維持の見せどころですよ!」

 茂みから現れた凛祢、宗司、雄二が共にシャーマンの随伴歩兵を目指して追撃する。

 宗司のMP18から放たれた銃弾は退避するアルバート歩兵隊に命中していく。しかし、雄二の放った銃弾は全て外れていた。

「雄二、当たってないんですけど……」

「うるせー!」

「……」

 撤退中の敵歩兵に追いついた凛祢は振り向き、防弾加工外套を目隠しに使うように敵歩兵2人に被せる。

「なに、なんだ?」

「くそ、なんなんだ!?」

「覇王流……」

 小さな呟きと共に左足で敵歩兵1人の足を蹴り上げる。蹴られた敵歩兵は態勢を崩し、その場に倒れる。

「……」

 更に一歩踏み込み、もう1人の歩兵の腹部に右正拳突きの一撃を打ち放つ。

「「うえっ!」」

 2人共うめき声を上げ、それぞれ攻撃を受けた部位を両手で抑える。

 追撃するように凛祢がホルスターから引き抜いたFiveseveNを、宗司がMP18を撃つと敵歩兵2人から戦死判定のアラームが響く。

「よし、このままあんこうチームとヤブイヌ分隊に合流します」

 拾い上げた防弾加工外套を再び羽織ると、早足でⅣ号の元に向かおうとする凛祢。

「待ってください葛城先輩。これ、使えないですか?」

 引き止めに入った亮がそれを指さして問い掛ける。

 目線の先には敵歩兵の搭乗していたジープの姿があった。

 一体なぜ?手榴弾が起爆しなかった?

 弾薬や投擲武器の不良品なんて聞いたことないぞ。

「実は、手榴弾のピンを抜き忘れちゃいまして……」

 翔が頭を掻きながら、申し訳なさそうに謝罪している。

 その言葉を聞いて理解した。

 そんな状態で敵もよく気づかなかったものだ。いや、あの状況だったからこそ気づかなかったのかもしれない。

「……いや、これは使えるかもしれない、結果オーライだ。このジープを使って移動しましょう!」

「わかった!」「了解です!」

 凛祢は携帯端末のチャットを確認した後、敵の手からM4カービンを2丁奪取し次の合流地点を目指す。

「こちら、ロックチーム走行不能!歩兵隊は全滅!」

「ええ!?」

「なに!?」

「ホワーイ!?」

「なにやってんだ!?」

「またかよ!」

 逃げ延びたチャーリーからの報告にサンダース校のアリサ、ナオミ、ケイやアルバート校のピアーズ、ブラッドは騒然となる。

「……敵は初心者集団ではなかったってことか……やるじゃないか」

 レオンもそんな言葉を口にした後、さっきの戦闘を思い出す。

 

 

 聖グロと聖ブリのいる観客席ではガノスタンがガッツポーズを取っていた。

「お、やったじゃねーか。先手を取ったのは大洗か」

「やりましたね」

「ええ」

 オレンジペコとダージリンが紅茶を飲みながら言った。

「ほう、大洗はうまく立ち回ったな」

 ケンスロットも感心しながら試合を観戦していた。 

 

 

 一方、黒森峰のいる場所でもエリカが驚きの表情を浮かべていた。

「大洗が1両撃破……」

「……そうだな」

「残存歩兵戦力を確実に削りつつ、戦車も1両撃破か。へぇ、結構やるじゃん」

「戦場は確実に大洗に味方している。サンダースとアルバートは戦力こそ持っているが爪があまい。それが、命取りになるってことだ」

 続くようにまほと悠希、聖羅が淡々と呟いた。

 

 

 一般観客席でも大洗の活躍に歓声が起きていた。

「へぇ……大洗が先に戦車を倒すなんて凄いわね。それにしても、あの構えにあの技。貴女と同じなのね、英子」

「ええ、そうね。……大丈夫、凛祢ならきっと勝てるはず」

 セレナの質問に答えた英子はそう呟いた。

 凛祢の、最初に放った蹴り技は、『紫電脚(しでんきゃく)』。敵の脚部に向けて、素早く蹴りを放つことで敵の態勢を崩すための技、足払いから派生した覇王流の技だ。命中させやすいが特製制服に及ぼすダメージ判定は少ない。

 次の技は『烈風拳(れっぷうけん)』。全身から練ったエネルギーを拳に乗せて打ち放つ覇王流の一撃。紫電脚よりも特製制服に及ぼすダメージは大きいが、技の出だしが少しだけ遅い。

「これは大洗の勝利の可能性があるんじゃない?」

「まだ、わからないわ。でも、勝つ可能性は出てきたと思う」

「葛城君にも期待しないとね」

「はいはい、そうね……」

 セレナはそう言って不敵に笑みを浮かべると、英子はやれやれと返事をした。

 

 

 そして、Ⅳ号の車内では携帯端末でやり取りをしていた沙織が得意げに笑みを浮かべていた。続くように優花里が喜びの表情を浮かべている。

 沙織の携帯端末の画面には、戦車道受講者や歩兵道受講者のメアドが映し出されている。

「通信じゃなくてメールで連絡してたんだもん!」

「やった、作戦成功です!」

 その時、沙織の携帯端末がチャットの通知を知らせるように鳴った。

「凛祢君たちが、敵歩兵をまた倒したって、それに敵の装甲車を奪ったらしいよ!」

「やるな、流石は経験者……」

「これなら、すぐに合流できますね」

 沙織の報告に、麻子と華が感心したように呟く。

「西住殿、やりましたね!」

「私たちが先に敵を倒せるなんて」

「うん」

 みほも返事をして、次の作戦を考える。

「でも、この大会は敵のフラッグ車を叩いた方が勝ちなんでしょ?」

「うん」

「次はどうする?」

 沙織や麻子がみほからの指示を待つ。

「……次は――」

 みほも少し考えた後に口を開いた。

 

 

 その頃、森林内に停車していたシャーマンの車内ではアリサが傍受した通信を分析していた。

「いい気になるなよ……」

「全車、ポイント128高地に集合してください。ファイヤフライと敵砲兵主力部隊がいる限り、こちらに勝ち目はありません。危険ではありますが128高地に陣取って上から一気に叩きます!」

 アリサは通信機から響いたみほの声を聞いて1人、笑い声を上げた。

 車内にいる砲手や操縦手も少々引き気味にアリサを見る。

「捨て身の作戦に出たわね!でも、丘に上がったらいい的になるだけよ!128高地に向かってください」

 アリサは不敵に笑い、ケイに指示を出す。

「どういうこと?」

「敵の全車両が集まる模様です!」

「ちょっと、アリサ。それ本当?どうしてわかっちゃうわけ?」

「私の情報は確実です」

 ケイが質問を投げ掛けるがアリサが自信ありげに叫ぶ。すると、ケイも笑みを浮かべて指示を出していく。

「さっきは思いっきり外していたのによく言えるな」

「レオン、そう言わないで。アリサもああ言ってるし!……みんな向かうわよ!」

 レオンはさっきの事を思い出して皮肉そうに言うが、隊長であるケイの命令にそれ以上何も言わなかった。

「全車!ゴー、ア、ヘッド!」

「全歩兵部隊、行くぞ!」

 ケイとレオンの指示に、サンダース&アルバート連合の部隊は目標地点に向かった。

 

 

 その頃、38tにⅢ突、M3、凛祢やヤマネコ分隊をを含めたカニさん分隊、ワニさん分隊はⅣ号との合流を終えて次の戦闘に備えて作戦を練っていた。

「おそらくフラッグ車はここかここ。それかこのあたりのはず」

「フラッグ車を見つけない事にはどうしようもないからな……」

 Ⅳ号から上半身を乗り出しているみほとⅣ号に登っていた凛祢は共に地図をみて意見を出し合う。

 作戦会議をしている間に、それぞれ作戦準備に取り掛かる。

「まだ、視認できません!」

 双眼鏡で偵察している優花里が車内に戻り報告する。

「あと1両居れば、囮に出せるんだけど……」

「……フラッグ車のほうはみほたちに任せる。128高地には俺が行く」

「待ってください凛祢さん、いくらなんでも無茶ですよ!」

「確かに、そうかもしれない。でも、敵がこちらの作戦に気づきフラッグ車と合流してしまったら、そこで勝機はなくなるかもしれない。こちらには歩兵の持つ対戦車武装は俺のヒートアックスのみ。1分でも長く敵を足止めするには工兵である俺が行く必要がある」

 凛祢は一度、空を見つめた。

 自分でも、わかっている。無茶だってことぐらい。

 でも、次の作戦は『時間』との勝負だ。たとえ、フラッグ車を見つけることができても敵の本隊が合流してしまったら、こちらの戦力では太刀打ちできない。事実上アウトなんだ。

 そのためにも、合流を1分1秒でも遅らせる必要がある。

「でも……!」

「凛祢殿はみほ殿の傍にいるべきです。凛祢殿は隊長でもあるんですから」

 その声に凛祢とみほが振り返る。

 声の主は塁だった。

「る、塁?お前、何言って――」

「128高地には僕が行きます」

 塁の言葉に凛祢だけでなくみほも驚いた。

「何言ってんだ。時間を稼ぐなら俺が……」

「僕に行かせてください!地形なら調べ尽くしました」

「塁、まず話を……」

「行かせてやれよ凛祢。塁だって何も考えなしに行くって言ってるわけじゃない」

 凛祢の発言を遮るように翼が話に入る。

「……」

 凛祢は塁の顔をもう一度見た。

 塁はこんな事を言う性格じゃない。きっとチームの為に自分にできる事をしようとしているのだろう。

「……わかった」

 凛祢はバックパックを中を確認する。

 ヒートアックスは残り13……。

 バックパックからヒートアックス5つを塁の胸元に押し付ける。

「凛祢殿?これは……」

「足止めにはヒートアックスが必要になるから持っていけ。ただ、これは手榴弾やC-4とは比べ物にならない破壊力を持つ。気を付けて扱ってくれ」

 素直に受け取った塁に凛祢は念を押すように言った。

 そして、数少ない大洗の歩兵部隊を一度再編成する。

 128高地に向かう部隊。塁を含めた、大洗の中でも対人戦闘に優れた突撃兵である八尋、俊也、アーサー、シャーロック、亮。そして、偵察兵のジル、景綱、翔の9人で編成した時間稼ぎの囮小隊。隊長は塁に任せることにした。

 八九式の随伴歩兵部隊、辰巳、漣、淳の3人。

 そして、フラッグ車とⅣ号、Ⅲ突、M3の随伴歩兵部隊、凛祢、翼、英治、宗司、雄二、迅の6人。

 作戦の説明を終え、囮小隊や八九式と別れた。

「葛城、本当によかったのか?」

「塁とみんなを信じます。突破されれば防衛線は俺と生徒会、狙撃兵3人だけですが」

 英治の質問に答えていた凛祢はM4カービンを手に取る。

「最終防衛線が工兵や狙撃兵のみってのも思い切ったな、凛祢」

 翼もそんな事を言ってバリスタの調節を行う。

「半端に戦力を回しても時間は稼げないからな。……俺は、時間稼ぎのため、あいつらに戦死する瞬間まで戦えと言ったも同然だ」

 凛祢は強く拳を握る。

 みんなを危険な戦場に投入し、自分は安全な場所で待つと言うのだから。

「それは違うぞ。お前は勝利のための指示を出した、それは間違いじゃないさ。俺も同じ立場なら同じ指示を出しただろう」

「1人で抱え込み過ぎだ。凛祢は誰よりも多く最前線に立ち、戦っている」

「そうだ。みんなの頑張りを無駄にしないためにも、ここで勝つんだろ葛城隊長」

 英治、翼、迅が凛祢にそう声を掛けた。

「勝つための戦術ならば仕方あるまい。これは我々の最善なのだから」

「そうですね。葛城君、たまには後方に回るのも大事ですよ。君はフラッグ車を守る最終防衛線ですから」

 雄二と宗司も続くように声を掛けた。

「私も……凛祢さんは十分、できる事をやってると思います!」

「……みんな。みほ、ありがとう」

 みほの言葉を聞いて、凛祢は感謝の言葉を述べる。

 そうだ、迷ってなんていられない。作戦準備は十分にした、後は突き進むだけだ。

 

 

 一方、128高地に先回りしていた囮小隊は塁の持つヒートアックスを仕掛け終え、それぞれ身を隠していた。

「……」

 囮小隊の隊長である塁は失敗は許されない作戦と隊長というプレッシャーに言葉がうまく出なかった。

「落ち着け、坂本」

 そんな塁を見ていた俊也は肩を軽く叩く。

「え、はい。分かっては……いるんですが」

「なーに、簡単なことだ。敵が来たら落ち着いて狙えばいい。よく映画でパニックに陥って銃を乱射している奴がいるだろ?あれは麻薬と同じだ。撃っている間だけは恐怖心を忘れられるが、弾切れになれば目が覚める。その時にはもう死んでるだろうがな……」

「ははは……なんだか俊也殿が言うと説得力がありますね」

 少しだけ緊張が解れたのか塁は苦笑いした。

「それどういう意味だ?ま、いいだろ。俺と八尋でできる限り敵を誘い込む」

「了解です」

「俊也、そろそろ行くぞ。敵が迫ってる」

「ああ、今行く」

 俊也と八尋はそう言って少し離れた場所に向かう。

 そして、五分も経たずしてサンダース校のシャーマンやファイアフライ、アルバートの主力歩兵部隊が到着する。

 ケイが双眼鏡で周りを見渡すが大洗の戦車の姿はない。

「何もないよー!」

「おい、アリサ!お前、どういうつもりだ!」

 ケイとレオンがアリサに通信を入れる。

「全軍突撃です!」

「行くぜ!」

「最後まで生き残れよな……」

 塁の指示と八尋、俊也の声が響き、大洗の歩兵が攻撃を開始した。

 通信に答えるアリサも焦りを見せて通信に答える。

「そんなはずありません!……じゃあ、大洗の車両はどこに?」

「……アリサ?お前、まさか!おいアリサ、大洗の通信を……傍受したのか?」

 アリサの表情を確認していたピアーズは問い掛ける。

 今回の試合はアリサの指示が余りにも的確だった。しかし、そのトリックが『通信傍受』だったとしたら?

 それはピアーズにとっても到底許せるものではなかった。ピアーズだけではないケイやレオン、ブラッドが聞けば確実に憤りを感じるだろう。

「えっと……それは」

「答えろ!」

 はっきりしないアリサにピアーズは思わずきつく問いかける。

「申し訳ありません!アリサ隊長は、敵の通信を傍受していました!」

「私たちも気づいていながら黙っていました!」

「ちょっと、あんたたち!何言って!」

 アリサの乗るシャーマンの車内にいた操縦手と砲手が答える。続くようにアリサが焦りを見せる。

「馬鹿野郎!なんでそんなことしたんだ!?」

「だ、だって!」

 怒りを露わにしたピアーズにアリサが恐怖を感じていると、エンジン音と共に森を進んでいた八九式が姿を現した。その車体に掴まる辰巳たちオオワシ分隊。

 お互いに目が合って数秒。その数秒間まるで時が止まったようにも感じた。

「「ふぇ?」」

「「あ……」」

 典子とアリサ、辰巳とピアーズの目が合い、そんな気の抜けた声を漏らす。

 風が草木を揺らした時だった。

 典子と辰巳が八九式のキューポラを軽く叩き叫ぶ。

「右に転換!急げーー!」

「とにかく撃て!」

 指示に反応するように八九式が右に転換していく。

 辰巳、漣、淳も百式軽機関銃を発砲する。

「蹂躙してやりなさい!」

 アリサたちのシャーマンも急いで転換し、八九式の後を追う。

「連絡しますか?」

「必要ないわ!それより撃ちなさい!」

 アリサの指示に合わせてシャーマンの砲が火を噴いた。

「仲間たちの礼だ!受け取れ!」

 続くようにアルバート歩兵隊もM4カービンのグレネードランチャーM203A1を撃ち放つ。

 徹甲弾と榴弾は八九式の左右に落下していく。

「敵フラッグ車、ポイント0765地点で発見しました!」

「でもこちらも、見つかりました!敵歩兵の戦力は情報通り20名、狙撃兵や偵察兵による軽装備な部隊!」

 典子と辰巳が通信を入れる。

「「……」」

 凛祢とみほはお互いに顔を見合わせた。

「0765地点ですね。逃げ回って敵を引き付けてください!」

「狙いの地点は……」

 地図に印をつけていき、作戦実行地点を割り出す。

「「ポイント0615地点!全車両前進!」」

 凛祢とみほが同時に指示を出した。

「武部さん、メールをお願いします!」

「わかった」

 沙織は急いで携帯端末のメールを打ち込み送信する。

 シャーマンから逃走していた八九式はジグザクに走行しなんとか砲撃を避ける。

「こんなところで逃がしてたまるか!」

 ジープに搭乗していたピアーズが対物狙撃銃バレットM82のスコープを覗く。

 そして、数秒後、発砲した。

 銃弾は吸い込まれる様に八九式に向かって行き、漣に命中した。

「ぐおっ!」

 漣はその痛みに耐えきれず、八九式から滑り落ちた。

「いってーよ!マジで!」

 地面に落下した痛みが体中に走る。すぐに、戦死判定のアラームが響いた。

「くそ!ジープの転輪を狙え!」

「分かってますよ!」

 辰巳と淳も揺れる車体の上で射撃を続ける。

「2人とも退いて!」

 典子はそう言って、赤い棒状の物体を手に持つ。

 次の瞬間、それをバレーの如く、サーブする。

 それは空中で誘爆し、煙幕となってシャーマンの視界を奪った。視界を塞がれたシャーマンの砲は八九式の左を掠めた。

「バレー部スゲー!」

「あんなもの、いつの間に用意したんだよ……。それより淳、お前もC-4爆弾を持ってるんだろ?今使え!」

「おっと、そうだった。全部ばら撒きます!」

 淳はそう言って持っていたC-4爆弾を2つずつ球体上に合成し、電管を刺してばら撒いていく。

「何をやっている!敵は八九式だぞ!」

「ですが視界が!」

「いいから、撃て!」

 声に合わせて、シャーマンの砲が火を噴く。

「キャプテン、激しいスパイクの連続です!」

 衝撃を感じて車内にいた砲手のあけびが弱気な声を出した。

「相手のスパイクを絶対受けないで!逆リベロよ!」

「「逆リベロって……意味わかんねーよ」」「あぁ……意味わかりません」

 辰巳と淳、あけびが同じ感想を漏らす。

「今だ!」

 淳の声に合わせてC-4爆弾が爆発するが、随伴歩兵を数人戦死判定にするだけに留まった。。

「くっ!アリサ、ケイとレオン隊長に連絡を!」

「駄目に決まってんでしょ!」

「お前、そんなこと言ってる場合か!」

「うるさい!私の指示に従いなさいよ!」

 アリサとピアーズは意見が食い違いお互いに言い合う。

「機銃で撃ちなさい!撃って撃って撃ちまくるのよ!」

「この、わからずや!」

 ピアーズはアリサに向けて叫ぶ。

 機銃と歩兵たちの銃弾が向かってくるがそのほとんどが命中せずに空を舞う。

 八九式は森林を抜けて、草原に出た。

「狙撃兵はジープから援護を。Ⅳ号と俺が切り込みます!」

「「「了解」」」

 指示を出した凛祢も戦場を駆ける。

「八九式来ます!突撃します!ただし、カメさんはウサギさんとカバさんで守ってください!」

 みほも指示を出して、Ⅳ号が前進する。

 ようやく煙幕が晴れるが、アリサは視界の先の光景に同様を隠せなった。

 視界の先にはⅢ突、M3、38tの姿があったからだ。

「アリサ、停止しろ!」

 ピアーズが叫ぶが間に合わない。

 Ⅳ号の砲がシャーマンに向けて放たれる。が、射線に入る様にジープが現れる。

 徹甲弾はジープに命中した。ジープは3回程、横転し乗員から戦死判定のアラームが響いた。

「フィン、レナード、ゴーズ!くそっ!」

「後退後退!」

 アリサが泣き叫びながら指示を出す。

 が、続くように現れた凛祢が両手のM4カービンの引き金を引き、2人3人と戦死させていく。

 ピアーズの搭乗するジープは無事だったが随伴歩兵は10人。

「大洗連合、残り全車両。こちらに向かってきています!」

 とうとうアリサがケイに通信を送った。

「ちょっとちょっと、話と違うじゃない!なんで?」

「それよりこっちも取り込み中だ!」

 シャーマンの車内で答えるケイ。レオンも大洗の囮小隊と戦闘していた。

「食らえ!」

「「ぐあー!」」

 ブラッドの持つM4カービンのグレネードランチャーから放たれた榴弾が亮や翔を吹っ飛ばした。2人から戦死判定のアラームが響いた。

「おい、レオン。どうなってんだ、こりゃあ」

「ブラッド、急いで人員を集めろ。やばそうだ!」

「「行かせない!」」

 ブラッドにはアーサーが、レオンには塁が挑んでいく。

「ここは陽動か……邪魔だ!」

「しま――いっ!」

 レオンは塁を引き離し、拳銃デザートイーグルを3発撃ち込む。ブラッドもアーサーを引き離し、M4カービンを発砲する。

 塁は痛みに顔を歪ませ、一度倒れる。が、すぐに立ち上がり、ヒートアックスを起爆させる。

 ヒートアックスの爆撃はシャーマン1両を巻き込み走行不能を告げる白旗が上がった。他にもアルバート歩兵隊にも多くの被害が出ていた。

「ヒートアックス……か!」

 レオンは塁の腹を蹴り飛ばし、ジープの元に向かう。

「レオン、時間がねぇ、俺たちだけで行くぞ!」

「レオン急いで!」

「わかってるよ!」

 レオンはケイとブラッドの声を聞いて、ジープに乗り込む。レオンとブラッド、砲兵2人を乗せてジープは前進する。

 すると、2両のジープとシャーマン6両も前進を開始する。

「まだ――うぐ!」

 塁が後を追おうとするが背中を踏みつけられ地面に倒れる。

「もう眠れ」

「凛祢殿、すみません……」

 数十発の発砲音と共に塁から戦死判定のアラームが響いた。他の大洗の歩兵たちも次々に戦死判定を受け、ついに全滅してしまった。

「さぁ、説明してもらおうか……」

「なんでこんなことになってるんだ?」

 レオンとブラッドが通信越しに問い掛ける。

「はい……おそらく、無線傍受を逆手に取られたのかと……」

「バッカモーン!」

「呆れたな……」

「申し訳ありません」

 ケイは思わず叫ぶ、レオンも呆れて言葉が出なかった。

「戦いはフェアプレイで、っていつも言ってるでしょ!」

「おま――」

「ブラッド。今は落ち着け、それよりもフラッグ車の救出だ」

「レオン。流石に俺は、落ち着いてなんていられない!」

 ケイと同様にブラッドも表情は険しかった。ブラッドの憤りは無線傍受をしたことにではない。アリサの指示によって戦死していった者たちが大勢いるからこそ、アリサへの憤りを感じていた。

「んー、無線傍受しといて全車両で行くのもアンフェアよね……」

「こっちも同じ数で行けばいいんじゃないか?」

 レオンがデザートイーグルに予備弾倉を差し込み呟く。

「それね!3両だけ着いてきて、出番よナオミ!」

「ブラッド、ロケランもいけるか?」

「他の奴のも合わせて7発ってとこだな。いつでもいけるぜ」

 ケイの指示にナオミが任せろと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

 

 聖グロと聖ブリの生徒たちのいる場所では相変わらずガノスタンが笑い声を上げていた。

「ははは!こりゃ、まるで鬼ごっこだな!なーケン?」

「こんな鬼ごっこは御免だけどな……」

 ケンスロットも苦笑いした。

「ガノ先輩、笑い過ぎです。でも、こんな展開になるとは……」

「ふふふ」

 オレンジペコの発言にダージリンも思わず笑みを浮かべた。

 

 

「はっはっはっは!新鮮でいいわ!こんな追いかけっこ初めて見たわね、ねぇ敦子!」

「大洗も随分食らいついているな」

「もう、真面目ぶっちゃって!ホントは葛城君のことで頭いっぱいなんでしょ?」

「うるさいぞ!それより試合を見ろ!」

 会場にいた亜美が敦子を茶化すような会話をしながら試合を観戦していた。

 敦子もペットボトルのお茶を一口飲んでもう1度戦場に目を向ける。

 

 

 戦場にはいくつもの発砲音が響き、小鳥たちが木々から飛び発った。

 そんな中、アリサの乗るシャーマンは戦場を全速力で前進していた。

「このタフなシャーマンがやられるわけないわ!何せ5万両も造られた大ベストセラーよ。丈夫で壊れにくいし居住性も高い!おまけに馬鹿でも乗れるくらい操縦も簡単で馬鹿でも扱えるマニュアル付きよ!」

「言ってる場合か!」

「自慢になってねーし!」

「うるさいわよ!」

 アリサは無我夢中で泣き叫ぶ。他の随伴歩兵も思わずツッコみを入れた。

 そんなアリサの乗るシャーマンを大洗連合が追いかける。

「まずいぞ……追いつかれるのも時間の問題だ!右に避けろ!次は左だ!」

 ピアーズの乗る最後のジープもなんとか敵の砲撃を避けて走行していた。

 シャーマンの砲身がゆっくりと後方に向けて回り始める。

「なんで、あんなしょぼくれた戦車に追いまわされるわけ!?そこ、右!私たちの学校は貴方たちとは格が違うのよ!撃て!」

「落ち着けアリサ!」

 シャーマンの砲が火を噴く。が飛んで行く砲弾を大洗の戦車は避けて見せる。

「なによ、その戦車。小さすぎて的にもならないじゃない!当ればいちころなのに!」

「だから、よく狙って撃つんだ!闇雲に弾を撃って当たるわけないだろ!」

「修正3度、装填急いで!まったく、なによ。なんなのあいつ等、力もない癖にこんなとこに出てきて!どうせすぐ廃校になるくせに!さっさと潰れちゃえばいいのよ!」

「あのピアーズ隊長、廃校って……」

「アリサの言葉などどうでもいい!とにかく足止めだ!」

 アリサはヒステリックになったように喚き散らしている。随伴歩兵隊も気になる言葉に反応するがピアーズは無視するように指示する。

「敵の車長が頭だしてなんか言ってるぞ?」

「全然聞こえないんだよな……」

 翼と凛祢が喚いているアリサを見て呟いた。

「ん?おっと!そうも言ってられないみたいだぞ葛城」

 後方にスコープ越しに目を向けた英治が注意を促す。

 ほぼ同時に観客席でも大洗連合の後方に追いついてきてたサンダース&アルバート連合を見てざわめき始める。

「もう来たのか……塁たちは全滅したようだしこんなものか」

「目標との距離詰まってきています!60秒後、攻撃を再開予定。順次発砲を許可します!前方に登坂、迂回しながら目標に接近してください!」

「わかってる」

 みほの指示に麻子が返事をしてギアを入れた。

「柚子、遅れるな!」

「わかってるよ、桃ちゃん!」

「がんばれー」

 38tの車内で緊張感を持つ柚子と桃、杏は相変わらず他人事の様に干し芋を頬張っていた。

「なんでタカシはあの娘が好きなの?どうして私の気持ちに気づかないのー!」

「うるせーから黙ってろ!お前の指示で仲間が何人死んだと思ってんだ!?わかったら、1両でも撃破して見せろ!」

 アリサに向かってピアーズがまたも叫ぶ。

 その時、戦場の空気を揺らす一撃が響いた。

「……来たか」

「今のは……?」

「ファイアフライ。17ポンド砲です!」

 みほの問いに優花里が答える。

 そして、凛祢や英治、みほ、優花里の視線が後方に姿を現すファイアフライに向けられる。

「距離は5000って言ったところだな。でも、4両しかいないぞ。ジープも2両しかいない」

 翼もスコープを覗いて呟く。

 4両だけ?どういうことだ?

「ファイアフライの有効射程は3000メートル。まだ大丈夫です」

 みほは再び前方に目を向ける。

「きたー!よっしゃー!」

「いえーい!」

「レオン隊長……ブラッドたちが来てくれたのか」

「よし。これならいける!」

 シャーマンの車内とジープではガッツポーズを取る生徒たち。

「100倍返しで反撃よ!」

 アリサも再び強気に指示を出す。

 次々に放たれる砲弾の雨。

 大洗の前方、後方。どちらからも放たれていた。

「どうする、みぽりん?」

「ウサギさん、アヒルさんは後方をお願いします!カバさんと我々は引き続きフラッグ車を攻撃します!」

 みほがそう叫ぶと沙織はすぐにメールを打ち込み、部隊が動いていく。

「今度は逃げないから!」

「うん!」

 梓が言うとウサギさんチームのメンバー全員も返事をする。

「この状況はアラスの戦いに似ている!」

「いや、甲州勝沼の戦いだ」

「天王寺の戦いぜよ!」

 エルヴィンに続くようにおりょう、左衛門座が言うと。全員で「それだ!」と叫ぶ。

「ここで負けるわけにはいかんのだ!」

「桃ちゃん……当たってない」

 桃の砲弾はあらぬ方向に飛んで行き、柚子も顔が引きつっている。

「うるさい!」

「壮絶な撃ち合いだね」

 杏も状況を楽しむように言った。

 

 

「大洗、ピンチですね」

「サンドイッチはね、パンより中のキュウリが一番美味しいの。挟まれた方がいい味出すのよ」

 オレンジペコの言葉にダージリンがそんなうんちくを呟いた。

「俺はサンドイッチならハムが一番おいしいと思うぜ」

「俺はレタスがいけると思う」

「あ?卵が最強に決まってんだろ!」

「なんでそんなことで張り合ってるんですか……」

 サンドイッチに反応したケンスロットやガノスタンたちもそんな呟きを漏らした。

 

 

「撃てー!」

「「「アターック!」」」

 典子の指示と同時に八九式が発砲する。がすぐに飛んできた砲弾が命中した。

 エンジン部に命中し、炎上しながらも数メートル走行した後、岩にぶつかり行動不能を告げる白旗が上がる。

「八九式ー!」

「こっちも来てます!」

 時を同じくしてアルバート歩兵隊の砲兵が放ったSMAWロケットランチャーの弾がオオワシ分隊の搭乗していたジープの付近に落ちた。

 爆風でジープは2回横転し、オオワシ分隊からは戦死判定のアラームが響いた。

「アヒルチーム、オオワシ分隊、けが人は?」

 みほはアヒルさんチームとオオワシ分隊の状況確認を行う。

「大丈夫でーす」

「あー、死ぬかと思った。3人共生きてまーす!失格判定取られましたが」

「すみません!こっちも、戦闘不能です!」

 そんな声を聞いてみほは安堵の息を漏らした。

「……」

 ファイアフライの砲手であるナオミは坂を下り、照準器を次の狙いに向ける。

 次の狙いは……M3Leeだった。

 発砲音と共に17ポンド対戦車砲弾が放たれる。

 砲弾はM3のエンジン部を的確に狙撃した。

 M3はそのまま数メートル走行したが、砲撃によって抉れた地面に落ちて行動不能の白旗が上がる。

「すみません!鼻が長いのにやられました!」

 梓がすぐに通信を送る。

「ファイアフライです」

「M3も……」

 優花里の呟きに、みほも俯いてしまう。

「やばいじゃねーか!どうすんだよ!」

「雄二、落ち着いて。葛城君どうするんですか?」

「あっちも切羽詰まっているだろうしな。ロケットランチャーを出されちゃどうしようもない」

「どうする、凛祢。あとは俺たち5人、数の優勢は完全に消えた」

 翼や英治たちも指示を求める。

「……」

 凛祢も周りに目を向けた。

 次々に放たれる砲弾。とうとう、一発の砲弾が38tの右を掠めた。

 

 

「もう時間の問題ですね」

「「「……」」」

 エリカだけがそう呟くが、3人はそのまま黙って見ていた。

 

 

「あーあ。いい感じだったのに……」

「……」

 セレナは結果が見えたのか吐き捨てるように言った。しかし、そんなセレナとは異なる英子は両手を合わせて祈るように試合を見ていた。

 

 

「ここまでか……」

「もう駄目なの?」

 翼や沙織がそんな弱音を漏らした。

 他のメンバーたちも戦意喪失したように下を向き始める。

 考えろ、考えるんだ。勝利への糸口を。

「ほーら見なさい。貴方たちなんて蟻よ、蟻!呆気なくゾウに踏み潰さるね!」

「これは時間の問題だな」

 アリサやピアーズが勝利を確信したように呟いた。

「おい!どうにかしろよ、葛城!」

 凛祢を急かすように雄二が叫ぶ。

 Ⅲ突が動き、38tの盾になる様に後方を走行する。

「弁慶の立ち往生のようだ」

「もはやこれまで。蜂の巣に、されてボコボコ、さようなら」

「辞世の句を詠むな!」

 左衛門座やおりょうの発言にカエサルがツッコミを入れた。

 また、38tの履帯を砲弾が掠めた。

「……駄目だ。もう終わりだ」

「「……」」

 凛祢とみほもただただ静かに俯く。

 また砲弾が放たれ、38tの側面を掠った。

「ひっ!うう」

 車内にいた桃が驚きの表情を見せる。

「あんなに近づいてきた!」

「追いつかれるぞ!」

「駄目だー!やられた!」

 エルヴィンやカエサル、桃の声がインカムから響く。

「なんとかしろよ!」

「こっちだって狙撃を続けてますよ!」

 ジープに搭乗する雄二や翼も言い合う。英治も狙撃を続けている。

「みんな、落ち着いて!落ち着いて攻撃を続けてください!敵も走りながら撃ってきますから!当たる確率は低いです!フラッグ車だけを叩くことに集中してください!今がチャンスなんです!当てさえすれば勝つんです!諦めたら負けなんです!」

 みほの言葉がそれぞれの車内に響く。

「諦めたら」

「負け……」

「いや、もう駄目だよ!柚子ちゃーん!」

「大丈夫、大丈夫だから」

 弱気な桃が叫んでいた。そんな桃の頭を杏が撫でる。

「そうですね。道があるのなら進むしかありませんね」

「だが、どうすんだよ?状況は劣勢だ!」

「西住さんの言う通りだ、俺たちはもう止まれないんだから」

 カニさん分隊のメンバーが呟く。

「……」

 そうは言ったものの状況が劣勢なのは変わらない。

 みほは弱気な表情を見せてしまう。

「みほ、君は間違ってない。自分がそうすべきだと思うのならそれを貫け……先に道が続いているのなら進むんだ」

「凛祢さん……」

 凛祢は短い通信を送り、運転している宗司に指示を出す。

 みほも凛祢の言葉を聞いて、明るい表情を取り戻した。

「華、撃って撃って撃ちまくって!下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって、恋愛だってそうだもん!」

「いえ、一発でいいはずです。冷泉さん、丘の上へ」

 沙織の言葉を否定するように華が言った。

「上から狙います。それに戦車の砲撃も、狙撃と同じだと翼さんに教わりましたから。一撃で決めます」

「綾線射撃は危険だけど、有利に立てる。賭けてみましょう」

「はい!」

「行くぞ」

 みほと華が作戦を決定し、麻子がⅣ号を加速させる。

 38tとⅢ突はシャーマンの後を追って行く。

 Ⅳ号は別に坂を登り、ジープも後を追う。

「上からくるよ、アリサ!」

「っ!」

「ナオミ頼んだわよ!」

「イエス、マム!」

 ケイの通信に2人が返事をする。

「ピアーズ、あと10分耐えるんだ。10分で戦いは終わる」

「隊長……了解です」

「ブラッド、残弾は3……余裕がないぞ。次で敵のジープを潰すんだ」

「わかってる」

 レオンの指示にピアーズとブラッドがそれぞれの武器を構える。レオン自身も借りた狙撃銃を構える。

 ファイアフライとレオン、ブラッドの搭乗するジープが坂に向かい、他のシャーマン3両は38tを追撃に向かう。

「ファイアフライと砲兵か……」

 凛祢がそう言った時、発砲音が響き、ジープが前輪を破壊されるが走行を続ける。が、次の弾がもう片方の前輪を破壊し、ついに停止した。

「転輪をやられました!」

「くそ!ここまでなのかよ!」

 宗司と雄二が同時に声を上げる。

 後方には狙撃準備をしているのか停止したファイアフライとジープの姿がある。

 ほぼ同時にファイアフライと砲兵のロケットランチャーが放たれる。

「停車!」

 みほがそう叫び、Ⅳ号を停止させた。

 急停止したⅣ号の左数センチに17ポンド対戦車弾が被弾していた。

 Ⅳ号はすぐに方向転換し、前進する。

「……!」

 凛祢は『直感』で振り返る。

 駄目だ、避けられない。命中すれば全滅だ。だが、ここで動いてもみんなが。

「翼、英治会長!?」

「勝てよ……凛祢」

「守り抜けチームを……」

 翼と英治に体を投げ出された凛祢は空を舞う。同時にロケット弾がジープの左側面に命中し、数メートル吹っ飛ばした。

 爆風に揺られ、数回地面を転がった後、頭を上げると目の先には、ひっくり返ったジープの姿。耳には数人分の戦死判定のアラームが響いていた。

「っ!」

 振り返れば、ファイアフライとジープがⅣ号に接近してきている。

「凛祢さん、無事ですか?」

「歩兵は俺以外全滅。みほ、時間がない。あとは、そっちでなんとかしてくれ」

 みほの通信になんとか答える凛祢。全身に痛みが走っている。

 むしろ戦死判定を受けていない方が……そうか、防弾加工外套でギリギリ耐えたのか。今はどっかに飛んで行ったみたいだが。まだ、俺は生きている。

「わかりました。ファイアフライが次の弾を撃ってくるまでが勝負!」

「わかりました」

 みほの指示に華も照準器を覗いている。

 凛祢が右に目を向けると英治の狙撃銃Kar98kが転がっていた。

「届け、届け……!」

 必死に手を伸ばすが届かない。匍匐前進で近づきなんとか銃を掴み取る。

「一発でいい……砲兵の射程をずらすだけでいいんだ」

「撃て!ブラッド!」

「これがラストアタック……!翼ほどではないが、当ってくれ!」

 凛祢がスコープを覗き、ブラッドの姿を捉える。瞬時にKar98kの引き金を引いた。

 銃弾はブラッドの肩に命中。その瞬間に引き金を引いたことでブラッドの放ったロケット弾はⅣ号とは別方向に飛んで行く。

 その先は……凛祢のいる方向だった。

「みほ、一瞬は稼いだぞ……」

 爆発音と共に凛祢から、戦死判定のアラームが響く。

「「くそ!」」

 レオンとブラッドが同時に顔を歪ませる。

 射撃地点に到着し、Ⅳ号停止した。ゆっくりと履帯を動かし狙いを定めると優花里が砲弾を装填する

「花を活けるようにように集中して」

「装填完了!」

 照準器を覗く華の頭に翼の言葉が蘇る。『撃つべき時は、呼吸を止め、余計な雑念を捨てる。己を一発の銃弾と考え、引き金に指を掛ける。狙いを定めたら、後は引くだけだ』

「華さん、お願い」

「……発射!」

 華とナオミが同時に引き金を引き、それぞれの砲が火を噴く。

 発砲と同時に車内に空薬莢が排出される。

 Ⅳ号から放たれた徹甲弾は空を進み、シャーマンの後方エンジン部分に命中した。1秒も満たない間にファイアフライの17ポンド対戦車弾がⅣ号の後方エンジン部分に命中、お互いに爆発音と共に黒煙を上げる。

 数秒間の沈黙が戦場に走る。するとシャーマンから行動不能の白旗が上がった。Ⅳ号からも白旗が上がる。

 Ⅳ号のキューポラからみほが顔を出す。

「大洗連合の……勝利!」

 アナウンスが響き、観客席では歓声が上がった。

「ちっ!……はぁ」

 ナオミはやり切ったと言わんばかりに体を後ろに倒した。

「勝ったよ、みぽりん!」

「西住殿!」

「みほさんやりました!」

 Ⅳ号から降りた、沙織がみほに抱き着く。

「うん、ありがとう華さん」

「みほさんが励ましてくれたおかげです!」

「そんな私は……」

「いいや、よくやったよ……」

「お前もな、葛城。ナイスな狙撃だったぞ」

 華だけでなく凛祢もそう言ってみほたちに合流する。英治も凛祢に言った。

 5人共ボロボロで、翼は凛祢に肩を貸していた。

「おーい!」

「西住隊長!葛城隊長!」

「勝ったー!」

 行動不能にされた戦車のメンバーが、戦車と共に運ばれてくる。

「おーい!」

「ふー、ブイ!」

 エルヴィンたちカバさんチームと、杏たちカメさんチームもこちらに向かってくる。

「凛祢ー!」

「凛祢殿ー!」

「流石、葛城先輩!」

 続くように戦死判定を受けていた大洗の歩兵たちも走って来る。

 大洗の生徒たちも喜びの声を上げる。

「一同、礼!」

「「ありがとうございました!」」

 最初の地点に戻り、お互いに挨拶をする。

「勝ったー!」

「うっしゃー!」

「シャーマン相手に勝てるなんて」

「本当ですよね。正直もう駄目かと思いました」

 沙織に続くように、八尋と俊也が掌をぶつけ合う。優花里や塁も呟く。

 そう、この日大洗は初めて勝利した。

「あなたたちがキャプテン?」

「あ、はい」

「……そうですけど」

 ケイの問いに凛祢とみほが答える。すると、ケイは笑みを浮かべ2人に抱き着く。

「エキサイティング!こんな試合ができるなんて思わなかったわ!」

「いっ!」

「へっ!?」

「おい、凛祢。そこ代われ!」

 八尋が後ろで叫ぶ。

「あの、今体痛いんで離れてください……」

「あ、ソーリー」

 ケイはそう言って離れる。

「あの、4両しか来なかったのは?」

「君たちと同じ数だけ使ったのさ。だって、これは戦争じゃなくて戦車道と歩兵道なんだから」

 レオンが答える。

「そう、道を外れたら戦車が泣くでしょ」

「ウチの馬鹿がつまらないことして悪かったな」

「いいや、全車両で来たら確実に終わってた」

 レオンの言葉に凛祢も呟いた。

「でも、勝ったのは貴方たち」「勝ったのは君たちだ」

 ケイとレオンは手を差し出す。

「ありがとうございます!」

「ありがとう、ございました」

 みほと凛祢も手を出し、握手を交わす。

 

 

「はぁぁ……」

「これで、再戦に一歩近づいたな」

「そうだな」

 オレンジペコとガノスタン、ケンスロットが短く呟く。

 ダージリンも、紅茶を飲んだ。その顔は笑みを浮かべていた。

 

 

 黒森峰も観戦を終えて、帰還準備をしていた。

「ふん。余っちょろいこと言って」

「エリカの予想は外れたじゃん。大洗が勝ったんだし」

「うるさいわね」

 エリカの後を歩く悠希は呟いた。悠希の言葉にエリカが少々ムキになる。

「「……」」

 まほと聖羅はまだ戦場に目を向けていた。

 

 

「あらあら、大洗が本当に勝ったわね」

「当然よ……」

「さっきまで、深刻な顔してた癖に。手まで合わせて」

「ふん!もう、帰るわよ!」

「待ちなさいよ、私も行くから」

 英子が立ち上がり、外に向かうとセレナが後を追う。その英子の顔はどこか嬉しそうな表情をしていた。

 

 

 一方、ケイとレオンは大洗と別れ、アリサやピアーズの元に向かう。

「すみません、レオン隊長。俺は……」

「お前は最後までよくやった、ブラッドもな。次は勝てるさ」

 レオンはピアーズとブラッドに声を掛けた後、そのまま歩みを進める。

 そして、ケイもアリサの肩に手を乗せた。

「反省会するから……」

「はっ!うう」

 アリサはケイの低い声に恐怖を感じた。

「行くよ、ブラッド」

「ああ、わかってる」

 ナオミに呼ばれたブラッドは振り返り、帰還準備をしていく。

 夕焼け空を背に、引き上げていくサンダースとアルバート連合の姿を凛祢たち見送っていた。

「さー、こっちも引き上げるよ。お祝いに特大パフェでも食べに行く?」

「行く」

「いいですね」

 沙織の提案に麻子と華が嬉しそうな顔をした。

「僕たちはどうします?」

「サウナに行きたい」

「「「風呂に入りたい」」」

 塁が問い掛けると凛祢や八尋たちも答えた。

「じゃあ、お風呂入ったら、みんなでパフェ食べに行こっか?」

「いいんじゃね?行こうぜ!」

 沙織と八尋が提案し、みんな賛成していく。

 すると、猫の鳴き声のような音が響いた。

「あ、麻子。鳴ってるよ、携帯」

 沙織が言うと麻子は鞄から携帯端末を取り出す。

 ずいぶん珍しい着信音を使っているものだ。

「誰?」

「知らない番号だ」

 麻子はボタンを押して耳に当てる。

「はい……え?はい」

 麻子は動揺の表情を浮かべた。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 麻子は携帯端末を落とし、表情が固まる。

「おいおい、そんな顔してなんでもないはないはずないだろ」

「そうだぜ、麻子さん。話してくれ」

 俊也や八尋が問い掛ける。

「……おばぁが倒れて、病院に……」

「なに!?」

 麻子が何とか声を絞り出すと凛祢や他のみんなが驚愕の表情を浮かべる。

「すぐ病院へ!」

「無理だ、撤収までには時間がかかる!」

「じゃあ、どうするってんだ!」

「どうしようもないだろう」

「何とかしてやろうとか思わねーのかよ!お前ら!」

「無理なものは無理だ」

 無茶を言う八尋と無理と分かっている翼や俊也が言い合う。

 すると、麻子が靴を脱ぎ始める。

「麻子さん!?」

「なにやってるんですか?」

「泳いでいく!」

 みほと塁が言うと、麻子は靴下も脱ぎ始める。

 完全に暴走していた。

「冷静になれ。冷泉らしくもない」

「ダジャレを言ってる場合か、トシ!」

「ちげぇよ、馬鹿が!」

 俊也の言葉に八尋が叫ぶ。俊也もそんなつもりないと弁解する。

「待ってください、冷泉さん!」

 落ち着かせようと必死に止める。

「私たちが乗ってきたヘリを使って」

「「っ!」」

 突然の声に凛祢やみほが振り返る。

 その先には黒森峰の制服に身を包むまほとエリカ、聖羅と悠希の姿があった。

「お姉ちゃん」

「聖羅?」

 凛祢と聖羅の目が合う。

「まあ、まほが言うんだ。これくらいはいいだろ」

 聖羅も同意見のように呟く。

「隊長!黒咲隊長まで!こんな子たちにヘリを貸すなんて!悠希もなんとか言ってよ!」

「俺は聖羅に従うまでだよ」

「これも戦車道よ」

「ですが!」

「うるさいな、エリカは。西住が貸すって言ってんだからそれでいいじゃん」

 いつまでも渋っているエリカとは対極に3人はヘリを貸すつもりだった。

 悠希はポケットから取り出したドライフルーツを一つ、口に入れる。

「お姉ちゃん、黒咲さん……」

 みほは感謝しながら呟いた。

 

 

 数分後、試合会場のヘリポートには黒森峰の所有しているヘリ『フォッケ・アハゲリスFa223』が離陸準備に入っていた。

「操縦頼んだぞ悠希、エリカ」

「ああ、わかってる。行くよ、エリカ」

「う、うん」

 操縦席についていた悠希とエリカはお互いに顔を見合わせた後に機器を操作する。

「早く乗って!」

「……」

「あ、私も行く!」

 まほの声に麻子が乗り込もうとすると、沙織が後を追うように乗り込む。

「……ありがとう」

「……」

 みほが呟くがまほは返事をすることなくFa233から離れていく。

「聖羅、少し変わったんだな」

「そんな事はねぇよ、これは高い貸しだからよ」

「そうか、それでも……感謝してるよ」

 凛祢と聖羅は短い会話を交わすと、そのまま別れる。

 

 

 それから3日後、1回戦第7試合。

 黒森峰連合と知波単&重桜(じゅうおう)連合の試合が行われた。黒森峰はティーガーやパンターなどのドイツ戦車で知波単学園を圧倒した。歩兵もH&kシリーズ(ヘックラー&コッホ社と呼ばれるドイツ南部の銃器メーカー)の銃火器を中心に、その戦術で重桜高校の歩兵を圧倒していった。

 砲兵である聖羅は対戦車ロケット擲弾発射器『パンツァーシュレック』でフラッグ車の随伴歩兵を全滅させ、まほの乗るティーガーⅠも、その砲撃でフラッグ車である九七式中戦車を撃破していた。

 他にも、たった1人で重桜の歩兵部隊を5つも壊滅させた悠希の存在も観客からは驚かれていた。




今回も読んでいただきありがとうございます。
一回戦サンダース戦はこれにて完結しました。
凛祢とレオンの戦闘描写を書きたかったんですが、今回の形に収まってしまいました。
原作のサンダース戦の中で、廃校のフラグがあったのは最近見返して気づいたりもしました。
覇王流の技も烈風拳と紫電脚が出てきましたが他にも技を5つほど考えてます。全部出せたらいいのですが……。
では今回はこの辺で、次回も読んでいただけたら嬉しいです。
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